自分に都合の悪い法律を作らせないことができるイギリスの女王

イギリスの君主である女王には「大権」がある。この大権は外交をはじめ広範囲にわたっている。現在では、イギリスの君主は基本的に首相の助言を受けて行動するようになっており、女王がこの大権を自由に使えるわけではない。ただし、このような大権に関連して女王に都合の悪い法律を作らせないよう、王室がスコットランド分権政府に働きかけ、法律を変えさせていたことがわかった。

環境問題は世界的に大きな問題で、イギリスでも積極的に取り組まれている。スコットランド(分権)政府が、グリーンエネルギーに関連して熱を送るためのパイプラインを敷くための法律を制定したが、その中には、パイプライン用の土地を強制的に購入できる条項がある。(なお、日本では公的な目的のための土地収用の力は弱いが、イギリスでは、公的な収用の力は強い。)

この法律案では、議会で正式に合意される前に、女王の権力や個人的利害、王室の収入などに関する場合だとして、女王の同意(Crown Consent)が求められた。(法律を裁可する形式的なRoyal Assentとは異なる)。ここで、王室側から女王の土地は強制収用の対象から除くよう要求され、スコットランド政府がそれを呑んだ。女王は、スコットランドに広大な土地を所有しているため、この制度の対象から除かれるようにしたというわけである。スコットランド議会が設けられてから、このように王室があらかじめ法律案を審査した例は67事例あるという。

王室は、特に1997年のダイアナ妃の悲劇的な死以降、国民にいかに見られるかに大きな注意を払っている。そのため王室が極端な行動に出る可能性は少ない。それでも、不文憲法で、古い、よく知られていないしきたりや制度が残る制度は、現代にはふさわしくないといえる。

2021年スコットランド議会議員選挙で多数を占めたスコットランド独立派

2021年5月6日木曜日に行われた英国の各種選挙で最も注目されたものの一つは、スコットランド議会議員選挙であった。スコットランドを英国から独立させようとする勢力がどの程度の議席を獲得するかに関心が集まったのである。

スコットランド独立論争

スコットランド独立をめぐる論争はこれまで長く続いている。そもそも1999年にスコットランド議会が設けられたのはスコットランドの独立機運への対応が念頭にあった。1979年の分権レファレンダムで分権賛成票が規定レベルに達しなかった後、1997年の分権レファレンダムで4分の3が賛成し、スコットランドに議会が設けられたのである。しかし、分権だけでは不満が残った。その結果、2014年に、中央政府が認めて、スコットランド住民による独立レファレンダムが行われた。この際、投票率は84.6%と高まり(これほど高い投票率は普通選挙ではそれまでなかった)、独立賛成44.7%、反対55.3%の結果となり、独立は否定された。もともとこれほどの接戦になるとは予想されていなかったため、英国の中央政府には独立レファレンダムはしたくない、下手をするとスコットランドを失うという意識がある。

2021年スコットランド議会議員選挙結果

2021年議会議員選挙の結果は、スコットランドの英国からの独立を目指すスコットランド国民党(SNP)が全129議席のうち64議席を獲得し、過半数に1議席足りなかった。しかし、スコットランド独立を選挙のマニフェストでうたっている緑の党が8議席を獲得したため、スコットランドの英国からの独立を求める議員が、129議席中72議席を占める。

SNPのスタージョン首席大臣は、これまで、コロナウイルス対策が一段落し、経済が回復のめどが立った後2度目の独立レファレンダムを実施したいと表明していたが、この選挙結果を受け、独立レファレンダムをめぐるスコットランド住民の意思ははっきりしたと公に発言している。スコットランド住民は、スコットランド議会に独立レファレンダムの実施を付託したとし、英国中央政府のジョンソン保守党首相に、「今やレファレンダムを行うかどうかではなく、いつ行うかだ」と直接言った。

これまでのスコットランド議会選挙

スコットランド議会は、1999年に最初の選挙が行われた。選挙制度は、もとよりスコットランド独立派が多数を占めないように組み立てられている。スコットランド議会の選挙制度は、日本の衆議院選挙でも行われている、最多得票者が唯一の当選者となる小選挙区制と地域ごとにその地域の政党の得票であらかじめ設けられたリストから当選者を決めていく比例代表制が合わさった制度である。73の小選挙区から1人ずつ、そして8つに分けられた地域から7人ずつの56人で、総合計129議席である。日本の制度との最も大きな違いは、スコットランドでは、地域内の小選挙区で獲得した議席数が、その地域の政党得票割合による議席配分の計算に入れられ、その割合を超える比例議席は与えられないことだ。すなわち、小選挙区で圧倒的に多数の議席を獲得し、比例区で小選挙区と同じ割合で得票したとしても比例区では全く議席が与えられない可能性がある。

