保守党の「SNPに支えられた労働党」警告

5月7日の総選挙の結果が、いずれの政党も過半数を占めることのないハングパーリメント(宙づりの国会)となると見られている中、30から50議席を獲得し、下院で、保守党と労働党に次ぐ勢力を持つこととなると予測されているスコットランド国民党(SNP)の動向が注目されている。

SNPは、労働党との連立政権は否定しながらも、保守党政権を阻むために、労働党に支持協力する意向を繰り返している。つまり、SNPが過半数を確保できない労働党政権を支えれば、保守党政権は生まれないが、その代わりに、SNPは強い立場となり、労働党政権の政策に影響を与えると言うのである。

これに対し、保守党は、イギリスからスコットランドを分離独立させようとするSNPに支えられた労働党政権は危険だ、SNPに牛耳られるとして、キャメロン首相、それにメージャー元首相も、強く警告している。保守党ならばSNPに牛耳られないと言うのである。

これには、2つの狙いがあるようだ。まだ態度を決めていない有権者、特にイングランドの有権者と、UKIP支持者の反スコットランド感情を高めさせ、その結果、保守党に投票させようという作戦である。一方、スコットランドでは、SNPの中央政権での影響力に期待する有権者と、イングランドでの反スコットランド感情に憤ったスコットランド有権者からSNPにさらに支持が集まり、労働党がさらに議席を失うという具合である。

前者に関しては、YouGovの世論調査によると、労働党とSNPが何らかの提携をしそうだが、これは悪いことで、保守党政権の方がよいと考えているが、まだ保守党に投票するとは決めていない人が有権者の8%いるという。つまり、保守党の選挙戦略上の狙いはよいと言えるだろう。

しかし、保守党の中にもこの作戦は、スコットランド住民とイングランド住民の溝を広げ、危険だと指摘する声もある。

ただし、この保守党の作戦には、一つ欠陥があるように思える。例え、保守党がイングランドで、若干の議席を増やしたとしても、スコットランドでは、党派を超えて、スコットランドの反独立派の人たちが、SNPの候補者を破る可能性のある候補者に、こぞって投票する可能性を高めるように思える。

さて、前回の2010年のスコットランドでの総選挙結果は以下のとおりであった。スコットランドの議席59議席のうち、2010年の総選挙では、労働党が41議席を獲得し、SNPは6議席であった。しかし、今回は、数多くの世論調査によると様相が一変している。

スコットランドのストラスクライド大学のジョン・カーティス教授は、大手の世論調査会社がすべて参加しているイギリス世論調査協議会の会長も務める、世論調査の専門家だが、4月20日現在の世論調査の平均は以下のとおりだとする。なお、まだどの党に投票するか決めていない有権者は除かれている。

2010年得票率(%)

世論調査2015年4月20日現在(%)

2010年議席数

現在の世論調査による2015年議席予想

SNP

20

49

6

54

労働党

42

26

41

4

自由民主党

19

4

11

1

保守党

17

15

1

0

SNP以外の政党の支持者は、SNPに対抗して、議席を獲得する可能性のある他の政党に投票する可能性が高い。これは、タクティカル・ボーティング(戦術的に投票すること)と呼ばれ、最近の世論調査でも裏付けられている。それは、そう簡単にはいかないとカーティス教授は言う。ただ、かなりタクティカル・ボーティングが行われても、労働党が大幅に議席を減らすことは間違いない。

保守党は、過半数が取れなくとも、最大議席を獲得することを目指している。最も有権者の支持を集めた政党として、正当性が高まり、政権交渉を最初にする権利が生まれると考えているためだ。自民党は、この最大議席の政党の問題に敏感だ。自民党は、ハングパーリメントとなった場合、最大政党がまず、政権設立の試みをした上で、もしまとまらなければ、第2位の政党に機会が与えられるべきだと考えている。自民党としては、連立政権参加、もしくは、閣外協力をする場合には、最大政党と連携する方が正当性の観点からは都合がよい。

そのため、保守党が最大政党となれば、話し合いを有利に進めることができる。そのため、労働党がスコットランドで議席を減らせば減らすほど保守党には都合がよい。それがキャメロン首相、メージャー元首相の行動の裏にある。

