キャメロン首相就任以来最悪の週(The Worst Week for Cameron)

どの政治家にもこのようなことが起きるといえる。問題が一挙に吹き出ることだ。キャメロン首相は、労働党首相だったハロルド・ウィルソンの言った「政治では1週間は長い」言葉が実感していると思う。

2週間ほど前には、訪米したキャメロン首相をオバマ大統領が丁重にもてなし、キャメロン首相の威信が増したと見られた。ところが、先週の予算で、年金生活者からお金を奪ったと言われ、「おばあちゃん税」と名付けられ大きな批判を浴びた。

そして先週末の「巨額の政治資金で首相に面会」暴露事件だ。首相官邸の上の首相が家族と住んでいるアパートへ招待したゲストリストは発表しないとしていたがマスコミからの圧力に屈し、結局発表。

その上、コーニッシュパスティやパイなどの温めた食べモノへVATをかける「パスティ税」を正当化しようと首相自らがパスティを食べたと言ったが、ウソだと発覚。

またタンクローリーの運転手たちがストライキに賛成したことからストライキの日も決まっていないのに国民に車のガソリンタンクを満杯にする、ガソリンやディーゼルオイルなどを予め買っておくようにとアドバイスしたことからパニック買いが始まった。当初政府はジェリカン(灯油缶と同じ)で買いだめしておくようにと勧めたが、消防などからそれは危険だといわれ、そのアドバイスを取り下げた。ところがモータリストは、ガソリンタンクを満杯にした上、ジェリカンでも買っている。そのため、ガソリンスタンドには長い行列ができ、しかも売り切れのガソリンスタンドが次から次に出ている。マスコミは、これを政府が自ら引き起こしたパニックだと政府を批判。

この中、世論調査では、野党の労働党が支持率で、キャメロンの保守党に10ポイントの差をつけている。3月30日にわかったYouGovの世論調査によると、保守党34%、労働党44%、そして自民党8%。YouGov以外でもComResも数日前に労働党の10ポイントリードを記録している。ComResの場合、これほど労働党がリードしたのは2005年以来だという。

理屈ではいかない税(Effects of Budget)

3月21日の予算発表とその反応から言えることは、税金は必ずしも理屈だけでは判断できないということだ。

オズボーン財相の予算は、法人税の引き下げなどビジネス志向として評価を受けた反面、二つの税金の問題で非常に強い批判を受けている。それは、最高税率を来年4月から50%から45%に下げたこと、それに年金受給者の控除を凍結したことだ。

最高税率の問題は、年収15万ポンド(1950万円)を超える部分にかかる税率であり、政府としては、他の先進国と競争するためにも、下げたいという意向を持っていた。ただし、財政再建に取り組んでいる最中で、低中所得層が直接影響を受けている中、この税率を下げることは、金持ち優遇だという批判が出ることが予想され、政治的に難しいことは当初から十分に分かっていた。しかし、この最高税率から得られる税収入は、その得失を計算すれば極めて小さいという報告書が出され、しかも200万ポンド(2億6千万円)以上の住宅を買う際には7%の印紙税をかけ、節税策を取り締まり、さらに課税最低限度枠の大幅アップで理解が得られると判断していたようだ。この判断は誤っていたようである。

一方、年金受給者の控除の凍結に関しては、今まで65歳以上の年金受給者は不利な扱いは受けておらず、シンクタンクや新聞の中には必要な措置で妥当だと評価する声がある。しかし、これは「おばあちゃん税」としてマスコミで大きく取り上げられ、不公平な税だと一般に見られている。

特に重要なのは、この二つを結び付けて、金持ち優遇のために、年金生活者のおじいさん・おばあさんが不当な扱いを受けているという印象を与えていることだ。

野党労働党は、オズボーン財相の予算を「百万長者の予算」と名付け、上で述べた印象を機会があるたびに訴えている。政府は、今後かなり長い間これに振り回されることになるだろう。

財相のマジック(Osborne pulled a Rabbit out of the Hat)

