4党時代に入ったイギリス

5月に欧州議会議員選挙が行われ、イギリスではイギリス独立党(UKIP)が躍進した。欧州議会議員選挙は地区別の比例代表制であり、それぞれの選挙区から最多得票をした一人だけが当選する小選挙区制の下院とは異なるため、UKIPが次期総選挙で多くの議席を獲得する可能性はほとんどない。しかし、欧州議会議員選挙を地方自治体ごとの得票状況で分析した研究によると、イギリスでは既に保守党、労働党、自民党それにUKIP4党時代に入っているようだ。

2014年欧州議会議員選挙の2009年の前回選挙との比較

政党

議席数

得票率

UKIP

24(+11)

27.5%(+11.0%)

労働党

20(+7)

25.4%(+9.7%)

保守党

19(-7)

23.9%(-3.8%)

自民党

1(-10)

6.9%(-6.8%)

UKIPはイギリスをEUから脱退させることを目的に1993年に設立された政党だが、2009年の前回の欧州議会議員選挙より得票率を11%アップさせ、イギリスで最多の得票と議席を獲得した。

この選挙と同時に行われた地方議会議員選挙の結果から、UKIPの強い地域が出現してきていることが指摘されていたが、この分析によると、UKIPの中核地域と呼べるような地域ができている。そこではUKIPが地方議会へ進出し始めており、与党に対する主要な対立政党は労働党ではなく、UKIPになっているという。特にイングランド東部や南部の海岸沿いにそのような地域がある。

そのような地域では、年配の白人の労働者階級が多く、特に年金生活者が多く、移民や少数民族が少ない、現場労働者が多いところだという。一方、若い大卒が多い、移民や少数民族と交流の多い大都市ではあまり伸びなかった

労働党はこの選挙で10%近く票を伸ばしたが、労働党が大きく票を伸ばした地域は、特に若い有権者がいるところで、大卒と少数民族の多いところである。しかも自民党から都市部の中流階級や若い大卒を奪っている。大都市での支持は大きく伸びているが、それは既に労働党の強い地域であり、それだけでは次期総選挙で過半数を占めるのは難しい。

自民党は、軒並み支持を減らしている。これまで保守党、労働党に飽き足らなかった層を吸収していたのが、保守党との連立政権参加以降、それがなくなった。むしろそのような層はUKIPに流れており、UKIPがその勢力を確立すると、自民党へそれらの票が返ってくる可能性は少なくなる。

保守党は、この4党時代に対応するためには、それぞれの政党に対する戦略を細かく立てねばならず、資源が限られている中、慎重な判断が要求される。UKIPとは最も票が重なるため、その対応に留意する必要がある。特にUKIPの票が伸びているところでは、保守党と票を二分する可能性があり、その結果、弱い労働党候補が漁夫の利を得る可能性がある。また、連立を組む自民党とは次点との票差の少ない、マージナル選挙区で争っているところがかなりあり、これらの選挙区で勝てないと過半数は難しい。

いずれにしても、4党時代を迎え、それぞれの政党が、それ以外の3つの党への対応戦略を立てる必要があり、選挙戦はかなり複雑なものとなる。イギリスの政治は変わってきており、次期総選挙の結果は、興味深いものになりそうだ。

EUで孤立し、自らの立場を苦しくしたキャメロン首相

EUの首相」ともいえる立場の欧州委員会委員長の選任をめぐって、キャメロン首相はEU加盟国28か国の中で孤立し、627日の異例の投票の結果、キャメロンがEU改革の妨げになると真っ向から反対していた「本命」が26か国の支持を得て選ばれた。

イギリスの新聞は、この結果をイギリスが「EU脱退に一歩近づいた」と表現した。 

イギリスの有権者は、この投票前からキャメロン首相が反対するのは正しいと見ていた。例えば、投票数日前に発表されたPopulus/FTの世論調査によると、キャメロン首相が「本命」のユンケル前ルクセンブルグ首相の就任を阻止しようとするのはどういう結果になっても正しいと有権者の43%が見ていた。さらにもしその就任をブロックできるのなら正しいと見た人は14%で、そのような態度は誤りだという人は13%だけだった。

同じく投票前に行われたYouGov/Sunday Timesの世論調査でも40%の人がキャメロン首相は正しいと言い、誤っているという人はわずか14%であった。それは投票後に行われたSurvation/Mail on Sundayでも同じで、43%の有権者が正しかったと評価し、誤っていたと考えている人は、15%に過ぎない。