SNPの前党首が、労働党政権となれば、自分が予算を書くと冗談を言ったと報道され、その結果、既にSNPとの連立を否定している労働党のミリバンド党首は、SNPとの協定はないと言明した。しかし、保守党の「SNPに支えられた労働党」への攻撃はまだ続く。勢いづいている労働党に対抗するには、これはほとんど最後の手段とも言えるからだ。総選挙の結果にどのような影響を与えるか注目される。

自信を見せ始めたミリバンド

4月16日に行われた、野党5党のBBCテレビ討論で、ミリバンド労働党党首が、自信をにじませた討論ぶりを見せた。このテレビ討論では、連立政権の保守党、自民党が参加せず、野党の労働党、ウェールズのプライド・カムリ、緑の党、スコットランド国民党(SNP)それにイギリス独立党(UKIP)の5党の党首が参加した。

ミリバンドは、これまでの「テレビ討論」とは異なり、最初からリラックスしていた。保守党のキャメロンが出席していなかったので、リラックスしていたという見方があるかもしれないが、労働党関係者の中には、この討論に出席するミリバンドを愚かだと批判する人もかなりいた。他の野党から、主要政党の一角である労働党に攻撃の矛先が向かい、ミリバンドが苦戦するのは明らかだと主張していたのである。特に、SNPの二コラ・スタージョンは強敵だと警戒していた。

実際、スタージョンの討論ぶりは、その的確で、十分に練られた内容ばかりではなく、話しぶりが明確で、しかもタイミングがよく、聴衆から最も多くの拍手を受けていた。労働党の政策を批判しながらも、SNPは保守党が政権に就くことを阻むために、労働党に協力するとの立場を明確にし、もし労働党がSNPの申し出を受け、進歩的な政策を進める機会をつかみ取らなければ、人々はミリバンドを許さないだろうと主張した。

もちろん、この主張の背景には、スコットランドの事情がある。スコットランドの有権者は、これまで、ウェストミンスターの下院の選挙では、政権を獲得する可能性のある労働党を支持していた。SNPは、スコットランドの利益を代弁するのは我が党であり、SNPは労働党を支持するので、SNPに投票すれば、労働党を政権につけさせることができるばかりではなく、スコットランドの利益も代弁できるとする。すなわち、SNPに投票すれば、スコットランド住民にとって一石二鳥で、労働党に投票する必要はないと主張しているのである。

労働党は、スコットランドの59議席のうち、前回の2010年総選挙では41議席を獲得した。SNPは6議席だったが、今回は、SNPが30~50議席を獲得すると予測されている。そのため、議席を失う可能性の高まっている、労働党のスコットランド選出の現職は、この状況に神経質になっており、ミリバンドがSNPの主張を裏付けるような言動をすることを警戒している。

その上、保守党は、ミリバンドがスコットランドをイギリスから分離独立させようとするSNPの助けを借りて、首相官邸に入るつもりだと攻撃し、過半数を獲得できない労働党は、SNPの言いなりになると警告している。

この状況下で、ミリバンドは、労働党が過半数を獲得することが、働く人たちに最も利益となるとし、スコットランドでも労働党への投票を求め、SNPの主張を否定している。既にSNPとの連立は否定し、SNPと距離を置く姿勢を保っているが、SNPの協力を完全には否定していない。どの政党も過半数を獲得できないと見られている状況では、事実上、労働党はSNPの支持がなければ、例え政権を獲得しても維持することは困難だろうからである。

4月16日のテレビ討論では、これらの事情を踏まえた上で、ミリバンドは、SNP対策ばかりではなく、他の野党対策も考えた上で、うまく立ち回る必要があった。テレビ討論前には、ミリバンドは、2日間、選挙運動の日程を最小限にし、この討論の準備にあてたと伝えられるが、その効果は、この討論にはっきりと出ていたように思われる。

ミリバンドは、他の党から、はっきり答えるのが難しい質問が出ると、UKIPのファラージュ党首を攻撃するなど、余裕のある対応ぶりを見せた。明らかに、想定質問を準備し、相当練習していたことが見て取れた。また、この討論での表情の作り方も練習していたように思われる。それでも、時に、これまでの「テレビ討論」で見られたような不用意な表情も見られたが、全般に、首相を目指す人物の顔になってきたような印象があった。なお、ミリバンドの顔は、エネルギーに満ちているように見えたが、かつてサッチャー元首相も使ったビタミン注射をしているように思われた。

