下院議員選挙の投票権(Who is Eligible to Vote at a General Election?)

定期国会法の結果、次期総選挙は、2015年5月7日(木曜日)の予定だ。まだ、1年8か月ほど先の話だが、主要政党の間では、既に様々な選挙前の駆け引きが始まっている。

その選挙に誰が投票できるかは、多くの外国人にとっては、なかなか理解しづらい点である。もちろん日本人には投票権はない。しかし、英国人でない人でも多くの人が投票権を持っている。英国人でも誰に投票権があるか知らない人が多い。

選挙を担当する選挙委員会(Electoral Commission)が、誰に投票権があるか明らかにしている。それは以下のようなものだ。

①投票する届け出をしている。
②18歳以上
③英国民、英連邦国の投票資格のある国民、アイルランド国民
④投票資格を失う事由がない

英連邦の加盟国には、インド、カナダ、さらには南アフリカやタンザニアなど50余りある。さらにキプロスやマルタの国民にも投票権がある。例え英連邦から母国が追放されても、その投票権は維持される。

一方、上院議員には下院の選挙への投票権がない。

現在の規定は、1918年の人民代表法から変更されていない。そのために、大英帝国時代からの国王の臣民が今もその当時に与えられた権利を維持しているのである。

このことを問題にする人たちがいる。移民を監視している団体Migration Watch UKによると、2011年の国勢調査で、英連邦の国民で投票権のある人は、96万人いたという。それが2015年までには100万人を超える見込みだ。

つまり、英国に強いつながりを持たない人たちが、選挙の結果に影響を与える可能性が高いと主張しているのである。

先の労働党政権下で、2007年に有権者を絞ることを検討したそうだ。しかし、何の動きもなかった。これは、特に黒人や少数民族の人たちには、労働党に投票する傾向が強いからだと言う(タイムズ紙)。

英連邦の国では、インド系や黒人の人たちが圧倒的に多い。しかもこれらの出身の人たちの多くが、労働党に投票するのは確かに事実である(参照 5.人権構成の変化と政治)。

ただし、これを党利党略のみで判断したと考えるのは、早計かもしれない。英国は英連邦をまとめることで国際的な政治的影響力を保つ一つの手段としているからである。

福島原発の汚染水漏れの問題で見る心配な日本(Another Japan Crisis: Fukushima Leak)

福島原発の汚染水漏れの事件で、現在の日本の抱える大きな問題が出ているように思われるのでここで触れておきたい。

2011年3月の東日本大震災の津波で起こされた原発の問題は、人災というよりも天災の要素が大きく、原発災害の拡大を抑えるための関係者の必死の努力は国際的な称賛を浴びた。その現れの一つが吉田所長の死亡記事である。タイムズ紙の死亡記事は吉田所長への批判にも触れているが、胸を打つものだ。

今回の汚染水漏れの問題は、まさしく人災と言える。BBC東京特派員の報告では、これは明らかに一つの民間会社で対応できることを超えており、日本政府が介入すべきだと主張した。

ここで問題となっているのは、二つあるように思われる。まずは、個別の企業の対応だ。BBCの特派員が指摘したように、「無能、低いモラール、そしてひどいマネジメント」が問題ならば、なぜ、そのような状況になることを東電幹部が許したのか?どこに東電のリーダーシップがあるのか?いったい誰の責任かでそのような状況になることを許したのか?

このような質問をしても具体的な答えが返ってくることは期待できないように思われる。

さらにそのような企業の体質で、本当に今後ともきちんとした作業ができるのかどうかという疑問が生じる。これは、新たな規制やガイドラインを設けるといった問題ではなく、具体的なリーダーシップの問題である。

次に政府の問題だ。なぜこのような深刻な問題をこれまできちんと査察できていなかったのか?また、東電がこのような仕事をきちんと遂行する能力があると、どのような根拠で判断していたのだろうか?政府がこの問題に対してどのようなリーダーシップを発揮してきていたのだろうか?さらに政府が今後どのようなリーダーシップを発揮していくのか?

さらに「子供・被災者支援法」の具体化の遅れを巡る訴訟でも示されているような、後手に回る政府の対応をどのように変えていこうとするのか?

