日本に強いリーダーが必要か?

日本に強いリーダーが必要だとよく言われるそうだが、オックスフォード大学のアーチー・ブラウン教授は否定的だ。

「強いリーダーの神話」と題する本で国家の指導者たちを分析したブラウン教授は、英国のクレメント・アトリーの例を挙げる。アトリーは第二次世界大戦後に首相として「福祉国家」を築き、英国を大きく変えた人物である。しかしながらアトリーは自分でも認めているように「強いリーダー」と呼ばれるような人物ではなかった。それでも内閣を上手に運営し、英国で最も優れた首相の一人と考えられている。

ブラウン教授は、ロシアの研究家として有名だ。かつてマーガレット・サッチャーが首相であったとき、「将来有望なのはゴルバチョフ」とアドバイスをした。サッチャーは、ゴルバチョフを気に入り、ゴルバチョフとレーガン米大統領との「仲人役」を果たすこととなった。 

ゴルバチョフは、共産主義国家から民主主義への変遷を進めた。クーデターで倒されるまで高い行政手腕を発揮したが、ソ連の分裂を招いた。そのためロシア国民から人気がない。国の分裂を防ぐために軍を使わなかったことから「弱いリーダー」とみられているためだそうだ。

ロシア人は、残酷でも「強いリーダー」スターリンの方を好むという。これと同じでプーチン大統領は「強いリーダー」として振る舞っている。「強いリーダー」がよいかどうかは、一概には言えないようだ。

ブラウン教授は、リーダーの特徴とされるものをすべて兼ね備えた人はほとんどいないと指摘する。そして過去30年間、メディアは、リーダーたちの人物にこだわりすぎてきた、イーデンやブレア元首相らは自らの強いリーダーイメージにこだわりすぎて失敗したという。

一方、民主主義国の政治家の場合、選挙に強いことは極めて重要だ。サッチャーでも、その力の源泉は、総選挙に3度勝ったことであり、最後は、自分の進めた政策(人頭税)で国民の信頼を失い、次期総選挙で勝ち目がない状態になって自分の閣僚たちに政権の座から下ろされた。

結局、日本だけではなく多くの民主主義国に求められているのは、「強いリーダー」というよりも、なすべきだと思われることを国民に説得でき、賢明に遂行できる人物であるように思われる。

なお、LSEで行われた講演(2014428日)の質疑応答に答えて、ブラウン教授は「リーダーシップ講座が急増しているが、リーダーシップの質が向上しているようには見えない」とリーダーシップ講座の効果に疑問を呈する発言をした。

英国はキリスト教国?

キャメロン首相の「英国はキリスト教国」発言で、それに反発する人たちと賛成する人たちの議論が活発に交わされた。反発した人たちは、英国でキリスト教を積極的に信じている人は多くなく、そのような発言は社会を分断するようなものだという。賛成する人たちは、英国は伝統的にキリスト教国で、国の制度もそのようになっているのだから、何ら問題がないと主張した。

統計ではどうなっているのだろうか?2011年に行われた国勢調査では国民の59%がキリスト教徒だと答えたが、キリスト教徒と答えても自分が宗教的でないとみなす人もかなりいる。その上、キリスト教徒だという人は、2001年の国勢調査時の72%から大きく減った。

こういう中、英国国教会のカンタベリー大主教だったウィリアムズ卿は、「ポスト・キリスト教国だ」と発言した。英国がキリスト教信者の国であるというよりも、キリスト教的な文化的記憶がまだかなり強く残っている国だというのである。この表現は現在の英国を最もよく表しているように思える。

国と英国国教会の関係は緊密である。君主は英国国教会のトップであり、その大主教や主教は、君主が首相の助言を受けて任命する。また、主教は上院(貴族院)に議席を与えられるなど、両者の関係は国の制度の中に深く組込まれている。

国民のほとんどは現在の制度を受け入れているが、それでもキリスト教の教会に通う人の数は年々大幅に減っている。一方ではイスラム教徒などの数は増えている。

自民党の党首クレッグ副首相は、これらの議論を受けて、国と英国国教会を分離するべきだと言った。この発言は、国民の関心がないのに上院の公選制を導入しようとして失敗したのに似ているように感じられた。つまり、低い支持率にあえぐクレッグが、国民の関心を呼びそうなものに何でも飛びつくような印象があったためである。

