公共放送の社会的役割(Neutral Public Service Broadcasting)

テレビ局は、政治的な立場をはっきりさせる傾向のある新聞とは異なり、不偏不党でなければならない。例えば、2010年総選挙前に労働党のブラウン首相(当時)がITVのテレビ番組に出演した時には、保守党のキャメロンも同じ番組に異なる日に出演するよう要請を受けた。結局、キャメロンは、ITVの特別番組に出演した。さらにITVは自民党のクレッグの特別番組も作って放送した。つまり、選挙期間中に3党首のテレビ討論が控えている中、ITVはこの三者すべてに均等の機会を与えようとしたのである。

BBCは日本のNHKと同様、視聴料収入で運営されており、その編集方針の独立を必死で守ろうとしている。その結果、BBCは保守党からも労働党からも嫌われている。BBCの国防担当記者が、ブレア政権がイラク戦争の大義名分を作るために政府のインテリジェンス(諜報)文書を大げさに書いたと報道した。それはブレアの右腕で、政府の広報担当責任者のアラスター・キャンベルの仕業だと主張した時、キャンベルは憤慨し、他のテレビ局ITVのニュース番組に登場し、その報道は誤りだと断言した。キャンベルがITVに出たこと自体、非常に大きなニュースとなった出来事である。

政府は、BBCを強く批判し、その情報源を明らかにするよう求めたが、BBCはそれを拒否し、それは報道の自由だと主張した。後にその情報源は、国防省の生物兵器専門官であったことがわかったが、この専門官は自殺した。そこで、政府は、その死にまつわる状況について元判事を長とした特別調査を実施した。英国では判事は公平と信じられている。

その調査報告でBBCが厳しく批判されたために、BBCの会長と経営トップ(ダイレクター・ジェネラル)の2人が辞職した。また、国防担当記者も辞職した。しかし、BBCの立場はそれ以降も変化していない。BBCは、視聴者のお金で運営されており、BBCの立場は、常に視聴者の立場に立つことであり、できる限り公平に報道することである。このため時には政治的な出来事に関して、攻撃的な報道に結びつくことがあり、政治の側から大きな批判を招くゆえんである。

BBCも大きな組織であり、退職金のお手盛りやいじめ、女性差別、セクシャル・ハラスメントなどの問題が表面化しているが、外部からの政治的な介入には立ち向かっている。

 

欧州議会議員選挙でUKIPトップの見込み(UKIP in European Election)

2014年5月22日(木)に欧州議会議員選挙が行われる。欧州議会は EU 加盟国 28 か国から 5 年ごとに選ばれる 751 議員によって構成されるが、英国にはこのうち 73 議席が割り当てられており、地区別の比例代表で選ばれる。 なお、開票結果は5月25日(日)に発表される。

この選挙で英国独立党(UKIP)がトップとなる勢いであることが、世論調査会社YouGovの世論調査で明らかになった。英国独立党は、英国をEUから離脱させるために1993年に設立された政党で、下院に議席は持たないが、EUとの関係や移民問題などで支持を集めているほか、それら以外の問題の不満も吸収している(この点はアシュクロフト卿の分析拙稿を参照)。

YouGovの世論調査結果

政党

支持率

保守党

23%

UKIP

26%

労働党

32%

自民党

9%

 前回の 2009 年選挙の主要政党の結果は下記のようであった。

政党

得票率

議席数

保守党

27.9%

25(+北アイルランド提携 1 議席)

UKIP

16.6%

13

労働党

15.8%

13

自民党

13.8%

11

2009年年選挙では投票日の1ヶ月ほど前まで、世論調査でのUKIPの支持率は低かったが、マスコミの欧州議会議員選挙の報道が活発化してくるにつれUKIPの支持が大きく伸びた。

UKIPは2013年5月の地方議会議員選挙で大きく伸びたほか、下院の補欠選挙でも大きく票を伸ばした。UKIPの顕在化が今回の世論調査の結果にも現れているが、2009年の例を考えると、UKIPは5月の選挙までにさらに支持を伸ばし、保守党からさらに支持を奪い、労働党を追い越すと見られる。