このテレビ討論が終わった直後、SNPのスタージョンが、わざわざミリバンドと握手するためにその演台まで行くというシーンもあり、スタージョンの抜け目のなさを改めて印象付けた。

いずれにもしても、430万人が視聴したと言われるテレビ討論では、ミリバンドとスタージョンの二人が目立った結果となり、ミリバンドには、特にマイナスにはならなかったように思われる。

世論調査会社のPopulusによると、いずれの党も過半数を取れないハングパーリアメント(宙づりの国会)の数多くのシナリオを分析した結果、総選挙後、労働党のミリバンド党首が首相となる確率は、10のうち8だという。政治状況は、ミリバンド労働党の方向へ大きくシフトしてきたており、わずか1週間ほど前には、賭け屋が、総選挙後の首相は、1/2の賭け率でキャメロンとしていたが、現在の賭け率は、キャメロンとミリバンドが拮抗している。支持の拡大に苦しんでいるキャメロンと、上り調子のミリバンドという構図となっている。

スコットランド国民党の戦略

スコットランド国民党SNPは、918日の独立住民投票で、スコットランド独立の願いをかなえることができなかったが、それ以降、大きく支持を伸ばしている。独立賛成運動を率いた、スコットランド政府の首席大臣アレック・サモンドは、住民投票の結果が明らかになった後、SNPの党首と首席大臣を退くことを発表した。そしてこのたび、SNP副党首で副首席大臣の二コラ・スタージョンが党大会でSNP党首に就任し、1119日には首席大臣に就任する。 

スタージョンの党首演説で、半年後の総選挙への基本的な考え方が明らかになった。スコットランドはいずれ独立すると考えている。その要点は以下の通りである。

  • 次期総選挙では、どの政党も過半数を占めることのないハング・パーリアメントになる可能性が強い。
  • SNPが新しい政権を決める役割を担う可能性がある。
  • その際、SNPは保守党と手を組むことはないが、労働党とはありうる。
  • 労働党と連携すれば、スコットランドにさらに大きな分権ができ、スコットランドの諸問題に関して有利な交渉ができる。
  • 保守党を政権につけさせないために労働党に投票すべきだという考え方は誤りで、SNPが多くの議席を獲得すればするほどスコットランドが強くなる。

サモンドの党首最後の演説で、次期総選挙のSNPの目標は、下院のスコットランドの59議席の過半数を獲得することと発言した。過半数、すなわち30議席以上は、現在の世論調査から見てかなり控えめに感じられるが、恐らく、スタージョンに過大な期待がかからないように設定したのではないかと思われる。

SNPは左の政党で、前回の2010年総選挙後も労働党との連携を積極的に進めようとしたことがある。SNPは、次期総選挙の結果、保守党と労働党に続く第三党となることを想定しているようだが、その可能性は極めて高い。なお、拙稿「半年後に変わるイギリス政治」イギリス政治のニュースレター2014111日号参照

スコットランド国民党への強まる支持

スコットランド国民党(SNP)は、918日に行われたスコットランド独立住民投票で、独立賛成側の主力であった。住民投票の結果、賛成45%、反対55%でSNPはその目的を達成できなかったが、投票前のキャンペーンでその動員力の強さを見せつけ、党員数が3倍以上になっている。

その結果が、今あらわれてきている。世論調査会社のIpsos-Moriの行った、下院選挙に対するスコットランドの政党支持の世論調査によると、以下のような結果だった。

SNP 52
労働党 23
保守党 10
自民党 6
緑の党 6

来年5月の総選挙で、もしこのような結果が出れば、スコットランド59議席のうちSNP57議席を獲得する可能性があるという。そして前回の総選挙ではスコットランドで41議席を獲得した労働党の総選挙勝利の目は消えるだろう。

スコットランド独立住民投票の思わぬ効果

2014918日に行われたスコットランド独立住民投票の結果、労働党が非常に苦しい立場に置かれている。

住民投票そのものは、独立賛成が45%、反対が55%でスコットランドの住民がはっきりと独立しないと結論を出した。独立に反対したのは、主要3政党の保守党、自民党、そして労働党だが、独立に賛成したのは、スコットランド政府のアレックス・サモンド首席大臣率いるスコットランド国民党(SNP)と小政党の緑の党らだ。SNPはもともとスコットランドをイギリスから独立させるために設立された政党である。

