「政治的自殺」を招いたツイッター投稿

政治家のツイッターには危険が伴うことはよく知られている。それは必ずしも政治家に限らず、有名人が感じたことをよく考えずに投稿し、それが批判されるということは頻繁にある。それでも政治家の場合にはその影響は特に強く感じられることが多く、BBCの世論調査などを扱う調査部の責任者は、ツイッターをする政治家は愚かだと発言したほどである。

労働党の影の内閣のメンバーがツイッターで投稿した、一見問題のないように見える写真が大きな論争を招き、労働党党首エド・ミリバンドが、そのメンバーに影の内閣を辞職させるという出来事があった。このメンバーは、当初、自分は何も誤ったことはしていないと主張したという。明らかに自らの行ったことが論議を起こす可能性に気がついていなかったようだ。

この結果、このメンバーは、自らの将来を棒に振ったと見られており、タイムズ紙は「政治的自殺」と表現した。

これは、1120日(木曜日:イギリスでは選挙は木曜日に行われる)の下院の補欠選挙に関連して起きた。この補欠選挙は、保守党の下院議員マーク・レックレスが保守党を離党し、イギリス独立党(UKIP)に移り、さらに自らのロチェスター・ストルード選挙区の有権者の信任を問うとして、自発的に下院議員の職を辞職したことから行われたものだ。

その前にも保守党の別の下院議員が同じ行動をとり、10月に補欠選挙で勝利を収めていた。しかし、同僚の選挙区は、その人口や社会構成などからUKIPに絶好の条件があると言われていたが、レックレスの選挙区は必ずしもそのような条件が恵まれているとは言えなかった。

この選挙区では保守党が強く、レックレスは2010年総選挙で全体の50%ほどの得票をして当選した。イギリスの選挙区では、通常、政党が選挙を行うため、政党組織がしっかりしていなければ勝つことは困難だ。そのため、UKIPの支持率は10%台後半で、支持率が上昇しつつあるものの、当初、選挙に勝つことは容易ではないと見られていた。ところが、この補欠選挙前に行われた、この選挙区での世論調査でUKIPが第2位の保守党に10%余りの差をつけていることがわかり、直前にはレックレスが勝つのは間違いないと見られていた。

そのような状況の中で、このツイッター事件は起きた。この選挙区で出馬していた労働党候補を応援するために、労働党の影の内閣の法務長官(Attorney General)エミリー・ソーンベリーが選挙区を訪れ、目に留まった家の写真を「ロチェスターからのイメージ」として、ツイッターで送ったのである。

このツイッターの写真は、一見変哲ないものである。家の窓からイングランドの大きな国旗(これはイギリスの国旗ではなく、イングランドのもの)を3つ掛け下ろしており、その前に白の業務用ボックスカーを停めてある。ワールドカップやオリンピックなどの大きなスポーツイベント時にはよく見かける光景である。

問題となったのは、この写真の意味しているものである。UKIPの支持者は、白人の労働者階級の、時代遅れの考え方を持つ人たちが多いと見られているが、この写真で、それを象徴しているのは国旗とボックスカーである。

この白い業務用ボックスカーは、イギリスで「ホワイトバン」と呼ばれ、政治的、社会的な意味のある「ホワイトバンマン」に関係している。この言葉は人を見下したもので、一般に、粗雑な労働者階級の人々をさす。

つまり、この選挙区は、UKIPに投票する、そのような人が多くいるところだと強調しているのである。

本来、労働党は労働者階級の人たちのための政党であった。ところが、このツイッターは、その労働者階級を見下したものであると見られた。

イギリスでは、このようなツイッターに注目し、足を取ろうとしている人が少なくない。それがさらにツイッターで取り上げられ、瞬く間に広がった。翌朝には、大衆紙サンの第一面に取り上げられた。

