EUとの関係の国民投票?(Referendum on UK’s relationship with EU)

 

キャメロン首相が、保守党の政策として、英国のEUとの関係に関する国民投票を検討していることを明らかにした。具体的には、2015年に予定されている総選挙で保守党が政権を担当すれば、EU国民投票を実施するということである。

もちろん、国民投票を行っても、それは、国会主権(Parliamentary Sovereignty)のため、政府は、国民投票の結果に必ずしも拘束されるわけではないが、時の政府は、それを重く受け止めて行動することとなる。

このEU国民投票のアイデアは、二つの点で、効果が期待されていると思われる。まず、保守党内で欧州懐疑派が強く、それらの人々を懐柔する目的がある。連立政権は、政府ウェブサイトのE請願に10万人以上が署名した場合、国会が取り上げることを検討する制度を設けたが、EU国民投票の請願で10万人を超したため、ある保守党下院議員が、英国のEUとの関係を問う国民投票を行うべきだとして、議員提出の動議を提出した。キャメロン首相らが保守党所属下院議員にスリーラインウィップと呼ばれる指示厳守命令を出し、その動議に反対するよう指示したのに対し、81名がその指示に反して動議に賛成した。これは、政府に入っていない保守党下院議員の半分近い。さらに15名が棄権した。これは記録的な保守党下院議員の反乱であった。

次に、世論調査で支持率をじわじわと伸ばしている、英国独立党(UKIP)対策だ。この党は、英国のEU離脱を謳って1993年に設立された。徐々に勢力を増しており、下院には議席を持たないものの、欧州議会議員選挙で票を伸ばし、特に2009年の欧州議会議員選挙では、英国の議席72議席のうち、UKIPが、保守党に次ぐ、全体の16.5%の票を得、13議席を獲得した。なお、この選挙では、保守党26議席、労働党13議席、自民党11議席を得た。UKIPは次回の2014年の欧州議会議員選挙ではさらに大きく伸びると見られている。

EUは27国で構成されているが、統一通貨ユーロ内の17国は、終わりの見えないユーロ圏債務危機対策で、さらに統合した経済財政政策を取る必要が出てきている。欧州委員会のバロッソ委員長が連邦的なEUの構想を打ち上げたが、EUの加盟国間の関係を見直す必要が出てきている。この中、キャメロン首相は、英国のEUとの関係を問う国民投票が政治的に必然的な状況になってきていると判断しているようだ。

2010年の総選挙で、保守党は、もし、英国からEUへさらなる権限の委譲がある場合には、国民投票を実施すると公約した。これは、親EUの立場を取る自民党との連立合意でも同じであり、2011年EU法を制定し、EU条約の改正や権限の委譲には国民投票を実施することとした。

EUとの関係は、キャメロン首相にとってはかなり頭の痛い課題だ。EUの中で、中心的な役割を担いたいという考えがある一方、EUから束縛されないようにしたいと相反する課題がある。しかもEU諸国との経済関係が英国の対外経済関係の半分近くを占める中、EUの市場としての価値、さらには、EU内の英国としてその金融センターのロンドンの地位がある。これらのバランスを取る必要がある。キャメロン首相は、英国がEUを離れることには反対だが、英国がEUからある程度の権限を取り戻し、国民がある程度満足できる状況とすることを狙いとしている。

世論調査では、もし、英国がEUを脱退するかどうかの二者択一の国民投票を実施すれば、脱退派が全体の50%前後を占め、継続派よりかなり多い。例えばYouGovの今年7月に実施した以下のものでは、

http://d25d2506sfb94s.cloudfront.net/cumulus_uploads/document/39lzsuywij/YG-Archives-Pol-Sun-EU-090712.pdf

脱退48%、継続31%である。しかし、政府がまず、EUと交渉し、英国にある程度の権限を取り戻した後、キャメロン首相がそれに賛成するように求める国民投票なら、42%が留まるに賛成、それでも脱退すべきだと言う人は34%となっている。ただし、英国民がEUで問題だと考えていることには、特に東欧からの移民や、EUからの英国内政への干渉などがあり、これらの点で英国がEUから大幅な権限を取り戻す必要があるだろう。しかし、連立政権を組む自民党との交渉がこの点で困難かもしれない。

