トップ政治家の妻たち

トニー・ブレア元首相の妻シェリーは著名な弁護士、ゴードン・ブラウン前首相の妻セーラはPR会社の設立者、デービッド・キャメロン首相の妻サマンサは貴族の出で、高級文具雑貨のスマイソンのクリエイティブ・ディレクターだった。 

ブレアは弁護士事務所でシェリーと知り合い、結婚。二人とも政治家をめざし、どちらか早く下院議員になった方をもう一人が支えるという約束をし、たまたまブレアが早く下院議員になったのでシェリーは政治家をあきらめたと言われる。 

ブラウンは労働党のPRの仕事をしていたセーラと知り合い、ブラウンが財相時代に結婚した。その結婚式は親しい人たちだけの質素なもので、出されたシャンペンはスーパーマーケットのセインズベリーズの自社ブランドだった。

キャメロンは妹にサマンサを紹介された。結婚する前、キャメロンは内務相のスペシャルアドバイザーをしていたが、収入が少なかったので、メディア関係の会社に移って役員となったと言われる。そして下院議員となった。

いずれもかなりの能力のある女性で、妻の方が夫の収入を上回る状態だった。

それはニック・クレッグ副首相の場合もそうである。自民党の党首であるクレッグは、妻のミリアムにベルギーの大学院時代に知り合った。妻はスペイン人で、知り合った時にはフランス語で会話をしていたという。ミリアムは弁護士で、現在はロンドンのシティの大手弁護士事務所に勤務している。 

エド・ミリバンド労働党党首の妻ジャスティンも環境問題の弁護士で、野党第一党である「対立政党」の党首として年俸13万ポンドを受けているが、それよりも多い年収20万ポンド(3500万円)と言われる。ミリバンドがブラウン財相の下でスペシャルアドバイザーをしているときディナーパーティで知りあったが、ケンブリッジ大学で法律を学んだジャスティンが、なんと頭がいいのだろうと思ったと言われる。2009年に最初の息子が生まれたが、結婚したのは2011年。20109月に労働党党首となった時には、労働党史上初めての結婚していない党首だったという。

ブレアが1994年に労働党の党首選に立った時、盟友ブラウンのことを心配して躊躇するブレアにシェリーが促したと言われるが、ミリバンドの場合もジャスティンが「人生は冒険」と言って励ましたという。ミリバンドは実兄のデービッドを破って党首となった。 

イメージでキャメロン首相に劣るミリバンドだが、9か月余り先の総選挙に向けてジャスティンを「秘密兵器」として使う動きが労働党で始まっている。ジャスティンは、国の運営を大きく改革できるのはミリバンドだけだと信じているそうだ。

ジャスティンは保守党のオズボーン財相の妻フランシスと親友で、かつて一緒に南米のバックパッキング旅行に出かけた間柄だ。政治家の妻がどのようなものかよくわかっていると思われる。そのジャスティンの効果がどの程度あるか、その結果が待たれる。

UKIPの2015年総選挙に与える影響

テレグラフ紙によると、労働党の選挙分析では、来年の総選挙でもしイギリス独立党(UKIP)が9%の得票をすれば労働党が勝てると見ているという。

現在の世論調査では、UKIPの支持率は、YouGov/Sunday Times13%。これが現在の平均のように思われる。この支持率が9か月余り先にどうなるかは今のところ予断を許さない。ただし、最近発表された世論調査の結果によると、UKIPは保守党の現職下院議員のいる2選挙区で議席を獲得する勢いと見られており、UKIPの支持率が大きく下がるとは考えにくい。

UKIPは、5月の欧州議会議員選挙で27.5%の票を獲得し、イギリス選挙区で最多の議席を獲得した。労働党の支持層への働きかけを強めているが、UKIPが過去の保守党支持層から最も多くの支持を集めている事実は変わりない。

労働党はミリバンド党首が、イメージでは、自分はキャメロン首相に勝てないと示唆し、政策で勝負する立場を明確にしたが、現在の状態に甘んじているつもりはないようだ。キャメロン首相にはビジョンがないとの批判があり、その点を突いていくのは間違いないと思われる。保守党がUKIP対策にどのような手を打つことができるか、それが選挙の結果を決めることになりそうだ。