福島原発の問題には、日本の国民からの関心が高いだけではなく、今でも世界の目が集まっている。

特に、今回のような人災の要素の大きな事件については、東電の対応や政府の役割には海外の研究者も含めて大きな関心が集まっている。英国の新聞には連日のように福島原発関連の記事が掲載されている。

いずれ歴史がこれらの点を判断するだろうが、その前に考えておかねばならないのは、このような出来事は日本の評判を大きく傷つけることである。政府は、その行動を世界が注視していることを念頭に置き、きちんとしたリーダーシップを発揮して行ってほしいと願う。

党員減少で苦しむ保守党大臣たち(Tory Ministers Suffering from Declining Memberships)

日本では通常、大臣になれば地元選挙区で支持が拡大する。特に保守系ではそうだろう。しかし、英国ではそうではない。

保守党の党員数が減っているが、それは保守党閣僚の選挙区でも同じである。保守党は党員数を発表していないが、保守党各選挙区支部が選挙委員会に提出した会計報告のサンデータイムズの調査でそれが裏付けられている。

その調査によると、首相のデービッド・キャメロン(David Cameron)と外相のウィリアム・ヘイグ(William Hague)の選挙区ではほとんど減っていないが、それ以外の有力大臣の選挙区の党員数が大きく減っている。

2010年のキャメロン政権発足以来コミュニティ・地方自治体大臣を務めるエリック・ピクルズ(Eric Pickles)の選挙区では2009年から2012年の間に党員が半減している。昨年9月の改造で、それまでの副大臣ポストから北アイルランド大臣となったテレサ・ビリヤーズ(Theresa Villiers)の選挙区では44%減。元保守党党首で、2010年から労働・年金大臣のイアン・ダンカン=スミス(Iain Duncan Smith)は、3分の1減っている。

他に大きく減っているのは、閣僚クラスの保守党下院院内幹事長から2012年9月に運輸大臣に就任したパトリック・マクロックリン(Patrick McLoughlin)、2010年から教育大臣を務めるマイケル・ゴブ (Michael Gove)、2011年に財務省の政務官クラスのポストから運輸大臣になった後、2012年9月に国際開発大臣となったジャスティン・グリニング(Justine Greening)、文化大臣を務めた後、2012年9月から健康大臣のジェレミー・ハント(Jeremy Hunt)それに2012年9月に副大臣ポストから文化大臣に就任したマリア・ミラー(Maria Miller)などがいる。

グリニングの場合、2011年に運輸大臣に就任し、ロンドンのヒースロー空港拡張に反対と明言した。これは、オズボーン財相らの考えに反対するものであった。その結果、翌年、グリニングの意志に反して他のポストに異動させられることとなった。

保守党は2010年の総選挙ではヒースロー空港の拡張反対を打ち出したが、現在では、ヒースロー空港拡張が最も現実的な対策だと考えており、次期2015年の総選挙では、事実上容認の立場を打ち出す見通しだ。なお、ロンドン市長のボリス・ジョンソン(Boris Johnson)はテムズ川の河口の空港建設を提唱しているが実現可能性は少ない。

グリニングは、自分の選挙区がヒースロー空港の進入路のパットニーにあり、これまでヒースロー空港拡張に強く反対してきた。ヒースロー空港周辺の住民などからこれまで多くの応援を受けてきている。担当の運輸大臣として反対の立場を明確にしたのは、自分の選挙区の党員が減る中で、危機感があったことは容易に伺われる。

日本の場合、政治家と様々な利権との関係がよく指摘されるが、英国では、そのようなことは通常考えられない。日本の政治風土も徐々に変化してきているようだが、日本は、この点で、英国の例を参考にすべきだと思われる。

党員の減少する保守党の将来(What Tory’s Future Holds?)

保守党の党員数が大幅に減っているようだ。保守党は1950年代には300万ほどの党員がいた。それが徐々に減り、1980年代に100万人を割った。それが今や10万人程度になったのではないかと見られている

保守党は、現在の党員数を発表していない。キャメロンが党首になった2005年には25万8千ほどであったのが、2010年までに17万台となり、現在では、キャメロンが党首となった時の半分以下になっているようだ。そのため、体面上発表できないようだ。

この急速な減少の理由には、英国独立党(UKIP)への支持の移行とキャメロン保守党の政策への反感、例えば、同性結婚の推進などが言われている。

自民党も2010年に保守党との連立政権に参加して以来、党員数が34%減った。2011年末の4万9千人が2012年末には4万2千5百人になっている。これは、明らかに保守党と連立政権を組んだことへの反感が大きな原因となっている。

