イギリスの景気どうなる?

一般に景気後退の恐れは和らいだと見られている。

6月の国民投票でイギリスがEU離脱を選択すれば、イギリス経済には、すぐに大きなショックがあり、景気後退局面に入ると見られていた。しかし、それから3か月、イギリスの統計局(ONS)は、9月21日、イギリス経済への長期的な影響はまだわからないとしたものの、大きな影響は出ていないと発表した。

さらに7月の消費は0.4%アップした。消費支出は強いままで、失業は少なく、現在の4.9%は過去11年間で最低水準である。住宅価格は安定している。しかも国の借入は、1年前より少ない。

このような中、EU離脱投票はイギリスに非常に大きな悪影響を与えるとしていたIMFがその見解を大きく変え、イギリスの2016年の経済成長の見通しは1.8%でG7の中で最も高いだろうとした。なお、アメリカは1.6%、日本は0.5%の予測。IMFは、イギリスが離脱を選択すれば、インフレが上昇し、GDPが5.5%下降、株式市場は暴落、住宅価格は急降下すると予測していたが、それらが悲観的過ぎたことを認めたのである。

なお、IMFの2017年のイギリスの経済成長率は、経済が下降し、インフレが上がり、見通しが不安定なため、ビジネスが慎重となる、さらに通貨ポンドの価値が下がり、生活に響くということから1.1%としている。なお、アメリカの2017年予測は1.6%、日本は0.6%である。EU国民投票のキャンペーン中、離脱派がIMFの予測は外れるばかりだと主張し、IMFの警告はあまり効果がなかったが、IMFは面目を失ったかたちだ。

一方、EU国民投票以来、イギリスのポンドは大幅に下がっている。数日前、米ドルに対して1985年6月以来の最安値を記録したが、それがさらに下落。ポンドの購買力が大幅に弱まり、輸入品の価格が上昇する結果を招いている。インフレは、7月には前年と比べて0.6%、8月は同レベルの状態で安定しているが、来年は3%を超えるという見方もある。確かに輸出には有利で、製造業は好調だ。また、イギリスでの滞在費や買い物の価格が下がっているとして、海外からの旅行客は大きく増加している。特に、欧州、アメリカ、日本、中国などからで、特に中国からは昨年と比べて60%アップしていると言われる。

ただし、他のEU国などの外国人労働者で、本国に仕送りしている人たちは、仕送り額が大きく減り、イギリスで働く価値が薄れるという効果があると見られている。

なお、イギリスの株式が大きく上がっている。FTSE100は、10月5日には、2015年4月の記録7104に近い7074を記録した。今年2月から28%アップ、国民投票からは12%アップしている。ポンドが下がり、株が上がるという現象は、多国籍企業の本社がイギリスにある、もしくはイギリスで上場している場合、米ドルで稼いで、ポンドで利益を計上するため、ドルがポンドに対して強くなれば有利だということがその一つの理由とされている。さらに、メイ首相がイギリスのEU離脱に移民の制限を優先するとしたことから、単一市場を離れる憶測が高まり、イングランド銀行が既に0.25%の政策金利をさらに下げ、国債や預金利子からの収入が見込めないと考えられたことから、株式の方が望ましいとする動きがあるとされる。

ハモンド財相は、イギリス経済は復元力が強いが、今後2年以上、ローラーコースターのようなアップダウンが続くだろうとした。イギリス経済の行方は、今しばらく見守る必要があるように思われる。

欧州のイギリスへの影響

イギリスの現在の政治を考えるうえで欧州の問題は重要だ。これには大きく分けて二つある。まず、EU経済のイギリスへの影響、そしてEUに留まるかどうかの国民投票が行われるかどうかである。この二つがイギリスの政治・経済に、大きな不安定要因となっており、企業の投資意欲を削ぐ大きな要因ともなっている。

