スコットランド国民党への強まる支持

スコットランド国民党(SNP)は、918日に行われたスコットランド独立住民投票で、独立賛成側の主力であった。住民投票の結果、賛成45%、反対55%でSNPはその目的を達成できなかったが、投票前のキャンペーンでその動員力の強さを見せつけ、党員数が3倍以上になっている。

その結果が、今あらわれてきている。世論調査会社のIpsos-Moriの行った、下院選挙に対するスコットランドの政党支持の世論調査によると、以下のような結果だった。

SNP 52
労働党 23
保守党 10
自民党 6
緑の党 6

来年5月の総選挙で、もしこのような結果が出れば、スコットランド59議席のうちSNP57議席を獲得する可能性があるという。そして前回の総選挙ではスコットランドで41議席を獲得した労働党の総選挙勝利の目は消えるだろう。

スコットランド独立住民投票の思わぬ効果

2014918日に行われたスコットランド独立住民投票の結果、労働党が非常に苦しい立場に置かれている。

住民投票そのものは、独立賛成が45%、反対が55%でスコットランドの住民がはっきりと独立しないと結論を出した。独立に反対したのは、主要3政党の保守党、自民党、そして労働党だが、独立に賛成したのは、スコットランド政府のアレックス・サモンド首席大臣率いるスコットランド国民党(SNP)と小政党の緑の党らだ。SNPはもともとスコットランドをイギリスから独立させるために設立された政党である。

独立は否定されたが、この住民投票が行われた結果、SNPの勢力が大きく拡大した。その党員数が大きく伸び、住民投票前の25千人から10月初めに75千を超え今や8万人を超えた。その結果、現在イギリス政界の第3政党である自民党(Lib Dems)の党員数44千人を抜いて、19万人の労働党、14万人の保守党に続いて第3位となった。イギリスでは、この党員数は名目上の党員ではなく、自腹を切って党費を払っている人たちである。

この党員数の比較を見る場合、留意しておかねばならないのは、労働党や保守党が人口6400万人のイギリス全体に広く分散しているのとは異なり、有権者数428万人(独立住民投票時点で16歳と17歳を含む)のスコットランドに集中しているということである。すなわち、単純に計算すると、スコットランドの住民54人に1人がSNPの自腹を切った党員ということになる。その上、党員の高齢化が指摘される保守党とは異なり、SNPの強力な独立賛成運動から判断すると、新たに加わった党員は青壮年層が中心と思われる。

労働党はスコットランドでこれまで長く、圧倒的な強さを誇ってきていた。2011年のスコットランド議会議員選挙では、一つの政党が過半数を占めないような選挙制度「小選挙区比例代表併用制」にもかかわらず、SNPが過半数を占めた。この選挙で労働党は惨敗を喫したが、その1年前の2010年のイギリス全体の下院総選挙では、労働党がスコットランドの59選挙区のうち41議席を獲得した。労働党はこの総選挙で1997年以来の政権を失ったが、スコットランドではその勢力を維持していた。スコットランドの有権者は、イギリス全体の下院選挙には、下院に大きな勢力を持つ労働党に投票する傾向があった。

ところが、同じ左のSNPへの支持の増加は、この従前の考え方に大きな変化をもたらせている。9月末から10月初めにかけて行われた世論調査の「明日総選挙が行われるとすると、どの政党に投票するか?」という問いに対し、SNPと答えた人が34%おり、労働党の32%を上回った。2010年の総選挙では、SNP6議席に留まったが、20155月に行われる次期総選挙でさらに20議席ほど追加する可能性がある。そのほとんどは労働党から奪う議席だと見られている。

スコットランドは労働党の金城湯池であったが、その地位が脅かされると、労働党の次期総選挙戦略そのものが狂ってくる。

多くは、労働党はこれまで「35%戦略」を持っていると見ていた。この戦略は、労働党が前回2010年の総選挙で獲得した29%の得票に、自民党から流れてくる票を加えて左の票を固めれば、UKIPに票を失う保守党に勝てるというものである。自民党は前回総選挙で23%の得票をしたが、今やその支持率は1ケタになっている。

