ギャンブルと言える2013年予算(A Gamble 2013 Budget)

3月20日、水曜日恒例の首相のクエスチョンの後、ジョージ・オズボーン財相が予算演説を行った。非常に厳しい経済環境下、緊縮財政を取る政府のできることは限られていると見られていたが、大きな注目が集まった。英国人は一般の人も予算には注目するからである。

オズボーン財相

オズボーン財相(41歳)は、2010年5月にキャメロン連立政権の財相に就任するまで保守党の影の財相を5年間務めた。その前には1年間、影の財相に次ぐポストである影の財務省主席担当官を務めており、現在まで9年近く、英国の財政を担当、もしくは野党として吟味してきたことになる。

2010年の総選挙で主要三政党の党首討論があったが、その前に三党の財政担当者の討論があった。保守党からはオズボーンが出席した。労働党は当時のアリスター・ダーリング財相だったが、ダーリングは1997年にブレア労働党が政権を担当し始めた時以来の閣僚であり、財相をそれまでに3年間務めていた。自民党からは経済学の博士号を持ち、ロイヤル・ダッチ・シェルのチーフエコノミストでもあったヴィンス・ケーブル(現ビジネス相)であった。この討論では、オズボーンは、あらかじめ作成した模範解答に基づいて質問に答えているように見え、他の二人に比べて弱く見えたが、それは当時この3人の中ではやむをえないように思われた。しかし、オズボーンが財相に就任し既に3年である。オズボーンは政治家として財政を扱うには十分な経験を積んでいるといえる。

これまでのオズボーン財相の実績は芳しいものではない。3月17日のサンデータイムズ紙のYouGov世論調査では、政府の経済運営がまずいと言う人は65%にのぼり、しかもオズボーンは財相としてできが悪いと見る人は67%にも上っている。

野党の労働党のミリバンド党首は、オズボーンをよくパートタイム財相と呼ぶが、これは、オズボーンがキャメロンのチーフストラテジストも務めているからである。財相を替えるべきだという声は保守党内にもあるが、長い盟友であるキャメロン首相は交代させる考えはない。

オズボーンの緊縮財政

財相に就任して以来、オズボーンは財政緊縮を打ち出し、政府の財政赤字の拡大を防ぎ、政府の債務をなるべく早く減らし始めることを目的としてきた。2010年の6月の最初の予算演説では、毎年財政赤字を大幅に減らし、2015年までに政府の債務が減り始める計画を打ち出した。

それ以降、ユーロ危機などで、ユーロ圏外の英国も大きな打撃を受け、経済成長が停滞している。そのため、税収が予想より大幅に下回り、緊縮財政を継続しているものの、当初の計画の延長に迫られてきた。非常に厳しい経済環境の中ではあるが、それでも緊縮財政を継続する方針は変えていない。2015年に予定されている次期総選挙前に政府のこの方針を変えることはないと見られている。

2013年予算演説

今回の予算演説は、財相としてオズボーンの4回目だった。咋年の予算演説では、所得税の最高税率を下げながら、収入に所得税のかかり始める課税最低限度額を上げ、他の多くの分野の税金を見直すなど減税分に見合う財源を捻出する手段を講じ、「帽子からウサギを取り出す」手品のようなことをした。しかし、財源捻出策の多くがUターンを迫られることとなり、「オムニシャンブルズ」と呼ばれ、財相への信頼を大きく傷つけた。その際のオズボーンの予算演説は、自信満々で、傲慢にも見えた。しかし、今回は、オズボーンの傲慢さが影をひそめていた。

2012年度は、2010年6月の計画では政府の当該年度の借入金額が600億ポンド(8兆7千億円)となる予定であったが、それが大きく増えて2倍の1209億ポンドとなる見通しである。ここでは、昨年度より、借入金額が減ったように見せるため、懸命の努力が繰り広げられた。2011年度の借入金額は1210億ポンドであったが、この予算スピーチ直前の懸命の努力で、1209億ポンドに抑えたのである。これは毎年借入金額が減っていることを示し、政府の赤字削減策が効果を出しているように見せるために必要なものであった。

この財源は、省庁に未使用のお金をなるべく使わないよう圧力をかけて集めたものが中心だが、国際機関への支払いを来年度に回す、さらに税金逃れの摘発から得られる見込み額などを含み、かなり数字が操作されている。かつてオズボーンは、労働党政権が予算で数字の操作をしていると攻撃したことがあるが、それを自らも行っている。

住宅建設と購入促進が景気刺激策の中心

独立機関である予算責任局(OBR)は、2013年の経済成長を0.6%、2014年を1.8%としたが、緊縮財政の中で、経済刺激策を行うのは簡単ではない。これまでの政策も多くが不発に終わっている。その結果、経済波及効果の大きい住宅の分野に力を入れることとした。新しく建てられる住宅を購入する場合、この4月からその20%のローン(最大60万ポンド・8700万円の物件)を政府が無利子で提供する。そして政府の住宅ローンへの総額1300億ポンド(約19兆円)にも上る保証を2014年から3年間実施する予定である。

保証は、政府にとっては、直接予算として計上するものではないのでやりやすい手法だが、同様の政策が、かつてアメリカでサブプライムローンの問題を引き起こしたことや、既に高い住宅の価格をさらに上げる可能性があることなどから批判がある。しかしながら、1300億ポンドという金額は、現在の住宅ローン全体の1割以上にあたる金額であり、1年間に提供されるすべての住宅ローンの額にあたる金額だという。(参照:http://www.bbc.co.uk/news/business-21881174