選挙年              政党別議席数
SNP 保守党 労働党 緑の党 自民党
1999 35 18 56 1 17
2003 27 18 50 7 17
2007 47 17 46 2 16
2011 69 15 37 2 5
2016 63 31 24 6 5
2021 64 31 22 8 4

 (なお、2016年と2021年の選挙はその直前の選挙から5年後となっている。これは、スコットランド議会議員選挙が英国の下院選挙と重なり、同じ日に異なる選挙制度の選挙が行われるのを避けようとしたためである)

なお、2021年の各政党の小選挙区と比例区の獲得議席数は以下の通りである。小選挙区で圧倒的多数を占めるSNPは比例区でわずか2議席しか獲得していない。小選挙区で、スコットランド独立に反対する保守党、労働党、自民党が、SNPの候補者に対抗する反独立派の候補者に戦略的に投票した結果、SNP候補者を抑えて当選し、SNPが過半数の議席を獲得することを防いだ。

政党名         議席数
小選挙区 比例区
SNP 62 2 64
保守党 5 26 31
労働党 2 20 22
緑の党 0 8 8
自民党 4 0 4

今後の展開

SNPは、既にスコットランド独立レファレンダム法案(案)を発表しており、次回議会議員選挙の行われる2026年までの間の前半に独立レファレンダムを実施する予定だ(なお、2020年スコットランド選挙法改正により5年ごとに選挙が実施されることとなったため次回選挙は2026年である)。

ただし、2014年の独立レファレンダム実施にあたっては、中央政府から実施に関する一時的な権限移譲を受けたが、その権限移譲が次のレファレンダムでもスムーズに行われるかどうか不明だ。ジョンソン首相は、その実施に真っ向から反対している。独立派が多数を占めているためスコットランド議会がレファレンダム実施を決定するのは確実だが、それを中央政府が阻止する方法の一つとして、英国の最高裁判所に、そのようなレファレンダムは無効だと訴えることが想定されている。しかし、選挙を通じて付託された住民の意思を中央政府が無視し続けることができるかどうかには疑問がある。

一方、独立レファレンダムが実施されることとなっても、独立賛成派が勝つとの保証はない。2014年の二の舞いとなる可能性もある。

スタージョン首席大臣らの戦略は、中央政府に反対させておいて、反ジョンソン政権の機運を高め、独立熱をかきたて、そこで独立レファレンダム実施を押し切る機会を探るということとなるだろう。今後のスコットランドの経済運営やEU離脱後の英国が経済的、社会的にどの程度成功するかも検討材料だ。これからの駆け引きが注目される。

選挙に与えるコロナワクチン接種の効果

2021年5月6日木曜日に行われた英国の各種選挙には、コロナワクチン接種の効果がはっきりとあらわれた。

英国は、先進国の中で最もコロナワクチン接種の効果が出ている国の一つである。英国の人口は日本の半分ほどだが、成人の67%が1回目の接種を受けており、2回目の接種も受けている人の割合は3人に1人(日本と異なり、英国では1回目と2回目の間を大きく開けている)。そして、5月9日の当日の結果発表によると、検査数が100万件を超えるのに対し(日本は最も新しい数字は5月6日の5万4793件)、陽性数が1770件(日本は6493件)、そしてコロナ感染後28日以内に亡くなった人の数は2(日本は64件、日本のコロナ死亡の基準は異なる)だった。英国では、ロックダウンの緩和が始まっており、明るいムードが漂っている。

なお、英国(連合王国United Kingdom)は、4つの単位、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドで構成される。全体を管轄する英国政府はイングランドにあるが、地方分権が進んでおり、対外関係や軍隊など国としての対応の必要な部門を除くもの、例えばNHS(国民保健サービス)は、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド分権政府の下にある。なお、イングランドのNHSは中央政府の管轄下であり、ジョンソン政権の保健相は、イングランドのNHSを担当している。

このうち、5月6日の各種選挙に関係したのは、イングランド、スコットランドそしてウェールズだった。コロナ後の明るい光が見えてきたムードの中で、有権者は、それぞれの担当政権を報いる行動に出たようだ。イングランドでは、ジョンソン保守党政権が、ウェールズでは労働党政権が、そしてスコットランドでは地方政党SNP(スコットランド国民党)政権がこのムードの受益者だった。イングランドでは、保守党が予想を上回って多くの地方議会で勝ち、同時に行われた下院の補欠選挙では労働党の牙城を大差で奪った。ウェールズでは、労働党が予想を裏切って健闘し、これまでのウェールズ議会選挙で最高に並ぶ60議席中30議席を勝ち取った。スコットランドでは、SNPが全129議席のうち64議席を獲得した。

3種3様の結果だが、イングランド、ウェールズ、そしてスコットランドの結果は、有権者が、コロナウィルス対策で効果を収めているそれぞれの政権を支持した表れといえる。

2021年5月6日の各種選挙でジョンソン政権の将来が見えるか?