一方、労働党は、20万人弱程度の状態で推移している。それでも1950年代に100万を超える党員数があった時と比べるとかなり少なくなっている。

党員の減少は、それぞれの政党の活動に大きな影響を及ぼす。選挙時の個別訪問や、リーフレット配り、候補者選定への参加、それに党費や政党支部への献金など、すべての党活動に影響を与える。つまり自分たちの信ずる目的のために貢献し、見返りを求めない活動家の数が減ることになる。また、党員数が減れば、かつては公費助成がなくても政党活動が可能であったのが、困難となる。

特に大きな問題は、選挙の候補者を選ぶ人たちが必ずしも社会を反映する考え方を持っているとは限らないことや、有権者との関係が希薄になることである。

保守党の現職下院議員の選挙区でも党員数が150を下回るところもあるようだ。保守党は、2015年総選挙への対応として、オバマ米大統領の2012年再選選挙でインターネット選挙を推進したジム・メッシーナを雇ったが、党員が少なくなる中、ソーシャル・メディアを使って浮動票を獲得しようという意図がうかがえる。

一方、主要政党の党員の減少は、社会の変化の反映とも言える。1951年の総選挙では、82.6%の投票率で保守党と労働党の二党で96.8%の得票をした。それが2010年には、投票率は65.1%に減り、両党で65.1%の得票率となっている。一般の有権者の政治離れが言われて久しいが、UKIPへの支持の増加は、既存政党への不満の表れと考えられている。

つまり、社会の変化に対応して政治も変わっていく必要がある。これには、下院議長のジョン・バーカウも危機感を持っている。ニュージーランドでの演説で、議会の根本的な改革が必要だ、有権者と再びつながる必要がある、そして政府の議会へのコントロールが強すぎるため、それをある程度放棄すべきだとの見解を述べたが、政府の保守党メンバーからこれは議長の権限を越えていると批判された。

保守党の下院議員ダグラス・カースウェル(Douglas Carswell)は、インターネットを有効に使って自分の選挙区で党員の数を2倍にした。カースウェルは、登録支持者やインターネットメンバーの制度を設けて、保守党の主な役職や選挙候補者の選定に関わらせたり、政策に影響を与えたりすることができるようにすべきだと主張している。

いずれにしても、これからの政治がインターネットと深く関係のある形で変化していくのは間違いなく、既成政党がiDemocracyにいかに素早く対応していけるかが生き残りのカギとなりそうだ。

保守党候補者となるコスト(The Costs to Become a Tory Candidate)

キャメロン首相率いる保守党の下院議員選挙の候補者となるにはどれくらいお金がかかるのだろうか?なお、英国議会は二院制だが、上院は公選ではない。

英国では、選挙で使える費用は低く抑えられている(参照2010年総選挙候補者別支出まとめ)。本稿で言う「保守党候補者となるコスト」とは、候補者となり、そして候補者として活動していく上で必要だと思われる個人の費用をさす。

保守党支持者の有力ウェブサイトであるConservativeHomeが保守党候補者有志を対象に実施した2006年の調査がある。どのようなものにコストがかかるのだろうか。

①候補者となり、候補者として活動していくコスト。

・保守党のアセスメントに出席する費用、それに伴う交通費と宿泊費。このアセスメントにパスして保守党本部の推薦候補者リストに載ることとなる。

・候補者としてのトレーニング費用。

・党大会などの大会参加費、交通費、宿泊費、さらに、補欠選挙があれば、その応援に駆り出されるが、その費用。

②選挙区を見つけるコスト

・候補者の空きのある選挙区を探し、調査する必要がある。それにはその選挙区への訪問も含み、交通費や宿泊費が必要となる場合がある。しかもそのような訪問は複数選挙区にわたる場合が多く、中には十余りの選挙区を訪問する人もいる。

・選考委員会出席。申し込むと、まずは書類選考があり、それで選ばれると選考委員会に出席してスピーチをしたり、質疑応答、面接を受けたりすることになる。それは何段階にも分かれており、残れば残るほど出席回数が増える。その度ごとに交通費や宿泊費が必要となる場合が多い。

・専門家によるトレーニングを受ける人もいる。演説の仕方、質疑応答への答え方などのトレーニングだが、かなり高いと言われる。

③候補者となってからのコスト

・住居費。もし地元に住んでいれば最小限で済むだろうが、英国では、自分の出身地で出馬することは地元の地方議会議員出身でなければ、そう多くはない。候補者となれば地元に住むことが期待される。場合によっては、それまでの自宅と選挙区での自宅と二つ持つ必要があり、かなりの出費となる。