そのため、かなりのインパクトがある可能性がある。これは保証であり、政府の計算によると住宅購入者の債務不履行のために120億ポンドほどの負担をする可能性はあるそうだが、それでもビジネスも一般の消費者も現在の厳しい経済環境下で投資や消費を控えている中、かなりドラスティックな手段を講じる必要があるとの判断に基づいているようだ。

なお、これは、英国独自の状況を反映した政策と言える。英国では、債務危機以降、住宅価格は若干落ちているものの、依然として、住宅は長期的に見れば最も確かな投資対象と考えられている。つまり、時間が経てば住宅の価値が上がると考えられており、それは住宅の古さには関係ない。そのため、英国人は住宅を持ちたがる傾向がある。

他の経済刺激政策

オズボーンは、英国の中央銀行であるイングランド銀行の権限を柔軟にした。これまでは、イングランド銀行はインフレ率を2%以下に抑えることを目標としていたが、それを経済の状況によって柔軟に対応できるようにした。これは、アメリカやカナダの中央銀行の権限に倣ったものである。今年7月にイングランド銀行総裁に就任するマーク・カーニー現カナダ銀行総裁の仕事がしやすいようにしたものと思われるが、政府の景気刺激策で効果が出ない場合でも、オズボーン財相が自ら何度も説得して任命に至ったカーニー次期イングランド銀行総裁への期待は大きいと言える。

また、この権限の修正で、オズボーンは、低い金利を長く維持できると述べたが、これは、ビジネスにプラスの効果があるだけではなく、今回の予算の景気刺激策の中心が住宅であることを考えれば、住宅の購入者に低い金利が比較的長期間保障されることを意味し、更なる心理的な刺激策になるように思われる。

また、法人税を2013年には23%、2014年には22%にするが、それを2015年には20%まで下げる。これは、先進国の中でも最低水準で、英国への投資意欲を高めるのに役立つと思われる。さらには、企業が新しく雇用する者に対する国民保険(National Insurance)額の最初の2千ポンドを免除することとした。

有権者向け政策

この予算には、一般の国民の喜びそうなものを散りばめている。例えば、ビール1パイントの税を平均して1ペンス下げ、さらに9月から3ペンス上がる予定であったのを中止した。つまり、4ペンス安くなる。この結果生まれる雇用を考えると税収の面では若干のプラスになるという。

自動車のドライバーには、燃料税を凍結した。また、連立政権下で毎年大幅に上げている課税限度額は、2014年4月から、自民党の選挙公約であった1万ポンド(145万円)を1年早めて実施することとなった。

政治は結果

予算責任局は、政府の債務が減り始めるのは2018年になると見ているが、それは2015年の総選挙よりはるかに先である。そのため、2015年の総選挙は、緊縮財政の真っただ中で戦うことになる。このままでは、世論調査の支持率で、経済政策においてキャメロン首相とオズボーン財相のチームの方が労働党のミリバンド党首とボールズ影の財相のチームよりわずかに上回っているのが逆転しかねない。その状況を打開するための手を打たなければならない。同時に、英国の格付けをこれ以上落とさないことも大切だ。ムーディーズが英国をAAAから一つ格下げしたが、フィッチとスタンダード&プアーズの2社も追随する可能性がある。そのためにオズボーンには慎重な財政運営が要求される。

ユーロ通貨圏のキプロスの財政危機の問題が表面化したこともあり、ユーロ圏の今後は不透明だ。英国の有権者は、キプロスと比べて英国の現状を評価し、オズボーンの予算をそれほど悪いものではないと考えるかもしれない。しかし、政治は結果だとよく言われる。いくらよい政策を出しても結果が出なければあまり意味がない。オズボーン財相の住宅に賭ける政策が成功するかどうかは今後を見なければわからないが、労働党のボールズ影の財相がこの政策を批判した際に「成功するかもしれないが」と言った点に注目する必要があるだろう。ボールズは、この政策が結果を出す可能性もあることを見てとっているからだ。

追い詰められたキャメロン首相(Cornered Cameron)

キャメロン首相はかなり追い詰められている。キャメロン首相が3月7日、経済についての本格的なスピーチをしたが、それ自体かなり異例なようだ。財務大臣の予算発表(3月20日に予定されている)の2週間前にこのようなスピーチを首相が行うのは歴史的にかなり異例だという(テレグラフ紙)。その上、3月8日になって、政府の基本的な経済戦略に大きな疑問が提起された。既に厳しい政治的な環境がさらに悪化していくのがはっきりと見える。

キャメロン首相はそのスピーチの中で、政府は、既存の政策をやり通すしかないと主張した。つまり、財政支出の増加や減税を行わないことを明確にした。そして、政府の赤字削減策が弱い経済の原因ではない、と独立機関の予算責任局(OBR)が明確にしたと言い、赤字の対処が成長のための最初の重要な一歩だと主張した。

この首相のスピーチがかなりの騒動を引き起こした。3月8日、予算責任局の議長ロバート・チョウトがキャメロン首相に手紙を書いて、キャメロンのスピーチの中の「予算責任局が明確にした」という部分に異論を唱えたのである。

チョウトは、増税と歳出削減は経済成長を短期的に減少させる、財政再建策が過去1、2年の間に経済成長を減少させたと指摘した。これは、キャメロンが、財政再建策が弱い経済の原因ではないと言ったこととは異なる。

