イギリスのウォーキング

ウォーキングはイギリスで人気がある。ただし、イギリスでは、山歩きに近い。ほとんどの場合、山や丘、谷などを歩いてゆき、かなり湿ったところや足元の悪いところを通っていくので、きちんとした登山靴(ブーツ)をはいていく。これは防水とくるぶしを守る意味がある。

イングランドでは最も高い山でも1,000メートルもない。イギリスでもっとも高い山はスコットランドのベン・ネビスで1,344メートルである。つまり、イギリスはかなり平たい国であると言える。イングランドのウォーキングの途中、丘の上からなだらかに波打ったような地形を見ると、それがはっきりとわかる。

それでも、イギリスは縦長の形をしており、南と北では気候も植生もかなり違う。南から北へ自動車で向かうと、道路沿いの木の形が変わっていく。温暖な気候から冷帯ともいえる気候へと変わってくるに従い、植生も変わってくる。そのため、それぞれの地域のウォーキングには、それぞれの特徴がある。 

ウォーキングのルートには公式、非公式のものがあるが、筆者は、妻と一緒にその幾つかを歩いた。特に印象深いのは、イングランド北部を横断するコースト・トゥ・コーストと呼ばれるルートである。もう一つは、スコットランドの西のローモンド湖を通り過ぎて歩くウェスト・ハイランド・ウェイと呼ばれるものである。

コースト・トゥ・コースト(Coast To Coast

概要:アイリッシュ海に面したセント・ビーズから北海に面したロビン・フッド・ベイまでのルートである。セント・ビーズの海岸でブーツの先を海につけ、ロビン・フッド・ベイで再び海につけると海岸(コースト)から海岸まで歩いたということになる。アルフレッド・ウェインライト(故人)が始めた非公式のコースであまり道標がないが、人気がある。かつてBBCがウェインライトとこのコースをシリーズで紹介してから有名になった。湖水地方からヨークシャー・デールを通り、北ヨーク・ムーアズの3つの国立公園を通るコースで、東西で異なる植生も楽しめる。

距離:309キロ

参照ウェブサイト:http://www.wainwright.org.uk/coasttocoast.htmlhttp://en.wikipedia.org/wiki/Coast_to_Coast_Walk                                                                         

ウェスト・ハイランド・ウェイ(West Highland Way

概要:グラスゴーのミルガイからフォート・ウィリアムに向かうスコットランドを縦に歩くコース。地方自治体が共同で管理している。

距離:155キロ

参照ウェブサイト:http://www.west-highland-way.co.uk/home.asp 

さて筆者と妻は、イギリスを縦断するウォーキングを始めた。これは、一般に「ランズ・エンド」・トゥ・「ジョン・オグローツ」もしくは「端から端 (End to End)」と呼ばれるが、私たちは逆のスコットランドのジョン・オグローツ(一般にはジョノグローツと発音される)から始めることとした。少しずつ区切って時間を見つけて歩いていくこととなる。

ジョン・オグローツからランズ・エンド(一般には‘Land’s End to John o’ Groats’)

概要:イギリスの本島であるグレート・ブリテン島の北の端、スコットランドのジョン・オグローツから南西の端、コーンウォールのランズ・エンドまでを縦断するルート。

距離:道路で1,407キロ、徒歩で1,900キロと言われる。

参照ウェブサイト:http://en.wikipedia.org/wiki/John_o%27Groats_to_Land%27s_Endhttp://www.ldwa.org.uk/ldp/members/show_path.php?path_name=Land%27s+End+to+John+O%27Groats 

私たちは2年ほど前に、ジョン・オグローツからスコットランドの内陸部を通り、ヘルムズデールというところまで歩いた。フォーシナードの湿原を通り過ぎたが、ここは野生の鳥などで有名なところである。今回はヘルムズデールからはじめ、インバネス周辺まで歩く予定である。

なぜイギリスの住宅市場は過熱しているのか?

イギリスの住宅価格が高騰している。統計局(ONS)によると、3月末までの1年間でイギリス全体の住宅価格が8%、ロンドンで17%アップしたという。経済が回復している中、住宅ブームがその最大のリスク要因であると見られており、その対策が急務だ。 

それではなぜ、イギリスの住宅価格が高騰しているのだろうか?