キャメロン首相にとっては、保守党が野党第一党の労働党に世論調査の支持率で10%程度の差をつけられており、英国の賭け屋の賭け率では、次期総選挙で労働党が過半数を占めるとの見方が、いずれの政党も過半数を占めることのない、いわゆるハング・パーリアメントより、やや優勢になってきた。次期総選挙は、まだ2年半先だが、次期総選挙までに、大きな経済回復で政府赤字を大きく減らせる可能性が乏しい中、党内の対立を抑え、さらにUKIPから支持を取り戻し、労働党優位の状態を逆転する手を打つ必要がある。この戦略には、かなり高度なマネジメントが要求される。ユーロ圏債務危機はまだ続き、世界経済、さらにイランの核武装問題など波乱要因は数多く、そう簡単に思ったような結果が出るは思われないが、今後の展開が注目される。

党員の減少に苦しむ主要政党(Main Parties Losing Members)

 

日本では、民主党の党首選が終わり、自民党の党首選が26日にあるが、いずれも党員が参加する党首選である。英国では、主要政党の党員が減り、政党にとっては深刻な事態となっている。

保守党は党員数が1950年代に300万に達したが、キャメロンが首相となった2010年までに党員数は17万7千人となり、現在は13万人を割ったと見られている。労働党は、個人の党員と労働組合など関係団体のメンバーが絡むために複雑だが、個人の党員の数は1950年代に100万人を超したが、昨年19万4千人となっている。そして自民党は昨年4万9千人である。

かつては、政党の党員になって「社交」をする、同じような考え方や立場の人たちと出会う、場合によっては、結婚の相手を見つける、といったような意味があったが、それが今や党員になる人はかなり限られてきた。つまり政党が党員を惹きつけることができなくなっているのである。その結果、党員の年齢が大きく上昇してきている。保守党の活動家の数は30万とも言われるが、その平均年齢は64歳だそうだ。政党の党員が社会の姿を映すどころか、非常に偏った形になってきている。

24日のタイムズ紙は、この点を踏まえ、政党が全体の利益をはかるよりも一部の人の利益や考え方を強く反映する危険性を指摘する。特に、お金の乏しい、しかもメンバーや活動家の少ない政党は、一部の献金者や利益団体に大きな影響を受ける可能性がある。そして特に政党の候補者選択では、党員だけによるものではなく、それ以外の支持者らも含めたオープンなものにするよう求めている。

英国の政治は今もなお、基本的に保守党と労働党の二大政党によって担われており、世論調査によれば、その構図が少なくとも当面変わる気配がないことから、このような提案が生まれているのだろう。つまり、二大政党体制を受け入れた上で、これらの政党が、例えば小さな党員ベースから過大な影響を受けるのではなく、より広い公共の利益の観点に立って働くことのできるシステムを求めている。結局のところ、政治で最も重要なのは、政治家の質だからだと思われる。

党大会シーズン:リーダーたちの課題②(Party Leaders’ Challenges this autumn)

② 労働党:マンチェスターで9月30日から10月4日。テーマは「英国再建」

前回の①自民党に引き続き、ここでは②労働党を見る。

労働党の党首エド・ミリバンドは、2010年9月に党首に選出された。これは、2010年5月の総選挙で、前党首で首相ゴードン・ブラウンが率いる労働党が大きく議席を失い、いずれの政党も過半数を占めることのない、いわゆるハング・パーリアメントという状態になり、最も多くの議席を獲得した保守党が第三党の自民党と連立政権を樹立した後のことであった。

労働党の党首選では、最後まで、前エネルギー相エド・ミリバンドの兄で、前外相のデービッド・ミリバンドが優勢と見られていた。デービッド・ミリバンドは、元首相のトニー・ブレアに近く、労働党の中でも右寄りと見られていた。一方、エド・ミリバンドは、ブラウン前首相に近く、労働党の中でも左寄りと見られていた。

労働党下院議員に支持の強いデービッド・ミリバンドが優勢だったが、労働組合がエド・ミリバンドにテコ入れし、最後にわずかの差でエド・ミリバンドが予想を覆し、逆転勝ちした。この結果、エド・ミリバンドには数々の批判が浴びせられた。

一番大きなものは、保守党らによる「赤のエド」という批判である。つまり、労働組合の支持を受けて党首になったために、労働組合寄りの政策を打ち出す必要があると見られたためである。