しかし、労働党が前回総選挙の票を獲得できないようだと労働党の戦略の根本的な見直しが必要となる。スコットランドで起きていることは、労働党への大きな警鐘だ。

スコットランド労働党の党首ジョアン・ラモントがロンドンのウェストミンスターの労働党を批判して辞任した。SNPのサモンド党首らは、ラモントが辞めたのは労働党党首ミリバンドのせいだと、尻馬に乗ってミリバンドを批判したが、これらの批判そのものは、スコットランドにおける労働党をさらに弱めることに狙いがある。

ジョアン・ラモントは、労働党の惨敗した2011年スコットランド議会議員選挙の後、スコットランド労働党の党首となったが、その古い体質を十分改革できないままに終わっており、躍進するSNP(11月、これまでの副党首二コラ・スタージョンが党首・首席大臣となる)に対抗するには役者が不足していたのは明らかである。

なお、SNPのサモンド党首らが労働党のミリバンド攻撃の材料に使っているのは、有権者のミリバンド評価の低さである。ミリバンドにはカリスマがなく、しかもダイナミックさに欠ける。本来なら、サッチャー政権よりも大きな財政削減を行っている政権政党が支持を減らすはずだ。しかも保守党はUKIPに票が流れているにもかかわらず、労働党が決定的な差を保守党につけられないのは、ここに原因がある。

スコットランドだけではなく、全国的に主要政党離れの傾向のある中、UKIPや緑の党への支持が伸びており、労働党はこれらの政党にも票を失う傾向がある。2010年に労働党に投票した人たちが次期総選挙でも労働党に再び投票するかどうか疑われる中、労働党は、これから半年間、足元のおぼつかない選挙戦を進めていくことになろう。

増え続ける司法審査

20141027日、上院(貴族院)が司法審査の申し込みに制約を設ける法案を否決した。

イギリスには、公の機関の判断に対して不服がある場合、司法審査を申し込むことができる。そこでは一人の裁判官が担当し、裁定を下す。例えば、2012年、運輸省の路線フランチャイズ決定に対して不服のあったバージン鉄道が司法審査を申込み、その過程で、運輸省側が採用したモデルに瑕疵のあることがわかり、運輸省がその決定を破棄したことがある。一方では、亡命申請を却下され司法審査を申し込むケースなど、多岐の問題にわたる。 

政府が司法審査に制約を設けようとする動機は、その数が非常に多くなってきたことにある。1974年には160であったのが、2013年には15千件となり、この伸びは特に近年著しい。

その一因は、司法審査にかかる費用である。司法審査への申し込み費用は、まず申請時に60ポンド、そして申し込みへの許可が出れば、さらに215ポンドを支払う仕組みとなっている。つまり275ポンド(48千円:1ポンド=174円)で、比較的手ごろに申し込める。さらに、福祉手当受給者などにはこの費用の免除の制度などもある。

そして公的機関の判断が変更される可能性がほとんどなくても申し込む例が増えてきた。これらの申請を処理するにはかなりのスタッフが必要であり、しかも、公的機関の担当部局がその準備に多くの時間を割かれるため、公的機関にとって重荷になってきている。そのため、財政削減に取り組む政府にとって、司法審査の削減が課題となった。

しかしながら、この司法審査は、民主主義の下では、政府など公的機関に説明責任を果たさせる重要な役割を果たしているとして、元裁判官も含め、その制約に反対をする人が多い。それが上院での法案否決につながった。

なお、上院は公選ではなく、公選で議員の選ばれる下院により大きな権限があり、この法案が下院の賛成で法となる可能性がある。いずれにしても、民主主義の原則にこだわる姿勢は、いかにもイギリスの上院らしいと言える。

イギリスはEUを離脱するか?

EUの欧州委員会がイギリスの国民所得を計算しなおした結果、イギリスに約17億ポンド(2900億円)のEUへの追加負担金を121日までに支払うように求めてきた。それに対し、キャメロン首相が怒り、その通りには払わないと主張した。

これには、イギリスの多くの新聞がこれでイギリスのEU離脱が近づいたと報道したが、果たしてそうなのだろうか?

