48時間で18万人が登録サポーターに

労働党の党首選は、コービン党首とオーウェン・スミスの一騎打ちとなることとなった。8月下旬から投票が始まり、9月下旬に結果が出る。この労働党の党首選で投票するため、なんと18万3541人が25ポンド(3500円)払って登録サポーターとなる申し込みをした。

6月23日の欧州連合(EU)国民投票後、労働党の党員数が13万人増え、51万5千人となり、多くを驚かせたが、この登録サポーターの受付は、7月18日の午後5時から7月20日の午後5時までと時間が制限されており、わずか48時間でこれだけの数の人が申し込んだことには驚く。これから、登録者の査定が行われ、登録サポーターとしての登録を拒否される人もある程度出るが、この数には大きな意味がある。例えば、政権を担当する保守党の党員数は明らかになっていないが、13万から15万人程度と見られている。それから見ても、労働党の人を惹きつける力は、かなりのものがあると言える。この力の源泉は、良きにつけ、悪しにつけ、党首のジェレミー・コービンにある。

EU国民投票後の入党者の大半はコービン支持と見られていたが、労働党の全国執行委員会が、今年の1月12日までに入党した者だけがこの党首選に投票できることとした。一方、登録サポーターは、2014年に党首選ルールが改正された際に、初めて導入されたが、昨年9月の党首選でコービンブームが起き、3ポンド(420円)を支払ってなる登録サポーターが、11万人余りとなり、そのカテゴリーで投票した人の84%がコービンに投票した。今回もその登録を受け付ける必要があったが、昨夏とは異なり、登録できる時間を大幅に短縮したばかりか、登録費を大幅にアップした。それにもかかわらず、登録申し込み数が予想外に多い結果となった。これには、先述の13万人の新規党員のかなり多くが、党首選の投票権を求めて登録サポーターとしても登録したことが大きな原因だと思われる。

いずれにしても、2014年党首選ルールは、有権者すべてに平等に1人1票を与えられ称賛されたが、予想外の現象が起こり、想定外の使われ方をされ、労働党内で大きな嵐を巻き起こしている。恐らく、登録サポーターの大半は、コービン支持だろう。昨年9月に党首選有権者の60%の支持を受けて当選した党首に対する不信任案に労働党下院議員の4分の3が賛成した。対抗馬のスミスは、下院議員152人、欧州議員10人の推薦を受けた。労働党下院議員全体の3分の2の支持を受けたこととなる。それでも、コービンが党首に再選されるのは確実な状況だ。

労働党党首選の行方

労働党の党首選が、現党首ジェレミー・コービンと影の労働年金大臣だったオーウェン・スミスとの間で行われることが決まった。この選挙は、党員、関連団体サポーター、そして登録サポーターの1人1票の投票で決まる。投票は、8月下旬から始まり、9月21日に締め切られ、その結果は9月24日の特別党大会で発表される。そのため、メイ保守党新政権の誕生という新しい政治状況の中であるが、野党第一党の労働党は、党内の争いで、今夏を過ごすこととなる。

労働党の現党首に挑戦するには、党所属の下院議員と欧州議会議員の20%、すなわち51人の推薦を受ける必要がある。推薦の受け付けは、7月18日から7月20日午後5時まで。スミスの他にアンジェラ・イーグルもこの数を超える推薦人を確保したと見られるが、スミスの推薦人の数が90人(下院議員88人、欧州議会議員2人)に達したため、イーグルが党首選出馬を辞退した。この背後には、党員の中にまだ強い支持のあるコービン党首に対抗するには、挑戦者を1人に絞る必要があるとの理由による。

オーウェン・スミス

スミスは、それほど知られている政治家ではない。イングランド北部で生まれたが、ウェールズで育ち、ウェールズ訛りがある。16歳で労働党に入党し、サセックス大学を卒業した後、公共放送のBBCでプロデューサーとして10年働く。労働党下院議員のウェールズ大臣のスペシャルアドバイザーとして働いた経験があり、また後には、製薬会社ファイザーのロビイストとしても働いた。2010年に初めて下院議員に当選。影のウェールズ大臣を務め、2015年に2回目の当選後、コービン影の内閣で影の労働年金相を務めた。46歳。自他ともに認める労働党の左派。

党首選の行方

昨年9月の労働党党首選でも実績のある世論調査会社YouGovの労働党員の世論調査によると、コービンが優位に立っている。世論調査実施時点では、コービンとスミスの一騎打ちとなることは決まっていなかったが、それでも、コービン対スミスの対決となった場合、コービン56%。スミス34%の支持という結果が出ている。

