保守党の暗い見通し

恒例の秋の保守党大会の始まる前日、保守党下院議員のマーク・レックレスが、イギリス独立党(UKIP)の党大会に出席し、保守党を離党し、UKIPに加入すると発表した。8月のダグラス・カースウェルに引き続き、2人目の保守党からUKIPへの転換である。そしてレックレスも下院議員の職を辞職し、補欠選挙で戦う。 

この党大会は、来年57日に予定されている次期総選挙前の最後の党大会であり、世論調査でリードされている労働党を追い抜くためには大切な場である。ところが、レックレスの離党だけではなく、閣外相の稚拙なセックススキャンダルでそのポストを辞任するという事態もあり、党大会のスタートは大きく乱れた。 

保守党は次期総選挙で勝てないのではないかという雰囲気が高まる中、2005年に保守党党首の座をキャメロンと争ったデービッド・デービスが、UKIPがこれから二ケタ台の支持率を維持していくようだと、総選挙では何かすごいことが必要だと発言した。また、保守党の副幹事長をかつて務めたアッシュクロフト卿の世論調査によると、労働党が過半数を上回る状況であり、保守党にとっては、暗いニュースが続いている。 

レックレスの選挙区(Rochester And Strood)の補欠選挙は11月中旬になると見られている。最初にUKIPに移ったカースウェルの補欠選挙は、109日に行われるが、地元で人気が高く、しかもUKIPに投票しそうな有権者層が最も集中している選挙区(Clacton)であり、カースウェルが圧勝すると見られている。一方、レックレスの場合、補欠選挙で勝つのはそう簡単ではないと見られている。選挙区では、伝統的な保守党支持の層が強く、カースウェルの場合とは異なるからだ。

レックレスは、2010年の総選挙で初当選したが、下院の内務委員会のメンバーでもあり、その欧州懐疑的な行動から下院で目立つ存在である。なお、レックレスの選挙区は保守党が非常に強い選挙区であり、レックレスがUKIPに移らないと次期総選挙で議席を失う恐れがあったとは見られていない。それでもレックスが勝つ可能性の少ない補欠選挙をするとは考えにくい上(レックレスが計算間違いをしているかもしれないと指摘する声もある)、賭け屋もレックレスが勝つと見ている

カースウェルの補欠選挙のある日には、労働党下院議員の死去による補欠選挙(Heywood And Middleton)も行われる。この補欠選挙では、労働党が勝つと見られているが、次点には保守党ではなく、UKIPが入ると見られており、この10月、11月は保守党にとってはたいへんみじめな時期となりそうだ。 

来年5月の総選挙までに残された時間はそう多くないが、キャメロン首相にかかる重圧はそう簡単に軽くなりそうにない。補欠選挙が行われ、UKIPをメディアがますます頻繁に取り上げるばかりではなく、現在は党所属下院議員のいないUKIPが新下院議員(実際には元保守党下院議員だが)を得て、下院で保守党を揺さぶる活動を積極的に進める可能性がある。つまり、UKIPへの注目度がさらに高まり、UKIPの支持率をさらに押し上げる可能性がある。

保守党からさらに下院議員がUKIPに移るのではないかという噂が多くなり、保守党の下院議員が浮き足立ち、保守党内での不信が高まり、同時にキャメロン首相の信頼が弱まり、権威が下がることとなる。

このままでは、保守党はガタガタになっていく可能性が強まっていると言える。いかに優れた、妥当な政策を打ち出しても、有権者の信頼を失えば選挙に勝つことは難しい。

イングランドの分権?

スコットランドの独立住民投票の結果、独立賛成が45%、反対が55%となり、スコットランドはUK(連合王国)に残ることとなった。ただし、918日の住民投票直前になって、キャメロン首相らが、独立反対の結果の場合にはスコットランドに権限を大幅に委譲することを約束したため、UKの他の地域(連合王国の「国」)、つまり、イングランド、ウェールズ、そして北アイルランドをどうするかが課題となった。

ウェールズでは、1997年の分権住民投票で非常にわずかな差で分権賛成が上回った経緯がある。ウェールズ独立を標榜するプライド・カムリという政党があるが、スコットランドに比べ、ウェールズに独立の機運は乏しい。ウェールズでスコットランド独立投票の後に行われた世論調査によると、独立賛成はわずか3%である。それでも、中央政府からの更なる権限移譲を求める人は49%に上っている。ただし、この権限移譲の方法には議論がある。