英国では、選挙は木曜日に行われる。この2021年5月6日には、様々なレベルの各種選挙が行われる。ボリス・ジョンソン首相の個人的な問題もあり、ジョンソン首相率いる保守党がどの程度の結果を収めるか、2019年12月の総選挙で大敗した労働党が回復の兆しを見せるかなど、成り行きに注目が集まっているが、将来の見える選挙とは言えないだろう。その中で、最大の焦点は、スコットランド議会選挙である。

ジョンソン首相の問題

ボリス・ジョンソン首相は、もともとイギリスのような比較的民度の高い国では、苦しむ性質の政治家である。それでも、それほど悪い人物ではないと思われており、誰とでも気さくに話ができる人物だ。老若男女を問わず、ジョンソン首相をボリス、ボリスと呼び、大衆的な人気がある。その一方、生活や仕事の取り組み方はだらしがない。自分の子供の数を答えない(Wikipediaは「少なくとも6人」としている(2021年5月4日閲覧))。首相の年収(約£157,000、日本円で2400万円ほど)では生活できないとされ、ダウニング街の住居の改修費用の上限を超えるおカネを保守党献金者に支払ってもらっていた疑惑(現在、選挙管理委員会や議会の委員会などが調査中)で苦しい立場だ。最も新しい話では、婚約者との間に生まれた子供の乳母を雇うおカネや自分のフィットネストレイナーを雇うおカネを保守党献金者にねだったとされる。もともとタイムズ紙の記者だったが、記事を捏造して首になったなど、正しいこととそうでないこととの垣根が低い人物ではある。

これらの疑惑と、キャメロン前首相のロビーイング疑惑なども重なり、保守党への不信がどの程度現れるか注目される。

ハートルプール下院議員補欠選挙

ハートルプールは、これまで長く労働党の議席だったが、今回は、保守党が圧倒的に強いと見られている。2019年12月の総選挙では労働党が勝ったが、それはEU離脱支持有権者が多数を占めるこの選挙区で、イギリス独立党(UKIP)の候補者がEU離脱派の票を割ったためである。UKIPはその後リフォーム党と名前を変え、今回も候補者を立てているが、UKIPの看板だったファラージュ党首が引退し、新しい党首の下では知名度が不足している。そのため、保守党が勝ったとしても、それは当然だと思われる。その一方、労働党とスタマー党首にとっては、険しい道が続くことを意味している。

スコットランド独立問題

スコットランド議会選挙で、スコットランド国民党(SNP)が過半数を占めるかどうか注目される。SNPがスコットランド議会で過半数を占めれば、ジョンソン首相が反対しても、スコットランド独立国民投票の実施をくいとめることは難しいだろう。ジョンソン首相はスコットランドでは人気がなく、今回の選挙でも一度もスコットランドを訪問していない。

なお、英国の世論調査の権威、カーティス教授は、全129議席のうち、SNPが62議席、緑の党が10議席獲得すると分析している。前SNP党首・首席大臣だったサモンド率いるアルバ党が数議席獲得したとしても独立国民投票の点では、サモンドの力を借りずともスコットランド議会の過半数は占められることとなる。

スコットランド独立住民投票の可能性

201768日に総選挙(完全小選挙区制)が行われることが、下院の投票で正式に決まった。下院の総議席6503分の2を大きく上回る522票の賛成を得たのである。

この総選挙の一つの注目点は、前回2015年の総選挙でスコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得したSNP(スコットランド国民党)が、その勢力を維持・増加させて2回目のスコットランド独立住民投票に結び付けられるかどうかであろう。

スコットランド議会は、2017328日、独立住民投票を実施することに賛成し、スコットランド分権政府にイギリスのメイ政権と時期をめぐる交渉を始めることを承認した。しかし、メイ政権は「今は、そのような時ではない」とし、Brexitが完了するまでそのような住民投票を認めないことを明らかにした。

1回目の独立住民投票は、20149月に行われた。当時のイギリス中央政府のキャメロン首相とスコットランド分権政府のサモンド首席大臣が、エディンバラ合意に調印し、1998年スコットランド法30条に基づく命令で独立住民投票を実施した。すなわち、この住民投票の結果には、法的な拘束力があることを明確にして実施したのである。この住民投票は、独立反対が55%、賛成が45%で、反対派が勝利した。

