スコットランド独立の国民投票の文言(Wording of Scottish Referendum)

スコットランドの独立に関するスコットランドの住民投票(レファレンダム)が2014年の秋に行われることになっている。その際の住民投票に使う文言について選挙委員会が検討してきた。

選挙委員会は、スコットランド政府の提案したスコットランド独立の国民投票の文言は、投票者にYesと言わせる可能性が高いとして、変更するよう求めた。

スコットランド政府の提案は以下の通りである。

“Do you agree that Scotland should be an independent country?”

そして選挙委員会の示唆した文言は、以下の通りである。

“Should Scotland be an independent country?”

スコットランド政府はこの提案を受け入れたが、最終的にはスコットランド議会で決定される。

なお、スコットランド政府の当初の提案は、1975年のEECの国民投票で使われた文言の体裁によく似ている。

1975年のEEC国民投票の文言は、以下の通りである。

“Do you think that the United Kingdom should remain part of the European Community (the Common Market)?”

英国は1973年の1月1日からEECに加入していたので、このような文言になっている。この投票では、投票率64.5%で3分の2(67.2%)がYesと答えた。

警察の採用改善案(Police Recruitment Change Plan)

今日、公共サービスのほとんどすべてが変わらねばならない時代である。それは警察の世界でも同じで、政府の発表した採用改善案は、警察にも変化を強いる一つの手段だ。

警察は2010年から2015年の間に実質20%の財政カットを求められており、それに対応するよう動いている。警察官・スタッフの数の大幅削減、警察の地区駐在所などの移動、廃止さらには、警察の仕事をできるだけ外注するなど多様な動きがある。

その中で、警察官の採用方法の変更も発表された。この変更は、警察の人種的多様化を進め、多くの異なった能力・技術を警察に導入することを念頭に置かれている。

具体的には、以下の三つの制度の導入である。

①大学卒業者や警察内部の優秀な人たち80名程度の特急昇進制度
これまで、警察官は採用されると、巡査レベルで2年間過ごすことになっていた。これは、ロンドン警視庁など大卒採用制度のあるところでも同様であった。この制度を変えて、採用後3年で警部(Inspector)に昇進する仕組みとする。この制度の導入で、それぞれの警察管区のトップである本部長クラス(Chief Constable)に到達するのにこれまで25年間程度かかっていたのを10年から15年で可能にしたい考えだ。

②警察管区トップへ外国人の任命を可能とする
警察官には英国籍を持つ者しかなれないことになっていたが、これを変更し、本部長に外国人を任命できるようにする。しかし、その対象者は、英国警察の伝統である「住民の合意」による警察の考え方に基づいた警察制度を持つオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカに限られる。

③特に能力のあると判断された人たちを警視レベルに採用する制度
軍や諜報機関、さらにはそれ以外の分野で特に優秀とされる人を採用し、15か月のトレーニングの後に警視(Superintendent)とする仕組み。

多くの不祥事が起きている警察内部の文化を変えることは必要だろう。しかし警察の幹部に経験の乏しい人が就くということになれば、かえって逆効果になる可能性もあるように思われる。特に危機的な状況に対応するにはかなりの経験が必要だろうからだ。

警察コミッショナー選挙の価値?(Police Commissioners’ Elections:Any Value?)

11月15日(木)に行われる警察・犯罪コミッショナー(PCC)の選挙の投票率も英国の賭け屋、ブックメーカーは扱っている。驚くことに17%以上と17%より下とで、それぞれの賭け率をつけている。イングランドとウェールズの41地区で行われる新しい選挙の投票率が17%前後の見通しとは!?

PCCは、それぞれの警察管区の警察行政の重点方針と予算を決め、それぞれの本部長を雇い、解雇できる権限を与えられる。

11月2日にはキャメロン首相がこの選挙のキャンペーンに出た。キャメロン首相は、新しい制度が受け入れられるまでには時間がかかる、その内に有権者も、それぞれの警察管区のコミッショナーが選挙で選ばれることの意味が分かるようになると述べたが、それは一体いつのことであろうか?