キャメロン首相の先走った行動の原因

マレーシア航空MH17が撃墜されたことで、それに関与したと見做されているロシアへの制裁をめぐり、キャメロン首相はEUがロシアに強い制裁を科すことを提唱した。そしてフランスのヘリコプター輸送船のロシア納入を批判した。

ところが、イギリスからロシアへの武器・部品・材料の輸出許可が有効のままであり、保守党がロシアの富豪から献金を受けていたりしたことがわかり、キャメロン首相の制裁に対する立場に疑問が出ている。

MH17の被害者にはイギリス人10人が含まれており、イギリスが強い立場を取ることは当然ともいえるが、キャメロン首相の威勢の良い言動にはきちんとした慎重な情報収集と判断力に欠けている面があるようだ。

これは先だっての欧州委員会委員長の選任を巡ってのキャメロン首相の言動と同じパターンである。

もちろん首相が自ら情報収集をするわけではない。そのスタッフが実施し、それをふるいにかけてキャメロン首相のもとへそのエッセンスだけが伝わることになる。しかし、これらの状況を見ると、そのスタッフに問題があるのではないかと思える。

実はこの問題は既に何度も指摘されていることであるが、キャメロン首相は、これまで手をつける意思はなかった。それでも総選挙が10か月足らず先となり、キャメロン首相は、少しでも点数稼ぎをしたい状況となっている。世論調査の支持率には特に改善の兆しは見えていない。それがキャメロン首相の行動に先走り傾向の出ている原因となっているように思われる。それを考えると状況は必ずしも良くなるとは言えないだろう。

ロシア制裁に手詰まり状態のイギリス

マレーシア航空MH17がウクライナ東部の、ウクライナからの分離を求める親露派の支配する地域の上空で撃墜されたのは717日である。ロシアに武器並びに技術支援された親露派の仕業で、ロシアが深く関わっているのは間違いないが、イギリスはじめ、EU諸国のロシアに対する制裁はなかなか意見がまとまらない。この事件の起きる前から既に制裁ではアメリカに後れをとっていたが、追加の制裁はロシアにダメージを与えるだけではなく、それぞれの国への経済的なダメージにつながるからだ。

威勢のいいことを主張するキャメロン首相は、ロシア制裁のロンドンのシティに与える影響を恐れており、ドイツとイタリアはロシアからのガスと石油に頼っている。フランスはヘリコプター輸送船のロシア納入が迫っており、それに手をつけることは多くの失業につながる。今回の事件で298人のうち大半の死者を出したオランダはロシアとの経済関係が深く、強い立場に出るのは困難だ。

先週の組閣で新しく外相に就任したフィリップ・ハモンドが、国防相時代の今月初めに下院の防衛委員会に出席して発言した。ロシアは、一人の人物が複雑な問題の決断を文字通り寸時に行うことができるが、イギリスは民主主義国であるために戦略的な弱みがある、しかし、それが最大の強みでもあるという。NATOでは全参加国の理解を求めるために決定に時間がかかり、民主主義では時間がかかるが、モラル的に優位に立つなどその利点があるという。 

忘れてならないのは、民主主義国では、政治家は失敗を恐れ、重要な決定を先延ばしする傾向があることである。必ず勝てると思われるものにしか手を出さない傾向があり、しかも早く、安上がりに結果を求める傾向がある。今回の例でいうと、自分たちの国をできるだけ傷つけないようにとの配慮である。これは政治家にとっては一種の「恐れ」とでも言えることだろうが、これがEU諸国の制裁への動きにブレーキをかけている。

ただし、これがすべて悪いかというと必ずしもそうとは言い切れない。国の関係は、現在の国際社会では非常に入り組んだものとなっている。かなり長期間にわたるものであり、お互いが何らかの理解できる接点を見つけ出そうとする努力の中に将来への希望を見出すことのできる可能性があるからである。もちろん今回の撃墜事件の被害者関係者にとっては、大きな不満の残るものであろうが。

スコットランド独立の損得勘定の浅はかさ

スコットランド政府は、スコットランドが独立すれば一人当たり千ポンド(173千円)得をするという。ウェストミンスター政府は、イギリスに留まれば1400ポンド(242千円)得をするという。その差は2400ポンドある。どちらが正しいのだろうか?