キャメロン政権がこの追加負担金を払わなければ、1か月ごとに罰金を課され、その最大限度額は17700万ポンド(300億円)だとタイムズ紙が報じた。

追加負担金より、この罰金の金額がかなり小さいため、払わずに罰金を選択する可能性もあるが、多くは負担金の減額並びに長期の分割払いを交渉すると見ている。しかし、いずれにしても、この追加負担額を支払うことは、イギリス独立党(UKIP)に保守党を攻撃する機会を与えることになるため、キャメロン首相はそう簡単に取り扱える問題ではない。また、もし払わなければ、他のEU加盟国から批判を招く。特にドイツ、フランスはかなり大きな払戻金を受け取ることになったため、その批判は強いだろう。

キャメロン首相はEUを改革し、イギリスのEUとの関係を変えた上で、2017年末までにEUに留まるかどうかの国民投票を実施すると約束している。EUに留まることを望むキャメロン首相は、その交渉をするには、これらの国との関係を悪くすることは避けたい。

しかしながら、キャメロン首相が、この交渉で最も重要な課題と位置付けているEU移民の制限については、EU内の移動の自由の原則に触れる。この原則を変えることに理解を示している国はドイツを含め、EU内にない。つまり、この交渉は不調に終わる可能性が極めて高い。

それでは、もし、保守党が半年後の総選挙で勝ち、交渉の結果にかかわらず、国民投票を実施することになればどうなるか? 

世論調査会社Ipsos-Mori20141011日から14日に世論調査を行い、197710月から201410月までの世論の動きをまとめている。それによると、201410月の時点で、EUに留まる人は56%、離脱は36%という結果で、EUに留まるに賛成の人の割合は、過去23年で最も高い。 

201111月にはEU離脱賛成の人の割合は49%で、加盟維持の41%を上回ったが、これは、欧州統一通貨ユーロ危機の時であった。興味深い事実は、UKIPの支持率は当時低かった。ところが、今やUKIPの支持率は16%とこの世論会社の調査で最も高くなっている。

つまり、イギリスのEUからの離脱を謳うUKIPへの支持が高くなるにつれ、EUに留まることに賛成の有権者が増えているのである。

この点の分析では、これは有権者が極端を嫌う傾向が強いためだと見ている。

まず、有権者のうち、自ら進んでEUとの関係がイギリスの主要な課題と見ている人はわずか8%しかいない。その反面、イギリスの最も重要な対外関係は、欧州との関係という人が47%いる(なお、コモンウェルス25%、アメリカ20%と続く)。

一方、有権者に既成政党離れがある。80%の有権者がUKIPは他の政党と違うと見ており、それがUKIPへの支持につながっている面がある。しかしながら、UKIPが極端な政党だと見る人は64%おり、極端を嫌う有権者がUKIPの目指す方向とは反対の方向に動いているという。

YouGov/Sunday Times1023日~24日に行われた世論調査では、EU継続派が41%、離脱派が40%だった。それでもUKIPが強くなればなるほど有権者がEUとの関係継続に動く傾向があるなら、キャメロン首相の交渉がどうなろうとも、その結果にあまり左右されない結果となるように思われる。

キャメロン首相の止まない頭痛

EU委員会がイギリスに「突然」、21億ユーロ(約17億ポンド、約2900億円)を支払うよう求めてきた。しかも121日が支払い期限である。

これは過去18年間の経済成長を勘案して、より成長の大きな加盟国により大きなEUの財政負担をさせるためのもので、それぞれの国の経済データの結果をもとに調整される。毎年行われており、イギリスは2008年に払い戻しを受けたことがあるが、いずれの場合も金額はかなり小さく、この金額には誰もが驚いたと言われる。

イギリスはEUに約170億ポンド支払っているが、払い戻しで33億ポンド、そして各種のEU補助金に52億ポンドほど受け取っているために、実際には86億ポンド(約15千億円)ほどの正味の支払いとなる。つまり、今回の請求は、その5分の1ほどの金額である。

イギリスの他にも支払いを求められた国がいくつかあるが、金額で2番目のオランダはイギリスの3分の1以下であり、イギリスの額が突出している。一方、フランスやドイツは、この調整で払い戻しを受ける。

このような結果となった原因はイギリスの国民所得の計算法の変更である。これまで計算に入れられていなかったもの、例えば、慈善団体のサービスや地下経済なども含めるようになった。そのため、麻薬取引や売春といったものも入れられるようになった。ドイツでは2002年から売春が合法化され、国民所得で含められていたため今回の払い戻しにつながったと言われる。

キャメロン首相は、記者会見で、怒って、言われたようには支払わないと主張した。EU内でイギリス追加支払い分の若干の減額が合意されるかもしれないが、いずれにしても、これまでの慣例で支払わないわけにはいかないと見られている。