主要政党には投票率が20%を越えると見ている政党はない。大臣たちの中には、もしかすると10%に近いかもしれないと心配する声もあるという。それで7500万ポンド(100億円)の選挙費用が正当化されるのであろうか?

この制度は、保守党のマニフェストに含まれていたものである。地元の人々の声がより警察行政に反映させられるようにすることが狙いであったが、有権者が関心を持たないのではどうしようもない。むしろ、住民の関心が少ない中では、選ばれたコミッショナーによる警察行政の政治化や干渉が起きるのではないか。

必ずしも必要のない制度を、しっかりとした確信を持つことなく設けるのは、貴重なお金の無駄遣いのように思える。

道州制への疑問(Is Devolution that Good?)

日本では多くの政党が道州制の導入をマニフェストに入れる考えのようだ。しかし、道州制は本当にそんなにいいモノだろうか?

英国では、ブレア労働党政権でスコットランドとウェールズの地方分権を行った。1997年に住民投票を行い、それぞれの議会が開かれたのは1999年からである。スコットランドは、もともと独立の機運が強く、スコットランド人としてのアイデンティティが強いため、この地方分権は、当然の成り行きと見られた。むしろこの地方分権は、独立の機運が強くなりすぎるのを防ぐための一種のガス抜きと考えられた。ウェールズでもウェールズ人としての独自性が強く、ウェールズ語が英語と並んで公用語となっている。この11月15日に行われる新制度の警察・犯罪コミッショナーの選挙でも、既に印刷された投票用紙が英語だけだったために、すべてが廃棄されることとなった。大急ぎで英語とウェールズ語両方の入った投票用紙が準備されている。ウェールズは、分権実施後次第にその住民の支持を得ていったが、住民投票では、賛成50.3%、反対49.7%で、かろうじて賛成多数で分権に進むことになった。

ブレア労働党政権では、これをさらに進めて、人口の84%が住むイングランドの分権を図った。当時のプレスコット副首相がこれを促進し、まずは手始めにイングランドの東北地区で住民投票を行った。ところが、投票率44.7%でその内77.9%が反対し、住民の意思がはっきりした。このため、プレスコット副首相は予定していた他の住民投票を中止した。このような改革を行うには、現代では、住民投票で住民の意思を量る必要があるだろう。政治家や国家公務員、または学者の思いつきだけでことを進めるのは疑問があるように思われる。本当に住民がそういうシステムを求めているのか見極める必要がある。

日本の場合、最も大きな問題だと思われるのは、道州制を導入すれば日本はよくなるという発想だ。本当にそうなのだろうか?スコットランドは、スコットランド独立を謳って設立されたスコットランド国民党(SNP)が議会の過半数を握り、政権を担当している。第一首相のアレックス・サモンドが率いる、左寄りのSNP政権は、優れた手腕を発揮しているといわれ、高い評判を得ている(現在、独立後のEU加盟をめぐりウソを言ったという問題が出ているが)。SNPは2007年選挙後、少数政権を担当し、2011年に過半数を握る政権となった。そして2014年秋にはスコットランドの英国からの独立をめぐる住民投票を実施することになった。

ところが、スコットランドは1999年分権議会発足後既に13年経つが、これまで分権によるはっきりした経済的メリットが見られていないのである。スコットランドの課税権限には制限があるが、スコットランドは、中央政府から有利な補助金を受け、住民一人当たりの財政支出は、2010-11年で英国平均より13%高い。大学授業料は無料で、福祉関係費もイングランドより11%も高い。そのため、財政的にはかなり優遇されていると言える。しかし、未だに1980年代の景気後退で受けた大きな打撃から抜け切れていない。エディンバラを中心にした銀行などの金融セクターが伸びていたが、信用危機で、地元大手の二つの銀行が中央政府から救済されることとなり、他の地域と同様その成長も止まった。