・政党支部のイベント参加や、それに伴うラッフル(くじ)への費用。数が多く、かなりの額となる。

・電話代。候補者となった後は、2~3倍になると言われる。

・雑費。文房具、切手、コピー、慈善団体への寄付、その他。

④以上を実行するうえで、失う収入。

・昇進の機会を失う。

・ボーナスを失う。

・仕事を失う。時には候補者であることと会社などの勤務が両立しなくなる。

2006年時点では、選挙区の候補者となった人の平均コストは、④の失う収入も含めて£41,550(623万円:£1=150円)であった。今日ではそれより上がっているものと思われる。この調査結果は、当時多くのマスコミに報道されたが、BBCの報道では、「法外なコスト」だとされている。

ただ、日本の選挙と比較すると、保守党の下院議員選挙候補者はかなりつつましいように思われる。保守党でも選挙に立候補する人の大半は、ごく普通の人である。会社員などとして仕事を持ちながら、その制約の中で立候補していく。民主政治の在り方としてはより望ましい姿のように思われる。

保守党の新しい選挙戦略アドバイザー(Tory’s New Election Campaign Adviser)

2015年の総選挙に向かって、各党ともに本格的な準備が始まっているが、保守党は、アメリカのオバマ大統領の選挙運動でインターネット選挙を推進したジム・メッシーナ(Jim Messina)を雇った。

メッシーナは、オバマ大統領の1期目に副大統領補佐官となったが、2012年の大統領選の準備でその職を離れ、オバマ再選に中心的な役割を果たした人物である。現在は、オバマ大統領の法制化プログラムを支える組織「行動への組織(Organizing for Action)」の会長を務めている。

そのため、英国に来て選挙戦略のアドバイザーをするのではなく、米国に留まり、そこからアドバイスする。メッシーナは、オーストラリア人の選挙ストラテジスト、リントン・クロスビー、それに二人の保守党幹事長の指揮下に入ることとなる。

メッシーナは、政策の面にはタッチせず、ソーシャルメディアを使った、インターネット戦略についてアドバイスするようだ。この分野は、クロスビーの弱い分野と言われる。

人事上、これは極めて巧妙な策のように思われる。クロスビーは自分が全体をコントロールしないと気が済まない性格だと言われるが、クロスビーに主導権を任せながらも、オバマ再選戦略で最も大きな役割を果たした人物の協力も得られるからだ。

保守党は、2015年の総選挙は、野党だった2010年の総選挙とは異なるアプローチで臨む必要がある。オバマの場合もそうで、2008年の大統領選挙は、楽観的な気分を良くさせるメッセージで戦えたが、2012年には。経済不安の中、共和党候補のマイナス面を浮き彫りにする戦略に変わった。そのアプローチの変化も保守党に示唆することが多いように思われる。

保守党が世論支持率で労働党を下回っていることもあり、選挙準備を早く本格化させてきているのに対し、労働党はかなり遅れているような印象だ。

労働党は、オバマ選対のインターネット戦略で大きな役割を果たした、英国人で労働党メンバーのマシュー・マクグレガー(Matthew McGregor)を雇った。マクグレガーは現在、9月7日に行われるオーストラリアの総選挙のためにオーストラリアに行っている。労働党は、さらに、オーストラリアでクロスビーと政治的に反対の立場のブルース・ホーカー(Bruce Hawker)を雇うのではないかと見られている(タイムズ紙)が、この調子では、オーストラリア総選挙が終わってから選挙準備に本格着手することになりそうだ。

いずれにしても、選挙戦略の分野は国際化してきていると言える。

住宅取得印紙税報道(The Times’ Stamp Duty Report)

タイムズ紙が住宅取得にかかる印紙税の問題を8月6日のトップ記事とし、また社説でも取り上げた。この問題は、それ以外のメディアでも取り上げている。

英国人にとって、住宅は非常に大きな関心事である。住宅は、短期的には価格の上下があるかもしれないが、長期的には上がると考えられている。この原因の一つには、住宅が不足していることがある。建設許可制度が厳しく、キャメロン政権が経済成長のためにそれを緩和しようとしても保守党内部からも反対があり、遅々として進まない。

