人が重要(Manufacturing is coming back to Britain)

人の質が大切だ。英国の製造業は、人件費が高いために発展途上国に仕事を奪われていると多くの人が信じている。それはある程度事実かもしれない。しかし、本当の問題は、他にあるようだ。

5月8日と15日のBBCのテレビ番組「The Town Taking on China(中国に挑戦する町)」で、英国のビジネスマンの経験を追っている。リバプールの近くのカービーという所にクッションの工場を持つビジネスマンが、2004年に中国の福州にクッション製造の工場を開いた。しかし、中国でも人件費が開設当初の月50ポンドから現在では250ポンドと5倍になった。しかもインフレ率が年に10%近くとかなり高い。製品のクオリティや輸出費用、関税、それに為替変動などを考えると中国で製造してもメリットがほとんどなくなった。中国で作っているのは、安価なものであり、高級品は英国工場だが、アメリカなどでは「英国製」の方が「中国製」より高い価値があると見られている。そこで英国で大幅にスタッフの数を増やすこととした。これまでは地域にミシン工の経験者で失業している人がかなりおり、比較的簡単に雇うことができたが、それにも限界があるので、若者を雇い、トレーニングすることにした。この工場の地域には、失業が多く、1つの仕事に対して求職者が14人もいるという状況だという。

(なお、このビジネスマンは、5月3日のリバプール市長選に保守党から立候補した人物である。リバプールでは労働党が非常に強く、労働党候補が市長に当選した。このビジネスマンの政治的な動機が、英国で大きな問題となっている若者の失業率に取り組もうとした一つの理由かもしれない。)

この中でわかったのは、特に若い人たちの中にあまり質のよくない人たちがいることだ。よく病欠する、誰にも言わずに勝手に仕事をやめる、仕事の時間が長すぎる、仕事でへとへとになる、給料がばかばかしいほど安い(最低賃金の6.08ポンド《800円》)と文句を言う。

これは英国一般に当てはまる。英国人はよく、EUの中では基本的に労働力の自由な移動が認められているため、他の国、特に東欧のポーランドなどから来た人たちに職を奪われると文句を言う。しかし、実態は、上の若い人たちの事例と似ている。ポーランド人は一般にきちんとよく働く。ポーランド人は「日本人のように働く」と言う人もいる。これでは、英国人の中の「怠惰」な人たちとは比較にならないだろう。

心配なのは、今の日本人、特に若い人たちである。日本人の質が落ちてきていなければよいがと願う。

キャメロン首相のスピーチの本音?(What Cameron “in truth” said in his speech)

タイムズ紙のOliver Kammが、キャメロン首相の使った言葉の「本当の意味」を分析している。これは一種からかうための記事だが、その中の幾つかは真実をついていると思われるので、説明を付け加えながらここで紹介したい。

まず、Tough decisions である。キャメロン首相はこの言葉を頻繁に使う。首相のクエスチョンタイムでも、それ以外のスピーチでもこの言葉を聞かない時はほとんどない。Kammはこの意味は、Vote-losing policiesだと言う。つまり、票を失うが、どうしてもやらねばならない政策、という意味だと言う。

We’re all in this together. この言葉もよく使う。聞いていると確かに誰もが同じ船に乗っており、同じ運命を共有していると言っているように感じる。Kammはこの意味は、Living standards are falling だと言う。つまり、生活水準が落ちていると言うのだ。しかし、4月29日のSunday Times Rich Listによると英国の金持ちトップ千人の資産は前年より4.7%増えている。ほんとうにWe’re all in this togetherか疑問な点はあるが、これはさて置き、次に移る。

Families that work hard and do the right thing の意味は、Kammは禁欲的で、文句を言わない人たちを好むという意味だと言う。これは、あまり努力せず、文句を言ってばかりいる人が多すぎるということをそれとなく言っているのだろう。

Rebalance our economy は、多くの政治家が使う言葉だが、Kammはこの意味は、The recession is the banker’s fault だと言う。つまり、リセッションは銀行が起こしたと言う。

面白いのは、We need to do more, constantly strive to do more の意味だ。これはKammによるとThe economy is contracting and we’re unclear what to do about it つまり、経済が縮小しているが、どうしたらいいかはっきりわからない、というのだ。確かにこの解釈にはかなりの真実があるだろう。はっきりしていれば、もっと具体的なことをいうからだろうからだ。

Efficiencies は、KammによるとSpending cuts つまり、支出削減だという。これは本音だろう。

そしてキャメロン首相の使った言葉、People want to know that we’re not just bunch of accountants である。Kammは、誰も政府が会計士の集団だなどと非難していないが、財政削減には目的があるということを意味するためにこの言葉を入れていると言う。これはまさしくその通りだろう。

