16歳投票権議論に見る政治の影響

イギリスの下院で、労働党下院議員が16歳に選挙投票権を認める提案を出したが、保守党下院議員のフィリバスター的な長い演説で採決にいたらず、事実上否決された

イギリスでは、現在、日本と同じ18歳に投票権を与えている。16歳投票制は、2014年のスコットランド独立住民投票の際、キャメロン保守党政権も認めて実施され、今では、スコットランド内の選挙にも採用されている(下院の選挙など、国全体の投票では18歳を維持している)。世界でもいくつかの国が採用している

労働党支持のイギリスの若者

イギリスでの投票年齢引き下げ提案には、政治的な背景を考慮しておく必要があろう。労働党はこれまでも一般に若者の支持する政党だったが、2017年6月の総選挙では、若者の支持が急増し、その投票率が大幅にアップ、しかも29歳以下の3分の2近くが労働党に投票したとされ、その結果、労働党が予想外に健闘した。労働党は、コービン党首が党首選に立候補して以来、党員が急増し、今や50万人以上の党員を擁し、西欧で最大の政党となっている。

自民党支持の日本の若者

一方、日本では、若者が自民党を支持する傾向がある。2017年10月の選挙で、NHKの行った投票所の出口調査によると、18-19歳は47%、20代は50%、30代は42%が自民党を支持し、それらより上の年代の自民党支持が30%台にとどまったのに比べ、大きな差があった。若者の支持で2位だった希望の党などの野党は、若者の支持を惹きつけられず、それぞれ10%台以下に留まった。これらの世代の第二次世界大戦や北朝鮮問題への捉え方の違いがその背景にあるように思われる。

投票年齢引き下げの政治的影響

結局、イギリスの場合、保守党下院議員が16歳投票制に反対するのは、新しく有権者となる150万人ほどの16-17歳の過半数が労働党に投票する可能性が極めて高く、保守党に不利だという判断があるためだ。

ただし、今回の保守党下院議員の16歳投票制反対は、かなり巧妙になされた。この提案に直接反対したのではなく、同じ日に議論された他の提案で長い演説をし、16歳投票制案を議論する時間をなくしたのである。現在の16歳は、2022年までに行われる次期総選挙には投票権を持つ。そのため、これらの若い有権者に保守党へ投票しない理由を与えることを避けようとしたのである。

16-17歳に投票権を与えるべきかどうかという理論的な考え方はともかく、このような政治的判断がその行方を大きく決めることとなる。

保守党に有利な選挙区区割り見直し

下院の議員定数を650から600とし、選挙区のサイズを均等化する選挙区区割り案で最も注目されていたイングランドとウェールズの区割り案が9月13日に発表された。北アイルランドは既に発表されており、スコットランドは10月になる。これらの案は、これから地元協議・意見採収等を行い、最終的に2018年10月1日までに決定される必要がある。

既に発表されている、イギリスの4つの地域別の議席数は以下のとおりである。

地域 現行制度 提案制度 増減
イングランド

533

501

-32

スコットランド

59

53

-6

ウェールズ

40

29

-11

北アイルランド

18

17

-1

合計

650

600

-50

イギリスには、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドと4つの区割り委員会があるが、全体で、法律で決められているように、2015年12月1日現在の有権者数で、イングランドのワイト島とスコットランドの1部を除き、平均有権者数74,679人の上下5%以内の有権者数とすることとなる。つまり、この枠内に当てはまるよう選挙区を構成していったわけである。基本的に、この作業は、既存の選挙区内の区(Ward)を維持するように行われた。

既に、この改正の結果予測は、2015年総選挙の結果を使って行われている。それによると、もし2015年総選挙が、この新しい区割りで行われていたとすれば、イングランドとウェールズで保守党は10議席失い、労働党は28議席減、さらに自民党は4議席失っていただろうとされる。なお、北アイルランドは地域政党ばかりである。スコットランドでは、2015年に保守党、労働党、自民党が1議席ずつ獲得しただけであり、地域政党のスコットランド国民党(SNP)が圧倒的な強さを示したが、区割り案が発表されても大勢にはそう大きな影響はないといえる。そのため、主要全国政党の議席数を「2015年の結果」と「もし2015年総選挙がこの新区割りで行われていた場合」と比較すると、以下のような推測ができる。

  2015年結果
(全650議席)
新区割り案適用
(全600議席)
保守党 330 320 -10
労働党 232 204 -28
自民党 8 4 -4

議席総数は600となるため、保守党のマジョリティ(保守党の議席から他の政党の総議席数を引いた数)は40となり、保守党は、現在よりもはるかに安定した政権運営ができることとなる。