キャメロンの取った行動の結果、Survation/Mail on Sundayによると47%の有権者がイギリスをEUから脱退させたいと考え、留めさせたいと考えている人は39%で、脱退派が増えている。

つまり、キャメロン首相の行動は、さらにイギリスをEU脱退の道へと進める結果となった。有権者から支持を得ているのなら、10か月先に行われる総選挙も考えると決してマイナスではないという見方もあろう。

しかしながら、キャメロン首相は、イギリスをEUに留めたいと考えている。イギリスは、EU改革で国の権限をEUから取り戻したい。次期総選挙でキャメロンが再び首相となれば、その改革を行った上で、2017年末までにEUに残留するかどうかの国民投票をすると約束している。

そのような戦略を進めるために、ユンケル反対の立場を早くから明らかにしたが、あてにしていたメルケル独首相がユンケルやむなしという立場に変わった。そのため、キャメロン首相は振り上げたこぶしを下ろせず、面目を保つために、選考方法が正しくないとし、「原則を貫く」という旗印のもとに突っ走ったというのが実態である。

国民には、そのような改革が行なわれた上でなら、EU残留に賛成するという人が多い。それは上記のSurvation/Mail on Sundayでもそうで、41%が残留、脱退は37%である。問題は、それではどのような権限を取り戻せるかである。

キャメロンは、その詳細についてはあいまいにしたままで総選挙を乗り切り、EUの他の加盟国と交渉した上で、できることとそうでないことを見極めたいという判断をしていたと思われる。

ところが、上記のSurvation/Mail on Sundayでも、有権者は、移民の制限を一番に挙げている。ところが、これはEUの基本にかかわる問題であり、EUに留まりながらこの権限が取り戻せると考えている人は恐らくいないだろう。

さらに同じ世論調査で誰がEUを支配していると思うかでは、メルケル独首相と答えた人が50%、次期欧州委員会委員長のユンケルが12%、そしてキャメロン首相が9%である。キャメロン首相のEU内での影響力は、イギリスの有権者の目にも弱まっている。

その一方、キャメロン首相は、自分の反対したユンケルが欧州委員会委員長となることから、自らの立場を明確に打ち出す必要に迫られており、イギリスの取り戻したい権限のリストを求められると考えられている。しかし、このようなリストに保守党内の欧州懐疑派の求めているような、本格的な移民の制限などが含まれる可能性は乏しく、次期総選挙前に保守党内の党内抗争の火種を増やすだけのように思われる。また、もしそのようなことを含めても、それが達成できる可能性は少ない。そしてその結果、イギリスのEU脱退の可能性が大きくなる。

ブルーンバーグのコメンテーターは、イギリスがEUに留まるには、キャメロンがもう一度敗れる必要があるとコメントした。この敗北は次期総選挙での敗北である。

キャメロンがもう少し慎重にことを運んでいれば、ユンケルの次期委員長就任を防げただけではなく、EUの運営に大きな影響力を維持できていただろう。誤算のため、自らの今後の選択肢を極めて狭くし、自らをより厳しい立場に追い込んだことは間違いない。 

クールソンについての事務次官の判断

BBCの経済部長ロバート・ぺストンが、なぜアンディ・クールソンが最高レベルの機密情報取扱い資格を得ていなかったか知っている、首相官邸の事務次官であったジェレミー・ヘイウッド(現在は昇格して内閣書記官長)がお金を節約しようとしたからだ、と発言している。

スペシャル・アドバイザーが最高レベルの機密情報取扱い資格を得ようとして費用がかかるので、その数を減らそうとした政策判断であり、クールソンも省いたというのである。一方、外務機密も扱う首席補佐官エドワード・ルウェリンには厳しい調査を受けさせたというのである。ところが後にクールソンは「信頼できる人物だ」と思ったので、機密情報も見せたという。

クールソンは、20105月、キャメロン首相とともに広報局長として首相官邸入りしたが、新聞紙の違法電話盗聴問題でメディアの注目を浴びたために20111月に辞職した。この6月、電話盗聴の共謀容疑で有罪となった人物である。

ぺストンの話は、一見もっともらしい。当時内閣書記官長で国家公務員トップであったガス・オドンネル卿が自分はクールソンの任用にはまったく関与していないと発言していることから見ると、ヘイウッドがこの問題を取り扱ったのは間違いなさそうだ。しかし、いくつかの点で疑問がある。