そして最後にキャメロン首相のよく使うフレーズ Let me spell this out と Let me be clearである。Kammはこれらのフレーズには何も意味がない、政治家は、こういうフレーズを使って、わかりやすく話しているという印象を与えようとしているだけだ、という。つまり、こういう言葉を使えば、なんとなくわかりやすく話しているような感じがするというだけだというのだ。これは本当だろう。

キャメロン首相をはじめ、トップ政治家のスピーチは、ほとんどスピーチライターの手が入っている。スピーチライターの仕事は、真実にベールをかけ、聞きやすく、与えたいメッセージが受け入れられやすく、そしていい印象を与えるようなスピーチに仕上げることだ。簡単ではない。

国会開会式(The State Opening of Parliament)

英国の国会開会式は、ファンファーレと昔ながらの儀式に満ちている。今日も同じだった。

大法官の法務相ケネス・クラークが、国会のあるウェストミンスター宮殿南側の君主の入り口の中で、女王のお越しを待ち受ける。大法官は手に「女王の財布」と呼ばれる50センチ四方ほどの大きさの薄いバッグを持っているが、この中には、「女王のスピーチ」と呼ばれる政府の法制化プログラムに関するスピーチの原稿が入っている。これはB5判サイズぐらいの薄いブックレットのようなものだ。

女王が夫君のフィリップ殿下と馬車に乗って国会に近づいてきた。オーストラリアン・ステート・コーチと呼ばれる馬車である。近衛騎兵隊が随行してきている。また、国会西側の道路を隔てた反対側には、赤い上着と黒い熊毛の帽子をかぶった近衛兵が整列している。

女王は、11時15分に到着した。軍服を着たフィリップ殿下が先に馬車を降り、女王に手を差し伸べて女王が降りた。女王は白い厚手のコートを着ている。フィリップ殿下がそのコートの襟に手をやり、上に押し上げるのを助けた。

国会の建物の上には、女王がウェストミンスター宮殿内にいるということを知らせる旗が揚げられている。

女王とフィリップ殿下は、下院のリーダーのジョージ・ヤングや大法官に先導されて、階段を上がった。かなりの高さの階段である。86歳の女王と、この6月に91歳になるフィリップ殿下には大変なのではないかと思われた。それでもゆっくりと難なく上がられた。そしてお召し替えの部屋に向かわれた。

一方、下院議長が下院に向かう。警視が「脱帽!」と指示して、下院議長ジョン・バーカウが議場に向かう。そのガウンの裾を御付の人が持っている。先導者から一列の行進である。議場には、デービッド・キャメロン首相や対立政党の労働党党首エド・ミリバンドをはじめ多くの下院議員が待っている。

女王の用意ができて、ファンファーレが吹かれる。フィリップ殿下が女王の手を引いて上院(貴族院)議場に向かう。女王は、王冠を被り、長いガウンを着ている。その後ろには4人の男の子がガウンの裾を持って従う。侍女らが続き、その後を、軍のトップらが従う。

女王が上院議場の女王座に座り「お座り下さい」と言うと、フィリップ殿下は女王座の横の王座に、そして上院議員が椅子に座った。

黒杖官(ブラック・ロッド)が下院議場に向かう。その面前で、議場の扉がバーンと閉じられる。これは下院の独立を象徴する儀式である。そしてその扉を黒杖官が持つ杖で、バーン、バーン、バーンと3度ついた。その扉には、その杖でついた跡が残っている。

扉が開いて、黒杖官が中に入る。そして、「女王陛下が、直ちに貴族院に出席するよう命じられました」と言う。下院の守衛官がメイスと呼ばれる職丈を取りあげ、下院議長について、黒杖官の後を上院に向かう。

その後を、首相と労働党党首が和やかに話しながら続き、副首相と労働党副党首、そして大臣とその影の大臣ら、そして他の下院議員たちと続く。

下院議長と首相ら下院議員が、上院に入り、女王座とは反対側の入り口の周辺に立っている。上院は、ローブを着た上院議員で一杯である。

大法官が女王座に向かって階段を一段ずつ上がり「女王の財布」の中から「女王のスピーチ」を取り出して女王に渡す。それを女王が座ったまま読む。

「私の大臣たちの最優先事項は、赤字の削減と経済の安定の回復である」と読み上げ、15の法案と4つの草案の概略を述べた。これ以外のものも提出されるだろうと最後に言い、政府がさらに法案を提出できるようにしておく。このスピーチは、政府が書いたもので、閣議で承認されたものである。なお、5月3日の地方選挙で保守党・自民党が大敗を喫し、それ以降、女王のスピーチを書き直したという憶測が流れたが、女王のスピーチはそれ以前にできており、その憶測は正確ではないとBBCの記者が述べている。