EU経済不安

EU経済のイギリスへの影響はかなり大きい。イギリスの貿易の半分はEUとの取引であり、EU圏、特にユーロ圏の経済の停滞はイギリスに響く。欧州中央銀行(ECB)が景気支援とデフレ回避を目的にQE(量的緩和)を発表したが、その効果には疑問がある。また、ギリシャが反緊縮財政の左翼政権の誕生で、ギリシャがユーロ脱退する可能性が高まった。ギリシャは、これまでEU、ECB、IMFらの支援を受け、緊縮財政を実施してきたが、GDPが25%減少、失業率は25%となった。そのため、国民は、反緊縮財政を訴えた左翼政権を選んだのである。ただし、ECBらは既にギリシャに厳しい態度を示しており、ユーロ圏に大きな不安がある。もし、ギリシャがユーロ離脱ということとなれば、かなりの混乱が起きると思われ、イギリスへの影響も免れない。さらにウクライナ紛争に関連した不安材料、ロシアへの経済制裁などの要因もある。5月の総選挙を控えてイギリスの経済が順調に成長してほしいキャメロン政権の不安材料でもある。

EU国民投票

次にイギリスがEUに留まるか、脱退するかの国民投票の問題である。保守党のキャメロン首相は、5月の総選挙後、首相に留まることができれば、2017年末までに国民投票を実施すると約束している。しかし、キャメロン首相らは総選挙後できるだけ早く実施したい考えだ。労働党はこの国民投票を実施しない方針だ。総選挙の結果、保守党政権、もしくは保守党が中心となる政権が誕生すると、EU国民投票の結果、イギリスはEUから離脱する可能性があり、不安材料となっている。

もし国民投票が行われれば、1975年にウィルソン労働党政権下で、国民投票を実施した時とはかなり状況が異なる。その前のヒース保守党政権下でイギリスはEUの前身であるEECに加盟していた。ウィルソンは欧州を巡る労働党内での対立に終止符を打つために国民投票を実施したのである。当時国民はEU支持であり、しかもウィルソンは国民投票でEECに留まるという結果が出ることを確信していた。しかもこの国民投票へのキャンペーンには、EECに留まる側が、脱退側の10倍のお金を使ったと言われる。つまり、ウィルソンは勝つのは間違いないという状況で、さらに念を押した運動を行ったのである。

ところが、もしキャメロン政権下で国民投票が行われれば、前回のものとかなり様相が異なる。世論調査によると、EUメンバー維持の賛成、反対が拮抗している。しかもスコットランド独立住民投票と同じく、賛成側、反対側ともに運動で使える金額は同じだと見られ、しかも使えるお金に厳しい制限があることは間違いない。つまり、1975年の国民投票のようなわけにはいかないのである。

これらの不安定さが、イギリス企業の投資意欲にも大きく水を差しており、欧州に関連して、イギリス政治の不安定さは続く。

成長するイギリス経済と低迷する賃金

イギリスの中央銀行、イングランド銀行がイギリスの経済成長の見通しを20143.5%、20153%と上方修正した。失業率が6.4%と下がり、2008年末以来の低い数字となった。IMFによると、2013年にイギリス経済は、3.2%成長したと予測されており、G72番目のカナダより1%高い。

ユーロ圏が苦しむ中、イギリス経済は順調に見える。経済の78%を占めるサービス部門に頼りすぎているという面があり、経済のぜい弱な点は改善されていないが、中でも特に大きな問題がある。賃金が上がっていないことだ。20144月から6月までの賃金アップ率は0.6%で、ボーナスなどの付加的な収入を除くと‐0.2%だった。なお、イギリスのボーナスは日本で多く見られるような誰もが同じ率で月給何か月などといったものではなく、それぞれのパフォーマンスなどに連係しており、必ずしも誰もが得られるものではない。

インフランド銀行の2014年の賃金上昇率見通しは2.5%からその半分の1.25%に下げられた。インフレ率は1.9%であり、それぞれの人の賃金はインフレに追いついていないことになる。

また、生産性が上がっておらず、雇用が増加したのは低熟練の労働者の仕事が中心であると見られている。

この現状は、ミリバンド労働党党首のマントラ「生活コスト危機」を地で行くようなものと言える。 

オズボーン財相は、来年の次期総選挙までに、有権者に好景気を実感してもらい、保守党政権への期待を盛り上げたい意向であった。しかしそれは難しくなっているように思われる。

なぜイギリスの住宅市場は過熱しているのか?

イギリスの住宅価格が高騰している。統計局(ONS)によると、3月末までの1年間でイギリス全体の住宅価格が8%、ロンドンで17%アップしたという。経済が回復している中、住宅ブームがその最大のリスク要因であると見られており、その対策が急務だ。 

それではなぜ、イギリスの住宅価格が高騰しているのだろうか?