まず、クールソンは、スペシャル・アドバイザー、つまり特別国家公務員としてキャメロン首相の広報局長となったが、一般のスペシャル・アドバイザーとはかなり異なるということである。

一つ例を挙げよう。キャメロン首相が官邸入りした後、スペシャル・アドバイザーの数や待遇を透明化するとしてその詳細を発表した。それによると、クールソンの年俸は、当時70名ほどいたスペシャル・アドバイザーの中で、他の人よりはるかに上の14万ポンド(2420万円)であった。2番目が上記のルウェリンの125千ポンド(2160万円)、そして3番目が10万ポンド(1730万円)であった。つまり、クールソンは極めて重要な地位を占めていることが明らかであり、他のスペシャル・アドバイザーとは一線を画していた。 

ヘイウッドは、ブレアが首相であった時代に首相の首席秘書官を務め、ブレアの広報局長だったアラスター・キャンベルとも長期間一緒に仕事をしている。キャンベルの仕事がどのようなものかよくわかっていたはずである。キャンベルはイラクの大量破壊兵器に関する機密情報を大げさに書き換えたといわれており、政府の最高機密を日常的に取り扱っていた。クールソンの仕事に機密情報の取り扱いが絡むことはよくわかっていたと思われる。

つまり、最高レベルの機密情報取扱い資格を得る費用はその調査の内容から見るとかなりのもののように思われるが、それがゆえにクールソンを除外したというのは少し奇妙に思える。また、国の機密の取り扱い資格を第三者に公正に判断させるのではなく、事務次官が恣意的に判断できるのだろうか?オドンネル卿の言葉はそれが許されることを示唆している。 

結局、ヘイウッドがクールソンはこの最高レベルの機密情報取扱い資格を得るのは難しいと判断し、クールソンを除外したのではないだろうか?

ただし、もしこのような融通が利かないと、政治任用のスペシャル・アドバイザー制度そのものに問題が出てくるように思われる。重要なスペシャル・アドバイザーの過去が清廉潔白の場合だけではないだろうからである。

誰が機密情報を取扱えるか?

キャメロン首相の広報局長だったアンディ・クールソンが2007年まで編集長として働いていた新聞紙の違法電話盗聴の共謀罪で有罪となった。そのため、政府の機密取扱いに関するチェックがどうなされていたのかに焦点が当たっている。

クールソンは、2007年に保守党のキャメロン党首の広報局長となった。そして20105月の総選挙後、首相となったキャメロンと一緒に首相官邸入りした。その際には、スペシャル・アドバイザーという特別国家公務員としてキャメロン首相の広報戦略を担当し、その給与は、首相よりやや少ないが、閣僚より上であった。 

イギリスの政治では広報戦略は極めて重要であり、この仕事はキャメロン政権の中枢である。首相のすべての動きを把握するばかりではなく、政府内の情報や一般の情報もすべてに目を通し、首相や政府の動きを決定する役割を果たす。つまり、重要な判断がこの担当者に吟味されずに発表されるということはほとんどない。かつてブレア首相の下でこの役割を務めたアラスター・キャンベルは、この仕事はきつすぎる、自分は何度も涙を流した、やめさせてほしいとブレアに訴えたが、ブレアがキャンベルをなかなか手放さなかった。キャンベルが非常に有能だったからである。

クールソンで問題となっているのは、クールソンの機密情報取扱い資格への疑問である。上記で触れたように、クールソンは政府の機密情報に頻繁に目を通す可能性があり、その仕事を行うにはそれなりの資格が必要である。625日の「首相への質問」で労働党のミリバンド党首がキャメロン首相に質問したように、過去14年間に6人のクールソンの前任者がいたが、そのいずれもがDVDeveloped Vetting)と呼ばれる機密情報処理資格を所持していたが、クールソンにはその資格がなかった。むしろその処理資格を得ようとしなかったと見られている。つまり、クールソンがそれを申請しても得られる可能性がないと見られたので、それより低いレベルのSCSecurity Check)で留めておいたのではないかと言うのである。                        

この機密情報取扱い資格には幾つかのレベルがあるが、DVはその最も高いレベルのものである。しかし、DVはそれぞれの候補者の履歴、家族、財政状況などについて徹底的に調べられ、専門家によるインタヴューとそれ以外の情報とのダブルチェックがあるなど、個人のプライバシーにも深く関わった調査が行われる。BBCTwoDaily Politicsに出演した労働党下院議員は、労働党政権下でスペシャル・アドバイザーをしていたが、その際に受けたDVのチェックについての経験を語っている。