労働者を見下す労働党と批判を受け、党首のミリバンドが怒った。そして党首選に立候補した時からの支持者で、ミリバンドに近いソーンベリーに辞職させたのである。

ソーンベリーは法廷弁護士で、ロンドンの中でもファッショナブルな地域、イズリントンに住み、地元の選挙区から選出されている。その夫は、勅任弁護士(QC)で、高等法院の判事であり、その家は200万ポンド(37千万円:£1=185円)以上すると見られている。ソーンベリーは幼いころ両親が離婚し、母親と一緒に公営住宅(カウンシルハウス)に住んでいたことがあるが、現在の生活環境との違いが強調され、裕福な人が労働者階級の人を見下していると描写された。

総選挙まで6か月足らずで、党首のミリバンドへの能力に疑いが出ており、しかもミリバンドには有権者の気持ちがわかっていないという批判が高まっていた時だっただけに、メディアもその視点からこの出来事を評価し、報道した。

この補欠選挙では、UKIPのレックレスが当選した。次点の保守党候補との差が予想より少なかったものの、UKIPが下院で2議席目を獲得し、保守党のキャメロン首相には痛手となった。メディアは、この選挙結果とその保守党に与える影響を分析報道しながらも、ソーンベリーのツイッターの出来事を細かく報道したため、保守党に与える負の影響が和らげられ、労働党が痛手を受けたと見られた。

ただし、ミリバンドにとって、この出来事は3つの点で必ずしもマイナスばかりではなかったように思われる。

まず、この出来事で、このUKIPの勝利がより大きく、長時間報道されたように思われることだ。これは保守党にマイナスで、UKIPにプラスになる。つまり、労働党は間接的に恩恵を被る。さらにミリバンドの怒りに焦点が当たり、ミリバンドのリーダーシップを見直すことにプラスの効果があったように思える。そして3番目に、労働党の中での規律を高める効果があったのではないかと思われる。 

この3番目の点は重要だ。ミリバンドへの有権者の評価が乏しく、しかも労働党への支持率が低下している中、一部労働党関係者にミリバンドを他の人(具体的には元内相アラン・ジョンソン)に入れ替えようとする動きがあった。ミリバンドは、自ら身を引く可能性を否定していたが、この一件で、ミリバンドの決意が改めて確認されたように思われる。労働党内部には、ミリバンドのソーンベリーに対する処置は行き過ぎという批判があるほどである。また、労働党下院議員には、不用意なツイッターや発言の怖さが改めて認識されたと思われる。

この出来事は、心にスキがある中、起こるべくして起きたと言える。その意味で、そのマイナスの効果は一般の見方とは逆に、UKIPのレックレスの勝利が同時に大きく取りあげられたことで和らげられたとも言えるだろう。 

1124日に発表された、3つの世論調査では、労働党が再び保守党に4から5ポイントの差をつけている。選挙は5か月余り先である。確かにソーンベリーには「政治的自殺」だったかもしれないが、決意の固いミリバンドには幸運な出来事だったと言えるかもしれない。

ブレアの首相退任を招いた3回目の勝利

トニー・ブレアは労働党を1997年、2001年そして2005年と3回の総選挙で勝利に導き、20076月に54歳で首相を退いた。その最後となった2005年総選挙の開票の場でのブレアの苦虫をかみつぶしたような表情が今でも鮮明に思い浮かぶ。 

1997年と2001年の総選挙では、労働党は地滑り的大勝利を収め、その獲得議席数は他の政党の合計を大きく上回ったが、2005年はそれが大きく減った(下表参照)。

総選挙年 全議席数 労働党 他政党 マジョリティ
1997

659

418

241

177

2001

659

413

246

167

2005

646

355

291

64

2005年総選挙でほかの政党の合計議席との差(マジョリティ)を大きく減らした大きな原因は2003年のイラク戦争である。ブレアはイラク戦争参戦の責任を問われた。この総選挙の結果、労働党下院議員の中に次の総選挙を心配する声が高まった。