北アイルランドでは、法人税の権限の分権を求める声があるが、北アイルランド政府内で、財政削減下の福祉改革に対立がある。そのため、既に与えられた権限をきちんと行使できないのに、さらに権限の分権を求めるのはおかしいと北アイルランド政府ロビンソン首席大臣は主張している。これには、北アイルランドでも地域の帰属(イギリスかアイルランドか)を巡る住民投票を実施する機運が生まれることを警戒していることが背景にある。

さて、ここで最も重要なのは、イングランドの扱いである。イングランドは、下表のように人口が他の地域と比べて格段に多い。

2011年国勢調査結果

9月18日に行われたスコットランド独立住民投票の結果のわかった19日朝、キャメロン首相は、スコットランドがより多くの権限を与えられることから、その他の地域にもそれに見合うような対応が必要だと主張した。そして、下院で、イングランドの政策にイングランド以外から選出された議員が投票できるような現状(この問題を指摘した下院議員の選挙区名から「ウェスト・ロージアン問題」と呼ばれる)を改革し、イングランドの問題にはそれ以外の地域選出の議員を除く意図を明らかにした。これをスコットランドへの分権と同時に進めると発言したことから大きな騒ぎとなった。

スコットランドの分権では、主要三党首、キャメロン首相、ミリバンド労働党党首、クレッグ副首相が実施を約束した予定表によると、今年11月末までに白書を発表し、来年1月に法案を提出、そして5月に予定される総選挙の後にその法制化をする予定だ。

ところが、もしそれをイングランドの問題と同時に進めようとすれば、スコットランドの分権が予定通りに進まないことになる可能性があった。イングランドの改革案には労働党が反対するからである。労働党は、下表のようにイングランドで保守党に議席数で大きく差をつけられている。次期総選挙で労働党が政権に就いたとしても、もしイングランドの事案でほかの地域からの下院議員が除外されることとなると、政府の政策の実施が極めて難しくなる。

2010年総選挙地域別獲得議席数 (北アイルランドは地域政党のみのため省略)

これはイギリスの政治体制のひずみの問題ともいえる。特に、NHSを含む健康医療、教育、そして財政関連などイングランドだけに限定された分野をウェストミンスターの中央政府が担当しているからだ。

なお、イングランド分権政府という考えもありうるが、全人口の84%を占めるイングランド単独の分権政府を設けるのは、極めて非効率である。一方、ブレア労働党政権で、2004114日にイングランド北東部の分権政府案の住民投票を行ったことがある。これは47.7%の投票率でなんと77.9%が反対した。そのため、担当のプレスコット副首相が、予定していた、それ以外の住民投票を取りやめた。

キャメロン首相の発表に対して、スコットランドのサモンド首席大臣は、スコットランドの人たち、特に、キャメロン首相らの約束を信じて独立反対に投票した人たちが騙されたと批判した。

これらの批判を受け、保守党の党利党略と思われた、スコットランドの分権とイングランド事案の投票改革を連結する方針は変更され、それぞれ別個に対応することとなった。イングランド事案の投票改革には、かなり時間がかかると見られており、次の総選挙の大きな課題の一つとなると見られている。

なお、有権者の多くは、イングランドの事案に他の地域選出の議員が投票するのはおかしいと感じているが、このような「憲法問題」にあまり注意を払っていない。そのため、抜本的な改革につながる可能性は少ないように思える。

誰がスコットランド独立に反対したのか?

スコットランドの独立に関する住民投票の結果、独立賛成45%、反対55%で、スコットランド住民が、はっきりと独立反対の意思を示した。投票率は85%と極めて高く、これまで投票したことがなかった人が、独立賛成側もしくは反対側の家族や知人から迫られて投票に行くということもあったようだ。

それでは、どのような人たちが独立に賛成、もしくは反対という立場を取ったのだろうか?元保守党副幹事長のアッシュクロフト卿が、投票箱が閉まった後、独自の世論調査を行ったので、その結果をもとに概観しておきたい。なお、億万長者のアッシュクロフト卿は世論調査を頻繁に行っており、その結果は、世論調査業界並びにイギリスの政界で注目されている。 

この世論調査では、2千人余の調査結果からのものである。ここでは特に年代別の投票結果を見てみる。

(一番上の数字は年齢別、二番目、三番目の列の数字は%)

特に65歳以上の人たちの4分の3近くが独立反対である。独立賛成側は、この層と55-64歳の層の支持を集められなかったことが敗北につながった。一方、25-34歳の年代層では、賛成が6割いる。さらにこのスコットランド住民投票で特別に認められた16歳と17歳は7割が賛成しており、独立賛成側の狙い通りの効果があったようだ。 