これまでの経過

この議席削減・新選挙区区割り方針は、2010年・2015年総選挙の保守党マニフェストでうたわれ、キャメロン前首相が推進した。これは、自民党との連立政権交渉で自民党の有利となると思われた投票方法の変更(Alternative Voteと呼ばれる制度)を提案する国民投票を受け入れる代わりに、もしそれが導入されれば不利になると思われた保守党が、その失地を回復する目的で代わりに要求されたと理解されていた。そして具体的な区割り案もできた。しかし、2011年のAV国民投票で、それが否決され、さらに自民党の求めた上院の公選化も成し遂げられなかったために、自民党がこの選挙区区割り見直しに賛成しないことにしたため、この案は棚上げとなった。

元自民党党首で副首相だったニック・クレッグの回顧録によると、キャメロンは自民党が賛成しないと知らされ、怒髪天を衝いたという。2015年総選挙で、保守党が下院の過半数を制し、この改革が保守党独自の判断で実施できることとなった。

保守党がこれを実施したかったのは、労働党は都市部で強いが、小さな選挙区が多いのに対し、保守党は、郊外や地方で強く、大きな選挙区が多いためである。すなわち、都市部の選挙区が減り、しかも郊外の保守党の強い地域と合区されると保守党の勝つ可能性が高まる上、保守党の強い選挙区が比較的に増えるからである。

今後の見通し

労働党は、これはゲリマンダリングだと猛反発している。特に、イングランド北部など労働党の強い地域で人口が減っており、議席が多数減るなど、労働党への影響が大きい。保守党は有利となるが、保守党の下院議員の中には、選挙区が大きく変わる、選挙区が無くなり、選挙区替えを迫られるなど、この変更にハッピーでない人も少なくない。議席のなくなる議員を引退する議員の議席に優先的に割り振る、また、上院議員にするなどの対策が取られると見られるが、その効果がどうなるか見極めるにはもう少し時間がかかるだろう。

また、この新区割り案は、2015年12月1日現在の有権者登録に基づいている。それ以降、今年6月の国民投票までに約200万人が有権者登録をした。そのため、労働党は、これらの新規登録有権者を含めないのは、不公平だと主張する。しかし、新しい有権者データをもとに区割りを再び見直そうとすると、2020年に予定されている次期総選挙には間に合わないと見られている。さらに労働党は、経費削減を理由とした議員定数の削減は、イギリスのEU離脱で73の欧州議会議員のポストがなくなり、また、キャメロン前首相が保守党の上院議員を数多く任命したことと一貫しないと主張する。

一方、現在行われている労働党の党首選で当選確実と見られているコービン党首の支持者たちが、選挙区の大幅組み換えのために多くの選挙区で候補者選出作業が行われる必要があることから、反コービン下院議員を次期総選挙の候補者に選出しない格好の機会を与えられたのではないかと見る向きもある。ただし、67歳のコービン党首が、次期2020年総選挙の勝利よりも、その後のことのほうをより真剣に考えているとは想像しがたい。

今後の展開が俟たれる。

総選挙の可能性

6月23日の欧州連合(EU)国民投票でイギリスが離脱することになった後、労働党の内乱が勃発した。ベン影の外相が、コービン党首に党首として信任できないと言い、解任された後、影の内閣の閣僚が3分の2辞任し、その動きは、それ以下のポストにも広がる。この集団辞任はかなり前から計画されていたと言われるが、コービン党首への不信任案に230人の党所属下院議員のうち172名が賛成した原因の一つは、当時、保守党の次期党首・首相と目されていたボリス・ジョンソン政権下で総選挙が行われるのではないかという憶測が広まったことにある。つまり、もし総選挙があればコービン党首では労働党が惨敗するのではないかという恐れだった。

メイ首相が7月13日にも誕生することとなり、労働党が分裂状態の中で、もし下院の解散・総選挙があれば、新首相をいただき、保守党が統一されているような中では、保守党が勝つと見られている。そのため、メイが下院を解散するかどうかが政治関係者の間で大きな話題になっている。

イギリスでは、2015年に総選挙が行われ、次の総選挙は2020年に予定されている。2011年議会任期固定法で、首相には解散権がなくなった。そう信じていた人たちが多かったが、実際には、首相が望めば解散できるようだ。

2011年議会任期固定法は、2010年の総選挙で、保守党が過半数を獲得できず、第3党の自民党と連立を組んだことに始まる。自民党は、第2党の労働党よりも左の多くの政策を持ち、その政権が長続きするか危ぶまれた。そこでキャメロン首相は、その政権が容易に崩壊しないようにするためこの法律を設けたのである。