英国人の住宅への「執着」は、例えば、ドイツ人と対照的だ。ドイツでは借家が多いが、英国では持ち家が多い。

英国では、初めて住宅を買う人たちのことがよく話に上る。住宅の価格が上がりすぎて、最初の家が買えないというのである。

これは、最初の家を小さくとも何とかして購入し、しばらくするとその価値が上がるので、その上がった価値をもとにさらに高価な家を買い、そしてさらに高価な家へと移っていくことを想定している。そして子供が成長して家から出て行くと家のサイズを小さくしていく。家を年金の原資と考えている人も多い。

しかし、最初の家が買えないと、最初のきっかけがつかめないことになるので多くの人がそれを問題視するのである。

そのようなことから、英国では、住宅にかかる印紙税にはその富の大きさに関わらず注目する傾向がある。

まずは、現在の英国の住宅にかかる印紙税がどうなっているか見てみよう。6つの区分がある。

税率 住宅購入額
0% £125,000(1875万円:£1=\150)以下
1% £125,000を超え£250,000(3750万円)以下
3% £250,000を超え£500,000(7500万円)以下
4% £500,000を超え£1million (1億5千万円)以下
5% £1millionを超え£2million(3億円)以下
7% £2millionを超えるもの

このうち、2012年度では、723,829の住宅が購入され、そのうち、税率が3%以上、すなわち25万ポンド(3750万円)を超える住宅が182,692で、全体の4分の1を占めた。ロンドンでは、特に住宅の価格が高く、購入された住宅の3分の2近くの印紙税が3%以上である。

さて、タイムズ紙は、いわゆる高級紙の一つで、専門職や中流階級の読者が多い。その読者の関心のありそうな記事をトップに載せるのは当然とも言える。

この記事のもとにした分析は、納税者同盟(Tax Payers’ Alliance)という組織のものであるが、これは、労働党政権時代に政府の無駄遣いを攻撃するために作られた。税金を下げることを標榜し、その支援者には、より自由な経済活動を標榜する人が多い。つまり、ある程度の資産のある人が中心となっている。納税者同盟は、現在の印紙税は高すぎると判断している。

一方、この記事の中で不動産仲介業者のコメントも紹介し、高い印紙税が、住宅の売買を妨げているという。もちろん住宅の売買が活発化すれば、不動産会社は望ましいだろう。

ただし、英国の住宅価格は今年初めから上昇している。直近のハリファックスの報告にもそれは見られる。1年前に始まった、政府とイングランド銀行の金融機関への安いローン(Funding For Lending)や、住宅購入への政府の住宅ローン保証制度などの効果が出てきている。さらに来年1月から始まる、より広範囲の人が利用できる制度(Help to Buy)は3年間の期間限定の予定であるが、前イングランド銀行総裁が、この制度を無期限にしないようにと住宅ブームの過熱する可能性を警告した。同様の見方を持つ人は多い。

現状を考えると、印紙税の制度は、もし過熱すれば一定の歯止めをかける上で有効であり、かつ税収増も期待できるので現在の経済状況下では望ましいのではないかと思われる。

タイムズ紙は、印紙税のかかる、それぞれの住宅価格区分の最低額を上げるか、もしくは、制度を変えて、例えば、100万ポンドの家を購入しても、最初の12万5千ポンドは0%、次の12万5千ポンドは1%、次の25万ポンドは3%、そして次の50万ポンドは4%という具合にしてはどうかという専門家の見解を紹介している。ただし、現在のレベルの住宅価格上昇に拍車をかけるような住宅取得印紙税軽減は現実的ではないだろう。

もちろんタイムズ紙の経済・住宅関連担当者はこれらのことを十分理解していると思われるが、それでも、この納税者同盟のストーリーがトップとなった。英国人の注目を浴びるからだと思われる。

財政削減から迫られた国税徴収の強化(Intensifying Tax Collection)

英国の国税徴収を担当する歳入関税庁(HMRC)は、徴税に真剣味が欠けていた面があるようだ。財政削減で歳入が注目され、そのあり方に大きな疑問が出た。例えば、これまで出てきた問題には以下のようなものがある。

①税回避策への対応が甘い。
②税の抜け穴を許している。
③罰が甘い。
④税回避地や外国への対応が甘い。
⑤カスタマーサービスが不十分。

HMRCはゴールドマンサックスに手心を加えた税額合意をしたと批判されたが、財政削減で歳入増に財務省が懸命になる中、財務省、歳入関税庁それに検察庁が連携して積極的な対応をし始めている。

