デイリーメイル読者とミリバンド記事(Daily Mail Readers’ View on Miliband Article)

デイリーメイル紙が労働党のエド・ミリバンド党首の亡父を「英国を嫌悪した男」と決めつけた件で、右派のタブロイド新聞デイリーメイルの読者でさえそのような言葉を使うことは許されないと考えていることがわかった。

デイリーメイルは保守党支持で、英国第二の売り上げ部数を誇り、インターネット版では英語版で世界最大の読者数を持つといわれる。

その記事は、マルクス主義の学者であった亡父を攻撃することで、左傾化していると思われたミリバンドの危険性を浮き彫りにする狙いがあった。しかし、父への攻撃に怒ったミリバンドはそれに強く抗議している。

ミリバンドの父は、ナチスドイツの迫害でベルギーから英国に逃れてきたユダヤ人難民で、第二次世界大戦中に英国海軍で戦った人物であった。

この問題をめぐる世論調査では、ミリバンドの父を「英国を嫌悪した男」と呼んだことを許されるという人は17%にとどまり、許されないと言う人は72%にも上っている。また、78%の人はミリバンドがデイリーメイルに苦情を申し入れたのは正しかったという。

特に、保守的な見解に共感する傾向が強いと思われるメイルの読者も60%がそのような言葉を使うことは許されないと言っている。

デイリーメイルの記事は、ミリバンドの勢いを削ぐどころか、むしろその勢いを増進した効果があったようだ。しかも、その読者の見方を考えると、今後ミリバンドを攻撃する際にその親族に触れることはかなり難しくなったと言える。

ただし、デイリーメイルにとって最大の問題は、1年の契約延長がなされたばかりといわれる編集長ではないだろうか。これまでカリスマ的なリーダーシップを揮ってきた編集長に大きな疑問が出てきた。今回のミリバンドとの論争を乗り切ったとしても、一度ぐらついた信頼を取り戻すのはそう簡単ではない。

恐らくその最大の受益者は、デイリーメイルにこれまで叩かれ続けてきたミリバンドのように思われる。

ミリバンドの父の報道をめぐる論争(Mail’s Report about Miliband Father)

労働党のエド・ミリバンド党首の父親は「英国を嫌悪した」と報道したデイリーメイルの記事(9月28日)を巡る論争はまだ続いている。

デイリーメイルは保守党支持である。英国第二の売り上げを誇る、人気のあるタブロイドの新聞紙であり、そのオンライン版は英語版で世界一の読者数を誇るという。

ミリバンドの父ラルフは、1940年にナチスドイツの迫害を逃れ、16歳でベルギーから英国へ来たユダヤ人難民だった。英国の海軍で第二次世界大戦を戦い、その後、LSE、リーズ大学、アメリカやカナダの大学でも教えたマルクス主義の学者であった。1994年に亡くなった。

デイリーメイルは、そのラルフを攻撃することで、その父の影響を受けたとするミリバンドを間接的に批判しようとした。

ラルフが「英国を嫌悪した」としたのは、ラルフが英国に来て数か月後に書いた日記の一節にそれとおぼしきものがあったからだ。17歳の少年の記述を、その生涯の評価として否定的に使うのは妥当ではないだろう。

ミリバンドは、その記事に怒った。父は英国を愛していた、と主張した。デイリーメイルは、ミリバンドの反論を掲載(10月1日)したが、同時にもとの記事の主張を繰り返し、さらに社説でラルフの残したものは邪悪な遺産だと主張した。

ミリバンドは、それにさらに怒り、それ以降、デイリーメイルとの対立が続いている。

10月2日、ミリバンドの叔母(ラルフの妹)の夫の追悼会が身内だけで開かれた。そこにデイリーメイルの姉妹紙であるメイル・オン・サンデーの記者が押しかけて取材しようとした件で、その翌日、新聞紙のオーナーがミリバンドに謝罪した。しかし、デイリーメイルはその立場を維持している。

この論争の影響はかなり大きい。まず、この論争が保守党の党大会開催中に重なり、党大会へ向けられるメディアの報道時間が大幅に減った。

メディアはこの論争にかなり多くの時間を割き、また、親の子供への政治的影響について論評がいくつも出た(参照BBCの論評)。

デイリーメイルは、マルクス主義者の父親を持つミリバンドはその影響を受けて、自由市場主義に反対している、それゆえにそれを報道する価値があると主張する。

ただし、親の子供への政治的影響があるかどうかについては、どちらとも言えないというのが結論だと思われる。例えば、アメリカの共和党大統領だったロナルド・レーガンの息子は、民主党大統領候補を応援した。英国の保守党の有力政治家だったマイケル・ポーティロはメージャー政権の国防相でサッチャーの支持者だったが、その父親は、スペインのフランコ政権を逃れて英国に亡命した左翼の人物だった。