首相となる野心のあった当時財相のゴードン・ブラウンは、ブレアに自分に首相の座を譲るよう迫った。もともと二人の間には一定の時期に首相の座を譲るとの密約があったと噂されていたものの、実際にはその話は具体的なものではなかった。ブラウンは、このままでは自分が首相となる機会を失うと感じ、それがブレアへの要求を強めることとなった。結局、ブレアは2007年に首相の座をブラウンに譲り、ブラウンは2010年の総選挙まで首相を務める。

ブレアは、2005年の総選挙で勝利を収めたものの、大きく議席を失い、その党内での威信を大きく傷つけた。それが首相退任の大きな原因となった。

日本の安倍首相は前回の201212月の総選挙で地滑り的大勝利を収めた。しかし、この12月の総選挙ではその時ほどの議席は獲得できないと見られ、その威信を大きく傷つける可能性がある。

アベノミクスの評価と今後

専門家たちの事前の予想に反し、2014年第3四半期の経済成長率が年率マイナス1.6%で、第2四半期の年率マイナス7.3%に続き、2期連続でマイナス成長となった。これは理論的に景気後退ということとなる。このため、アベノミクスの効果が議論されており、アベノミクスは失敗だという見解がある。しかし、そうではないという見方がある。

まず、アベノミクスはまだまだ有効だとするものは、今回の景気後退は、4月の消費税5%から8%へ上げたことの一時的なショックによるもので、単なるミニ・スランプにしか過ぎない。今冬から景気上昇に向かうとテレグラフ紙のAmbrose Evans-Pritchard.

一方、アベノミクスに効果がないわけではないが、時機を失したという見解がある。例えば、タイム誌のMichael Shuman20141114日)は、安倍首相は経済救済に必死だが、まだ必要なことを実施していないとする。アベノミクスの三本の矢、大胆な金融政策(第一)、機動的な財政政策(第二)、民間投資を喚起する成長戦略(第三)のうち、第一と第二の矢は実施したものの、第三の矢の経済の構造改革が遅すぎると指摘し、安倍首相にはそれができないかもしれないとする。安倍首相は、20146月、投資促進のための法人税減税、女性の登用、就業促進、農業改革などを打ち出した。しかし、重要な改革が停滞しており、その目玉となる経済特区や必要な労働市場改革は停滞し、TTPもそうだと指摘する。 

Fabius Maximusも厳しい見方をしている。まず、安倍首相の6月に発表した政策はほとんどの人が少なすぎると批判したとし、その前から安倍政権の支持率は下降していたと指摘する。そして今回のような景気後退は、政治力の必要な構造改革に取り組む力を削ぐという。また、アベノミクスのもたらす円安のために、実質賃金・年金が減り、家計所得が大きく減少していると指摘する。安倍首相は有権者の支持が無くなる前に選挙に打って出ようとしていると見るが、その構造改革能力を疑問視している。

結局、安倍首相のアベノミクスの試みには、この時点で二つの問題が指摘されるだろう。一つは、第三の矢の政策が出されるのが遅すぎ、しかもそれを実施するための政治的な意思が十分でなかったことだ。

それが12月の総選挙後改善されるとは考えにくい。つまり、自民党が2012年総選挙で地滑り的勝利を占めた際に比べると議席を減らすのは確実で、たとえ過半数を占めたところで大きく地歩を失ったという感覚は党内外に残り、安倍首相の力は大きく減退し、しかも経済の大幅な回復がない限り、安倍首相の後任に焦点が移ると思われるだろうからである。

スコットランド国民党の戦略

スコットランド国民党SNPは、918日の独立住民投票で、スコットランド独立の願いをかなえることができなかったが、それ以降、大きく支持を伸ばしている。独立賛成運動を率いた、スコットランド政府の首席大臣アレック・サモンドは、住民投票の結果が明らかになった後、SNPの党首と首席大臣を退くことを発表した。そしてこのたび、SNP副党首で副首席大臣の二コラ・スタージョンが党大会でSNP党首に就任し、1119日には首席大臣に就任する。 