これでは、定められた時期以外の解散総選挙は、基本的に2つの場合に限られることになっている。

  1. 全下院議員議席の3分の2が合意した場合。すなわち650下院議員のうち、434議員が解散に賛成した場合。当時保守党306議席、自民党57議席であったため、2党合わせても363議席だった。
  2. 政権が単純過半数で不信任され、14日の期間内に信任される政権ができない場合。

2015年総選挙で第2党の労働党は232議席を獲得した。下院全議席の3分の1以上あり、労働党下院議員が総選挙を望まなければ、第1の条件は使えない。しかし、ここで重要なのは第2条件である。

保守党は330議席あり、過半数を超えており、今のところ必ずしも不信任の生まれる状況はない。しかし、2011年法では、「不信任」の定義がなく、イギリスのEU離脱の関係で様々なケースが生まれる可能性が指摘されている(元下院事務総長の解説)。技術上、政府が自らの不信任案を出して可決し、2週間経過すれば、解散総選挙ができるという見解もある。なお、この点については、法案審議中にも議論があった(例えば上院での議論)。このような方法をとることは、政治的に容易ではないが、不可能ではないだろう。

今回は、イギリスのEUからの離脱にまつわる新内閣の誕生である。そのため、国民の理解の得られる理由付けが可能かもしれない。

それでも、解散まで2週間、そして総選挙に5週間と、少なくとも7週間の政治的な空白を作ることは、EU離脱のショックの中にあるイギリスの現在の政治、経済的状況では考えにくく、メイ新首相がただちに総選挙を実施するということはないように思える。

イングランドの分権?

スコットランドの独立住民投票の結果、独立賛成が45%、反対が55%となり、スコットランドはUK(連合王国)に残ることとなった。ただし、918日の住民投票直前になって、キャメロン首相らが、独立反対の結果の場合にはスコットランドに権限を大幅に委譲することを約束したため、UKの他の地域(連合王国の「国」)、つまり、イングランド、ウェールズ、そして北アイルランドをどうするかが課題となった。

ウェールズでは、1997年の分権住民投票で非常にわずかな差で分権賛成が上回った経緯がある。ウェールズ独立を標榜するプライド・カムリという政党があるが、スコットランドに比べ、ウェールズに独立の機運は乏しい。ウェールズでスコットランド独立投票の後に行われた世論調査によると、独立賛成はわずか3%である。それでも、中央政府からの更なる権限移譲を求める人は49%に上っている。ただし、この権限移譲の方法には議論がある。

北アイルランドでは、法人税の権限の分権を求める声があるが、北アイルランド政府内で、財政削減下の福祉改革に対立がある。そのため、既に与えられた権限をきちんと行使できないのに、さらに権限の分権を求めるのはおかしいと北アイルランド政府ロビンソン首席大臣は主張している。これには、北アイルランドでも地域の帰属(イギリスかアイルランドか)を巡る住民投票を実施する機運が生まれることを警戒していることが背景にある。

さて、ここで最も重要なのは、イングランドの扱いである。イングランドは、下表のように人口が他の地域と比べて格段に多い。

2011年国勢調査結果

9月18日に行われたスコットランド独立住民投票の結果のわかった19日朝、キャメロン首相は、スコットランドがより多くの権限を与えられることから、その他の地域にもそれに見合うような対応が必要だと主張した。そして、下院で、イングランドの政策にイングランド以外から選出された議員が投票できるような現状(この問題を指摘した下院議員の選挙区名から「ウェスト・ロージアン問題」と呼ばれる)を改革し、イングランドの問題にはそれ以外の地域選出の議員を除く意図を明らかにした。これをスコットランドへの分権と同時に進めると発言したことから大きな騒ぎとなった。

スコットランドの分権では、主要三党首、キャメロン首相、ミリバンド労働党党首、クレッグ副首相が実施を約束した予定表によると、今年11月末までに白書を発表し、来年1月に法案を提出、そして5月に予定される総選挙の後にその法制化をする予定だ。

ところが、もしそれをイングランドの問題と同時に進めようとすれば、スコットランドの分権が予定通りに進まないことになる可能性があった。イングランドの改革案には労働党が反対するからである。労働党は、下表のようにイングランドで保守党に議席数で大きく差をつけられている。次期総選挙で労働党が政権に就いたとしても、もしイングランドの事案でほかの地域からの下院議員が除外されることとなると、政府の政策の実施が極めて難しくなる。

2010年総選挙地域別獲得議席数 (北アイルランドは地域政党のみのため省略)

これはイギリスの政治体制のひずみの問題ともいえる。特に、NHSを含む健康医療、教育、そして財政関連などイングランドだけに限定された分野をウェストミンスターの中央政府が担当しているからだ。