スコットランドの分権がどのような経済的便益をもたらしたかについては幾つもの研究がある。ほとんどないか、まだその効果が表れていない、というのがこれらの結論である。それらの一つである下記の論文では、一般的に地方分権には、経済的な便益があると政府も国際機関も考えがちだが、実際的な証拠が乏しいと指摘している。

http://eprints.lse.ac.uk/33560/1/sercdp0062.pdf

スコットランドでもウェールズでも住民投票の際に使われた議論は、地方分権すれば、経済的な配当があるということだった。しかし、これは実現されていない。むしろ、ウェールズでは、議会の設けられたカーディフがよくなっただけで、以前より悪くなったと言われる。

日本の場合は道州制だが、道州制にすれば経済的便益があり、うまくいくと考えがちではないだろうか?道州制にしたとしても、これはあくまでも一つのツールであって、そのツールをいかに使って地域を発展させていくかは全く別の問題である。英語の表現にYou can lead a horse to water, but you can’t make it drink というものがあるが、道州制にしたとしても、その制度に対する住民の支持が乏しく、しかも地域をどのようにして発展させていくかの具体的なアイデアとそれを実行していくブルドーザーのようなリーダーがいなければ、逆効果であろう。かなりの手腕があると評価されているスコットランド内閣でも分権の経済的便益を上げるのに手こずっているのである。ウェールズの例で見られるように、道州制の結果で予測されるのは、既に繁栄している地域はますます栄え、そうでない地域は、さらに悪化する可能性があるということである。

一方、こういう改革で心しておかねばならないのは、そのコストである。実施にかかる費用と時間、その手続き、さらには行政上の混乱など多くの問題があろう。まずはその具体的な計画を作るだけでも相当の時間がかかる。中央と地方との役割分担、権限移譲のレベルなど簡単には片付かない問題のように思われる。当然ながら、中央から地方へ権限が移ることになれば、国家公務員の必要数が減る、さらに幾つかの県レベルの数が減ることになればその地方公務員の数も減ることになろう。これらの人員を解雇することになれば、その費用はかなりのものとなる。新たな役所や議会を建設するということになれば、その費用もかなりのものとなろう。その上海底資源の取り扱いなど相当細かな計画が必要だ。

いずれにしても、もし、道州制を本当に実施したいと考えているのであれば、現在の日本で行政区画の問題なく実施できると思われる北海道や沖縄に道州制で予定される権限などを委譲し、試行的に実施してみることが考えられるだろう。そこから学べることが多いかもしれない。英国でできていないことが日本でできる可能性はある。しかし、道州制を一種の特効薬のように考えるのは恐らく誤りだろうと思われる。

警察コミッショナー選挙から逃げる首相(Cameron Distances Himself from the PCC Elections)

11月15日に、警察・犯罪コミッショナーの初めての選挙がイングランドとウェールズの41の警察管区で行われる。このコミッショナーの制度は、警察活動がより地域住民の関心を反映し、警察のアカウンタビリティー(説明責任)を向上させることを目指して設けられた。警察管区ごとに公選で1人ずつ選ばれる。これまで警察を監視する役割を果たしてきた、管区ごとの警察委員会では不十分だという考え方に基づく。

コミッショナーには、それぞれの管区警察の目標を策定し、予算を決め、さらに管区警察の責任者であるチーフ・コンスタブルを任免する権限がある。なお、コミッショナーを監視する仕組みも設けられており、それは警察・犯罪委員会で、地方議員らで構成される。ロンドンは仕組みが他の地域と異なり、ロンドン市長がこのコミッショナーの役割を果たすことになっており、今年1月にすでにコミッショナーの制度に移行した。