女王がスピーチを読み終わると、それを大法官に渡し、それを「女王の財布」に入れる。

フィリップ殿下が女王の手を取り、女王が左右に軽く会釈して出口に向う。11時45分くらいであった。

ロイヤルギャラリーを通過してお召し替えの部屋に向かう。フィリップ殿下は女王の手を取っている。ロイヤルギャラリーでは、全員が起立している。

下院議員は下院議長を先頭に全員下院に戻る。守衛官が職丈を戻す。

女王は、着てきたコートに着替え、ファンファーレの後、馬車の待つ国会の入り口に向かう。階段を下りた。フィリップ殿下が先に馬車に乗る。そして11時55分ごろに馬車が出発した。

王冠が運ばれてきた。まず、4人が馬車に乗り込み、それに王冠が渡された。この馬車が出発した時、ちょうど国会の時計塔、ビッグベンがボーンボーンと正午の時を告げた。

マニフェストの約束を機械的に実施することの危険性(Dangers to carry out Manifesto pledges without thinking)

 

5月3日に多くの市などで地方議会選挙が行われた。それと同時に、政府の指示で、イングランドの10の大規模市で「選挙で選ばれる市長制」を導入するかの住民投票が行われた。この10市のうち、選挙市長制の導入を決めたのはわずかブリストルの1市だけで、他の9市ではノーだった。

特にその中でも、ノッティンガム市の1つの区では、投票率がわずか8.5%と極端に低かった。市全体では23.9%だったが、政府の「熱意」と裏腹に住民の無関心さを示している。政府は、これをビッグソサエティの一環として位置付けていたが、全くの空振りに終わった。

ビッグソサエティに関連しては、11月15日に42警察管区の警察・犯罪コミッショナーの選挙もある。この日には、上記のブリストル市での市長選挙があるだけで、他の選挙は予定されていない。そのため、投票率が非常に低いものとなる可能性がある。投票率が低すぎると、制度そのものへの信頼性が薄らぎ、しかも「望ましくない人物」が当選する可能性が大きくなる。この選挙を実施することで、政府への信頼がさらに大きく揺るぐ可能性がある。

政府の「選挙で選ばれる市長制」もこの「選挙で選ばれる警察・犯罪コミッショナー制」のいずれも2010年5月の保守党と自民党の「連立政権合意」に入っている。これらはいずれももともと保守党の2010年マニフェストに含まれていたものだ。

マニフェストに、単なる思い付きで、あまり真剣に検討していないものを入れること自体、大きな問題だが、マニフェストで約束したことを機械的に実施しようとする立場のほうがさらに大きな問題だ。政治家も行政ももっと深く考え、知恵を絞る必要がある。

ジョンソン・ロンドン市長のキャメロン首相への脅威(Boris will be a threat to Cameron)

保守党のボリス・ジョンソンが、5月3日の地方選と同時に行われたロンドン市長選で労働党の元市長ケン・リビングストンを破り再選された。キャメロン首相率いる保守党は地方選で大敗北を喫したが、労働党の強いロンドンで、大勢に逆行して勝利を勝ち取った。

キャメロン首相は、地方選の大敗の中で、ジョンソンの当選を大きな光のように扱った。しかし、恐らくこれは逆だろう。ジョンソンは、キャメロン後の保守党党首になる希望を持っている。そのため、これから次の保守党党首の座を目指し、自分のプロフィールをさらに上げようとすると思われる。そして、キャメロン首相や連立政権が落ち目になればなるほど、ジョンソンは自分の立場の違いを浮き立たせようとするだろう。その結果、キャメロン首相の目の上の大きなたんこぶになる可能性があると思われる。(なお、5月6日のサンデータイムズとメイル・オン・サンデーでキャメロンとジョンソンの党首としての比較の世論調査をしている。参照:http://ukpollingreport.co.uk/)

保守党の中には、落ち目のキャメロンに見切りをつけ始めている人がいる。一方、ジョンソンのスター性に注目し、保守党を救う人物として見なし始めている。ジョンソンは、キャメロン政権外の人物であり、統制できない上、ジョンソンの行動は「ロンドンのため」と言えば正当化されうる。一方、ジョンソンは保守党市長であり、無碍に扱えない。キャメロンが強ければともかく、かなり弱体化した今では、もしジョンソンが当選しなければ、キャメロンには、この面からの脅威はなかっただろうと思われる。