独立は否定されたが、この住民投票が行われた結果、SNPの勢力が大きく拡大した。その党員数が大きく伸び、住民投票前の25千人から10月初めに75千を超え今や8万人を超えた。その結果、現在イギリス政界の第3政党である自民党(Lib Dems)の党員数44千人を抜いて、19万人の労働党、14万人の保守党に続いて第3位となった。イギリスでは、この党員数は名目上の党員ではなく、自腹を切って党費を払っている人たちである。

この党員数の比較を見る場合、留意しておかねばならないのは、労働党や保守党が人口6400万人のイギリス全体に広く分散しているのとは異なり、有権者数428万人(独立住民投票時点で16歳と17歳を含む)のスコットランドに集中しているということである。すなわち、単純に計算すると、スコットランドの住民54人に1人がSNPの自腹を切った党員ということになる。その上、党員の高齢化が指摘される保守党とは異なり、SNPの強力な独立賛成運動から判断すると、新たに加わった党員は青壮年層が中心と思われる。

労働党はスコットランドでこれまで長く、圧倒的な強さを誇ってきていた。2011年のスコットランド議会議員選挙では、一つの政党が過半数を占めないような選挙制度「小選挙区比例代表併用制」にもかかわらず、SNPが過半数を占めた。この選挙で労働党は惨敗を喫したが、その1年前の2010年のイギリス全体の下院総選挙では、労働党がスコットランドの59選挙区のうち41議席を獲得した。労働党はこの総選挙で1997年以来の政権を失ったが、スコットランドではその勢力を維持していた。スコットランドの有権者は、イギリス全体の下院選挙には、下院に大きな勢力を持つ労働党に投票する傾向があった。

ところが、同じ左のSNPへの支持の増加は、この従前の考え方に大きな変化をもたらせている。9月末から10月初めにかけて行われた世論調査の「明日総選挙が行われるとすると、どの政党に投票するか?」という問いに対し、SNPと答えた人が34%おり、労働党の32%を上回った。2010年の総選挙では、SNP6議席に留まったが、20155月に行われる次期総選挙でさらに20議席ほど追加する可能性がある。そのほとんどは労働党から奪う議席だと見られている。

スコットランドは労働党の金城湯池であったが、その地位が脅かされると、労働党の次期総選挙戦略そのものが狂ってくる。

多くは、労働党はこれまで「35%戦略」を持っていると見ていた。この戦略は、労働党が前回2010年の総選挙で獲得した29%の得票に、自民党から流れてくる票を加えて左の票を固めれば、UKIPに票を失う保守党に勝てるというものである。自民党は前回総選挙で23%の得票をしたが、今やその支持率は1ケタになっている。

しかし、労働党が前回総選挙の票を獲得できないようだと労働党の戦略の根本的な見直しが必要となる。スコットランドで起きていることは、労働党への大きな警鐘だ。

スコットランド労働党の党首ジョアン・ラモントがロンドンのウェストミンスターの労働党を批判して辞任した。SNPのサモンド党首らは、ラモントが辞めたのは労働党党首ミリバンドのせいだと、尻馬に乗ってミリバンドを批判したが、これらの批判そのものは、スコットランドにおける労働党をさらに弱めることに狙いがある。

ジョアン・ラモントは、労働党の惨敗した2011年スコットランド議会議員選挙の後、スコットランド労働党の党首となったが、その古い体質を十分改革できないままに終わっており、躍進するSNP(11月、これまでの副党首二コラ・スタージョンが党首・首席大臣となる)に対抗するには役者が不足していたのは明らかである。

なお、SNPのサモンド党首らが労働党のミリバンド攻撃の材料に使っているのは、有権者のミリバンド評価の低さである。ミリバンドにはカリスマがなく、しかもダイナミックさに欠ける。本来なら、サッチャー政権よりも大きな財政削減を行っている政権政党が支持を減らすはずだ。しかも保守党はUKIPに票が流れているにもかかわらず、労働党が決定的な差を保守党につけられないのは、ここに原因がある。

スコットランドだけではなく、全国的に主要政党離れの傾向のある中、UKIPや緑の党への支持が伸びており、労働党はこれらの政党にも票を失う傾向がある。2010年に労働党に投票した人たちが次期総選挙でも労働党に再び投票するかどうか疑われる中、労働党は、これから半年間、足元のおぼつかない選挙戦を進めていくことになろう。

誰がスコットランド独立に反対したのか?