この問題は、キャメロン首相にとり、悪いタイミングで表面化した。イギリスのEUからの離脱を訴えるイギリス独立党(UKIP)に、キャメロン首相率いる保守党は支持を奪われており、保守党を離党してUKIPに移った議員の優勢が伝えられる補欠選挙が1120日に控えている。

イギリスのEUとの関係をめぐる問題では、移民の制限を設けるイギリスの要求が受け入れられる可能性はほとんどない。しかも欧州議会がEU予算の増額を要求している。イギリスの多くの有権者の反感を買う事態が次々に起きている。 

UKIPのファラージュ党首が言ったように、キャメロン首相はまさしく「不可能な立場」に置かれている。キャメロン首相の威勢のよい発言に対する有権者の信頼は次第に減少しており、発言に対する裏付けの行動がないとキャメロン首相はさらに困難な立場に追い込まれる。

キャメロン首相に移民制限ができるか?

イギリスの経済成長率はG7トップだが、ドイツを含めユーロ圏は経済が停滞しており、欧州からの移民は益々増える勢いだ。移民の数は20143月までの1年間で243千人の純増となっており、その3分の2EUからの移民がもたらせたものである(拙稿参照)。EU内では、新加入国を除いて、人の移動の自由の原則を定めたローマ条約が適用されており、自由に移動できる。

イギリス独立党(UKIP)への支持の増加に伴い、キャメロン首相は移民対策に躍起だ。UKIPはイギリスをEUから脱退させることを標榜しているが、イギリスがEUの中にいる限り、移民を抜本的に減らすことは不可能だと主張している。 

キャメロンは既にこれらの移民に対する福祉手当の制限を打ち出しているが、その効果は乏しい。さらにクリスマス前までに移民政策を打ち出すと約束したが、その方策には、移民の上限枠を設ける、もしくはイギリスで働くために必要な国民保険番号の数を制限するなどの案が出ていると言われる。しかし、人の移動の自由の原則に抵触しない変更は極めて難しい。

その中、ユンカー次期欧州委員会委員長が労働力の自由移動について次期欧州委員に送った指示が明らかになった。移動の自由をさらに容易にするとしたもので、この欧州委員(ベルギー人)は移動の自由の原則は揺るがない主張している。また、移動の自由の原則を基本的に変えることを支持しているEU加盟国は他にない。 

キャメロンは、もし来年の総選挙の結果、首相の地位に留まれば、EUとの関係(移民の問題は最重要課題)を交渉し直し、その後、2017年末までにEUに留まるかどうかの国民投票を行うと約束している。キャメロンは、基本的にイギリスはEUの中に留まるべきだとしているが、EU内の移民の問題で国民の納得のいく交渉結果を得ることは困難だ。

しかし、その前に、保守党はUKIP対策を打つ必要がある。UKIPに票を奪われているからだ。1120日に行われる補欠選挙では、保守党を離党してUKIPに入ったマーク・レックレスが優勢だと伝えられ、UKIP2人目の下院議員が選出される可能性が高まっている。もしそうなれば、UKIPにさらに勢いをつけるばかりか、保守党の内部が大きく揺らぐ可能性がある。 

キャメロンは、移民に対する強い立場を打ち出さざるをえない立場に追い込まれている。ミリバンド労働党党首は出来ないことは約束しないとし、出入国のチェック徹底(なお、出国チェックはメージャー保守党政権で廃止した)など常識的な範囲の政策を発表している。しかし、キャメロンはその程度の政策では党内も満足させられない。そのためEU法に違反することを承知の上で、イギリスが一方的に上限を定めるなど捨て身の策を打ち出すかもしれない。

外国人刑務囚の国外退去に手こずるイギリス

8年前の2006年のこと、刑務所を出所した外国人1千人余りが国外退去措置を検討されることなく、そのままイギリスに滞在することが許されていることが明らかになった。しかもその中には殺人などの重大な罪を犯した人たちが含まれていたのである。非常に大きなニュースとなった。 

それが、このたび会計検査院(NAO)の報告で、改善されていないことがわかった。

外国人刑務囚は現在1700人ほどで、刑務囚全体の13%とかなり多い。外国人刑務囚の対応に昨年85千万ポンド1462億円:£1172円)かかっている。昨年には5千人余りが本国に送られたが、2009年以降イギリス国内に残っている外国人の元刑務囚は4200人ほどで、その6分の1760人は行方が不明であり、そのうち58人は社会に危険な罪を犯した人たちだという。