住宅価格高騰の原因 

まず、イギリス人の住宅に対するメンタリティーを理解する必要があるだろう。イギリス人は持ち家を好む。統計局によると、イングランドとウェールズの持ち家率は1918年時に23%であったが、197150%まで上がった。そして2001年国勢調査時に69%を記録し、2011年には64%に下がった。EUの統計ではイギリスは2007年に73.3%のピークを迎えたという。

持ち家が好まれる理由は、住宅価格は短期的には若干の価格の上下があるにしても、長期的には価格が上がると考えられていることがある。日本では家が古くなると価値が減少すると考えるが、イギリスでは必ずしもそうではない。イギリス人にはもともと古いものに価値を見出す傾向がある。

つまり、家を借りて家賃を払うよりも、住宅ローンを借りて毎月支払いをすれば、長期的には資産となり、しかもその住宅の価値が上がり、有利だと考えられているのである。

ただし、住宅ローンを借りて住宅を購入する場合には、かなりの自己資金が必要なため、すぐに購入できるわけではない。それでも住宅を買えれば、その価値が次第に上昇していくので、それをもとに次々に大きな住宅に買い替えることができることとなる。イギリスではこれを「住宅階段(Housing ladder)」とよく言う。つまり、最初の住宅を買うことが、階段を上がり始める第一歩となるので非常に重要である。

次に、現在の住宅市場を取り巻く環境を考える必要があるだろう。

イギリスの経済が世界金融危機前の2007年並みに回復してきた。雇用が増大し、失業率が下がり、しかも賃金が上昇してきた。多くの人たちが今後の経済の行方に自信を持ち始めてきている。

ロシアの経済制裁、ウクライナ危機などで、これらの地域からロンドンに避難してきている資金がある。さらに確実に価格が上昇すると見られている住宅を中東やアジアを含めて外国人が投資対象としてみる傾向が強まっている。

さらに政府のHelp to Buyと呼ばれる政策である。これは、60万ポンド(約1億円)までの物件に対して、5%手持ち資金があれば、政府が15%から20%までを保証する仕組みで、貸し手である銀行や住宅金融組合などのリスクを下げ、より安く借りられる。

2012年の住宅市場の低迷を受け、住宅市場に刺激を与えるために設けられた。住宅市場は、景気刺激の波及効果が大きいことに注目したものである。当初から住宅供給が乏しいのにこのような政策手段を打てば、住宅バブルが発生する可能性があると指摘されていた。

なお住宅供給不足については、今年3月までの1年間で11万軒余りの新築住宅が建設された。しかし、人口増を考えると1年に25万軒が必要と言われ、必要な数の半分にも達していない。これは歴史的な傾向で、イギリスには慢性的な住宅不足の問題がある。

このHelp to Buyの効果が予想外に早く出始めた。実際にはこの制度を使った住宅購入の数はそう多いわけではないが、買い手の期待が上がりすぎ、また売り手が強気になり、買い手は、早く買わねば、手が届かなくなる、後れをとるという心理が出てきて、住宅価格が急上昇するという状況となっている。 

ロンドンでは現在、売り手の提示価格は、週に平均で4,400ポンド(75万円)上昇していると言われる。 

イングランド銀行の対応

このため、住宅価格の高騰のし過ぎを警戒したイギリスの中央銀行であるイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、この原因はイギリスの住宅供給が遅れていることにあるとし、カーニー総裁の出身国カナダでは、人口が英国の半分ほどであるのに毎年イギリスの2倍の新築住宅が建築されていると指摘した。

イングランド銀行には、政策金利を設定する金融政策委員会(MPC)に加えて、金融の安定性を高める目的の金融安定委員会(FPC)が設けられたが、オズボーン財相は、イングランド銀行に既に与えた手段を使って住宅の過熱を防ぐ手段を取るよう求めている。

すでにMortgage Market ReviewMMRという仕組みで426日から制限が加わっている。さらに6月にFPCが住宅の価格に対する借り手の年収の割合を厳しくするのではないかという見方が強まっている。カーニー総裁が年収の4.5倍や5倍という例を挙げて警告したことだが、特にロンドンでは、典型的な住宅が459,000ポンド(7,800万円)で、典型的な年収は35,000ポンド(約600万円)であり、13倍にもなっている。