522日には欧州議会議員選挙があり、しかも来年5月には下院の総選挙がある。このような時期には、政治家の発言はすべて政治的な意図があると見た方がよい。

キャメロンは英国国教会であるが、これまで宗教にはあまり触れない立場を取ってきた。しかし、労働党のミリバンド党首と、自民党の党首であるクレッグ副首相は二人とも無神論者であるため、この二人との違いを浮きだすことと、保守党からかなり多くの票が流れている英国独立党(UKIP)への動きをとどめようとする狙いがあった。特に、キャメロンの推進した同性婚に批判的な人の多い、伝統的な保守党支持者に対して、キリスト教を強調することでそれらの批判票を保守党に再び引き寄せる狙いがあったのではないかと見られている。

キャメロンの場合、トニー・ブレア元首相(19972007年在任)の場合とかなり異なる。ブレアの宗教への強い関心は有名だ。もともと英国国教会で大学生時代に堅信式を受ける。妻シェリーはカトリックで、子供は全員カトリックとして育てられた。首相在任中、ブレアは妻らとカトリックの教会へ行き、儀式に参加していたことから批判されたことがあり、カトリックへの傾斜を噂されていたが、首相退任後、カトリックとなる。

ブレアは、重要な判断をする際や苦しんだ時には神に祈っていたという。ブレアが選挙区の候補者となるのに大きな貢献をし、ブレアが下院議員を退くまで選挙区の事務長を務めたジョン・バートンによると、すべての重要な判断はブレアの信仰から来ているという。ブレアは2003年のイラク戦争参戦決断の是非は、神に判断されると言った。

ブレアの広報戦略を担当していたアラスター・キャンベルは「政治家は神を扱わない」と言って宗教の問題に触れることを避けた。アメリカの政治家の場合、信仰は極めて重要だが、英国では、政治家が宗教のことを話し始めると、キャンベルも言ったように「少し頭のおかしい人」と見られる可能性が高い。キャメロンの「キリスト教国」発言は、政治的には不発に終わったように思われるが、英国では、政治家が宗教を扱わないのは賢明なように思われる。

ある黒人女性下院議員のストーリー

ヘレン・グラント(Helen Grant1961928日生まれ)は保守党の下院議員で、キャメロン政権のスポーツ、観光、平等担当大臣を務める。英国白人の母とナイジェリア人の父を持つ混血の人物である。サンデータイムズ紙(2014420日)に本人とその母の話が紹介されている。

母のグラディスがヘレンを生んだのは21歳の時だった。当時グラディスは看護婦で、病院で働いていたナイジェリア人医師と親しくなり、ヘレンを孕んだ。グラディスの母、つまり、ヘレンの祖母も看護婦だったが、黒人やインド人の医師が来ては去っていくのをよく知っていたので、その子供の問題で大騒ぎはしなかったという。それでも皮膚の黒い子供は、1960年代にはかなりのショックだっただろうと思われる(なお、英国では黒人はブラックと表現される。また、一般にヘレンのような混血の人もブラックと表現される)。

ヘレンはイングランドの北部にあるカーライルのカウンシルハウス(公共住宅)の小さな家で、母のグラディスと祖母、そして曾祖母に育てられた。この3人の女性が、この子をきちんと育て上げたいという強い決意を持っていたようだ

特にグラディスはヘレンを厳しくしつけたという。人種差別されることも多々あったようだが、ヘレンに強くあれと促したようで「喧嘩するなら、戦い方を学べ」と教えたという。

ヘレンは8歳から柔道を始め、16歳以下の部で北部イングランド・南部スコットランド地区のチャンピオンにもなる。そのほかのスポーツでも活躍し、地域でよく知られる存在となり、ちょっかいを出されることが減ったようだ。

ヘレンは、小さなころ勉強には興味がなかったという。しかし、母グラディスがスポーツでの活躍をうまく勉強への興味を持たせるのに使い、学業も向上した。ヘレンは自分の希望したように弁護士となり、結婚、そして2010年、保守党の有名女性下院議員の後釜として保守党の強い選挙区から下院議員に選ばれ、保守党で最初の黒人女性下院議員となった。今では保守党の有望株の一人である。

母はヘレンに手がかからなくなった後、「これまであなたの面倒を見てきたけど、これからは私の番よ」と言って30代で教員に転職し、博士号も取得し、学校の管理職を20年務めた。

グラディスがヘレンに教えたことは、「高い目標をもって一生懸命に頑張れば、達成できないことはほとんどない」ということだった。

選挙戦略アドバイザーは役に立つ?

