道州制への疑問(Is Devolution that Good?)

日本では多くの政党が道州制の導入をマニフェストに入れる考えのようだ。しかし、道州制は本当にそんなにいいモノだろうか?

英国では、ブレア労働党政権でスコットランドとウェールズの地方分権を行った。1997年に住民投票を行い、それぞれの議会が開かれたのは1999年からである。スコットランドは、もともと独立の機運が強く、スコットランド人としてのアイデンティティが強いため、この地方分権は、当然の成り行きと見られた。むしろこの地方分権は、独立の機運が強くなりすぎるのを防ぐための一種のガス抜きと考えられた。ウェールズでもウェールズ人としての独自性が強く、ウェールズ語が英語と並んで公用語となっている。この11月15日に行われる新制度の警察・犯罪コミッショナーの選挙でも、既に印刷された投票用紙が英語だけだったために、すべてが廃棄されることとなった。大急ぎで英語とウェールズ語両方の入った投票用紙が準備されている。ウェールズは、分権実施後次第にその住民の支持を得ていったが、住民投票では、賛成50.3%、反対49.7%で、かろうじて賛成多数で分権に進むことになった。

ブレア労働党政権では、これをさらに進めて、人口の84%が住むイングランドの分権を図った。当時のプレスコット副首相がこれを促進し、まずは手始めにイングランドの東北地区で住民投票を行った。ところが、投票率44.7%でその内77.9%が反対し、住民の意思がはっきりした。このため、プレスコット副首相は予定していた他の住民投票を中止した。このような改革を行うには、現代では、住民投票で住民の意思を量る必要があるだろう。政治家や国家公務員、または学者の思いつきだけでことを進めるのは疑問があるように思われる。本当に住民がそういうシステムを求めているのか見極める必要がある。

日本の場合、最も大きな問題だと思われるのは、道州制を導入すれば日本はよくなるという発想だ。本当にそうなのだろうか?スコットランドは、スコットランド独立を謳って設立されたスコットランド国民党(SNP)が議会の過半数を握り、政権を担当している。第一首相のアレックス・サモンドが率いる、左寄りのSNP政権は、優れた手腕を発揮しているといわれ、高い評判を得ている(現在、独立後のEU加盟をめぐりウソを言ったという問題が出ているが)。SNPは2007年選挙後、少数政権を担当し、2011年に過半数を握る政権となった。そして2014年秋にはスコットランドの英国からの独立をめぐる住民投票を実施することになった。

ところが、スコットランドは1999年分権議会発足後既に13年経つが、これまで分権によるはっきりした経済的メリットが見られていないのである。スコットランドの課税権限には制限があるが、スコットランドは、中央政府から有利な補助金を受け、住民一人当たりの財政支出は、2010-11年で英国平均より13%高い。大学授業料は無料で、福祉関係費もイングランドより11%も高い。そのため、財政的にはかなり優遇されていると言える。しかし、未だに1980年代の景気後退で受けた大きな打撃から抜け切れていない。エディンバラを中心にした銀行などの金融セクターが伸びていたが、信用危機で、地元大手の二つの銀行が中央政府から救済されることとなり、他の地域と同様その成長も止まった。

スコットランドの分権がどのような経済的便益をもたらしたかについては幾つもの研究がある。ほとんどないか、まだその効果が表れていない、というのがこれらの結論である。それらの一つである下記の論文では、一般的に地方分権には、経済的な便益があると政府も国際機関も考えがちだが、実際的な証拠が乏しいと指摘している。

http://eprints.lse.ac.uk/33560/1/sercdp0062.pdf

スコットランドでもウェールズでも住民投票の際に使われた議論は、地方分権すれば、経済的な配当があるということだった。しかし、これは実現されていない。むしろ、ウェールズでは、議会の設けられたカーディフがよくなっただけで、以前より悪くなったと言われる。

日本の場合は道州制だが、道州制にすれば経済的便益があり、うまくいくと考えがちではないだろうか?道州制にしたとしても、これはあくまでも一つのツールであって、そのツールをいかに使って地域を発展させていくかは全く別の問題である。英語の表現にYou can lead a horse to water, but you can’t make it drink というものがあるが、道州制にしたとしても、その制度に対する住民の支持が乏しく、しかも地域をどのようにして発展させていくかの具体的なアイデアとそれを実行していくブルドーザーのようなリーダーがいなければ、逆効果であろう。かなりの手腕があると評価されているスコットランド内閣でも分権の経済的便益を上げるのに手こずっているのである。ウェールズの例で見られるように、道州制の結果で予測されるのは、既に繁栄している地域はますます栄え、そうでない地域は、さらに悪化する可能性があるということである。

一方、こういう改革で心しておかねばならないのは、そのコストである。実施にかかる費用と時間、その手続き、さらには行政上の混乱など多くの問題があろう。まずはその具体的な計画を作るだけでも相当の時間がかかる。中央と地方との役割分担、権限移譲のレベルなど簡単には片付かない問題のように思われる。当然ながら、中央から地方へ権限が移ることになれば、国家公務員の必要数が減る、さらに幾つかの県レベルの数が減ることになればその地方公務員の数も減ることになろう。これらの人員を解雇することになれば、その費用はかなりのものとなる。新たな役所や議会を建設するということになれば、その費用もかなりのものとなろう。その上海底資源の取り扱いなど相当細かな計画が必要だ。