この制度のアイデアは、保守党が2010年の総選挙のマニフェストで打ち出し、自民党との連立合意でも承認され、2011年9月に法制化された。特に大きな問題はないように見えたが、実は、政治家にとっては非常に深刻な問題が起きている。それは、住民の関心が非常に低いことだ。選挙委員会は、既に投票率は18.5%程度にとどまるかもしれないという見解を出しているが、10月の世論調査の結果でも、絶対に投票すると言う人はわずか15%しかいない。
(http://www.apccs.police.uk/fileUploads/PCC_election_polling_2012/APCC_PCC_questions_Ipsos_MORI_toplineresults_221012_FINAL.pdf)
いずれにしてもかなり低い投票率となる見通しである。投票率が低すぎると、この制度の正当性自体に疑いが出る。つまり、政治家にとっては、なぜそのような制度を推し進めたのかという疑問を突き付けられることになる。

こういう状況を見て、キャメロン首相は、この選挙に直接関わろうとしていない。むしろ対岸の火事のように振る舞っている気配がある。自分が関わっても、投票率の大きな上昇は望めず、むしろ逆に自分の責任を問われる可能性が高いためである。大失敗に終わった、指定地方自治体で市長制度を設けるかどうかの今年5月の住民投票でも同様の対応をしたが、これらは首相の責任放棄と言われても仕方がないだろう。

スコットランド国民投票実施合意(Edinburgh Agreement)

キャメロン英国首相とサモンド・スコットランド第一首相の間で、スコットランドの独立に関する国民投票を実施することが決まったが、スコットランド独立につながる結果が出る可能性は少ないと見られている。内容は以下のようである。

① 2014年年末までに実施
② 質問は、スコットランドが英国を離れるかどうかに関してYesかNoの一つだけで、英国の選挙委員会がその表現の妥当性について検証する
③ 投票できる有権者には16歳と17歳も含む
④ 中央政府が国全体の憲法問題に関する責任を持つ立場から、スコットランド議会にこの投票をする権限を与える。
⑤ どのような結果となろうとも、中央政府とスコットランド議会が協力してスコットランドの人々に最善となるよう努力する。

実施時期については、これまで中央政府は、2014年秋は遅すぎる、不透明な状態を長続きさせないためなるべく早く実施したいと主張してきたが、スコットランド側の主張に折れた形だ。2014年には、夏から秋にかけて、スポーツの英連邦大会がスコットランドであり、また、ゴルフのライダーカップも行われる。その上、かつてスコットランドの独立に大きな役割を果たしたバノックバーンの戦いの700周年にあたる。スコットランドの国民感情を掻き立てる効果を期待していると思われる。

質問の形については、スコットランド側は、質問を二つにして、独立Yes/Noの他に、大幅な分権に関する質問も付け加えることも検討していた。これは、いずれに転んでもスコットランドに有利と言う判断であった。しかし、中央政府側は、Yes/Noの質問だけを要求していた。

また、この国民投票にのみ16歳まで投票権を与えたのは、スコットランド側に若い人たちの方が、独立に賛成する傾向が強いと判断してのことだ。国民投票が2年先であることを考えると、現在の14歳以上が対象となるため、スコットランドの学校ではかなり「スコットランド独立」の機運が盛り上がる可能性がある。しかし、これは、約400万人の有権者に12万3千人を付け加えるだけだと言われ、しかも、これらの人たちが投票するには、有権者登録をしなければならない。若い人の低投票率の傾向を考えると、Yes票がわずか0.2%程度増えるぐらいの影響しかないと見られている。

いずれにしても、これまでの世論調査の結果からYes/Noの質問で、Yes票はせいぜい3分の1程度で、Noのほうがかなり優勢と見られている。

スティール卿の上院改革案(Lord Steel’s Lords’ Reform)

自民党の上院議員スティール卿が議員提出の上院改革案(House of Lords(Cessation of Membership) Bill)を出し、上院での審議を経、7月24日に第三読会を無修正で通過して下院に送られた。スティール卿は、最後の自由党党首で、社会民主党との統合後、社会自由民主党党首を自民党と改名するまで務めた人物である。この法案は、上院議員の引退、無出席、それに犯罪行為について定めようとするものである。これは、上院改革案でも、自民党党首クレッグ副首相の公選制を導入した上院改革とは基本的に異なる。

