下院議員の歳費アップ提案(A Proposal to Raise MPs’ Pay)

下院議員の年俸を現在の₤66,396(約1千万円:₤1=150円)から2015年から₤74,000(1千百万円)に上げる提案がなされた。これは、政府と議会から独立した機関である独立議会倫理基準局(Ipsa)の提案である。2009年に発覚した議員経費乱用問題で、議会の担当部門がその役割を十分果たしていなかったことから、Ipsaは独立した組織とされ、しかも下院議員の歳費を定める役割も果たすことになった。歳費に関する権限が2011年5月、年金は同年11月にIpsaに渡った。なお。上院議員には歳費はなく、日当である。

Ipsa提案の概要

・2015年5月に予定されている総選挙後に下院議員の歳費を₤74,000とする。それ以降、経済全体の平均収入のインデックスに従って決まる。
・国家公務員並みに年金を引き下げる。
・議員を辞めた後の調整費(Resettlement Payments)を廃止し、落選した場合のみに解雇手当を支給する。
・ビジネス経費とそれ以外の経費を区別し、支出基準や項目を厳しくする。

さらに議員に年間報告書を発行するよう提案した。

英国ではインフレが2%台であるが、国家公務員の給与は年に1%アップまでと凍結されており、下院議員の給与もそれに横並びとなっている。ところが、Ipsaが2年近く先ではあるが、2015年春から下院議員の給与を大幅に上げることとしたことから、この提案が「政治的な問題」となった。

政治家にとっては、国家公務員給与を凍結し、また、民間では給与カットを受けている人も少なくない状態で、しかも総選挙からそう遠くない時期に下院議員の給与の大幅アップを決めるのはまずい、という判断がある。引退・落選議員に支払う補助金や、議員の経費の削減、さらに年金の削減が伴うが、全体からすれば支出が₤500,000(7500万円)増える。

そのため、主要三党の党首のいずれもがそのアップに反対した。問題は、政治家がその給与に関与できないように独立機関を設けたのにもかかわらず、政治家がその提案に反対するという状態になっていることだ。

Ipsaの判断の背景

Ipsaの判断の背景には、英国の下院議員の歳費が他の主要国の国会議員の歳費よりかなり少ないことがある。また、英国内の同等と思われる職業の給与水準との比較もある。

これまで、特に諸外国と比べて低いため、大幅に上げる提案が出るたびに、その時の首相がそれに反対し、その上昇率を抑える代わりに、議員の経費の枠と額を増やしていた。それが議員の経費乱用問題を招いた大きな要因である。

この過去からの「遺産」を考えると、行わねばならないことは、議員の歳費を上げるとともに、それ以外の経費の枠を削り、整理することである。Ipsaの案はそれを反映している(http://parliamentarystandards.org.uk/payandpensions/Documents/9.%20MPs%27%20Pay%20and%20Pensions%20-%20A%20New%20Package%20-%20July%202013.pdf)。

実際に、英国の下院議員の歳費の額は、世界ではかなり低い。このIpsaの報告書では、2013年7月2日現在の数字が上げられているが、主な国は以下の通りである。

 

国名 金額
スペイン ₤28,969(435万円)
フランス ₤56,815U(852万円)
英国 ₤66,396(996万円)
スウェーデン ₤69,017(1035万円)
米国 ₤114,660(1720万円)
オーストラリア ₤117,805(1767万円)
イタリア ₤120,546(1808万円)

なお、上記の報告書では触れられていないが、他のメディアでは、Ipsaの出所として日本は2012年現在、₤167,784(2517万円)とされている。

なぜこの緊縮財政の時に大幅アップをしなければならないのかについては、上記の報告書でも触れているが、タイミングを待っていると、これまでの30年間と同じことの繰り返しとなってしまうと主張している。そして、議会の途中で大幅アップは望ましくないが、次の総選挙後から新しくスタートすべきだとしている。そして長期的な案を出すようにしたという。