ミリバンドとデイリーメイルの論争がこれからどうなるか現時点では不明だが、こう着状態になる可能性が高いと思われる。しかしながら、もう既にこの論争の効果ははっきりしていると言えるだろう。

まず、これまで保守党らが指摘してきた「ミリバンドは弱い」という評価は消えたと思われる。

次に、新聞はタブロイド紙も含めて政治家の個人攻撃にかなり慎重になるだろう。

さらに来週、枢密院で大手新聞社らの提案した自主規制機関案の審議に少なからず影響を及ぼすだろう。

この案は、主要三党の提案した準公的規制機関案は報道の自由を妨げるとして反対し、提出されたものである。しかし、この論争は、BBCの記者がデイリーメイルは「墓穴を掘った」と評したように、自主規制機関案には大きなマイナスとなった。

デイリーメイルの編集長は、現在の報道苦情処理委員会(Press Complaints Commission)の「編集長の行動基準委員会」の委員長でもある。明らかに不適切な記事を掲載したにもかかわらず、報道の自由だと居直る態度は自己規制案に対して大きな疑問を投げかけたからである。

今回の事件は予想外に大きな影響があったが、英国のメディアの報道のあり方に好ましい結果をもたらしたように思われる。特にこれまで「報道の自由」の名の下に不当に批判されてきた政治家にはそうだろう。

英国の移民問題―神話?(Are Immigration Problems Myth?)

英国では、移民の問題は多くの国民の関心事だ。移民が英国のシステムに付け込んでいる、そして政府が移民をきちんとコントロールしていないと考える人が多い。国境局が、刑務所から出た外国人の取り扱いでミスを犯し、しかも不法滞在者を十分把握していない、移民関係の未解決のバックログが31万2千件もあり、その数が増えているというような話を聞くと、移民問題は本当に深刻だと考えがちだ。

ヨルダン人のイスラム教過激派指導者であるアブ・カタダの例は象徴的だ。この人物の存在は国家の安全を損なうと、メイ内相は、カタダをヨルダンに本国送還しようとしている。メイ内相は、同じことを試みた6人目の内相である。3月27日の控訴院判決で、3人の判事は本国送還を認めなかった。もしヨルダンに送還すれば、他の人を拷問にかけて入手した証拠がカタダに対して使われ、その結果、その人権が侵害される可能性が高いとした。

カタダは、オサマ・ビン・ラディンの欧州の右腕と呼ばれた人物である。カタダには法律扶助が与えられ、家族と住む住居は提供され、しかもそのセキュリティには1週間に10万ポンド(1450万円)かかっているという。しかし、この控訴院の判決で、カタダは英国に居続けるのではないかと見られている。

同じ日に他の裁判でエチオピア人の本国送還も否定された。このエチオピア人は2005年のロンドン爆弾攻撃未遂事件に関連した人物だが、欧州人権条約のために、英国政府は、追い出せないのである。

このような事例は、政府の能力を疑わせ、また、国民の移民への不信感を強める。それは仕事でも同じで、6割の英国人が移民は英国人の仕事を奪っていると考えている。この移民の問題は、UKIP(英国独立党)の支持率がかなり伸びている大きな要因である。

そのため、各政党は移民対策の案を出す必要に迫られている。保守党のキャメロン首相は、移民が福祉手当を受けられるルールを厳しくしようとしている。メイ内相は、国境局を内務省の直接管轄下に戻した。自民党のクレッグ副首相は、移民問題を起こす可能性の高い国からの英国訪問には、供託金を出させ、出国時に返却する案を打ち出した。この対象国は、インド、パキスタン、バングラデシュそしてアフリ諸国で、その額は千ポンド(14万5千円)と見られている。

ハント健康相は、外国人がNHSを無料で使わないよう、病院などでのチェックをきちんとするよう求めている。

野党労働党は、ミリバンド党首が過去の労働党政権下での不十分な移民対策を謝罪し、クーパー影の内相は、移民への福祉手当を抑制する案を持っている。

しかし、実際には、英国のシステムに移民の与えている影響はそう大きくない場合が多い。

例えば、キャメロン首相が移民の公共住宅への申し込みに制限をつけると発表した。一般に、移民が公共住宅の入居で優先権を与えられているという見方があるが、それを裏付ける証拠はない。

http://migrationobservatory.ox.ac.uk/briefings/migrants-and-housing-uk-experiences-and-impacts

