世論調査と次期総選挙(Opinion Polls and Their Readings)

6月30日のサンデータイムズ紙によると、世論調査会社大手YouGovの世論調査の結果、現在の政党支持率が労働党38%、保守党33%、自民党11%、そしてUKIP(英国独立党)11%である。これらは、6月26日のオズボーン財相のスペンディング・レヴュー報告の後に行われた。これをもとにYouGovの社長ピーター・ケルナーがコメントを書いている。

この中で、ケルナーは、労働党が保守党より5%多いだけでは、2015年5月に予定される次期総選挙で過半数を獲得するには不十分だと主張している。そして労働党が過半数を得るには労働党は6%から7%のリードが必要だと言う。

確かにここしばらく労働党のリードはやや減少気味である。しかしながら、1回の世論調査の結果で、このような結論を出すのは少し早すぎるように思われる。YouGovのAssociate Directorアンソニー・ウェルズがこの世論調査へのコメントでも言っているように、これは、誤差の範囲内であり、一時的なものである可能性がある(http://ukpollingreport.co.uk/blog/archives/7729)。

サンデータイムズ紙の記事にせよ、それ以外の新聞でも世論調査の記事では、かなり決めつけた表現をすることがある。それでも、この世論調査から感じられることがいくつかある。

まず、UKIPの支持率が落ちてきている点だ。保守党が最も恐れているのは、UKIPに保守党票を失うることだ。そこでキャメロン首相(保守党党首)が力を入れているのが、UKIPの強く主張するEUの問題と移民の問題で強硬な立場を取ることである。

移民の問題では、スペンディング・レヴュー報告の中でもオズボーン財相が触れたように、英語のできない人には英語のクラスに出席しないと福祉手当をカットするなどといった、かなり強い対策が発表された。また、昨年のテムズ川のオックスフォード大学とケンブリッジ大学のボートレースを妨害したオーストラリア人には実刑6か月を与えられたが、内務省は、この人を強制送還する構えだ。

また、保守党は、連立を組む自民党の賛成なしに、EU在留/撤退の国民投票を2017年までに行う法案を議員提案で提出した。また、キャメロン首相が、EUがお金の無駄遣いをしているなどと具体例を挙げて攻撃し、これらがかなり取り上げられている。

さらにUKIPのファラージュ党首が、かつてタックスヘイブンであるマン島に節税のためと思われる信託ファンドを設けたことがあることを認めた。北アイルランドで行われたG8サミットの余韻もまだ残っている可能性があり、これらの要因が有権者の支持に影響を及ぼしている可能性がある。

なお、世論調査だけでは、それぞれの選挙区の個別の情報まではカバーできない。ケルナーも指摘しているが、自民党の議員の選出されている選挙区では、自民党議員が地元により深く浸透しており、世論調査の支持率で示されるほど次期総選挙で獲得議席は減らない。また、新人議員は次の選挙で他の選挙区よりよりよい結果を出す傾向がある。多くの新人候補者を当選させた保守党はその恩恵を受ける可能性が高い。これらのために、労働党の世論調査上の優位は必ずしも額面通りには受けとめられない。

また、経済運営については、キャメロン・オズボーンが労働党のミリバンド・ボールズを36%対26%で10ポイント上回る(http://d25d2506sfb94s.cloudfront.net/cumulus_uploads/document/fyrzoifgft/YG-Archive-Pol-Sunday-Times-results-280613.pdf)。これは、今年2月の6ポイント差より増加している。

いずれにしても、ミリバンドが、有権者からまだあまり高く評価されていないことははっきりしており、労働党の課題がどこにあるかははっきりしていると言える。

2015年総選挙への準備 (2015 General Election Is Not Far Away)

2015年総選挙の準備が活発化してきた。次の総選挙は、2015年5月の予定であり、まだ2年近く先のことである。しかし、オズボーン財相が2015~6年の歳出のフレームワーク(Spending Review)をこの6月26日に発表することにしたことから、連立政権を組む自民党も総選挙をにらんだ対応が迫られたことと、労働党は、何も決められないという批判を避けるため、財相の発表前に独自の方針を発表しておく必要があったためである。財相の発表では、既に守られている予算の他は、ほとんどの省庁がこれまでの削減に加え、8~10%の歳出削減を強いられる。