スティール卿の見解はこうだ(タイムズ紙8月8日への投稿を参照)。上院議員の数が多すぎる。高齢者が多い。世襲議員が未だにいる。議会に出席しない人でも上院議員として遇している(咋期には72人いたという)。また、かなり重い罪を犯した人でも議員として居座ることを許している。公選制を導入しようとする前にできることはかなりあるというのである。

そこでスティール卿は上記の上院改革案に付け加えて、以下のような点を付け加えるべきだという。

① 各議会会期終了時点での上院議員の定年を定める。現在825人ほどの上院議員がいるが、例えば、80歳とすれば、次期総選挙の予定されている2015年には、200人近い人が減り、もし75歳とすれば350人余り減る。なお、現在74歳のスティール卿は、この枠に入る。
② ブレア政権での上院改革で92人の世襲制貴族を残し、もしそのうちの誰かが上院を去れば、世襲貴族内での選挙を経て後継者が選ばれているが、この選挙をやめる。つまり、時間が経てば、世襲貴族はいなくなる。
③ 政党党首の上院議員候補者推薦をやめ、既存の上院議員任命委員会の役割を拡大する。

スティール卿の指摘したことはもっともなことである。多少の手直しで大きく改善すると思われる。しかし、政党のリーダーたちは上記の③を手放したくないのでことはそう簡単には進まない。

下院選挙区の新区割り作業の今後(What’s going to happen on Boundary changes)

自民党の党首であるクレッグ副首相が、保守党内での反対で公選制を導入する上院改革が不可能となった状況を受け、それに対する対抗手段として、保守党が積極的に進めてきた選挙区の新区割りに反対すると表明した。保守党を率いるキャメロン首相は、それでも新区割り手続きを進めていく方針を表明したが、新区割りが次の総選挙で実施される見通しはない。

それでは、2011年国会投票制度並びに選挙区法で進められてきた下院の新選挙区割の手続きはどうなるのだろうか?

① 選挙区区割り委員会の作業は継続し、来年9月末までに区割り最終案を出す。
② 大臣が直ちにそれを施行するための命令案を国会に提出し、それを受け入れるかどうかの投票が行われるが、明らかに可決される見通しのないものには投票しない可能性がある。
③ 次の総選挙は既存の650選挙区の区割りで行われる。
④ それまでに2011年法の修正、もしくは、現在国会で審議中の選挙管理法案2012-13に新しい条項を加え、2011年法の事実上の修正が行わなければ、区割り委員会は2011年法に基づき、現行の650議席ではなく、600議席に基づいた作業を進めていくことになる。問題は、区割り委員会は、これまで人口動態によって選挙区区割りの見直しを行ってきたが、次回選挙も、その次の選挙も650選挙区制度に基づいた区割り見直しができなくなる点だ
⑤ 次期総選挙でもし労働党が勝てば、2011年法は労働党に不利なため、大幅な修正・もしくは廃止される可能性がある。選挙区のサイズの誤差を5%より大きくする、2011年法では有権者の数を基に選挙区割りをすることとしたが、保守党の強い選挙区では、人口に対して有権者登録の割合が高いと見られているので、人口を基に選挙区割にする可能性がある。また、区割り見直しの期間をそれまでの8年から12年から5年ごとに変えたが、これを元に戻すか、10年ごとの国勢調査ごとにする可能性などがある。

上院改革法案の採決で見る政党事情(Parties’ Position on Lords Reform)

連立政権を構成する保守党と自民党の間がきしんでいる。この大きな原因は、上院改革法案である(内容は下の記事を参照のこと)。自民党は、2011年5月の国民投票で、下院の選挙制度を修正するAV制度の導入が否決された後、この上院改革案に望みを託している。しかし、保守党内で上院改革法案に反対する者が多く、保守党のリーダーシップがそれを抑えることができないために、連立政権内で軋轢が起きている。