2011年の調査では、英国生まれで公共住宅に住んでいる人が17%に対し、外国生まれで公共住宅に住んでいる人は、その18%という結果である。もちろん外国生まれであっても、英国民となっている人はかなり多い。

公共住宅の問題は、住民の生活様式の変化、例えば、離婚や離別などの増加でより需要が高まっていることや、公共住宅の住人への販売のために、公共住宅そのものの数が減っているのに、新しい公共住宅がなかなか増えないことに大きな要因がある。移民が公共住宅の不足を起こしているというよりは、社会条件の変化や政策の停滞が原因となっていると言える。

移民問題は政治家が無視できないほどに重要な問題となっているが、実態は、かなりの偏見に基づいていることが多い。偏見がこれ以上増大しないよう、政府が既存の政策をきちんと遂行し、国民の信頼を得ることからスタートする必要があるように思われる。

 

プレスの新自主規制機関の段取り(Schedule for New Press Regulation)

3月18日に主要三党の間で合意されたプレスの新自主規制機関に関する勅許は、今年5月に出される予定である。

この勅許に関連した法は、以下の二つの法案に取り入れられた。いずれの法案も今回のプレスの自主規制には関係のないものであるが、たまたま上下両院で審議が最終段階に入っていたものである。

下院では、犯罪・裁判所法案が使われ、裁判所が新規制機関に加入していない新聞などのプレスの常軌を逸した行動に懲罰的賠償金を科す条項が入れられた。この法案そのものは既に上院の審議を一度終えており、下院で審議中であった。この条項を付け加えた法案は下院で3月18日に賛成多数で可決されており、上院に最後の修正のために送られた。

上院では、エンタープライズ・規制改革法案が使われた。この法案に「2013年3月1日以降に勅許で設けられた機関」については、勅許の中に定められた要件を満たさないと規定を変更できないことを明記した。この法案そのものは既に下院の審議を一度終えており、3月20日に上院を通過する。その後、下院に修正のために送られる。

以上からこれらの二法案は、来週にも法となる予定だ。その後、5月に枢密院に勅許案が提出され、女王の勅許が出されるという段取りである。

なお、プレスの自主規制機関に加入しないまま、もし被害者から訴えられるようなことがあれば、通常よりはるかに高額の懲罰的な賠償金を科される可能性があることは、日本では憲法上の問題となるかもしれない。しかし、英国は「国会主権」であり、日本の「国民主権」下での憲法の枠組みとは異なり、基本的に国会は、国会がふさわしいとみなす法を制定できる。

もちろん、今回の合意の内容が、欧州人権条約10条の表現の自由に反するという見解を持つ専門家もいるが、それが今回の合意を妨げるものとはなっていない。

一方、このプレスの自主規制機関のような極めてセンシティブな問題が政治的に急に決着が図られるということについて、納得のいかない人もいるかもしれない。しかし、これも上記の「国会主権」の産物の一つであり、国会で決定されれば、従わざるをえないという民主主義の基本原則に関連している。

新しいプレス自主規制機関をめぐる議論(Arguments on the New Press Regulator)

保守党、自民党そして労働党の主要三党の合意した新しいプレスの自主規制機関を巡っては様々な議論がある。新聞の中にもインデペンデント紙のように「もっと悪いものになっていたかもしれない」と受け入れるところもあれば、今回の合意を非難し、態度を留保している新聞も多い。その中で、ガーディアン紙の見解は、「書類の上ではよい取り決めのように見えるが・・・」で、新聞業界との交渉がこれから始まるかもしれないと警告している。(http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2013/mar/18/press-regulation-pressandpublishing

ガーディアン紙は、報道の自由とプレスの個人のプライバシー侵害とのバランスをどうとるかという議論の他に、政治家とプレスとの「腐敗」の問題に言及している。この「腐敗」で示唆しているのは、レヴィソン委員会の公聴会でも明らかになったように、政治家が、読者に大きな影響力を持つ大手の新聞を恐れ、選挙で有利な扱いを受けるようご機嫌取りをし、これらの新聞はそのためにかなり有利な取り扱いを受けていたことだ。その結果、レヴィソン卿の言葉を借りれば、プレスは「罪なき人たちの人生を滅茶苦茶に」していた。