スコットランドのスタージョン首席大臣は、第1回目のような形で、1998年スコットランド法30条命令による住民投票を求めている。しかし、これがなくても、独立に関する住民投票ができないわけではない。

独立住民投票の可能性が高まってきた時、多くは、そのような住民投票を実施するには、このスコットランド法30条に基づく命令がなければならないと考えた。しかし、UCLのロバート・ヘーゼル教授によれば、その命令なしでも「スコットランドの独立交渉をイギリス政府と行うのに賛成か」といった諮問的な住民投票を行うことは可能で、著名な法律家たちが、それは事実上同じ効果があるとしていると言う。ただし、そのような独立住民投票の実施には、異議が出るのは間違いなく、最高裁の判断が出るまでに数か月かかるだろうとした。

つまり、スコットランドのスタージョン首席大臣は、世論に独立賛成の機運が盛り上がって来れば、メイ首相の承認なしに、そのような住民投票を実施することができるというのである。

スコットランドの世論は、今のところ独立反対の方が強いが、メイ首相にとっては、スコットランドの独立機運が盛り上がらないようにする必要があろう。この総選挙でスコットランドの情勢がどうなるか見ものである。

スコットランド独立住民投票の駆け引き

イギリスの政界で最も優れた政治家は恐らくスコットランドの首席大臣二コラ・スタージョン(1970年生まれ:46歳)だろう。

2014年のスコットランド独立住民投票では、スコットランド国民党(SNP)は独立賛成を訴えたが45%対55%で反対派に敗れ、その責任をとり、SNP党首で首席大臣だったアレックス・サモンドが辞任し、スタージョンは後任の党首、首席大臣に就任した。

中央政界の政治家ではないが、その政治感覚は、2015年総選挙の際の党首テレビ討論で高い評価を受けたように、優れたものがある。

スタージョンは、もともと弁護士である。スコットランドの独立を標榜するSNPに十代で1986年に加入したものの、SNPの支持が強くなかったために出馬した選挙ではたびたび敗れ、議員となったのは1999年だ。

それでもSNPを後に大躍進させるサモンドに見込まれ、2004年から副党首として仕えた。SNPは、2007年スコットランド議会議員選挙で、過半数には遠かったが、労働党を1議席上回り、議会第一党となったため、サモンドが首席大臣となり、少数政権を運営した。サモンドは巧みに政権を運営し、2011年のスコットランド議会議員選挙では予想外に議会の過半数を占めることとなる。SNPは、その選挙マニフェストで、独立住民投票の実施を約束していたが、過半数を獲得したため、独立住民投票を実施せざるを得なくなった。サモンドが今でもよく言うことだが、この独立賛成キャンペーンをスタートした時には、独立支持はわずか28%だったという。独立賛成は、投票日が近くなり急に増大した。慌てた中央政界の保守党、労働党、自民党がスコットランドの大幅な自治権拡大を約束するなど巻き返しを図り、投票では45%の得票だったが、SNPは大健闘したといえる。

サモンドのような大物が退いた後の後継者は、普通苦労するものだが、スタージョンの場合、党勢を大幅に拡大し、しかも2015年の総選挙では、下院のスコットランドに割り当てられた59議席のうちSNPが56議席を獲得する結果を得て、スコットランドにおけるSNPの基盤を築き上げた。

スタージョンの基本的な独立に関する戦略は、もし、独立の世論支持が60%あれば、独立住民投票を実施するというものであった。しかし、2016年のEUのメンバーシップに関する国民投票で、スコットランドは62%の有権者がEU残留を支持したにもかかわらず、イギリス全体で52%がEU離脱を支持し、正式にEUを離脱することとなったため、その戦略を変更した。世論の独立支持は今でも50%を下回るが、メイ首相の離脱戦略は、強硬離脱だとして反対し、スコットランドは、その将来を自ら決める権利があるとして、独立住民投票を実施する方針を明らかにしたのである。そしてその時期を、2年のEU離脱交渉期間の終わる前の、2018年秋から2019年春としたのである。

メイ首相は、現在、そのような住民投票を行うべきではないと反発した。EU離脱交渉に全力を傾けるべきで、イギリスを分裂させる可能性のあることをすべきではないというのである。

住民投票を正式に実施するには、2014年の住民投票のように、スコットランド議会に住民投票を実施する権限を一時的に与える(1998年スコットランド法30条命令)ために、ウェストミンスター議会の承認を受ける必要があるが、メイ首相が反対すれば、それができなくなる。