住宅価格高騰の原因 

まず、イギリス人の住宅に対するメンタリティーを理解する必要があるだろう。イギリス人は持ち家を好む。統計局によると、イングランドとウェールズの持ち家率は1918年時に23%であったが、197150%まで上がった。そして2001年国勢調査時に69%を記録し、2011年には64%に下がった。EUの統計ではイギリスは2007年に73.3%のピークを迎えたという。

持ち家が好まれる理由は、住宅価格は短期的には若干の価格の上下があるにしても、長期的には価格が上がると考えられていることがある。日本では家が古くなると価値が減少すると考えるが、イギリスでは必ずしもそうではない。イギリス人にはもともと古いものに価値を見出す傾向がある。

つまり、家を借りて家賃を払うよりも、住宅ローンを借りて毎月支払いをすれば、長期的には資産となり、しかもその住宅の価値が上がり、有利だと考えられているのである。

ただし、住宅ローンを借りて住宅を購入する場合には、かなりの自己資金が必要なため、すぐに購入できるわけではない。それでも住宅を買えれば、その価値が次第に上昇していくので、それをもとに次々に大きな住宅に買い替えることができることとなる。イギリスではこれを「住宅階段(Housing ladder)」とよく言う。つまり、最初の住宅を買うことが、階段を上がり始める第一歩となるので非常に重要である。

次に、現在の住宅市場を取り巻く環境を考える必要があるだろう。

イギリスの経済が世界金融危機前の2007年並みに回復してきた。雇用が増大し、失業率が下がり、しかも賃金が上昇してきた。多くの人たちが今後の経済の行方に自信を持ち始めてきている。

ロシアの経済制裁、ウクライナ危機などで、これらの地域からロンドンに避難してきている資金がある。さらに確実に価格が上昇すると見られている住宅を中東やアジアを含めて外国人が投資対象としてみる傾向が強まっている。

さらに政府のHelp to Buyと呼ばれる政策である。これは、60万ポンド(約1億円)までの物件に対して、5%手持ち資金があれば、政府が15%から20%までを保証する仕組みで、貸し手である銀行や住宅金融組合などのリスクを下げ、より安く借りられる。

2012年の住宅市場の低迷を受け、住宅市場に刺激を与えるために設けられた。住宅市場は、景気刺激の波及効果が大きいことに注目したものである。当初から住宅供給が乏しいのにこのような政策手段を打てば、住宅バブルが発生する可能性があると指摘されていた。

なお住宅供給不足については、今年3月までの1年間で11万軒余りの新築住宅が建設された。しかし、人口増を考えると1年に25万軒が必要と言われ、必要な数の半分にも達していない。これは歴史的な傾向で、イギリスには慢性的な住宅不足の問題がある。

このHelp to Buyの効果が予想外に早く出始めた。実際にはこの制度を使った住宅購入の数はそう多いわけではないが、買い手の期待が上がりすぎ、また売り手が強気になり、買い手は、早く買わねば、手が届かなくなる、後れをとるという心理が出てきて、住宅価格が急上昇するという状況となっている。 

ロンドンでは現在、売り手の提示価格は、週に平均で4,400ポンド(75万円)上昇していると言われる。 

イングランド銀行の対応

このため、住宅価格の高騰のし過ぎを警戒したイギリスの中央銀行であるイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、この原因はイギリスの住宅供給が遅れていることにあるとし、カーニー総裁の出身国カナダでは、人口が英国の半分ほどであるのに毎年イギリスの2倍の新築住宅が建築されていると指摘した。

イングランド銀行には、政策金利を設定する金融政策委員会(MPC)に加えて、金融の安定性を高める目的の金融安定委員会(FPC)が設けられたが、オズボーン財相は、イングランド銀行に既に与えた手段を使って住宅の過熱を防ぐ手段を取るよう求めている。

すでにMortgage Market ReviewMMRという仕組みで426日から制限が加わっている。さらに6月にFPCが住宅の価格に対する借り手の年収の割合を厳しくするのではないかという見方が強まっている。カーニー総裁が年収の4.5倍や5倍という例を挙げて警告したことだが、特にロンドンでは、典型的な住宅が459,000ポンド(7,800万円)で、典型的な年収は35,000ポンド(約600万円)であり、13倍にもなっている。