このプレスと政治家の関係のため、政治家は、これまで「報道の自由」の原則を盾に、プレス規制に消極的であったといえる。もちろん、ここでの政治家は、保守党だけではなく、労働党もそうである。結局、レヴィソン卿が報告書で主張したように、政治家の意思が重要であった。主要三党が妥協し、超党派で合意したことで、どの政党もプレスの標的になることを免れたと見られている。

今後の行方であるが、この自主規制機関はかなりのスピードで制定されることになると思われる。3月18日夜、下院で、新しい自主規制機関に参加しない新聞に対して 裁判所に懲罰的賠償金を課すことを許す条項が、ある法案に入れられた。その採決結果は、賛成530、反対13であった。下院議員は党派を超えて、この新制度を受け入れているようである。

勅許の内容は、今後若干の修正があるかもしれないが、一度決まってしまえば、上下両院で3分の2の支持がなければ条項は修正できないことになっている。プレスはこの新制度をできるだけ受け入れやすくするよう懸命のロビイング活動を行うかもしれないが、基本的な枠組みは受け入れざるを得ない状態となっているといえる。

プレス自主規制機関の妥協(Compromise on Press Regulator)

保守党、自民党、労働党が、ようやくプレスの独立自主規制機関の設置に合意した。新聞の中にはこの機関に加盟するかどうか態度を保留しているところもあるが、この妥協は、現在の状況下では最善のものと言えるのではないかと思われる。

経過

2012年11月の控訴院判事レヴィソン卿の報告書にさかのぼる。レヴィソン卿率いる公の調査委員会は、新聞紙らによる電話盗聴など個人の権利に対する侵害が明らかになり、プレスの行動などについて調査するため2011年7月に設けられた。

レヴィソンは、その報告書で、過去70年足らずの間に同様の調査が行われるのは今回で7回目だと指摘し、今回の勧告を採用し、次の調査が行われる必要をなくしてほしいと訴えた。

そこでは、独立の自主規制機関の設立が提案され、この機関は、法的根拠を持つものとすべきだと明記された。それ以来、主要三党間で交渉が進められてきていた。

キャメロン首相が、3月14日、突然、もうこれ以上議論しても、お互いの溝は埋められない、交渉を打ち切り、3月18日に採決すると記者会見した。そして3月15日にキャメロン案を発表。

キャメロン首相の突然の交渉打ち切りに野党労働党のミリバンド党首も、保守党と連立政権を構成する自民党のクレッグ副首相も驚いた。しかしミリバンドとクレッグは共同して案をまとめ、独自の案を3月15日に発表した。保守党内のキャメロン案への反対勢力(20人程度と伝えられた)とも連携し、3月18日には、キャメロン首相は敗れるという見込みが強まった。ところが、3党間の交渉は続いており、3月18日午前2時半ごろ、合意に達した。

争点

キャメロン首相とミリバンド党首・クレッグ副首相との考え方の違いは基本的にプレス側に立つか、被害者側に立つかということだった。キャメロンはプレス側の立場に立とうとした。プレスの自由を大義名分にしたが、プレスの影響力を恐れたためである。メージャー元首相も、23年前に同様の調査委員会を持ったが、その対応は不十分に終わった。現職の首相はこのような場面では極めて弱い立場に置かれるようだ。

一方、ミリバンド・クレッグは被害者側の立場に立とうとした。プレスの影響力は恐れたが、有名な被害者支援組織「ハックド・オフ」から安易な妥協をすれば徹底的な攻撃の書面を発表すると脅されたといわれる。

両者の立場の違いは、端的に、独立の自主規制機関を法に根拠を置くものとするかどうかに集約された。

レヴィソン報告書ではこの法について以下のように述べている

http://www.official-documents.gov.uk/document/hc1213/hc07/0779/0779.pdf.P18)。

この法律で行わないことは

  • プレスを規制する機関を設けない。規定された基準に合う自分たちの組織を設けるかどうかはプレス次第である。
  • その法律は、国会にも政府にも、いかなる規制(またはそれ以外の)機関に対しても、新聞がどのような記事であっても刊行することを妨げる権利を与えない。
  • これらの団体に、認証された自主規制機関に、その機関が認めた情報に関して訂正や謝罪の配置や目立ち方について新聞に指示する権限を持たせるよう求める場合以外、どのような記事であってもそれを刊行するよう命じるいかなる権利も与えない。