もしそのような結果が出れば、欧州議会議員選挙は総選挙とは異なるというものの、2015年5月の総選挙を控えた保守党に大きなダメージを与えるだろう。

一方、この世論調査では自民党に壊滅的な結果がでる見込みだ。この世論調査の結果通りであると、自民党は前回獲得した11議席を1議席も獲得できない可能性があるという。この結果を受け、自民党の党首クレッグ副首相は、この世論調査の正確さに疑問を呈しながらも「苦しい戦い」だとコメントしている。

なお、英国の有権者は、総選挙とそれ以外の選挙では投票態度を変える傾向がある。この欧州議会議員選挙は、その典型ともいえる。総選挙は、英国のリーダーそして政権を決める選挙であるが、欧州議会議員選挙では政権政党に対する批判や不満が強く出、批判政党に票が動く傾向がある。

英国の一般の政党支持世論調査では、もし明日総選挙があればどの政党に投票するかという形の質問をするため、このような政党支持の指標で欧州議会議員選挙の行方をはかることは困難である。そのため日常的な政党支持率は必ずしも参考にならない。

 

オープン・ガバメントにかける熱意(UK’s Open Government)

英国の運転・車両免許局(DVLA)が運転免許の罰則点数その他の個人情報を政府のウェブサイトでオンラインで公開することになった。本人の運転免許証番号、国民保険番号それに郵便番号で確認できるという。

自動車保険を申し込む際に申込者の自己申請に頼っていた点を保険会社はこのウェブサイトに確認でき、その結果、点数のない人らの保険料が安くなるという。また保険会社もコストを下げられ、その上、政府もコストを削減できる。これはオープン・ガバメントの一環である。政府は2015年までに25の政府のサービスをデジタル化する計画でDVLAの例はその一つである。この25の政府のサービスは政府とユーザーとの取引の約90%を占めるという。

内閣府担当大臣のフランシス・モウドはインターネット利用によるオープン・ガバメントを積極的に進めており、日本の霞ヶ関にあたる英国のホワイトホール全体を「デジタル化が標準設定(digital by default)」を合言葉に進めている。2015年には英国をデジタル化で先進8カ国のトップにするという。

モウドは、米国のオバマ大統領の推進する「オバマケア」のウェブサイト立ち上げに問題が多かったことを指摘し、これは英国のやり方を見習っていれば防げたと発言した。オバマケアの方法は「古いやり方」だという。米国はかつてはデジタル化で世界をリードしていたが、今では他の国にその座を譲ったそうだ。

また、2011年からは世界各国とオープン・ガバメントを推進する組織オープン・ガバメント・パートナーシップ(OGP)を創設8か国の一つとして立ち上げ、2013年にはそのサミットをロンドンで開いた。現在その参加国の数は63カ国に達している。

英国政府のウェブサイトGOV.UKのほとんどのコードはオープンソースであり、それを他の国も使えるようにしている。発想としては、他の国が時間をかけず、安価に使えるようにできることと、他の国の経験から英国のものがさらに向上していくというものだ。ニュージーランドがすでに英国のものを採用し、正式に立ち上げる準備を進めている

モウドのオープン・ガバメントにかける熱意はかなりのものである。これまでも政府全体の主要プロジェクトの進捗状況と評価を政府内の多くの反対を押し切って政府のウェブサイトで公表した。

これらの試みは未だに少なすぎるという批判もある。また、政府の看板政策の一つで、6つの福祉給付を統合するユニバーサル・クレジットと呼ばれる労働年金省のITシステムで政府は苦労しており、すでに4000万ポンド(68億4千万円:1£=171円)を損失計上し、さらに9100万ポンド(155億6100万円)が評価損となっている。その他、防衛省をはじめITでは多くの問題がある。

しかし、より公開され、透明化された行政、さらに行政の持つ様々なデータがより活用される状況を作ることは重要だ。新たなビジネス機会を作るとともに行政の効率化、行政の業績の向上にもつながることととなる。もちろん、大臣らの政治家、そして公務員にとっては、そう簡単なことではないが。

 

投票年齢を16歳に下げるべきか?(Lowering Voting Age to 16?)