結論は、どちらともいえないである。

スコットランドが独立すると、その借金の利子が0.5から1%高くなるだろうとする見方がある。もしかすると、短期的にスコットランドは苦しむかもしれないが、長期的にはどうなるかわからない。スコットランド政府のサモンド首席大臣は、もともと石油のエコノミストで、しかも非常に優れた政治家だという評価があるが、独立スコットランドを大きく発展させるかもしれない。その反対に、うまくいかないかもしれない。

それはそうだろう。ウェストミンスターのイギリス政府でも、キャメロン政権は、その政策が正しいのでイギリスは財政削減を成し遂げた上、G7でトップの経済成長を成し遂げていると誇り、もしこれが労働党政権だとイギリスは苦しんでいると主張する。

IMFも少し前まで、イギリスはその財政経済政策を変える必要があると報告していたが、今ではその見解を変えた。

そういう中、スコットランドの弁護士会が独立賛成側も反対側もはっきりしていない点がいくつもあると指摘した。例えば、独立賛成が多数であった場合、スコットランドはEUのメンバーにすぐになれるのか?その場合にはイギリス政府が協力するのかどうか?独立スコットランドの通貨をどうするのか?イギリス政府はじめ主要3党はポンドを共有しないとしているが、スコットランド側は、口先だけだといっている。独立反対が多数であった場合、スコットランドへの権限移譲をさらに進めると主要三党が約束しているが、その内容ははっきりしていない。

確かに、この918日の住民投票の結果次第で賛成側、反対側の両方がその立場を変える可能性がある。

今回の独立住民投票は、かなりのあいまいさを残したまま行われることとなるだろう。とどのつまりは、スコットランドに住んでいる人たちが本当に自分たちのアイデンティティを独立という形で確立したいかどうかということになる。それは目先の損得勘定の問題ではないだろう。

ストライキ制限を求める保守党

保守党は、来年57日に予定されている下院の総選挙のマニフェストでストライキの制限を盛り込むことを発表した。なお、連立を組む自民党は賛成していない。

この基本的な考えは、既にキャメロン首相が明らかにしているが以下のとおりである。 

  1. 組合員の最低投票率を50%とする。つまり、半分以上の組合員が投票し、その過半数が賛成しなければその投票は無効となる。現在は、投票率にかかわらず、過半数が賛成すれば成立する。
  2. 何に投票するかをはっきりとさせ、いつどのような行動を取るかを明記させた上で賛否を問わせる。
  3. 賛成の投票結果が出ても、その効果は3か月のみとする。この7月の公共セクターの大規模ストライキであったように教員組合(NUT)の2012年の投票が今でも有効であるのに歯止めをかけるものである。NUTは過去1年間で3回ストライキを実施した。
  4. 雇用者への告知期間を現在の7日から14日に延ばす。
  5. ピケのルールを強化する。

2013年にストライキで失われた勤労日は443600日で、2012年の2倍近い。しかしながら1970年代の年1300万日や1980年代の年700万日などと比べるとかなり少なくなっている。しかしながら、特に公共セクターのストライキの経済に与える影響はかなり大きなものとなっている。 

もし最低投票率を50%にすれば過去4年間に行われたストライキの3分の2は実施されなかったと見られている。また、それぞれの組合の過激派に組合全体が引きずられるのを防止しようという考えもある。

これらに対して、労働組合会議(TUC)は、既に民主主義国の中では最も強いストライキ法の一つで、これでは労働者の雇用者側との交渉で非常に重要なストライキを実施するのは極めて困難になる。現在の投票は、それぞれの組合員の自宅に投票用紙を郵送しなければならないことになっているが、それを改め、コンピュータやスマホなどでも投票できるように改善すべきだなどと反論した。

保守党は、このストライキ法の強化を総選挙の争点の一つとして取り上げる構えで、特に改正の必要を認めていない労働党との差別化をはかる材料の一つとする考えのようだ。

Business Champion for Older Workersの任命

政府は、中高齢者の雇用と働き続けることを促進するために「中高齢ワーカーのビジネス支援者(Business Champion for Older Workers)」を任命した。 

イギリスでは、55歳から64歳の雇用が増えており、65歳以上で働いている人の数が記録的な水準となっているそうだ。それでも、ビジネスにもこれらの年齢の人たちにも、これまでの古いタイプの考え方がかなり根強く残っており、これを変えていくことが必要であると判断しているからである。