次に、兄のデービッド・ミリバンドは、それまでかなり長い間、次期党首候補と見られていたことから、党首に就く心の準備ができており、打ち出す理念がはっきりしていると見られていたが、エド・ミリバンドには、その準備も、理念もはっきりしていないという批判であった。これは、特にマスコミや労働党の下院議員に強い批判であった。これは今でも払しょくされていない。

さらに、言葉尻が明瞭ではない、という批判もあった。なお、これについては、鼻の手術をした結果、かなり改善し、最近ではそう気にならない程度になっている。

エド・ミリバンドは、「赤のエド」というレッテルを取り除こうと、労働組合とは距離を置く方針を取ってきた。例えば、連立政権の公務員の賃金凍結政策に同意する発言をしている。これらの努力の結果、この「赤いエド」という言葉はあまり使われなくなってきた。

しかしながら、党首に就任してから2年経つが、労働党の方向性や、労働党が政権につけばどのような政府になるかについては未だにはっきりしていない。これらをはっきりと示し、党首選でデービッド・ミリバンドを支持した多くの下院議員たちに、労働党の党首としてふさわしいと証明する必要がある。

この点、9月初め、エド・ミリバンドは、Predistributionという言葉で自分の基本的な考え方を紹介しようとした。これは、不平等を減らすために、賃金をまともなものにすることに焦点を当て、これまで行われてきている、低賃金をカバーするためのタックス・クレジット(税額控除)のような制度に頼る仕組みを変えていく考え方である。これは、富の公平な分配のメカニズムを「国」よりもむしろ「市場」へと移す議論であり、国が使うお金を減らしながら、平等の程度を高め、貧困を低くしようとするものである。

つまり、政府債務が増え、財政赤字が大きな状態では、貧困をなくすために増税し、それで得たお金で問題解決することが難しくなったことが背景にある。しかも多くの国民が、これまでの税制による富の再分配に反対していることがある。税金が高くなっても、貧しい人々に政府が福祉給付を与えることにもっとお金を費やすべきだという考えに賛成する人が少なくなっている。2007年を境として反対の人が増えてきた。1989年にはそれに賛成する人が60%を越え、ピークであったが、2009年には、反対が43%、賛成が27%となっている。世代間で同じようなパターンが繰り返すのではなく、全体的に賛成が減っているのである。

以上のような状況の中で、プリディストリブーションの考え方は理解できるが、それではどのような手段でそれを実施するのか?福祉をどうするのか?身体障害者など働くことが困難な人をどうするのか?働いていない人をどうするのか?年金をどうするのか?老人介護をどうするのか?経済をどうするのか?人と人のつながりをどうするのか?

さらにこのプリディストリブーションという考え方は、高度な技術、生産性の高い労働市場が必要だが、最低賃金が上がると、失業とモノの値段が上がる可能性がある。このような問題へ回答を出して行かねばならない。

いずれにしてもエド・ミリバンドは、自分の考え方を示し始めた。党大会では、この動きを歓迎するように思われる。ただし、その具体化は、まだまだ先のこととなるだろうが。

これに関連して重要なのは、ミリバンドの有権者に与えるイメージである。世論調査では、労働党が保守党に10ポイント程度リードしているが、首相としてふさわしいかどうかという点では、保守党のキャメロンの後塵を拝している。その結果、世論調査で、ミリバンド率いる労働党とキャメロン率いる保守党と名指しすると、両党の支持率の差が数パーセント縮む。このイメージの問題に取り組む必要がある。

予算の聖域は非効率のもと(Budget Cut Exemptions May Increase Waste)

日本の予算の概算要求を見て気にかかったことがある。もちろん全体の要求額が東日本大震災の復興費を入れて100兆円を超し、その約4分の1が国債費という状態を非常に残念に思うが、気にかかったのは、アプローチの仕方である。政府の概算要求基準では、要求額を12年度予算より10%削減するよう求めたというが、重点3分野のエネルギー・環境、医療そして農林漁業では、最大4倍の要求額を認めたという。さらに高齢化による医療費や年金など社会保障費の自然増0.8兆円をそのまま要求してよいことにしたという。

もちろん、これは概算要求の段階であり、これからの査定で結果はかなり異なってくると思われるが、このようなアプローチは、現在の英国の政治行政の事例から見ると、避けるべきものだと思われる。