下院の総選挙が20155月初めに予定されており、それに向けた政党の体制が整えられている。その中で、世論調査でリードする労働党が、オバマ米大統領の2008年、2012年選挙で主要な役割を果たしたデービッド・アクセルロッドが選挙戦略アドバイザーに就任したと発表した。

これを高く評価する向きがあるものの、保守党はこれを大きな脅威と受け止めているようだ。特にアクセルロッドはネガティブ・キャンペーンが得意と言われる。これは、保守党がこれから仕掛けようとしている、「首相らしくない」ミリバンド労働党党首個人へのネガティブ・キャンペーンに対抗するものとなると思われる。つまり、労働党は、キャメロン首相とオズボーン財相の恵まれた生まれ育ちや「金持ち」であることを攻撃し、普通の人の気持ちがわかっていない、金持ちからもっと税金を取るべきだとキャンペーンすることとなろう。そのため、来年の選挙は、これまでにないほどのネガティブ・キャンペーンの選挙となるように思われる。

これで主要3政党の主な体制は以下のようになった。

  主要選挙戦略アドバイザー  
保守党 リントン・クロスビー ジム・メッシーナ
労働党 デービッド・アクセルロッド  
自民党 ライアン・クッツェー  

保守党のジム・メッシーナもオバマ選対の事務長だった。特にインターネットを使った選挙に詳しいと言われる。保守党がそのような人物をアドバイザーに選んだ狙いについて、筆者がBBCの調査部長に質問したことがある。インターネットを使った選挙が大きな影響を与えるようになる可能性に備えて、念のために依頼したのではないかという見方をしていた。英国では、選挙へのインターネットの影響はアメリカほどではない。アメリカは国土が広大なため、インターネットが必要で有効な手段であるとの分析であった。

さて、クロスビーはオーストラリア人、メッシーナとアクセルロッドはアメリカ人、そしてクッツェーは南アフリカ人であり、英国の選挙ではあるが、選挙戦略に重要な役割を果たすアドバイザーたちは国際的になってきたと言える。いずれの人物もそれぞれの国の選挙で大きな業績を上げてきた。

ただし、それらの業績が英国で直ちに役に立つかということになると、それはまた別の問題である。英国の選挙民が何を求め、どのようなことにどのような反応をするか、他の国とどう違うかなどを非常によく理解しておく必要がある。また、選挙制度の違いは、選挙への態度の違いに結びつく。しかも論理的に分析することができるだけでは十分ではなく、ムードや行動を直感で判断する必要がある場合もあり、これらの基礎的なことが肌身についていないと難しい。

もちろん大まかな方向性は出せるだろうが、選挙が近づいて来れば来るほど細かな微調整が必要となり、かなり難しいこととなりうる。メッシーナとアクセルロッドはアメリカからそれぞれの政党をアドバイスするので、これらの問題は恐らく表面化しないだろう。

これらを考えると、恐らく、保守党のクロスビーが最も頼りになるのではないかと思われる。クロスビーは、2005年の総選挙で保守党のハワード党首に依頼されて選挙をアドバイスした。しかし、うまく行かず、保守党は労働党に敗れた。この失敗は必ずしもマイナスではなかったように思われる。その後、労働党の強いロンドンの市長選挙で2008年、2012年の2度、保守党のボリス・ジョンソンを当選させたからである。

自民党のクッツェーには、クロスビーのような英国での経験はない。英国とEUとの関係の問題をめぐって3月末と4月初めの2度行われた自民党党首クレッグ副首相と英国独立党(UKIP)のファラージュ党首とのラジオ・テレビ討論はクッツェーの提案だったと言われる。しかし、世論調査ではクレッグはファラージュに大差で敗れた。低い支持率に苦しむ自民党のギャンブルだったが、裏目に出た。