キャメロンのスピーチの中で予算責任局が政府の政策を正当化するために使われ、その見解が自らのものと異なるために予算責任局は、異論を唱えざるを得ない立場に追い込まれたと言える。予算責任局そのものは、現政権が2010年に設けたもので、経済成長、そして政府の借入金の予測を独立して行うための機関である。つまり、キャメロンらは、この予算責任局の言葉を否定できず、非常に厄介な立場に追い込まれた。

なぜこのようなことが起きたのか理解に苦しむ。オズボーン財相がこのスピーチの原稿を事前に見ていなかったということはありえない。キャメロンによると、ケーブル・ビジネス相がニュー・ステイツマンという雑誌に書いて話題になった記事も事前に財務省がチェックしたそうだ。恐らく、オズボーンは、自分の党内での地位が沈下していることを受けて、自分の立場を強化するために、政府は方針を変えないとキャメロンに言わせ、それに基づいて自分の予算発表を行うつもりだったのだろう。それがものの見事に失敗したのではないだろうか。

このような問題の起きた背景は、幾つかある。

まず、2012年の最終四半期に経済が縮小したことで、政府はその経済戦略について突き上げられている。株式市場は、現在5年ぶりの高値ではあるが、経済は未だに低迷しており、2013年にはほとんど成長しないと見られている。

2番目に、ムーディーズが2月、英国の格付けをトップのAAAから格下げした。格付けを守ることは、キャメロン政権誕生以来、政権の最も重要な課題の一つであったが、それに失敗した。

3番目に、イーストリー補欠選挙で保守党がUKIP(英国独立党)の後塵を拝する結果となった。2015年に予定される次期総選挙で保守党が下院の過半数を占めるには、このイーストリー選挙区のような選挙区で勝つ必要があったが、それに失敗したどころか、支持層のかなり重なるUKIPにも敗れた3位に終わった。この一つの要因は経済低迷である。

4番目に、ケーブル・ビジネス相の記事は、キャメロンのスピーチの一日前に発表された。ケーブルは、借金を増やし、学校や道路、鉄道などの焦点を絞った資本投入プロジェクトを実施するべきだという見解を発表した。自民党の中にそのような見解が増えてきている。

5番目に、保守党の中に大幅な減税を行い、経済成長をもっと積極的に図るべきだと言う声が大きくなっている。

6番目に、党首への挑戦があるかもしれないという噂が流れていることだ。アダム・アフリーや内相のテリーザ・メイなど噂に上がっている人やその周辺は、キャメロン後への準備だとするが、キャメロンらにとっては、こういう噂が出ること自体、問題だ。保守党の規定では、46人の下院議員(下院議員の15%以上)が、1922委員会会長に手紙を書けば、そのプロセスが開始できる。この3月の予算が低調で、5月の地方選挙で保守党が大敗するようなことがあれば、その可能性が出てくるという見方もある。

キャメロンは、政権発足以来、財政赤字を4分の1減らしたと言うが、経済の停滞で、財政赤字はこれから減っていくどころか増加する構えだ。そういう中で起きた今回のキャメロンの失敗は、キャメロン政権への大きな痛手だ。キャメロンは、オズボーンの予算発表の前に期待を下げようとしたという見方もあるが、この失敗で、オズボーンはより大きな圧力を感じているだろう。打つ手に効果がないキャメロンは、一種追い詰められたような状況になっている。

財相の「秋の声明」に見る英国の政治(Autumn Statement’s Politics)

12月5日にオズボーン財相が、英国の経済と財政に関する「秋の声明」を行った。これは、ミニ・バジェットと呼ばれ、春の予算発表と並ぶ大きな行事である。このようなマスコミの注目も集まる重要な行事には、もちろん大きな政治的な駆け引きがある。

その駆け引きは、連立政権内部では保守党と自民党の間で繰り広げられる。2010年の連立政権発足当初と違い、今では、その関係は、ギブ・アンド・テイクの関係と言われる。今夏、自民党の求めた上院改革が保守党の多くの下院議員の反対で流れた後、自民党党首のクレッグ副首相は、保守党の求めた選挙区改正に反対すると公言した。その結果、上院改革も選挙区改正もなくなった。このような二党の関係が、今回のミニ・バジェットにも反映している。さらに政治的駆け引きは、保守党内部でキャメロン首相や他の閣僚とオズボーン財相との間にもあり、その上、連立政権と野党第一党の労働党との間でもある。ここでは、まずは、連立政権のオズボーン財相と労働党のボールズ影の財相との駆け引きを見た上で、保守党と自民党との関係に触れておきたい。

さて、英国経済も、多くの他の国と同じように、欧州の経済停滞、世界経済減速の影響を受け、経済が停滞している。そのため、税収が予想より大きく下回り、財政赤字が増える状態である。特にこれまで英国経済を支えてきた主要セクター、例えば、金融セクターは未だに債務危機前の頂点より12.5%縮小した状態で、ふるっていない。そして過去2年間、消費は経済成長に貢献していないと言われる。

こういう状況を受け、コメンテーターたちは、今年度は昨年度よりも財政赤字額が増え、オズボーン財相の2015年度までに政府の債務が減少し始めるという約束は守れないと見ていた。