キャメロン首相は、クールソンのチェックについては国家公務員側の判断だったとしており、自分の責任ではなかったとしているが、BBCの政治部長ニック・ロビンソンが指摘したように、国家公務員がキャメロンに、クールソンを任命することが賢明かどうかについて何らかの助言を与えた可能性は極めて高い。この問題は、今後の政治任用について重要な前例になるように思われる。

問われる、キャメロン首相の判断力

EUで最も重要なポストである欧州委員会委員長の後任をめぐり、キャメロン首相は、本命と目されるルクセンブルグ前首相のジャン=クロード・ユンケルの任命に真っ向から反対している。ユンケルではイギリスが考えているようなEU改革ができないと見ているためだが、キャメロン首相があてにしていたドイツ、スウェーデンなどがユンケルを支持する方向がはっきりとし、イギリスはEUの中で孤立する状況になっている。そのため、キャメロン首相が大上段に振りかざしたようにユンケルに反対した戦略判断に疑問が投げかけられている。

この人事には、5月に選挙が行われた欧州議会の意思が反映されることとなっている。この選挙で最も多数の議席を占めたのは欧州議会内のグループ、欧州人民党(EEP)であり、ドイツのメルケル首相のキリスト教民主同盟をはじめ、多くの保守中道の政党が参加している。ユンケルはこのグループに支持されている。

実は、キャメロン首相の保守党はこのグループに2009年の欧州議会議員選挙まで所属していたが、選挙後、このグループは欧州連邦主義的過ぎるとして、脱退した。もし、保守党がこのグループに残っていれば、ユンケルを支持するかどうかで発言権があったはずだと見られている。

ちょうどそれに重なるように、キャメロン首相の広報局長であったアンディ・クールソンが過去の違法な電話盗聴問題で有罪となった。クールソンは、廃刊となった、当時イギリス最大の売り上げを誇っていたニューズ・オブ・ザ・ワールドの編集長だった。その編集長時代に電話盗聴に関与していたことが明らかになったのである。 

キャメロンは、2005年に保守党党首となったが、クールソンがキャメロンの下で働き始めたのは、2007年のことである。トニー・ブレアの下で大きな役割を果たしたアラスター・キャンベルのような広報戦略担当者を求めていた。当時、キャメロンの参謀を務めてオズボーン現財相のアドバイスでクールソンを雇ったと言われる。キャメロンは当時、野党第一党の党首として閣僚並みの給与を得ていたが、自分の2倍以上の年俸を払って雇ったと見られている。

そしてキャメロンが2010年に首相となった時、首相よりわずかに少ない給料で、広報局長として首相官邸に入った。ところが黒子役の自分に盗聴問題で焦点が当たるのでは仕事ができないとして2011年1月に辞職した。

クールソンは当初から少し危ういという見方があった。編集長職を離れたのは、ニューズ・オブ・ザ・ワールド関係者の盗聴問題の責任を取ったためである。つまり、クールソンがその盗聴に関与しているのではないかという疑いがあった。そのような人物を雇い、非常に重要な役割を任せることに疑問が投げかけられたのである。

しかしながら、クールソンには、その広報戦略上の能力だけではなく、イギリスのメディアの世界で非常に大きな影響力を持っていたルパート・マードックに直結できるという便益があった。あのサッチャーもマードックに便宜を図ったことが明らかになっている。また、1992年の総選挙で予想を裏切り、保守党が勝ったのはその傘下のサン紙の影響だと多くが信じている。ブレアが1995年にオーストラリアまで行き、マードックの新聞グループの総会でスピーチしたのはその影響力を考慮したためだ。2007年に首相となったゴードン・ブラウンも、マードックのイギリスでの代理人の役割を果たしていたレベッカ・ブルークスに卑屈とまで言えるような態度を取っていた。

そのため、2007年にクールソンがキャメロンの広報戦略担当に任命されたときには、見事だという見方が強かった。キャメロンにとっては、リスクを伴うが、それだけの価値があると見られていた。

ところが、実際に有罪となると状況は全く異なってくる。キャメロンは、クールソンを首相官邸で特別国家公務員として働かせ、高度な機密にも触れさせたと見られている。キャメロンは、誰もが「第二のチャンス」を与えられるべきで、自分はそれをクールソンに与えただけだ、その判断が誤っていたのは申し訳ないと謝罪する。しかし、その「第二のチャンス」を、国を預かる首相の最も重要な側近として働く機会として与えたのは、少なからず論理の飛躍のように思われる。キャメロン首相の判断力が改めて問われることとなろう。