いずれにしても、もし、道州制を本当に実施したいと考えているのであれば、現在の日本で行政区画の問題なく実施できると思われる北海道や沖縄に道州制で予定される権限などを委譲し、試行的に実施してみることが考えられるだろう。そこから学べることが多いかもしれない。英国でできていないことが日本でできる可能性はある。しかし、道州制を一種の特効薬のように考えるのは恐らく誤りだろうと思われる。

政治家に与える家族の影響(Family History’s Effects on Politicians)

政治家には、自らの経験だけではなく、身近な親類家族の経験が大きな影響を与える場合がある。それは英国のトップ政治家にも当てはまる。

ジョージ・オズボーン財相(1971年5月23日生)は、2010年5月、キャメロン政権発足とともに39歳で財相に就任した。1886年以来最も若い財相である。1886年に財相となったのは、元英国首相ウィンストン・チャーチルの父のランドルフ・チャーチル(1849年2月13日‐1895年1月24日)で、1886年8月3日に37歳で財相となり、その年の12月22日まで務めた。ランドルフ・チャーチルは5か月足らずで財相を辞任したが、オズボーンは就任してからこれまで2年半ほどになる。

ランドルフ・チャーチルは、マールバラ公爵の3男で、貴族の生まれだったが、オズボーンは、1629年から続く准男爵の家系の嫡子である。准男爵位は、通常貴族として扱われている。オズボーンは非常に恵まれた家に生まれ、「パブリックスクール」のセント・ポールズ・スクールからオックスフォード大学に進んだ。

日本には、この「パブリックスクール」に匹敵する学校がないのでわかりにくいかもしれない。これは、インデペンデントスクールと呼ばれる公的な助成を受けていない学校の中でも特に伝統と格式のある学校を指す。ここでの「パブリック」とは、非常に裕福な家庭で行われていた私的な家庭教師による教育とは異なり、一般に開かれているということを意味したものである。パブリックスクールは、イングランド、ウェールズそして北アイルランドにある。なお、公的な助成を受けている一般の公立学校はステート・スクールと呼ばれる。

パブリックスクールには公的な助成がないため、授業料が非常に高い。セント・ポールズ・スクールの場合、年に3学期あるが、2012-13年度には、1学期ごとに6,558ポンド(日本円にして85万円ほど)で、3学期合計で、250万円余りとなる。もし、寄宿舎に入れば、1学期9,822ポンドで、年にして380万円程度となる。英国の平均年収は、2万5千ポンド程度(330万円程度)と言われ、通常これらの学校にはかなり裕福な家庭の子供しか縁がない。しかも入試は極めて難しい。裕福ではない家庭の子供のための奨学金制度もあるが、この適用を受けるのは、ごく少数である。これらの学校に行くメリットは、まず、非常にすぐれた教師から学ぶことができ、また、言葉遣い、アクセント(これは訛りのこと)などを矯正されるので、少し喋れば、どのような家庭の出身で、どのような学校を出たかが一目瞭然となることである。ただし、有名パブリックスクールの一つラグビー・スクールを出た保守党下院議員アンドリュー・ミッチェルの引き起こした「平民事件」でも明らかになったが、パブリックスクール内でも、成り上がり者の子弟を「平民」と呼ぶ者もいるようである。

さて、オズボーンは、保守党の調査部で働いた後、ジョン・メージャー保守党政権下でスペシャルアドバイザーとして働き、1997年総選挙で保守党が下野した後、党首となったウィリアム・ヘイグ(現外相)の下で、政治秘書を務めた。その後、2001年に保守党の非常に強い選挙区から下院議員に当選。そして、マイケル・ハワード党首に目をかけられ、2005年5月には2回目の当選を果たしたばかりで影の財相に任ぜられる。

公立学校を出て、オックスフォード大学に進んだウィリアム・ヘイグがオズボーンのことを評し「もし我々にオズボーンのような恩恵があれば、オズボーンの20倍のバカ野郎になっただろう。オズボーンは全くバカ野郎ではないが」と言ったといわれる。オズボーンは見かけはともかく、実態は傲慢でうぬぼれた人物ではなさそうだ。むしろタイムズ紙のコラムニスト、ドミニック・ローソンが言うように、「内気な人物」であるという方があたっていると思われる。オズボーンは、セント・ポールズ・スクール時代に、政治家を目指し、「首相になれなければ外相になりたい」と言ったそうだが、これには、少なからず母方の祖母の影響があるように思われる。

母方の祖母クラリス・ロックストン=ピーコック(1924年5月7日―2004年7月24日)は、ハンガリー生まれで、家族とともに英国へ渡ってきた。英国で中等教育を終え、英国の美術学校で学んだ。1956年にハンガリー動乱が起き、多くのハンガリー難民が英国に来たが、これらの人たちが祖母の家に集まってきたそうだ。オズボーンの下院での最初の演説で、この祖母の話を語っている。そしてオズボーンは言った。「私が家族の過去から学んだ教訓はこれらだ:政治的なシステムを、それを受け入れたくない人たちに押し付けてはいけない、統治者と被統治者の隔たりを生むようなことを許してはならない、そして人々の声を聞くことを止めるわけにはいかない」。

オズボーンの祖母は、有名な画家だった。タイムズ紙の死亡記事によると、終生、ハンガリー訛りの強い英語を話していたそうだが、オズボーンの母方の祖父が亡くなった後、保険のロイズやバルチック海運取引所の会長を務めたアントニー・グローバー卿と結婚した。そして2番目の夫も亡くなった後、3番目の夫は、防衛省の事務次官を務めたジェームス・ダンネット卿であった。ハンガリー政府が、1988年にハンガリー最大の文化イベントであるブタペストフェスティバルでショーを開くよう申し出て、祖母は第3番目の夫ら家族と一緒に行ったそうだ。この祖母は非常に知的で、少なからず政治的な影響力を発揮した熱情的な人物であったようだ。

