スコットランド国民党への強まる支持

スコットランド国民党(SNP)は、918日に行われたスコットランド独立住民投票で、独立賛成側の主力であった。住民投票の結果、賛成45%、反対55%でSNPはその目的を達成できなかったが、投票前のキャンペーンでその動員力の強さを見せつけ、党員数が3倍以上になっている。

その結果が、今あらわれてきている。世論調査会社のIpsos-Moriの行った、下院選挙に対するスコットランドの政党支持の世論調査によると、以下のような結果だった。

SNP 52
労働党 23
保守党 10
自民党 6
緑の党 6

来年5月の総選挙で、もしこのような結果が出れば、スコットランド59議席のうちSNP57議席を獲得する可能性があるという。そして前回の総選挙ではスコットランドで41議席を獲得した労働党の総選挙勝利の目は消えるだろう。

スコットランド独立住民投票の思わぬ効果

2014918日に行われたスコットランド独立住民投票の結果、労働党が非常に苦しい立場に置かれている。

住民投票そのものは、独立賛成が45%、反対が55%でスコットランドの住民がはっきりと独立しないと結論を出した。独立に反対したのは、主要3政党の保守党、自民党、そして労働党だが、独立に賛成したのは、スコットランド政府のアレックス・サモンド首席大臣率いるスコットランド国民党(SNP)と小政党の緑の党らだ。SNPはもともとスコットランドをイギリスから独立させるために設立された政党である。

独立は否定されたが、この住民投票が行われた結果、SNPの勢力が大きく拡大した。その党員数が大きく伸び、住民投票前の25千人から10月初めに75千を超え今や8万人を超えた。その結果、現在イギリス政界の第3政党である自民党(Lib Dems)の党員数44千人を抜いて、19万人の労働党、14万人の保守党に続いて第3位となった。イギリスでは、この党員数は名目上の党員ではなく、自腹を切って党費を払っている人たちである。

この党員数の比較を見る場合、留意しておかねばならないのは、労働党や保守党が人口6400万人のイギリス全体に広く分散しているのとは異なり、有権者数428万人(独立住民投票時点で16歳と17歳を含む)のスコットランドに集中しているということである。すなわち、単純に計算すると、スコットランドの住民54人に1人がSNPの自腹を切った党員ということになる。その上、党員の高齢化が指摘される保守党とは異なり、SNPの強力な独立賛成運動から判断すると、新たに加わった党員は青壮年層が中心と思われる。

労働党はスコットランドでこれまで長く、圧倒的な強さを誇ってきていた。2011年のスコットランド議会議員選挙では、一つの政党が過半数を占めないような選挙制度「小選挙区比例代表併用制」にもかかわらず、SNPが過半数を占めた。この選挙で労働党は惨敗を喫したが、その1年前の2010年のイギリス全体の下院総選挙では、労働党がスコットランドの59選挙区のうち41議席を獲得した。労働党はこの総選挙で1997年以来の政権を失ったが、スコットランドではその勢力を維持していた。スコットランドの有権者は、イギリス全体の下院選挙には、下院に大きな勢力を持つ労働党に投票する傾向があった。

ところが、同じ左のSNPへの支持の増加は、この従前の考え方に大きな変化をもたらせている。9月末から10月初めにかけて行われた世論調査の「明日総選挙が行われるとすると、どの政党に投票するか?」という問いに対し、SNPと答えた人が34%おり、労働党の32%を上回った。2010年の総選挙では、SNP6議席に留まったが、20155月に行われる次期総選挙でさらに20議席ほど追加する可能性がある。そのほとんどは労働党から奪う議席だと見られている。

スコットランドは労働党の金城湯池であったが、その地位が脅かされると、労働党の次期総選挙戦略そのものが狂ってくる。

多くは、労働党はこれまで「35%戦略」を持っていると見ていた。この戦略は、労働党が前回2010年の総選挙で獲得した29%の得票に、自民党から流れてくる票を加えて左の票を固めれば、UKIPに票を失う保守党に勝てるというものである。自民党は前回総選挙で23%の得票をしたが、今やその支持率は1ケタになっている。

しかし、労働党が前回総選挙の票を獲得できないようだと労働党の戦略の根本的な見直しが必要となる。スコットランドで起きていることは、労働党への大きな警鐘だ。

スコットランド労働党の党首ジョアン・ラモントがロンドンのウェストミンスターの労働党を批判して辞任した。SNPのサモンド党首らは、ラモントが辞めたのは労働党党首ミリバンドのせいだと、尻馬に乗ってミリバンドを批判したが、これらの批判そのものは、スコットランドにおける労働党をさらに弱めることに狙いがある。

ジョアン・ラモントは、労働党の惨敗した2011年スコットランド議会議員選挙の後、スコットランド労働党の党首となったが、その古い体質を十分改革できないままに終わっており、躍進するSNP(11月、これまでの副党首二コラ・スタージョンが党首・首席大臣となる)に対抗するには役者が不足していたのは明らかである。

なお、SNPのサモンド党首らが労働党のミリバンド攻撃の材料に使っているのは、有権者のミリバンド評価の低さである。ミリバンドにはカリスマがなく、しかもダイナミックさに欠ける。本来なら、サッチャー政権よりも大きな財政削減を行っている政権政党が支持を減らすはずだ。しかも保守党はUKIPに票が流れているにもかかわらず、労働党が決定的な差を保守党につけられないのは、ここに原因がある。

スコットランドだけではなく、全国的に主要政党離れの傾向のある中、UKIPや緑の党への支持が伸びており、労働党はこれらの政党にも票を失う傾向がある。2010年に労働党に投票した人たちが次期総選挙でも労働党に再び投票するかどうか疑われる中、労働党は、これから半年間、足元のおぼつかない選挙戦を進めていくことになろう。