現在、政策金利は0.5%で20093月以来据え置かれているが、それが今後ともに継続すればやっていけても、それが上昇すれば困難に陥る人が77万人いるという。なお、1997年の総選挙後にイングランド銀行の金融政策委員会が政策金利決定の権限を与えられたが、1998年から2007年までの政策金利の平均は5%ほどである。金利が上がってもやっていけるかどうかの査定をMMRで既に実施しているが、それをさらに厳しくするのではないかとみられる。 

さらに貸し手の銀行や住宅金融組合の自己資本比率を増やすなどのマクロプルデンシャル策も検討されているようである。

さらにHelp to Buyの上限を大幅に引き下げる、縮小することなどをオズボーン財相にアドバイスするなども考えられる。

カーニー総裁は、政策金利を上げることは最後の手段としている。これには金利が上がれば苦境に陥る人がいる上、経済全体に悪影響があるという問題がある。なお、住宅を現金で買う人は全体の3分の1いると言われるが、こういう人たちには政策金利を上げても直接の効果はない。 

大幅な住宅の建設をすれば、もちろん効果があるだろう。現在の住宅ブームは、需要に比べて供給が少ないことが原因である。キャメロン政権では、15千軒のガーデンシティ建設を発表した。しかし、このようなガーデンシティを建設することもイギリスではそう簡単ではない。 

結局、試行錯誤を重ねながら、少しづつ取り組んでいくしかないようである。

女性教師を「ミス」と呼ぶのは差別?

筆者の妻はかつて刑務所で働いていたことがある。ロンドンの中心街に二人で出かけたとき、「ミス、ミス」と言う声が聞こえた。あたりを見回すと若い黒人の男が妻の方を向いて声をかけている。知らない人だった。すると妻が「元気?」と言った。そして二言三言話をした。

後で筆者が「知っている人?」と聞くと「刑務囚だった人よ」と言う。筆者はそのとき初めて刑務所では、刑務囚が女性スタッフを「ミス」と呼んでいると知った。 

小学校や中等学校でも女性は「ミス(Miss)」と呼ばれる。しかし、この「ミス」という呼び方は女性を蔑視している、男性の呼び方「サー(Sir)」とともに禁止すべきだという意見が出てきている。「ミス」や「サー」と呼ぶ代わりに児童生徒は教師をそれぞれのファーストネーム(姓名の名)で呼ぶべきだという。

「ミス」という呼び方は、かつて独身の女性が家庭教師や教師をしていたころの名残だそうだ。つまり、結婚するとその仕事をやめさせるような社会的圧力があったという。20世紀半ばに既婚女性が教職に復帰することが社会的に認められるようになったと言われるが、「ミス」という呼び方は残った。男性が常に「サー」と呼ばれるのと比べると女性が老若既婚未婚を問わず、「ミス」と呼ばれるのはおかしいというのである。

確かに既婚女性を「ミス」と呼ぶのは少しおかしいような気がする。また、「サー」は「ナイト(Knight、騎士・爵位)」の意味があり、「ミス」と「サー」とでは大きな差があるように聞こえる。しかし、ファーストネームを呼ぶようにするというのも少し行き過ぎのような気がする。ある女性教師はファーストネームで呼ばれることに反対する

ポリティカル・コレクトネス(PC)の観点も無視できないが、ちょうどよい新しい呼び方を探すのもそう簡単ではない。Mr XMrs Yという呼び方を使おうとすると、博士号を持つDr XProf Yはそういい気持ちがしないかもしれない (この「ミス」の議論は、教授がある中等学校に行って「ミス」と呼ばれて差別だと思ったことから端を発している)。またMiss X とMs Yをどう扱うか、また、結婚前と結婚後、配偶者の姓を名乗る場合ともともとの自分の姓を名乗る場合、結婚していないがパートナーがいる場合など様々なケースがある。姓がわからない場合にどう呼ぶかという問題もある。

日本のように男女を問わず「先生」と呼びかけられるのがよいように思われる。

サッカーのプレミアリーグのようになってきた英国政治

511日に終わったイングランドのサッカーのプレミアリーグでは、最後の日に優勝チームが決まり、終盤盛り上がった。英国の政治も1年後の総選挙の結果がどうなるか予断を許さないような状態となり、面白くなってきたといえる。