スコットランドのウォーキング:ヘルムズデールからインバネス

ブリテン島を縦断するジョノグローツからランズエンドまでのウォーキングを妻と暇を見つけて少しずつ行っている。今回はその2回目。前回は、ジョノグローツからヘルムズデールまでだった。

かつてスコットランドに6年近く住んでいた。その間にスコットランドの各地を訪れたが、それでもスコットランドに行くたびに何か新しい発見がある。今回もそうだった。9月のスコットランド独立の住民投票が頭にあったこともあろう。

歩き始めて数日たったとき、野鳥のさえずりの新鮮さ、自然の素晴らしさにはっとした。スコットランドの気候は変わりやすい。それでもスコットランドには素晴らしい自然がある。スコットランドの独立運動の賛否を、経済的な観点から議論することが多いが、それだけでは語りつくせない点があるように思った。

日程概略

522日 午後11時50分発の夜行列車でロンドン出発
523日 エディンバラからインバネス、そしてヘルムズデール着
524日 ヘルムズデールからブローラ
525日 ブローラからゴルズピー
526日 ゴルスピーからドーノッホ
527日 ドーノッホからテイン
528日 テインからオルネス
529日 オルネスからマンロヒー
530日 マンロヒーからインバネス
531日 ロンドンへ


5月23日
エディンバラ午前722分着。早朝のエディンバラScotland Walking 016
かつて1年ほど住んでいたことがあるが、エディンバラは変わった。ロンドンからインバネスを経て今回の出発地点ヘルムズデールまで17時間かかった。

ヘルムズデールの朝
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道路橋の上から見たのどかな村。宿のB&Bでは電気毛布の使い方を教えられた。

丘からヘルムズデールを振り返る
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放し飼いの羊
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ブローラで泊まったB&B
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このB&Bはシーズンしか開いていないようだ。到着後、自家製のスコーンとジャム、それにコーヒーメーカーに入ったテイラーのコーヒー(もしくは紅茶)をすすめられる。朝食のスコティッシュ・ブレックファストのソーダスコーンは絶品。

ブローラからゴルスピーに向かう
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海岸沿いを歩く。少し寒く、雨が降っていた。期待したアザラシや稀な鳥は見られなかった。

ラベンダーの咲く林
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霞のかかったロイヤル・ドーノッホ・ゴルフ場
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海を見下ろすゴルフ場は世界有数のものだそうだ。小さな町だが立派なホテルがあり、大きな家が次々に建てられている。

実際に使われている道端の郵便ポスト
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前夜強い雨が降ったが、朝には上がった。鳥のさえずりに耳を傾ける。

テインで泊まったB&Bの手入れの行き届いた花壇
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庭の手入れの行き届いている家が多い。

ケゾック橋から見たインバネスのネス川河口
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インバネスは、周辺地域を含めた中心地であり、人口が6万余りとは思えない。なお、インバネスで最も評判の高いレストラン、Rocpoolは、ロンドンの多くのレストランに勝るとも劣らないと感じた。

 

党首のイメージ

世論調査によると、労働党党首のエド・ミリバンドの人気が乏しい。例えば、YouGov/Prospectでは、60%の有権者がミリバンドは首相にふさわしくないという。YouGov/Sunday Timesでも同じで、首相にふさわしいと考える人はわずか21%である。Ipsos Moriによると、49%が労働党の党首をミリバンドから他の人に入れ替えたほうがよいという意見だ。労働党支持者でも43%が同意している。つまり、来年5月の総選挙で労働党が勝つためには、党首を変えたほうがよいというのである。

ここでの焦点は、党首のイメージである。党首のイメージには、政策など様々な要素が含まれ、かなり漠然としたものであるが、一般には有権者が把握する人物像ということができる。それでは、ミリバンドの評価が低ければ、次の総選挙の結果に影響するのだろうか?世論調査でキャメロン首相の保守党をやや上回る労働党が、ミリバンドが党首であるために、来年の総選挙で敗れるのだろうか?

有権者はキャメロン首相をミリバンドよりかなり高く評価している。イギリスでは、総選挙に勝つには3つの要素があると言われる。党首、政策、そして党のイメージである。小選挙区制のイギリスでは、有権者は投票する際に、誰が首相にふさわしいか考えて投票する傾向がある。二大政党の保守党と労働党以外の政党から首相が出る可能性がほとんどないために、保守党と労働党の党首を比べて、首相にふさわしいと思う人物が党首である政党に投票する傾向が強いというのである。

それでは、これが、2015年の総選挙でも有効だろうか?