背景について触れておきたい。まず、ロンドンでは労働党が強いということだ。ロンドンには下院議員の選挙区が73あるが、その内、労働党下院議員が38人、保守党の下院議員が28人である。また、ロンドン市長選と同時に行われたロンドン議会議員選挙では全25議席のうち前回の2008年から労働党が4議席増やして12議席を獲得したのに対し、保守党は2議席減らし9議席だった。議会議員選挙では、小選挙区比例代表併用制が取られており、14議席の小選挙区での投票に併せて、ロンドン全体で党へも投票する。そして、各政党のリストに基づき11議席が割り振られる。ただし、その割り振りには各政党が既に小選挙区で獲得した議席が計算に入れられる。党への投票は、労働党41.1%(前回より13.1%アップ)、保守党32%(5.4%ダウン)で、ロンドンの保守党に大きな逆風が吹いている中、ジョンソンは勝利を得た。つまり、ジョンソンは、保守党支持層だけではなく、労働党も含め他の政党へ投票した有権者からの支持も受けて当選した。ジョンソンの当選した理由には、労働党のリビングストンに税金問題などでネガティブなイメージがあったこともあるが、有権者がジョンソンにスター性を見出したことがある。つまり、ジョンソンは面白い人物だ、との評価を受けた。

選挙期間中、ジョンソンは、キャメロン政権とは政策の面でも関係の面でも距離を置こうとし、選挙運動中にキャメロン政権の大臣が顔を出すことを避けようとした。再選された後、ジョンソンは、ジョークで「キャメロンに推薦されたにもかかわらず当選した」と言ったが、これには本音が出ていると思われる。

なお、選挙期間中、ジョンソンの怒りっぽい性格などが明らかになった。また、緑の党のロンドン議会議員で、リビングストン元市長の下で副市長を務めたこともあるジェニー・ジョーンズが討論会で「ボリスに市長ができるなら私にもできる」と発言したが、ジョンソンの行政の長としての能力には疑いがある。ジョンソン周辺からもそのような話が出ていると言われる。保守党の党首としての適格性には疑いがあるが、本人やその支持者には、そういう適格性の問題は、今は問題ではないだろう。

今後の政治の動き次第でジョンソンの政治行動は変わるだろうが、当面の方針は、2015年に予定される総選挙で下院議員となり、2016年まで市長と兼職することだろう。(この兼職は何ら問題がなく、実際、ケン・リビングストンは2000年に市長に当選したが、2001年の総選挙まで下院議員でもあった。)ジョンソンは市長の任期4年を務めると発言しているが、もし、次の総選挙で保守党が過半数を占めることができなければ状況は変わるだろう。

アイデアだけでは不十分(Coalition Government’s Mistakes Will Haunt Them)

5月3日の地方選挙が終わった。労働党が1996年以来という成功を収め、党首のエド・ミリバンドが威信を得、一時危ぶまれていたリーダーとしての地位を確保したのに対し、連立政権を組む保守党と自民党が大きく議席を失った。しかし、今回の選挙で最も注目すべきは、同時に行われた、選挙で選ぶ市長制を導入するかどうかを問う住民投票だったと思われる。

政府は、昨年11月に制定したローカリズム法で、11の大規模地方自治体に、選挙で選ぶ市長制を導入するかどうかの住民投票を義務付けた。このうち、リバプール市は、この法の施行前に住民投票なしで選挙市長制の導入を決め、5月3日に市長選挙を実施し、労働党の候補者が市長となった。(なお、この他、サルフォード市で市長選がおこなわれ、労働党の候補者が市長に選ばれた。一方、ドンカスターで、選挙で選ばれた市長と市議会の多数党との関係悪化で、選挙市長制を廃止するかどうかの住民投票が行われたが、選挙市長制を維持することとなった。)

問題は、リバプールを除いた後の10市の中で、わずかにブリストル市のみが選挙市長制にイエスで、後はノーとなったことだ。いったい何のための義務付けだったのだろうか?確かに、長期的に見れば、選挙できちんと選ばれた市長は、市の先頭に立って、責任を持って市政を預かり、強力なリーダーシップを発揮できる可能性があり、政府が地域振興の引き金にしようとしたことは理解できる。しかし、これらの市の意向や動向も十分に理解しないまま、むしろ理解しようともしないまま、この方向に走り出してしまった政権担当者=政治家にその責任があると言える。