スタージョンは非常に慎重な政治家として知られているが、メイ首相との最大の違いは、大きな賭けに出る勇気がある点だ。スタージョンは、何としてでもこの住民投票の実施に持ち込む考えを明確にしている。

前回の住民投票は2014年に行われ、それからあまり時間がたっていない。最近発表された、スコットランドの住民動向調査(Scotland Social Attitude Survey: 毎年半年かけて行われている学術調査)によると、スコットランドの独立賛成の声は、次第に強くなっており、今までになく強くなってきている。若い世代に独立支持が多く、この調査の報告者であるジョン・カーティス教授によると、待てば、いずれは独立となるという。

しかし、スタージョンは、賭けに出た。住民投票が実施できない、もしくは住民投票が実施できても独立反対が多数を占めれば、スタージョンは大きな打撃を受けるだろう。それでも、きちんとした手続きを踏み、柔軟な姿勢を貫いていけば、メイが住民投票実施に強く反対すればするほど、スコットランド人が反発し、情勢は自分のほうに傾いてくると判断しているようだ。

ブラウン元首相が、第三の選択肢として、スコットランドに条約締結権を認めるなど連邦制的なイギリス像を提案したが、このような案の支持者はかなり限られているように思われる。多くのスコットランド人は、スコットランドの将来がイングランドの中央政府に左右されることに不信と反発を感じているからである。

この問題が、どのような形で収束していくか、政治家の能力と重ねて注目される。

2018年にスコットランド独立住民投票?

2014年のスコットランド独立住民投票で独立賛成側を率いた、当時のスコットランド首席大臣サモンドは、現在、ウェストミンスターの下院議員である。住民投票で独立反対多数の結果を受けて首席大臣並びにスコットランド国民党(SNP)党首を辞任し、その後任にスタージョン現首席大臣が就任した。

そのサモンドが、2018年秋に第2の独立住民投票があるだろうと示唆した。経験豊富で、よく「タヌキ」のように描かれるサモンドにはそれなりの計算があるのかもしれない。2017年初めにリスボン条約50条に基づいてイギリスがEUに離脱通告をすると見られており、それから2年の離脱交渉が始まる。すなわち、2019年初めまでにスコットランドが独立を決めれば、スコットランドはイギリスのEU離脱時に何らかの形でEUに留まれるとの考えである。もしそういうことになれば、EU側は、柔軟に対応できる可能性があると見ているようだ。

6月23日のEU国民投票で、イギリス全体としてはEU離脱を選択したが、スコットランドの住民の62%は残留に投票した。住民投票直後の3つの世論調査で、独立賛成支持が反対側を上回ったが、それ以降の5つの世論調査では、いずれも5から7ポイントの差で独立反対が優勢である。その中で最も新しいものは、9月5日から11日に実施されたIpsos Moriのもので、独立賛成45%、反対50%、そして未定5%である。さらに、9月9日から15日までに実施されたPanelbaseのものでも反対が優勢だが、ここ数年の間に独立住民投票を実施するのに反対の人が、賛成の人の2倍以上ある。

2014年の住民投票を1世代(20年)に1度の住民投票と主張したが、わずか4年後にもう1回行っても大丈夫だろうか。メイ政権が、キャメロン政権のようにそのような住民投票を正式に認めるかどうか不明だが、スコットランド議会が、住民投票を発議することは可能だ。全129議席のうち、SNPが63議席、そして前回も独立住民投票で賛成を支持した緑の党が6議席ある。労働党議会議員の中にも賛成する議員が出るかもしれない。

ただし、独立反対派の保守党、労働党、自民党などは、北海油田からの税収がほとんどゼロとなった状態ではスコットランド財政が成り立たないとして強力な反対運動を起こすのは間違いない。特に2014年の住民投票で反対が賛成を上回った55歳以上の層をターゲットに、独立した後のスコットランドでは、年金も保証できないと主張するだろう。

問題は、独立反対の強い中で、敢えて勝ち目のない独立住民投票を実施すれば、SNPの信用を大きく傷つける可能性があることだ。スタージョン首席大臣は、第2の住民投票実施には、特別な場合を除き、独立支持が60%必要としてきた。イギリスがスコットランドの住民の意思とは異なり、EUを離れることは確かに非常に大きな変化と言えるだろう。しかし、勝ち目のない独立住民投票は、多くの労力と費用を招くばかりか無謀な政権というレッテルを貼られかねない。

スコットランド議会の過半数を制した2011年の議会議員選挙、そして2014年の独立住民投票でも投票日直前になって、SNPそして独立賛成支持が急増し、予想外の展開となった。しかし、2016年の議会議員選挙では、予想を裏切り、過半数を獲得できなかった。2011年、2014年のような事態が2018年にも起きると考えることは、柳の下のドジョウを狙うようなものと言えるかもしれない。