保守党が下院議員選挙の世論調査(これは来週行われる欧州議会議員選挙の世論調査ではない)で労働党を上回ったという報道が大きく伝えられた。同じ日に発表された2つの世論調査で保守党が労働党を2ポイントリードしたのである。そのため、最近上向きの経済の効果が有権者に浸透してきた、保守党に有利になってきたと見る向きがある。

この2つの世論調査は以下のものである。

アッシュクロフト卿の世論調査保守党 34%, 労働党 32%, 自民党 9%, UKIP 15%
ガーディアン紙ICM世論調査保守党 33%, 労働党 31%, 自民党 13%, UKIP 15%

アッシュクロフト卿は、保守党の元副幹事長や財務担当も務めた、億万長者の上院議員で、特に2005年、2010年の総選挙で大きな役割を務めた。その際に自腹を切って数々の世論調査を行い、2010年以降も自分で世論調査会社に依頼して世論調査を行っており、その結果を自分のブログで発表し続けている。この結果は保守党支持者以外からもかなり真剣に受け止められており、メディアでよく触れられる。保守党に大きな影響力を持つ保守党支持者のウェブサイトConservativeHomeのオーナーでもある。

このアッシュクロフト卿のブログでも強調されていることだが、世論調査では通常、誤差が2から3ポイントはある。アッシュクロフト卿の世論調査の結果では、保守党と労働党の差は2ポイントだが、アッシュクロフト卿が指摘するように、もし保守党に投票するという人が1人少なかったら、保守党の支持率は33%となっており、支持率の差はわずか1%となっていたという。いずれにしても誤差を考えると、そう大きな差はないと言える。

また、その世論調査では3分の2の人たちが、経済の効果を自分で感じていないと答えており、経済の効果が有権者に浸透してきたとまでは言えないようだ。

ICMの世論調査でも保守党が2ポイントリードしている。ただ、この世論調査で同時に行った欧州議会議員選の支持率では、保守党が英国独立党(UKIP)と労働党を上回っており、欧州議会議員選挙の他の世論調査の結果とかなり異なった結果となっている。 

上記2つの世論調査と同じ日に発表された、さらに2つの世論調査がある。これらも見ておく必要があろう。

サン紙へのYouGov世論調査保守党 35%, 労働党 36%, 自民党 9%, UKIP 14%
Populus
世論調査保守党 35%, 労働党 36%, 自民党
8%, UKIP 13%

これらでは労働党が保守党を1ポイント上回っている。

これらの4つの世論調査から言えることは、保守党と労働党との支持率の差がほとんどなくなってきているようだということである。

もし来年5月の総選挙で保守党と労働党の得票率が同じであれば、いずれの政党も過半数を占めることのないハングパーリアメント(宙づりの議会)となる可能性が強い。ただし、その場合でも少ない得票で議席を獲得する労働党が最多の議席を占めることになるが。

ただし、労働党は、これまでの35%戦略を見直さざるをえなくなるだろうと思われる。この戦略は、労働党が前回総選挙での支持と自民党から流れてくる票を確保すれば、UKIPに票の流れる保守党を抑えて下院の過半数の議席を占められるというものである。つまり、労働党の既存の支持者もしくは自民党支持だった考え方の近い人たちの票を固めれば勝てるというものである。

しかし、明らかに労働党はUKIPへ支持者を予想以上に失っているようだ。つまり、これまでの支持者を固める方向の戦略から、より多くの支持を集められる戦略へと方向の修正を迫られているように思われる。

労働党は、光熱費凍結、家賃上昇制限、鉄道再国有化のアイデアなどを立て続けに打ち出してきている。有権者にはこれらの政策が好評だが、それらが労働党への支持に必ずしも直接つながっていない。

これからの1年間はたいへん興味深い展開となりそうだ。

投票権を引き下げると若者が選挙に関心を持つ?

日本では、選挙への投票権を20歳から18歳に引き下げることとなった。世界の多くの国が18歳を採用していることや、高齢者が増えており、世代間のバランスを取るため、さらには若い世代が政治に興味を持つきっかけとするなどの狙いがあるようだ。 

しかし、それが効果を生むのだろうか?それだけで若い世代が政治に関心を持つようになるのだろうか?日本の政治がより健全になるのだろうか? 