なお、クッツェーはクレッグ副首相のスペシャル・アドバイザーとして政治任用の公務員として働いている。スペシャル・アドバイザーとしてはトップクラスの給与11万ポンド(1,870万円:£1170円)を受けている。上記の他の選挙戦略アドバイザーたちは政党関係から報酬を受けている。そこで、選挙戦略に携わっている人が公務員としての給与を受けるのはおかしいという批判が出た。自民党は、党員が減少し、しかも政府に参画しているためにそれまで受けていたショート資金などの公的助成金が受けられず、財政難に苦しんでいる。

これらの選挙戦略アドバイザーたちの能力は高いが、誰もが一つの目標に向かって競い合うためにその競争は熾烈だ。2015年の総選挙でどのような結果が出るか注目される。

政治で景気を左右できる?

英国の経済が好調と言える状況だ。数字を見ると以下のようなこととなる。

  1. 賃金の上昇率1.7%(12月から今年2月)がインフレ率(CPI:消費者物価指数)1.6%をやや上回った。
  2. 失業率(12月から今年2月)が過去5年間で最低水準の6.9%まで下がった。中央銀行のイングランド銀行の総裁が就任当初、利上げの目安とした7%を下回った。
  3. これらのデータを受けて英国の通貨ポンドは米ドルに対して4年ぶりの高値を記録した。

ただし、賃金は2008年以来、実質で10%近く下がったことを考えると、景気が上昇傾向となったと言っても明るい要素だけとはいいがたい。特にボーナス分を除くと賃金上昇率は1.4%でインフレ率を下回る。さらに英国で伝統的に使われているRPI(小売物価指数)は、家賃や住宅ローンの支払いなども含み2.5%。

さらに失業率についても、就業者数239,000のうち通常のフルタイムは44,000のみである。

これらから見るとオズボーン財相のまだすべきことが多いというコメントは妥当なものと言えるだろう。野党労働党の「生活費危機」のキャンペーンはまだまだ続く。オズボーンの財政経済政策、特に財政削減が経済成長を遅らせ、その結果、賃金の目減りを招き、生活費危機を招いたというのである。

今回の経済指標の発表で、年内、もしくは来年早々にも金利が上がる可能性が指摘されている。しかし、20155月の総選挙前に金利が上がると、多くの影響が出る可能性がある。特に昨年から住宅価格が急上昇しているが、住宅ローンの負担が大幅に増加する可能性がある。キャメロン首相の保守党はそのような事態は避けたいだろうが、景気がもし過熱するとイングランド銀行の金融政策委員会がそういう判断をする可能性がある。

現在の景気は、かなりの程度、住宅価格の上昇と消費に支えられており、均衡のとれた経済発展のための製造業や輸出産業などはまだ弱い。3月のオズボーン財相の予算でもこれらの産業に重点的な配慮をしたが、消費頼みの構造は変わっていない。

IMF2014年の英国の経済成長予測では、アメリカの2.8%を上回り、G7のトップの2.9%の見通し。ちなみに日本は1.4%の予測である。ただし1年余り前には景気後退が心配されており、IMFがオズボーン財相に財政経済政策を変更する必要があると警告したことから見ると、IMFの予測に頼るのは必ずしも賢明ではないかもしれない。

経済が順調に成長していくように、しかも過熱しすぎないようにうまく手綱を取っていくのはそう簡単なことではない。特に来年5月の総選挙を控えている中ではそうだ。

次期下院総選挙を決める5つのポイント(What Determines Next General Election)

次期総選挙まであと1年余り。その選挙を決めるであろうと思われる要素をAnthony Wellsが指摘している。これらのポイントは重要だと思われるので若干のコメントを付け加えながら紹介しておきたい。

1.有権者の経済動向の認識

英国の経済成長はG7のトップと予測されている。有権者の英国の経済成長への信頼はアップしており、かつて財政削減は経済に悪影響を与えると見ていた人たちが考え方を変えてきている。しかしながら有権者は個人的には英国の経済成長の便益を感じていない。失業率は下がり、賃金は上昇しており、生活費の上昇と収入の差は縮まっている。

そこでの課題は、
➀ あと13か月で人々がその恩恵を肌身に感じるかどうか?
② 経済がこのまま順調に成長していくか?