9月18日に行われるスコットランド独立の住民投票では16歳以上が投票できる。スコットランド分権政府を担当するスコットランド国民党(SNP)が強く主張したため、この住民投票では、それ以外で投票を許される18歳から16歳に下げることとした。

SNPはスコットランドの英国からの独立を求めて設立された政党だ。世論調査によると独立反対が賛成よりも多く、16歳と17歳を加えることで状況を改善することを狙ったものとみられる。

一方、労働党は、投票年齢の16歳への引き下げを2015年総選挙のマニフェストに入れる予定だ。2013年9月の党大会でも党首ミリバンドがこの問題に触れている。労働党の2010年マニフェストでは、16歳への引き下げを議員に自由投票させるとの記述があったが、それをさらに進めたものである。

投票権を16歳に与えている国はいくつもある。例えば、ブラジルは1988年から16歳にも投票権を与えている。オーストリアでは2007年から実施し、市民権教育を実施し、16歳と17歳の投票率はすぐ上の年齢層より高かった。

自民党はこれまでも16歳に引き下げるべきだと主張してきており、2010年マニフェストでも16歳への引き下げを謳っている。なお、英国の投票権が現在の18歳になったのは1969年のことであり、それまでは21歳であった。

また、労働党の影の法相シディキ・カーンは、有権者となって最初の選挙を義務制にすることを検討している。投票年齢を下げるだけでは、若年層と年齢の上の層との投票率の差を広げるだけになるという判断があるためだ。

英国は欧州の中でも若年層とそれ以外の層との投票率の差が大きい。2010年総選挙での投票率は、18歳から24歳が44%であったのに対し、65歳以上は76%であった。差は32%であるが、1970年には18%であった。2013年5月に行われた地方議会議員選挙では、18歳から24歳の投票率は32%で、65歳以上の層は72%。若い人たちの投票率が急速に下がっている。

公共政策研究所(IPPR)によると、若年層や最低所得層の投票率が低く、高齢者や裕福な人たちの投票率が高いことが、英国政府の実施している財政カットに反映しており、若年層や最低所得層が過度に財政カットの影響を受けているという。これを正すために若年層の投票率を上げることを目的として、最初の選挙を義務制にすることを提案した。

世界の民主主義国のうち4分の1ほどの国にはなんらかの投票義務がある。義務制で正当な理由なく投票しなかった人には罰金を課すオーストラリアでは1946年から24回の選挙で平均投票率は94.5%、ベルギーは法律で義務付けているが取り締まってはいない。それでも1946年から19選挙平均は92.7%である。

最初の選挙に投票するとその後継続して投票する傾向があるという。そこで、有権者の最初の選挙を義務制にし、学校で市民権教育をきちんと実施し、投票しなかった有権者には少額の罰金を課すことを提案している。この罰金は、オーストラリアでの罰金AU$20(1880円:1豪ドル=94円)並みのものを想定している。もちろん誰にも投票したくない人には、投票所で「いずれの候補者にも投票しない」という選択肢を設けるという。

さて、16歳と17歳に投票権を与えると約150万人の有権者が増加することとなる。もし最初の選挙を義務制にするとその政治的な意味合いは大きい。政治家は、選挙結果に大きな影響を与える層に注目しがちだ。投票率の高い高齢者層が増大しており、年金や手当など、この層の関心事には手厚くなる傾向がある。一方、投票率の低い若年層には関心が弱くなる。

2010年の大学授業料大幅値上げでは、大学生たちが、政治家は自分たちの言うことを聞かないと文句を言ったが、投票率が低いままではその声は弱いだろう。ただし、もし最初の投票が義務制となれば、状況はかなり異なってくる。