このような失敗は、現政権には数多い。例えば、NHS改革法だ。既存システムの中間層を省き、現場のGP(家庭医)のグループにNHS予算を落とす制度を作り、そこに責任を持たせる仕組みだ。アイデアはよくわかる。しかし、問題は、そのような改革が簡単にできるかどうかだ。特に医師会や看護婦会、さらにGP会まで反対しているのに、この改革法を押し切って成立させた。

さらに大学の学費の問題だ。英国では、2校を除き、他のすべての大学が国立大学だが、これまでの最大限3290ポンド(43万円)までの年間学費から、それを一挙に9千ポンド(120万円)まで認めることにした(イングランド)。ところが、政府は、ほとんどの大学はそれよりかなり低い水準の学費にすると「期待」していたのに対し、ほとんどの大学は、上限、もしくはそれに近い水準の学費とした。いったい政府は何を考えていたのだろうか?

ヒースロー空港などの入国審査でEU外からの人たちの中には3時間待たされた人たちがおり、大きな問題になっている。これは、2010年からの財政カットのために8900人の部門からこれまでに800人程度人員が削減されている上に、内務相とこの部門の前責任者の間でいざこざがあり、内務相が面目を保つために、すべてのチェックをきちんとするよう指示されているためだ。驚くのは、現場の人たちのことを考えずに、上から指示すればそれで物事が動くと考えている人がトップにいることだ。

また国防省の空母艦載機の判断だ。現政権誕生後まもなく、他のタイプの方が安価でしかも機能が上回っている、と前政権を強く批判し、艦載機を他のタイプに変えた。ところが、そのために使われる離発着のシステムは未だに開発中で、実用化の時期に不安があり、しかも軍の方から前のタイプの方が機能的にもふさわしいとアドバイスされ、これも判断を覆さねばならない状態だ。

現政権の判断の多くは「机上の空論」からきているものが多いように思われる。アイデアとしてはよいかもしれないが、それが実施できるかどうか慎重に検討されているかどうか、現場や当事者の意見が反映されているかは二の次となっている。このような失敗は、この政権の将来を危うくするだろうと思われる。

オムニシャンブルズ(Omnishambles)

キャメロン首相は、3月21日の予算発表以来、オムニシャンブルズという状態に陥っている。これは、何もかもが滅茶苦茶でうまくいっていないという状態を指す言葉である。

この言葉は、現在の状況を強調的に表現したもので、問題をそれぞれ個別に見ると、必ずしも大きな問題とは言えないように思われる。しかし、小さな問題が重なり、しかも絶え間なく出てくるということになると、それは政権担当者の能力に問題があるのではないかという疑念を生むようになる。そしてそれが次第に確信に変わっていく。そのような非常に危険な状態にキャメロン政権はあると言える。

これらの問題の大きな原因の一つは、所得税の最高税率を50%から45%に下げたことだ。これは来年4月から実施されるが、多くの国民にとっては、それが来年であろうが今年であろうが関係なく、政府は金持ち優遇という印象を持った。政府は、この政策をきちんと説明できるという自信を持っていたようだが、国民はこのことと自分たちの生活に直接関係のある「小さな問題」に関連づけ、不公平だと感じた。これがオムニシャンブルズの一つの背景である。

どのような問題がオムニシャンブルズと見られているか概括する。

1.「おばあちゃんタックス」批判:来年度から年金受給者への税の特別控除を徐々に減らす。また、来年度からの新しい受給者には、税の特別控除はない。

2.ガソリンパニック:ガソリンやディーゼルオイルをガソリンスタンドに運ぶタンクローリーの運転手がストライキに賛成した。これを受けて、政府は具体的にストライキが計画される前に、これらの燃料をジェリ缶(灯油缶)で買いだめしておくようにと勧めた。その結果、直ちにパニック買いが始まった。消費者の中には、ガソリンスタンドでガソリンが買えず、車のタンクが底をついたので、ジェリ缶のガソリンを他の容器に移し替えようとした人がいた。たまたまそれが台所で調理中だったために、引火し、大やけどを負う事故も起きた。政府がパニックを起こしたと批判された。

3.「チャリティタックス」批判:裕福な人たちの税回避を防ぐために税控除制度を制限しようとしたが、その結果、慈善事業に大きな影響が出ることが表面化し、大きな批判を受けた。

4.「パスティゲート」:コーニッシュパスティなどのパイなど温めて販売する食べ物にVAT(日本の消費税に相当)を20%かけることとしたが、消費者から総スカンを食らった。その上、キャメロン首相がパスティが好きで、買って食べたと言って、その駅名まで名指しした。ところが、その駅の店はそれより5年も前に閉店されていたことがわかり、キャメロン首相が買ってもいないのに買ったと言ったのではないかという疑いが生まれた。そのために、これは「パスティゲート」であり、「パスティタックス」ではない。