スコットランドの独立に関する住民投票の結果、独立賛成45%、反対55%で、スコットランド住民が、はっきりと独立反対の意思を示した。投票率は85%と極めて高く、これまで投票したことがなかった人が、独立賛成側もしくは反対側の家族や知人から迫られて投票に行くということもあったようだ。

それでは、どのような人たちが独立に賛成、もしくは反対という立場を取ったのだろうか?元保守党副幹事長のアッシュクロフト卿が、投票箱が閉まった後、独自の世論調査を行ったので、その結果をもとに概観しておきたい。なお、億万長者のアッシュクロフト卿は世論調査を頻繁に行っており、その結果は、世論調査業界並びにイギリスの政界で注目されている。 

この世論調査では、2千人余の調査結果からのものである。ここでは特に年代別の投票結果を見てみる。

(一番上の数字は年齢別、二番目、三番目の列の数字は%)

特に65歳以上の人たちの4分の3近くが独立反対である。独立賛成側は、この層と55-64歳の層の支持を集められなかったことが敗北につながった。一方、25-34歳の年代層では、賛成が6割いる。さらにこのスコットランド住民投票で特別に認められた16歳と17歳は7割が賛成しており、独立賛成側の狙い通りの効果があったようだ。 

なお、反対票を投じた人の57%が、スコットランド独立後の通貨の問題を心配したという。つまり、年金の問題も含め、独立後の経済・財政面での不安を嫌った結果といえる。世論調査大手のYouGov社長ピーター・ケルナーが、アメリカ大統領選で勝利したクリントン陣営の「問題なのは経済だ」という言葉を引用して、今回の住民投票の結果を予測していたが、その通りになった。

スコットランド独立住民投票の行方

918日の独立住民投票を控えて、スコットランドでは独立賛成側と反対側のキャンペーンが猛烈に行われている。その中、昨日、本日と二つの世論調査結果が発表された。いずれも、賛成と反対が拮抗しており、まだまだ予断を許さない。 

912日現在最も新しい世論調査は、ICM/ガーディアンのものであり、賛成49%、反対51%である。ただし、17%はまだ態度を決めていいないため、これから動く可能性がある。この電話による世論調査で特徴的なのは、87%が必ず投票するとしていることだ。この中でも特に若い世代の16歳から24歳の世代の82%、25歳から34歳の87%が必ず投票する(既に郵便投票で投票したも含む)と答えており、関心が非常に高いことがうかがえる。

世代間の賛成・反対の違いもある。賛成の最も多いのは、25歳から34歳のグループで賛成57%、反対43%、一方、反対の最も多いのは、65歳以上の賛成39%、反対61%である。男女間では男性が賛成52%、反対48%であるのに対し、女性は、賛成45%、反対55%である。

また、11日夜に発表された、YouGovの世論調査結果は、賛成48%、反対52%で、態度を決めていない人が4%である。この世論調査では、特に、今回の住民投票の行方を決めると考えられている女性の賛成が先週末と比べて47%から42%へと減っている。さらに独立賛成派のサモンド首席大臣への信頼度が先週末の42%から38%へと減っており、一方では、独立反対側の中心として活動し始めたブラウン元首相の信頼度が32%から35%へと上がっている。独立賛成に向かっているとして心配されている労働党支持者層に影響を与えているようだ。有権者の中に一定の地殻変動が起きていることがうかがえる。

911日には、独立反対という結果が出る賭け率を1-5、つまり、ほぼ間違いなく独立反対となるという賭け率にした賭け屋が多かった。ただし、独立賛成側と反対側の支持率の差は小さく、誤差の範囲内にある上、態度を決めていない人もいるだけに結論を出すのは時期早尚に思える。

キャメロンの判断ミスが招いたスコットランド危機

918日のスコットランド独立住民投票まであと8日。事態は非常に深刻になってきた。独立反対側の保守党、自民党、労働党は、本来、首相と党首の出席する「首相への質問」をそれぞれの代理に任せ、スコットランドに飛んで、独立反対運動に懸命だ。

さらに、スコットランドのイギリスからの分離を防ぐために、2010年までイギリスの首相を務めたゴードン・ブラウンを先頭に担ぎ出した。ブラウンはスコットランド人で、スコットランドでは非常に良く知られている。