なお、イングランド分権政府という考えもありうるが、全人口の84%を占めるイングランド単独の分権政府を設けるのは、極めて非効率である。一方、ブレア労働党政権で、2004114日にイングランド北東部の分権政府案の住民投票を行ったことがある。これは47.7%の投票率でなんと77.9%が反対した。そのため、担当のプレスコット副首相が、予定していた、それ以外の住民投票を取りやめた。

キャメロン首相の発表に対して、スコットランドのサモンド首席大臣は、スコットランドの人たち、特に、キャメロン首相らの約束を信じて独立反対に投票した人たちが騙されたと批判した。

これらの批判を受け、保守党の党利党略と思われた、スコットランドの分権とイングランド事案の投票改革を連結する方針は変更され、それぞれ別個に対応することとなった。イングランド事案の投票改革には、かなり時間がかかると見られており、次の総選挙の大きな課題の一つとなると見られている。

なお、有権者の多くは、イングランドの事案に他の地域選出の議員が投票するのはおかしいと感じているが、このような「憲法問題」にあまり注意を払っていない。そのため、抜本的な改革につながる可能性は少ないように思える。

スコットランドの反イングランド感情

スコットランド独立の住民投票まであと100日となった。9月の住民投票に備え、スコットランド国民党(SNP)をはじめとする独立賛成側、そして反対側も積極的な運動を進めている。

この中、スコットランドの本屋には「バノックバーン」、もしくは「1314」という数字が入った本がたくさん並んでいるそうだ。

これは、1314年の「バノックバーンの戦い」のことで、スコットランドがイングランドを破った戦いである。この戦いでスコットランドは事実上の独立を確保し、完全独立に向けて大きく前進した重要な戦いである。

この戦いに関する本は、2014年に入って少なくとも8冊出ている。これらの本は、人口が530万のスコットランドだけではなく、それ以外のイギリスや他の英語圏をも対象にしたものであろうが、それでもかなり多い。 

2012年にスコットランド政府がこの住民投票を2014年に行うとしたときから、この年がちょうどバノックバーンの戦いの700周年になると指摘されていた。つまりスコットランドの愛国心を掻き立てるにはふさわしい年と考えられたためである。

ただし、スコットランドの愛国心が高まることは、イングランドを敵としたものであり、イギリス全体にとっては望ましいものではない。イングランドでは、スコットランド人はかなり好かれているが、スコットランドでは今でも反イングランド感情がある。

イギリスはその正式な名前The United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandが示唆するように連合王国である。つまりイングランド、スコットランド、ウェールズそして北アイルランドの「4か国」の連合体で、例えば、サッカーのワールドカップの予選にはイギリスのそれぞれの「国」からチームが出場する。もし予選に勝ち残れば、出場32か国のうち4か国がイギリスからという可能性もある。

歴史的、人種的な背景が絡み合っており、その感情にはかなり複雑なものがあるが、反イングランド感情の高まりには少なからず問題がある。スコットランド内でスコットランド独立に反対しにくい雰囲気ができており、一般の人々は口をつぐむ傾向が顕著になっている。 

世論調査によれば、今のところ賛成4割、反対6割のようである。このまま推移すれば、住民投票の結果は、独立反対ということになる。キャメロン首相らは、独立賛成熱を沈静化するため、スコットランド分権議会にこれまでより大幅に権限を委譲すると表明しており、いずれにしてもスコットランドへの分権は進むだろう。 

一方、スコットランド政府の首席大臣であるサモンドは、SNPのリーダーであり、この住民投票は一世代に一度のことだと言っているが、今回の住民投票で独立が否定されても、将来再び住民投票の要求が出てくる可能性は強い。

今回の住民投票が可能になった最大の原因は、2011年のスコットランド議会選挙で、SNP129議席のうち69議席を占め、過半数を握ったことだ。もともとこのようなことが起きないようブレア政権で1998年に小選挙区と比例代表を合わせた小選挙区比例代表併用制を採用した。ところが、2010年総選挙でそれまで政権を担当した労働党の支持が下落して政権を失い、その上、自民党が保守党と連立を組んだため、自民党の支持が大きく凋落した。労働党と自民党の支持が低迷する中、SNP2011年に大幅に議席を伸ばしたのである。

このような想定外のことが起きることなしに、SNPが過半数、もしくはそれに極めて近い議席数を獲得できる可能性はそう大きくない。緑の党など小さな政党がSNP2010年の住民投票提案に賛成したことを考えれば、必ずしもSNPで単独過半数を得る必要はないだろう。いずれにしてももしそのようなことが起きれば、スコットランド政府から再び住民投票要求が出てくる可能性がある。