Ipsaの言っていることはかなり筋が通っているように思える。しかし、今までのところ国民の多くは、このアップに反対のようだ。

なぜIpsaなのか

ここでもう一度考える必要があるように思えるのは、なぜIpsaが必要なのか、ということである。多くのお金をかけて議員の経費を細かく査定する必要がほんとうにあるのだろうか?細かなお役所仕事をする組織を新たに設けただけではないのか?問題に直面した政治家たちが、その場をやり過ごすために新たな組織を設けてきちんと対応したように振る舞うのは常套手段である。Ipsaは設けられて日が浅いが、それに本当の価値があるのか見直す必要があるように思われる。

大きく変わった政治の構図(A Game Changer in British Politics)

英語にGame changerという言葉がある。これは、それまでの状況を大きく変える出来事や行動を指すが、7月9日のエド・ミリバンドの労働党と労働組合の関係を変える改革案は、まさにこの言葉通りの意味があったようだ。

7月10日(水曜日)の「首相のクエスチョンタイム」は、まさにそれがはっきりと示された場であった。最初から、保守党と労働党議員席がたいへん騒々しく、これほど騒々しいのは久しぶりだという。BBCの政治部長ニック・ロビンソンによると、中にいては、何を言っているか聞き取れなかったそうだ。テレビ中継のためのマイクのお蔭でテレビで聞き取れる音を集められたと言っていた。さらにスカイニュースでは、キャメロン首相がわずか数列後ろの保守党下院議員の発言を聞き取るために身体を大きく斜めに傾けている光景が映し出された。

この場では、先週の「首相のクエスチョンタイム」で優位だったキャメロン首相が、守勢に回った。

労働組合の労働党候補者選出関与問題が、一挙に過去の問題となってしまったようだ。キャメロン首相が懸命に、労働党は労働組合のお金に頼っている、労働組合はその影響力をその資金力で買っていると訴えたが、もうこれらの問題は、過ぎ去った問題のように感じられた。

一方、ミリバンドは、一週間前と違う人のように見えた。余裕を持ってキャメロン首相を攻撃した。

ミリバンドは、保守党がヘッジファンドからどれだけ政治献金を受けているか質問した。それに答えようとしないキャメロンに、ミリバンドは、それは2500万ポンド(37億5千万円)だと自ら答え、ヘッジファンドに財相が与えた減税額は、1億4500万ポンド(217億5千万円)だと付け加えた。

ミリバンドは、労働党に関係メンバーとして献金している労働組合員、すなわち普通の人は、1週間に6ペンス(9円)出していると言い、保守党の大口献金者に頼る体質を、少数の百万長者に所有されている党と攻撃した。

ミリバンドの提案したのは、以下のようなことだ。

①政治献金の上限を設けること。実は、これまで主要政党間で交渉されてきたが、保守党によると、労働党が労働組合からの献金をまとめて受けているのでこれに反対したという。キャメロン首相は、「首相のクエスチョンタイム」で、労働党は、労働組合のユナイトから800万ポンド(12億円)、GMBから400万ポンド(6億円)、ユニゾンから400万ポンド(6億円)受けていると発言した。一方、労働党によると、労働党は上限を5千ポンド(75万円)とする案を出したが、5年間で25万ポンド(3750万円)を主張する保守党が交渉を打ち切ったのだという。

いずれにしても、2011年に諮問機関である「公人の倫理基準委員会(The Committee of Standards in Public Life)」が政治献金の上限を1万ポンド(150万円)とするよう提案した際に、労働組合の場合には、組合員が能動的に労働党に献金する場合は別だが、現在のように組合全体として政治献金する場合を認めなかった。つまり、ミリバンドの提案は、この問題をクリアーできることとなる。

ミリバンドは、「首相のクエスチョンタイム」で5千ポンド(75万円)を再び提案したが、キャメロン首相は、上限を低くすると、それを埋め合わせるために公的助成が増えると批判した。これには、労働党は、公的助成の増額を求めてはいないと反論している。