6月22日の、自民党の党首であるクレッグ副首相と労働党のミリバンド党首によるそれぞれのスピーチで2015年に向かっての両者の戦略の基本が明らかになった。興味深いことに、いずれの党も有権者からの「信頼」がキーとなっている。

クレッグ首相は、党所属の地方議員らに対して、2010年の総選挙で大学授業料の値上げに反対すると約束したのに、連立政権に入ってそれを破ったことから、「できることを訴える」と発言した。そして、次回総選挙後、2010年のようにどの政党も過半数を占めることのない「ハング・パーリアメント」となった場合には、党として譲歩できない点をもとに交渉するという。

その譲歩できない点とは、地方議会選挙への比例代表制導入、課税最低限度額の1万2千ポンド(180万円)以上への引き上げ、脱炭化策などだと言われる。

自民党の目標は、保守党と連立政権を組んだことや大学授業料の問題で自民党から離れた多くの有権者を再び引き寄せ、さらに新しい支持者を獲得することである。また、前チーフ・エグゼクティブのレナード卿のセクハラの問題で、クレッグ党首を含め、自民党の幹部が大きな批判を浴びた。つまり、いかに「信頼」を取り戻すかが党への支持を回復するカギである。

自民党は、その下院議員と地方議員、党員が、信頼を取り戻すために尋常ではない努力をしている。それでも次の総選挙は、非常に厳しい状況だ。クレッグは、これまでの抗議政党の立場を越えて、政府の党としての役割を担っていく覚悟があるべきだと発言したが、これは、クレッグの現在の立場を考えると当然の発言だろう。

自民党に今もなお大きな影響力を持つアッシュダウン元党首らの支持を受けている中、次の総選挙までその立場に留まるのは間違いない状況だが、総選挙の結果次第で、自らの進退を考えるように思われる。

一方、ミリバンド党首が、その政策フォーラムで訴えたことは、2015年~16年の予算では、オズボーン財相の予算の枠組みを踏襲し、追加の借金をして歳出を増やすことはしないということである。1997年にブレア労働党政権が誕生した時には、経済が上向いており、歳出を増やせる状況であったが、2015年は状況が異なるとし、もし、労働党が政権を担当しても、政府支出を削減する必要のある状況は変わらないとした。

ミリバンドには保守党の批判を予め封じる目的があった。「政策がない」とか「借金して使うだけだ」という批判をかわし、一般の有権者のミリバンドの「経済・財政に弱い」という評価を覆していく必要がある。つまり、ミリバンドは、自ら率いる労働党政権の経済財政政策への「信頼」を獲得しようとしている。

その一環として労働党は既に裕福な年金生活者への冬季燃料手当を廃止することや、子供手当も年収による額の削減を打ち出したキャメロン連立政権を踏襲することを表明している。

ミリバンドは、労働党の中では、労働党政権の政策的な夢を語りながらも、財政的には過大な期待が高まるのを防ぎ、同時に有権者にミリバンドらの「信頼性」を増そうとする対応をしようとしている。

すでに、国家公務員の一般スタッフの組合PCSは、ミリバンドは頼りにならない、とこき下ろしている。また、保守党はミリバンドの発言に、「ミリバンドは弱すぎて約束を守れない。信頼できない」と批判している。しかし、ミリバンドは、これから同じメッセージを繰り返し、訴えていくことで有権者の理解を得ようとする作戦である。

なお、賭け屋大手のウィリアム・ヒルの賭け率は、次期総選挙で労働党が最大政党になるのは4/9で、次の首相にミリバンドがなる賭け率は4/6であり、ミリバンドにかなり有利な状況だと見ている。しかし、労働党が単独で過半数を取る賭け率は5/4で、やや不安がある。

各政党は、次の総選挙に向かって、できるだけ有利な立場に立てるよう、その準備に本格的に走り始めている。