英国では、現在、サッチャー政権よりも厳しい財政削減が進行中だが、その中で、二つの分野では、予算の増額が認められた。海外援助とNHS(国民保健サービス)である。このうち、国際援助は、保守党の2010年総選挙のマニフェストで、2013年からは国民総所得(GNI)の0.7%を海外開発援助(ODA)に向けると約束したことに始まる。これは、実は、労働党がUN(国際連合)の目標を2010年のマニフェストで約束したので、保守党もそれと同じ約束をしたという経緯がある。「嫌な党」保守党のイメージを変える狙いもあった。この結果、2010年の国際援助額78億ポンド(9800億円)から2015年には115億ポンド(1兆4400億円)にまで50%近いアップとなる見込みだ。

この状態で、担当省の国際開発省(DfID)は、毎年急激に増加する国際援助費をかなり「贅沢」な使い方をしていた。外部のコンサルタントに5億ポンド(630億円)近くも使っていたことなどがわかった(参照:http://www.telegraph.co.uk/news/politics/9547162/Probe-over-millions-spent-on-foreign-aid-consultants.html)。

財政削減のため、社会福祉の予算も大幅に削られているのに、海外援助を大幅に増やすのはおかしい、という強い批判がある。キャメロン政権は方針を変え、増やすのではなく、減らすべきだという見解が、保守党内部、特に右派から出てきている。しかしながら、今のところキャメロン首相は方針を変えるつもりはない。そして、公認会計士でもある前運輸相を国際開発相につけ、無駄や非効率な使い方を削減しようとしている。

ただし、省の管理運営費は、2014年度までに3分の1減らす予定で、人員削減が急速に進んでいる。つまり、管理運営の効率化を図る一方、ODA額は急速に増えているという形だ。ここで注目すべき点は、管理運営費を減らせば、無駄や非効率が減るはずだと考えがちだが、特定の部門の予算を急に増やせば、その使い方がかなり放漫になる可能性があるということだ。

さらにNHSでは、保守党がそのマニフェストで、毎年予算を実増すると約束した。しかし、進む高齢化などへの対応で、根本的な機構改革を図っている。その効果は今後の結果を見る必要があるが、英国では、日本のように、単に自然増を認めるというロジックとはならないと思われる。

党大会シーズン:リーダーたちの課題①(Party Leaders’ Challenges this autumn)

英国では秋の党大会シーズン。先週末には緑の党の党大会が開かれたが、主要3政党の党大会は以下のようなスケジュールである。

① 自民党:ブライトンで9月22日から26日。テーマは「厳しい時により公平な税」
② 労働党:マンチェスターで9月30日から10月4日。テーマは「英国再建」
③ 保守党:バーミンガムで10月7日から10日。テーマは「2015年への道」

党大会は、かつては党の方向を決める重要な場であったが、近年は、すべてがお膳立てされており、本当の議論はなく、しかも、出席者や出店者、広告主などから、さらにディナーパーティなどを開き、お金を集める場に成り果ててしまっているという批判がある。それでも主要3党の党大会はマスメディアで広く報道され、政党の状況や今後の方向性を見るのに役に立つ機会であると言える。

ここでは、以上の3党の課題を一つずつ見ていきたい。今回は①の自民党である。

自民党のニック・クレッグ党首は保守党との連立政権で副首相を務める。連立政権に参画して以来、支持率が低迷。2010年の総選挙時には、全体票の23%を獲得したが、現在の支持率は10%前後である。自民党は、選挙時には、通常の世論調査の支持率よりかなり高い得票率を得る傾向があるが、それを考慮に入れても次期総選挙では、大幅に議席を失うと見られている。

その一つの根拠は、世論調査によると、2010年の総選挙で自民党に投票した人たちのかなり多くが、次の総選挙では自民党には投票しないとしていることだ。しかも労働党支持者から連立政権に参加した自民党へ批判が強く、これまで、当てにしていた労働党支持者からのタクティカル・ボーティングが、そう期待できなくなっていることがある。タクティカル・ボーティングとは、例えば、労働党のあまり強くない選挙区では、労働党支持者が当選可能性のない労働党候補に投票せず、自民党候補に投票することである。つまり、考え方の近い自民党の候補者が保守党候補を破って当選する方が望ましいということだが、保守党を政権につけるために自民党が協力したことから、自民党に投票するのは、保守党を裏口から支持することになるという警戒感が出てきている。

これまでのクレッグの戦略は、まずは、政治的に安定した連立政権で、莫大な政府債務を長期的に減らすために国際的な信用を維持し、財政再建に取り組むことであった。次に経済成長を維持し、そしてさらに自民党独自の政策を打ち出すことであった。