②下院議員の会社役員やコンサルタントへの就任を禁止し、副業にはその内容や金額の制限を設けることを提案した。これは、7月9日のミリバンドのスピーチでも触れたが、アメリカには上限があるという。なお、「就任」には、「新しく」という言葉をミリバンドはその提案でつけている。つまり、これまでに就いているものを止める必要はないことを示唆している。

これには、キャメロンは、これらはきちんと透明化されていると答えたのみだ。

ミリバンドは、これらの問いを今後総選挙まで継続的に問い続けていく考えだ。そして保守党はこれらの質問の答えに苦しんでいくこととなりそうだ。

しかし、ミリバンドの提案したことを実際に実行するのはそう簡単なことではない。まず、労働組合を納得させる必要があり、しかも大きく減少する収入をどうするか考えなければならない。もちろん党員を増やすというのは第一番目に考えなければならないことだろうが、それがうまくいかない場合には、収入に見合った政党、政治並びに選挙活動をしていくのか、もしくは公的助成を増やすのか。労働組合大手のGMBの書記長は、この改革で労働党に能動的に献金を払い込もうとする組合員は現在の1割に留まると示唆したが、かなり大きな影響がある。

いずれにしても、英国政治の改革が一歩動き出したのは確かなようだ。

プレスの新自主規制機関の段取り(Schedule for New Press Regulation)

3月18日に主要三党の間で合意されたプレスの新自主規制機関に関する勅許は、今年5月に出される予定である。

この勅許に関連した法は、以下の二つの法案に取り入れられた。いずれの法案も今回のプレスの自主規制には関係のないものであるが、たまたま上下両院で審議が最終段階に入っていたものである。

下院では、犯罪・裁判所法案が使われ、裁判所が新規制機関に加入していない新聞などのプレスの常軌を逸した行動に懲罰的賠償金を科す条項が入れられた。この法案そのものは既に上院の審議を一度終えており、下院で審議中であった。この条項を付け加えた法案は下院で3月18日に賛成多数で可決されており、上院に最後の修正のために送られた。

上院では、エンタープライズ・規制改革法案が使われた。この法案に「2013年3月1日以降に勅許で設けられた機関」については、勅許の中に定められた要件を満たさないと規定を変更できないことを明記した。この法案そのものは既に下院の審議を一度終えており、3月20日に上院を通過する。その後、下院に修正のために送られる。

以上からこれらの二法案は、来週にも法となる予定だ。その後、5月に枢密院に勅許案が提出され、女王の勅許が出されるという段取りである。

なお、プレスの自主規制機関に加入しないまま、もし被害者から訴えられるようなことがあれば、通常よりはるかに高額の懲罰的な賠償金を科される可能性があることは、日本では憲法上の問題となるかもしれない。しかし、英国は「国会主権」であり、日本の「国民主権」下での憲法の枠組みとは異なり、基本的に国会は、国会がふさわしいとみなす法を制定できる。

もちろん、今回の合意の内容が、欧州人権条約10条の表現の自由に反するという見解を持つ専門家もいるが、それが今回の合意を妨げるものとはなっていない。

一方、このプレスの自主規制機関のような極めてセンシティブな問題が政治的に急に決着が図られるということについて、納得のいかない人もいるかもしれない。しかし、これも上記の「国会主権」の産物の一つであり、国会で決定されれば、従わざるをえないという民主主義の基本原則に関連している。

英国の警察(Police Forces in the UK)

 

英国の警察はその構造がかなり複雑になっている。ウェストミンスターの英国政府が、イングランドとウェールズの警察官の採用方法について新しい方針を発表したようにこれらの地区の警察の責任を負っている。

スコットランドと北アイルランドでは、分権政府が警察の責任を負う。スコットランドでは、警察は2013年4月1日から一つの管区となる。これまでの8警察管区と犯罪・薬物取締機関をまとめたものである。北アイルランドも一管区である。