なお、反対票を投じた人の57%が、スコットランド独立後の通貨の問題を心配したという。つまり、年金の問題も含め、独立後の経済・財政面での不安を嫌った結果といえる。世論調査大手のYouGov社長ピーター・ケルナーが、アメリカ大統領選で勝利したクリントン陣営の「問題なのは経済だ」という言葉を引用して、今回の住民投票の結果を予測していたが、その通りになった。

北アイルランドの平和に貢献した「Dr. No」の死

北アイルランドのDr. Noこと、イアン・ペーズリーが2014912日、88歳で亡くなった。ペーズリーは北アイルランドの前首席大臣である。キャメロン首相は、「物議をかもす人物だったが、後年、北アイルランドの平和に大きな貢献をした」と評した。

なぜ、Dr. Noが「首席大臣」になったのか?どのような貢献をしたのか?

ペーズリーは、プロテスタントのキリスト教長老派の牧師だったが、カトリックを心底嫌った人物である。そして北アイルランドを南のアイルランド共和国と統一させようとするカトリックの「ナショナリスト」に強く反発した。 

イギリスとの継続した関係を求める「ユニオニスト」の強硬派として、ナショリストたちとの妥協を拒否した。そして政治のリーダーとなり、後に民主統一党(DUP)を設立するに至る。ペーズリーは、欧州議会議員とイギリスの下院議員、そして北アイルランド議会議員も同時に務め、北アイルランドで最も有名な政治家となる。

その立場は後年までほとんど変わらなかった。北アイルランドを武力で南のアイルランド共和国と統一しようとしたアイルランド共和軍(IRA)の政治団体シンフェイン党との交渉を一切拒否した。二つの立場の対立で多くの死者を出した北アイルランド問題を解決するための1998年のベルファスト合意(グッドフライデー合意)にも反対した。ベルファスト合意後の北アイルランドの住民投票では75%以上の人が賛成したが、その際にも反対運動を展開した。それでもベルファスト合意に基づいて行われた北アイルランド議会議員選挙でDUPがユニオニスト側第二位の議席を獲得し、二つの大臣ポストを獲得すると、自党から二人の大臣を出したが、閣議にあたる会議にはシンフェイン党とは同席しないと出席を拒否した。

その段階では、ベルファスト合意をもたらせたユニオニスト側最大勢力のアルスター統一党(UUP)が主力で、ペーズリーのDUPは脇役と考えられていた。ところが、IRAの武装放棄が予定通り進まなかったことなどから議会が混乱し、その結果、北アイルランド議会が停止された。この過程でUUPがユニオニスト側の有権者の信用を失い、2003年に行われた議会議員選挙ではペーズリー率いるDUPが第一党となる。

DUPでは、北アイルランド問題解決への話が進むわけがないと思われたが、ペーズリーはこれから妥協への道を進んだ。トニー・ブレア元首相の首席補佐官だったジョナサン・パウエルは、重病を患い、生死の境をさまよったペーズリーが、「これからはイエスと言うよ」と言ったと言うが、ペーズリーは2006年のセントアンドリュース合意を経て、2007年に行われた議会選挙後、かつて不倶戴天の敵であったシンフェイン党の元IRA司令官マーティン・マクギネスを副首席大臣とした分権政府の首席大臣となる。

これにはDUP内に非常に大きな影響力のあるペーズリーの役割が極めて大きかった。しかし、ペーズリーはマクギネスと非常に仲がよくなり、「クスクス笑いの兄弟」と呼ばれるほどの関係となり、ユニオニストの関係者から顰蹙をかった。

ペーズリーの悲報を聞いたマクギネスは、二人の親しい関係はペーズリーの首席大臣退任後も続いたとコメントした。 

ペーズリーがなぜ、Dr. NoからDr. Yesとなったのか?