自民党の独自の政策としては、貧しい地域や家庭の子供たちの教育を援けるためのPupil Premiumと呼ばれる制度を推進した。これは、英国では、低所得者の家庭の子供には給食を無料で提供する制度があるが、これに該当する子供たちの数に応じて小学校や中学校、または地方自治体の場合もあるが、政府から補助金を支給し、それらを該当の子供たちの学力向上などにそれぞれの学校や地方自治体の独自の判断で使える仕組みである。2011年度から導入された制度の成果がどの程度のものとなるか、今後を待たねばならないが、これまでのところ評価は低い。この9月9日から10日に世論調査会社YouGovが行った世論調査では、この制度に否定的な人が22%、肯定的な人が15%で、違いがないと言う人が48%であった。

また、自民党の力を入れてきた政策で、今回の党大会のテーマにもその成果を強調したいという意思が表れているのが、課税最低限度額のアップである。つまり、最低限度額が上がれば、それだけ支払う税金の額が減り、低所得者の中には、まったく税金を支払わなくてもすむ人が増えることとなる。自民党は、これを保守党との連立合意にも入れ、2015年までにこの最低限度額を1万ポンド(125万円)までとすると述べた。これまでの予算発表でも徐々に上げてきており、今年4月からは8,105ポンドとなった。来年4月からは9,205ポンドになる。かなり大きなインパクトがあるはずだが、これへの有権者の評価も低い。上記の世論調査によると、肯定的な人は23%、否定的な人は21%、そして43%の人は違いがないと言う。

しかも、自民党の連立政権参加の大きな動機となった下院の選挙制度の修正案(AV)の国民投票が大差で否決され、上院をほとんどのメンバーが選挙で選ばれる制度の導入は、保守党の中の反対が大きく、失敗した。政治改革面では、ほとんど訴えられるものがない。

さらに、2011年5月、2012年5月の地方選挙では、自民党は多くの地方議員を失った。これらの結果、クレッグ党首を強く支持してきた自民党の中にも、クレッグの政府の中での役割、党運営のリーダーシップに疑問を呈する声が大きくなっている。労働党は、クレッグの代わりにケーブル・ビジネス相を党首にする動きに火をつけようと画策している。

こういう中で、クレッグは、2015年に予定されている総選挙までの残された時間で、自民党の命運を変えるための手を打って行かねばならない。党大会では、まずは、自分についてきてほしいと訴えることとなる。そして、政府の政策に、自民党の原則をさらに反映させ、それで有権者に自民党の役割を訴えていくこととなるだろう。しかし、連立を組む保守党の中では、キャメロン首相は、自民党に影響力を行使させすぎているという声が強くなっており、自民党の動きには限界があるように思える。

問題は、有権者のクレッグへの評価は極めて低いことだ。YouGovの8月30日から31日に行われた世論調査では、身内ともいえる自民党の支持者の60%はクレッグを党首として支えていくべきだというが、次の選挙でクレッグが党首であった方が良いと言う人は31%しかおらず、47%は他の人が党首の方がよいという。これを変えていくのは容易なことではない。

国家公務員改革を実行する人(The Person who was selected to do Civil Service Reform)

国家公務員改革計画の実施を担当する内閣府局長ポストに就いたのは、公募で選ばれた、キャサリン・カースウェル(Katherine Kerswell)という地方自治体出身の女性である。

まず、この背景を見てみよう。現在の連立政権は、国家公務員改革に力を入れている。その目的は、大きく分けて以下の4つである。

① より小さな政府。内閣府大臣フランシス・モウドが、政府のスタッフの数は44万4千人で、第二次世界大戦以降最低だと今年2月に発表したが、それよりさらに小さな政府を求めている。
② より統合された政府。特に二つ以上の省庁が関わる問題では、処理に非常に長い時間がかかる。同じ省庁内でも同様の問題がある。これらの改善。
③ 問題により迅速に対応できるようにする。プロセス重視から結果重視への移行。
④ 大きなプロジェクトの運営能力の向上。

要は、効率化とスタッフの質の向上で、恒常的な財政削減を可能にしようとしているのである。この計画は、モウド内閣府大臣と公務員トップ(Head of the Home Civil Service)のボブ・カースレイクが共同して今年6月に発表したものである。

さて、カースウェルは、地方自治体に25年間勤め、そのうちの14年間、4つのカウンシルでチーフ・エグゼクティブ職を務めてきた。なお、このチーフ・エグゼクティブはそれぞれの地方自治体の事務方のトップである。

地方自治体の関係者がなぜ、中央政府の、しかも政府全体を統括していく立場の内閣府の局長に任用されるのだろうか?