下院選挙は定期国会法のために、基本的に5年ごとに行われる。すなわち、前回総選挙後に投票権を獲得した16歳から20歳まで5歳分の新有権者の投票率が極めて高くなる。恐らく90%以上だろう。すると政党はこの層にアピールする政策を総選挙ごとに打ち出す必要が出てくる。

投票権を16歳に下げると、労働党と自民党に有利になるという見方が強く、そのため両党はこの政策に積極的だ。しかしながら、保守党に有利になるという見方もある。保守党の党員の平均年齢は60代半ばと言われる中、もし投票権が16歳まで下がり、新有権者の最初の投票が義務制となれば、保守党の思考が大きく変わり、それが党の活性化に大きな役割を果たす可能性があるように思われる。

ただし、投票年齢を16歳に下げることについて有権者は否定的だ。2013年8月のYouGovの世論調査によると、賛成したのは20%にとどまり、60%が反対だ。特に保守党とUKIPの支持者で賛成したのはいずれも11%にとどまり、反対したのは保守党71%、UKIP75%であった。労働党と自民党の支持者も否定的で、労働党は賛成29%、反対54%、自民党は賛成30%、反対56%であった。

それでも今秋のスコットランド住民投票への16歳、17歳の投票結果や、2015年までに行われる隣国アイルランドでの投票権16歳への引き下げの国民投票の結果などで世論に影響を与える可能性がある。

2015年総選挙の結果、労働党単独政権、もしくは労働党と自民党の連立政権が誕生すると、16歳投票権は大きく実現に向かって進むことになる。ただし、自民党は投票の義務制には反対しているが。

高齢者票に期待するキャメロン首相(Cameron Relying on Elderly Votes)

2010年総選挙の前に主要3党の党首討論が行われた。その第2回目の討論で、労働党のブラウン首相(当時)が保守党のキャメロン党首(当時)に質問した。保守党のマニフェストには、高齢者への無料の薬処方と検眼が含まれていないがどうするのかときいたのである(これらはイングランドのみで他の地域は分権されている)。

キャメロン首相は即座にいずれも行うと返答し、マニフェストで既に約束していたテレビ視聴料無料、冬季光熱費補助(Winter fuel payments)、バス無料乗車証を改めて繰り返した。

キャメロン首相は、これらを再び2015年総選挙のマニフェストで約束する考えだ。また、2010年に自民党との連立政権下で導入した基礎年金の上昇率を保証する「トリプルロック」をさらに2020年まで保証すると明言した。なお、これについては、野党労働党も同じ考えを示している。

なお、2013年度の週当たりの基礎年金は以下の通り
1人:£110.15(18,945円:1ポンド=172円)
夫婦:£176.15(30,297円)

また、貧困層に与えられる年金クレジットを加えた最低保障は週当たり以下の通り
1人:£145.40(25,008円)
夫婦:£222.05(38,192円)

トリプルロックとは、物価上昇率(CPI)、平均賃金上昇率もしくは2.5%アップのうち、最も高いものを基礎年金の上昇率にあてはめるというものである。つまり、最低2.5%アップすることになる。そのため、2012年度は5.2%アップ、そして2013年度は2.5%アップした。2014年度は2.7%アップで1人週113.10ポンド(19,453円)となる。その結果、2014年度は、このトリプルロックがなかった場合に比べて年間440ポンド(75,680円)高くなる。

基礎年金支払総額は労働年金省の計算(2012年)では現在価値で以下のようになる。

2010年度 580億ポンド(9兆9760億円)
2011年度 600億ポンド(10兆3200億円)
2015年度 660億ポンド(11兆3520億円)
2021年度 760億ポンド(13兆720億円)
2031年度 1,160億ポンド(19兆9520億円)
2061年度 3,020億ポンド(51兆9440億円)

この増大する年金に対して政府は年金受給年齢を上げることで対応しようとしている(拙稿参照)。

しかし、キャメロン首相は、基礎年金のアップ率を保証するだけではなく、裕福な人にも一律にテレビ視聴料無料、冬季光熱費補助、バス無料乗車証を継続すると言うのである。これらは2014年度には以下のような額(75歳以上)となる。