現在では、50代、60代、さらに70代でも老いたとは考えない人が多くなっている。そういう中、定年制は時代遅れとなった。

これらの世代の人たちの勤労能力を軽視することは、それぞれの人の技能、経験、勤労倫理その他、社会にプラスになる要素を無視することとなる。もちろん雇用条件や働く職種によって様々な制限はあるかもしれない。しかし、これらはフレキシブル・ワーキングを導入することや継続的なトレーニングを行うことでカバーできる余地が大きい。

もちろん、誰もが長く働くよう強制されることを意味するのではない。これはそれぞれの個人の選択の問題である。むしろそれぞれに力を与え、働くことを可能にさせる条件を作ることであるといえる。

医療費、ケア費用が大幅に増加する中、年金受給額がこれから減ることが予想され、しかも移民に頼る経済体質から抜け出すには、雇用の場に中高齢者を取り戻すことは極めて重要である。また、NIESRによると、もし誰もが1年余分に働けば、GDP1%アップするという(2013年で160億ポンド(約28千億円))。

イギリスでは、フレキシブル・ワーキングをすべてのワーカーに広げた。また国の年金支給年齢は徐々に引き上げられており、定年年齢はなくなった。しかし、まだまだ十分なものではない。

今でも50歳から国の年金受給年齢までの人で職に就いていない人が290万人おり、この年齢層の雇用率は60%である。これを上げる必要がある。さらに今後10年間で、16歳から49歳までの人が70万人少なくなるのに対し、50歳以上の人は370万人多くなる。これらを考えれば、中高齢者の雇用、活用は政府にとって急務とも言える。

改めて問われる国家公務員制度

キャメロン首相が内閣改造を行ったが、その陰に隠れて、トップ国家公務員の辞職が発表された。内国公務の長(Head of the Civil Service)であるボブ・カースレイク(1955228日生まれ)が、今秋にその職を退き、兼任するコミュニティ・地方自治体省の事務次官から60歳を迎える来年2月末に退職する。このニュースが伝わった後、カースレイクは自身のブログで声明を発表した

カースレイクは、20121月から内国公務の長に就き、20126月に発表された公務員改革計画を実施する役割を担っていた。大幅な財政削減と効率化を進める中、大幅な人員削減を進め、給与の凍結・制限、年金制度の変更などを実施してきており、常時ならかなりの業績を上げたといえるだろう。

しかし、内閣府公務員担当大臣フランシス・モードはその改革がなかなか進まないと不満を持っており、特に事務次官人事などに政治家がより大きな選択権を与えられるべきだと考え、推進していた。カースレイクは、モードらと既存の事務次官らとの間で極めて困難な立場にあり、モードとカースレイクの軋轢がたびたび報道されていた。

カースレイクの率直な発言が保守党にとって邪魔になってきたこともあるのかもしれない。この率直な発言とは、下院の公会計委員会にカースレイク、内閣書記官長(Cabinet Secretary)ジェレミー・ヘイウッド、それに財務省の事務次官が呼ばれ、「ユニバーサル・クレジット」のビジネス・ケース承認(費用対効果評価に基づいて行われる財政支出承認)について聞かれた際、他の参加者は答えを渋ったのに対し、カースレイクは率直に、その承認はまだなされていない、少しずつ支出承認がなされていると答えたことである。

この「ユニバーサル・クレジット」は、労働・年金省の、既存の6つの福祉手当を一つのコンピュータシステムにまとめるプロジェクトであるが、うまくいっていない。政府内でも最も大きな問題の一つとなっている。既に多くのお金が浪費された上、達成期限が延ばされ、しかもプロジェクト自体縮小されている。

カースレイクの発言を受け、野党労働党は下院で、労働・年金大臣のイアン・ダンカン=スミスにまだ、財政支出承認されていないではないかと攻撃した。ダンカン=スミスは計画通りだとし、すぐに承認されると強弁したが、改めて「ユニバーサル・クレジット」の問題が浮き彫りになった。

つまり、保守党にとっては、このような政府の問題が改めて問われるような事態をこれから次期総選挙までの間に避けたいのではないかと思われた。 

インデペンデント紙は、カースレイクは自発的にやめるのではなく、解任だとし、カースレイクが下院の公会計委員会で発言した時には既に自分が内国公務の長から首になるということを知っていたという。しかもこの発言でこれまでの鬱屈が晴れたような気がしたと思うという関係者のコメントを紹介している。これがどこまで正確か不明だが、モードとキャメロン首相にとってはカースレイクが厄介者となってきていたことは明らかだと言えるだろう。 