自分の近い親族が影響を与えた例は、オズボーンだけにとどまらない。例えば、キャメロン首相は、10月初めの保守党の党大会で、自分の父イアンの話をした。身体障害を持つ父から楽観主義を学んだと言った。キャメロンの父は生まれつき脚の膝より下に障害があり、膝より上だけを見ると身長190センチ近い大男に見えたが、実際の身長はそれより30センチほど低かった。足の指やかかとにも障害があった。それでも決してそれを理由に引き下がろうとはせず、常に前向きに生きた人物である。

一方、自民党党首のクレッグ副首相の母とその両親はオランダ人で、第二次世界大戦中に、オランダの植民地であったインドネシアで日本軍の強制収容所に入れられた。クレッグの母親は、インドネシアのジャカルタで1936年に生まれた。1942年に日本軍が占領し、クレッグの母は両親や二人の姉妹とともに強制収容所の劣悪な環境で終戦の1945年まで過ごした。母の父親は別に収容された。そのため、日本軍に非常に悪い思い出がある。特に父親は、後にオランダの銀行ABNの頭取になった人物であるが、亡くなるまで日本への深い憎悪を持ち続けていたと言われる。

クレッグの母は、イングランドを訪れた時に父と知り合った。クレッグの父方の祖母は、ロシア帝国の男爵家の生まれで女男爵であった。そのため、父は、半分イングランド人で半分ロシア人である。父は銀行家で、日英関係を促進するために設けられたある基金の理事を務めていた。

母親がオランダ人、父親が半分ロシア人であるために、クレッグの血は4分の1イングランド人であるが、クレッグは英国で生まれた英国人である。英国ではこういう例は多い。ただし、クレッグの場合、オランダ語を流暢に話し、母方の実家があるためたびたびオランダを訪れている。欧州大陸の国々に親近感があり、英国人に特有の一種の「島国根性」がなく、英国を大陸との比較で見る能力がある。

労働党党首のエド・ミリバンドは、英国の賭け屋によれば、次の首相の筆頭候補である。ミリバンドの母親はポーランドで生まれたユダヤ人で、父親はベルギーで生まれたポーランド系のユダヤ人である。母は、ドイツ軍占領下のポーランドで、多くのポーランド人にかくまわれ、ホロコーストで殺されずにすんだ。ミリバンドの兄デービッドが、ブラウン労働党政権の外相として、2009年、ポーランド人に母を救ってくれたことを感謝した。父親も祖父と一緒にドイツ軍から逃れて1940年に英国に来た。ミリバンドの父方の祖母と叔母は、第二次世界大戦中、フランスの農家でかくまわれ、終戦後再会した。多くのユダヤ人がナチスドイツに迫害されたが、ミリバンドの家族もそのために翻弄された。

英国は、多国籍の人々が集まる場所である。そのため、政治家にも多くの血筋が混じっている。その血筋から出てきた過去の経験が、現代の政治に生きていると言える。

警察コミッショナー選挙から逃げる首相(Cameron Distances Himself from the PCC Elections)

11月15日に、警察・犯罪コミッショナーの初めての選挙がイングランドとウェールズの41の警察管区で行われる。このコミッショナーの制度は、警察活動がより地域住民の関心を反映し、警察のアカウンタビリティー(説明責任)を向上させることを目指して設けられた。警察管区ごとに公選で1人ずつ選ばれる。これまで警察を監視する役割を果たしてきた、管区ごとの警察委員会では不十分だという考え方に基づく。

コミッショナーには、それぞれの管区警察の目標を策定し、予算を決め、さらに管区警察の責任者であるチーフ・コンスタブルを任免する権限がある。なお、コミッショナーを監視する仕組みも設けられており、それは警察・犯罪委員会で、地方議員らで構成される。ロンドンは仕組みが他の地域と異なり、ロンドン市長がこのコミッショナーの役割を果たすことになっており、今年1月にすでにコミッショナーの制度に移行した。

この制度のアイデアは、保守党が2010年の総選挙のマニフェストで打ち出し、自民党との連立合意でも承認され、2011年9月に法制化された。特に大きな問題はないように見えたが、実は、政治家にとっては非常に深刻な問題が起きている。それは、住民の関心が非常に低いことだ。選挙委員会は、既に投票率は18.5%程度にとどまるかもしれないという見解を出しているが、10月の世論調査の結果でも、絶対に投票すると言う人はわずか15%しかいない。
(http://www.apccs.police.uk/fileUploads/PCC_election_polling_2012/APCC_PCC_questions_Ipsos_MORI_toplineresults_221012_FINAL.pdf)
いずれにしてもかなり低い投票率となる見通しである。投票率が低すぎると、この制度の正当性自体に疑いが出る。つまり、政治家にとっては、なぜそのような制度を推し進めたのかという疑問を突き付けられることになる。

こういう状況を見て、キャメロン首相は、この選挙に直接関わろうとしていない。むしろ対岸の火事のように振る舞っている気配がある。自分が関わっても、投票率の大きな上昇は望めず、むしろ逆に自分の責任を問われる可能性が高いためである。大失敗に終わった、指定地方自治体で市長制度を設けるかどうかの今年5月の住民投票でも同様の対応をしたが、これらは首相の責任放棄と言われても仕方がないだろう。

キャメロン首相の失敗(What a mistake Cameron made!)