イギリスでは、1969年に18歳としたが、若年層の関心が必ずしも高いとは言えない。20155月に総選挙が予定されているが、その総選挙で初めて投票する現在17歳から21歳までの世代対象に行った世論調査では、投票するとした人は41%であった。全世代では60%、そして60歳を超える世代では4分の3の人が投票するとしている。年齢の高い層と比べると若年層の政治的な関心は低い。

これは、これまでの歴史的な傾向にも合致する。 

18歳から24歳の総選挙での投票率推移

総 選 挙 1970 1974 2 1974  10 1979 1983 1987 1992 1997 2001 2005 2010
投票率 64.9 70.2 62.5 62.5 63.9 66.6 67.3 54.1 40.4 38.2 51.8
全世代 72.0 78.8 72.8 76.0 72.7 75.3 77.7 71.4 59.4 61.3 65.0

出典:英国下院図書館資料SN/SG/1467 201373。(なお、2010年には自民党の党首クレッグによるクレッグブームで若い世代の投票率が伸びた。)

学校時代にきちんと市民権教育を施せば、投票率が高くなるだろうという見方があるが、ある研究報告書によると、英国の学校で市民権教育を実施したが、投票率向上への長期的な効果はなかったという。単に市民権教育を実施するだけでは不十分なようである。

そこで、選挙年齢を16歳まで下げる考えを持っている労働党の影の法相シディキ・カーンは、有権者となって最初の選挙を義務制にすることを検討している。投票年齢を下げるだけでは、若年層と年齢の上の層との投票率の差を広げるだけになるからだ。最初の選挙に投票するとその後継続して投票する傾向があることに注目した。

日本で投票年齢を下げるだけで若い世代の政治への関心が増すと考えるのは十分ではないように思われる。むしろ、もし最初の選挙に投票しなければ、その後も継続して投票しない可能性が出てくるのではないだろうか?

それでは最初の選挙を義務制にするのはどうだろうか?実は、この問題はイギリスの政党によって考え方が異なる。選挙への影響を考えるからだ。労働党が積極的なのは、若年層の支持が強いからである。

日本では、単に選挙年齢を引き下げるだけではなく、いかに若年層の政治への関心を高め、投票率を上げるかに取り組んでいかねばならないように思われる。もちろん制度的な点も検討していく必要があろうが、若い世代がより関心を持つような政治にしていくことが大切なことである。

英国のジャーナリスト魂

BBCで非常に厳しいインタビューをすることで有名なジェレミー・パックスマンが、その舞台となったBBC2テレビのニュースナイトという番組を降りることとなった。この番組は午後10時半ごろから始まるが、普通の人と同じように早くベッドに行きたいからだと言う。パックスマンはBBCのスタージャーナリストで、年俸80万ポンド(13600万円:£1170円)とも言われる。

パックスマンの有名なインタビューには、1997年に、内務大臣だったマイケル・ハワードに同じ質問を12回したというものがある。当時刑務所は内務省の管轄下だったが(現在は法務省)、刑務所から囚人が逃亡したことに対して、刑務所サービス長官にその意思に反して刑務所長をその地位から除くよう圧力をかけたかどうかという問題である。内務大臣にはその権限がないのに職分を超えて行動したのではないかという疑いがあった。

筆者はこのインタビューをちょうど見ていたが、その執拗な質問に驚いた。後にパックスマンは次に予定されていたものの準備が遅れており、他に何を聞いたらよいか思い浮かばなかったので何度も同じことを聞いたと漏らしたと伝えられるが、そのようなことが許されるのかと改めて驚いたことがある。

パックスマンには、米国の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーがその質問に怒って席を立ったとされる事件もある。特にパックスマンが、米国がベトナム戦争を終結させるため1973年パリ協定を結んだ功績のためにキッシンジャーがノーベル平和賞を受賞したのを「詐欺のように感じたか?」と質問したことである。このような質問に慣れていない米国の政治家には厳しすぎたのではないかとみられた。 

英国のジャーナリストは国民の代わりになって聞きにくいことを聞くという職業魂があるようだ。BBCでは朝の人気ラジオ番組Todayのジョン・ハンフリーも厳しい質問をすることで有名だ。それ以外のジャーナリストも朝からそこまで突っ込むかという場面もある。女性ジャーナリストも例外ではない。