9月の住民投票の結果がどうなろうとも、スコットランドの反イングランド感情は残ることになる。700年前のことを多くの人が覚えており、子孫へと受け継がれていくからだ。

上院議員任命を要求するUKIP

イギリスの議会には上院(貴族院)と下院(庶民院)の二院がある。

下院は、18歳以上の有権者による公選で選ばれる。小選挙区制であり、全国650に分かれた選挙区で最高得票を得た人が一人ずつ選ばれる。

一方、上院は基本的に任命制である。3つのカテゴリーがあり、92名の世襲議員、26名のイングランド国教会主教、そして議員の大部分を占めるのは一代貴族である。世襲議員は、1999年にそのほとんどが上院議員職を失い、残った世襲議員は、世襲議員間の選挙で選ばれている。それぞれの政党に所属する議員と、クロスベンチャーと呼ばれる中立議員、その他がいる。 

上院議員の構成

政党/グループ 一代貴族 世襲貴族 イングランド国教会 合計
主教

0

0

26

26

保守党

171

49

 

220

中立議員

151

30

 

181

労働党

214

4

 

218

自民党

94

4

 

98

無所属

20

0

 

20

その他

14

1

 

15

合計

664

88

26

778

201467日現在 なお、これ以外に様々な事由で除外されている議員がいる。

一代貴族は1958年に始まった制度であるが、首相が選任し、女王が任命する。2000年に上院議員任命委員会が設けられ、中立議員を首相に推薦することとなった。また、この委員会が3主要政党に推薦された候補者の適否を審査する。 

2010年の総選挙後、それまでの13年間の労働党政権下で労働党所属議員が増えたために、新しく政権についた保守党と自民党の議員の数を大きく増やした。2010年の保守党と自民党の連立合意書では、任命制の上院を選挙制の上院に改革することのほか、当面、上院の任命は2010年の総選挙の政党の得票割合を反映したものとすることとした。このうち、上院の改革は失敗した。

ところが、イギリス独立党(UKIP)が選挙の得票の割合に応じてUKIP所属の上院議員を任命すべきだと主張している2011年のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの報告書によると、その得票割合で計算するとUKIPはさらに23人の上院議員の枠があることになるという。UKIPは保守党所属の元上院議員だった3名が党所属の上院議員として存在するが、その得票割合に対して数が少なすぎるという。首相側は、2010年以降、緑の党のロンドン市議会議員を上院議員に任命したが、今も小政党の問題については検討中だと返答している。

この問題は、次期総選挙後に大きな課題となるように思われる。というのは、イギリスでは、得票率が5%未満は供託金没収となる。つまり、5%未満の場合は、無視してもそう大きな議論にはならないかもしれないが、5%以上になるとそれなりの正当性を持ち始めるように思われる。

UKIP2010年総選挙で3.1%の得票だった。今年5月の欧州議会議員選挙ではUKIPの得票率は主要3政党を上回りトップだった。欧州議会議員選挙はイギリスの国政を決める下院議員選挙とは異なるため、必ずしも比較はできないが、来年の総選挙では数議席獲得する可能性があり、5%以上の得票をすると思われる。

もちろんキャメロン首相にとっては、現在の政治環境の中で、UKIP上院議員の任命は論外であろう。UKIPの正当性をさらに高めることになりかねないからである。

スペシャル・アドバイザーの変遷(The Transition of Special Advisers)

キャメロン政権のスペシャル・アドバイザーの数は政府の発表によると98名である。スペシャル・アドバイザーは、英国ではよくスパッズ(SpAds)と呼ばれるが、政治任用の臨時国家公務員で、大臣をサポートしながら、政治的中立を要求される一般の国家公務員の行えないような政治的な役割を担当する。

給与的には、首相に直接仕えるようなトップ級の年収14万ポンド(2200万円:£1=¥158)から3万ポンド(470万円)程度までばらつきがある。

キャメロン首相は、その職に就く前から先のブラウン労働党政権よりスペシャル・アドバイザーの数を減らすと約束してきた。また、連立合意書で、その数には制限を設けると謳ったが、これらの約束を守っていない。また、スペシャル・アドバイザーへの給与総額がかなり増えている。

財政削減で国家公務員の数が減っている中、2012-13年には前年度の85名から98名に大きく増え、その給与総額は620万ポンド(9億8千万円)から720万ポンド(11億4千万円)へと16%アップしている。

この原因は、自民党がスペシャル・アドバイザーの大幅増員を求めたことにある。保守党の単独政権ならば数の制限は守られたであろうが、連立政権を保守党と組む自民党が、政府の中で起きていることを知るには自党のスペシャル・アドバイザーの数を増やすことが必要だと主張したためだ。大臣などの役職は下院の議席数で割り当てられるため数が限られている。