大臣が首相官邸前の門を警備する警官にののしり言葉を吐き、平民と呼んだとされる「平民事件」の余波は、非常に大きい。当の大臣は先週辞任したが、この事件によるキャメロン首相と保守党へのダメージは極めて大きいように思われる。キャメロン首相は、この大臣を更迭せず、守ろうとした。それが保守党の「嫌な党」イメージを再認識させているようだ。

オズボーン財相の電車切符事件にもそのダメージが現れている。この事件そのものは何でもないことだが、BBCまで巻き込んだ大きな報道に発展した。ことの次第はこうだ。財相が、19日金曜日に選挙区からロンドンに戻ってくるために電車に乗ったが、それは予定していた電車ではなかった。そこで、普通切符で乗車し、ファーストクラス(日本で言えばグリーン車)に御付の人(スペシャルアドバイザーの一人)と一緒に座った。御付の人は、車掌を探し、事情を説明したが、車掌はファーストクラス料金を別途支払う必要があると主張し、結局、190ポンドほど(約2万5千円)を支払った。

オズボーン財相にとって不運だったのは、ちょうど御付の人が車掌と話した時、そのすぐ横にITVというテレビ会社の記者が座っていたことだ。この記者がこのやり取りをツイッターで報告したために、2時間ほどたってロンドンのユーストン駅に到着した時には、大勢のメディア関係者(BBCも含む)が駅に詰めかけるという事態にまで発展した。

21日日曜日のBBCのラジオ番組で、保守党支持者らのウェブサイト、ConservativeHomeの編集長は、これはノンストーリーだと主張し、こういうものをBBCが報道するのはおかしいと言い張ったが、それはあまり効果がなかった。むしろ、ことの次第はともかくとして、「平民事件」で窺われたように、保守党は、自分たちの権力を笠に着ているという印象を裏付けるのに役立ったようだ。そのラジオ番組の街頭インタヴューでもそれが表れていた。

保守党の中で、キャメロン首相が「平民事件」の大臣を素早く更迭しなかったことに大きな批判があるが、それだけではなく、一般の人、それにメディアのキャメロン首相と保守党へのイメージが大きく悪化することにつながってしまったようだ。

弱くなった政治家は打つ手を誤る(Weakened Cameron Lost the Plot)

キャメロン首相が10月17日の水曜日の首相の質問タイムで、電気・ガス料金の大幅値上げに触れ、これらを扱うエネルギー会社が消費者に最も安い料金表を提供しなければならないよう法制化すると述べた。ところが、エネルギー会社らがそれは初耳だと言い、本来この問題を担当するエネルギー・気候変動省も驚いて、首相の言葉を追認しなかった。エネルギー問題専門家などは、それは無理で、そういうことをすればかえって競争を阻害し、料金が上がるだけだと言う。しかも近い将来エネルギー危機を迎える英国への投資を妨げると、経済団体の英国産業連盟(CBI)も批判した。18日までにはこの事態は「エネルギーシャンブルズ」と呼ばれ始めた。

なお、この電気・ガス料金については、英国は、6社の大手に市場が支配された形となっており、競争がきちんと働いていない。現在、約400の異なった料金表があると言われており、消費者の4分の3が最も高い料金表で料金を払っていると言われる。また、一社が値上げすると、他の会社に口座を移す人は15%程度で、事実上、最も高い料金表で支払っている人が新しく口座を開く人を引き寄せるための新口座特別料金表を補助している。この格安料金のために、市場への新規参入が極めて難しくなっている。

競争が働いていない原因には、料金表の種類が多く、極めて複雑で、これらを理解できる人があまりいないことがある。標準的な基本料金の形式が決まっておらず、そのため、エネルギー会社が、これを逆手に取り、さらにわかりにくくしているようだ。それに、他の会社に口座を移せば、そこで間違いが起きる可能性が高いと考えられている。もし安い会社に移しても、その安い会社がすぐに値上げに踏み切る可能性があり、その利点が失われてしまうかもしれない。また、1年間料金表固定の選択肢があっても、エネルギー価格には上下があり、これらが全体像をさらにわかりにくくしている要素ともなっている。

さて、この「エネルギーシャンブルズ」を招いた原因は、いろいろな憶測があるが、キャメロン首相が言葉を誤った、もしくはまだ調整中の具体的にどのようにことを運ぶかまだ決まっていないことをキャメロン首相が先走って発表してしまったことにあるようだ。

水曜日の首相のクエスチョンタイムでは、労働党のミリバンド党首が、警官を「平民」と呼んだ院内幹事長を務める大臣を攻撃をしてくることがわかっていただけに、その準備に気を取られていたこともあっただろう。院内幹事長は、19日金曜日、ついに辞任したが、この「平民事件」で院内幹事長を守ろうとしたキャメロン首相は、このためにさらに多くのポリティカルキャピタルを失った。これは、これまでの多くの政治的失敗、つまり「シャンブルズ」とUターンの後である。しかも、英国のEUとの関係をめぐる国民投票や、上院改革などの問題で多くの保守党下院議員がキャメロン執行部の方針に反対し、キャメロンの党内基盤に揺るぎが見える。その上、低支持率にあえぐ自民党が、連立政権内で独自性を出そうとしており、今後の連立政権内の政策調整がかなり難しくなっている。