スタージョンの党首演説で、半年後の総選挙への基本的な考え方が明らかになった。スコットランドはいずれ独立すると考えている。その要点は以下の通りである。

  • 次期総選挙では、どの政党も過半数を占めることのないハング・パーリアメントになる可能性が強い。
  • SNPが新しい政権を決める役割を担う可能性がある。
  • その際、SNPは保守党と手を組むことはないが、労働党とはありうる。
  • 労働党と連携すれば、スコットランドにさらに大きな分権ができ、スコットランドの諸問題に関して有利な交渉ができる。
  • 保守党を政権につけさせないために労働党に投票すべきだという考え方は誤りで、SNPが多くの議席を獲得すればするほどスコットランドが強くなる。

サモンドの党首最後の演説で、次期総選挙のSNPの目標は、下院のスコットランドの59議席の過半数を獲得することと発言した。過半数、すなわち30議席以上は、現在の世論調査から見てかなり控えめに感じられるが、恐らく、スタージョンに過大な期待がかからないように設定したのではないかと思われる。

SNPは左の政党で、前回の2010年総選挙後も労働党との連携を積極的に進めようとしたことがある。SNPは、次期総選挙の結果、保守党と労働党に続く第三党となることを想定しているようだが、その可能性は極めて高い。なお、拙稿「半年後に変わるイギリス政治」イギリス政治のニュースレター2014111日号参照

ミリバンドの決意

党の内外から圧力のかかっているミリバンド労働党党首にBBCのロビンソン政治部長がインタビューした。 

「朝、鏡をのぞきこんで、そこに首相を見ますか?」
「もちろんです。人々のために戦う人を見ます。毎朝目が覚め、いかにこの国を変えるか考え、実際に人々のために役に立つことを考える人です。それが、私が政治に入った理由であり、労働党に加入した理由であり、党首選に立った理由です、それが、私が首相として行いたいことです。」

ミリバンドの顔が、少し前までの茫洋とした顔ではなく、何か決意に満ちた顔に変わった。それが1113日のミリバンドのスピーチでも表れている。世論調査では、有権者からの評価が極めて低く、自民党のクレッグ党首・副首相より低くなっている。それでもミリバンドは自分が次期総選挙の後、首相となると信じているようだ。

自分の考えをはっきりと持ち、決意に満ちた政治家が多ければ多いほど一国の政治が向上するように思える。ただし、ミリバンドの願いは、決意だけでは達成できないかもしれない。

総選挙の大義名分

安倍首相が総選挙を実施する構えだが、この総選挙の大義名分がはっきりしない。前回の総選挙から2年足らず、しかも衆議院では自民党単独で過半数を大きく上回り、連立を組む公明党と合わせると3分の2以上を占める。前回選挙の政権公約(マニフェスト)で掲げたものも未だ道半ばだ。

イギリスでは2011年定期国会法で首相の解散権が縛られたが、この法律が制定される前に、もし日本の現状のような政治情勢の中で首相が総選挙を行おうとしていたならば、メディアと有権者から総スカンを食っていた可能性が高いと思われる。大義名分がないからだ。

サッチャーが保守党を率いて1979年の総選挙で勝利を収めた後の、下院の総選挙の年は以下の通りである。

1983年(前の選挙から4年)、1987年(4年)、1992年(5年)、1997年(5年)、2001年(4年)、2005年(4年)、2010年(5年)、そして次は2015年の予定(5年)。第二次世界大戦後、前の選挙から短期間で次の総選挙が行われたことが数回あるが、いずれもそれなりの大義名分があった。 

20076月に労働党政権の首相がブレアからブラウンに替わった後、ブラウンはその秋に総選挙を実施しようとした。しかし、保守党の相続税の課税最低限を大幅に上げる政策が多くの有権者に好感を持って迎え入れられ、保守党の支持率が大きく伸びる中、ブラウンは総選挙を見送った。この際、もしブラウンが総選挙に踏み切っていたならば、その前の総選挙から2年半後で5年の任期の半ばであったが、ブラウンには大義名分があった。それは、労働党の党首・首相が交代し、新しい人物が国民の信を問うということである。 