なお、上記のPanelbaseの世論調査では、2014年に独立賛成に投票した人の38%、独立反対に投票した人の41%がイギリスのEU離脱に賛成している。確かに、2014年に独立反対に投票したが、それ以降独立賛成に変わった人の半分以上が、EU内に留まりたいことを考えの変わった理由としているが、逆の人、すなわち、EUを離れたいために、2014年に独立賛成に投票したが、今では独立反対に変わった人も少なからずいる。スタージョン首席大臣は、スコットランド住民の意思に反してイギリスがEUを離れる、そのためにスコットランドはEUに留まるべきだと主張してきた。そしてEUの単一市場に留まることを最優先としている。しかし、単一市場の維持が最も重要だとする有権者と、移民のコントロールが最も重要だとする有権者の割合が同じであり、有権者の見方は、多岐に分かれている。スコットランド住民のスコットランド独立とイギリスのEU離脱問題の考え方は、スタージョン式の単純化したものとは異なる。

SNPと労働党

スコットランドの政情は、過去10年で大きく変わった。2005年の下院総選挙(完全小選挙区制)では、労働党がスコットランドに割り当てられた59議席のうち41議席を獲得したが、2年後の2007年のスコットランド議会議員選挙(小選挙区比例代表併用制)で、スコットランド国民党(SNP)が第1党となり、少数与党として初めて政権を担当。2010年総選挙では、労働党が41議席(SNPは前回同様6議席)を維持したものの、2011年のスコットランド議会議員選挙では、SNPが過半数を制し、2014年のスコットランド独立住民投票が可能となった。独立住民投票は、55%対45%で独立が否定されたものの、2015年の総選挙では、SNPが59議席のうち56議席を獲得。2016年のスコットランド議会議員選挙では、SNPが過半数を若干下回ったものの、2007年以来、与党として政権を担当している。一方、労働党は、2015年総選挙でわずか1議席に留まったばかりではなく、2016年スコットランド議会議員選挙では、かつて牙城だったスコットランドで、サッチャー政権以来嫌われていた保守党を下回り、議会第3党となった。

労働党は、なぜわずか10年ほどで急に勢力が衰えたのか?

労働党が有権者の信を失い、その上、2010年総選挙で政権を失い、政党として投票する魅力がなくなった。一方、その代わりにSNPが中道左派の選択肢となったためである。労働党がエスブリッシュメントの政党となり、かつての労働党支持者が離れていった。SNPは、2007年の政権では、全129議席のうち47議席しかなかったが、政策ごとに提携政党をうまく選択し、無難な政権運営をした上、特に2011年以降、イギリスから独立するという党是を武器にスコットランドの愛国心を煽り、キャメロン政権に立ち向かい、独立住民投票を実施させた。また、スコットランドの大学の学費無料を継続し、教育、福祉に力を入れ、スコットランド住民第一の姿勢を維持し、住民の信頼を勝ち得たといえる。それが2015年の総選挙ではっきりと出た。

この状態から労働党を立ち直らせるのは簡単ではない。

8月25日、労働党の党首選で立候補しているコービン党首とスミス前影の労働年金相の討論会がスコットランドのグラスゴーで開かれた。党首選討論会は全国で行われている。この党首選の投票は既に始まっており、9月21日に締め切られ、その結果は9月24日に発表される。コービンの当選は確実視されており、コービン支持者はスコットランドでも増えている。しかし、スコットランドの独立に反対しているため、スコットランドでの支持者の増え方は、イングランドやウェールズほどではない

6月23日の国民投票でイギリスは欧州連合(EU)からの離脱を選択したが、スコットランドでは3分の2近くが残留に投票した。労働党は残留の立場でキャンペーンしたが、コービンはキャンペーンを中途半端に行ったと批判された。コービンは、1975年のEC(EUの前身)国民投票で離脱票を投じた人物であり、また、EUとアメリカとのTTIP貿易投資パートナーシップ協定に反対している。しかし、労働者や消費者の権利などを考え、全体として残留を支持するという立場だった。

この討論会は、残留派の多かったスコットランドで行われ、SNP党首のスタージョン首席大臣が、スコットランドがEUから離脱しないために最大限の努力をすると主張しているため、スミスは、この国民投票の問題でコービン攻撃に出たと思われる。スミスは、2度目のEU国民投票を含め、イギリスのEU離脱を防ぐことに力を入れている。6月の国民投票の結果をそのまま受け入れたコービンが国民投票では離脱に投票をしたのではないか、また、その結果を喜んでいるのではないかと主張した。これに対し、コービンは残留に投票したと即座に答え、残念ながら離脱の結果となったが、民主的な選択の結果に従う必要があると答えた。そして、そのような疑問を投げかけたスミスは、保守党支持のタブロイド紙デイリーメールなどのレベルに落ちていると示唆した。