スイス当局らと交渉し、スイスに銀行口座を持つ英国人の名前の提供を求めた。ジャージーなど英国関係の税回避地への対策。英国内で大きな利益を上げながら税をほとんど払っていないアマゾンのような国際企業への対策が急務だが、現行制度上徴税が難しいため、先進国間で協力体制を取り始めた。

また、税回避策の摘発を強め、大手会計会社が政府にコンサルタントとして働きながら、同時に顧客の税回避を助けるといった問題にも手をつけ始めている。

タイムズ紙(8月5日)によると、脱税の訴追件数が大幅に増加している。2011年度には302件であったのが、2012年度には617件と2倍以上に増えている。2014年度までに1165件まで増やす計画だ。訴追されたこれらのケースの有罪率は86%だという。英国ではこの有罪率はかなり高い。

脱税していても合意額を納税することで大目にみていた従来の対応から、訴追する傾向が強まっている。会計士や弁護士などの専門職、それに不動産賃貸などで収益を上げている人などが標的になりやすいという。HMRCは、企業の複雑な脱税や海外での脱税のケースを訴追すると時間と費用がかかるため、手頃な比較的簡単なケースに重点を置いているようだ。もちろんこのような脱税摘発・訴追で、かなり大きな抑制効果を生ことも念頭に置いているようだ。

これらの行動は、実際に徴税増に結びついている。HMRCの捜査や規則をきちんと守らせることで得た税収は2010年に160億ポンド(2兆4千億円:£1=¥150)であったのが、2011年度には210億ポンド(3兆1500億円)に増加した。

HMRCは、会計検査院、下院の公会計員会や上院の経済委員会などから批判されているが、さらに成果を上げることが期待されている。

クロスビーの選挙戦略(Crosby’s Methods)

キャメロン首相の選挙ストラテジスト、リントン・クロスビーの手法の一部が明らかになった。クロスビーとあるロビイング会社のミーティングでの話が漏洩されたためである。サンデータイムズ紙(8月4日)が報じた。

その内容は、大きく分けて二つある。

まずは、英国内の不法移民問題についてである。クロスビーは、内務省が不法移民への対策としてパイロット的に行った看板作戦を批判した。「(自発的な)帰国もしくは逮捕」の大きな看板を車に載せてロンドンの6つの区を走らせたが、これには、保守党より右と見なされる英国独立党(UKIP)のファラージュ党首が「不快だ」とその手法に反対し、また保守党と連立を組む自民党は、そのような試みを知らなかったと抗議した。

クロスビーは、その内容よりもそのやり方に注目が集まったのは失敗で、しかもUKIPに再び注目が集まる機会を与えてしまったと批判したのである。

この批判から見ると、クロスビーが移民問題を重要だと考えているのは間違いないが、「帰国もしくは逮捕」の看板作戦には直接携わっていなかったようだ。なお、8月2日以降大きな問題となった、駅などでの移民のスポットチェックについてのコメントはなかった。クロスビーがロビー会社とのミーティングをいつ行ったのかはっきりしていないことから、スポットチェックにどの程度クロスビーが関わっていたのかは不明である。

次に右寄りの有権者の支持を保守党と競うUKIP対策についてである。次期総選挙では、保守党からUKIPに流れる票を最小限に抑え、しかもUKIPに流れた支持を取り戻す必要がある。それを成し遂げる二つの方法をあげている。

一つは、UKIP所属の地方議員139名の議会での発言などを徹底的に調べ、不適切な言動をマスコミに流すことである。UKIPの信用を落とすことにその目的がある。保守党がそれに関与していることを知られないようにしておくことが肝要としたが、これは明らかになってしまった。

二番目に、保守党の大物で、UKIPと同じ欧州懐疑派の立場をとる人物にUKIPを攻撃させるというものである。これには、かつてサッチャー政権で幹事長などの要職を占め、今でもマスコミに出演するテビット卿らを考えているようだ。保守党支持者の多くはテビット卿に敬意を持っている。政権の中枢にあるキャメロン首相やオズボーン財相ではなく、それ以外で、保守党支持者やUKIP支持者が信頼できるような人物ということとなる。

これらの発言から言えることは以下のようなことだ。

まずは、メッセージの出し方だ。メッセージは、ストレートにターゲット層に伝わるものでなければならない。ターゲット層が素直に受け止められるもので、その注意をそらせる要素は避けねばならない。

次に、目的を達成するための障害をできるだけ取り除き、その力をできるだけ弱めることである。

このエピソードからうかがえることは、クロスビーが選挙のストラテジストと自分の本業のロビイストの二役をかなりオーバーラップして務めているのではないかということである。タバコの包装の問題で「利害の対立」が取りざたされたが、この例から見ると、そのような利害の対立が実際に起きている可能性はかなりあるように思われる。

不法移民取締:保守党のメッセージ戦略?(Immigration Spot Checks: Tory’s Message Strategy?)