オズボーン財相は、2010年に二つの目標を掲げていた。①2015年度までに、GDPの比率で国の債務が減り始める②5年の循環で財政のバランスを取る、である。財政削減に力を入れているが、これらの約束を守ることは極めて難しいと考えられていた。

ところが、オズボーンは、下院の「秋の声明」で、今年度の財政赤字額は昨年度より減ると主張した。しかも、国の債務が減り始めるのは2015年度から1年延びるだけだというのである。それを聞いて、下院の対立政党席の労働党の影の財相ボールズは驚いたようだ。財相の50分足らずの声明の後、ボールズが席から立ち上がり、演壇で話し始めたが、それは精彩に欠けたものだった。何度も、詳細を読んでみないと、と繰り返した。後にボールズは、自分はもともと吃音で、オズボーンが予想をしていなかったことを言ったので、それが出てきたと弁解した。さらに保守党側の下院議員300人が一斉にヤジを飛ばすのでその圧力にやられたとも言ったが、いずれにしてもその原因は、全く予想をしていなかったことを言われたので、頭がきちんと回らなかったためのようだ。財相の声明では、すべてを口頭で説明するのではなく、要旨だけであり、全容は書面で発表される。

ボールズは、もともとフィナンシャルタイムズ紙で社説を書いており、ゴードン・ブラウンが財相時代、チーフエコノミックアドバイザーとして「副大臣」と呼ばれたほどの力を揮った頭のよい人物である。それでも柔軟に対応するのが困難なようだ。

今年3月のオズボーン財相の予算発表の時でもそうで、勝ち誇ったように話すオズボーンに対し、ボールズの顔は硬直していた。予想と大きく異なっていたからである。実はこの二人の対照的な光景から、3月の予算はオズボーンの勝ちだと思われたくらいである。オズボーンは都合の悪いことは口頭で発表しなかった。後に、この予算には、大きな反発を受けるものがいくつも含まれていたことがわかり、その結果、「オムニシャンブルズ」と呼ばれるほど度重なるUターンをしなければならなくなった。3月の予算発表を受けて対応するのは、野党労働党のミリバンド党首で、ボールズの役目ではなかった。しかし、秋の声明では、影の財相ボールズが対応しなければならなかったのである。

ボールズも驚いたように、今年度の財政赤字額が昨年度よりわずかに少なかったのは、予想していなかったものが付け加わっていたからであった。4Gの携帯電話網のオークションで35億ポンドの歳入を勘定に入れていたのである。オークションはまだ始まってもおらず、実際の歳入額は20億ポンド程度ではないかという見方もある。しかし、この数字が加えられたために赤字額が昨年度よりわずかに下がるということになった。なお、政府が100%株主の郵便会社ロイヤルメールに民間資本を入れやすくする目的で、政府はその年金基金の不足額を埋めるために時価280億ポンドの年金基金を今年早く受け入れたが、これもプラス要因となっている。

4G オークションの数字は、政府の財政を監視する独立行政機関のthe Office for Budget Responsibility(OBR)の認証を受けている。このOBRは経済成長率の予想も担当するが、それは大幅に下降修正された。2012年の経済成長率はマイナス0.1%の見込みである。2013年以降はプラス成長となるものの、その回復のスピードはこれまで想定されていたものよりかなり遅い。

とにかく、この「数字のつじつま合わせ」の結果、政府の債務が減り始めるのは当初計画の2015年度ではなく、2016年度と1年遅れるだけという結果となった。2015年度に債務のGDP比率は79.9%に達し、その翌年の、2016年度に79.2%で下がり始めるというのである。4Gのオークションで予定通りの歳入が得られない可能性もあるなど、この計算がどの程度確かなものか疑問があるが、オズボーンの②の5年サイクルは可能だとOBRは判断した。

オズボーン財相は秋の声明で以下のような財政・税政策を発表した。

① 課税所得最低限度額を来年2013年4月から予定より235ポンド上げて9440ポンドとする。現在は8105ポンドであるので、一挙に1335ポンドも上昇する。しかし、これをカバーするために、40%の税率のかかる所得額を調整した。現在の42475ポンドが既に来年4月から41450ポンドとなることになっているが、その後、2014年、41865ポンド、2015年、42285ポンドと、賃金上昇率の半分以下の1%ずつ上げる。これでこの40%の税率のかかる人の数は約500万人と現在より100万人増える見通しである。
② 労働年齢にある人たちの福祉関係手当をこれから3年間1%ずつアップする。これまで、これらの手当は、インフレ率分上昇してきたが、インフレ率は2%以上と見られており、実質削減である。

さらに以下のようなものも含まれている。
③ スイスの銀行口座に預金している人たちの英国の税を洗い直し、今後6年間で50億ポンドを徴集する予定。
④ 多くの省庁はこれまで既に計画している財政削減の上に、2017年まで追加の財政カットを行い、来年はマイナス1%、そして再来年はマイナス2%とする。2009年度の政府の歳出はGDPの48%だったが、それが2017年度には39.5%まで下がる。
⑤ 来年1月から実施予定のガソリン税の1リットル3ペンスアップを中止。
⑥ 法人税を2014年4月から1%下げて21%。
⑦ 企業には、プラントや機械への投資に税控除。

①の課税所得最低限度額のアップは、自民党が2010年総選挙のマニフェストで1万ポンドまで上げると約束し、自民党はこのアップに躍起になっている。しかし、保守党は二党で行っているという姿勢をとっている。
②については、オズボーン財相は据え置きとしたかったと言われるが、自民党がそれに反対し、結局1%アップで落ち着いたといういきさつがある。