一方、イングランドとウェールズには43の警察管区がある。これらはいずれも基本的に独立しており、この43の管区のうち、ロンドンのロンドン警視庁とシティ・オブ・ロンドン警察は他の41の警察管区と異なる扱いを受けている。

昨年11月15日に行われた警察・犯罪コミッショナーの選挙は、この41の警察管区で行われた。ロンドン管区では、ロンドン市長がこのコミッショナーとなることになっており、昨年1月にその手続きがすんでいる。ロンドンの中にあるシティ・オブ・ロンドンでは、市民議会がその役割を果たす。

それぞれの警察にはChief Constableと呼ばれるトップがいる。なお、上記のロンドン警視庁とシティ・オブ・ロンドン警察のトップはCommissionerと呼ばれる。

スコットランド独立の国民投票の文言(Wording of Scottish Referendum)

スコットランドの独立に関するスコットランドの住民投票(レファレンダム)が2014年の秋に行われることになっている。その際の住民投票に使う文言について選挙委員会が検討してきた。

選挙委員会は、スコットランド政府の提案したスコットランド独立の国民投票の文言は、投票者にYesと言わせる可能性が高いとして、変更するよう求めた。

スコットランド政府の提案は以下の通りである。

“Do you agree that Scotland should be an independent country?”

そして選挙委員会の示唆した文言は、以下の通りである。

“Should Scotland be an independent country?”

スコットランド政府はこの提案を受け入れたが、最終的にはスコットランド議会で決定される。

なお、スコットランド政府の当初の提案は、1975年のEECの国民投票で使われた文言の体裁によく似ている。

1975年のEEC国民投票の文言は、以下の通りである。

“Do you think that the United Kingdom should remain part of the European Community (the Common Market)?”

英国は1973年の1月1日からEECに加入していたので、このような文言になっている。この投票では、投票率64.5%で3分の2(67.2%)がYesと答えた。

警察の採用改善案(Police Recruitment Change Plan)

今日、公共サービスのほとんどすべてが変わらねばならない時代である。それは警察の世界でも同じで、政府の発表した採用改善案は、警察にも変化を強いる一つの手段だ。

警察は2010年から2015年の間に実質20%の財政カットを求められており、それに対応するよう動いている。警察官・スタッフの数の大幅削減、警察の地区駐在所などの移動、廃止さらには、警察の仕事をできるだけ外注するなど多様な動きがある。

その中で、警察官の採用方法の変更も発表された。この変更は、警察の人種的多様化を進め、多くの異なった能力・技術を警察に導入することを念頭に置かれている。

具体的には、以下の三つの制度の導入である。

①大学卒業者や警察内部の優秀な人たち80名程度の特急昇進制度
これまで、警察官は採用されると、巡査レベルで2年間過ごすことになっていた。これは、ロンドン警視庁など大卒採用制度のあるところでも同様であった。この制度を変えて、採用後3年で警部(Inspector)に昇進する仕組みとする。この制度の導入で、それぞれの警察管区のトップである本部長クラス(Chief Constable)に到達するのにこれまで25年間程度かかっていたのを10年から15年で可能にしたい考えだ。

②警察管区トップへ外国人の任命を可能とする
警察官には英国籍を持つ者しかなれないことになっていたが、これを変更し、本部長に外国人を任命できるようにする。しかし、その対象者は、英国警察の伝統である「住民の合意」による警察の考え方に基づいた警察制度を持つオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカに限られる。

③特に能力のあると判断された人たちを警視レベルに採用する制度
軍や諜報機関、さらにはそれ以外の分野で特に優秀とされる人を採用し、15か月のトレーニングの後に警視(Superintendent)とする仕組み。

多くの不祥事が起きている警察内部の文化を変えることは必要だろう。しかし警察の幹部に経験の乏しい人が就くということになれば、かえって逆効果になる可能性もあるように思われる。特に危機的な状況に対応するにはかなりの経験が必要だろうからだ。

警察コミッショナー選挙の価値?(Police Commissioners’ Elections:Any Value?)