自民党は、政権に参画したために、野党に配分される公費の「ショートマネー」がなくなり大きな痛手を受けた。また、次期選挙に必要なスタッフを確保しておくためにはスペシャル・アドバイザーとして保っておくことが最も手早い方法である。いずれにしても下院議員の数に比べて自民党のスペシャル・アドバイザーの数が多い。

スペシャル・アドバイザーは基本的にそれぞれの省庁の大臣の責任で雇う(そのルールは大臣規範3.2参照)。そのため、大臣がその職を離れればそのスペシャル・アドバイザーは同時にその職を離れることになるが、次の大臣が引き継ぐ場合や、中には専門的知識のために党派を超えて継続する人もいる。

なお、このスペシャル・アドバイザーの枠組みで対応しにくい「専門家」を雇う制度が昨年設けられた。これは職階でいうと課長級のスタッフを期限付きで雇う仕組みである。これは、スペシャル・アドバイザーの数を増やしにくいための裏口ルートだとして批判が強い(参照)。

これらのスペシャル・アドバイザーが中立であるべき行政を汚染していると考える人が多い。ブラウン前首相の下でスペシャル・アドバイザーを務めたダミエン・マクブライドの例が記憶に新しい。

もともとこのスペシャル・アドバイザーには、ブレア元首相の下で広報局長だったアラスター・キャンベルやキャメロン首相のスティーブ・ヒルトンなど、権限や性格で突出した人たちのイメージがある。BBCの人気政治コメディ「真っただ中(The Thick of it)」でもこれらの人物のイメージにならった人物が登場した。

最近の研究によれば、スペシャル・アドバイザー像がかなり変わってきている(これはUCLの憲法部門の1979年以来の分析で、来年夏に刊行予定)。50代の人が大きく減り、平均年齢が31歳と下がってきている。

これから見ると、かつてイメージのあったような政治的に強引な介入をする役割から単なる大臣のサポートへと重点が移りつつあるようだ。また、目立つ人が減っている。アメリカで9・11が起きた時に「悪いニュースを葬るいい機会だ」とのEメールを送って顰蹙を買ったスペシャル・アドバイザーもいたが、全体的に小粒になってきているようだ。

ただし、スペシャル・アドバイザーを管理監督するのはそれぞれの大臣であり、大臣の管理運営能力を高めることは必要だ。ハント健康相は、文化相時代に自分のスペシャル・アドバイザーをそのニューズ・インターナショナルの幹部との関係を巡って辞めさせた(参照)。トカゲのしっぽ切りのように見えたが、大臣のスペシャル・アドバイザーの管理は重要である。

下院議員の歳費アップ提案(A Proposal to Raise MPs’ Pay)

下院議員の年俸を現在の₤66,396(約1千万円:₤1=150円)から2015年から₤74,000(1千百万円)に上げる提案がなされた。これは、政府と議会から独立した機関である独立議会倫理基準局(Ipsa)の提案である。2009年に発覚した議員経費乱用問題で、議会の担当部門がその役割を十分果たしていなかったことから、Ipsaは独立した組織とされ、しかも下院議員の歳費を定める役割も果たすことになった。歳費に関する権限が2011年5月、年金は同年11月にIpsaに渡った。なお。上院議員には歳費はなく、日当である。

Ipsa提案の概要

・2015年5月に予定されている総選挙後に下院議員の歳費を₤74,000とする。それ以降、経済全体の平均収入のインデックスに従って決まる。
・国家公務員並みに年金を引き下げる。
・議員を辞めた後の調整費(Resettlement Payments)を廃止し、落選した場合のみに解雇手当を支給する。
・ビジネス経費とそれ以外の経費を区別し、支出基準や項目を厳しくする。

さらに議員に年間報告書を発行するよう提案した。

英国ではインフレが2%台であるが、国家公務員の給与は年に1%アップまでと凍結されており、下院議員の給与もそれに横並びとなっている。ところが、Ipsaが2年近く先ではあるが、2015年春から下院議員の給与を大幅に上げることとしたことから、この提案が「政治的な問題」となった。

政治家にとっては、国家公務員給与を凍結し、また、民間では給与カットを受けている人も少なくない状態で、しかも総選挙からそう遠くない時期に下院議員の給与の大幅アップを決めるのはまずい、という判断がある。引退・落選議員に支払う補助金や、議員の経費の削減、さらに年金の削減が伴うが、全体からすれば支出が₤500,000(7500万円)増える。

そのため、主要三党の党首のいずれもがそのアップに反対した。問題は、政治家がその給与に関与できないように独立機関を設けたのにもかかわらず、政治家がその提案に反対するという状態になっていることだ。