これらを巡る、保守党と自民党の議論の中でそれぞれの考え方の違いがはっきり出ている。自民党はマンション・タックスと呼ばれる価値の高い住宅に税をかける考えや、非常に富裕な人の年金積立への課税を考えている。保守党は、25歳以下への住宅手当、二人を超える子供を持つ家庭への児童手当を制限し、さらには、地方によって賃金の額を変えることなどを考えている。これらが、次期総選挙マニフェストに含まれる政策の一部となってくると思われる。

さて、オズボーン財相は、保守党のストラテジストでもある。2015年の次の選挙に向け既に計算を始めている。それがこのミニ・バジェットにも出ている。具体的には福祉関係予算で、3年間、1%ずつアップすることにしたことだ。毎年1%ずつ上げるなら通常、財政法案で処理するが、3年間となれば、そのための法律を制定する必要がある。その法律案を12月中に出し、労働党にそれを支持するか反対するかを強いて決めさせるというものだ。つまり、労働党が次期政権を担当した場合でも財政削減を続ける必要があり、そのことを考えるとこの法案に賛成した方が財政運営しやすいという点がある。そのため、労働党に賛成か反対か立場を明確にさせるという目的があった。結局、労働党はこの1%アップに反対することとした。それでも、この3年目は、2015年4月から適用される。この年の5月が総選挙の予定であるため、自民党は、保守党とこの点で共同歩調を取る必要があり、二党の共同責任とできる。まだ次の総選挙まで2年半あるが、すでに選挙戦略は動き始めている。

なお、Institute for Fiscal Studies(IFS)によると、2015年度に必要な節約額は、全体で160億ポンドであるが、そのうちこのミニ・バジェットで触れた福祉予算からの節約は36億ポンドで、各省庁からの予算削減額は24億ポンドであることから、あと100億ポンドの財政カットを行う必要がある。オズボーン財相は、当初100億ポンドの節約を福祉予算のカットで生み出したい考えであったが、自民党の反対で、36億ポンドだけ今回の予算で手当てできた。その差を埋めるためにはどこかで財政を削る必要がある。それは、来年早々両党の間で交渉が始まり、来年上半期かかる予定である。

PFIを改善したPF2(PF2:Revamped PFI)

英国政府はこれまで公共事業に民間からの資金を導入するPFI(Private Finance Initiative)を積極的に使ってきた。これは、かなり大きな資金を必要とする初期投資を民間に任せ、政府はそれへの支払いを長期間(35年のものもある)かけて行うというものである。メージャー保守党政権下で始まり、労働党政権下で多用され、現政権でも使われている。この方法は、公共セクターに初期投資負担がなく、しかも、バランスシートに載せる必要がないことから、公共事業、特に学校、病院それに交通関係の事業などで多く使われてきた。現在、700余りある事業の債務総額は統計局によると1440億ポンド(19兆円)である。

しかしながら、国にとっては長期の債務を抱えることとなり、しかもこれまで担当の国家公務員らの交渉の不手際から、関係企業が多くの利益を上げたり、後にコストが大きく増加したり、効率が悪いなど様々な問題が出てきている。しかもこれまで、PFI事業が破綻する、または支払いが困難となったものもある。なお、政府では、調達担当能力のある公務員が少ないことから、養成することに力を入れ始めている。

これらのことを考慮し、これまでのPFIと基本の考え方は同じだが、それでは不十分だとしてそれを改善したものが導入されることとなった。このPF2には以下のような点でこれまでのPFIと異なる。

①公共セクターが資本参加する。具体的には20%程度を考えているようだが、最大49%まで。もしプロジェクト事業から利益が出れば、その利益の一定割合の配分を受ける。
②プロジェクト企業体に役員を送り込む。事業の状況を把握するためである。
③それぞれのプロジェクト事業は毎年その財務実績を発表する。
④財務省は毎年PFIとPF2事業の全体債務残高を発表する。債務総額をはっきりさせ、不安を除こうとするもので、③と合わせて透明化を図るものである。
⑤プロジェクト準備期間を短縮する。契約の調印や調達に最大5年程度かかっていたものを最大限18か月とする。その期間を越えれば、そのための公的資金は他へ振り向けられる。
⑥契約は小さく、簡単で、借入による資金調達を減らすものとする。ケータリング、掃除、セキュリティ、ITなどは契約から除く。また、これまで民間セクターは初期投資の10%を拠出すればよかったが、これを20%程度に増やし、資金調達コストを下げる。

予算の聖域は非効率のもと(Budget Cut Exemptions May Increase Waste)

日本の予算の概算要求を見て気にかかったことがある。もちろん全体の要求額が東日本大震災の復興費を入れて100兆円を超し、その約4分の1が国債費という状態を非常に残念に思うが、気にかかったのは、アプローチの仕方である。政府の概算要求基準では、要求額を12年度予算より10%削減するよう求めたというが、重点3分野のエネルギー・環境、医療そして農林漁業では、最大4倍の要求額を認めたという。さらに高齢化による医療費や年金など社会保障費の自然増0.8兆円をそのまま要求してよいことにしたという。

もちろん、これは概算要求の段階であり、これからの査定で結果はかなり異なってくると思われるが、このようなアプローチは、現在の英国の政治行政の事例から見ると、避けるべきものだと思われる。