現在、政策金利は0.5%で20093月以来据え置かれているが、それが今後ともに継続すればやっていけても、それが上昇すれば困難に陥る人が77万人いるという。なお、1997年の総選挙後にイングランド銀行の金融政策委員会が政策金利決定の権限を与えられたが、1998年から2007年までの政策金利の平均は5%ほどである。金利が上がってもやっていけるかどうかの査定をMMRで既に実施しているが、それをさらに厳しくするのではないかとみられる。 

さらに貸し手の銀行や住宅金融組合の自己資本比率を増やすなどのマクロプルデンシャル策も検討されているようである。

さらにHelp to Buyの上限を大幅に引き下げる、縮小することなどをオズボーン財相にアドバイスするなども考えられる。

カーニー総裁は、政策金利を上げることは最後の手段としている。これには金利が上がれば苦境に陥る人がいる上、経済全体に悪影響があるという問題がある。なお、住宅を現金で買う人は全体の3分の1いると言われるが、こういう人たちには政策金利を上げても直接の効果はない。 

大幅な住宅の建設をすれば、もちろん効果があるだろう。現在の住宅ブームは、需要に比べて供給が少ないことが原因である。キャメロン政権では、15千軒のガーデンシティ建設を発表した。しかし、このようなガーデンシティを建設することもイギリスではそう簡単ではない。 

結局、試行錯誤を重ねながら、少しづつ取り組んでいくしかないようである。

政治で景気を左右できる?

英国の経済が好調と言える状況だ。数字を見ると以下のようなこととなる。

  1. 賃金の上昇率1.7%(12月から今年2月)がインフレ率(CPI:消費者物価指数)1.6%をやや上回った。
  2. 失業率(12月から今年2月)が過去5年間で最低水準の6.9%まで下がった。中央銀行のイングランド銀行の総裁が就任当初、利上げの目安とした7%を下回った。
  3. これらのデータを受けて英国の通貨ポンドは米ドルに対して4年ぶりの高値を記録した。

ただし、賃金は2008年以来、実質で10%近く下がったことを考えると、景気が上昇傾向となったと言っても明るい要素だけとはいいがたい。特にボーナス分を除くと賃金上昇率は1.4%でインフレ率を下回る。さらに英国で伝統的に使われているRPI(小売物価指数)は、家賃や住宅ローンの支払いなども含み2.5%。

さらに失業率についても、就業者数239,000のうち通常のフルタイムは44,000のみである。

これらから見るとオズボーン財相のまだすべきことが多いというコメントは妥当なものと言えるだろう。野党労働党の「生活費危機」のキャンペーンはまだまだ続く。オズボーンの財政経済政策、特に財政削減が経済成長を遅らせ、その結果、賃金の目減りを招き、生活費危機を招いたというのである。

今回の経済指標の発表で、年内、もしくは来年早々にも金利が上がる可能性が指摘されている。しかし、20155月の総選挙前に金利が上がると、多くの影響が出る可能性がある。特に昨年から住宅価格が急上昇しているが、住宅ローンの負担が大幅に増加する可能性がある。キャメロン首相の保守党はそのような事態は避けたいだろうが、景気がもし過熱するとイングランド銀行の金融政策委員会がそういう判断をする可能性がある。

現在の景気は、かなりの程度、住宅価格の上昇と消費に支えられており、均衡のとれた経済発展のための製造業や輸出産業などはまだ弱い。3月のオズボーン財相の予算でもこれらの産業に重点的な配慮をしたが、消費頼みの構造は変わっていない。

IMF2014年の英国の経済成長予測では、アメリカの2.8%を上回り、G7のトップの2.9%の見通し。ちなみに日本は1.4%の予測である。ただし1年余り前には景気後退が心配されており、IMFがオズボーン財相に財政経済政策を変更する必要があると警告したことから見ると、IMFの予測に頼るのは必ずしも賢明ではないかもしれない。

経済が順調に成長していくように、しかも過熱しすぎないようにうまく手綱を取っていくのはそう簡単なことではない。特に来年5月の総選挙を控えている中ではそうだ。

経済成長とオズボーンの予算(Economic Growth and 2014 Budget)