予算発表は、英国では非常に重要な日だ。この日に、これからの予算と税が発表されるからだ。英国では、税金、特に所得税がどうなるかは誰もが注目している。

今日の財相の予算発表では、予想通り、所得税がかかり始める金額の課税最低限度額が上がり、一方では、所得税の最高税率が下がることとなった。課税最低限度額は、2011年度は7475ポンド(97万円)だが、それが2012年度は既に8105ポンド(105万円)に上がることが決まっている。これをさらに2013年度に9205ポンド(120万円)に上げることを発表した。所得税の最高税率である50%は現在15万ポンド(1950万円)以上にかかっているが、これが2013年4月から45%となる。

事前に問題となっていたのは、課税最低限度額を引き上げの結果手取りが増えることよりも、高所得者の所得税が下がることへの不公平感であった。これを拭い去ろうという試みがこの予算に入っている。

財相が行ったのは、まず、国税当局にこの税率変更で具体的にいくら税収が減るか試算させることであったが、驚いたことにこれはわずか1億ポンド(130億円)だと言う。この計算は2010年に設けられた、独立機関である予算責任庁(OBR)も認めたものであると言われるので信用性の高いものと思われる。

さらに、200万ポンド(2億6千万円)以上の住宅には、7%の印紙税がかかる。これは、今晩12時から適用される。もし、企業を通じて買う場合には、この印紙税は15%に上がる。これは、企業を通して買う方法を取り締まる方針と事前に発表されていたが、それでも抜け道があるとの論評に反応したものと思われる。

その上、2013年度から反税金逃れルールが導入されることとなった。

一方では、法人税が2011年度の26%から2012年度は予定されていた25%を越えて24%とし、さらに2014年までに22%へと下げると発表された。

これらの施策が有権者の支持を受け、高所得者への減税を黙認するかどうだろうか?

さらに大きな問題として子供手当の問題があった。これは中所得者に大きな打撃を与えると見られていたが、これも当初の42,475ポンド(552万円)以上の所得の人には支給しない方針が、予算発表で、5万ポンド(650万円)以下の人には支給され、それを超える人は100ポンドごとに1%ずつ減り、6万ポンド(780万円)以上の人のみが受給できないこととなった。

要は、これらの措置を講じても、2014年度に政府債務はGDPの76%をピークに下がり始め、財政赤字は、今年度の1260億ポンドから2016年度には210億ポンドまで下がると言う。また、失業も今年の8.7%を最高に下がり始め、インフレも今年の2.8%から来年は1.9%に下がると言う。つまり、政府の財政緊縮策は効果的に働いているというわけだ。

もちろん、所得税のかからない額までの収入を得ている人には課税最低限度額のアップは意味がなく、むしろ、社会福祉手当の大幅カットで大きな影響を受ける。また、今後の年金受給者には、事実上のマイナスとなるなど問題がないわけではない。しかし、今回の予算発表は、オズボーン財相が「マジック」を発揮したといえるものであった。

政府予算の政治(A Tweaked Budget and its Political Process)

この3月21日には、政府の予算が発表される。英国では予算の内容は、基本的に予算発表まで明らかにされないことになっているが、それが漏れ伝わってきたり、また、今回のようにその内容の一部を財相が公然と発言したりすることもある。しかし、かつては、その内容を漏らしてしまったために財相や、それ以外の閣僚が辞任したこともある。なお、閣僚は、予算発表当日の午前の閣議で、その内容を細かく知ることとなる。

さて、今回の予算を巡って、連立政権を組む保守党と自民党の対立、さらに保守党の中での対立などがあり、近年になく、「政治的な予算」作成となっている。これは、連立政権の性格を反映してやむをえないことと言えるが、微調整が行き過ぎて、木を見て森を見ずのような状況になっているようだ。財相は戦略家だと言われるが、その名に値するものかどうかは21日に明らかになる。