英国では、現在、サッチャー政権よりも厳しい財政削減が進行中だが、その中で、二つの分野では、予算の増額が認められた。海外援助とNHS(国民保健サービス)である。このうち、国際援助は、保守党の2010年総選挙のマニフェストで、2013年からは国民総所得(GNI)の0.7%を海外開発援助(ODA)に向けると約束したことに始まる。これは、実は、労働党がUN(国際連合)の目標を2010年のマニフェストで約束したので、保守党もそれと同じ約束をしたという経緯がある。「嫌な党」保守党のイメージを変える狙いもあった。この結果、2010年の国際援助額78億ポンド(9800億円)から2015年には115億ポンド(1兆4400億円)にまで50%近いアップとなる見込みだ。

この状態で、担当省の国際開発省(DfID)は、毎年急激に増加する国際援助費をかなり「贅沢」な使い方をしていた。外部のコンサルタントに5億ポンド(630億円)近くも使っていたことなどがわかった(参照:http://www.telegraph.co.uk/news/politics/9547162/Probe-over-millions-spent-on-foreign-aid-consultants.html)。

財政削減のため、社会福祉の予算も大幅に削られているのに、海外援助を大幅に増やすのはおかしい、という強い批判がある。キャメロン政権は方針を変え、増やすのではなく、減らすべきだという見解が、保守党内部、特に右派から出てきている。しかしながら、今のところキャメロン首相は方針を変えるつもりはない。そして、公認会計士でもある前運輸相を国際開発相につけ、無駄や非効率な使い方を削減しようとしている。

ただし、省の管理運営費は、2014年度までに3分の1減らす予定で、人員削減が急速に進んでいる。つまり、管理運営の効率化を図る一方、ODA額は急速に増えているという形だ。ここで注目すべき点は、管理運営費を減らせば、無駄や非効率が減るはずだと考えがちだが、特定の部門の予算を急に増やせば、その使い方がかなり放漫になる可能性があるということだ。

さらにNHSでは、保守党がそのマニフェストで、毎年予算を実増すると約束した。しかし、進む高齢化などへの対応で、根本的な機構改革を図っている。その効果は今後の結果を見る必要があるが、英国では、日本のように、単に自然増を認めるというロジックとはならないと思われる。

オズボーン財相のもう一つの失敗(Another mistake by Osborne)

9月上旬にキャメロン内閣の内閣改造が行われる予定だ。そこでジャスティン・グリーニング運輸相が異動するかどうか注目されている。グリーニング運輸相は、昨年10月に、財務省の経済担当閣外相から昇任したばかりだ。通常なら、留任の線が強いと思われるが、グリーニングには、一つ大きな問題がある。ロンドンのハブ空港であるヒースロー空港の第三滑走路を巡る問題だ。

グリーニングは、ロンドン南西部にあるパットニー選挙区から選出されている保守党の下院議員である。2005年、現職の労働党議員を僅差で破り、初当選した。パットニーは、ヒースロー空港への発着航路に入る地域で、2010年の総選挙前には、グリーニングはヒースロー空港の第三滑走路反対運動の中心的なリーダーとして活動し、この総選挙では、労働党候補に大差をつけて勝った。労働党政権が第三滑走路の建設を促進したのに対し、保守党は、反対した。保守党と連立政権を組んだ自民党は、第三滑走路に反対で、しかもロンドンを含むイングランドの南東部の空港の拡張に反対していた。その結果、連立政権合意書でも、第三滑走路の建設をキャンセルすると謳った。

しかし、保守党が政権について直面したのは、ヒースロー空港のキャパシティは、ほとんど満杯であり、拡張の余地は乏しく、中国、インドそれに南米などの新興工業国との多くのダイレクト航空便がなければ、ダイレクト便のある空港を持つ他の欧州各国との競争で後れを取るということであった。ジョンソン・ロンドン市長らの提唱するテムズ川河口空港建設案なども出されたが、それでは時間がかかり過ぎ、また費用もかなり大きくなることから、第三滑走路の建設が再び見直されてきた。これには経済界からの強い圧力がある。この見直しを中心になって進めているのがオズボーン財相である。

もちろん、第三滑走路の建設見直しについては、マニフェストで約束したことであり、自民党の合意が得られないことは明らかであるために、次期総選挙後になるが、それへの準備をしていく必要がある。しかし、グリーニング運輸相は、それに反対している。そのために、グリーニングの異動が取りざたされているのだ。

これにはオズボーン財相の失敗が関連している。昨年10月にグリーニングは運輸相に任命されるまで、オズボーンの下で閣外相として働いていた。確かに閣僚の中で女性が少なく、ワルジ保守党幹事長を含めてわずか4人であった女性閣僚の数を増やす必要に迫られていたとはいえ、グリーニングのヒースロー空港第三滑走路に関する運動を見れば、運輸大臣として客観的に空港建設問題を判断できるかどうかどうかは疑問だった。特に、自分の下で働いていた人物だけに、この任命にはストップをかけることもできた。ところが、今になって、グリーニングがオズボーンの頭痛の種になっている。オズボーンの判断力がさらに疑問視される一つの例と言えよう。

オズボーン財相の次の手(What Osborne Can Do)