テレビ視聴料無料

6億1,600万ポンド(1,059億5200万円)

冬季光熱費補助

22億ポンド(3784億円)

バス無料乗車証

12億ポンド(2064億円)

この高齢者への厚遇は、選挙を念頭に入れているのは間違いない。前回の2010年総選挙の年齢別投票率では、18歳から24歳までの投票率が44%であったのに対し、65歳以上は76%であった。

またこれは英国独立党(UKIP)対策でもある。8千人余りを対象とした世論調査によると2010年総選挙で保守党に投票したが、次の選挙でも保守党に投票すると言わない人が37%いたが、もし総選挙がその次の日にあればその人たちの半分以上の55%はUKIPに投票するつもりだという結果が出ている。 2013年のYouGovの世論調査によると、50歳を超える有権者の割合は46%でだが、UKIP支持者のその割合は71%だという。UKIPにはかなり高齢者の支持が高い。つまり、次期総選挙で、これらの高齢者に下院に議席を持たないUKIPよりも政権を担当する可能性のある保守党に投票する方が得策だと信じ込ませる戦略だともいえる。

欧州議会議員選挙と世論調査(European Parliament Elections and Opinion Polls)

欧州議会議員選挙が5月22日(木)に行われる。欧州議会はEU加盟国28か国から5年ごとに選ばれる751議員によって構成される。英国にはこのうち73議席が割り当てられており、地区別の比例代表で選ばれる。イングランド、スコットランドそしてウェールズはドント方式で選ばれるが、北アイルランドは単記移譲式投票である。

この選挙では、英国のEUからの離脱を求める英国独立党(UKIP)がトップとなるのではないかと予想されている。UKIPは下院に議席を持たないが、前回の2009年には保守党に引き続き第2位の得票率で、第2位の議席を獲得した。

2009年6月4日(木)に行われた選挙結果は以下のとおり(イングランド、スコットランド、ウェールズ)。労働党は当時、ゴードン・ブラウンが首相で政権政党であったが、第3位となった。

 政党 得票率 議席数
保守党 27.9% 25+北アイルランド提携1議席
UKIP 16.6% 13
労働党 15.8% 13
自民党 13.8% 11

なお、それまでの2回の選挙結果は以下の通り。

政党

1999年

2004年

  得票率 議席数 得票率 議席数
保守党 35.8% 36 26.7% 27
労働党 28.0% 29 22.6% 19
自民党 12.7% 10 14.9% 12
UKIP 7.0% 3 16.1% 12

2009年には、1ヵ月ほど前までの世論調査でのUKIPへの支持率は1けた台だったが、それから支持が伸びた(2009年欧州議会議員選挙までの世論調査のまとめ)。投票前日までに行われたYouGov/テレグラフ紙の世論調査では、上記4党の支持率は以下のようだった。

政党 支持率
保守党 26%
UKIP 18%
労働党 16%
自民党 15%

1ヵ月ほど前までの世論調査が選挙結果とかなり異なっていた理由としては以下のようなことが考えられる(参照)。

・ 有権者が欧州議会議員選挙でどの政党に投票するか直前まであまり考えないこと。

・ 選挙期間中マスコミがUKIPをかなり大きく報道したこと。

・ 2009年には国会の議員経費問題が発覚したため、有権者が既成政党離れを示したこと。テレグラフ紙が国会議員の経費乱用の詳細を入手し、2009年5月8日から毎日のようにそれを次から次に発表した。

2014年の欧州議会議員選挙に対しては、2013年11月21-22日に行われた世論調査の結果は、以下のようである。

政党 支持率
保守党 24%
UKIP 25%
労働党 32%
自民党 8%

UKIPは2013年には下院の補欠選挙や地方議会選挙で善戦した。2014年の欧州議会議員選挙でも台風の目となることは間違いない。

アッシュダウン卿の自民党への影響(Lord Ashdown’s Influence)