2014年度の予算が発表された。恒例の「首相への質問」の終わった後、オズボーン財相が立ち上がった。しばらく前に髪型を変えたオズボーンがかなり痩せている。52断食ダイエットを始めてからそれほど時間がたたないが、その効果が出ているようだ。このダイエットは1週間7日のうち5日は普通通りに食事をするが、あとの2日間はカロリーを大幅に抑えるダイエットである。オズボーンが若く見える。 

オズボーンのスピーチから、国に経済成長がいかに大切かひしひしと伝わってくる。雇用、財政赤字削減など非常に多くの効果がある。財政赤字削減率はG7の中でトップだともいう。オズボーンは、経済成長に浮かれることなく堅実な財政赤字削減努力を強調する。2014年度の財政赤字予測は1,080億ポンド(183,600億円:£1Y170)でGDP6.6%だが、このままでいくと2018年度には財政黒字が出る見込みだ(参照)。 

財政責任局(OBR)が経済予測を大幅に上方修正した。もちろんOBRは現在時点で最善の経済予測をしていると思われるが、逆に見れば近い将来下方修正する可能性も秘めている。

オズボーンは経済成長の一つの引き金となったと思われる住宅購入の資金ローン援助策「Help to Buy」を3年間の限定期間から2020年まで延長すると発表した。これで適用されるのは、この援助策の2つのスキームのうち最初に実施された新造物件の購入へのローンである。これで経済成長への原動力を維持し、不足している住宅の増加策の一助とするようだ。

さらに経済のバランスある成長を確保するために基幹となる輸出産業への政府の直接融資額を2倍の30億ポンド(5,100億円)に増やし、その利子を3分の1削減する支援策なども含んでいる。

そのほか、国民にアピールする政策として、この4月から所得税の課税最低限度額は1万ポンド(170万円)となるが、さらに来年4月から10,500ポンド(1785千円)とする。

一方、今回の予算の前に中流階級を苦しめているとして大きな課題となっていた、所得税が40%かかり始める額の引き上げの問題がある。現在41,450ポンド(7,046,500円)だが、この4月からそれを1%上げ41,865ポンド(7,117,050円)そして来年4月にはさらに1%上げ42,285ポンド(7,188,450円)とすることとした。インフレ率より低いが当初据え置きの観測もあった。

有権者にはさらに今年9月からの燃料税アップをせず、さらにビールへの税を若干引き下げるなどの対策を講じた。

福祉予算には上限を設け、2018年度までインフレ率でアップすることとした。なお、これには国の年金と失業手当は含まれていない。 

いずれにしても、いったん経済成長が軌道に乗り始めると比較的柔軟な政策が実施できる。政治家にとって経済成長がいかに大切かを示していると言える。

効果の乏しかった「秋の財政声明」(Osborne’s Autumn Statement Changed Little)

オズボーン財相の12月5日の「秋の財政声明」は効果が乏しかった。春の予算に次いで重要なこの声明で、財相は経済の好転と自らの財政再建策の効果を強調し、キャメロン政権の財政経済運営の成功を国民に知らしめる機会にすると考えられていた。

多くの政治コメンテーターたちは、「ストラテジスト」オズボーンが期待する評価をしたが、様々な要因からオズボーンの期待は裏切られた。

まず、ちょうどこの日、南アフリカのネルソン・マンデラが亡くなった。そのため、ニュース報道はテレビも翌日の新聞もマンデラ特集となった。「秋の財政声明」は吹き飛んでしまった。

次にこの日、最大時速142マイル(230キロ)にもなった強風が吹き荒れ、嵐のため英国各地で多くの災害をもたらした。

さらにマンデラ死去のニュースで、サッチャーが首相として、白人の南アフリカを支持し、マンデラ率いるアフリカ民族会議(ANC)をテロリスト集団として決めつけていたことに焦点が当たった。多くの英国人は、保守党がいかに「嫌な政党」であったかを改めて思いださせられた(実は、マンデラ釈放を強く要求したのはサッチャーであったが、事実と印象は必ずしも一致しない)。