11月15日(木)に行われる警察・犯罪コミッショナー(PCC)の選挙の投票率も英国の賭け屋、ブックメーカーは扱っている。驚くことに17%以上と17%より下とで、それぞれの賭け率をつけている。イングランドとウェールズの41地区で行われる新しい選挙の投票率が17%前後の見通しとは!?

PCCは、それぞれの警察管区の警察行政の重点方針と予算を決め、それぞれの本部長を雇い、解雇できる権限を与えられる。

11月2日にはキャメロン首相がこの選挙のキャンペーンに出た。キャメロン首相は、新しい制度が受け入れられるまでには時間がかかる、その内に有権者も、それぞれの警察管区のコミッショナーが選挙で選ばれることの意味が分かるようになると述べたが、それは一体いつのことであろうか?

主要政党には投票率が20%を越えると見ている政党はない。大臣たちの中には、もしかすると10%に近いかもしれないと心配する声もあるという。それで7500万ポンド(100億円)の選挙費用が正当化されるのであろうか?

この制度は、保守党のマニフェストに含まれていたものである。地元の人々の声がより警察行政に反映させられるようにすることが狙いであったが、有権者が関心を持たないのではどうしようもない。むしろ、住民の関心が少ない中では、選ばれたコミッショナーによる警察行政の政治化や干渉が起きるのではないか。

必ずしも必要のない制度を、しっかりとした確信を持つことなく設けるのは、貴重なお金の無駄遣いのように思える。

道州制への疑問(Is Devolution that Good?)

日本では多くの政党が道州制の導入をマニフェストに入れる考えのようだ。しかし、道州制は本当にそんなにいいモノだろうか?

英国では、ブレア労働党政権でスコットランドとウェールズの地方分権を行った。1997年に住民投票を行い、それぞれの議会が開かれたのは1999年からである。スコットランドは、もともと独立の機運が強く、スコットランド人としてのアイデンティティが強いため、この地方分権は、当然の成り行きと見られた。むしろこの地方分権は、独立の機運が強くなりすぎるのを防ぐための一種のガス抜きと考えられた。ウェールズでもウェールズ人としての独自性が強く、ウェールズ語が英語と並んで公用語となっている。この11月15日に行われる新制度の警察・犯罪コミッショナーの選挙でも、既に印刷された投票用紙が英語だけだったために、すべてが廃棄されることとなった。大急ぎで英語とウェールズ語両方の入った投票用紙が準備されている。ウェールズは、分権実施後次第にその住民の支持を得ていったが、住民投票では、賛成50.3%、反対49.7%で、かろうじて賛成多数で分権に進むことになった。

ブレア労働党政権では、これをさらに進めて、人口の84%が住むイングランドの分権を図った。当時のプレスコット副首相がこれを促進し、まずは手始めにイングランドの東北地区で住民投票を行った。ところが、投票率44.7%でその内77.9%が反対し、住民の意思がはっきりした。このため、プレスコット副首相は予定していた他の住民投票を中止した。このような改革を行うには、現代では、住民投票で住民の意思を量る必要があるだろう。政治家や国家公務員、または学者の思いつきだけでことを進めるのは疑問があるように思われる。本当に住民がそういうシステムを求めているのか見極める必要がある。

日本の場合、最も大きな問題だと思われるのは、道州制を導入すれば日本はよくなるという発想だ。本当にそうなのだろうか?スコットランドは、スコットランド独立を謳って設立されたスコットランド国民党(SNP)が議会の過半数を握り、政権を担当している。第一首相のアレックス・サモンドが率いる、左寄りのSNP政権は、優れた手腕を発揮しているといわれ、高い評判を得ている(現在、独立後のEU加盟をめぐりウソを言ったという問題が出ているが)。SNPは2007年選挙後、少数政権を担当し、2011年に過半数を握る政権となった。そして2014年秋にはスコットランドの英国からの独立をめぐる住民投票を実施することになった。