スコットランドの労働党建て直しについては、スミスが、革新的な政策で保守党政府を攻撃し、政権を取り戻すことが必要だとしたが、具体的な内容に欠けた。一方、コービンは、労働党とSNPは政党の伝統も目的も異なる、労働党は勤労者のための政党だが、SNPはスコットランドの独立を求める政党だと指摘した。コービン労働党は反緊縮策を訴えており、コービン政権が誕生すれば、スコットランドへの財政支援を打ち出すと約束した。

スコットランドは、これまで大きな財政収入源と期待していた北海油田からの税収が、オイル価格の騰落でほとんどゼロになり、その2015年度の財政赤字は、名目上スコットランドのGNPの10%近くとなっており、イギリス全体の財政赤字が5%を下回るのに対し、2倍以上である。スコットランド政府は、財政削減にも取り組んでいるが、教育や福祉などの人気政策の変更を渋っているため、そのしわ寄せは、地方自治体にかかっている。この財政状況は、イギリスの枠内であればしのげるが、独立国としては維持が難しく、独立機運が増す可能性は乏しい。

スタージョン政権では、財政削減に取り組みながら、スコットランドでの政権支持の維持に取り組んでいく必要があり、今後厳しい時期を迎えると言える。ここに、労働党回復のカギがある。コービンは、労働党が政権を取れば、スコットランドを助けることができるというのである。

コービンもスミスも政権樹立のためのSNPとの連携を否定している。議員の数の上では、例えば、2015年総選挙で232議席を獲得した労働党と56議席のSNPが提携すれば、288議席となり、全650議席のうち330議席を獲得した保守党から、労働党が次期総選挙で、例えば30議席獲得すれば、政権を獲得するための土台ができる。もし40議席獲得すれば、労働党とSNPで過半数を占められる。しかし、次期総選挙で、労働党が一挙に単純過半数の326議席(もしくは選挙区区割りが変更されれば、全600議席となり、301議席となる)の獲得を目指すのは、不可能と言えないが、かなり困難だ。労働党の下院議員の4分の3がコービンを不信任したのは、世論調査の支持率で労働党が低迷している上、有権者のコービンへの個人評価が極めて低いために次期総選挙では、議席を獲得するどころか、さらに大きく議席が減るという不安があるためだ。そのため、党首を変えようとした動きが、今回の党首選につながっている。

コービンは、労働党の政策にSNPが賛成するのは自由だが、それを政党間の提携のような形では行わないという。2015年総選挙で保守党やその支持メディアが、「弱いミリバンド(労働党前党首)」を「狡猾なサモンド(SNP前党首で、前スコットランド首席大臣)」が操るイメージを振りまき、保守党が過半数を制し、労働党が惨敗する一つの原因となった。同じようなことが起きることを警戒しているためだ。

いずれにしても、ここ10年ほどの選挙結果から見ると、スコットランドの住民は政権から離れた労働党に愛想をつかしており、これまでの政治への不満を集め、巧みな政策と政権運営を行ってきたSNPへの支持が強くなった。ところが、SNPは財政的にかなり厳しい状況となっており、これまで通りの政策の実施が困難になってきている。また、2016年スコットランド議会議員選挙で、SNPは議席を減らし、過半数を失った。一方、保守党が議席を伸ばし、スコットランド議会でSNPに次ぐ第2党となった。また、緑の党が議席を伸ばしたことから見ると、既成の政治への不満も集めていたSNPへの支持は既にピークを越したようだ。スコットランド政府は、イギリスの中央政府から大きな自治権を与えられており、その付与された権限を使って、独自の政策を実施できる立場にある。そのため、スタージョンの政権運営能力がこれから厳しく問われるが、財政緊縮の背景の下では容易なことではない。

イギリスのEU離脱交渉はまだ始まっておらず、また、国民投票後心配された経済的ショックは今のところ一般の人の生活には大きな影響をもたらしていない。しかし、投資は鈍っており、早晩その影響は出てくる。特に歳入に影響が出てくるだろう。