さて、この予算作成は、英国の政治の政策決定過程の一面を現わす具体的な例だと思われるので、その内容について触れておきたい。主な争点は以下の通り。

保守党

基本的な考え方:減税・企業活力と投資の促進
与えたいイメー: 誰ものことを考えている
所得税:15万ポンド(1950万円)を超える収入にかかる現在の最高税率50%の引き下げ
富裕税:高級住宅税は避けたい
法人税:法人税減税を実施したい

自民党
基本的な考え方:公平重視・富分散
与えたいイメージ: 弱い者の味方
所得税:現在の最高税率を維持し、課税最低限度額を早く引き上げたい
富裕税:高級住宅税の導入
法人税 法人税減税より課税最低限度額引上げ優先

なお、保守党、自民党両党ともに、経済成長を図り、雇用を促進するための政策についてはあまり違いがない。また、政府赤字解消への財政削減を進めることでは合意している。本来は、これらや、医療、教育などの方が重要とは言えるが、ここで問題となっているのは、税とその影響だ。子供手当を40%以上の所得税のかかる給与を得ている人には支給しない方針については、キャメロン首相などから異論があったと言われるが、これは両党間で比較的早く合意しており、財相が微調整を行うことになっている。

所得税に関連した課税最低限度額は、自民党がそのマニフェストで1万ポンド(130万円)までに上げることを約束しており、連立政権合意書でもそれを目指すことを合意している。今年4月からそれを8105ポンド(105万円)まで上げることになっているが、自民党はそれをさらに早めるよう要求している。200万ポンド(2億6千万円)以上の住宅への高級住宅税の導入は、自民党がマニフェストで約束していたが、そのような住宅を持っている人は保守党支持者であることが多いことから保守党内で反対が強く、キャメロン首相が反対したと伝えられる。

これまでところ、保守党と自民党の妥協で、以下のようなことが合意されているようだ。

 課税最低限度額を9千ポンド(117万円)程度まで上げる。
 所得税の最高税率50%を2013年4月から引き下げる。45%?
 高級住宅税は導入しない。
 税逃れ、特に富裕層の税逃れを取り締まる。自分の住む住宅を会社の持ち物として印紙税を免れることやそれ以外の「合法的な節税策」を違法にする、もしくは制限枠を設ける。

所得税の最高税率50%を引き下げることは、所得が実質目減りしている人が多く、給与が凍結されている公務員が多い状況では、そう簡単に実施できることではない。しかし、次の総選挙を2015年に想定していることを考えれば、これは早い目に下げておいた方がよいという政治的な計算が背景にあると思われる。つまり、選挙が近づいてくればくるほど、下げることが難しくなるという判断だ。さらに、直ちに下げるのではなく、ある程度景気が改善してきた頃を見計らってということになる。ただし、これらに自民党が全体として合意しているわけではない。自民党党首のクレッグ副首相らがこの引き下げを容認したが、それを保守党につけ入れられたと見る向きも多い。この予算発表で、保守党がその「嫌な党」イメージを拭い去ることができるか、また、自民党が「弱い者の味方」イメージを回復できるかは見ものだが、いずれも難しいように思える。

陰の財相、エド・ボールズの話(Is the Shadow Chancellor Ed Balls a Tough Guy?)

今日のタイムズ紙の付録マガジンの表紙を見た途端、思わず笑ってしまった。ボクの笑いを聞いて2階にいた妻が「いったいどうしたの?」と聞いてきた。そこで、その表紙に載っているエド・ボールズの言葉「過去を振り返って、ゴードン・ブラウンが偉大な首相だったと言う人はいないだろう」を読み上げた。

ボールズは、ブラウン前首相の側近中の側近だった。トニー・ブレア元首相の側近だったジョナサン・パウルやアラスター・キャンベルがブレアの批判につながる言葉を慎重に避けるのに対比してボールズのこの言葉は意外だった。ボールズは、ブラウンが財相当時、よく「副大臣」と呼ばれたほど大きな影響力を発揮した人物だ。英国中央銀行のイングランド銀行が政策金利の決定を含めた金融政策を担当することになったのは、実はボールズの発案と言われる。