イギリスでは、5年の任期のうち、4年たった段階で総選挙を行うことには特に問題がなく、例えば、ブレア首相は1997年の総選挙に勝った時から、4年後の総選挙の日程を決め、その日に向けて着々と準備を進めていた。

有権者のことを考えると、大義名分のない総選挙は極めて危険だと言える。

2015年総選挙の日程

日本で総選挙が行われる観測が高まっているが、イギリスの総選挙は日本とやや異なっている。来年5月に行われる予定の総選挙の日程は以下の通り。なお、イギリスは日本と同じ2院制だが、上院(貴族院)は公選ではなく、下院(庶民院)のみが公選である。選挙期間は日本よりかなり長い。

解散:2015330
選挙:201557 

なお、選挙日の投票時間は午前7時から午後10時までである。

2011年定期国会法で、5年ごとに5月の最初の木曜日に選挙を行うこととした。ただし、この法律には以下の二つの場合の例外を定めている。

  • 下院の過半数が政府を不信任し、14日以内に新政府が信任されない場合。
  • 全議席の3分の2の下院議員が総選挙実施に賛成した場合。すなわち、現在は総議席650のうち、434議席の賛成があった場合。

もしこのような事態が生じた場合、総選挙が実施され、その選挙時から5年間の定期国会となる。

この定期国会法が設けられた一つの理由は、2010年に成立した保守党と自民党の連立政権を安定させることであった。この制度は首相から解散権を奪うが、今では定期国会法の原則を変更しようとする動きはない。

労働党の価値

キャメロン首相はかつて自分の政権はブレア労働党政権を引き継ぐものだとしばしば発言した。ミリバンド率いる労働党は、左寄りのブラウン労働党政権の継承だとして区別化しようとしたものだ。

ブレア労働党政権は、プロビジネスの立場を取りながらも、福祉、社会平等などの目的と共存する道、すなわち「第三の道」を探った政権だった。「第三の道」は具体的な理念としてまとまったものとならなかったが、キャメロン首相は、ミリバンドの労働党はプロビジネスではないとの見方を明らかにしたものだ。 

タイムズ紙のマシュー・パリス(元保守党下院議員)は、そのコラム(118日)で、労働党は時代遅れで、必要なくなった政党だと主張した。しかしキャメロン政権がブレア政権の「ニュー・レイバー(New Labour)」アプローチを目指していたのなら、ブレア政権とキャメロン政権は重なる点が多く、キャメロン保守党の存在する中、「ニュー・レイバー」は今の時代に必要なくなったと言えるだろう。

パリスのあげた理由の一つは、労働党はその政治資金の多くを労働組合に頼っていることだ。21世紀には時代遅れだという。しかし、保守党はその政治資金の多くをビジネスマンに頼っており、その党員の平均年齢は65歳プラスだと言われる。両党ともに時代遅れとなっている点があると言える。

ミリバンド労働党は、キャメロン保守党と異なる考え方を持っている。これは悪いこととは言えない。例えば、ミリバンドが、エネルギー市場で競争原理がきちんと働いていないとして、光熱費を20か月凍結して改善策を実施すると発表した時、キャメロン政権は、それは計画経済的な考えだとしてミリバンドを非難した。しかし、直ちにその代案の検討に入り、エネルギー会社を監視するOfgemに調査を促すとともに、エネルギー会社に圧力をかけ、さらにグリーン政策の緩和を打ち出して、光熱費の削減に努めた。このように、考え方の違う政党が存在することには意味がある。

有権者の既成政治への反発が、小政党のイギリス独立党UKIP、スコットランド国民党SNP、緑の党などへの支持増加につながっているが、現在の主要政党の支持減少は、政治が将来への希望を提示するものではなく、極めて小さな領域の問題で子供が取っ組み合いをするというような印象を与えていることにある。イギリス政治はこの点で、もっと大人になる必要があるように思われる。