7月10日夜の下院の上院改革法案の第二読会で、保守党が最厳重党議拘束をかけたにもかかわらず、91名の保守党議員が反対した。しかも19人が棄権。法案そのものは、野党の労働党が賛成したために、賛成462、反対124で賛成多数で通過した。しかし、本当の問題は、反対票を投じる保守党議員が多いことがわかったために、この当日、この法案の審議を10日間に限定する議事進行時間表の採決を取り下げたことにある。労働党がもっと審議の時間が必要だとしており、しかも保守党内での反対が多いために、採決をすれば否決されるのは間違いない状態だった。この結果、保守党の反対者が下院でフィリバスターをするのは確実で、この法案の審議が長引くこととなる。労働党は大切なところで反対する可能性がある上、国民投票を求めている。

この結果、上院改革法案が2015年までに成立・施行される可能性はほとんどなくなった。定期国会法によって、5年の任期となったが、まだこの政権は発足して2年3か月であり、時間はあるという見方があるかもしれない。しかしながら、時間的な余裕はほとんどない。

もし、保守党の下院議員の賛成があれば、自民党と合わせて多数を持っているために、まず間違いなく否決されると見られる上院で否決されても、国会法を使い、早ければ来年秋には成立・施行できる。しかし、最厳重党議拘束をかけたにもかかわらず、110人もの保守党下院議員が反対または棄権したという事実は重要だ。つまり、キャメロン首相らが採決後に主張したように、もう一度説得を試みるといっても、それで覆る議員の数はかなり少ないものと思われる。つまり、保守党の努力で変えられる要素は極めて少ない。そうなると労働党の動きがカギとなる。しかし、労働党は、法案の基本的な案には賛成しているが、じっくりと法案を吟味すべきだという立場で、しかも事前に国民投票の実施を求めている。その上、連立政権の保守党と自民党の間の関係が悪化するのを望んでいる立場からすれば、そう簡単に連立政権を援けようとはしないだろう。自民党は、AVの国民投票の失敗があり、国民投票の事前の実施には賛成しないと思われる。

そこで、保守党の反対者が納得できるように法案の内容を大幅に変えればよいという見方があるが、選挙で選ばれる上院議員の割合を大幅に減らす案では、自民党が納得しない。それは、連立合意に反し、しかも自民党の存在意義を明示することができなくなるからだ。

英国政治の縮図・上院改革法案 (Typical, House of Lords Reform Bill)

政府が6月に提出した上院改革法案は7月10日に第二読会を通過した。しかし、与党保守党の議員がこの法案に多数反対し、政府がこの議案の議事時間表の採決を諦めたために、この法案が2015年までに成立・施行される可能性はほとんどなくなった。しかしながら、この法案には英国の政治の1つの姿が凝縮していると言える。つまり、漸進的に物事を進めようとし、細部にあまり留意しない傾向である。

上院改革は、連立政権合意に含まれた。2011年5月に政府の原案が出された後、上下両院の合同委員会で検討され、その報告書が2012年4月に提出された。それを参考にして政府が上院改革法案として提出した。骨子は以下の通りである。

 基本的な定数は450(後に述べるが、これに若干のプラスがある)。
 基本定数の450の8割は公選で2割は任命。
 任期は3回の選挙を経る1期のみ。下院議員選挙の総選挙の際に同時に行われる。5年の定期国会法が既に成立しているが、もし、総選挙が前回の総選挙の2年以内にあれば、上院議員選挙は行われない。すなわち3回の選挙が5年ごとに行われれば、15年だが、最短の場合は、6年あまりの可能性もある。一方、もし2年以内に総選挙が繰り返されれば、任期がかなり長くなる可能性がある。
 給料はなく、1日の日当は300ポンド(日本円にして3万7千円)。議会開会中毎日出席したとしても、年間150日程度で、約4万5千ポンド(日本円にして560万円)。
 この制度が完全に導入されるまでには3回の選挙が必要で、それまで以下の三段階のステップが踏まれる。
 最初の選挙時(2015年を想定)には、上院議員の構成は以下のようになる。
選挙で選ばれる120名。上院議員任命委員会による任命30名。英国国教会司教最大21名まで。議員以外の人を大臣に任命するために上院議員とする特別枠の議員。2015年選挙前から存在する上院議員の3分の2(なお、2012年6月時、全体816名で、そのうち議事に参加できるのは775名)。2回目、3回目の選挙も含めてまとめると以下のようになる。