ブラウンは2010年の総選挙で労働党を率いて戦ったが、キャメロン率いる保守党に後れをとった。労働党は、2005年の総選挙時の得票率35.2%で355議席から2010年には得票率29%で258議席と6.2%も得票率を落とした。それでもスコットランドでは2.5%アップの42%の票を獲得し、全59議席のうち、前回と同様41議席を獲得した。 

キャメロン率いる保守党は、スコットランドでこれまでに大きく支持を減らし、下表で見るように現在ではわずか1議席、スコットランドで勢力を失っている。

2次世界大戦以降の保守党のスコットランド総選挙結果
 

ミリバンド労働党党首はロンドン生まれで、スコットランドでは人気がない。 一方、自民党は保守党との連立政権に参画して以来、スコットランドで支持を大きく失った。

これらを考えれば、スコットランドの労働党の牙城を守るためにも、スコットランド独立に強く反対しているブラウンが表に出てくるのは当然の人選とは言える。もちろんキャメロンは、これまでブラウンを厳しく批判してきた経緯があり、二人の関係に問題があった。しかし、総力戦となった今の段階では、体裁にこだわっていることはできない。

ブラウン投入の効果があるのだろうか?もちろん、ブラウンに心を動かされる有権者はいるだろう。しかし、問題は、それで十分かどうかである。例えば、ブラウンは、スコットランドの住民投票が「独立反対」となれば、スコットランドにさらなる権限の委譲を行うと発表した。これは上記三政党の支持を得ている。ただし、この約束がどの程度の効果があるかは別の問題のように思われる。その内容がはっきりとしていない上、ブラウンは所得税への権限には触れているが、法人税には触れていない。つまり、スコットランドが「独自の税制」を行えるような内容となっていない。しかも、ウェストミンスターのイギリス政府側がスコットランドとポンドを共有するのに反対したのは、もしスコットランドが独自の経済財政政策を行うと通貨が危機に陥るというものであった。つまり、この理屈では、スコットランドの分権でも、両者の経済財政政策に大きな違いをもたらすような政策は打てないことになる。つまり、この約束にはそう大きなインパクトはないように思える。

それでは、この住民投票の行方はどうなるのか?勢いは確かに独立賛成側にある。オンライン世論調査のYouGovに加えて、面接調査のTNSでも賛成・反対側が拮抗していることが明らかになっている。独立賛成が急速に伸びてきたことを見ると、その勢いが今ストップするかどうか推し量りがたい。しかし、スコットランドに深い関係のある金融機関や企業が、独立賛成多数の状況に備えて、イングランドに事業を大きく移すなど対応策を発表し始めており、これらがスコットランド住民に微妙な影響を与える可能性がある。

キャメロン首相は、スコットランドにイギリスに留まるようにとの心のこもったスピーチを発表した。このようなスピーチは、イギリス国民の多くの心を打つかもしれないが、スコットランド人にどの程度受け入れられるかははっきりしていない。

こういう事態を招いたキャメロン首相のこれまでの判断、例えば、賛成側も望んだYesNoに大幅分権の選択肢も入れた三者択一ではなく、YesNoの二者択一にしたことや、18歳の投票権を、今回に限り16歳まで認めるなど、多くの判断ミスがある。国の運命を決める重要な投票の結果がどちらに転ぶかわからないような事態を招いたのは、結果の如何を問わず、キャメロンの大失敗と言える。

スコットランド独立?

サッカーの2016年欧州選手権の予選が行われている。97日の夜、ドイツとスコットランドが戦った。ドイツはブラジルで行われたワールドカップで優勝した。一方、スコットランドはブラジルに行く前の予選で敗退し、ワールドカップには出場できなかった。そのため、多くはドイツの楽勝に終わると見ていた。ところが、試合は予断を許さない展開となった。ドイツのエース、トーマス・ミューラーが1点目のゴールを決めた後、後半、スコットランドがゴールを返して同点とした。スコットランドの勢いからすれば引き分け、もしくは勝利の可能性もあると思われた。ミューラーがさらにゴールを決め、結果は21だったが、最後までスコットランドの健闘が目立った。

この試合中、キャメロン首相はスコットランドに勝ってほしくないと祈っていたかもしれない。もし、スコットランドが世界王者のドイツに勝つようなことがあれば、スコットランド独立派にさらに勢いをつける可能性があったからだ。