もちろんボールズにはこういう言葉を吐く背景がある。ブラウン前首相の政権運営そのものに大きな批判があるのに加え、財政運営のかじ取りを誤ったために国が大きな債務を抱え、現政権がその後始末に四苦八苦するという状況を作り出したと考えられているためだ。毎週水曜日恒例の首相のクエスチョンタイムでは、キャメロン首相や、時に代理として答弁する自民党のクレッグ副首相が、政権に就いて2年近くたった今でも「前労働党政権がこの問題を作り出した」と労働党を攻撃する。労働党は既に、政権政党時代に「誤りがあった」と言っているが、ボールズが、現在の労働党は、ブラウン時代の労働党とは違うということを強調するためには、ブラウンからある程度距離をおかなければならないと感じているのだろう。

ただし、本文を読めばわかるが、ボールズはその言葉を言った後、「しかし、2007年から8年にかけてゴードン[ブラウン]とアリスター[ダーリング蔵相]が示したリーダーシップはものすごく重要だ。それは世界中に知られているが、ここ英国ではそうでもない」と信用危機への世界的取り組みを先導したブラウン前首相の果たした役割を強調している。こういうインタヴューでは、言葉が前後の文脈から離れて取りあげられる可能性が高いのでよほど慎重にならざるをえないと言える。

ボールズには、少し、雑な人物と言う印象があるが、このインタヴューでは、本当のことを言い過ぎているような気がする。結局のところそう悪い人間ではないのだろう。例えば、ブラウンが怒って電話を投げつけたのは本当か?という質問に対して「えーと、そこにいたことはないので、えーと、電話を投げつけた時に」と答えている。つまり、電話を投げつけたのは本当だと言っているのである。その上、「私は、ゴードン・ブラウンに自ら進んで立ち向かい、彼が誤っていると言う人間だ。これは、実際のところ、大変重要な公共サービスだった」と言う。ブラウンは人の言うことをあまり聞かなかったようだ。

マガジンの中の写真では、新調したばかりに見える高級そうなスーツを着ている。ボールズは影の蔵相だが、その下院議員としての年俸は、£65.738(850万円)でそう多いものではない。ブラウンのアドバイザーになるまでは、フィナンシャルタイムズ紙の論説記者を務めていた。なお、ボールズの妻のイヴェット・クーパーも労働党下院議員で、影の内相だ。2人ともオックスフォード大学からケネディー奨学金を受けてハーバード大学で学び、その後エコノミクス担当のジャーナリストになった経歴は似ている。2人は前ブラウン内閣で閣僚となり、初めての夫婦での閣僚就任となった。

ボールズは2010年の党首選挙に立候補して敗れたが、その前に、2人のどちらが党首選に立つかで相談したと言う。現在、賭け屋は、クーパーを現在の労働党党首エド・ミリバンドの後に党首となる筆頭候補と見ている。しかし、ボクは、クーパーは頭が良いかもしれないが、政治的なセンスに欠ける面があると思う。かつて住宅担当相だった時に、HIPSと呼ばれる、売り主が家の情報をまとめて提供する義務を推進したことがあるが、これは完全に失敗に終わったからだ。クーパーよりも一世代ジャンプして、次は現在影のビジネス相のチュカ・ウムンナに移行するのではないかと思っている。

ボールズは「過去100年間にわたって、英国の経済政策担当者が犯してきた政治的に大きな失敗は、自分の言うことを信じて、何とかうまくいくと期待してそれに執着することだ、つまり、それが本当だと言うと、それが本当になると信ずることだ」と言う。なぜ日本が莫大な債務を負うようになったかが説明できるような気がした。

ケーブル・ビジネス相の指摘した点:日本も考えるべき(Vince Cable’s Views on Industry Policy)