同じくBBCのエディ・メイヤーがロンドン市長ボリス・ジョンソンにインタビューしたときには、ジョンソンの将来の首相となる夢が消えたと多くの人が思ったほどだった。ジョンソンが若いころ、人の言葉をでっち上げて書いたことでタイムズ紙を解雇されたことや、保守党の下院議員時代に党首のマイケル・ハワードに自分の情事の噂を否定したがそれが本当だとわかり、影の内閣のポストを解任されたことなどを取り上げ、きちんと答えられないジョンソンに「あなたは卑劣な人じゃないですか」と言った。普通の政治家なら将来の首相になるなどという野心は消えるところであるがジョンソンは生き延び、いまなお、キャメロン後の保守党党首の最右翼候補である。 

BBCの政治部長ニック・ロビンソンの英国独立党(UKIP)のファラージュ党首に食い下がったインタビューもなかなかのものであった。外国人、特にEUからの移民が英国人の仕事を奪っているとファラージュが主張していることに対し、ドイツ人の妻を自分の秘書に雇っていることを質したものである。

また、ロビンソンのキャメロン首相へのインタビューでは、キャメロン首相がイギリスをEUの中に留めたいと考えているのに、EUに留まるかどうかを決める国民投票を2017年末までに行うと約束したことに対して、EUに不満を持つ有権者を「買収」しているのではないかと突っ込んだ質問をした。そして1年後の総選挙の結果、首相官邸を出ることになるかもしれないですねと言うと、普段は非常にスムースに答えるキャメロン首相が言葉に詰まり、非常に深刻な顔をして、それがデモクラシーだ、苦痛だがたいへんいいことだと答えた。

良しにつけ悪しきにつけ、このようなジャーナリスト魂が英国のジャーナリズムにある。

労働党のネガティブ・キャンペーン

労働党が2週間後に控えた欧州議会議員選挙のために公共放送BBCの政党選挙放送枠で公開した自民党のクレッグ副首相と保守党のキャメロン首相らを攻撃するパロディビデオはショッキングだった。ネガティブ・キャンペーンである。これからの1年間、このようなダーティー戦術が頻繁に使われるようになるだろう。どこまで行くのだろうか。

このビデオは白黒だが、きちんとした俳優が使われており、かなりの費用をかけていることは明らかである。アメリカでは対立する候補者や政党のイメージを悪くする攻撃宣伝が使われているが、ミリバンド労働党党首が新しく雇った、オバマ選対にいたデービッド・アクセルロッドの影響は否定できないだろう。

自民党はこのビデオに対抗してミリバンド労働党党首を攻撃するビデオをすぐに公開したが、そのクオリティは労働党のものとは比較にならない。保守党には対抗するようなものを作る資金力があるが、自民党にはそれが乏しいと思われる。

労働党のビデオでは、キャメロン首相を一般の人々のことを考えない高慢な上流階級の人物として描いているが、焦点が当たっているのはクレッグである。信念のない、自分のことしか考えず、すぐに服従させられる人物としている。1957年に出た「The Incredible Shrinking Man」という映画をもとに作られており、「The Un-Credible Shrinking Man」と題されている。3分余りのビデオであるが、閣議に出席したクレッグ副首相が、自分の約束や原則を守らず、キャメロン首相に従うたびにその体が縮んで行く。

クレッグは、2010年の総選挙で大学の学費の無料化を約束したが、キャメロン政権の副首相に就き、学費を3倍にすることを認めた。この事実は、自民党の連立政権参加の条件だった下院の選挙制度修正の賛否を問う2011年国民投票(AV制度の導入)で、反対派に使われた。修正案は大差で否決された。クレッグは個人的に大きな痛手を負い、それ以降立ち直れていない。

明らかに労働党はこのクレッグへの悪い記憶とキャメロン政権での好ましくない政策実施に果たした自民党の役割を有権者に思い出させようとしているようだ。容赦がない。522日の欧州議会議員選挙と同時に地方議会選挙も行われるが、欧州議会議員選では、自民党は前回2009年の11議席から23議席へと惨敗すると見られている。また、地方議会議員選でも多くの議席を失うだろう。自民党は総選挙で重要な役割を果たす地方議員を連立政権参加以来大きく失っているが、それがさらに輪をかけて悪化する状況だ。