5.「キャラバンタックス」批判:移動式住宅にVATをかけることとした。このため、2千人が失業すると攻撃された。

6.「チャーチタックス」批判:文化財指定建造物の修復改造にVATをかけることとしたが、教会建物に最も影響が出ることがわかった。

7.イスラム教過激説教師強制送還問題:ヨルダンへの強制送還を下院で意気揚々と発表した内相が、欧州人権裁判所の上訴期限を一日誤っていたようで、この強制送還が可能になるまでにはまだかなり時間がかかることがわかった。

8.入国管理の遅れ問題:ヒースロー空港などで入国審査の待ち時間が非常に長くなる場合が出ており、政府の対応が遅れている。

9.文化相のBskyB問題:文化相が、メディア王マードック氏のBskyB買収の試みに便宜を図ったのではないかという疑惑が浮上した。この買収は、電話盗聴問題で取り下げられたが、キャメロン首相や担当の文化相がマードック氏の会社に非常に近いことが浮き彫りにされた。

10.リセッション:昨年第4四半期に続き、今年第1四半期もGDPがマイナス成長となり、正式に景気後退となった。政府の過度の大幅財政緊縮策が、成長を阻害しているのではないかとの批判を受けている。0.2%のマイナス成長は暫定値であり、見直されるとプラス成長となると見られているが、それでも既に政府の政策にダメージを与えており、見直されても後の祭りと言える。

英国国会での飲酒(Drinking by MPs in the Parliament)

英国の国会議員の飲酒は有名だ。もちろん飲まない人も多いが、飲酒については様々なエピソードがあり、それは過去何百年にもわたっている。3か月ほど前、労働党のスコットランド選出の下院議員が、国会のバーで飲み過ぎ、保守党の下院議員らに頭突きをし、逮捕された。この議員は、労働党を離党し、裁判で執行猶予刑を受けて、次の総選挙には立候補しないと発表した。しかし、この事件で改めて国会でのアルコール文化が浮き彫りになった。

この事件を受けて、下院の委員会で、国会内のバーのスタッフに、酔ったお客には、注文を断る、レセプションなどでは、注ぎ足す頻度を減らすなどのトレーニングをすることとなった。それとともに、ノンアルコールの飲み物の種類を増やし、アルコール度の低いビールを用意することとし、さらにバーの開店時間を見直すこととなった。いずれも妥当な対策と言えるが、これには基本的な要素が欠けているように思う。

それは、国会議員の自制と制裁である。近年の国会は、かなり状況が変わっている。過去20年ほどで大きく変わったと言われるが、ブレア政権下で下院のリーダーだったロビン・クックが国会改革を行い、審議の時間を変えた。また女性議員が増えたために、国会での飲酒文化はかなり改善された。しかし、それでも節度のある飲酒が国民の代表者である国会議員には必要だろう。

シャンペン好きで、ブランデーとジンを好んだウィンストン・チャーチルは、かつて海軍大臣を辞めた後、第一次世界大戦に自ら望んで軍人として行ったが、本部にいるより前線に出たがったと言う。命の危険が大幅に増したが、所属した大隊では本部でアルコールは飲まないが、前線では許されていたからだという。

チャーチルは「アルコールで失ったもの以上にアルコールから多くのものを得た」と言った人物であるが、「父が、酔っ払いを最も軽蔑するようにと教えてくれた」という。英国では、酔っ払いを顰蹙するが、それを許す風潮がある。しかし、国会議員はそれに甘えているわけにはいかないだろう。

BskyB問題と文化相(Culture Secretary Hunt and BskyB)

ハント文化相がBskyB問題をどのように処理したかが、過去一週間で最も大きな話題となっている。いったい何が起きたのか、ここでもう一度確認してみよう。

メディア世界で非常に大きな影響力を持つルパート・マードックのニューズ・コーポレーションが、39%の株式を持つ衛星放送会社BskyBを買収しようとした。これは、ニューズ・コーポレーションの世界戦略に関した動きで、年間売上60億ポンド(8千億円)で利益が10億ポンド(1300億円)に上る企業を傘下に収めようとしたこと以外に、英国内での他の部門との連携を強め、英国と欧州での地位を強化しようとしたと言われる。