ペーズリーがDUP党首・首席大臣を退いた後、後任となったピーター・ロビンソンは、状況が変わったからだという。これは正しいようにと思われる。ペーズリーは、それまで自分の信じる方向にのみ向かっていた。ところが、突然、自分が動かなければ何も動かないという状況になり、「神の手」を感じたのではないだろうか?信仰者独特の啓示のようなものを受けたように思ったのではないかと思われる。ペーズリーの突然の「転向」は、多くを驚かせ、また、厳しい非難も浴びた。

シンフェインとIRAは交渉の相手がペーズリーでなければ、武装放棄などの問題で大きな譲歩には踏み切っていなかったかもしれない。つまり、ちょうどよいタイミングでペーズリーが主役となったように思われる。北アイルランドの問題はまだ続いているが、ペーズリーが残した遺産には非常に大きなものがあるように思う。

ロンドン市長が道路課金システムの導入を提案

ロンドン市長ボリス・ジョンソンが、「大気汚染による早死を防ぐため」に大気汚染を改善するための方策を提案したが、その中で道路課金制度(Road Pricing)の導入を提案した。これは自動車の走行距離などに応じて自動車の持ち主が費用を支払うものである。大気汚染で早死にする人の数は年に29千人いると言われる。

なお、ロンドンでは中心部に既に混雑税が導入されており、CCTVと自動車のナンバー識別技術を利用して管理している。

かつて労働党政権時代の2005年に道路課金制度の導入が提案されたことがある。衛星を使い、自動車の走行距離に応じて、1マイル(約1.6キロ)あたり、自動的に混雑していない道路の2ペンス(3.5円)から最も混雑している道路のピーク時に1.34ポンド(208円)まで課そうとするものであった。しかし、オンラインでこの制度導入反対の嘆願書が180万に達し、結局労働党政権は2009年断念するに至った。

ジョンソンの提案には、既に自動車で走れば走るほど多くの燃料税を支払っているという批判があるが、走行距離や場所、さらに自動車のタイプなどに応じて簡単に課金できる制度は、いずれは導入されることになると思われる。

スコットランド独立住民投票の行方

918日の独立住民投票を控えて、スコットランドでは独立賛成側と反対側のキャンペーンが猛烈に行われている。その中、昨日、本日と二つの世論調査結果が発表された。いずれも、賛成と反対が拮抗しており、まだまだ予断を許さない。 

912日現在最も新しい世論調査は、ICM/ガーディアンのものであり、賛成49%、反対51%である。ただし、17%はまだ態度を決めていいないため、これから動く可能性がある。この電話による世論調査で特徴的なのは、87%が必ず投票するとしていることだ。この中でも特に若い世代の16歳から24歳の世代の82%、25歳から34歳の87%が必ず投票する(既に郵便投票で投票したも含む)と答えており、関心が非常に高いことがうかがえる。

世代間の賛成・反対の違いもある。賛成の最も多いのは、25歳から34歳のグループで賛成57%、反対43%、一方、反対の最も多いのは、65歳以上の賛成39%、反対61%である。男女間では男性が賛成52%、反対48%であるのに対し、女性は、賛成45%、反対55%である。

また、11日夜に発表された、YouGovの世論調査結果は、賛成48%、反対52%で、態度を決めていない人が4%である。この世論調査では、特に、今回の住民投票の行方を決めると考えられている女性の賛成が先週末と比べて47%から42%へと減っている。さらに独立賛成派のサモンド首席大臣への信頼度が先週末の42%から38%へと減っており、一方では、独立反対側の中心として活動し始めたブラウン元首相の信頼度が32%から35%へと上がっている。独立賛成に向かっているとして心配されている労働党支持者層に影響を与えているようだ。有権者の中に一定の地殻変動が起きていることがうかがえる。

911日には、独立反対という結果が出る賭け率を1-5、つまり、ほぼ間違いなく独立反対となるという賭け率にした賭け屋が多かった。ただし、独立賛成側と反対側の支持率の差は小さく、誤差の範囲内にある上、態度を決めていない人もいるだけに結論を出すのは時期早尚に思える。

キャメロンの判断ミスが招いたスコットランド危機

918日のスコットランド独立住民投票まであと8日。事態は非常に深刻になってきた。独立反対側の保守党、自民党、労働党は、本来、首相と党首の出席する「首相への質問」をそれぞれの代理に任せ、スコットランドに飛んで、独立反対運動に懸命だ。

さらに、スコットランドのイギリスからの分離を防ぐために、2010年までイギリスの首相を務めたゴードン・ブラウンを先頭に担ぎ出した。ブラウンはスコットランド人で、スコットランドでは非常に良く知られている。

ブラウンは2010年の総選挙で労働党を率いて戦ったが、キャメロン率いる保守党に後れをとった。労働党は、2005年の総選挙時の得票率35.2%で355議席から2010年には得票率29%で258議席と6.2%も得票率を落とした。それでもスコットランドでは2.5%アップの42%の票を獲得し、全59議席のうち、前回と同様41議席を獲得した。 