1年後の来年57日予定の次期総選挙で労働党の標的にしている自民党の議席は14あると言われる。これらの議席を獲得するためにさらにクレッグへの個人攻撃は続くだろう。また、かなり議席を減らす見込みの自民党は党首交代を迫られる可能性が強い。もし、どの政党も過半数を得ることのないハングパーリアメント(宙づり議会)となり、労働党が自民党と連立政権を組まざるを得ないこととなっても新しい党首と協力してやっていけるというシナリオを描いているように思われる。

支持を集める英国独立党

1993年に英国を欧州連合(EU)から離脱させることを目的に設立された英国独立党(UKIP)が多くの支持を集めている。522日(木曜)投票の欧州議会議員選挙では、英国の主要政党保守党、労働党、自民党を尻目にトップの議席を獲得する勢いである。UKIPに支持が集まっているのは、単にEUとの関係をめぐる問題だけではなく、政府への不満や既成政党への批判のあらわれである。

57日に発表された「英国選挙研究」The British Election Study)の報告書によると、ちょうど1年後の201557日に行われる予定の下院議員選挙でもUKIPがかなり健闘する可能性があることがわかった(参照BBCの記事)。

欧州議会議員選挙は5年ごとに行われる。この選挙では、下院議員を選出する総選挙で使われている完全小選挙区制(一つの選挙区から最高投票の一人が選ばれる)とは異なり、比例代表制が実施されている。そのため、下院に議席を持たないUKIPもこれまで議席を獲得してきた。 

2009年欧州議会選獲得議席数

政党 議席
保守党 25
UKIP 13
労働党 13
自民党 11
その他 8

UKIPは前回の2009年欧州議会議員選挙では、保守党に続き、第2位の13議席を獲得したが、その翌年の2010年の総選挙では3.1%の得票にとどまった。英国の有権者は、総選挙で勝つ見込みのある政党に投票する傾向がある。ところが、「英国政治研究」によると、UKIPの次期総選挙での得票率は11%に上る見込みという。

「英国政治研究」は、1964年から50年にわたり研究を継続しているが、2009年欧州議会議員選挙でUKIPに投票するとした人で、その翌年の2010年総選挙でもUKIPに投票するとした人が25%であったのに対し、今回の調査(2万人余に対してオンラインで20142月と3月に実施)によると、来年5月の総選挙でもUKIPに投票するとした人は60%近くに上るという。

つまり、UKIP2009年と比べて、かなり大きな支持を集めている上に、欧州議会議員選の支持の総選挙への定着率が大幅にアップするというのである。

もちろん総選挙の場合は完全小選挙区制であるため、11%程度の得票では議席は獲得できない。しかしながら、票は全国にまんべんなく分散しているわけではなく、かなり偏在しているために、UKIPが下院の議席を獲得する可能性はゼロではない。特に補欠選挙では政権批判・既成政党批判がかなり強く出る傾向があり、UKIPはこれまで行われた補欠選挙で次点の得票を重ねてきた。そのため、今後の補欠選挙で議席を獲得する可能性がある。

ただし、最も注目されるのは、UKIPの支持票がキャメロン首相の保守党に与える影響である。「英国政治研究」では他の世論調査でも指摘されていたことを改めて確認している。

2015年の総選挙でUKIPに投票するつもりの人たちが、2010年総選挙でどの政党に投票したかは以下のとおりである。 

政党
保守党 44%
自民党 17%
労働党 11%

 

つまり保守党が最も大きな影響を受ける。UKIPへの支持動向が次期総選挙の結果を決めるといえる。

移民:日本は英国の経験から何を学ぶか?

国際化の波の中では、それぞれの国への移民を制限するかどうかにかかわりなく、結婚をはじめとするさまざまな要因で移民は増加し、その結果、異なった人種間の融合が進む。そのトレンドは長期的にますます強くなっていくだろう。それでは短・中期的にどう対応していくか?