ところが、スコットランドは1999年分権議会発足後既に13年経つが、これまで分権によるはっきりした経済的メリットが見られていないのである。スコットランドの課税権限には制限があるが、スコットランドは、中央政府から有利な補助金を受け、住民一人当たりの財政支出は、2010-11年で英国平均より13%高い。大学授業料は無料で、福祉関係費もイングランドより11%も高い。そのため、財政的にはかなり優遇されていると言える。しかし、未だに1980年代の景気後退で受けた大きな打撃から抜け切れていない。エディンバラを中心にした銀行などの金融セクターが伸びていたが、信用危機で、地元大手の二つの銀行が中央政府から救済されることとなり、他の地域と同様その成長も止まった。

スコットランドの分権がどのような経済的便益をもたらしたかについては幾つもの研究がある。ほとんどないか、まだその効果が表れていない、というのがこれらの結論である。それらの一つである下記の論文では、一般的に地方分権には、経済的な便益があると政府も国際機関も考えがちだが、実際的な証拠が乏しいと指摘している。

http://eprints.lse.ac.uk/33560/1/sercdp0062.pdf

スコットランドでもウェールズでも住民投票の際に使われた議論は、地方分権すれば、経済的な配当があるということだった。しかし、これは実現されていない。むしろ、ウェールズでは、議会の設けられたカーディフがよくなっただけで、以前より悪くなったと言われる。

日本の場合は道州制だが、道州制にすれば経済的便益があり、うまくいくと考えがちではないだろうか?道州制にしたとしても、これはあくまでも一つのツールであって、そのツールをいかに使って地域を発展させていくかは全く別の問題である。英語の表現にYou can lead a horse to water, but you can’t make it drink というものがあるが、道州制にしたとしても、その制度に対する住民の支持が乏しく、しかも地域をどのようにして発展させていくかの具体的なアイデアとそれを実行していくブルドーザーのようなリーダーがいなければ、逆効果であろう。かなりの手腕があると評価されているスコットランド内閣でも分権の経済的便益を上げるのに手こずっているのである。ウェールズの例で見られるように、道州制の結果で予測されるのは、既に繁栄している地域はますます栄え、そうでない地域は、さらに悪化する可能性があるということである。

一方、こういう改革で心しておかねばならないのは、そのコストである。実施にかかる費用と時間、その手続き、さらには行政上の混乱など多くの問題があろう。まずはその具体的な計画を作るだけでも相当の時間がかかる。中央と地方との役割分担、権限移譲のレベルなど簡単には片付かない問題のように思われる。当然ながら、中央から地方へ権限が移ることになれば、国家公務員の必要数が減る、さらに幾つかの県レベルの数が減ることになればその地方公務員の数も減ることになろう。これらの人員を解雇することになれば、その費用はかなりのものとなる。新たな役所や議会を建設するということになれば、その費用もかなりのものとなろう。その上海底資源の取り扱いなど相当細かな計画が必要だ。

いずれにしても、もし、道州制を本当に実施したいと考えているのであれば、現在の日本で行政区画の問題なく実施できると思われる北海道や沖縄に道州制で予定される権限などを委譲し、試行的に実施してみることが考えられるだろう。そこから学べることが多いかもしれない。英国でできていないことが日本でできる可能性はある。しかし、道州制を一種の特効薬のように考えるのは恐らく誤りだろうと思われる。

警察コミッショナー選挙から逃げる首相(Cameron Distances Himself from the PCC Elections)

11月15日に、警察・犯罪コミッショナーの初めての選挙がイングランドとウェールズの41の警察管区で行われる。このコミッショナーの制度は、警察活動がより地域住民の関心を反映し、警察のアカウンタビリティー(説明責任)を向上させることを目指して設けられた。警察管区ごとに公選で1人ずつ選ばれる。これまで警察を監視する役割を果たしてきた、管区ごとの警察委員会では不十分だという考え方に基づく。