この法律で成し遂げることは

  • 政府にプレスの自由を守る法的な義務を初めて課す。
  • 新しい自主規制機関を承認する独立したプロセスを提供し、基本的な要件である独立と有効性があり、また今後とも継続してそうであることを国民に安心させる。(レヴィソンはOfcomを推奨)
  • 新しい機関を承認することにより、その行動基準と仲裁制度が、加入する者にもたらされる法の便益を正当化するのに十分であるかを認証する。これらは、データ保護、容認できる慣行・実務に関して様々な問題に対する裁判所の取り扱い方、さらに妥当な裁判外紛争処理が利用できる場合にはコストの結果に関連することもあり得る。

レヴィソン卿は、以上のような制限をつけながらも、法律で規定された独立の自主規制機関を求めたが、3党ともに、キャメロン案の勅許の方式でこの自主規制機関を設ける案で合意した。問題は、勅許をさらに法律で裏打ちするかどうかであった。キャメロンはそれに反対し、他の2党がそれは必要だと主張した。

勅許だけでは不十分

勅許とは、国王(女王)が出す、一種の手紙のようなもので、羊皮紙に書かれたものである。BBCや数々の大学、プロフェッショナルの機関、地方自治体など合計700余りがこの勅許を受けている。

この勅許を出す手続きは、枢密院で行われる。立憲君主制の下で、枢密院の役割は限られているが、その役割の一つは勅許に関したものである。枢密院の会議で、女王の正式な承認を得るが、それは既に大臣が議論して認めたものであり、勅許で自主規制機関を設けても、大臣が勅許の内容を変えようとすれば、それは枢密院で認められる可能性がある。

この点を反映して、最終的に、上院で審議されている別の法案の中にこの件の条項を付け加えることになった。

ここで重要なのは、この条項で、勅許はその中で述べられた要求事項に合致しなければ変更できないとしたことだ。この条項には、特にどの勅許とも明確にはしていないが、そのような要求事項をつけた勅許は一つしかないことから、どの勅許を指しているかは明らかである。そしてこの勅許の中には、上下議会のそれぞれ3分の2の賛成がなければ修正できないと述べる。

かなり回りくどい方法であるが、その結果、キャメロンは、これは法律に根拠を置くものではないと主張でき、一方、ミリバンドとクレッグは、これは法律に根拠を置くものだと主張できる。役人の入れ知恵かと思われる。

自主規制機関の内容

この自主規制機関は、新しい行動基準を持ち、その役員の任命も運営資金の獲得も自ら行う。苦情処理を行い、無料の被害者との仲裁機関を持ち、プレスが誤ったことをしたと判断した場合には最大限100万ポンド(1億4500万円)の罰金を命じることができる。この自主規制機関に参加しないプレスが裁判で誤りが認められると、懲罰的損害賠償を命じられる。なお、この機関を認証する独立した組織が設けられる。

ヒューン元大臣の今後(What’s Next for Huhne)

クリス・ヒューン前エネルギー相は、3月11日、ロンドンの南西部にあるワンズワース刑務所に収監された。10年前にスピード違反の点数を自分の代わりに元妻に被ってもらった司法妨害罪で、8か月の刑期を宣告されたためである。

ヒューンは、自民党所属の下院議員だった。2007年12月の自民党党首選挙で現党首ニック・クレッグにわずかな票差で敗れたが、実は、12月はクリスマス前の郵便ラッシュのシーズンで、郵便投票の中に遅配があり、そのため、この党首選で勘定に入らなかった票があった。後にこの遅配票を計算に入れると、ヒューンがクレッグを上回っていたという話が明らかになったが、ヒューンは正式な結果を受け入れた。英国の有権者には負けっぷりが悪い人を嫌う傾向がある。

ヒューンは、2010年総選挙後の保守党・自民党の連立政権でエネルギー・気候変動相となった。しかし、自分のアドバイザーとの不倫がタブロイド紙に発表されそうになったため、妻と別れた。

ヒューンは、トニー・ブレア労働党政権当時のロビン・クック外相と同じことをしたのである。クックは妻と別れて不倫の相手と一緒になる道を選んだが、外相の地位を維持した。ヒューンはそうすることで、恐らく、自分の政治家としてのダメージを最小限にする意図があったのではないかと思われる。つまり、有権者に人気のないクレッグ党首・副首相が退任した暁には、自分が党首となれる芽を残しておきたかったのではないか。