各政党ともに2015年総選挙の責任者を決め本格的な選挙準備に入っている。ニック・クレッグ副首相率いる自民党では責任者は上院議員のアッシュダウン卿である。アッシュダウン(1941年2月24日生まれ)はかつて自民党の党首であり、今でも自民党に大きな影響力を持っている。テレグラフ紙の編集した自民党の影響力の大きい人物ランキングでクレッグ党首・副首相、アレキサンダー財務副大臣、ロウズ教育、内閣府担当大臣に続いて第4位とされている。2013年9月の党大会でクレッグがアッシュダウンを2015年総選挙キャンペーン議長と紹介した時、アッシュダウンへの拍手はひときわ大きなものがあった。

次期総選挙は、2010年5月に保守党と連立を組み、低い支持率にあえぐ自民党にとって党の命運をかける戦いとなる。アッシュダウン卿は、これまでクレッグ党首のメンター的役割を果たしてきた。

2013年は自民党にスキャンダルが襲いかかった。自民党のチーフエグゼクティブだった上院議員レナード卿に性的ハラスメントの疑いがかかり、さらに前エネルギー大臣のクリス・ヒューンが司法妨害罪で刑務所に送られた。ヒューンは、クレッグと党首選を競い惜しくも破れた人である。レナード卿は起訴もされておらず司法的な処置はとられていないが、大きく報道され、いずれも自民党のイメージをさらに傷つけるものとなった。

アッシュダウンは、このような問題はどの党にも起きるとして、起きたことよりもそれらにいかに対応するが重要だと言う。アッシュダウンは、明らかに自分の経験に基づいた話をしているようだ。党首時代に、女性秘書とのかつての関係が明らかになる可能性があった時、先手を取って自ら記者会見を開いて公表し、「パンツダウン」などと揶揄されながらも、その影響を最小限に食い止めたことがある。

アッシュダウンはもともと英国海兵隊のエリート特殊部隊SBSの指揮官だった。その後外務省に入り、一等書記官などを務めたが、実は英国の対外諜報局MI6のメンバーだった。

1983年から2001年まで自民党下院議員を務め、1988年から1999年まで党首。1997年総選挙では18議席から46議席へと伸ばし、自民党の中興の祖ともいえる。2002年から2006年まで国連のボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表を務め多くの業績をあげた。その後、国連のアフガニスタン特別代表のポストを一度引き受けたものの、アフガニスタン政府側がアッシュダウンのボスニア・ヘルツェゴビナ時代に示した剛腕ぶりを嫌ったためにポスト就任を辞退したという経緯がある。

なお、アッシュダウンは、1997年総選挙前に労働党のトニー・ブレアと自民党・労働党の連立政権の話し合いを進めていた。労働党が地滑り的大勝利を収めたためにその連立政権の話は無くなったが、この経験が2010年にクレッグが保守党との連立に踏み切った一つの要因になっているように思える。

アッシュダウンがどの程度、自民党の党勢を回復できるか注目されるが、少なくとも自民党活動家にとっては頼りになる人物と言えるだろう。これまでの世論調査の結果では、全国的には支持率が大きく下がっているものの、現職の自民党下院議員の議席ではかなり善戦する傾向が出ており、党活動が命運を分けるカギとなる。その点でアッシュダウンの任命は当を得ていると言える。

年金受給年齢を引き上げる英国(Increasing Pension Age)

英国の年金制度は、1909年、自由党政権下で財相ロイド=ジョージによって開始された。受給者の拠出金なしの制度で、受給には数々の制限が設けられていたが、支給開始年齢は70歳だった。平均余命が50歳にも達していない時代である。

現在、平均余命は男性79歳、女性83歳。統計局の予測では50年後の2063年には年金生活者に対する国の支出は2013年の940億ポンド(16兆1680億円:1ポンド=172円)から4380億ポンド(75兆3360億円)へと4倍以上となるとしており、これにいかに対処するかは深刻な問題である。

