上院を任命制から公選にする方針の労働党

労働党が、現在の任命制の上院を廃止し、公選で選ばれる制度に変える方針を次期総選挙のマニフェストに入れる考えだ。次の総選挙は2025年初めまでに実施する必要がある。

英国議会は、上院(貴族院)と下院(庶民院)の二院制である。下院は、650人の議員全員が小選挙区選挙制で選ばれるが、上院は任命制である。上院議員の一部は、世襲貴族の中の選挙で選ばれた人たち、また、英国の国教である聖公会の現職の高僧たちであるが、大部分は、首相や政党党首の推薦する人や上院議員任命委員会が推薦した人たちが、男性はBaron(男爵)、女性はBaroness(女男爵)として任命される。

上院は公選制ではないことを受け、上院の権限は大幅に制限されている。公選で選ばれる下院は、有権者の意思を反映しているとして、総選挙で勝利した政党のマニフェストで公約した政策には基本的に反対せず、また下院の通した法案を上院が通さないことができるのは最長1年ということになっている。

一方、首相となれるのは、下院議員のみであり、下院の信任を得られる人物が政権を担うことから、政権を担当する政党が下院で重要法案を可決することはそれほど難しいことではないが、上院では、元国家公務員などを含め、どの政党にも属さない無所属(クロスベンチャー)が多く、過半数を占める政党がないことから、与党の意のままにはならない。

下院議員は年俸84144ポンド(約1400万円)であるが、上院議員は、給料の出る役職についている人以外は基本的に日当制であり、1日332ポンド(約5万5千円)を受け取ることができる。

上院の任命制には、上院議員にふさわしくない人が選ばれているなど、これまでも批判があった。確かに、男爵や女男爵の爵位を授かりたい人はかなりいるだろうが、ジョンソン元首相の辞職に伴う上院議員推選リストやその後のトラス前首相の辞職に伴う推選リストで、首相経験者に近い人たちを推薦しているという話が伝わっており、政治への信頼が失われる要素の一つとなっている。

2011年議会任期固定法の廃止と次回総選挙

2011年議会任期固定法が2022年3月24日に廃止された。すなわち、首相が自分の判断で下院を解散できる解散権が復活した。2011年議会任期固定法は、2010年総選挙の結果が「宙づり議会(過半数を占めた政党がない)」となり、連立政権を組んだ保守党と自民党の交渉の中で生まれた制度である。ただし、その後、事実上、時の首相が望んだ時期に3回の総選挙、2015年、2017年それに2019年の総選挙が行われている。

なお、2011年議会任期固定法では、任期は最長5年間で、総選挙が行われるとその次の総選挙は5年目の5月の第1木曜日に行われることになっていた。しかし、次の総選挙は、遅くとも2025年1月25日までに行われることになっている。この日付は、前回総選挙後の初召集日2019年12月17日に25就業日の告知期間を加えたものである。