英国民の王室への支持の意味

昨年9月にエリザベス女王が亡くなり、その長男チャールズ国王が跡を継いだ。拙稿の英国王室の将来でも触れたように若い世代と高年齢の世代では、王室を見る目が大きく異なる。最近の世論調査でも、王室が英国に良いとする人は、65歳以上で77%であるのに対し、18歳から24歳では30%であった。全体的には62%の支持があったが、将来を見通すと、王室の将来に大きな影響を与える可能性がある。

英国の場合、君主(国王または女王)は、君臨すれども統治せずということで、君主が直接政治家に指示することは事実上ない。しかし、君主と首相との毎週1回の定期的な謁見の内容は明らかになっておらず、何が話されたかはベールに包まれたままだ。

君主は、首相・内閣の助言を受けて行動することになっている。しかし、英国の不文憲法の体制の中で、君主には非常に大きな権限がある。例えば、首相が武力を使う必要があると思えば、英国軍を動かすのに君主の権限を使う。

英国は1066年のノルマン王朝の成立以来、外国勢力に征服されたことがない。そして現在の制度は時代の要請に従って徐々に変化してきているものの、基本的には、大金持ちの王室と議会という民主主義的機関との共同統治の姿が長期にわたり続いているものである。この体制を支えるのは、世界の大勢である成文憲法ではなく、不文憲法、すなわち、各種の法律、判例、慣習慣例などの合わさったものである。

不文憲法には、時代に応じて変遷していけるという強みがあるという意見もある。現在の制度は、うまく機能している(?)から現状のままでいいではないかという意見もある。しかし、例えば、ブレア首相時代、イラク戦争介入が2003年に大きな論争となったが、今でも首相は君主の大権を使って、議会の承認なしに武力の行使が可能である。これは、筆者には、王室への国民の信頼が可能にしている例に思える。

すなわち、現在の制度は、国民の王室への強い支持があることで維持されているものの、もし君主への支持が減少すると制度への信頼も減少していくように想像される。英国の王室は世界で最も有名な王室だとされ、また、王室は国民の支持を得ようと努力しているが、現在の制度がいつまでも続いていくとは考えにくい。

英国王室の将来

2022年9月8日、エリザベス女王が96歳で亡くなり、その長男のチャールズ皇太子がチャールズ3世として国王となった。英国の王室は世界で最もよく知られている王室の一つであるが、その将来はどうなるだろうか。

エリザベス女王の治世を扱ったネットフリックスの「ザ・クラウン(王位)」という番組がある。2016年に放映が始まり、これまで5シリーズ50エピソードが放映されているが、最終の第6シリーズはまだ公開されていない。この番組には多くの批判もあるが、王室の実態にかなり深く立ち入っている。また、チャールズ国王の次男ハリー王子は、王室の公務を離れて米国に移ったが、ハリー王子の「ハリーとメガン」(ネットフリックス)などの番組やインタビュー、それに販売開始日に英米カナダで140万部売れ、ノンフィクションの売れ行きでギネスレコードを塗り替えた自伝「スペア(予備)」での率直な発言、記述は多くの批判を招いたものの、ハリー王子の視点で王室を見たものだ。これらで、今までヴェールで被われていた王室が一般の人にもかなりよく理解できるようになってきたといえるだろう。

チャールズ国王は、最初の妻で、ウィリアム皇太子とハリー王子の2人の母親ダイアナ妃と1996年に離婚した。その離婚の大きな原因は、2005年に再婚した相手のカミラ現女王である。ダイアナ妃は、1997年にパリの交通事故で悲劇的に亡くなった。その際の、英国国民のヒステリー的ともいえる反応と王室への批判は、王室の危機と感じられた。ダイアナ妃は今でもかなり人気がある。一方、カミラへの反感は今でもあり、チャールズ国王が戴冠式で、それまでの王妃(Queen Consort)から女王(Queen)の地位を与えたことが気に入らない人がかなりいる。

エリザベス女王の治世70年のお祝いは、英国至る所で多くの国民が自発的にストリートパーティを開くなどして祝ったが、それと比べると2023年5月に行われたチャールズ国王の戴冠式のお祝いは、はるかに低調だった。

NatCenという権威ある世論調査によると、君主制への支持は、歴史的に見て低くなっている。君主制がたいへん重要だとする人は29%で、10人に3人しかいない。また、君主制を廃止すべき、君主制は全く重要でない、または、君主制はあまり重要でないとする人は45%にのぼるという。

さらに公共放送BBCの番組のために世論調査会社大手のYouGovが行った世論調査によると、君主制を維持するべきだという人は58%、選挙で選ぶべきだとする人は26%、そしてわからないとした人が16%だった。注目すべきは、78%の65歳以上の人たちが維持すべきだとしたのに対し、18歳から24歳の人たちで維持すべきとした人は、32%しかいなかった。なお、上記のNatCenの世論調査で、18歳から34歳の人たちで君主制をたいへん重要だとしたのは、12%にすぎず、55歳以上の人たちでは、たいへん重要だとしたのは42%だった。

君主制と共和制を比較した継続的な世論調査の結果によると、君主制に対する支持は下降しているが、60%程度とまだかなり強いが、近年、共和国への支持が徐々に増えて行っている。

ただし、隣のフランスでは君主制にかなり興味があるようだ。チャールズ国王の戴冠式はテレビで実況放映されたが、英国では1800万人が見たとされるのに対し、共和国のフランスで900万人が見たという。フランスでも各種メディアが大きく注目し、記念版にした新聞もあり、特別番組を組んだテレビ局もいくつもあったという。

なぜ英国で君主制がいいのかというと、過去何百年も英国を支配してきて、英国の歴史と遺産の統一のシンボルである、国民意識や国に対する誇りの焦点となる、世界中で知られているなどという考えがある。

一方、君主制には、一つの家族で地位を継承していき、民主的でない、不平等や時代遅れの階級社会を促進する、現代社会に向かないなどという声がある。

社会が大きく変化している中で、君主制、共和制の議論も、世代交代とともに変化していくものだろう。英国の君主制がどうなっていくか注目される。