こういう一連の問題を背景に、メディアでは、キャメロン首相とその政権を支える人たちの経験不足を指摘し始めているが、これらの結果、キャメロン首相の立場は極めて弱くなってきているといえる。問題は、キャメロン首相のポリティカルキャピタルが少なくなってきているために、きちんとしたバランスのある決断ができなくなっているように見えることだ。

最も新しい失敗「エネルギーシャンブルズ」にそれが現れているように思われる。強い首相なら、「申し訳ない、言葉足らずだった」などと謝罪し、それでこの問題を終わりにできるだろう。多くのコメンテーターは言葉を誤ったと思った。また、労働党の影のエネルギー相もそう発言した。しかし、首相官邸は、何とかこの問題からの逃げ道を探ろうとした。結局、消費者の側に立って、消費者が最も安い料金表を与えられるよう確実にするぐらいのことしか言えず、当初の発言のように強制的に最も安い料金表を提供させるという言葉から後退した。しかも一方では、消費者グループから「約束を守れ」と言われるありさまである。

英国政治にとっての問題は、この「弱くなったキャメロン首相」を抱えて、次の総選挙まであと2年半過ごしていかねばならないことだ。連立政権を組む自民党は、世論調査の支持率が低く、このまま支持率が上がらなければ、次の総選挙では大幅に議席を失うのがはっきりしているだけに、解散を望んでいない。保守党も景気が回復し、財政再建が軌道に再び乗り、しかもEUとの関係で具体的な成果が出なければ、選挙に出られる状況にはない。キャメロン首相はますます弱くなる可能性が強く、このままで行けば、1997年にトニー・ブレア率いる労働党に大敗したジョン・メージャー政権のようにじり貧となり、次期総選挙では、労働党に大きく負ける可能性がある。

スコットランド国民投票実施合意(Edinburgh Agreement)

キャメロン英国首相とサモンド・スコットランド第一首相の間で、スコットランドの独立に関する国民投票を実施することが決まったが、スコットランド独立につながる結果が出る可能性は少ないと見られている。内容は以下のようである。

① 2014年年末までに実施
② 質問は、スコットランドが英国を離れるかどうかに関してYesかNoの一つだけで、英国の選挙委員会がその表現の妥当性について検証する
③ 投票できる有権者には16歳と17歳も含む
④ 中央政府が国全体の憲法問題に関する責任を持つ立場から、スコットランド議会にこの投票をする権限を与える。
⑤ どのような結果となろうとも、中央政府とスコットランド議会が協力してスコットランドの人々に最善となるよう努力する。

実施時期については、これまで中央政府は、2014年秋は遅すぎる、不透明な状態を長続きさせないためなるべく早く実施したいと主張してきたが、スコットランド側の主張に折れた形だ。2014年には、夏から秋にかけて、スポーツの英連邦大会がスコットランドであり、また、ゴルフのライダーカップも行われる。その上、かつてスコットランドの独立に大きな役割を果たしたバノックバーンの戦いの700周年にあたる。スコットランドの国民感情を掻き立てる効果を期待していると思われる。

質問の形については、スコットランド側は、質問を二つにして、独立Yes/Noの他に、大幅な分権に関する質問も付け加えることも検討していた。これは、いずれに転んでもスコットランドに有利と言う判断であった。しかし、中央政府側は、Yes/Noの質問だけを要求していた。

また、この国民投票にのみ16歳まで投票権を与えたのは、スコットランド側に若い人たちの方が、独立に賛成する傾向が強いと判断してのことだ。国民投票が2年先であることを考えると、現在の14歳以上が対象となるため、スコットランドの学校ではかなり「スコットランド独立」の機運が盛り上がる可能性がある。しかし、これは、約400万人の有権者に12万3千人を付け加えるだけだと言われ、しかも、これらの人たちが投票するには、有権者登録をしなければならない。若い人の低投票率の傾向を考えると、Yes票がわずか0.2%程度増えるぐらいの影響しかないと見られている。

いずれにしても、これまでの世論調査の結果からYes/Noの質問で、Yes票はせいぜい3分の1程度で、Noのほうがかなり優勢と見られている。

党大会シーズンを終えて(How the Party Conferences Went?)

 

キャメロン首相の保守党大会のスピーチは聞かせるものだった。前日のロンドン市長・ボリス・ジョンソンの演説とは趣を変え、大向こうに受けるようなレトリックを避け、着実に自分の来歴と、自分の目指すもの、これまでの実績、そしてこれから予想される困難な障害を労働党との違いを浮き立たせるように語った。一種の緊張感を最後まで保ち、非常に完成度の高いスピーチだった。さすがという印象があった。あるBBCのジャーナリストは、首相らしい演説だったと評した。

ただし、聞き終わった後、いったい何を話したのだろうかと振り返ってみると、キャメロンのジョークと父親の話、亡くなった長男の話、そして、自分の育った恵まれた境遇を社会に広く広げたいという話であった。キャメロンのジョークは、労働党をダシにしている。労働党は政権担当中も、野党になっても、お金を借りることばかり考えている。One Nation ならぬOne Notionだと揶揄したものだ。これは、保守党大会だからジョークになる。

キャメロンのスピーチは聞かせるものではあったが、話の中で使った統計には疑わしいものがあった。もちろんどこかにそのような統計はあるのであろうが、政治的なスピーチでは、時に統計を非常に巧妙に使っている場合があるので留意しておく必要がある。