景気低迷で英国の税収が減り、失業手当などの福祉経費が増加しており、4月以来毎月政府の赤字が続いている。特に7月は、企業の四半期ごとの納税があり、28億ポンドのプラスになると見られていたが逆に6億ポンドのマイナスとなった。通常、7月は一年で2番目に税収の多い月であるため、事態はかなり深刻ではないかと見られており、今後政府の打つ手が注目されている。

英国統計局の発表によると、前年の7月と比べ、税収が全体で0.8%減少した。特に法人税が20%減少したが、これは、北海の油井のオイル漏れのための操業減少の影響が大きいようだ。一方、福祉関係費が6.2%アップした。この結果、英国の債務は、GDPの65.7%に達した。このままで行くと、今会計年度の赤字の予測額1200億ポンドを300億ポンド上回る可能性があるという。

このため、政府が、計画通り2012年から17年の5年間で実質9.5%の財政支出を減らす方針を遂行しても、それでは足りず、2015年に予定されている次期総選挙時に有権者に将来への光を示すことができないことになる。

そのため、財相の打つ手は、さらに財政支出のカットを上積みし、財政支出を減らして数字を合わせるか、もしくは、野党の労働党が主張するように「プランB」、つまり、政府が財政カットを停止、または緩和してさらに借金し、それを使って景気刺激策を講じるかのどちらかとなる。

問題は、「プランB」に移行することは、オズボーン財相にとってさらなるUターンとなり、既に財相への信頼度がわずか16%になっている状態を悪くさせるばかりか、キャメロン=オズボーンの経済運営に対する信頼が失せてしまうことだ。それよりも、もっと深刻な問題は、もし「プランB」の刺激策を実施してもそれで景気が回復するかどうかはっきりと見通せない点だ。

多くのエコノミストが引用している、The National Institute of Economic and Social Research のNitika Bagaria, Dawn Holland, John van Reenen の研究では、財政カットを2014年以降に延期しても、英国経済はそう大きく成長しないという。2013年は、財政カットをすれば1.3%、しなくても 2%。2014年には、財政カットをして2.4% 、しなくても2.6%。2015年には財政カットで2.7%、しなければ 2.9%。そしてその後は、した方がしない場合より成長が上回ると言う(参照 サンデータイムズ8月5日David Smith)。

特にGavyn DaviesがFTで指摘したように(FT 8月10日)、現在の経済停滞の原因には不明な点がある。しかも財政を緩めることによる財政危機の可能性は完全には否定できない。しかも欧州債務危機もある。

これらから考えると、オズボーン財相の取る道は、財政緩和よりも、さらなる財政の削減に向かう可能性が高いのではないかと思われる。

英国政府の効率化と無駄削減(Coalition trying hard to cut waste)

内閣府担当大臣のフランシス・モードが、2011年3月から2012年3月までの間に、効率化と無駄削減で政府が55億ポンド(約6800億円)節約したと発表した(http://www.cabinetoffice.gov.uk/news/francis-maude-reveals-further-savings-beat-expectations)。

2010年に保守党と自民党が連立政権を組んで以来、保守党重鎮のモードが責任者となり、2010年5月から2011年3月には37億5千万ポンド(約4600億円)の節約を成し遂げた。今回の数字は、前年を大きく上回る。モードは、今後も徹底した質素倹約と生産性の向上を追求し、さらに節約の実を上げ、2015年には200億ポンド(約2兆4600億円)の節約を目指すと意気込んでいる。

この節約の内容は以下のようなものだ。

① 国家公務員の削減と絶対必要なスタッフ以外の雇用の管理で15億ポンド(約1800億円)。これは前年3億ポンド(約370億円)であった。2010年からスタッフの数は5万人以上減り、現在、第二次世界大戦後最低の42万8千人となっている。
② 政府全体のコンサルタント使用の凍結で10億ポンド(約1230億円)。コンサルタントの使用は、2010年以来85%減少したという。
③ 政府の物品・サービスの一括購入、効率化で5億ポンド(約620億円)。前年3.6億ポンド(約440億円)。
④ 広報・広告費は、必要不可欠なもの以外は凍結し、3.9億ポンド(約480億円)。前年は4億ポンド(約490億円)。
⑤ 政府のオフィスの効率利用、リースの契約見直し、打ち切りなどで2億ポンド(約130億円)。これは前年0.9億ポンド(約110億円)。

内閣府でこの責任者であった、元大手コンサルタント会社社長のイアン・ワトモアは今年1月から内閣府の事務次官も兼ねていたが、5月に突然辞職した。その理由は明らかになっていない。モードは、政治家でありながら非常に細かい点にまで口を出してくるマイクロマネジャーだと聞いたことがあるが、それが我慢できなくなった可能性はある。また、いくら無駄削減努力をしても、さらに多くを求めてくるのに嫌気がさした可能性はある。

なお、この発表には、マンチェスター・ビジネス・スクールのColin Talbot 教授などから、これは単なる財政カットであり、政府の主張する効率化ではないという見解もある(http://whitehallwatch.org/2012/08/09/lies-damned-lies-and-government-efficiency-savings-yet-again-this-is-starting-to-get-boring-4/)。人員削減にしても、空港の移民審査官など必要な人を減らしてしまい、混乱を招いたなど、試行錯誤的な要素はあるが、継続していると次第に焦点が合ってくる可能性が高いと思われる。前労働党政権時代の「放漫経営」で緩んだ政府の体質改善には時間がかかるだろう。

政権政党の思考の罠(Governing Party’s Wrong Way of Thinking)