マンデラ死去と英国中に大きな被害を与えた嵐がなければ、オズボーンの「秋の声明」はテレビと新聞のトップで大きく扱われていただろう。実は、この「秋の声明」はもともとその前日の12月4日に行われることになっていたが、キャメロン首相の中国訪問からの帰国を待つために1日遅らせたのである。

この中国訪問は、オズボーン財相が先に中国を訪問し、お膳立てした後であったが、政治的には失敗に終わった。経済的には60億ポンド(1兆円)の価値があったとキャメロン首相は主張したが、ファイナンシャルタイムズ紙は「中国との付き合いですべきではない痛い教訓」と題して、これ以上腰を低くすることができないほどにしたキャメロン首相の卑下の姿は英国人が困惑するほどだったと評した(なお、ガーディアン紙の同様の記事)。キャメロン首相が中国政府の危険視するダライラマに会ったという過去の政治的判断のつけがあったと言えるが、その姿には行き過ぎがあったようだ。 偶然とはいえ、財相の声明と大きな出来事が重なり、キャメロン首相の中国訪問の叡智が改めて問われる事態となったように思われる。

一方、下院のオズボーン財相は、大上段に構え過ぎ、これまで思いやりに欠けるという批判のある保守党の印象を変えようとする姿勢が見られなかった。サン紙の読者の参加したグループ評価で財相の声明を好意的に受け止めたのは4分の1にとどまっている。

労働党のボールズ影の財相は、下院で顔を真っ赤にしてオズボーン財相の経済財政運営を批判した。脳卒中で倒れるのではないかと心配になるほどで、気負い過ぎており、効果が乏しいように思われたが、翌日の新聞では、現在の経済回復は消費者の借金に支えられた消費に頼っており(タイムズ紙)、経済のバランスが取り戻されている兆候はなく(ファイナンシャルタイムズ紙)、徐々に消える可能性を指摘している。

結局、オズボーン財相の「秋の財政声明」はキャメロン保守党の命運を変えるには至らなかったように思われる。

住宅取得印紙税報道(The Times’ Stamp Duty Report)

タイムズ紙が住宅取得にかかる印紙税の問題を8月6日のトップ記事とし、また社説でも取り上げた。この問題は、それ以外のメディアでも取り上げている。

英国人にとって、住宅は非常に大きな関心事である。住宅は、短期的には価格の上下があるかもしれないが、長期的には上がると考えられている。この原因の一つには、住宅が不足していることがある。建設許可制度が厳しく、キャメロン政権が経済成長のためにそれを緩和しようとしても保守党内部からも反対があり、遅々として進まない。

英国人の住宅への「執着」は、例えば、ドイツ人と対照的だ。ドイツでは借家が多いが、英国では持ち家が多い。

英国では、初めて住宅を買う人たちのことがよく話に上る。住宅の価格が上がりすぎて、最初の家が買えないというのである。

これは、最初の家を小さくとも何とかして購入し、しばらくするとその価値が上がるので、その上がった価値をもとにさらに高価な家を買い、そしてさらに高価な家へと移っていくことを想定している。そして子供が成長して家から出て行くと家のサイズを小さくしていく。家を年金の原資と考えている人も多い。

しかし、最初の家が買えないと、最初のきっかけがつかめないことになるので多くの人がそれを問題視するのである。

そのようなことから、英国では、住宅にかかる印紙税にはその富の大きさに関わらず注目する傾向がある。

まずは、現在の英国の住宅にかかる印紙税がどうなっているか見てみよう。6つの区分がある。

税率 住宅購入額
0% £125,000(1875万円:£1=\150)以下
1% £125,000を超え£250,000(3750万円)以下
3% £250,000を超え£500,000(7500万円)以下
4% £500,000を超え£1million (1億5千万円)以下
5% £1millionを超え£2million(3億円)以下
7% £2millionを超えるもの

このうち、2012年度では、723,829の住宅が購入され、そのうち、税率が3%以上、すなわち25万ポンド(3750万円)を超える住宅が182,692で、全体の4分の1を占めた。ロンドンでは、特に住宅の価格が高く、購入された住宅の3分の2近くの印紙税が3%以上である。