キャメロン首相率いる保守党は、2010年5月の総選挙前に、英国で最も売れているサン紙の支援を受けた。この新聞はニューズ・コーポレーション傘下である。キャメロン首相らの保守党幹部はニューズ・コーポレーションに近く、そのBskyB買収のために便宜をはかったのではないかという疑いが出た。

BskyBの買収が成功すれば、ニューズ・コーポレーションが英国のメディアの中で支配的な地位を占めるのではないかとの危惧があり、他のメディアグループはこぞって反対していた。しかし、ハント文化相は、テレビを含む情報通信の監督機関Ofcomとの協議の結果、競争委員会に諮らず認める方針を示した。結局、この買収は、ニューズ・コーポレーション傘下の新聞紙の行った電話盗聴問題が大きくなったために、断念された。

ハント文化相には、この買収を認めるかどうかで大きな権限があったが、その行動が今回の問題の焦点となっている。電話盗聴問題の独立調査委員会で、ハント文化相のスペシャルアドバイザーとニューズ・コーポレーションとの間のEメールのやり取りが明らかになり、ニューズ・コーポレーション側が情報などの面で特別な取り扱いを受けていたことがわかった。そのために、ハント文化相が矢面に立つこととなった。

4月30日に、野党労働党の要求で、キャメロン首相は下院でこの問題について声明を発表し、質問に答えた。ハント文化相は「公平に公正に対応し、何ら落ち度がない」と繰り返し主張した。そしてハント文化相が電話盗聴問題の独立調査委員会で「宣誓して証言する、もし、そこで大臣規範に違反したことが明らかとなれば自分が行動する」と言ったのだ。しかし、労働党は、文化相は明らかに大臣規範に違反していると主張し、首相の答弁に満足していない。むしろ、首相は、ハント文化相を盾に使っていると攻撃した。

BskyB問題はもともとビジネス相の自民党下院議員ヴィンス・ケーブルが担当していた。しかし、これがハント文化相の担当に替わる。そのきっかけは、ケーブルの「失言」だ。

2010年12月にテレグラフ紙の記者が地元選挙民を装い、ケーブルの行っている地元民個別相談会で、様々な時事問題へのコメントを密かに録音した。その際、ケーブルは、この買収問題を情報通信の監督機関Ofcomに諮問したが、ケーブルのその決断は、「マードックへの戦争宣言で、われわれはこれに勝つと思う」と発言した。実は、テレグラフ紙はこの発言を当初発表しなかった。BskyB買収に反対していたため、ケーブルがこの問題を担当している方が好都合と判断したからだと思われる。しかし、何者かが、この録音をBBCの経済部長に渡したことからこの発言が明らかになった。これには、テレグラフ紙からニューズ・コーポレーション傘下のニューズ・インターナショナルに移った人物が関係していると言われる。

ケーブルの発言が明らかになるや否や、キャメロン首相は、ケーブルをBskyBの担当から外し、それをハント文化相に回した。ハント文化相は、BBCなどのメディアも担当している。問題は、後で発覚するが、ハント文化相は、かねてよりニューズ・インターナショナルに近かったことだ。しかし、ハント文化相は、自分が批判される可能性をよく理解しており、慎重にことを運んだ。それでもいくつかの盲点があり、それが今回の件で表面化した。

これからの展開は、5月中旬以降にハント文化相が、電話盗聴問題の独立調査委員会で宣誓の上、質問に答えることとなる。ハント文化相は、自分とスペシャルアドバイザーの間のEメールなどのやり取りをすべて委員会に提供するとしている。

この問題の背景を時系列でみると以下のようになる。
2007年5月 ニューズ・コーポレーション傘下のニューズ・オブ・ザ・ワールド元編集長アンディ・クールソンが野党時代のキャメロンの広報官となる
2010年5月 保守党と自民党の連立政権でキャメロン首相誕生
2010年6月 ニューズ・コーポレーションがBskyBの株式公開買い付けを発表。
2010年11月4日 ビジネス大臣(自民党)ヴィンス・ケーブルがこのBskyBの買収を英国の情報通信監督機関Ofcomに諮問
2010年11月18日 ジェームズ・マードックが、もし政府がこの買収を認めないようなら英国に投資せず、他の国へその投資を回すと発言。
2010年12月 欧州委員会がこの買収を承認
2010年12月21日 選挙民を騙ったテレグラフ紙記者への不用意な発言のためにケーブル大臣がBskyBの担当を外され、この件がハント文化相に回る
2010年12月31日 Ofcomはハント文化相に競争委員会に諮問する必要がある可能性を指摘
2011年1月21日 キャメロン首相の広報局長クールソンが電話盗聴問題に関連して辞任
2011年3月3日 ニューズ・コーポレーションがBskyBのニュース部門を分離することにしたことでハント文化相は競争委員会に諮問せずに認める方向を発表
2011年6月23日 Ofcomとニューズ・コーポレーションが条件合意との報道
2011年7月初め ハント文化相 最終のヒアリングが終わり次第買収を認める意向
2011年7月4日から ニューズ・オブ・ザ・ワールドの電話盗聴問題が大問題化。その結果、Ofcomがニューズ・コーポレーションの適格性を問う。
2011年7月7日 ニューズ・オブ・ザ・ワールド廃刊発表
2011年7月11日 ニューズ・コーポレーションがBskyBのニュース部門分離案を撤回。ハント文化相が競争委員会へ諮問