基本的には年金問題への対応には以下のような方策がある。
① 年金受給開始年齢のアップ
② 負担拠出金のアップ
③ 年金額の引き下げ

ただし、高齢者の数は急速に増加しており、しかも高齢者の選挙での投票率は高い。そのため、政治的に③の年金額の引き下げはかなり困難な問題である。

政府の基礎年金は、国民保険を30年支払った人が満額需給できる。現在の保守党・自民党の連立政権では、インフレ率(CPI)、平均賃金アップ率、もしくは最低2.5%アップの3つのうち、最大のものを採用する「3重のロック」と呼ばれる政策に拠っている。このため、昨年9月のインフレ率が採用され、この4月から2.7%アップの1人週113.10ポンド(19,453円)となる。

ただし、この基礎年金だけでは十分ではないとして、年金クレジットという制度があり、現在、基礎年金は110.15ポンド(18,945円)であるが、他に収入のない一人の高齢者は基本的に併せて週145.40ポンド(25,008円)受け取ることになる。その他、冬季の暖房補助や無料テレビ視聴料をはじめ、様々な手当や制度が設けられている。

年金受給開始年齢は男性65歳、女性60歳であったが、2010年から女性の受給開始年齢が男性と同様65歳へと次第に上がっており、2018年までにこの移行を終える。さらに2020年までには男女ともに66歳となり、1961年以降に生まれた人は、2028年までに67歳になる。

オズボーン財相は、12月初めの「秋の財政声明」で、その後は平均余命の伸びに基づいて受給年齢を上げる方針を明らかにした。つまり、それまで2046年に68歳となる予定であったが、これは2030年代半ばとなる見込みとなった。そして69歳に2048年ごろまでになり、2060年代には70歳代へ到達することとなる。

英国の年金は、働いている人とその勤め先から徴収する国民保険料(National Insurance)から賄われる。つまり、働いている現役世代が負担する仕組みだが、高齢者の数が急激に増加し、しかも益々長寿化している中では、世代間の公平の問題やいかに収支のつじつまを合わせるかという問題がある。

政府は、企業年金への自動加入制度を設け、50%を下回っていた加入率を上げる対策なども講じている。個人の年金能力を上げ、政府の将来の負担をできるだけ減らそうとしているが、仕事のタイプが多様化し、パートタイムやフリーランスが増加している中では決め手になるか疑いがある。長寿高齢化の進展によっては年金受給年齢のさらなる大幅引き上げが必要とされる可能性があり、これからも政府の頭痛の種であり続けるように思われる。

3党首の新年の挨拶(Party Leaders New Year Greetings)

2014年を迎えて英国主要3党首の年頭の挨拶が発表された。3者3様だが、いずれも予想の枠内といえる。

保守党の党首キャメロン首相の挨拶は最も「首相的」である。2010年5月から政権を担当してきて、これまでの3年半の実績を強調した。貫禄がでてきた。英国の経済成長が軌道に乗ってきたが、今でもそれは脆弱であり、厳しい政治的決断が迫られるという。さらに国民にとって良い年となるよう祈ったものである。

保守党と連立政権を組む第3党の自民党の党首クレッグ副首相は、3人の中で最も特徴的なものである。自民党は英国をEU内に留めることのできる唯一の信頼できる政党という主張を打ち出した。そして5年に1度行われる、5月の欧州議会議員選挙では自民党へ投票するように訴えた。これが低支持率にあえぐ自民党にとって最も有効だと判断したのだろう。

労働党のミリバンド党首は、昨年9月の党大会以来訴えている生活水準の問題を強調したものである。世論調査でも経済運営の点で保守党に差をつけられている中、この点が最も有権者にアピールするとの判断であると思われるが、ありきたりという感想を禁じ得ない。

総選挙は2015年5月7日実施予定で、1年4か月後である。今年は欧州議会議員選挙の他、9月18日にはスコットランド独立の住民投票もあり、高度に政治的な年と言える。