それよりも、BBCの政治副部長が、キャメロンは保守党の党首となってから7年もたつのに、自分をあらためて今さら定義しなければならないのは、尋常ではないとコメントした。一方、政治部長は、これまでの批判に対する反論を一つ一つ上げた、防衛的な演説だと評した。

キャメロン首相は、競争のますます厳しくなる国際環境の中で、英国が生き残っていくためには、国の財政を立て直し、福祉制度を見直し、教育を向上させ、公平な社会とし、誰もがよくなろう、よくしようという向上心を持つ国が大切だと訴えた。

これはよくわかる話で、多くの人がそれに賛成するだろうが、向上心や、一生懸命働くなどと言っても、このような「スローガン」は、残念ながらすぐに忘れ去られてしまうように思われる。このスピーチは保守党大会参加者にはかなりの満足感を与えたようだが、一般の有権者の判断はどうだろうか。

今年の党大会シーズンのハイライトは、ミリバンド労働党党首のスピーチだろう。10月14日のサンデータイムズのYouGov世論調査では、この党大会シーズンで最も成功したのは誰かという問いに対して、キャメロンとした人が22%、自民党のクレッグとした人が3%だったのに対して、32%がミリバンドと答えた。それまであった、ミリバンドは党首そして将来の首相としてふさわしくないのではないかという大方の見方を変えたものだったからだ。そのスピーチでOne Nation Labourを打ち出したが、これは、保守党のこれまでのOne Nation Toryを変えたものである。One Nation Toryとは「金持ち・特権階級」と「貧しい労働者階級」がかい離した国ではなく、全体で一つにまとまった国にしようとする考え方である。かつてこれを打ち出したのは、かつて保守党首相を務めたベンジャミン・ディズレーリであった。ディズレーリはもともとポルトガルから移ってきたユダヤ人移民の子孫で、ミリバンドは英国に移ってきたポーランド系のユダヤ人の子供である。ディズレーリとミリバンドはこの点で共通点があるといえるだろう。

ミリバンドンの演説は、かなりリラックスしたもので、65分の演説をすべて覚えておいて話したものだった。政策的な内容はほとんどなかったが、政策の方向性を示すもので、これには多くが驚いた。One Nation Toryの上から下を見下ろした発想ではなく、つまり、金持ちにより多くのお金を稼がせながら課税し、それを下に振りまくという発想ではなく、国全体をOne Nationに合致するように変えていくという発想である。ミリバンドは、この演説に相当な自信があったように思われる。それが演説に現れていた。その結果、政治を報道するジャーナリストのかなりの敬意を勝ち取った。これは大きな成果と言えるだろう。今後ミリバンドのことを書く際の視点が異なってくるからだ。これとOne Nation Labourのスローガンは今後長く残るように思われる。

なお、ミリバンドは、今の時点で、詳細な政策を出す必要はない。選挙はまだ2年半先のことで、経済状況はまだまだ変わる。その上、一般に英国では、選挙は「政権政党が失う」ものだと考えられている。経済状況が悪く、保守党には左右の対立があり、政策のUターンやミスが続いている。しかも保守党は、英国のEUからの脱退を求める英国独立党UKIPに大きく票を失う状況だ。自民党の支持率は低いままで、前回の総選挙で、自民党に票を投じた人の多くが労働党に投票する構えである。そういう中、ミリバンド労働党はまったく焦る必要はない。

次に自民党のクレッグを見てみよう。クレッグのスピーチは率直でしっかりしたものだったと評価される。自民党は連立政権の中で重要な役割を果たしているとし、クレッグについてきてほしいと訴えた。クレッグのスピーチで、キャメロン首相らとの間で政権の基本的な財政経済政策については変えないという合意ができていることが明らかであったが、その後のオズボーン財相のスピーチで、具体的な税制などではまだ合意ができていないことが明らかになった。

自民党の中にはクレッグ党首を今の時点で入れ替えようという考えはあまり大きくない。しかし、代替党首の筆頭候補とされるケーブル・ビジネス相のスピーチを聞きに集まった人の方が、クレッグより多かったと言う話を聞くにつけ、クレッグの命運はいずれにしても大きく変わらないと思われる。ただし、今現在党首を交代させるのは時期的に早すぎるだろう。自民党も保守党も今の時点での選挙は避けたいと考えており、次期総選挙は任期満了の2015年5月の見込みである。クレッグもスピーチで述べたように、これからさらに厳しい財政削減に取り組まねばならない状況だからだ。つまり、党首を今変えても、クレッグのように大きく人気を失う可能性がある。

一方、クレッグがどのような将来的な構想を描いているとしても、その時がくれば、かつてメンジー・キャンベルが党首から引きずり落とされたように事態は急に進む可能性がある。

いずれにしても、経済が停滞しており、しかも財政再建も停滞している中で、財政緊縮策を取る政権を担当している政党には厳しい状況だ。その中で、野党の労働党は有利な立場であったと言える。

キャメロン首相官邸の決断が遅い?(Cameron’s No 10: Slow in its decision making?)

