EUとの関係の国民投票?(Referendum on UK’s relationship with EU)

 

キャメロン首相が、保守党の政策として、英国のEUとの関係に関する国民投票を検討していることを明らかにした。具体的には、2015年に予定されている総選挙で保守党が政権を担当すれば、EU国民投票を実施するということである。

もちろん、国民投票を行っても、それは、国会主権(Parliamentary Sovereignty)のため、政府は、国民投票の結果に必ずしも拘束されるわけではないが、時の政府は、それを重く受け止めて行動することとなる。

このEU国民投票のアイデアは、二つの点で、効果が期待されていると思われる。まず、保守党内で欧州懐疑派が強く、それらの人々を懐柔する目的がある。連立政権は、政府ウェブサイトのE請願に10万人以上が署名した場合、国会が取り上げることを検討する制度を設けたが、EU国民投票の請願で10万人を超したため、ある保守党下院議員が、英国のEUとの関係を問う国民投票を行うべきだとして、議員提出の動議を提出した。キャメロン首相らが保守党所属下院議員にスリーラインウィップと呼ばれる指示厳守命令を出し、その動議に反対するよう指示したのに対し、81名がその指示に反して動議に賛成した。これは、政府に入っていない保守党下院議員の半分近い。さらに15名が棄権した。これは記録的な保守党下院議員の反乱であった。

次に、世論調査で支持率をじわじわと伸ばしている、英国独立党(UKIP)対策だ。この党は、英国のEU離脱を謳って1993年に設立された。徐々に勢力を増しており、下院には議席を持たないものの、欧州議会議員選挙で票を伸ばし、特に2009年の欧州議会議員選挙では、英国の議席72議席のうち、UKIPが、保守党に次ぐ、全体の16.5%の票を得、13議席を獲得した。なお、この選挙では、保守党26議席、労働党13議席、自民党11議席を得た。UKIPは次回の2014年の欧州議会議員選挙ではさらに大きく伸びると見られている。

EUは27国で構成されているが、統一通貨ユーロ内の17国は、終わりの見えないユーロ圏債務危機対策で、さらに統合した経済財政政策を取る必要が出てきている。欧州委員会のバロッソ委員長が連邦的なEUの構想を打ち上げたが、EUの加盟国間の関係を見直す必要が出てきている。この中、キャメロン首相は、英国のEUとの関係を問う国民投票が政治的に必然的な状況になってきていると判断しているようだ。

2010年の総選挙で、保守党は、もし、英国からEUへさらなる権限の委譲がある場合には、国民投票を実施すると公約した。これは、親EUの立場を取る自民党との連立合意でも同じであり、2011年EU法を制定し、EU条約の改正や権限の委譲には国民投票を実施することとした。

EUとの関係は、キャメロン首相にとってはかなり頭の痛い課題だ。EUの中で、中心的な役割を担いたいという考えがある一方、EUから束縛されないようにしたいと相反する課題がある。しかもEU諸国との経済関係が英国の対外経済関係の半分近くを占める中、EUの市場としての価値、さらには、EU内の英国としてその金融センターのロンドンの地位がある。これらのバランスを取る必要がある。キャメロン首相は、英国がEUを離れることには反対だが、英国がEUからある程度の権限を取り戻し、国民がある程度満足できる状況とすることを狙いとしている。

世論調査では、もし、英国がEUを脱退するかどうかの二者択一の国民投票を実施すれば、脱退派が全体の50%前後を占め、継続派よりかなり多い。例えばYouGovの今年7月に実施した以下のものでは、
http://d25d2506sfb94s.cloudfront.net/cumulus_uploads/document/39lzsuywij/YG-Archives-Pol-Sun-EU-090712.pdf
脱退48%、継続31%である。しかし、政府がまず、EUと交渉し、英国にある程度の権限を取り戻した後、キャメロン首相がそれに賛成するように求める国民投票なら、42%が留まるに賛成、それでも脱退すべきだと言う人は34%となっている。ただし、英国民がEUで問題だと考えていることには、特に東欧からの移民や、EUからの英国内政への干渉などがあり、これらの点で英国がEUから大幅な権限を取り戻す必要があるだろう。しかし、連立政権を組む自民党との交渉がこの点で困難かもしれない。

キャメロン首相にとっては、保守党が野党第一党の労働党に世論調査の支持率で10%程度の差をつけられており、英国の賭け屋の賭け率では、次期総選挙で労働党が過半数を占めるとの見方が、いずれの政党も過半数を占めることのない、いわゆるハング・パーリアメントより、やや優勢になってきた。次期総選挙は、まだ2年半先だが、次期総選挙までに、大きな経済回復で政府赤字を大きく減らせる可能性が乏しい中、党内の対立を抑え、さらにUKIPから支持を取り戻し、労働党優位の状態を逆転する手を打つ必要がある。この戦略には、かなり高度なマネジメントが要求される。ユーロ圏債務危機はまだ続き、世界経済、さらにイランの核武装問題など波乱要因は数多く、そう簡単に思ったような結果が出るは思われないが、今後の展開が注目される。

党員の減少に苦しむ主要政党(Main Parties Losing Members)

 

日本では、民主党の党首選が終わり、自民党の党首選が26日にあるが、いずれも党員が参加する党首選である。英国では、主要政党の党員が減り、政党にとっては深刻な事態となっている。

保守党は党員数が1950年代に300万に達したが、キャメロンが首相となった2010年までに党員数は17万7千人となり、現在は13万人を割ったと見られている。労働党は、個人の党員と労働組合など関係団体のメンバーが絡むために複雑だが、個人の党員の数は1950年代に100万人を超したが、昨年19万4千人となっている。そして自民党は昨年4万9千人である。

かつては、政党の党員になって「社交」をする、同じような考え方や立場の人たちと出会う、場合によっては、結婚の相手を見つける、といったような意味があったが、それが今や党員になる人はかなり限られてきた。つまり政党が党員を惹きつけることができなくなっているのである。その結果、党員の年齢が大きく上昇してきている。保守党の活動家の数は30万とも言われるが、その平均年齢は64歳だそうだ。政党の党員が社会の姿を映すどころか、非常に偏った形になってきている。

24日のタイムズ紙は、この点を踏まえ、政党が全体の利益をはかるよりも一部の人の利益や考え方を強く反映する危険性を指摘する。特に、お金の乏しい、しかもメンバーや活動家の少ない政党は、一部の献金者や利益団体に大きな影響を受ける可能性がある。そして特に政党の候補者選択では、党員だけによるものではなく、それ以外の支持者らも含めたオープンなものにするよう求めている。

英国の政治は今もなお、基本的に保守党と労働党の二大政党によって担われており、世論調査によれば、その構図が少なくとも当面変わる気配がないことから、このような提案が生まれているのだろう。つまり、二大政党体制を受け入れた上で、これらの政党が、例えば小さな党員ベースから過大な影響を受けるのではなく、より広い公共の利益の観点に立って働くことのできるシステムを求めている。結局のところ、政治で最も重要なのは、政治家の質だからだと思われる。