有権者の視点は、次期総選挙では、これまでよりもはるかに複雑である。これまでのように保守党対労働党ではない。イギリス独立党(UKIP)が支持を集めており、有権者の視点では、「保守党」対「労働党」対「有権者の不満を集めるUKIP」の構図の中で、党首のイメージの占める役割が大きく減っている。

これまでは基本的に、保守党か労働党であり、それらのいずれの党にも投票したくない人が自民党に投票する傾向があった。自民党への支持は保守党との連立政権に参加して以来大きく減少したが、その支持の減少を大きく上回ってイギリス独立党(UKIP)が支持を集めている。UKIPは主要3党のいずれからも支持を集めているが、特に保守党から大きく支持を奪っている。ここで注目すべき点は、保守党からUKIPに流れている支持はキャメロン首相のイメージにこだわっていない点だ。むしろ同性結婚などを推進したキャメロン首相が党首であるがゆえに反発している人も多い。

なお、保守党と労働党は、政策の違いを強調しようとしているが、実はその差は大きくない。例えば、若者への福祉手当をめぐって両党はお互いを批判しあったが、その差はほとんどない。保守党支持の新聞がミリバンドを左だと強調しようとしているが、労働組合はミリバンドがもっと大胆で、積極的な政策を打ち出すべきだと主張している。結局、保守党と労働党の差が乏しいことがUKIPに支持が流れる一つの原因になっている。つまり、政権が保守党でも労働党でもそう大きな違いはないということである。

上記のYouGov/Sunday Timesの世論調査も指摘するように、有権者は労働党のほうが保守党より優しいと感じている。一方、有権者は、保守党のほうが経済・財政運営で優れていると見ているが、その効果をあまり感じていない。

現状では、労働党も保守党も支持動向を大きく変化させる要因に乏しい。その中、労働党は現在の支持率を維持できれば、次期総選挙で勝てると見ている。つまり、新しい支持層を獲得しなくてもよいという計算だ。

保守党にとっての問題は、UKIPにその支持票を奪われているだけではない。世論調査の支持率で労働党を逆転したとしても、10%近く労働党を上回らねば選挙に勝てない。保守党の強い地域は裕福で投票率の高い選挙区が多く、低い投票率で勝てる労働党よりも多くの支持を集める必要があるからである。保守党がUKIPへの支持流出を食い止め、UKIP、労働党、自民党などからさらなる支持を得るのはそう簡単ではない。

保守党は、次期総選挙に向けて、キャメロン首相のリーダーシップを強調しようとしている。例えば、メイ内相とゴブ教育相とのつばぜりあいや保守党下院議員の不適切なツイートなどに対して、ダメージを最小限に抑えるとともに、キャメロン首相が断固たるリーダーシップを示し、首相らしい首相のイメージを売ろうとしている。その効果はゼロではないだろうが、それが必ずしも保守党支持へ向かうという構図になっているようには思われない。

EUの欧州委員会委員長人事では、キャメロン首相は本命に反対しているが、結果如何によっては、そのリーダーシップに大きなダメージを与える可能性がある。

労働党は、野党として総選挙前のこの時期には政権政党にもっと大きな差をつけておかなければならないと批判されているが、現在のような政治情勢の下では、そのような過去の知恵が必ずしも当てはまるとは思われない。

ミリバンドにはカリスマがなく、よく「奇妙だ」と言われる。もちろんミリバンドに、1997年の総選挙前のトニー・ブレアのような容貌・カリスマがあれば有利だろう。しかし、現在のキャメロン首相、ミリバンド党首、クレッグ自民党党首そしてファラージュUKIP党首の主要登場人物の中では、党首のイメージの効果は、選挙の勝利者を決めるという意味で、これまでの総選挙と比べはるかに少なくなっていると思える。

スコットランドの反イングランド感情

スコットランド独立の住民投票まであと100日となった。9月の住民投票に備え、スコットランド国民党(SNP)をはじめとする独立賛成側、そして反対側も積極的な運動を進めている。

この中、スコットランドの本屋には「バノックバーン」、もしくは「1314」という数字が入った本がたくさん並んでいるそうだ。

これは、1314年の「バノックバーンの戦い」のことで、スコットランドがイングランドを破った戦いである。この戦いでスコットランドは事実上の独立を確保し、完全独立に向けて大きく前進した重要な戦いである。