ビジネス相のヴィンス・ケーブルがキャメロン首相とクレッグ副首相あてに書いた、英国の産業政策に関する手紙がリークされた。ケーブルは、クレッグと同じく自民党から連立政権に入っている下院議員である。ケーブルは、経済学で博士号を持ち、かつては大手石油会社のロイヤル・ダッチ・シェルのチーフエコノミストであった人物である。

この手紙では、政府が銀行の信用危機で救済し、その82%の株式を持つロイヤルバンク・オブ・スコットランドを分割し、産業目的銀行を作るなどの提案が英国では注目されているが、むしろそれよりももっと根本的な、注目すべき指摘が入っていると思われるので、その点だけに触れておきたい。それらは以下の点だ。

 政府は、財政削減に力を入れ過ぎており、将来の方向性への思慮が足りない。
 国の経済成長をどの分野が担っていくか政府は未だに見定めることができずにいる。
 政府は、危機に対応しているだけであり、また、市場がどう反応するか見ているだけで、プロアクティブに対応していない。
 長期的な産業の力を作り出すには、市場の力だけでは不十分だ。

これらの指摘は、英国の問題だけに限らず、日本にも当てはまるように思われる。

保守党の次期総選挙戦略(Tory’s Strategy for the Next General Election)

次の総選挙は2015年春の予定だ。現連立政権で成立させた5年定期国会法では、この5年間の期間中に下院選挙が実施される可能性は非常に限られている。

まだ次期総選挙は3年余り先のことだが、保守党は、2010年の総選挙で過半数が獲得できず、自民党との連立政権に踏み切らざるをえなかった経緯があることから、次期総選挙では過半数を獲得しようと準備を進めている。

その戦略の内容が、保守党支持者のウェブサイトConservativeHomeで紹介されたのでここで触れておきたい。

http://conservativehome.blogs.com/majority_conservatism/2012/03/the-conservative-hq-plan-to-win-36-seats-from-labour-and-14-from-the-liberal-democrats.html

最も重要な点の一つは、重点選挙区を2010年総選挙の際の180から100に絞ったことだ。この重点選挙区100の内、50は保守党議席だが次点との差が少ないもので、残る50の内、36は労働党の議席、そして14は、連立政権を組む自民党の議席だ。つまり、既存議席を守り、他の政党から議席を奪うことで、下院の過半数を獲得しようとしている。

この戦略でのターゲット層は、35歳以下の人、独身、平均以上の収入を得ている人、そして黒人やエスニックマイノリティであるが、このウェブサイトの編集長は、それよりもイングランドのアイデンティティの体現、低所得者への減税、光熱費の削減、不平等の緩和、福祉制度の改革、そして地元や労働者階級出身の候補者を立てるなどの方が有効だと指摘している。

なお、保守党は2015年の総選挙に向けて、この4月から80人の新大卒者を選挙運動マネジャーとして雇う予定だ。徹底的な訓練を与えた後、来年早々から重点選挙区などに送り込む予定。インターネット選挙運動の責任者は既にヘッドハントしているという。

キャメロン首相のストラテジストの長期休暇(Steve Hilton’s Temporary Retreat)

デービッド・キャメロン首相のストラテジスト、スティーブ・ヒルトンがしばらく首相官邸を去ることとなった。今年夏からカリフォルニアのスタンフォード大学の研究所で客員研究員となり、1年後に英国に帰ってくるという。ヒルトンはストラテジストとしてキャメロンが保守党の党首となる前から戦略をアドバイスしてきており、キャメロンのスペシャルアドバイザーとして官邸に入った人物である。官邸では、それまで構築してきた政策を実施する役割を果たしてきたが、連立政権内の自民党、官僚、EUなどの制約のために思うように進まず、不満が高まっていたといわれる。なお、キャメロン首相のストラテジストには、概して長期並びに全体戦略担当としてヒルトン、それ以外の戦略にはオズボーン財相がいる。オズボーン財相は、その多忙な仕事にもかかわらず一日二回の官邸での戦略会議に参加していると言われる。