8月1日に内務省国境局と鉄道警察が合同で、ロンドンの鉄道・地下鉄駅で本人証明のチェックをした。不法滞在者を取り締まるものだった。同時にイングランド各地で事業所などの不法移民取締りも行った。

このチェックが有色人種に偏っていたという報道から、禁じられている「人種による選別」ではないかという疑いが出たために、平等人権委員会(EHRC:The Equality and Human Rights Commission)が不法差別の疑いで取り調べを始めた。EHRCは政府の独立機関で、平等法の施行を監視する役目がある。

内務省の移民担当大臣のマーク・ハーパーは「人種による選別」を否定し、インテリジェンス(諜報)と妥当な疑いに基づきそのような職務質問をしていると答えた。

この国境局らによる行動は、先週、内務省がロンドンの6つの区で、「帰国するか逮捕されるか」と不法移民に警告する大きな看板を載せた自動車を走らせたことに引き続く動きであり、EHRCはこれも併せて取り調べることとした。

英国には50万から100万人の不法移民がいると見られている。移民には、正規・不正規にかかわらず、多くの国民が強い関心を持っている。移民が雇用を奪い、公共住宅への入居権利を与えられ、しかも社会保障制度に大きな負担をかけているとして、政府は移民を減らすべきだと考えている人が多い。ただし、政府の独立機関である予算責任局は、さらに移民を増やさなければ高齢化に対応できないという報告書を7月中旬に発表しているが。

2010年の総選挙でも、保守党は、移民対策を訴え、20万人台半ばの年間移民数(入国した人の数から出国した人の数を引いたもの)を10万人未満とすると約束した。

しかし、移民はそう簡単に減らせるものではない。しかも移民局は、滞在資格などの移民のケースで多くの問題を抱え、その仕事ぶりは頻繁に批判されている。

移民の問題は、英国独立党(UKIP)への支持が急速に伸び、保守党らの支持が減少した大きな原因の一つで、2015年5月に行われる予定の時期総選挙でも中心テーマの一つである。

世論調査の支持率で野党の労働党に後れを取る保守党は、昨年11月、オーストラリア人のリントン・クロスビーを選挙ストラテジストとして雇った。クロスビーは、オーストラリアでジョン・ハワード首相(在任1996-2007年)に続けて選挙勝利をもたらした人物であるが、移民問題など論議の多い問題ではっきりとした立場を打ち出し、他党と差をつける方策を取った。そのため右と見なされ、物議を醸した人物である。その戦略の基本は、「メッセージ」を重んじることだ。

今回の移民チェックもクロスビーがオーストラリアで行ったような移民対策の強硬策であり、その手が入っているのではないかという憶測がある。

この点、クロスビーがこれを打ち出したのは間違いないように思われる。これこそ、クロスビーの言う「メッセージ」そのものであるからだ。つまり、「移民を取しまる」という政策を打ち出しても、有権者はそのようなことは聞き飽きており、その効果は乏しい。しかし、「移民を取り締まる」行動をしている、という「メッセージ」を目に見える形で送ることは、はるかに強い印象を与えるからだ。

タイムズ紙(8月3日)は、今回の移民チェックが不法差別にあたる可能性があるためマスコミの大きな注目を浴び、保守党は「不満ではないだろう」というオブラートに包んだような表現をしたが、少なくとも保守党はこのような行動に注目が集まれば集まるほど有効だと考えているのではないかと思われる。

UKIPのファラージュ党首が、このチェックは「英国的でない」と批判し、このような方法で少数の不法移民を捕えるよりも、多くの港などで不法に入国してくる外国人を取り締まった方がはるかに有効だ、と正論を吐いた。しかし、保守党はこの行動で「メッセージ」を出すことを目的としているのである。

もちろん不法なことをすることは許されないが、これから保守党がどのような「メッセージ」を出してくるか注目される。