さて、タイムズ紙は、いわゆる高級紙の一つで、専門職や中流階級の読者が多い。その読者の関心のありそうな記事をトップに載せるのは当然とも言える。

この記事のもとにした分析は、納税者同盟(Tax Payers’ Alliance)という組織のものであるが、これは、労働党政権時代に政府の無駄遣いを攻撃するために作られた。税金を下げることを標榜し、その支援者には、より自由な経済活動を標榜する人が多い。つまり、ある程度の資産のある人が中心となっている。納税者同盟は、現在の印紙税は高すぎると判断している。

一方、この記事の中で不動産仲介業者のコメントも紹介し、高い印紙税が、住宅の売買を妨げているという。もちろん住宅の売買が活発化すれば、不動産会社は望ましいだろう。

ただし、英国の住宅価格は今年初めから上昇している。直近のハリファックスの報告にもそれは見られる。1年前に始まった、政府とイングランド銀行の金融機関への安いローン(Funding For Lending)や、住宅購入への政府の住宅ローン保証制度などの効果が出てきている。さらに来年1月から始まる、より広範囲の人が利用できる制度(Help to Buy)は3年間の期間限定の予定であるが、前イングランド銀行総裁が、この制度を無期限にしないようにと住宅ブームの過熱する可能性を警告した。同様の見方を持つ人は多い。

現状を考えると、印紙税の制度は、もし過熱すれば一定の歯止めをかける上で有効であり、かつ税収増も期待できるので現在の経済状況下では望ましいのではないかと思われる。

タイムズ紙は、印紙税のかかる、それぞれの住宅価格区分の最低額を上げるか、もしくは、制度を変えて、例えば、100万ポンドの家を購入しても、最初の12万5千ポンドは0%、次の12万5千ポンドは1%、次の25万ポンドは3%、そして次の50万ポンドは4%という具合にしてはどうかという専門家の見解を紹介している。ただし、現在のレベルの住宅価格上昇に拍車をかけるような住宅取得印紙税軽減は現実的ではないだろう。

もちろんタイムズ紙の経済・住宅関連担当者はこれらのことを十分理解していると思われるが、それでも、この納税者同盟のストーリーがトップとなった。英国人の注目を浴びるからだと思われる。

政策のタイミング(Policy and It’s Timing)

政策にはタイミングが重要である。オズボーン財相の3月20日の予算で政府の景気刺激策の中心に住宅政策を置いたが、この政策が結果を出す可能性がかなりあるように思われる。

4月3日に発表されたイングランド銀行の金融機関信用状況概観によると、2013年第1四半期の住宅ローンの金利が下がっており、第二四半期もさらに下がる見通しだという。中には記録的に安くなっているものもあるそうだ。

この原因は、イングランド銀行と政府が、800億ポンド(11兆6千億円)で、2012年8月にスタートした「貸すための資金拠出スキーム(Funding for Lending Scheme)」で、個人や小さな企業への融資を維持または、増加させれば、金融機関は、無制限に金利0.25%で借りられる制度の効果だと見られている。特に、この機会を利用して、市場占有率を増やそうという比較的小さな住宅金融組合が積極的だと言われる。

オズボーン財相の住宅政策は、Help to Buyと呼ばれる。住宅市場は経済効果が大きいが、オズボーンの政策の中心は以下の二つの政策である。

  • 新住宅の価格(最大限60万ポンド(8700万円))の住宅ローンの20%まで政府が5年間無利子で貸し付ける。5%の自己資金があれば申し込める。35億ポンド(5千億円)の政策で、13万人に適用されるこの見込み。申込者は、セカンドハウスではないと言う必要がある。4月1日から3年間適用される。
  • 既存の住宅を含め、住宅価格(最大限60万ポンド)の20%まで7年間政府が保証する制度。総額1300億ポンド(19兆円)の政府保証で55万件の見込み。2014年1月から3年間適用される。

英国の住宅市場は、他の国と異なる点がある。まず、住宅の不足が大きな問題となっている。住宅建築許可は極めて厳しく、建てられる場所がかなり限定されているために、住宅供給がなかなか増えない。

次に英国人には住宅を所有するという夢があるが、住宅の価格が高くなりすぎて、一般の人の手に届かない価格となっている。イングランドでは、平均の住宅価格は、256,995ポンド(3700万円)である。しかし、住宅価格は、過去若干の上下はあったものの、長期的に見ればかなり上がっており、借りて家賃を払うよりも、将来の値上がりを見込んで、購入した方がよいと考える人が非常に多い。つまり、潜在的に買えれば買いたいと考えている人がかなり多い。