さらに、経済成長が順調に推移しても、有権者がその恩恵をキャメロン保守党の実績と見て、保守党に投票するかどうかという点がある。

1997年にメージャー保守党政権はブレア労働党に大敗を喫したが、経済は順調だった。しかし、有権者はそれをすでに織り込み済みで、ほかの面に目を向けていた。つまり、経済が良くても、有権者がそれと政権との関係を意識し、自分たちが経済成長の恩恵を受けるためにはその政権でなければならないという強い認識がなければ必ずしも票には結びつかない可能性がある。

2.労働党のミリバンド党首の評価

労働党への政党支持率は保守党より6ポイントほど高いが、有権者へのミリバンド党首への評価は低い。保守党のキャメロン首相に大きく差をつけられている。ミリバンドは多くの有権者に「弱い」、「首相的らしくない」と受け止められている。このため、保守党にとってはキャメロン首相を「重要な武器」として戦略を立てている。

➀ ミリバンドの低い評価のために労働党へ投票する人が減るだろうか?
ミリバンドの低い評価が13か月後にどのように変化しているか?

3. UKIPへの支持

英国独立党(UKIP)への世論調査での支持率が大きく上昇してきている。この5月の欧州議会議員選挙、並びに地方議会議員選挙でUKIPが大きな支持を集めると見られている。

その支持が13か月後にどの程度残っているか?

4. 自民党への支持

自民党の支持率がいくつかの世論調査で7%を記録したように非常に低くなっている。しかしながらこの支持率は全国平均であり、自民党の現職下院議員がいる選挙区では自民党はかなり強いと見られている。一方、2011年のスコットランド議会議員選挙では、自民党は得票率が半減し、それまでの17議席から5議席に減ったという事例もある。

自民党の現職がどの程度議席を維持できるか?

5. スコットランド住民投票の結果

918日に行われるスコットランド住民投票の結果、もしスコットランドが独立することとなれば、2015年総選挙にスコットランドの選挙区をどうするかという議論が生じる。独立賛成の場合、スコットランド分権政府は20163月に独立する構えだ。スコットランドでは労働党が強く、保守党の下院議員は1人しかいない。住民投票では独立反対という結果が予測されているが、それが終わるまで不透明な状態が続く。

以上述べたようにまだ不透明な要素がかなりあり、20155月の総選挙を今から予測することは難しいと言える。

支持率:UKIPアップ、保守党&自民党ダウン(Poll:UKIP Up Tory & Lib Dems Down)

最近の政治動向を受け、世論調査の支持率に動きがみられる。特に注目すべきは、連立政権を構成する保守党と自民党の支持率が下がってきていることだ。労働党の支持率はそう大きく変わっていないもののの英国独立党(UKIP)支持率が上昇している。

主な世論調査を見てみよう。これらの調査は下院の総選挙が現在あればどの政党に投票するかで政党支持率を出している。

調査会社 調査実施日 保守党 労働党 自民党 UKIP
ComRes 9-10 29(-3) 35(+0) 7(-2) 20(+4)
Opinium 8-10 30(-2) 36(+3) 7(-3) 18(+3)
Ipsos Mori 5-7 31(-1) 37(+2) 9(-4) 15(+5)
YouGov 10-11 32 38 8 14

以上の世論調査では、いずれもキャメロン首相率いる保守党と労働党との差が6ポイントである。3月の予算発表後、保守党の支持率が上昇し、労働党との差が狭まったが、その差が再び広がってきた。また、自民党はComResが指摘したように、7%は2010年以来最低である。

予算発表の支持率向上効果はそう長続きしないと言われるが、保守党の支持率が下がってきたのは、マリア・ミラー前文化相の議員経費問題とその謝罪の仕方、さらにキャメロン首相の対応の仕方の影響が少なからずある。