クック元外相の前例もあり、マスコミはヒューンの問題に冷静に対応した。もちろん、この問題が発覚した時には、高級紙も含めて大きく取り上げられたが、すぐに鎮静化し、ヒューンは何もなかったかのように大臣としての仕事を継続した。それでもヒューンが一緒になった女性アドバイザーにはかつて他の女性と市民婚をしていた過去があり、それに関する記事がしばらく続いた。

ヒューンは、ジャーナリストからビジネスに転じた後、自民党の欧州議会議員、そして2005年に下院議員となった人物であり、有能な政治家として知られていた。大臣としても公務員がその有能ぶりを認めていたという。

ヒューンにとって誤算だったのは、ヒューンに突然見捨てられ、大打撃を受けた元妻が復讐を企てたことである。この点でヒューンは、クックの例を十分に頭に入れていなかったといえるだろう。クックの場合、その元妻で医師のマーガレット・クックが、クックの人格を否定するような内容の本を書き、出版した。この本は評判になり、テレビ、ラジオ、新聞などマスコミにも数多く出演した。これはクックにかなり大きな打撃を与えた。

この点で、ヒューンは、その元妻ヴィッキー・プライスを低く見過ぎていたといえる。過去に英国政府のトップエコノミストであり、局長級のポストを辞職した後、民間会社に移った元妻が、自らの評判を大きく傷つけるかもしれないような危険なことをするはずがない、と考えていたように思われる。

実際には、ヴィッキー・プライスは、怒りのあまり、復讐の念に燃え、自分への害の可能性も深く顧みず、危険な道を走り始めてしまった。一旦、10年前に何が起きたかの話が報道され始めると、あとは、物事は自らの手を離れ、勝手に走り始めてしまった。10年前にヒューンのスピード違反の点数を自分が被ったのは、夫に強制されたためだ、と古い法律を使って主張したが、それは認められず、自分も司法妨害罪で8か月の刑期を受け、ロンドンの北部の女性刑務所、ホロウェイ刑務所に送られた。

ヒューンは、ワンズワース刑務所での刑務囚としての生活を始めた。サン紙(2013年3月13日)が、ヒューンの生活に触れ、あまりうまく行っていないことを示唆した。刑務官が、所内放送で、下院で議長のよく使う言葉を使って「尊敬すべきワンズワース北の紳士、朝食を事務所まで取りに来るように、静粛に、静粛に(オーダー、オーダー)」と言ったという。また、ヒューンに「金があるのだってね」と付きまとう他の刑務囚もおり、ヒューンは他の刑務囚から遠ざけるために隔離棟に送られたという。これらの話は、ヒューンの愛人が否定している。

話の真偽はともかく、かつて同じく司法妨害罪で刑務所に送られた、上院議員のジェフリー・アーチャーはすぐに他の刑務囚と仲良くなり、刑務囚にサインをしてあげる代わりに何かと便益を受けたという。ヒューンは、恐らく2か月程度の服役の後、電子タグをつけられた上で出所すると思われるが、それまでの辛抱である。

ヒューンの今後については、様々な憶測がある。ヒューンはかなり多くの不動産を持っているが、取りざたされているのは、ジャーナリズムもしくはシティーへの復帰だ。ヒューンはかつて格付け会社のフィッチの副会長を務めたこともあり、その能力がシティーで評価されるのではないかという。

ヒューンは、高転びに転んだといえるが(裁判官は、スピード違反の点数を他の人に被ってもらったことが明らかになっていれば、高い地位に就くことさえできなかっただろうと言うが)、社会でその能力を生かして働く機会を与えられる方が社会全体としては望ましいと思われる。

SFO前ダイレクターのお粗末な能力(SFO Former Director’s Mismanagement)

3月7日の下院公会計委員会(Public Accounts Committee)にSFO(重大不正捜査局)の前職と現職の責任者、前ダイレクターのリチャード・オルドマンと現ダイレクター、デービッド・グリーンの二人が呼ばれた。オルドマンは2008年4月から2012年4月まで4年間その任にあった。

焦点となったのは、オルドマンのダイレクター当時に3人の幹部の解雇手当に計100万ポンド(1億4千万円)を支払ったことである。その支払いに必要な内閣府の許可を受けていたことを証明するものが何もなかったことから、会計検査院がその支払いは不正規だと指摘し、限定意見をつけた。さらに、SFO内での情実的人事やスタッフの低いモラールが指摘された上、捜査上の大失敗があったことからこの喚問は注目されていた。