首相官邸の反応が遅いという不満がたまっているとタイムズ紙の政治部長がコメントした(10月10日)。決め方にきちんとした手順がなく、キャメロン首相の首席補佐官の資質を疑う声もあるようだ。首相官邸には、人あたりなどを気にせず、物事を強力に進めていくことのできるエンフォーサーがいない、官僚トップの一人で内閣担当の内閣書記官がいつも賛成するとは限らない、キャメロン首相とそのストラテジストであるオズボーン財相が最後の最後まで決断しないなどという見方を挙げている。しかしながら、この問題の根底には、キャメロン首相がいったい何をしたいのかはっきりしていないということがあるだろう。

もちろんキャメロン首相には、2010年5月就任以来、財政赤字を減らす、そしてその結果、将来的に政府の負債を減らすという目的がある。しかし、タイムズ紙のフィル・コリンは、キャメロンには、それを越えて、その後のものがないと言う(10月6日)。フィル・コリンは、トニー・ブレア元首相のスピーチライターを務めた人物であるが、このコメントは必ずしも労働党寄りの考え方のためではなく、理由があると思われる。

キャメロンは総選挙前から「ビッグソサエティ」というスローガンを掲げていた。首相となり、政府がこれまで実施してきたことや行政が手の及ばなかったことを市民が自分たちのために、自らの力や創意工夫で、担っていく役割を拡大していくよう推進してきた。これは、ローカリズム法や、この11月のイングランドとウェールズの41警察管区で行われる警察・犯罪コミッショナーの選挙にも体現化されている。つまり、中央集権的なやり方(中央政府でも地方自治体でもありがちだが)から、市民の声が直接その地域で起こっていることに反映される仕組みを作っていこうというものだ。問題は、この「ビッグソサエティ」という考え方そのものの発想は良いが、その内容が希薄である点だ。そのため、政府の「ビッグソサエティ」に関するプロジェクトは勢いを失った。警察コミッショナーの選挙には有権者のほとんどに関心がなく、投票率が低くなるのではないかと心配されており、大きな広告キャンペーンが始まった。あまりに投票率が低いと、例えば15%程度しかないなどという事態になれば、制度そのもののレジティマシー(法的正当性)に疑問が生じる可能性がある。

キャメロンは、この「ビッグソサエティ」の考えをかなり前から持っていたと言われるが、この考え方を肉付けしたのは、キャメロンの側近であったスティーブ・ヒルトンである。つまり、キャメロンにアイデアはあったかもしれないが、「ビッグソサエティ」で行っていることは、他の人が考えたことと言えるだろう。キャメロンの党大会のスピーチで「ビッグソサエティ」に関連して、これまで自分が3年間説明しようとしてきたことを、オリンピックを作った人たちが3週間で素晴らしく行ったと言ったが、これは残念ながら、キャメロンが3年間言い続けてきたことが十分なものではなかったことを示唆しているようだ。

キャメロンは、自分が首相として取り組んでいくことの目的を次から次にスピーチで取り上げたが、これを是非やり遂げたいというものがない。その上、首相官邸の反応が遅ければ、意欲の空回りということになりかねないように思われる。

ロンドン市長ボリス・ジョンソン:首相の器?(Is Boris fit to become a PM?)

ロンドン市長ボリス・ジョンソンの人気が高い。ロンドン市長は日本の東京都知事に匹敵するポストであるが、現在バーミンガムで開催中の保守党大会に出席し、昨日の付属イベントでのスピーチで大喝采、そして今日の本大会でのスピーチで満場総立ちの拍手喝采を浴びた。

ジョンソンのスピーチは、アドリブも交え、ジョークも満載だが、それ以外に琴線に触れる点がある。インタヴューでも、自分の思ったことを率直に言う傾向が強い。ほとんどの人は政治家を信頼しないが、ジョンソンの言うことには耳を傾ける傾向がある。それは単に保守党支持者だけではない。例えば、10月7日のオブザーバー紙で発表された次の世論調査の結果だ。

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この世論調査では、キャメロンが保守党の党首であるより、はるかにいい印象のあるジョンソン党首の方が、保守党に投票する人が増えることを示唆している。

ジョンソンは、今年5月、統一地方選で労働党が大勝する中、しかも労働党の強いロンドンで、市長に再選された。その後のオリンピックでもその成功の立役者の一人と見なされ、全国的に知名度を大きく上げている。

それでは、ジョンソンは首相にふさわしい人物だろうか?保守党の支持者らのウェブサイトConservativeHomeの編集長を務めるティム・モンゴメリーは、BBCをはじめ、各種のメディアでも活躍している人物だが、ジョンソンは、他の保守党の政治家が手の及ばない人にまで影響を与えることができるという。しかし、ジョンソンに首相となる能力があるかどうか疑いを持つ人がおり、しかもそれは、保守党の活動家よりも保守党の下院議員に多いと言う(タイムズ紙)。ジョンソンを比較的近くで見てきた人も同じような疑いを持っている人がいる。ロンドン市長選前に、主要候補者がロンドンのイブニングスタンダード紙主催の討論会に出席したが、現職の大ロンドン市議会議員で、前リビングストン市長の下で副市長を務めた、緑の党の候補者が「(市長職は)ボリスにできるなら私にもできる」と発言したことがある。

ジョンソンにはこれまで様々な女性問題もあり、かなりだらしない、という印象があるのは事実だろう。しかし、過去4年余りのロンドン市長としての施政を振り返ると、ジョンソンには、モンゴメリーも言うように、優れたチームを作る能力があるとも言えるようだ。つまり、有能な人たちを副市長などの重要なポストに任命し、それらの人たちに権限を委譲し、実際の行政を担当させる。これは、これまでのところかなりうまくいっていると言えるだろう。5月の市長選でも、オーストラリアの選挙専門家に自分の選挙を任せ、その結果当選したことでも伺える。つまり、ジョンソンが自分の強みと弱みをわきまえ、それに適した行動をすれば欠点をカバーできるということを知っているということである。

