政党の政策作りのメカニズム(How political parties make their policies)

英国の政党はどのように政策を作っているのだろうか?ここでは、主要三政党の政策形成過程を見る。

いずれの政党も政策形成過程はよく似ている。党中央の政策フォーラムのような組織が中心となるが、なるべく多くの人に参画させ、意見を集約するとともに、参加意識を向上させることを狙いとしている。党組織からの政策へ影響が比較的大きい自民党でも、政策形成にはかなり慎重に対処しており、党のリーダーシップが目配りできる仕組みを作っている。実際には、総選挙の際のマニフェストには、リーダーシップの判断が大きく影響する。つまり、マニフェストは、総選挙時の政治判断で決まるといえる。

保守党

保守党政策フォーラムという全国組織を設けている。保守党地方支部ごとにその支部があり、それをまとめる広域地域ごとの責任者がいる。全国組織の座長は、内閣府で政策担当相を務めるオリバー・レトウィン。レトウィンは、保守党の野党時代に影の財相をはじめ、影の内閣の重職を務めた人物である。2010年総選挙のマニフェスト作成の責任者だった。

主な政策課題は以下の通り。
• ensuring higher employment rates;
• achieving a more regionally-balanced economy;
• delivering more affordable housing;
• raising productivity;
• reducing the exposure of the banking sector;
• eroding income inequality and child poverty;
• improving child wellbeing;
• improving the life chances of looked-after children;
• ensuring elderly care is well funded;
• protecting natural capital; and
• reducing the scale of central bureaucracy
参照:http://www.conservativepolicyforum.com/what-cpf
労働党

全国政策フォーラム(NPF)が中心となる。このメンバーは、中央執行委員会(NEC)33人全員を含めて194人。この委員会の上部機関として、党首が委員長を務める合同政策委員会があり、また下部機関として6つの政策委員会がある。NPFが、最高議決機関である党大会に政策を提出。党大会ではそれ以外の課題も議論される。

労働党には「政権へのパートナーシップ(PiP)」という、労働党のすべての関係者、党員、選挙区支部、労働組合、社会主義関係団体、議員などを含めて政策を討議するシステムがある。上記で述べた政策委員会が政策案を出し、PiPで検討し、そのフィードバックが繰り返されるという形のサイクルがある。。その結果がNPFに上がることになる。

党大会で合意された政策は、総選挙の際のマニフェストの基本となる。2010年の総選挙では、現党首のエド・ミリバンドがマニフェストをまとめた。

6つの政策委員会の課題は以下の通りである。

Britain in the World
Crime, Justice, Citizenship and Equalities
Education and Skills
Health
Prosperity and Work
Sustainable Communities

参照:http://www.labour.org.uk/policy_making
自民党

連合政策委員会(Federal Policy Committee)が中心となる。このメンバーは、党大会で2年ごとに選出され、この委員会が党大会で議論する土台となる案を作成する。また、この委員会が、国会議員団と協力して既に合意された政策を基にマニフェストを作る責任もある。なお、自民党党首のニック・クレッグはこの委員会のメンバーで、この委員会の座長は、クレッグ党首の側近のノーマン・ラム下院議員である。

自民党では党大会が最も重要な機関で、年二回、春と秋にある党大会で、地方支部から選ばれた代表者たちが英国全体に及ぶ政策を決める。地方支部やそれより広範囲の人の集まりで、政策を議論し、その代表者が党大会で政策決議や政策案を議論し、それらに投票する。

なお、イングランド、スコットランド、ウェールズでは、それぞれの地域に関わる政策を決める。

参照:http://www.libdems.org.uk/how_we_make_policy.aspx

英国の格付の政治(Politics on the UK’s Credit Rating)

 

格付け会社の一つムーディーズが、国の格付の最高水準であるAaaの英国のアウトルック(見通し)をネガティブ(弱含み)としたことから、マスコミが大きく取り上げ、財務相と影の財務相の政治的な論争が始まった。

格付とは、国がその債務を履行できなくなる可能性の評価である。ここでのネガティブ(弱含み)とは、今後12か月から18か月の間に現在のAaaの格付けを失う可能性が3分の1あるということである。

問題は、オズボーン財相はこれまで政府の行っている財政緊縮策は、このAaaの格付を維持することがその主な目的だと主張してきたことだ。この格付を維持することは、英国への投資を促し、政府の借金の利子を低く保つことができるからである。英国は、欧州で最も大きな債務を持つ国の一つである。

オズボーン財相は、財政緊縮以外に英国の取るべき道はないと主張しているのに対し、労働党のボールズ影の財相は、緊縮策は自滅的な道で、経済成長こそが政府債務を減らす唯一の方法だと言う。つまり、需要を増やし、雇用を維持する経済成長を促すために借金をすべきだと言うのである。オズボーン財相の当初の計画では、2015年までに財政を均衡させる予定であったが、失業増加と経済の停滞のために、既に2017年までに先延ばししている。この最大の原因は、英国の最大の市場である、ユーロ圏の問題だ。これは、ユーロ圏外の英国の経済、そして政治に大きな影響を与えている。

ムーディーズは、英国が財政緊縮策を緩めることには警告を発している。そのため、所得課税最低限を、連立政権の合意文書に含めた、年に1万ポンド(120万円)まで上げることは、かなり先のことになりそうだ。課税最低限は現在の7475ポンド(90万円)から8105ポンド(97万円)に4月から上がることが既に決まっている。保守党と連立政権を構成する自民党は、目標は1万ポンドにとどまらず、1万2千ポンドまで引き上げるべきだと主張している。