バークレー銀行がLibor(ロンドン銀行間取引金利)とEuribor(欧州銀行間取引金利)の不正操作で、英国や米国の金融監視当局から莫大な罰金を科された。この問題には銀行内での企業文化や慣行などが深くかかわっていると言われるが、この問題の究明調査方法を巡り、政権を担当する保守党と野党の労働党の間で見解が食い違っている。

キャメロン首相らは、議会が特別の委員会を設置し、上下両院から委員を選んで、何が起きたかを突き止め、それを基に改善策を打ち出し、それを直ちに実施すべきだと言う。昨日の首相のクエスチョンタイムでも、首相は「スピーディ」という言葉を連発した。

一方、野党労働党のミリバンド党首らは、この調査は、トップ裁判官一人の率いる委員会で、厳正に行うべきだと主張している。メディアの倫理などの問題を扱っているレヴィソン控訴院判事の率いる委員会のような調査方法を取るべきだと言うのである。また、この形の委員会には時間がかかりすぎるという批判に対しては、財相の主張しているように今年の12月までにLiborの問題の報告を求め、1年後に銀行業界の文化や慣行に対する報告を求めればよい、と反論する。首相らの案の議会の委員会の焦点は狭すぎる、もっと広い問題に迫る必要があるというのだ。

この見解の違いは、政権が、銀行関係者にあまり大きな圧力をかけたくないということからきている。何らかの究明委員会が必要だということは十分認識しているが、銀行のトップらが、裁判官らの前で、尋問され、厳しい質問を受けるのは、ロンドンの金融センターとしての地位に大きなマイナスだと考えているのだ。

実は、これは、上記のLiborの問題の起きたとされる時に政権を担当していた、労働党にも当てはまる。労働党は、政権担当時、英国の金融業界に関する規制を緩め、銀行らにロンドンの居心地がよくするよう努力していた。キャメロン首相らは、労働党の規制が甘すぎたためにこういう問題がおきたのだ、と繰り返し主張している。これはその通りだと思われる。それでも昨日の首相のクエスチョンタイムでミリバンド労働党党首が指摘したように、キャメロンは、2008年に「英国には規制が多すぎる」と批判しているが。

要は、政権政党は、前の労働党政権、そして現在の保守党も含め、英国の経済の大きな要素を占める金融セクターに配慮し過ぎた、ということだ。この過ちを今回も繰り返すべきではない。つまり、銀行業界の文化や慣習にも踏み込んだ、抜本的な改革が必要だ。つまり、これまでの膿を出すために、考えられる最良の方法、つまり裁判官による委員会で究明するべきだと思われる。

特に、英国の金融業界には古くからの伝統的な文化や慣習、これは、今朝のラジオ番組TodayでのBBC政治部長ニック・ロビンソンの言葉を借りれば、「エスタブリッシュメント」の問題がある。短期的には、政府に対して大きな批判が出てくるかもしれないが、長期的に健全な金融業界を作り、ロンドンの評判を維持していくには必要なのではないか。

人が重要(Manufacturing is coming back to Britain)

人の質が大切だ。英国の製造業は、人件費が高いために発展途上国に仕事を奪われていると多くの人が信じている。それはある程度事実かもしれない。しかし、本当の問題は、他にあるようだ。

5月8日と15日のBBCのテレビ番組「The Town Taking on China(中国に挑戦する町)」で、英国のビジネスマンの経験を追っている。リバプールの近くのカービーという所にクッションの工場を持つビジネスマンが、2004年に中国の福州にクッション製造の工場を開いた。しかし、中国でも人件費が開設当初の月50ポンドから現在では250ポンドと5倍になった。しかもインフレ率が年に10%近くとかなり高い。製品のクオリティや輸出費用、関税、それに為替変動などを考えると中国で製造してもメリットがほとんどなくなった。中国で作っているのは、安価なものであり、高級品は英国工場だが、アメリカなどでは「英国製」の方が「中国製」より高い価値があると見られている。そこで英国で大幅にスタッフの数を増やすこととした。これまでは地域にミシン工の経験者で失業している人がかなりおり、比較的簡単に雇うことができたが、それにも限界があるので、若者を雇い、トレーニングすることにした。この工場の地域には、失業が多く、1つの仕事に対して求職者が14人もいるという状況だという。

(なお、このビジネスマンは、5月3日のリバプール市長選に保守党から立候補した人物である。リバプールでは労働党が非常に強く、労働党候補が市長に当選した。このビジネスマンの政治的な動機が、英国で大きな問題となっている若者の失業率に取り組もうとした一つの理由かもしれない。)

この中でわかったのは、特に若い人たちの中にあまり質のよくない人たちがいることだ。よく病欠する、誰にも言わずに勝手に仕事をやめる、仕事の時間が長すぎる、仕事でへとへとになる、給料がばかばかしいほど安い(最低賃金の6.08ポンド《800円》)と文句を言う。

これは英国一般に当てはまる。英国人はよく、EUの中では基本的に労働力の自由な移動が認められているため、他の国、特に東欧のポーランドなどから来た人たちに職を奪われると文句を言う。しかし、実態は、上の若い人たちの事例と似ている。ポーランド人は一般にきちんとよく働く。ポーランド人は「日本人のように働く」と言う人もいる。これでは、英国人の中の「怠惰」な人たちとは比較にならないだろう。

心配なのは、今の日本人、特に若い人たちである。日本人の質が落ちてきていなければよいがと願う。