政府の対応が不十分な原因は以下の2つに集約される。 

  1.  政府の能力の欠如。これは決して新しい問題ではないが、特に以下のような問題が指摘されている。
  • 内務省、法務省、外務省の連携の不足
  • 実務担当者のミス
  • 警察らの既存データのチェックの欠如
  • 消極的な国際的データアクセス 

    2.   欧州人権法などの法制の問題個人の人権が手厚く保護されており、イギリス内の家族、例えば子供がイギリスで生まれたなどの理由で在留を許される例もかなりある。もし在留を否定されても、不服申し立て、再不服申し立てなどでかなり時間が経過し、さらに家族がイギリスに根をおろす機会を与える例もある。政府は、不服申し立ての理由を制限するなどの対応をしているが、不服申し立ての数は増えている。

基本的には服役中に、または刑期が終了すれば、すぐに国外退去をさせるべきだが、それがスムーズに行っていない。在留を拒否されれば、不服申し立てはそれぞれの本国からするようにすべきであるが、伝統的に人権が重視されすぎてきた傾向がある。 

いずれにしても総選挙が半年後に行われる時期となってこのような問題が表面化したことは、キャメロン首相にとって痛手である。

イギリス政治を転換させるUKIP

 

109日の2つの補欠選挙でイギリス独立党(UKIP)への支持の大きさが改めて浮き彫りになった。

保守党下院議員だったダグラス・カーズウェルが保守党を離れ、UKIPに加入した後、下院議員も辞職したために行われたクラックトンの補欠選挙で予想通り、カーズウェルが大勝した。カーズウェルは下院議員を辞職する必要はなかったが、あえて有権者の信を問うとして選挙の洗礼を受けたのである。

もう1つの補欠選挙は、労働党の現職下院議員が死去したために行われた。そのため、労働党が余裕をもって当選すると見られていた。通常、補欠選挙では、政権政党を批判して野党に支持が集まる。実際、この補欠選の前の週に行われた2つの世論調査では、その見込みを裏付ける結果が出ていた。ところが、投票では、当選した労働党候補と次点のUKIP候補の差がわずか600票余りで、政界に大きなショックを与えた。なお、この世論調査の結果と実際の投票結果の差は、投票日の直前に有権者の支持が大きく変化したためではないかという見方がある。UKIP関係者は、もう数日選挙運動の期間があれば、労働党を破っていたと言っているそうだ。

いずれにしても、補欠選挙の結果のわかった後に行われた世論調査で、UKIPの支持が大きく伸びており、保守党31%、労働党31%、自民党7%、そしてUKIP25%だった。UKIPはこれまでの常識を覆して有権者の支持を集めており、来年5月に行われる予定の総選挙でUKIPが台風の目となるのは確実である。

ここで確認しておかねばならないのは、イギリスの選挙は日本の選挙とかなり異なるということである。今回の補欠選挙に関連して重要なのは、以下のような点である。

  1. イギリスは完全小選挙区制で、1つの選挙区から最も得票数の多かった人が一人だけ当選する。
  2. 選挙は政党の選挙区支部が行い、通常、政党の支持がなければ当選は難しい。
  3. 選挙区が小さい。イギリスの人口は、日本の約半分だが、選挙区は650ある。日本の衆議院議員選挙は小選挙区比例代表並立制で、小選挙区と比例区があるが、その小選挙区は300である。つまり、イギリスの小選挙区は日本の小選挙区と比べて、かなり小さく、小選挙区当たりの有権者数は7万人程度。なお、上記の2つの補欠選挙区の当日の有権者数は、以下の通りであった。クラックトンの有権者数は69千余りヘイウッド・ミドルトン選挙区の有権者数は、79千余

つまり、日本で言えば、小さな市で市長選が行われ、しかもいずれかの政党の地方支部が強い選挙区の選挙と言え、それに挑戦するのはそう簡単ではない。 

カーズウェルの場合、地元活動を積極的に進めており、そのため、地元でかなり知られていた。それが、保守党を敵に回して戦ったにもかかわらず、地元選挙民のUKIPへの支持と相まち、大勝という結果となった。