918日のスコットランド独立の住民投票まであと10日。世論調査会社大手のYouGovが独立賛成51%、反対49%という調査結果を出したことから、一挙に政治情勢が変化した。この世論調査結果は、独立賛成派が大きく支持を伸ばしているという、先の世論調査に沿ったもので、しかもその勢いが非常に強いことを裏付けたからだ。独立反対派が余裕をもって勝つというこれまでの見方をひっくり返し、イギリスがスコットランドを失うかもしれないという可能性を現実のものとして感じさせたからである。 

この独立賛成派の勢いは、タイムズ紙のコラムニストの記事でも裏付けられている。スコットランドで22歳まで過ごしたスコットランド人が、スコットランドを訪れてルポを書いた。なお、筆者は、5月にスコットランを訪れたが、その時とはずいぶん様子が変わっているようだ。

このコラムニストはスコットランドに住んでいないために投票権がない。頭では独立反対だが、それでもスコットランドに生まれたスコットランド人として、独立賛成側の運動に心を動かされたようだ。独立賛成派の運動には、多くのスコットランド人の心を打つ情熱がある。 

一方、独立反対側の労働党下院議員ジム・マーフィーがスピーチの際に卵を投げつけられる、ヤジり倒される、脅されるなどの事件が大きく報道され、賛成側、反対側の運動が過熱してきていることが明らかになった。

この下院議員が、「ナショナリストは愛国者だが、愛国者がナショナリストだとは限らない」という言葉を多用しているそうだ。つまり、自分は愛国者だが、独立を求めず、現在のイギリスの中に留まる「ユニオニスト」だということを強調したものだ。ユニオニストとは、イギリスのユニオン(4つの国の合同)を守る立場を示している。スコットランドのグラスゴーで生まれ、スコットランドの選挙区から下院議員となり、しかも労働党政権時代にはスコットランド大臣でもあった人物にとっては理解できることである。

しかしながら、そのような言い方がどの程度効果があるかは別の問題である。有権者へのアピールとしてはそう強いものとは思えない。

さらに、独立反対側にはスコットランドの能力を低く見るような言葉が多い。小さなスコットランドでは不安だ、安定しない、出産量が減ってきている北海油田には頼れないなど、寄らば大樹の陰の議論である。

賛成派の、スコットランド人は誇り高き人々だ、自分たちで自分たちの面倒を見られる、自分たちの国を作るべきだ、というメッセージには、小さなころから反イングランド感情の強い環境に育った人々にとっては強い説得力がある。

このメッセージの力の差を埋めることは、独立賛成側が勢いを増している環境の中ではそう簡単ではない。

それではもし独立賛成ということになればどうなるか?何が起きるか予測することは困難である。経済的な面への影響はさておき、政治的な影響には、まず、キャメロン首相の権威が失墜し、有権者の保守党への支持の低下を招くと思われる。そして2010年総選挙でスコットランドの59議席のうち、41議席を獲得した労働党と、11議席を獲得した自民党への大きな打撃となる。さらに来年の20155月に予定されている総選挙を実施するかどうかが議論となるだろう。

スコットランドのサモンド首席大臣らは、独立賛成派が勝てば、20163月の独立を予定している。つまり、20163月にスコットランドが分裂するとすれば、わずか10か月ほどの間しか任期のない下院議員を選ぶことが賢明かどうかが問題となる。しかもスコットランドで多数の議席を獲得する労働党が、スコットランドの議員の支持で最大多数党となり、政権に就く可能性がある。すると10か月後にはそのスコットランド選出議員がいなくなるため、政権が替わる可能性がある。むしろ2016年まで待って総選挙をした方がよいという議論が強まるかもしれない。一方、スコットランドとの交渉が20163月までに済まない可能性もある。いずれにしても政治状況はかなり混迷するだろう。

ただし、世論調査の結果をそのまま受け入れられるかには疑問がある。スコットランドには現在、独立反対と言いにくい雰囲気がある。そのため、独立反対であってもそうとは言わない人がかなりいる可能性もある。

例えば、1992年総選挙の際の世論調査では、労働党が優勢だったが、ふたを開けると保守党が勝った。この原因については、業界でかなり議論された。「Shy Tory」、つまり、保守党支持と言いにくいので保守党支持と言わずに保守党に投票した人がかなりいたのが原因の一つという結論になった。そして世論調査会社は、前回の選挙でどの党に投票したかも尋ねるようになった。しかし、今回のスコットランド住民投票は初めてのことである。1979年、1997年の分権に関する住民投票があったが、それと今回の独立に関する投票はかなり異なる。