一方、かつては、住宅価格の100%や110%などを貸し付ける時代もあったが、今では、家の価格の20%から25%程度の手持ち金を必要とされるものが増え、一般の人には手が出にくくなっている。これらの阻害要因を政策的に緩和し、住宅市場を活性化することで、経済全体に刺激を与える原動力としようというものである。

実は、これまでにも以下のような住宅政策が試みられたが、うまくいかなかった。そこでオズボーン財相の打ち出したものはこれらを増強したものである。

  • First Buy:2万7千の購入者を支援する予定であったが、これまで6,493件だけであった。
  • New Buy:10万件を支援する予定であったが、これまで支援したのは1,522件のみだった(以上タイムズ紙Bricks & Mortar 2013年3月22日)。

First Buyも New Buyもターゲットが狭かったのに対し、今回の政策はターゲットがかなり広くなっている。しかも、住宅ローンを借りる先の金融機関の審査はあるものの政府の同様の政策にあるような申込者の年収の制限もない。

しかもこれらは、慎重な銀行や住宅金融組合に貸し出しを促す効果もある。

なお、他の住宅市場活性化対策として以下のようなものも予算発表に含まれた

  • 2015年までに、手頃な価格の住宅を1万5千件建設。
  • Build to Rent 政策の資金を5倍にする。
  • 公共住宅のRight to Buy の条件の緩和。これまで最低5年住む必要があったが、それを3年とし、価格割引の最高をロンドンで7万5千ポンドから10万ポンドにアップ。
  • 年金を使って、商業用物件をフラットなどの住宅に替えるプログラムの協議を開始する。商業用物件などに投資されている年金ファンドを使って住宅を増やす効果もある。

いくら画期的な政策を打ち出しても、それが効果を生みそうな状況とならないとなかなか結果が出てこないように思われる。その点で、住宅ローンの金利の低下に併せたオズボーンの政策にはある程度結果が出てくる可能性が高いのではないかと思われる。

予算後の世論調査(Opinion Polls After the Budget)

3月24日のサンデータイムズ紙/YouGovの世論調査では、キャメロン政権が3月20日の予算で狙った効果がかなり出ているように思われる(参照http://ukpollingreport.co.uk/http://yougov.co.uk/news/2013/03/23/budget-report-card/ )。

まず、所得税の個人課税最低限度額を上げたことに89%の人が賛成している。政府の住宅ローン保証は50%の人が賛成(28%の人が反対)している。これらの目玉政策に支持が集まっている。

予算で最も利益を受ける人は、39%の人が家を買おうとする人だと答えている。36%が金持ちと言うが、経済活性化策の目玉を理解している人が多い。3番手が22%の小企業で、4番目に大企業、低所得者、働いている両親がいずれも19%で続くがが、今回の予算で小企業向けの、新しく人を雇えば国民保険(National Insurance)を2000ポンド(29万円)免除する制度がある程度知られているようだ。

最もこの予算で悪い影響を受けるのは、24%の人が公共セクターの勤労者と言い、2番目の22%が福祉手当を受けている人と言う。公務員は昇給が1%でインフレ率よりもかなり低い上、勤続年数による昇給がストップされた。公務員が民間よりも給与が高いという批判があり、しかも福祉手当受給者には怠け者が多いという批判がある中では、政府の送りたいメッセージをそのように受け止めている人が多いということを示している。

全体的には、キャメロン政権が現在の経済的な苦境から抜けだせると考えている人は33%と先週の世論調査の29%をやや上回り、また政府の経済戦略が効き始めた、もしくはすぐに効き始めると考える人が24%と先週の19%から増えている。

最も興味深いのは、オズボーン財相への評価がわずかに上がっていることだ。財相として留まってほしいと言う人が先週の17%から27%にアップした(46%が替えるべきだと言うが)。3月22日に発表されたものだが、予算発表後のYouGov/Sunの世論調査で、誰がよりよい財相かという質問に対して、オズボーン財相と言う人が31%、労働党のボールズ影の財相と言う人が25%である。オズボーン財相は密かにほほ笑んでいるに違いない。