この戦いに関する本は、2014年に入って少なくとも8冊出ている。これらの本は、人口が530万のスコットランドだけではなく、それ以外のイギリスや他の英語圏をも対象にしたものであろうが、それでもかなり多い。 

2012年にスコットランド政府がこの住民投票を2014年に行うとしたときから、この年がちょうどバノックバーンの戦いの700周年になると指摘されていた。つまりスコットランドの愛国心を掻き立てるにはふさわしい年と考えられたためである。

ただし、スコットランドの愛国心が高まることは、イングランドを敵としたものであり、イギリス全体にとっては望ましいものではない。イングランドでは、スコットランド人はかなり好かれているが、スコットランドでは今でも反イングランド感情がある。

イギリスはその正式な名前The United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandが示唆するように連合王国である。つまりイングランド、スコットランド、ウェールズそして北アイルランドの「4か国」の連合体で、例えば、サッカーのワールドカップの予選にはイギリスのそれぞれの「国」からチームが出場する。もし予選に勝ち残れば、出場32か国のうち4か国がイギリスからという可能性もある。

歴史的、人種的な背景が絡み合っており、その感情にはかなり複雑なものがあるが、反イングランド感情の高まりには少なからず問題がある。スコットランド内でスコットランド独立に反対しにくい雰囲気ができており、一般の人々は口をつぐむ傾向が顕著になっている。 

世論調査によれば、今のところ賛成4割、反対6割のようである。このまま推移すれば、住民投票の結果は、独立反対ということになる。キャメロン首相らは、独立賛成熱を沈静化するため、スコットランド分権議会にこれまでより大幅に権限を委譲すると表明しており、いずれにしてもスコットランドへの分権は進むだろう。 

一方、スコットランド政府の首席大臣であるサモンドは、SNPのリーダーであり、この住民投票は一世代に一度のことだと言っているが、今回の住民投票で独立が否定されても、将来再び住民投票の要求が出てくる可能性は強い。

今回の住民投票が可能になった最大の原因は、2011年のスコットランド議会選挙で、SNP129議席のうち69議席を占め、過半数を握ったことだ。もともとこのようなことが起きないようブレア政権で1998年に小選挙区と比例代表を合わせた小選挙区比例代表併用制を採用した。ところが、2010年総選挙でそれまで政権を担当した労働党の支持が下落して政権を失い、その上、自民党が保守党と連立を組んだため、自民党の支持が大きく凋落した。労働党と自民党の支持が低迷する中、SNP2011年に大幅に議席を伸ばしたのである。

このような想定外のことが起きることなしに、SNPが過半数、もしくはそれに極めて近い議席数を獲得できる可能性はそう大きくない。緑の党など小さな政党がSNP2010年の住民投票提案に賛成したことを考えれば、必ずしもSNPで単独過半数を得る必要はないだろう。いずれにしてももしそのようなことが起きれば、スコットランド政府から再び住民投票要求が出てくる可能性がある。

9月の住民投票の結果がどうなろうとも、スコットランドの反イングランド感情は残ることになる。700年前のことを多くの人が覚えており、子孫へと受け継がれていくからだ。

上院議員任命を要求するUKIP

イギリスの議会には上院(貴族院)と下院(庶民院)の二院がある。

下院は、18歳以上の有権者による公選で選ばれる。小選挙区制であり、全国650に分かれた選挙区で最高得票を得た人が一人ずつ選ばれる。

一方、上院は基本的に任命制である。3つのカテゴリーがあり、92名の世襲議員、26名のイングランド国教会主教、そして議員の大部分を占めるのは一代貴族である。世襲議員は、1999年にそのほとんどが上院議員職を失い、残った世襲議員は、世襲議員間の選挙で選ばれている。それぞれの政党に所属する議員と、クロスベンチャーと呼ばれる中立議員、その他がいる。 

上院議員の構成

政党/グループ 一代貴族 世襲貴族 イングランド国教会 合計
主教

0

0

26

26

保守党

171

49

 

220

中立議員

151

30

 

181

労働党

214

4

 

218

自民党

94

4

 

98

無所属

20

0

 

20

その他

14

1

 

15

合計

664

88

26

778

201467日現在 なお、これ以外に様々な事由で除外されている議員がいる。

一代貴族は1958年に始まった制度であるが、首相が選任し、女王が任命する。2000年に上院議員任命委員会が設けられ、中立議員を首相に推薦することとなった。また、この委員会が3主要政党に推薦された候補者の適否を審査する。 