ヒルトンは、キャメロンが保守党党首となった後、保守党の「嫌な党」イメージを無くすためにグリーンキャンペーンなどを仕掛け、また、キャメロン首相の中心政策ともいえるビッグソサエティの構想を打ち立てた人物でもある。この構想がうまくいっていないこともヒルトンの動機の一つになっているように思われる

ヒルトンは、オックスフォード大学で学んだ後、キャメロンと同じく保守党本部に入った。そこで保守党の選挙キャンペーンを担当した大手広告宣伝会社に引き抜かれる。そして自分で企業イメージを向上させる会社を設立し、成功したが、その後、キャメロンに依頼されキャメロンの戦略を立て始めた。キャメロンはヒルトンのサービスに当時の自分の給料の2倍以上を支払ったといわれる。ヒルトンの妻は、もともと保守党のマイケル・ハワード党首の政治秘書を務めた人物で、当時からその有能ぶりは有名だったが、現在は、グーグルのコミュニケーション担当の副社長である。ヒルトン夫人は、かつてキャメロン首相の妻サマンサの義父と関係があったことから、サマンサとそう仲が良いわけではないと見られているが、ヒルトンとキャメロン首相との関係の強さはよく知られている。

ヒルトンが首相官邸を離れると聞いた途端、恐らく、アイデアが尽きてきて充電が必要だと判断して一時官邸を離れるのではないかと思った。サンデータイムズ紙は、政府がこれ以上の改革を進める意欲を失ったことが原因というが、これは同じことを違うアングルから見ているように思われる。来年夏にロンドンに帰ってきた時には恐らく次の総選挙の準備にあたるのではないかと思われる。

ロンドン市長選の動向(Forthcoming London Mayoral Election)

この5月3日(木曜日)にロンドンの市長選が行われる。このロンドン市長選は、日本で言えば東京都知事選にあたる重要な選挙だ。

この選挙は、保守党のボリス・ジョンソン現市長と労働党のケン・リビングストン前市長の争いである。現在までの世論調査では、二人の差はかなり小さく、接戦となっていると見られている。

二人の間の主な争点は、ロンドンの公共交通の運賃である。ロンドン内では、地下鉄、バス、それに一般の鉄道網は私鉄も含めて基本的にロンドン交通局の統一運賃の下で運営されている。この運賃をジョンソン市長が今年1月に上げたのに対し、リビングストン前市長は、当選すれば運賃を7%カットすると表明した。このため、それまで劣勢と見られていたリビングストンが支持率を上げ、接戦となっている。

ジョンソンは、リビングストンの運賃引き下げは、ロンドン交通局の予算から10億ポンド(1300億円)が失われることを意味し、地下鉄の改善整備ができなくなる、リビングストンは向こう見ずだと非難した。ジョンソン市長の政策には、以下のようなものを含む。

 20万人の仕事をつくる
 首都に300エーカー(120ha)の緑のスペースを復活させる
 街路に2万本の気を植える
 商業の中心街改善のために2億2100万ポンド(290億円)を投資する
 大ロンドン庁分の地方税を引き下げる
 地下鉄の遅れを2015年までに30%減らす

ジョンソン市長には個人的な人気があるが、上記のような政策に有権者がどの程度関心を示すだろうか?

なお、ジョンソンは、保守党支持のテレグラフ紙のジャーナリストを務めた後、人気のある保守党寄りの人気雑誌スペクテイターの編集長を務めた。そして保守党の下院議員としてよく知られていた人物で、キャメロン首相の後の保守党党首の最有力候補である。

一方、リビングストンは、ブレア政権で新たに設置した大ロンドン庁(Greater London Authority)で初代市長を2000年から2008年まで務め、ロンドンの混雑税やオイスターカードと呼ばれる自動運賃支払いシステムを導入した。かつては、サッチャーが廃止する前の大ロンドン議会(Greater London Council)の多数派だった労働党のリーダーとして市長のような立場にあった。その後、労働党の下院議員となった。