コミッショナーには、それぞれの管区警察の目標を策定し、予算を決め、さらに管区警察の責任者であるチーフ・コンスタブルを任免する権限がある。なお、コミッショナーを監視する仕組みも設けられており、それは警察・犯罪委員会で、地方議員らで構成される。ロンドンは仕組みが他の地域と異なり、ロンドン市長がこのコミッショナーの役割を果たすことになっており、今年1月にすでにコミッショナーの制度に移行した。

この制度のアイデアは、保守党が2010年の総選挙のマニフェストで打ち出し、自民党との連立合意でも承認され、2011年9月に法制化された。特に大きな問題はないように見えたが、実は、政治家にとっては非常に深刻な問題が起きている。それは、住民の関心が非常に低いことだ。選挙委員会は、既に投票率は18.5%程度にとどまるかもしれないという見解を出しているが、10月の世論調査の結果でも、絶対に投票すると言う人はわずか15%しかいない。
(http://www.apccs.police.uk/fileUploads/PCC_election_polling_2012/APCC_PCC_questions_Ipsos_MORI_toplineresults_221012_FINAL.pdf)
いずれにしてもかなり低い投票率となる見通しである。投票率が低すぎると、この制度の正当性自体に疑いが出る。つまり、政治家にとっては、なぜそのような制度を推し進めたのかという疑問を突き付けられることになる。

こういう状況を見て、キャメロン首相は、この選挙に直接関わろうとしていない。むしろ対岸の火事のように振る舞っている気配がある。自分が関わっても、投票率の大きな上昇は望めず、むしろ逆に自分の責任を問われる可能性が高いためである。大失敗に終わった、指定地方自治体で市長制度を設けるかどうかの今年5月の住民投票でも同様の対応をしたが、これらは首相の責任放棄と言われても仕方がないだろう。

スコットランド国民投票実施合意(Edinburgh Agreement)

キャメロン英国首相とサモンド・スコットランド第一首相の間で、スコットランドの独立に関する国民投票を実施することが決まったが、スコットランド独立につながる結果が出る可能性は少ないと見られている。内容は以下のようである。

① 2014年年末までに実施
② 質問は、スコットランドが英国を離れるかどうかに関してYesかNoの一つだけで、英国の選挙委員会がその表現の妥当性について検証する
③ 投票できる有権者には16歳と17歳も含む
④ 中央政府が国全体の憲法問題に関する責任を持つ立場から、スコットランド議会にこの投票をする権限を与える。
⑤ どのような結果となろうとも、中央政府とスコットランド議会が協力してスコットランドの人々に最善となるよう努力する。

実施時期については、これまで中央政府は、2014年秋は遅すぎる、不透明な状態を長続きさせないためなるべく早く実施したいと主張してきたが、スコットランド側の主張に折れた形だ。2014年には、夏から秋にかけて、スポーツの英連邦大会がスコットランドであり、また、ゴルフのライダーカップも行われる。その上、かつてスコットランドの独立に大きな役割を果たしたバノックバーンの戦いの700周年にあたる。スコットランドの国民感情を掻き立てる効果を期待していると思われる。

質問の形については、スコットランド側は、質問を二つにして、独立Yes/Noの他に、大幅な分権に関する質問も付け加えることも検討していた。これは、いずれに転んでもスコットランドに有利と言う判断であった。しかし、中央政府側は、Yes/Noの質問だけを要求していた。

また、この国民投票にのみ16歳まで投票権を与えたのは、スコットランド側に若い人たちの方が、独立に賛成する傾向が強いと判断してのことだ。国民投票が2年先であることを考えると、現在の14歳以上が対象となるため、スコットランドの学校ではかなり「スコットランド独立」の機運が盛り上がる可能性がある。しかし、これは、約400万人の有権者に12万3千人を付け加えるだけだと言われ、しかも、これらの人たちが投票するには、有権者登録をしなければならない。若い人の低投票率の傾向を考えると、Yes票がわずか0.2%程度増えるぐらいの影響しかないと見られている。

いずれにしても、これまでの世論調査の結果からYes/Noの質問で、Yes票はせいぜい3分の1程度で、Noのほうがかなり優勢と見られている。