2011年7月13日 全主要政党が買収に反対を表明。ニューズ・コーポレーション BskyB買収を撤回と発表

2012年4月26日 電話盗聴問題の特別調査委員会でハント文化相のスペシャルアドバイザーとニューズ・インターナショナルの対外交渉担当者の間のEメールが公開される。
2012年4月27日 ハント文化相のスペシャルアドバイザー辞職

大臣の行動規範(Ministerial Codes and a minister’s behavior)

文化・スポーツ・オリンピック大臣が「大臣の行動規範」に違反したのではないかという疑いが出ている。決定権限を持つ大臣のスペシャルアドバイザーが利害関係者と頻繁に接触し、様々な情報を提供したことがわかったが、大臣がスペシャルアドバイザーへの管理監督義務を怠り、また議会を欺いたのではないかというのである。

実はこれは表面的な議論である。キャメロン首相は、この問題を早く幕引きするか先送りにしたいと努力してきている。実際には、大臣とこの利害関係者との関係、キャメロン首相とこの利害関係者との関係、キャメロン首相の政治的判断など多くの不透明な問題を含んでおり、この問題はかなり深化する可能性を秘めている。ここでは、大臣の行動規範とスペシャルアドバイザーに簡単に触れておきたい。

英国の「大臣の行動規範」は、1980年代には既に存在していたと言われるが、それが公になったのは1990年代に入ってである。この行動規範は、首相の責任で出され、首相が責任を持つ。つまり、大臣が行動規範に反したかどうかを判断するのは首相である。

なお、スペシャルアドバイザーは、大臣を補佐するための特別国家公務員である。ハロルド・ウィルソン労働党政権で生まれたと言われるが、この職は、一般の国家公務員が政治的に中立の立場をとる必要があるのに対し、政治的な動きを担当するための存在だ。それぞれの大臣が任命するのであり、基本的に仕える大臣が職務を離れれば、同時に職務を離れることとなる。スペシャルアドバイザーの職務は、大臣に対してアドバイスすることで、国家公務員との関係には様々な制約がある。一方、国家公務員の中立性が次第に侵されてきており、大半の国家公務員はその職務の中立性を守ろうとしているが、一部にかなり政治的な動きをする人も出てきている。例えば、サッチャー保守党政権では、もともと国家公務員の広報官や、外交担当アドバイザーが、サッチャー首相に近づき過ぎ、本来の職務に戻ることが難しくなったが、その時代には、国家公務員の中立性は、現在よりもかなり強く保たれていたと思われる。しかし、近年は、スペシャルアドバイザーと国家公務員との垣根がはるかに低くなっている。むしろ、国家公務員の中に大臣らとの接触を好む人が増えているようだ。特に日本のキャリア組に相当するファースト・ストリーマー(制度はFast Streamと呼ばれる)にはその傾向が強いようだ。

なお、大臣規範では、大臣のスペシャルアドバイザーに対する責任は以下のように定められている。

The responsibility for the management and conduct of special advisers, including discipline, rests with the Minister who made the appointment. Individual Ministers will be accountable to the Prime Minister, Parliament and the public for their actions and decisions in respect of their special advisers.

一方、スペシャルアドバイザーに対しては、その倫理綱領があり、その中でも以下のものは今回に当てはまる。

They should not without authority disclose official information which has been communicated in confidence in Government or received in confidence from others.

これまでの例としては、運輸大臣のスペシャルアドバイザーの事例がある。9/11の際、誰もの注意がそれに奪われているので政府に不都合なニュースを発表するチャンスだと同僚に連絡した。また、ブラウン前首相のスペシャルアドバイザーが、偽情報を流して保守党の政治家を貶めようとしたことが発覚したことがある。ブラウン前首相は、この件で何度も謝罪した。いずれもスペシャルアドバイザーは辞職したが、大臣はこれらのことで辞職するなどのことはなかった。