1回目選挙後 選挙120 任命30 司教・最大21 大臣・若干名 既存議員・2/3
2回目選挙後 選挙240 任命60 司教・最大16 大臣・若干名 既存議員・1/3
3回目選挙後 選挙360 任命90 司教・最大12 大臣・若干名 既存議員・0

 選挙は、欧州議会議員選挙の際に使われる大選挙区の区割りで、地区ごとに比例代表制で行われる。

この法案には、多くの反対がある。上院が選挙で選ばれるようになると、その民主的正当性のために下院と上院との力関係が崩れる、上院で確保されてきた専門知識が失われる、費用がかかる、などがその主な理由である。しかし、それ以外にも疑問がある。例えば、国教会の司教が本当に必要か?内閣の大臣職の総数には制約があるものの、大臣職に就かせるために首相の判断で任命できる上院議員の数には制約はない。これで本当に良いのだろうか?また、上院議員の任期の長さに不確定な要素があり、人によっては、任期が大きく違う可能性がある。これもそれでよいのだろうか?この法案は、いかにも英国的なあいまいさを残しており、未成熟だと思われる。しかし、さらに根源的な問題として、本当に上院が必要なのかどうかを問うていない。

上院改革法案へのこれまでの経過

2010年の総選挙の際のマニフェストで、主要三党のいずれもが上院改革を謳っていた。以下の通りである。

 保守党:主に選挙で選ばれた上院のコンセンサスを作る。
“We will work to build a consensus for a mainly-elected second chamber to replace the current House of Lords, recognising that an efficient and effective second chamber should play an important role in our democracy and requires both legitimacy and public confidence.”
Conservative Party, An Invitation to Join the Government of Britain, 2010, p67
 自民党:議員数を減らし、100%選挙で選ばれた上院に入れ替える。
“Replace the House of Lords with a fully-elected second chamber with considerably fewer members than the current House.”
Liberal Democrat Party, Liberal Democrat Manifesto 2010, 2010, p88
 労働党:比例代表選挙で100%選ばれた上院とし、その国民投票を行う。
“We will ensure that the hereditary principle is removed from the House of Lords. Further democratic reform to create a fully elected Second Chamber will then be achieved in stages. At the end of the next Parliament one third of the House of Lords will be elected; a further one third of members will be elected at the general election after that. Until the final stage, the representation of all groups should be maintained in equal proportions to now. We will consult widely on these proposals, and on an open-list proportional representation electoral system for the Second Chamber, before putting them to the people in a referendum.”
The Labour Party, The Labour Party Manifesto 2010: A Future Fair for All, 2010, 9:3
 連立合意書:100%もしくは主に、比例代表制で選ばれる上院改革を提案する委員会を設置し、2010年12月までに草案を提出する。。
“We will establish a committee to bring forward proposals for a wholly or mainly elected upper chamber on the basis of proportional representation. The committee will come forward with a draft motion by December 2010. It is likely that this will advocate single long terms of office. It is also likely that there will be a grandfathering system for current Peers. In the interim, Lords appointments will be made with the objective of creating a second chamber that is reflective of the share of the vote secured by the political parties in the last general election.”
HM Government, The Coalition: Our Programme for Government, 20 May 2010
 2011年5月発表の白書・草案のまえがきでキャメロン首相(保守党)とクレッグ副首相(自民党)は、上院最初の選挙を2015年に行うことを約束した。
“(We) are fully committed to holding the first elections to the reformed House of Lords in 2015.”
House of Lords Reform Draft Bill, May 2011