一方、自民党の支持率の下降傾向は、その党首ニック・クレッグ副首相のUKIPのナイジェル・ファラージュ党首との英国とEUとの関係をめぐるテレビ討論 (UKIP現象参照)」でファラージュ党首に大きな差で敗れたことと関係がある。テレビ討論直後の世論調査では、この討論の結果、クレッグ副首相への評価も若干上昇したという結果を出したものがあった。このため自民党関係者は、この討論は決して無駄ではなかったと主張したが、テレビ討論の視聴者は限られており、多くの人は新聞などメディアの報道を見て討論の結果を判断する。この討論は明らかに自民党にマイナスに働いたようだ。

さらにミラー前文化相の経費問題に対する下院の倫理基準委員会の手ぬるい対応で2009年の議員経費問題の記憶が多くの有権者に戻ってきた。そのため、既成支配政党に反対するUKIPに支持が流れていることもある。 

これらの動きを受けて、下院総選挙への支持率を見る世論調査ではあるが、UKIPの支持が上昇してきた。保守党と自民党は来年5月の総選挙を心配しているだろうが、1か月後の522日に欧州議会議員選挙がある。保守党が労働党とUKIPの後塵を拝し3位、自民党は前回の2009年に獲得した11議席を大きく失うのは必至の状態だと言える。

ミラー文化相の辞任の舞台裏(What Happened Behind Miller Resignation)

マリア・ミラー文化相の辞任の舞台裏でどのようなことがあったのだろうか?民法のテレビ局チャンネル4の政治部長Gary Gibbonがそのブログで明らかにしている。 

公式には、ミラーが政府の仕事の妨げになるから辞任したいと首相に連絡してきたとされるが、実際には、ミラーを辞任させることは昨晩決まり、首相の関係者がミラーを訪れて引導を渡したのだという。 

キャメロン首相は、あくまでミラーを支持するが、ミラーの自発的な辞任をやむなく認めるという立場を取ろうとしたようだ。圧力に負けて更迭した「弱い」、「判断力と決断力に欠ける」リーダーというレッテルを貼られることを避けようとしたように思える。

 

キャメロン首相の誤算(Cameron’s Miscalculation)

キャメロン内閣のマリア・ミラー文化相が大臣職を辞任した。保守党の大臣ミラーの2005年から09年の間の議員経費問題が7日続きで毎日のトップニュースの一つとなり、しかもそれがキャメロン首相と保守党を大きく傷つける状況となってきたためだ(この背景については拙稿参照)。

ミラーは下院の倫理基準委員会の裁定に従い、議会倫理基準コミッショナーに調べられた時の自分の非協力的な行動について下院で4月3日、謝罪し、過剰に受け取っていた議員経費5,800ポンド(986千円:£1=170円)を払い戻した。コミッショナーは45,800ポンド(7786千円)を返還すべきとしたが、倫理基準委員会はそれを大幅に減額したのである。ところが、ミラーの謝罪は32秒と非常に短かった上、反省の色が乏しかったことと、取り調べ中のコミッショナーに対して「いじめ」ともみなされる行動があったことがわかり、ミラーに批判が集まった。

キャメロン首相はミラーを守ろうとして問題の鎮静化を何度も図ったが失敗した。保守党内で大きな影響のある無役議員の会1922委員会の会長が47日、キャメロン首相にミラーの更迭を求めた。5月の地方選挙や欧州議会議員選挙の準備を進めている議員や活動家たちがミラーの問題の影響を肌で感じており、危機感を持っていた。

保守党の支持者らがミラーの更迭を求め、しかも保守党の準大臣職を含めた下院議員たちがミラーの対応やその職に居座ることへ不満を高めており、この問題はさらに拡大する様相だった。49日の正午からの「首相への質問」でも野党労働党のミリバンド党首がこの問題を取り上げることは間違いなく、しかもその夕方の1922委員会の会合にキャメロン首相が出席することになっており、その場でもキャメロン首相が吊し上げられる可能性が強かった。

その状況の中で、キャメロン首相は大きなUターンをした。ミラーが自発的に辞任したという体裁を取っているが、キャメロン首相側の判断があったのは間違いない。48日夜、ミラーの政務秘書官(保守党下院議員)がミラーへの支持を求めて保守党の無役議員らにテキストメッセージを送った後、テレビ局を回った。ミラーはプレス規制と同性結婚を推進したために「魔女狩り」にあっていると主張したが、その論理は一貫しておらず不発に終わった。さらにミラーは選挙区の地元紙に投稿して「選挙民を失望させて申し訳ない」と言ったものの、概して自らの立場を正当化するものだったため、冷ややかな対応を受けた。これらの土壇場の試みを首相周辺の了解なしに行ったとは考えにくく、それらが成果を生まなかった以上、結論は一つだった。