ブレア・ブラウン政権の失敗、そして現在も労働党がその責任を問われ続けているのは、その放漫的な財政運営である。鉄の財相と呼ばれたブラウンがしっかりとその財政を見ていたはずなのに大きく軌道を外れ、2007年からの金融ショックにうまく対応できなかった。この原因の一つは、福祉、社会平等の高い目標を達成しようとしたことにあるように思われる。これは労働党の弱さに直接つながっている。労働党は伝統的にこれらの問題に厳しい立場を取れず、問題の解決にお金をつぎ込む傾向があった。あのブラウンもその例にもれなかった。 

ミリバンドは、次期総選挙に向け、投資は別だとしながらも、財政均衡と政府債務削減のために財政緊縮予算を実施すると約束している。財政的な制約から伝統的な労働党の政策からある程度離れる必要がある。本当に困難なのは、どこまで労働党が従来の単純な「弱い者の味方」的な政策からタフラブ(強硬だが慈愛のある)政策に転換できるかである。

労働党は、すでに、市場の競争原理がきちんと働いていない場合や、ビジネスが向こう見ずな運営をしている場合には、政府が強く干渉する立場を取っており、EUの国民投票を実施しないことを含め、保守党とはかなり違う立場をとっている。ミリバンドは、政治資金で労働組合との関係を見直し、党首選で党員の影響力を増し、労働組合の影響力を削ぐなどの改革策を実施し、労働党を新しい時代にふさわしい政党へと脱皮させる努力をしている。課題は大きいが、パリスの言うように労働党の存在価値がなくなったとは言えないように思われる。

労働党の党首交代手続き

労働党のエド・ミリバンド党首を交代させようという動きの噂が過去数日間、メディアをにぎわせている。タイムズ紙のマシュー・パリス(Matthew Parris:元保守党下院議員)がそのコラム(タイムズ紙118日)で示唆しているように、ミリバンドへの攻撃は底が浅く、メディアの取り上げ方も浅薄だと言える。各紙とも匿名の労働党下院議員のコメントを紹介しているが、労働党党首交代のある可能性は極めて低い。

その一つの理由は、労働党の党首交代手続きはかなり複雑なことがある。半年後に総選挙の迫った現在、そのような内紛、党首引きずり落とし、そして新党首の選出とかなり時間のかかることにうつつを抜かす余裕はないことがある。

世論調査では既にミリバンドの評価が極めて低くなっており、世論調査会社の中には、もしミリバンドを他の党首に変えた場合、労働党への支持がどうなるか、といった調査をしたところが2社ある。これらの調査では、労働党政権下で内務相を務めた元ポストマン、アラン・ジョンソンが党首となった場合には若干のプラス面があるが、それ以外の候補者ではほとんど変わりがないという結論だ。しかも党首を無理に変えたところで、有権者がその人物をよく知っている可能性は少なく、その人物が必ずしも予想通りの支持を得るとは限らない。

さて、労働党の党首交代の手続きは、もちろん現職が自ら退けば、新党首選出をいずれにしても行わざるを得ず、話は比較的簡単だ。しかしもし現在の党首を交代させようと思えばことはかなり複雑である。それは以下のような手順となる。

  1. 20%以上の労働党下院議員が党首選挙を求める必要がある。これは現在52人である。
  2. そして党大会(9月に開催された)があればそこで、もしくは臨時党大会を開き、投票する。
  3. もし過半数が賛成すれば、党首選挙が行われる。選挙運動が行われた後、3つの選挙人団、党員、現職議員、そして組合がそれぞれ投票し、3分の1ずつの得票の合計で当選者が決まる。 

非常に時間がかかり、しかも衆目の中で党首引き下ろしが行われることとなり、今まだ可能性のある労働党の勝利がさらに遠のくことになりかねない。確かにミリバンドに不満のある人が多いが、ミリバンドが自ら党首を引く可能性は全くないことから、労働党は、否応なくミリバンドを党首として次期総選挙を戦わざるをえないと言える。