これまで行政にも外部からの人材が必要だとして民間などからの人材登用を試みてきた経緯がある。しかし、特に民間から来た人たちには、行政の中での働き方になじむことができなかった人が多い。しかし、地方自治体出身者やNHS関係出身者は、比較的それに適合しやすいといわれている。カースウェルは、カースレイクに引き続き、地方自治体出身で政府の重要な仕事に就いた人物である。

ただし、地方自治体出身者が必ずしも優れた仕事をするとは限らないようだ。例えば、現在の歳入税関庁(HMRC)のチーフ・エグゼクティブの例だ。地方自治体出身者で、幾つかの地方自治体のチーフ・エグゼクティブ職を経験し、全国でロンドンを除いて最も大きな地方自治体であるバーミンガムのチーフ・エグゼクティブとなった。その後、2005年に内務省の移民などを担当する局長職に就き、そして、その分野の業務をより専門的に独自性を持って執行するUKBAのチーフ・エグゼクティブに就いた。その後、運輸省の事務次官に応募して2010年に就任し、その後HMRCのチーフ・エグゼクティブとなった。このポストも事務次官のポストであるが、その前の運輸省の事務次官より格上である。ここまではサクセスストーリーと言えるかもしれない。ところが、その後、UKBAでこの人のリーダーシップの下、多くの問題があったことが発覚した。

確かに大きな地方自治体と中央政府は似通った面があるが、中央政府の方が扱う範囲が広く、より専門的だ。さらに、組織文化が異なる。地方自治体の運営責任者をしていたといってもそれだけでは足りないだろう。それにプラスαが必要だ。カースウェルの仕事ぶりが注目される。

トップ公務員の任命英国流(Who to appoint for a top position?)

財務省は、日本と同様、英国でも政府の中で最も重要な機関である。その英国財務省の国家公務員ナンバー2の第二事務次官に43歳のジョン・キングマン(John Kingman)が10月に着任する。キングマンは、2010年から投資銀行のRothschildのglobal co-head of Financial Institutions Groupを務めた。ニコラス・マッカーファソン(Nicholas Macpherson)事務次官の下で、構造改革、銀行規制、そして経済政策などに取り組み、政府が最も苦しんでいる経済成長を担当する。これは、非常に大変な役割だ。現在の連立政権の命運がかかっている。キングマンは、Rothschildへ移る前、38歳で第二事務次官となった人物で、かつてフィナンシャル・タイムズ紙やBPで働いたこともある。

一方、財務省のもう一つの重要な柱である財政は、同じく43歳のトム・スコラ―(Tom Scholar)が第二事務次官として担当する。スコラーも39歳で第二事務次官となった。

英国の財務省のスタッフには、民間に引き抜かれる人が多く、入れ替わりが激しいのは事実だが、優秀な人材を早くから抜擢する傾向が強い。ファーストストリーム(Fast Stream)と呼ばれる「特進」制度で国家公務員となった人を、実績がないのに抜擢するのは危険だが、きちんとした実績を上げている人は、年齢にこだわらずに抜擢することはあたり前のことのように思える。

NHS改革とマニフェスト(Was the NHS Reform in the Manifesto?)

選挙時のマニフェストは、政権に就いた後、何をするかを書いたものであり、それを見れば、どういう施策を実施するか分かり、それを基にどの政党に投票するか決められると考える人が多いかもしれない。しかし、ことはそう単純ではない。ここでは、キャメロン連立政権で実施中のNHS(国民保健サービス)の大改革の例を見てみる。

2010年5月の総選挙で過半数を占める政党がなかったため、保守党と自民党の連立政権が誕生した。キャメロン首相は、イングランドの健康・医療を司るNHSを担当する厚生大臣に保守党下院議員を任命した。この下院議員は、それまで「影の厚生大臣」を長く務めてきた人物で、保守党政権が誕生すれば、どのようなNHSにするかを考えてきていた。一番大きな問題は、その前の労働党政権でもはっきりとしていたことだったが、高齢化などで急速に増大する医療需要と薬品や機器の高額化で、NHS財源が危機的な状況となるということであった。この問題への対策は、この影の健康相の最も大切な検討課題であった。