Ipsaの判断の背景

Ipsaの判断の背景には、英国の下院議員の歳費が他の主要国の国会議員の歳費よりかなり少ないことがある。また、英国内の同等と思われる職業の給与水準との比較もある。

これまで、特に諸外国と比べて低いため、大幅に上げる提案が出るたびに、その時の首相がそれに反対し、その上昇率を抑える代わりに、議員の経費の枠と額を増やしていた。それが議員の経費乱用問題を招いた大きな要因である。

この過去からの「遺産」を考えると、行わねばならないことは、議員の歳費を上げるとともに、それ以外の経費の枠を削り、整理することである。Ipsaの案はそれを反映している(http://parliamentarystandards.org.uk/payandpensions/Documents/9.%20MPs%27%20Pay%20and%20Pensions%20-%20A%20New%20Package%20-%20July%202013.pdf)。

実際に、英国の下院議員の歳費の額は、世界ではかなり低い。このIpsaの報告書では、2013年7月2日現在の数字が上げられているが、主な国は以下の通りである。

 

国名 金額
スペイン ₤28,969(435万円)
フランス ₤56,815U(852万円)
英国 ₤66,396(996万円)
スウェーデン ₤69,017(1035万円)
米国 ₤114,660(1720万円)
オーストラリア ₤117,805(1767万円)
イタリア ₤120,546(1808万円)

なお、上記の報告書では触れられていないが、他のメディアでは、Ipsaの出所として日本は2012年現在、₤167,784(2517万円)とされている。

なぜこの緊縮財政の時に大幅アップをしなければならないのかについては、上記の報告書でも触れているが、タイミングを待っていると、これまでの30年間と同じことの繰り返しとなってしまうと主張している。そして、議会の途中で大幅アップは望ましくないが、次の総選挙後から新しくスタートすべきだとしている。そして長期的な案を出すようにしたという。

Ipsaの言っていることはかなり筋が通っているように思える。しかし、今までのところ国民の多くは、このアップに反対のようだ。

なぜIpsaなのか

ここでもう一度考える必要があるように思えるのは、なぜIpsaが必要なのか、ということである。多くのお金をかけて議員の経費を細かく査定する必要がほんとうにあるのだろうか?細かなお役所仕事をする組織を新たに設けただけではないのか?問題に直面した政治家たちが、その場をやり過ごすために新たな組織を設けてきちんと対応したように振る舞うのは常套手段である。Ipsaは設けられて日が浅いが、それに本当の価値があるのか見直す必要があるように思われる。

大きく変わった政治の構図(A Game Changer in British Politics)

英語にGame changerという言葉がある。これは、それまでの状況を大きく変える出来事や行動を指すが、7月9日のエド・ミリバンドの労働党と労働組合の関係を変える改革案は、まさにこの言葉通りの意味があったようだ。

7月10日(水曜日)の「首相のクエスチョンタイム」は、まさにそれがはっきりと示された場であった。最初から、保守党と労働党議員席がたいへん騒々しく、これほど騒々しいのは久しぶりだという。BBCの政治部長ニック・ロビンソンによると、中にいては、何を言っているか聞き取れなかったそうだ。テレビ中継のためのマイクのお蔭でテレビで聞き取れる音を集められたと言っていた。さらにスカイニュースでは、キャメロン首相がわずか数列後ろの保守党下院議員の発言を聞き取るために身体を大きく斜めに傾けている光景が映し出された。

この場では、先週の「首相のクエスチョンタイム」で優位だったキャメロン首相が、守勢に回った。

労働組合の労働党候補者選出関与問題が、一挙に過去の問題となってしまったようだ。キャメロン首相が懸命に、労働党は労働組合のお金に頼っている、労働組合はその影響力をその資金力で買っていると訴えたが、もうこれらの問題は、過ぎ去った問題のように感じられた。

一方、ミリバンドは、一週間前と違う人のように見えた。余裕を持ってキャメロン首相を攻撃した。

ミリバンドは、保守党がヘッジファンドからどれだけ政治献金を受けているか質問した。それに答えようとしないキャメロンに、ミリバンドは、それは2500万ポンド(37億5千万円)だと自ら答え、ヘッジファンドに財相が与えた減税額は、1億4500万ポンド(217億5千万円)だと付け加えた。

ミリバンドは、労働党に関係メンバーとして献金している労働組合員、すなわち普通の人は、1週間に6ペンス(9円)出していると言い、保守党の大口献金者に頼る体質を、少数の百万長者に所有されている党と攻撃した。