キャメロン率いる保守党は、スコットランドでこれまでに大きく支持を減らし、下表で見るように現在ではわずか1議席、スコットランドで勢力を失っている。

2次世界大戦以降の保守党のスコットランド総選挙結果
 

ミリバンド労働党党首はロンドン生まれで、スコットランドでは人気がない。 一方、自民党は保守党との連立政権に参画して以来、スコットランドで支持を大きく失った。

これらを考えれば、スコットランドの労働党の牙城を守るためにも、スコットランド独立に強く反対しているブラウンが表に出てくるのは当然の人選とは言える。もちろんキャメロンは、これまでブラウンを厳しく批判してきた経緯があり、二人の関係に問題があった。しかし、総力戦となった今の段階では、体裁にこだわっていることはできない。

ブラウン投入の効果があるのだろうか?もちろん、ブラウンに心を動かされる有権者はいるだろう。しかし、問題は、それで十分かどうかである。例えば、ブラウンは、スコットランドの住民投票が「独立反対」となれば、スコットランドにさらなる権限の委譲を行うと発表した。これは上記三政党の支持を得ている。ただし、この約束がどの程度の効果があるかは別の問題のように思われる。その内容がはっきりとしていない上、ブラウンは所得税への権限には触れているが、法人税には触れていない。つまり、スコットランドが「独自の税制」を行えるような内容となっていない。しかも、ウェストミンスターのイギリス政府側がスコットランドとポンドを共有するのに反対したのは、もしスコットランドが独自の経済財政政策を行うと通貨が危機に陥るというものであった。つまり、この理屈では、スコットランドの分権でも、両者の経済財政政策に大きな違いをもたらすような政策は打てないことになる。つまり、この約束にはそう大きなインパクトはないように思える。

それでは、この住民投票の行方はどうなるのか?勢いは確かに独立賛成側にある。オンライン世論調査のYouGovに加えて、面接調査のTNSでも賛成・反対側が拮抗していることが明らかになっている。独立賛成が急速に伸びてきたことを見ると、その勢いが今ストップするかどうか推し量りがたい。しかし、スコットランドに深い関係のある金融機関や企業が、独立賛成多数の状況に備えて、イングランドに事業を大きく移すなど対応策を発表し始めており、これらがスコットランド住民に微妙な影響を与える可能性がある。

キャメロン首相は、スコットランドにイギリスに留まるようにとの心のこもったスピーチを発表した。このようなスピーチは、イギリス国民の多くの心を打つかもしれないが、スコットランド人にどの程度受け入れられるかははっきりしていない。

こういう事態を招いたキャメロン首相のこれまでの判断、例えば、賛成側も望んだYesNoに大幅分権の選択肢も入れた三者択一ではなく、YesNoの二者択一にしたことや、18歳の投票権を、今回に限り16歳まで認めるなど、多くの判断ミスがある。国の運命を決める重要な投票の結果がどちらに転ぶかわからないような事態を招いたのは、結果の如何を問わず、キャメロンの大失敗と言える。

スコットランド独立?

サッカーの2016年欧州選手権の予選が行われている。97日の夜、ドイツとスコットランドが戦った。ドイツはブラジルで行われたワールドカップで優勝した。一方、スコットランドはブラジルに行く前の予選で敗退し、ワールドカップには出場できなかった。そのため、多くはドイツの楽勝に終わると見ていた。ところが、試合は予断を許さない展開となった。ドイツのエース、トーマス・ミューラーが1点目のゴールを決めた後、後半、スコットランドがゴールを返して同点とした。スコットランドの勢いからすれば引き分け、もしくは勝利の可能性もあると思われた。ミューラーがさらにゴールを決め、結果は21だったが、最後までスコットランドの健闘が目立った。

この試合中、キャメロン首相はスコットランドに勝ってほしくないと祈っていたかもしれない。もし、スコットランドが世界王者のドイツに勝つようなことがあれば、スコットランド独立派にさらに勢いをつける可能性があったからだ。

918日のスコットランド独立の住民投票まであと10日。世論調査会社大手のYouGovが独立賛成51%、反対49%という調査結果を出したことから、一挙に政治情勢が変化した。この世論調査結果は、独立賛成派が大きく支持を伸ばしているという、先の世論調査に沿ったもので、しかもその勢いが非常に強いことを裏付けたからだ。独立反対派が余裕をもって勝つというこれまでの見方をひっくり返し、イギリスがスコットランドを失うかもしれないという可能性を現実のものとして感じさせたからである。 