このクラックトン選挙区は、有権者の年齢や社会的な階層、さらに人種的な面などからUKIPが最も得票しやすい選挙区と言われており、その点で、選挙結果は予想通りであったが、もう1つのヘイウッド・ミドルトン選挙区は、2010年の総選挙でUKIPが候補者を立てたがわずかな票しか獲得できなかったところである。白人が多く、UKIPに投票する潜在的な土壌があるというが、労働党の非常に強い地域であり、必ずしも、クラックトン選挙区に見られた「仮説」が当てはまらない。つまり、UKIP現象は、その「仮説」で説明できるものより大きいと言える。

さらに、カーズウェルに引き続いて保守党を離党し、UKIPに入党したマーク・レックレスの選挙区の補欠選挙の日程はまだ決まっていないが、その補欠選挙では、保守党の必死の努力にかかわらず、レックレスが当選すると見られている。

このUKIPへの支持の急増の背景は何だろうか?UKIPはもともとイギリスをEUから脱退させることを目的に設立された政党である。この目的には一般の人々の直接の生活から少し離れた面がある。ところが、移民の問題などと関連して、現在の政治に不満のある有権者を引き付け、UKIP支持が急増している。その結果、今年5月の欧州議会議員選挙(比例選挙制)では、UKIPはイギリス区で最多の議席を獲得した。 

この有権者の不満を引き起こしているのは、既成政党への不信と失望であるといえる。ところが、既成政党は、小手先の政策論争で有権者の支持を得ようとしている。既成政党に「夢」が感じられない。この問題を解決することなしには、UKIP現象はまだまだ発展しそうだ。

地方組織の強くないUKIP2010年の総選挙で議席を獲得できなかったが、次期総選挙では、25議席獲得するかもしれないという見方もある。大手世論調査会社YouGovの社長は、10-12議席がより現実的だとするが、少し前まで1議席の獲得も疑問視されていた政党である。イギリスの政治が大きな転換期に来ているといえる。

政治家の出席する事務次官会議

政府の事務次官会議に、保守党院内総務のマイケル・ゴブが継続的に出席することが明らかになった。

事務次官会議は、内国公務の長(Head of the (Home)Civil Service)を会長として毎週水曜日に開かれる。ゴブの出席は、大臣と公務員たちとの情報伝達を向上させることが狙いだという。ゴブの役割には政府の政策が政府全体に徹底されているかどうかを確認することもあるようだ。また、ゴブには、省庁間の政策の対立の調整や、保守党のマニフェストと政府の政策との調整なども行うようキャメロン首相から命じられており、事務次官たちを良く知ることはそれなりに意味のあることと思われる。

しかし、この場は事務次官たちの不満を漏らす場でもあった。これまで議題に関連して大臣が出席することがあったが、ゴブの出席に事務次官たちは落ち着かないという。

ゴブは、7月の内閣改造まで4年余り教育相を務めた、キャメロン首相の腹心である。非常に強い意見を持ち、内相のメイと対立(拙稿参照)したこともある。大臣として、専門家アドバイザーの任命など公務員改革を積極的に進め(拙稿参照)、公務員との関係、その仕事の仕方などを十分に理解している。そのため、事務次官たちは自分たちが監視されているような気持になるのもやむを得ない面があるように思われる。

政府のオフィスの移転

ロンドン中心部にある政府のオフィスの数が次第に減っている。2010年には143あったが、それが現在71。そしてそれを2020年には23とする予定だ。これは、内閣府の公務員担当大臣のフランシス・モウドの目標である。

財政削減が目的で、地価が高く、維持費の高いロンドン中心部よりも、ロンドン郊外をはじめ、それ以外の地域に移した方がはるかに安いためだ。しかもロンドン中心部の政府所有物件は高く売れ、財政赤字削減に貢献できる。

モウドは、少なくとも、日本の霞が関にあたるホワイトホールで働いている人の半分を他に移転させる意向である。公務員数は既に2010年と比べて17%減っている。

ただし、コストのことを考えるのであれば、イギリス議会の移転も考える必要があると思われる。議会がホワイトホールにあれば、かなり多くの政府機能がその周辺に残る必要がある。また、イギリス議会のあるウェストミンスター宮殿はかなり老朽化しており、大幅な改修か建て直しが必要だと見られている。それならば、議会を移転すれば、より多くの効果が見込める。