カースレイクは、もともと国家公務員ではなく、地方自治体の事務型のトップであるチーフ・エグゼクティブからコミュニティ・地方自治体省の事務次官となった。非常に能力のある人物であるのは間違いなく、2011年末に前の内閣書記官長オードンネル卿がその職を退いたとき、その3つの役割を分割し、その一つにカースレイクは任命された。

オードンネル卿は、内閣書記官長、内国公務の長、それに内閣府事務次官の3つの役割を兼職していたが、それを3人に分割したのである。オードンネル卿は、あるBBCの番組で、このことを尋ねられ、将来分割した役職を再び統合する可能性もあると発言したことがある。

分割・統合すること自体、稀なことではなく、サッチャー政権時代に分割したが、再び統合したことがある。ただし、オードンネル卿が自分の後任に職務を分割したのは、現内閣書記官長のジェレミー・ヘイウッドの希望に基づくものだという

カースレイクが退任した後、内国公務の長の職務はヘイウッドが兼任する。しかし、新たに事務次官級のチーフ・エグゼクティブのポストを設け、公務員改革を担当するという。このポストの年俸は19万ポンド(3300万円:なお首相は2500万円程度)で5年契約と見られている。なお、この新ポストには経験豊富な人物を外部から登用することを考えているが、選考は、事務次官などトップ級公務員人事を担当する公務コミッショナーの委員会で進められる。

ヘイウッドは、ブレア政権、ブラウン政権でも首相の首席秘書官(Principal Private Secretary)を務め、キャメロン政権で首相府事務次官となり、生き残ってきた人物だ。振り返ると、大きな公務員改革を迫られる内国公務の長のポストを避けたのは非常に賢明な策だったといえる。しかも今回はその役割は新しいチーフ・エグゼクティブが担い、自分はその上司となる。つまり、自分が直接この責任を取ることはない。

有名な「イエス・ミニスター」というテレビ番組で、事務次官が大臣を操作しながら自分が生き延びていく姿が描かれているが、ヘイウッドの動きは、それを改めて思い出させる。

いずれにしても行政の中では、今でもリスクを取ることや物事を成し遂げることよりも平凡で日和見主義的な人を報いる傾向があるのは事実だろう。業績のお粗末な人をやめさせるのに時間がかかり、特に優秀な人を昇進させるのが遅い傾向がある。特に政策能力のある人を昇進させる傾向があるが、そういう人たちには人をマネージする能力がないことが多い。

公務員の昇進制度も改めて見直す必要があろう。また、行政内部の仕事をさらに大幅に外注させるとか、それぞれの省庁にはっきりと測れる目標を与えることも大事であり、業績に応じた事務次官らの給与制度も必要なように思われる。

モードは、これらの問題を政治家が省庁の幹部級人事に手を入れることで解決しようとしているようだが、政治家には、社会的な経験が偏っていたり、乏しかったりする人が多く、そういう人たちに任せることには疑問がある。イギリスの公務員改革もまだまだ課題が多い。

ヘイグ外相の辞任

キャメロン政権のウィリアム・ヘイグが外相を退き、閣僚であるが格下の「下院のリーダー」となると聞いて感じたのは、ヘイグの妻フィオンが原因ではないかということである。イギリスでは家族のことを慮り、政治から身を引く例は少なからずある。

ヘイグは、メージャー保守党内閣のウェールズ相時代にウェールズ語を省のスタッフだったフィオンから習い、恋愛結婚した。しかし、その後、フィオンが何度も流産し、結局子供ができないままである。その妻との関係をヘイグが重視したのではないかと思われたのである。

特に、ヘイグは、EUのコミッショナーに重量級の人物を送り込もうとするキャメロン首相らからの申し出でを2度断ったと伝えられる。EUのコミッショナーのポストは参加28か国から1人ずつ選出されるが、欧州委員会委員長人事で失敗したイギリスは、重要な経済関係ポストを求めるため、重量級の人物を送る必要に迫られている。一方、コミッショナーのポストには経済的な特典があり、5年間の任期を務めれば、将来的にも有利だと考える人が多い。EUとイギリスとの関係を見直す交渉はかなり困難であるが、多くが求めるポストである。