この独立賛成派の勢いは、タイムズ紙のコラムニストの記事でも裏付けられている。スコットランドで22歳まで過ごしたスコットランド人が、スコットランドを訪れてルポを書いた。なお、筆者は、5月にスコットランを訪れたが、その時とはずいぶん様子が変わっているようだ。

このコラムニストはスコットランドに住んでいないために投票権がない。頭では独立反対だが、それでもスコットランドに生まれたスコットランド人として、独立賛成側の運動に心を動かされたようだ。独立賛成派の運動には、多くのスコットランド人の心を打つ情熱がある。 

一方、独立反対側の労働党下院議員ジム・マーフィーがスピーチの際に卵を投げつけられる、ヤジり倒される、脅されるなどの事件が大きく報道され、賛成側、反対側の運動が過熱してきていることが明らかになった。

この下院議員が、「ナショナリストは愛国者だが、愛国者がナショナリストだとは限らない」という言葉を多用しているそうだ。つまり、自分は愛国者だが、独立を求めず、現在のイギリスの中に留まる「ユニオニスト」だということを強調したものだ。ユニオニストとは、イギリスのユニオン(4つの国の合同)を守る立場を示している。スコットランドのグラスゴーで生まれ、スコットランドの選挙区から下院議員となり、しかも労働党政権時代にはスコットランド大臣でもあった人物にとっては理解できることである。

しかしながら、そのような言い方がどの程度効果があるかは別の問題である。有権者へのアピールとしてはそう強いものとは思えない。

さらに、独立反対側にはスコットランドの能力を低く見るような言葉が多い。小さなスコットランドでは不安だ、安定しない、出産量が減ってきている北海油田には頼れないなど、寄らば大樹の陰の議論である。

賛成派の、スコットランド人は誇り高き人々だ、自分たちで自分たちの面倒を見られる、自分たちの国を作るべきだ、というメッセージには、小さなころから反イングランド感情の強い環境に育った人々にとっては強い説得力がある。

このメッセージの力の差を埋めることは、独立賛成側が勢いを増している環境の中ではそう簡単ではない。

それではもし独立賛成ということになればどうなるか?何が起きるか予測することは困難である。経済的な面への影響はさておき、政治的な影響には、まず、キャメロン首相の権威が失墜し、有権者の保守党への支持の低下を招くと思われる。そして2010年総選挙でスコットランドの59議席のうち、41議席を獲得した労働党と、11議席を獲得した自民党への大きな打撃となる。さらに来年の20155月に予定されている総選挙を実施するかどうかが議論となるだろう。

スコットランドのサモンド首席大臣らは、独立賛成派が勝てば、20163月の独立を予定している。つまり、20163月にスコットランドが分裂するとすれば、わずか10か月ほどの間しか任期のない下院議員を選ぶことが賢明かどうかが問題となる。しかもスコットランドで多数の議席を獲得する労働党が、スコットランドの議員の支持で最大多数党となり、政権に就く可能性がある。すると10か月後にはそのスコットランド選出議員がいなくなるため、政権が替わる可能性がある。むしろ2016年まで待って総選挙をした方がよいという議論が強まるかもしれない。一方、スコットランドとの交渉が20163月までに済まない可能性もある。いずれにしても政治状況はかなり混迷するだろう。

ただし、世論調査の結果をそのまま受け入れられるかには疑問がある。スコットランドには現在、独立反対と言いにくい雰囲気がある。そのため、独立反対であってもそうとは言わない人がかなりいる可能性もある。

例えば、1992年総選挙の際の世論調査では、労働党が優勢だったが、ふたを開けると保守党が勝った。この原因については、業界でかなり議論された。「Shy Tory」、つまり、保守党支持と言いにくいので保守党支持と言わずに保守党に投票した人がかなりいたのが原因の一つという結論になった。そして世論調査会社は、前回の選挙でどの党に投票したかも尋ねるようになった。しかし、今回のスコットランド住民投票は初めてのことである。1979年、1997年の分権に関する住民投票があったが、それと今回の独立に関する投票はかなり異なる。

さらに、カナダのケベック州の1995年の独立投票で、直前の世論調査と異なった結果が出た例もある。最後の2週間で独立賛成派がリードしたが、投票結果は、賛成49.4%、反対50.6%だった。

10日後の投票結果がどうなるかはまだ予断を許さないと言える。主要三党は、共同してスコットランドへのさらなる分権の提案をする予定だ。総力を結集してスコットランド分裂を防ごうとする構えだ。いずれにしても、この住民投票が終わるまで、次期総選挙の準備にはほとんど手が付けられないだろう。