さらに、カナダのケベック州の1995年の独立投票で、直前の世論調査と異なった結果が出た例もある。最後の2週間で独立賛成派がリードしたが、投票結果は、賛成49.4%、反対50.6%だった。

10日後の投票結果がどうなるかはまだ予断を許さないと言える。主要三党は、共同してスコットランドへのさらなる分権の提案をする予定だ。総力を結集してスコットランド分裂を防ごうとする構えだ。いずれにしても、この住民投票が終わるまで、次期総選挙の準備にはほとんど手が付けられないだろう。

スコットランド独立賛成派が優勢だった第2回目のTV討論

スコットランド独立の住民投票が918日(木曜日)に行われる。あと3週間余りとなった。独立賛成側と反対側のリーダーによる第2回目のTV討論が825日の午後8時半から10時までの1時間半行われた。この番組はBBCスコットランドが制作したが、イギリス全体で同時にBBCが放映した。 

独立賛成側は、スコットランド政府のサモンド首席大臣、スコットランド独立党(SNP)の党首である。反対側は、ブラウン労働党政権で財相を務めたダーリング下院議員、独立反対グループのBetter Togetherの会長である。

第一回目の討論ではダーリングが優勢だったが、今回は直後の世論調査によると71%対29%でサモンドが優勢だった 

第二回目の討論が始まった時、サモンドは疲れているように見え、しかも緊張していた。サモンドにとって今回は負けられない討論だった。ダーリングも緊張していた。

まじめでひたむきな印象を与えるダーリングは、前回の討論で効果のあった、独立後のスコットランドの通貨の問題で食い下がった。それが結局しつこいほどの印象を与えることになる。ダーリングは非常に有能な政治家だが、それでも全般的に準備不足の面があるように思われた。

一方、サモンドは、通貨の質問に対して十分な準備をしていた。サモンドが多用した表現は、マンデイト(付託)という言葉である。スコットランド住民が、独立賛成で、自分にスコットランドを代表して正式にイギリス政府と交渉する権利を与えてくれれば、スコットランドに最善の結果を招く交渉をする、それはポンドをイギリスと共有することだとし、もしそれがかなえられなければ、イギリス政府の抱える借金のスコットランド負担分を拒否することも辞さないとした。 

また、サモンドはスコットランドがイギリスに留まる場合のマイナス面を強調しようとした。民営化が進む国民健康サービス(NHS)や弱者に厳しい福祉の問題、さらにスコットランドにある「大量破壊兵器」の核兵器トライデントシステムの問題では、スコットランドはイギリス中央政府の制約を受け、独自の政策を実施できないとした。

これらの問題は、スコットランドのSNP政権下では当てはまるかもしれないが、次期スコットランド議会選挙の行われる2016年以降、変更される可能性もあり、必ずしも独立の利点とは言えないだろう。しかし、独立すれば、イギリスの中央政府とは異なる政策を打ち出せる可能性を示すことでサモンドの得点稼ぎにはなるように思われた。

このTV討論では、途中でクロスイグザミネーションという二人のリーダーがお互いに詰問しあう時間を設けたが、議論が過熱しすぎる場面もあり、このような議論の仕方が適切かどうか疑問に思われた。

討論が終わりに近づいてきて、サモンドの優勢が目立った。サモンドは、これが独立の最後のチャンスかもしれないと言い、投票の結果が独立賛成の場合には、ダーリングも自分たちの側に招きたいとし、ステイツマンらしい面を見せた。

今回の討論ではサモンドが優勢で、しかも、女性の77%がサモンドを優勢としたことで、独立に懐疑的な女性票に影響を与えられたという見方もある。しかし、これまでの世論調査では賛成支持派と反対派の差は10ポイント余りあり、その差をこれからどの程度埋められるかが賛成派のカギとなる。

さて、2人の討論は、3人の討論とはかなり効果が異なる。3人の討論は、2010年の総選挙で主要3政党の党首が行った。3人の場合お互いにけん制しあう面がある。しかし、2人の場合、攻撃の焦点が絞られるので勝ち負けがはっきり出やすい。

2015年総選挙で党首のTV討論がどのような形で行われるかはまだ決まっていない。イギリス独立党(UKIP)の扱いの問題もあるが、数が多くなればなるほど議論の焦点が分散するのは確かだろう。