キャメロンはミラーの辞任の手紙に対する返事でミラーの将来の内閣復帰を匂わせているが、ミラーの行動を傲岸不遜と受け止めた人が多かったことから判断すると、その可能性はかなり小さいだろう。

いずれにしてもキャメロン首相の失敗は、ミラー問題の処理で多くの目的を同時に達成しようとしたことにあるように思われる。つまり、女性を重んじる強いリーダーであることを示し、特に自分の内閣の閣僚は自分が自分の判断で選ぶのであり、メディアの影響を受けないと示そうとした。しかも5月の欧州議会議員選後に内閣改造を予定していたことから、その前にミラーを更迭したくなかったことがある。複雑な戦略上の判断が交錯し、決断できず、キャメロン首相は元下院議長のブースロイド女男爵が言ったように「判断を誤った」。その結果、キャメロン首相は少なからず傷つき、保守党の「人々の気持ちのわからない」尊大な政党のイメージが復活し、しかも下院議員がお互いの利益を守っているという印象がさらに強まった。

これらへの対応として議員の行動の自主規制制度が見直されることは間違いないが、どの程度効果があるだろうか?少なくとも既成支配層を倒すと主張する英国独立党(UKIP)に追い風となったことは間違いない。

議員のお互いに面倒を見る習性(Politicians Help Each Other)

2009年に発覚した政治家の経費乱用問題は現在でも尾を引いている。この事件では、党派を問わず、ほとんどの議員が公費を私的と判断される目的に使っていたことが分かった。制度を悪用したと認定され、刑事事犯として刑務所に収監された人もいる。政治家の信用が地に落ち、政治家にとっては、あまり触れたくない話題だ。ところが、マリア・ミラー文化相(保守党)の2005年から09年の間の経費問題が、6日続きで毎日のニュースのトップの一つとなっている。そして単に一人の問題ではなく、キャメロン首相や保守党さらには英国議会を傷つける恐れが強まっている。 

ミラーは下院の倫理基準委員会(The Committee on Standards)の裁定に従い、議会倫理基準コミッショナー(The Parliamentary Commissioner for Standards)に調べられた時の自分の行動について下院で謝罪し、議員経費として5,800ポンド(986千円:£1=170円)受け取りすぎていたとして払い戻した。ところが、この謝罪は32秒と非常に短かったために注目を浴びた。そしてミラーの行動に対して批判が集まっている。 

何が問題なのかに簡単に触れておこう。ミラーは2005年の総選挙でイングランド南部のハンプシャー州のベイジングストーク選挙区から当選した。そしてその当時の議員経費制度で認められていた「第二住居」への経費をロンドンの家に対して受け取るため、その選挙区で借りている家を「主な住居」とした。そしてロンドン南西部のウィンブルドンの家を第二住居として、合計利子9万ポンド(1,530万円)を2009年まで受けた。なお、英国には議員宿舎はなく、選挙区とロンドンと二つの住居を維持する必要のある議員を援助するための制度である。なお、現在では議員経費の支払いは独立議会倫理基準局(Ipsa: The Independent Parliamentary Standards Authority)が担当しており、ルールが変更されている。

201212月にミラーが不正に議員経費を受け取っていたのではないかという疑いが出され、議会倫理基準コミッショナーが調べてきた。コミッショナーは、このポストに就く前に議会・健康サービス副オンブズマンを務めた人物であり、このような調査にはかなり慣れている人物だと言える。ところがミラーはこの調査に非協力的であった。特に「主な住居」が本当にベイジングストークだったのかという点では、それを証明する記録はすでに失われていると主張したという。14か月にもわたる調査の結果、コミッショナーは悪意を持って議員経費を受けていたのではないとしながらも、45,800ポンド(7786千万円)を返還するよう勧告する報告書を下院の倫理基準委員会に提出した。この委員会はコミッショナーを監視し、この委員会が最終決定を行う。この委員会は、10人の議員(保守党5人、労働党4人、自民党1人)と3人の一般人で構成されている。 