ミリバンドの提案したのは、以下のようなことだ。

①政治献金の上限を設けること。実は、これまで主要政党間で交渉されてきたが、保守党によると、労働党が労働組合からの献金をまとめて受けているのでこれに反対したという。キャメロン首相は、「首相のクエスチョンタイム」で、労働党は、労働組合のユナイトから800万ポンド(12億円)、GMBから400万ポンド(6億円)、ユニゾンから400万ポンド(6億円)受けていると発言した。一方、労働党によると、労働党は上限を5千ポンド(75万円)とする案を出したが、5年間で25万ポンド(3750万円)を主張する保守党が交渉を打ち切ったのだという。

いずれにしても、2011年に諮問機関である「公人の倫理基準委員会(The Committee of Standards in Public Life)」が政治献金の上限を1万ポンド(150万円)とするよう提案した際に、労働組合の場合には、組合員が能動的に労働党に献金する場合は別だが、現在のように組合全体として政治献金する場合を認めなかった。つまり、ミリバンドの提案は、この問題をクリアーできることとなる。

ミリバンドは、「首相のクエスチョンタイム」で5千ポンド(75万円)を再び提案したが、キャメロン首相は、上限を低くすると、それを埋め合わせるために公的助成が増えると批判した。これには、労働党は、公的助成の増額を求めてはいないと反論している。

②下院議員の会社役員やコンサルタントへの就任を禁止し、副業にはその内容や金額の制限を設けることを提案した。これは、7月9日のミリバンドのスピーチでも触れたが、アメリカには上限があるという。なお、「就任」には、「新しく」という言葉をミリバンドはその提案でつけている。つまり、これまでに就いているものを止める必要はないことを示唆している。

これには、キャメロンは、これらはきちんと透明化されていると答えたのみだ。

ミリバンドは、これらの問いを今後総選挙まで継続的に問い続けていく考えだ。そして保守党はこれらの質問の答えに苦しんでいくこととなりそうだ。

しかし、ミリバンドの提案したことを実際に実行するのはそう簡単なことではない。まず、労働組合を納得させる必要があり、しかも大きく減少する収入をどうするか考えなければならない。もちろん党員を増やすというのは第一番目に考えなければならないことだろうが、それがうまくいかない場合には、収入に見合った政党、政治並びに選挙活動をしていくのか、もしくは公的助成を増やすのか。労働組合大手のGMBの書記長は、この改革で労働党に能動的に献金を払い込もうとする組合員は現在の1割に留まると示唆したが、かなり大きな影響がある。

いずれにしても、英国政治の改革が一歩動き出したのは確かなようだ。

プレスの新自主規制機関の段取り(Schedule for New Press Regulation)

3月18日に主要三党の間で合意されたプレスの新自主規制機関に関する勅許は、今年5月に出される予定である。

この勅許に関連した法は、以下の二つの法案に取り入れられた。いずれの法案も今回のプレスの自主規制には関係のないものであるが、たまたま上下両院で審議が最終段階に入っていたものである。

下院では、犯罪・裁判所法案が使われ、裁判所が新規制機関に加入していない新聞などのプレスの常軌を逸した行動に懲罰的賠償金を科す条項が入れられた。この法案そのものは既に上院の審議を一度終えており、下院で審議中であった。この条項を付け加えた法案は下院で3月18日に賛成多数で可決されており、上院に最後の修正のために送られた。

上院では、エンタープライズ・規制改革法案が使われた。この法案に「2013年3月1日以降に勅許で設けられた機関」については、勅許の中に定められた要件を満たさないと規定を変更できないことを明記した。この法案そのものは既に下院の審議を一度終えており、3月20日に上院を通過する。その後、下院に修正のために送られる。

以上からこれらの二法案は、来週にも法となる予定だ。その後、5月に枢密院に勅許案が提出され、女王の勅許が出されるという段取りである。

なお、プレスの自主規制機関に加入しないまま、もし被害者から訴えられるようなことがあれば、通常よりはるかに高額の懲罰的な賠償金を科される可能性があることは、日本では憲法上の問題となるかもしれない。しかし、英国は「国会主権」であり、日本の「国民主権」下での憲法の枠組みとは異なり、基本的に国会は、国会がふさわしいとみなす法を制定できる。

もちろん、今回の合意の内容が、欧州人権条約10条の表現の自由に反するという見解を持つ専門家もいるが、それが今回の合意を妨げるものとはなっていない。

一方、このプレスの自主規制機関のような極めてセンシティブな問題が政治的に急に決着が図られるということについて、納得のいかない人もいるかもしれない。しかし、これも上記の「国会主権」の産物の一つであり、国会で決定されれば、従わざるをえないという民主主義の基本原則に関連している。