それから考えると、スコットランド政府の苦しみは、これから悪化するだろう。ただし、そのためにスコットランドの有権者が直ちに労働党への支持に向かうかどうか疑問だ。スコットランドの労働党は、基本的に自律的な組織であり、その政策は必ずしも中央とは一致しない。SNPは地域政党であり、単独でイギリス全体の政権を獲得できない。スコットランドが独立すれば別だが、独立の機は熟しておらず、イギリスの中に留まる限り、政権に参画するには他の政党に頼るしかない弱い立場である。労働党は中央政府の政権獲得の可能性があり、コービン労働党はSNPよりも左で、有権者が、労働党へ再び目を向ける可能性はないとは言えない。しかし、そうなるには、コービン労働党にプラスαが必要だ。それは、具体的には、SNP政権の失政と、コービン労働党への支持率が増加し、コービン労働党が政権を取るかもしれないという状況となった時である。そのような時がくるかもしれないが、今のところ、その可能性は見えてこない。結局、スコットランドの政局は、かなり不透明なまま、しばらく継続することとなる。

過剰に反応するスタージョン・スコットランド首席大臣

イギリスが欧州連合(EU)を離脱し、それとともにスコットランドがEUを離脱すると、2030年までに、スコットランドのGDPが、年あたり、17億ポンド(2380億円)から112億ポンド(1兆5680億円)減るとスコットランドのスタージョン首席大臣が主張した。

2015年度のイギリス中央政府からの交付金と人口540万人のスコットランド政府の税収の詳細が8月24日に発表されるが、北海油田からの税収が大幅に減っており、スコットランドの財政的な問題を指摘される前に問題を発表しておくことや、政府のEUからの離脱交渉に対する警告だとする見方がある。

ただし、このような主張は、エコノミストの予測に基づいたものとはいえ、6月23日のEU国民投票前、当時のオズボーン財相が同じように行い、顰蹙を買った経緯がある。2030年は、14年も先のことで、それまでに実際どのようなことが起きるかは予想が難しく、そのような予測をすること自体、意味が乏しい。そのため、このような「脅し」に効果があるとは考えにくい。それでもスタージョンが主張するのは、スコットランドの独立に向けて少しでも有利な条件を作りたいと考えている、もしくは、イギリスの中央政府から徴税権も含め多くの権限を与えられたが、それでもGDPが下降した場合の言い訳に使おうとしているかのように思われる。

現状では第2独立住民投票を行うことのできる条件、すなわち住民の6割以上がはっきりと独立に賛成しているといったような状況は整っていない。7月末に行われた世論調査では、独立賛成40%、反対45%だった。そのような住民投票を実施しようとすることは、既に5月のスコットランド議会議員選挙で議席数を減らしたスタージョンの率いるスコットランド国民党(SNP)の立場を弱めるだけである。

有能なリーダーとの評判があるスタージョンであるだけに、その評判をできるだけ維持したいという意図はわかるが、今回の反応ぶりは、少し過剰なように思える。

スコットランドは親EU?

6月23日に行われた国民投票で、イギリスは52%対48%で欧州連合(EU)離脱を選択。しかし、スコットランドでは62%が残留を選択した。スコットランドの最大政党で、その分権政府を担当するスコットランド国民党(SNP)は党を挙げて残留のキャンペーンを行った。国民投票の前、もしスコットランドが残留を選択したにもかかわらず、イギリス全体が離脱を選択した場合には第2の独立住民投票を行う権利があると示唆したほどである。第1の独立住民投票は2014年9月に行われ、55%対45%で独立反対が上回った。

SNPは、親EUの立場を取っているが、常にそうだったわけではない。1975年に行われたEC(欧州共同体、EUの前身)国民投票では離脱派だった。当時、スコットランドの漁業と農業を守ろうとしたことがその背景にあり、イギリスから離れても、その代わりに主権をECに与えるようなことはしたくないと考えたことがある。

EC加盟後、共通漁業政策でスコットランドの漁業は衰退し、SNPのEUとの関係に関する立場は1980年代に変化するが、現在のSNPの親EUの立場は、SNPの戦略的なものだとする見方もある。すなわち、EUとの関係を梃子にスコットランドとイギリスの立場の差を明確にし、イギリスからの独立を推進する材料とする戦略が背景にあるとする考え方だ。

ただし、反イングランド感情も無視できない。スコットランドでの人種差別事件の4分の1は、イギリス人白人に対するもので、その大半がイングランド人に対するものであると思われる。すなわち、歴史的ないきさつからイングランドから分離したいというスコットランド人がかなりいる。その一方、人口540万人のスコットランドが独立した場合、国際的に十分なバックアップを受けられるかどうか心配する住民に対し、SNPが、EUの枠内に留まり、EUから援助を受けられるとして安心させる目的もあるだろう。

政党の立場は、時代に応じて変わりうる。SNPは、イギリスからの独立を謳って設立された政党だが、その方針を変えないまでも、その時々の状況を見計らい、その政治的勢力を維持・拡大していくために巧みな運営が必要とされると言える。