英国の経験はその一つの参考とできるだろう。英国への移民は、第二次世界大戦後、本格的に始まった。そして移民を制限する努力を重ねているにもかかわらず、現在、非白人が800万人と人口の14%を占めるまでとなった。しかも非白人の出生率は高く、現在のまま推移すると2050年までに人口の20から30%を占めるようになるだろう、とのシンクタンクPolicy Exchangeの報告書が発表された。

この報告書では、英国の主要な非白人、インド人、パキスタン人、バングラデシュ人、アフリカ系黒人、カリブ系黒人の5つのグループを焦点に絞り、それぞれの社会環境や政治的傾向などにも触れている。なお英国の人口増の83%2001から2011年)は非白人によるものであり、非白人の割合は、5歳未満の子供の4分の1を占めているという。

この報告書の結果は、オックスフォード大学の人口学者デービッド・コールマン教授の予想と基本的に同じである。コールマン教授は、現在の移民のレベルが続けば、2070年までに英国では白人の英国人(英国人以外の白人もいる)が少数派となるだろう、その結果、英国の国民のアイデンティティが大きく変わる、つまり、文化、政治、経済、宗教が変わり、そしてこれらは、後戻りできない動きとなるだろうというのである。白人の英国人の出生率の減少がその大きな原因であるが、この傾向は、欧州のほかの国も同様であり、ドイツ、ベルギー、スペイン、オーストリアなどの変化は英国を上回るという(拙稿ニュースレター20135月号2070年・白人の英国人が少数派となる日)。

 歴史的視点 

英国はかつて世界の人口の4分の1を擁していた。そしてかつての大英帝国から多くの国が独立していった。現在でもエリザベス女王はオーストラリア、カナダ、ニュージーランドを含め16か国の元首である。なお、英国の元植民地を中心にした英連邦(Commonwealth)は緩い集合体だが、53か国が参加しており、現在でもかなりの存在感がある。アジア、欧州、アフリカ、北アメリカ、ラテンアメリカ、オセアニアに参加国があり、すべての主要宗教と人種を含んでいる。

しかし、移民が本格化するのは第二次世界大戦後である。英国では労働力が不足し、欧州からばかりではなく、旧植民地から多くの人たちが仕事を求めて来た。1945年には非白人の住民は少なく、数千人だったと言われるが、1970年には140万人となった。度重ねて移民を制限しようとしたが、1990年代以降も英国に来る移民の数が増え、現在に至る。 

この間、英国は、人種差別問題に端を発した人種暴動や地域社会での軋轢など多くの社会問題を経験した。1993年の黒人少年スティーブン・ローレンスが殺害された事件の警察の対応をめぐり、警察官の人種的偏見の問題が浮き彫りになり、今でもこの問題は続いている。

2011年国勢調査による人種別割合

人種 人数 %
白人 55073552 87.2
インド人 1451862 2.3
パキスタン人 1173892 1.9
バングラデシュ人 451529 0.7
中国人系 433150 0.7
他のアジア人 861815 1.4
黒人 1904684 3
混血 1250229 2
その他 580374 0.9
合計 63182178 100

 政治的影響

保守党は人種構成の変化を心配している。それが保守党の盛衰に関係する可能性が高いためである。白人の割合が次第に減っており、国勢調査では1991年には全人口の94%、2001年には91%が白人だったが、2011年には87%となった。5歳未満の子供で見ると白人の割合はわずかに73%にすぎない。

これが保守党にとって問題なのは非白人で保守党へ投票する人の割合が低いからである。2010年の総選挙の分析では保守党を支持したのは白人の37%だったが非白人はわずか16%にとどまった。一方、労働党は68%の支持を集め、自民党は14%だった。

これにそれぞれの社会階層の違いはほとんど関係していない。白人の中流階級の44%は保守党を支持し、それより下の階級の支持が32%であったのに対し、非白人の中流階級で保守党を支持したのは15%にとどまり、それより下の階級の保守党支持13%よりわずかに上回ったに過ぎなかった(拙稿ニュースレター20133月号 人種構成の変化と政治)。

この傾向は、上記の報告書でも同じである。特に来年の5月に初めて総選挙に投票する人たちのうち、非白人は18%だという。2010年にはこの割合は12%であった。 

日本への教訓 

移民は、その出生率の違いなどからその割合の急激な変化を招き、比較的短い期間に社会的に大きな影響をもたらす可能性がある。長期的に見れば当然といえることであるが、その過程で社会的な混乱を生む可能性がある。それを最小限にとどめるためには、人種差別問題などを含め、他国での経験を慎重に研究し、それらを踏まえて先を読んだ対応が要求されるといえるだろう。