この委員会での質疑で改めてわかったのは、オルドマンは内閣府から許可を受けたと主張するが、それを証明するものがないことである。内閣府はこのような許可をなかなか出さないので知られている。オルドマンは口頭でそのような示唆を受けたのかもしれないが、書面がなければ、その責任はオルドマンにあることになる。

また、3人の幹部の一人は、チーフ・エグゼクティブであったが、その昇進した際の記録が残っていないと言う。また、このチーフ・エグゼクティブは、ロンドンから離れた湖水地方に住み、週5日のうち2日は自宅勤務で、3日ロンドンに出てきていたが、ロンドンでのホテル宿泊費、交通費に2011年度は2万7600ポンド(400万円)公費から支出していたそうだ。

オルドマンは法廷弁護士だが、1975年から公務員として働き始め、2008年にSFOのダイレクターとなった。つまり公務員として30年以上の経験があったことになる。それにもかかわらず、きちんとした記録を残さず、適正手続きの必要性を十分に分かっていなかったようだ。このような人物がSFOのような、重要で、しかも一般からの信頼が要求される部門の責任者のポストに就いていたとは信じがたい。しかし、このような例は恐らくここだけにとどまるのではないだろう。特にSFOのような、英国政府の独立機関ではその可能性がより高いかもしれない。

自民党の苦悩(Agonising Lib Dems)

BBCの政治副部長が、ある保守党下院議員が言ったとして次の言葉をツイートした。

「自民党だけだ。セックスの絡まない性的スキャンダルがあり、それをリーダーシップ危機にできるのは」

今回のレナード卿のセクハラ疑惑(レナード卿は強く否定している)で、ニック・クレッグ自民党党首・副首相は「いつ何を知っていたか」で追い詰められた。「何も知らなかった」と党に言わせ、自分が答えるのを引き延ばした挙句、党の発表と異なる声明を発表した。その結果、クレッグは大きく傷つけられた。

警察がレナード卿のセクハラ疑惑に犯罪行為の可能性があるかについて自民党の職員と会った。労働党下院議員が警察にコンタクトした後、自民党スタッフが被害を受けたという女性たちの代表として警察にコンタクトした結果だ。警察がこの疑惑に犯罪行為の要素があるとして本格的な捜査に入るかどうかにはかなり疑問がある。しかし、自民党としてはこのような行動を取らなければならない立場に追い込まれてしまったと言える。

当事者の女性たちは、非常に真剣で、そのうちの一人は、自分たちのこれまでの苦しみを他の若い女性たちに味あわせたくない、とテレビ出演に踏み切ったいきさつを語った。これらの女性たちは、そのために自民党の体質を変えることに傾倒しているようだ。

それは正しいと思う。10人にも及ぶ複数の女性が同じような疑惑を訴えていることを考えれば、元チーフ・エグゼクティブは、同じことを何度も繰り返していたのではないかと想像され、「真の被害者」、つまり、嫌であったにもかかわらず、事に及ぶこととなった人も少なからずいるのではないかと思われる。つまり、セクハラを無くすことは、こういう真の被害者もなくすことにつながり、自民党にとっては極めて大切なことだといえる。

BBCラジオにスーザンという名の自民党地方議会議員が出演し、自分の同様の経験を語った。その中で、この女性は、クレッグはどうしたらよいかわからなかったのではないか、非常に下手に問題を処理したと言ったが、これはかなり実情に近いのではないかと思われる。クレッグは、2005年に下院議員に初めて当選し、2007年12月に党首となった。すぐにレナード卿の問題を報告されたようだが、下院議員として経験の浅かったクレッグにはこの問題はかなり重荷ではなかったかと思われる。そして、この問題が現在まで尾を引いている。

ただし、この一連の過程で明らかになったのは、自民党の古い体質だ。男性優遇の体質が残っている。女性の下院議員の数は、現在56人の下院議員のうちわずか7名。しかも自民党の強い選挙区から出ている下院議員は男性だけで、現在のような低支持率が続くと、次の総選挙では、女性議員が一人もいなくなる可能性がある。クレッグのように下院議員となる前から特別扱いで、自民党の非常に強い選挙区から出馬した男性とは違う。しかも、現在自民党から出している5人の閣僚(クレッグ副首相、ケーブル・ビジネス相、アレキサンダー財務省主席担当官、デイビー・エネルギー相、ムーア・スコットランド相)は全員男性だ。