なお、保守党は、現労働年金相のイアン・ダンカン=スミスが党首の座を引き下ろされたことがある。保守党の場合、党首に不満のある議員が政府のポストについていない議員の会、1922年委員会の会長に手紙を書き、信任投票を求める議員の数が党所属下院議員の15%に達すれば、下院議員による信任投票が行われる。この手紙を書いても、その名は明らかにされない。保守党と比べ、労働党では、現職の党首を辞めさせるのはかなり難しい。

労働党党首ミリバンドへの反乱?

野党労働党のエド・ミリバンド党首では半年先の総選挙が心配だとして、労働党下院議員の中に党首を変えるよう求める動きがあると報じられた

労働党は1年ほど前までは、キャメロン首相の保守党に世論調査で余裕をもったリードを続けていたが、最近、その差は縮まり、ほとんど同じ支持率となった。それでも前回の2010年の総選挙で当選者と次点との差が少ないいわゆるマージナル選挙区の世論調査では労働党が優勢で、今のところ保守党が労働党にかなりの議席を失う状況だ。なお、イギリスの下院議員選挙は、完全小選挙区制であり、650の選挙区で最高の得票をした一人だけが当選する。 

イギリスの賭け屋は、次期総選挙は、いずれの政党も過半数を占めることのないハングパーリアメント(宙づりの国会)となると見ているが、最多議席を獲得するのは労働党だろうと予想している。今回の「反乱」の噂は、労働党の牙城とも言えるスコットランドで労働党がスコットランド国民党SNPに大きく議席を失うと見られていることと、有権者のミリバンドの個人評価が否定的で極めて低いことに端を発していると思われる。特に、スコットランドでは多くの下院議員が議席を失う可能性が高まっているだけに、スコットランド選出の議員など議席が危うい人たちが、ミリバンドを交代させることで少しでも状況を改善させたいと思っていることは容易に想像できる。

しかしながら、ミリバンドが簡単に引き下がるとは到底思えない。2010年の総選挙で労働党が政権を失った後の党首選挙では、本命と目されたミリバンドの兄デービッドを僅差で破り、兄の野心を犠牲にして党首に選ばれた。もしここで引き下がるようなことがあれば、兄に対しても顔向けできないだろう。

ミリバンドに政策や理念がないわけではない。政策でも以下のようなものが挙げられる。

  • エネルギー価格20か月凍結家賃統制
  • 最低賃金を1.5ポンド(273円:£1=182)上げて、8ポンド(1456円)とする。
  • 100万軒の住宅建設
  • 移民政策の強化
  • 高価な住宅に住宅税課税
  • 公共住宅で必要以上の部屋のある人への福祉手当削減を止める。
  • 所得税の50%最高税率の復活
  • EUに留まるか否かの国民投票を行わない。経済環境の不安定要因を除く。
  • 国民健康サービスNHSへの財政支出増加
  • 2018年までに財政を均衡させる。

左寄りだが、政策としては筋が通っているように思われる。キャメロン首相よりも理念がはっきりしている。問題は、ミリバンドにカリスマがないことだ。 

ただし、カリスマがなくても優れたリーダーだった人が労働党に存在する。それはイギリスの福祉国家を築いたクレメント・アトリーである。アトリーは党首として第二次世界大戦後に行われた総選挙でチャーチル率いる保守党を破った。しかし、アトリーでは首相の任に堪えないとして、アトリーが首相に任命される前に、労働党の有力者ハーバート・モリソンがアトリーに替わって党首・首相となるよう画策した。しかし、多くの歴史・政治学者が、アトリーは第二次世界大戦後で最も優れた首相だったと評価している。

次期総選挙の結果を予測することは難しいが、もしミリバンドが首相となるようなことがあれば、期待が低いだけに、かえって首相として成功する可能性があるかもしれない。