保守党は、その前の2005年の総選挙のマニフェストで、患者の待ち時間を減らすために、私立の医療機関での治療にもNHS予算の投入を謳ったが、NHSの民営化だと大きな批判を浴びた。

2010年の総選挙の前には、無料で診察、治療の受けられるNHSの問題は、国民の最も大きな関心事の一つで、信用危機のもたらした経済問題の次に重要であった。保守党が選挙で勝つには、そのNHSへの立場のために票を失えない状況であり、キャメロン党首は、国の巨額の債務への対策を取るために財政削減を実施すると言いながらも、次の5年間、NHS予算を毎年増やすという約束をした。マニフェストでは、保守党は「NHSの党」であり、それまでNHSの価値を守るために継続して戦ってきた、労働党政権の予算カットや組織組み直しからNHSを守るために運動してきたと主張した。そして、NHS利用時に医療を無料で受けられる考えを決して変えることはないと言った。そこには2005年のマニフェストで「NHSの民営化」と非難された、私立の医療機関へのNHS予算の使用といった言葉はなかった。また、2005年のマニフェストで述べた、ストラテジック・ヘルス・オーソリティの廃止とプライマリ・ケア・トラストの大幅削減には触れなかった。2005年のものと同様、トップダウンの運営方式ではなく、地域のGP(家庭医)が患者の予算の使い道を判断し、どこに患者を送るかなど決定をする役割に触れ、NHSのお役所仕事を減らすために、管理費の3分の1削減などといった考え方を表明した。

保守党のマニフェストを見た専門家たち、例えば、評価の高い中立系の医療健康問題のシンクタンク、キングズ・ファンドは、主要三党のマニフェストは似通っており、あまり大きな差はないとコメントした。そして、緊縮財政下、NHS予算が減るかどうかに注意を削がれたせいか、保守党のマニフェストの内容はほとんど議論されないままだった。

保守党と自民党の連立政権合意書でも、その内容についてはほとんど明らかにされることはなかった。①NHSの予算を5年間毎年純増する、②NHSの管理コストを3分の1減らす、などと触れていただけで、むしろプライマリ・ケア・トラストの役割にも触れている。この連立政権交渉に当たった、自民党のデービッド・ロウズの、交渉過程を扱った著書「22DAYS IN MAY」ではNHSの交渉についてはほとんど触れておらず、その内容についてはほとんど話し合われなかったようだ。

ところが、2010年6月に厚生大臣が発表した白書を見て、大騒ぎになった。保守党系のテレグラフ紙が、NHS創設以来最大の大改革だとコメントした。これには、医療関係団体のほとんどが反対する騒ぎとなった。ストラテジック・ヘルス・オーソリティとプライマリ・ケア・トラストを廃止し、その役割をGPなどにコンソーシアムを作らせて担わせる制度とする方針だったからだ。NHSは140万人が働く世界でも有数の大きな組織である。その組織の、例えば、日本で言うと、地方管区と都道府県レベルの組織を廃止し、その役割を、その先の地域のGPらの集合体に担わせようというわけである。確かにそのような組織改革を行えば、管理費は削減できるかもしれない。しかし、多くの人を解雇せねばならず、組織替えの費用は莫大なものとなる。その上、そのようなシステムがきちんと目的通り働くか、非常に大きなリスクがある。

そのため、マニフェストで言わずに突然大改革をするつもりだと大きな批判が巻き起こったが、実は、その考え方の大枠の骨子は、マニフェストに入っていた。しかし、実際にそれをどのように実施するかの詳細が抜けていたのである。そのために、保守党の本当の意図が選挙時にはわかっていなかった。キングズ・ファンドの医療問題の専門家でも、それが見抜けなかった。保守党のマニフェストを書いたオリバー・レトウィンが、キャメロンらの指示を受けたのだろうが、真意がわからないよう筆を控えたのは明らかである。

しかし、自民党は、その白書を飲み、改革に協力した。確かにNHSの面する財政問題を考慮すれば、大きな改革が必要なのは明らかであり、この大変革の理論を受け入れたのである。関係者からの大きな反発のために、ヒアリングの時期も設けたが、2012年3月に「医療・社会的介護法」として成立し、実施に移されることとなった。もしこの計画が、マニフェストで明らかであったならば、保守党が実施に移せる可能性はなかったように思える。