ヘイグは、それを断り、20155月に予定される次期総選挙で下院議員も退くとした。そして既に小ピットらの伝記で成功しているが、著述業を継続していくという。またスピーチ活動も継続していくと思われる。

保守党の応援を今後とも続けていくとしているが、特に来年以降は自宅にいることが多いのではないかと思われる。そのためにこれは家庭の問題ではないかと思った次第である。

ヘイグは1997年の総選挙でメージャーが敗れた後、36歳で保守党の党首となった。ところが「嫌な政党」イメージを変えようとするあまり、若気の至り的な失敗が続き、4年後の総選挙で再びブレア率いる労働党に大敗し、党首を退いた。

2005年にキャメロンが党首となり、ヘイグは影の内閣に復帰し、保守党の事実上のナンバー2として現在に至る。2010年に外相となったが、キャメロンもオズボーン財相もヘイグの知恵を必要としたと言われる。

ヘイグは16歳の時に保守党の党大会でスピーチし、その政治家への道をスタートした。1989年の補欠選挙で下院議員となったが、その政治家としての幕を54歳で閉じることとなる。

ケネス・クラーク元財相が政府のポストから74歳で退いたが、それと比べると、ヘイグの退場は時期早尚の感を禁じえない。

キャメロン首相の能力

保守党が世論調査の支持率で再び労働党に差をつけられ始めた。711日に行われたYouGov/Sunday Timesでは保守党33%, 労働党 38%, 自民党 9%, UKIP 12%であり、保守党は労働党を5ポイント下回っている。保守党が来年5月の総選挙で勝つためには、労働党を10%近く上回る必要があり、その差を埋め、さらに差をつけるのは簡単なことではない。

714日に始まる週前半に内閣改造が行われると見られているが、あと10か月の任期内に何ができるか疑問がある。総選挙を控え、連立政権を組む自民党との政権内での軋轢が増すのは間違いなく、この内閣改造は、単なる化粧直しに過ぎないと言える。

キャメロン首相は、内閣の3分の1は女性であるべきと発言したことがある。女性の登用で、その目標に近づけようとしているのは間違いない。これは若干の世論調査支持増加の効果があると思われるが、一時的なものだろう。すぐに夏休みに入り、9月の党大会シーズンまで政治的に低調になるからだ。

タイムズ紙の政治部長が、キャメロン首相は内閣改造よりも自分の側近に手を入れた方がよいのではないかと示唆したが、キャメロン首相にはそのような考えは全くないようだ。しかし、最近、キャメロン首相の判断能力が問われることがたびたび起きている。EUの首相ともいえる立場の欧州委員会委員長のポストをめぐって、キャメロン首相はEU加盟28か国のうち、ドイツを含めた26か国の支持したユンケル前ルクセンブルグ首相に反対した。この問題でも焦点のあたったのは、キャメロン首相の下でEUの状況分析、判断をするスタッフの能力である。

キャメロン首相の首相官邸での体制は、トニー・ブレア元首相のものに似ているが、要となるのは、首席補佐官のエド・ルウェリンである。ルウェリンは、このEU分析で大きな役割を果たしているが、欧州委員会委員長人事についての動向を十分把握していなかったようだ。特に問題と思われるのは、政治家が国益や政治状況によってその立場を変えることがあるということを軽視していたように思われることである。

この点で、ブレアの首席補佐官だったジョナサン・パウエルとは差がある。パウエルは、北アイルランド問題でブレアのネゴシエーターとして活躍し、関係者の裏の裏まで読み、困難な交渉を成功裏に終えた人物だ。

ブレアはスピーチをできるだけ自分で書くなど、自分で考えることが多かった人物であるが、キャメロンはほどほどで満足する人物だと言われる。それを考えるとキャメロンのような人物には特に優れたスタッフが必要だろう。キャメロンのブレーンの中心人物の一人、オズボーン財相はキャメロンに一日2回会っている。ルウェリンに多くの批判があるが、キャメロンは現在のブレーンの構造を変えるつもりはない。これもキャメロンの判断能力の一部と言える。

今後10か月間、政権のミスをなくし、攻勢に出る必要があるが、キャメロンが総選挙で勝つためには多くの幸運が必要であるように思われる。