政治のリーダーには、自分の能力を過信し、そのために失敗する人が多い。例えば、英国の最近の例では、ゴードン・ブラウン前首相だ。自分は首相として優れた資質があると信じて首相になるまでの人生を過ごしてきた人で、それを信じた人も多かった。非常に頭のいい人で、10年務めた財相として、世界で最も優れていると言われたほどだった。ところが首相になると、ブラウンの弱みがはっきりと出た。ブラウンは優れたリーダーではなかった。社会のために貢献したい、貧しい人々を救いたいという思いは非常に強く、それらを達成するために、早朝から夜遅くまで仕事中毒と言われるほど働くことをいとわなかった。しかし、対人能力に欠けていた。

こういったことを考えると、自分の能力を知り、権限委譲をわきまえたジョンソンには、強みがあると言えるかもしれない。しかし、一旦首相となると、一つ一つの言動に留意する必要がある。そういう問題を起こさないようにできれば、案外優れた首相になれる可能性はあるだろう。

党大会シーズン③ キャメロン保守党の課題(Cameron’s Challenges)

キャメロン首相は、保守党の党首として、これまでの業績を党大会に示すことになる。党大会のテーマは、「2015年への道」だが、保守党にとって、次の総選挙で政権を維持できるかどうかが大きな課題だ。問題は、キャメロン政権が、勢いを失ってきていることである。

次回の総選挙は、ほぼまちがいなく、2015年に行われるように思われる。自民党が、上院改革に保守党が賛成しなかったため、保守党の強く望んでいた下院選挙制度の改正に賛成しないこととした。この改正は、650議席を50議席減らし、各選挙区のサイズを均等にするものである。もしこの改正が進んでいれば、保守党に有利で、自民党に不利になると見られていた。この問題がなくなったため、自民党は、党勢回復のための時間稼ぎと現職の下院議員をなるべく長くその地位につけておくために、2015年以前の総選挙を回避すると思われる。自民党は支持率が大幅に低下しており、次期総選挙では大幅に議席を失うのは必至だ。そうすると、次期総選挙まで、2年半である。

キャメロンの最大の問題は、保守党の中でキャメロンの求心力が衰えていることである。これには幾つかの要因がある。経済が順調に回復し、財政赤字の削減が軌道に乗っていれば、将来への期待感で求心力を維持できると思われるが、経済が停滞し、財政赤字の削減が計画通りに進まない状況では、将来への不安感がある。さらに度重なるUターン、行政上の失敗で、キャメロンのリーダーシップに疑問が出ていることである。

その上、連立政権を組む自民党との関係に陰りが出てきた。自民党は、これまでの政権内での努力が有権者に評価されると考えてきたが、それがほとんど評価されていない。そのため、連立政権内で自民党の声がより大きく出るよう、その政権内での態度をかなり強いものとしていく構えだ。もちろん、自民党の求めた、下院選挙制度改革のAV制度導入が、保守党勢力の極めて強い反対キャンペーンの結果、国民投票で否決された上、また、自民党の求めた上院改革を、保守党内の強い反対であきらめざるを得なかったことから、保守党への不信感もある。2010年の連立合意の後、その2年後には、第二の連立合意を作ろうという考え方があったが、今ではそのような考えはない。キャメロンは、いまだに自民党のクレッグ党首との間に強い個人的な関係はあるものの、キャメロン政権内での融通がはるかにききにくくなっている。

一方、経済の停滞や度重なるUターンなどで、保守党の支持率は労働党に10ポイント程度の差をつけられている。その上、ユーロ債務危機などでEUとの関係に国民の目が向けられ、その結果、英国のEU脱退を目的に設立された英国独立党(UKIP)が支持率を伸ばしてきており、保守党支持者がUKIPへ支持替えをしている傾向がある。これも保守党内でキャメロンが求心力を弱めている一つの原因だ。キャメロンは、先だって、次期総選挙後にEUに関する国民投票を実施する可能性に言及したが、これは、党大会前の一種のガス抜きと思われる。

労働党の党大会で、ミリバンド党首がメモなしで65分間スピーチし、好評を博し、評価を上げ、労働党のモラールを大きく上げたことから、キャメロンもそれに対抗する必要がある。保守党のモラールを上げる必要があるからだが、それを成し遂げるのはそう簡単ではない。次の党首を狙うボリス・ジョンソン・ロンドン市長が注目を集めており、ジョンソンには党大会で30分のスピーチの時間を提供したが、キャメロンとオズボーン財相のスピーチの間の日で、なるべくキャメロンとオズボーンのスピーチがジョンソンの陰にならないようにした形だ。また、平民事件で世論の非難を浴びた閣僚アンドリュー・ミッチェルには、党大会に出席しないように指示した。メディアがそれに注目し過ぎるのを防ぐためだ。

さらに、EUの問題を始め右寄りの傾向を強める保守党に対し、ミリバンド労働党が、移民問題やEU国民投票問題などで、左右の政治軸の真ん中へ軸足を移し、現在の保守党に幻滅する保守党支持者を獲得しようとしはじめている。つまり、キャメロンにとっては、保守党の左右に配慮しなければならない状態となっている。

この党大会で保守党のモラールを労働党のように上げることは難しいだけではなく、この党大会後、キャメロンはさらに難しい党運営、政府運営を迎えるように思われる。