ミラーは1996年にウィンブルドンの家を237,500ポンド(4,0375千円)で購入した。コミッショナーは、その際の住宅ローンへの利子を補助すべきだとしたのに対し、委員会は改装のために新たに借りた住宅ローン分も含めるべきだとして返済額を大幅に減額した。それでもミラーがコミッショナーの調査に協力的でなかったことを謝罪すべきだと裁定した。

この点では、コミッショナーと委員会の住宅ローンの判断に差がある以外、特に問題があるようには見えない。ところが、ここに大きな問題がある。

それは、議員たちは議員仲間に手ぬるいのではないかという点である。2009年にも同様のことが指摘されたが、その記憶が多くによみがえってきた。ミラーは下院で「率直に謝罪します」と言ったものの、32秒で終わり、歴代で最も短いものの一つだと指摘され、本当の謝罪ではないと批判されるに至り、メディアのさらなる追及に手を貸すこととなった。ミラー文化相はプレスの規制問題を担当し、勅許によるプレスの自主規制組織を推進していることから、それに反対して自ら自主規制組織を立ち上げた新聞社らの個人攻撃の要素があるとの指摘がある。しかし、今回の問題はそれにとどまらないように思える。有権者のミラーに対する反発が広がっているからだ。 

ミラーを更迭すべきだという見解が強くなったが、それに対してキャメロン首相は、ミラー文化相は下院で謝罪し、委員会の求めた金額を支払ったのだからそれでよいと主張した。しかし、メディアは手を引く状況ではない。 

メディアは、次から次に「新事実」を発掘してきている。ミラーが20142月にウィンブルドンの家を147万ポンド(24,990万円)で売り、120万ポンド(2400万円)の利益を得、そのお金でハンプシャー州に豪邸を購入したと報道した。このような報道は、持ち家にこだわる英国の読者の関心を引く。特に大きな問題は「主な住居」に指定していたベイジングストークの家に、ミラーが、週の半分以上住んでいたと主張したが、それに反する証言が出てきている点だ。元保守党の地方議員でミラーの選挙を手伝っていた人物が、ミラーは金曜日に選挙民との面談に来ていたが、すぐにロンドンに帰った、ミーティングで家に行っても家族はいなかった、ロンドンが「主な住居だった」と証言したのである。この人物は現在英国独立党(UKIP)の活動家であるが、調査をしたコミッショナーが「主な住居」の証拠を求めたのに対し、ミラーは電子日記はすでに抹消しているなどとし、また選挙区の保守党支部の会長らもそのような証拠を提出していないなど、事実が不透明だ。

英国では、政治家は実際に行ったことより、その行為を正当化するために事実でないことを発言して致命的な傷を負うことが多い。ミラーの場合もその例に漏れない可能性がある。

いずれにしても、世論調査会社ComResが保守党の支持者らのグループのために行った世論調査で、有権者の4分の3がミラーは更迭されるべきだと言い、2010年に保守党に投票した人の3分の2が同意見である。 

ミラーは、わずか4人しかいない女性閣僚の一人であり、キャメロン首相は女性軽視という批判のある中でミラーを更迭するのはそう簡単ではない。また、弱いミリバンド(労働党)に対して強いリーダーのイメージを売りたい戦略に対し、メディアの圧力で閣僚を更迭するのは戦略上難しい。しかし、5月に地方議会議員選挙と欧州議会議員選挙のある中、危機感の高まっている保守党の中でもミラーを更迭すべきだという声が高まっている。この問題にいかに対応するかにはかなり高度な政治的判断力が必要とされる。

なお、政治家には問題が起きて世論の批判を浴びると何らかの機関や制度を設け、同じ問題は二度と起きないと有権者にアピールして幕引きするという定番のパターンがある。「のど元過ぎれば熱さ忘れる」のはどこにでもあることである。それでも下院の倫理基準委員会と議会倫理基準コミッショナーの関係は見直されるであろう。ただし、英国の議会主権の立場から見て、議会倫理基準コミッショナーに議員の処罰への全権を渡す可能性は少ないと思われる。