自民党が、これを契機に、党の体質を変えようとすることが、他の政党にも変わるきっかけを与えることになるだろう。自民党は、古い体質があるとはいえ、それでも保守党や労働党と比べると、かなり純粋な政党である。そのために、今回のスキャンダルが自民党に与えた打撃は大きい。しかし、長い目で見ると、英国の政治の体質を変えるためのきっかけの一つとなるのではないかと思われる。

弱り目クレッグの誤った判断(Weakened Clegg’s Misjudgment)

2月25日の新聞の第一面の多くにニック・クレッグ自民党党首・副首相の顔写真が掲載された。

かつて自民党のチーフ・エグゼクティブだったレナード卿が、在任中に党の女性関係者にセクシャル・ハラスメントをしたという疑いがかかっている件で、前夜、クレッグが自分で声明を発表した。

そこで、それまで党が継続して、「クレッグはそのような疑いは全く知らなかった」と言っていたにもかかわらず、クレッグは「レナード卿の行為に対して、間接的で特定されていない懸念」を知っており、自分の首席補佐官をレナード卿のもとへ送り、「そのような行状は、全く許されないと警告した」と党の発表とは異なったことを発表した。非常に慎重に言葉を選んで書いた声明であったが、それまでの発表とは違うという事実は変わらない。しかもクレッグは声明を読んだ後、メディアからの質問を受け付けなかった。

25日の新聞の第一面の見出しは以下のようだった。

デイリーメイル しかめ面のクレッグの逃げ口上

デイリーミラー クレッグ:私は痴漢卿のことを知っていた。

インデペンデント クレッグ:私は性的苦情を知っていた。

デイリーテレグラフ 明らかになった:ニック・クレッグに対するのっぴきならない新主張

タイムズ クレッグが上院議員についての性的苦情を知っていたと言う。

ガーディアン クレッグが性的苦情について知っていたと認める。

サンは、「衝撃的なUターン」と表現し、それはデイリーメイルも同じで、クレッグが逃げ口上を言うと攻撃した。また、デイリーエキスプレスは、クレッグはその政治家としてのキャリアで最悪の危機に陥ったと言った。

クレッグはこの日、28日の補欠選挙のある選挙区周辺でラジオ局などのインタヴューに応じたが、それ以外のメディアからの質問には答えず、海外へ飛び立った。

クレッグは、この問題への対応を誤ったようだ。2月24日の夜に自ら声明を発表するまで6日間考えに考えた挙句である。

その大きな原因は、クレッグが政治的に非常に弱い立場にあるためのように思われる。自民党はまとまりの強い政党で、現在のように低い支持率であっても、クレッグを党首として引き下ろそうという動きは見られない。しかし、2010年に保守党と連立を組んで以来、世論調査の支持率を大きく落とし、野党への政党補助金を失った上、政治献金額を大幅に減らし、しかも党員の数が大きく減った。2011年、2012年の地方選で大きく地方議員の議席も失った。連立政権に参画する代償の下院の選挙投票制度を変えるAV制度の国民投票は大差で否決され、しかも第二の代償として位置付けていた上院改革は、保守党議員の反対で失敗した。連立政権の政策に自民党カラーを注入していると言っても、それらは必ずしも一般に理解されていない。

そういう中で、さらに自民党への打撃となる事態を避けたかった心情は理解できる。

2008年にレナード卿の、特定されていない不適切な行為の疑惑の話を聞き、当時首席補佐官だったダニー・アレキサンダーにレナード卿に話をさせた、と言われる。このような疑惑の話は、多くの職場にあることで、具体的な苦情がないと具体的な対応が難しいのは恐らく周知の事実だろう。タイムズ紙のインターネットのコメント欄への投稿者も同じ見解だ。

もし、クレッグが、「特定されていない懸念」を聞いただけというのが真実ならば、クレッグは、最初から、自分はその時点で妥当だと信じたことをした、と開き直ることもできたかもしれない。もちろん、被害にあったと訴える女性たちは、具体的な話を政党のトップクラスの政治家に訴えたと主張している。もしその話がクレッグに伝わっていなければ、それはそのトップクラスの政治家たちの責任ということになろうが。いずれにしても、弱くなっているクレッグは、そのようなリスクは取れなかったと思われる。

クレッグは打つ手が限られてきている。もし、自民党の優勢とされる28日の補欠選挙で敗れるようなことがあれば、非常に難しい立場に追いやられるだろう。補欠選挙に勝ち、事態が沈静化したとしてもクレッグがさらに大きく弱体化することは避けられそうにない。