2010年の総選挙後、それまでの13年間の労働党政権下で労働党所属議員が増えたために、新しく政権についた保守党と自民党の議員の数を大きく増やした。2010年の保守党と自民党の連立合意書では、任命制の上院を選挙制の上院に改革することのほか、当面、上院の任命は2010年の総選挙の政党の得票割合を反映したものとすることとした。このうち、上院の改革は失敗した。

ところが、イギリス独立党(UKIP)が選挙の得票の割合に応じてUKIP所属の上院議員を任命すべきだと主張している2011年のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの報告書によると、その得票割合で計算するとUKIPはさらに23人の上院議員の枠があることになるという。UKIPは保守党所属の元上院議員だった3名が党所属の上院議員として存在するが、その得票割合に対して数が少なすぎるという。首相側は、2010年以降、緑の党のロンドン市議会議員を上院議員に任命したが、今も小政党の問題については検討中だと返答している。

この問題は、次期総選挙後に大きな課題となるように思われる。というのは、イギリスでは、得票率が5%未満は供託金没収となる。つまり、5%未満の場合は、無視してもそう大きな議論にはならないかもしれないが、5%以上になるとそれなりの正当性を持ち始めるように思われる。

UKIP2010年総選挙で3.1%の得票だった。今年5月の欧州議会議員選挙ではUKIPの得票率は主要3政党を上回りトップだった。欧州議会議員選挙はイギリスの国政を決める下院議員選挙とは異なるため、必ずしも比較はできないが、来年の総選挙では数議席獲得する可能性があり、5%以上の得票をすると思われる。

もちろんキャメロン首相にとっては、現在の政治環境の中で、UKIP上院議員の任命は論外であろう。UKIPの正当性をさらに高めることになりかねないからである。

キャメロン政権の閣僚の対立

内務相のテリーザ・メイと教育相マイケル・ゴブは二人ともキャメロン政権の有力保守党閣僚である。この二人が、バーミンガムの一部の公立学校でイスラム教の偏向教育を進めさせようとする企みがあった疑いがあることで衝突した。

問題は、内務省がイスラム教のテロリズムと過激主義を分け、テロリズムに焦点を絞っているのに対して、ゴブ教育相は、イスラム教過激主義者らがイスラム教徒の多い小中学校の教育に影響を与えるような行動をしている疑いがあることを取り上げ、イスラム教過激主義にも対応していくべきだと主張したことにある。 

ゴブの内務相への攻撃に対しメイは強烈に反撃した。この問題はもう何年も前に教育省に警告している、なぜこれまでその対応をしてこなかったのかと問うたものだ。このメイの反論の手紙は後に政府のウェブサイトで公開された(しばらくして取り下げられたが)。

この二人の対立は、女王のスピーチの行われた6月4日に表面化し、キャメロン内閣が分裂しているような印象を与えたばかりか、朝からこの問題をメディアが報道したために、政権の重要な施政方針の発表の場である女王のスピーチの影が薄くなった。

メイの対応は、メイがキャメロン首相の保守党党首後継者として急速に評価が上がっていることと無関係ではないだろう。

以前からメイはロンドン市長のボリス・ジョンソンと並ぶ有力候補者である。しかし、保守党支持者らの有力ウェブサイトConservativeHomeの行った調査では、メイが35%の支持を集め、ジョンソンの23%をかなり上回ったことがわかった。なお、オズボーン財相は8%と低く、次期総選挙で政界から身を引くと見られているヘイグ外相を下回った。なお、ゴブはオズボーン以下だった。

なお、このような調査が重要なのは、党首選が行われた場合、下院議員の投票で二人の候補者が選ばれた後、全党員がどちらを選ぶか投票し、決定するためである。

メイは、その堅実な内務省運営で近年評価が上がっていた。それに付け加えて、様々な不祥事を起こしている警察に、自らを改革しなければ、改革を強制すると警告したが、その強腰の対応に好感を持たれていることがある。

ただし、今回の問題をめぐってキャメロン首相が公務員トップの内閣書記官長に事実関係の調査を命じたと言われるが、キャメロン後を狙うメイには慎重な行動が必要だろう。メイには、かつてその野心を批判したことのあるゴブが、メイの能力に疑問を投げかけてメイを傷つけようとしていると映ったと思われるが、軽率な対応はその立場を難しくする可能性があるからである。