ただし、登録サポーターの支持がどうなるかははっきりしていない。前回の党首選では、党首選が近づくまで党員並びに登録サポーターの入党、登録が許されたが、このシステムが変更された。EU国民投票以来、13万人が入党したが、労働党の全国執行委員会で、今年1月12日以前に入党した者しか投票できないこととされた。この新党員の大半はコービン支持だと見られている。また、前回、84%がコービンに投票した登録サポーターは、登録期間が7月18日から20日に限られ、しかも登録費が前回の3ポンド(420円:£1=140円)に対し、今回は、25ポンド(3500円)と大幅にアップした。その上、労働党を守るとして反コービンの立場で登録するよう訴えているグループが新聞広告をガーディアン紙に掲載するなどの活動をしている。

一方、昨年夏のコービンブーム以来、労働党の党員の数が2倍近くになったが、ある調査によると、党員として加入した人のかなり多く(16.5%)がかつて緑の党を支持した人々である。この人たちが、核抑止戦略システム、トライデントに反対するコービンへの支持を変えるとは考え難い。なお、スミスは、7月18日の下院の投票でトライデントに賛成票を投じた。しかも、リーダーの能力として、他の何よりも、普通の気持ちの分かる人を望む人が68%、強い信念を持つ政治家を支持するとする人が49%おり、全体的に強い左寄りのリーダーを求める傾向がある。これらから考えると、労働党党内の下院議員たちの4分の3が強い反コービン傾向にあるにもかかわらず、この党首選で敗北するほどコービン支持が減るとは考えにくい状況にあるように思われる。

労働党の党首選となった内乱

6月23日の欧州連合(EU)国民投票で、イギリスが離脱を52%対48%で選択した直後、コービン労働党党首への不信任案が提出された。労働党は残留を支持したが、コービン党首が残留運動に熱心でなかったとして、労働党のリーダー失格だと主張したのである。一方、労働党の影の外相が、コービン党首はリーダーではない、コービンを信任できないとして党首辞任を求め、コービンに解任された。そして影の閣僚、31人のうち3分の2が辞任し、それ以下のポストでも同様の数が辞任した。さらに6月28日、不信任案が採決された。不信任賛成172、反対40、無効4、投票せず13という結果であった。これには、強硬左派のコービンが党首では総選挙に勝てないという見方が反映している。

通常、党所属下院議員の4分の3の信任を失った党首が継続していくことは不可能だと考えるだろうが、コービンは、党首を退くことを拒否した。コービンは、党員らが自分を党首に選んだのであって、党員らの負託に応える必要があると主張した。コービンは、前年の2015年9月の、4人が立候補した党首選で、第1回目の開票で59.5%を獲得し当選したのである。第2位は19%だった。

それ以降「コービン党首とその支持者」対「圧倒的多数の反コービン派下院議員」の構図で膠着状態が続いてきた。労働組合はコービンを支持し、副党首らの打開策を探ろうとする努力も実を結ばず、結局、影の内閣を辞任したイーグル「影のビジネス相」が51人の支持者を得て、コービン党首に挑むことになった。

保守党の場合、もし党首が過半数の賛成で不信任された場合、党首を辞任することになっている。しかも辞任すれば、党首選には再び立てないというルールになっている。しかし、労働党には、このような規定はなく、不信任にはなんらの拘束力もない。しかも現党首に挑戦する場合には、党所属下院議員と欧州議会議員の20%の推薦が必要とされている。すなわち現在では51人の推薦が必要である。

ここで大きな問題が持ち上がった。現党首は、下院議員と欧州議会議員の推薦を受けずに、この党首選に立てるかどうかである。労働党の党本部が依頼した法律専門家の判断では、現党首も同じ推薦が必要だとした。これは、コービンにとっては、非常に大きな問題である。党所属下院議員でコービンの不信任に反対したのは、わずか40人で、その後、気が変わったという下院議員が何人も出ている。そのため、51人の推薦人を確保することが極めて難しく、党首選に立つ前に、その資格がないこととなってしまう。一方、労働組合側の法律専門家の判断は逆で、コービンは自動的に立候補できるというものであった。

7月12日に開かれた、労働党の全国執行委員会で、この問題が討議され、結局、コービンが自動的に立候補できることとなった。

ただし、これには条件がある。労働党の党首選に投票できるのは、党員、関連組織(労働組合ら)サポーター、そして登録サポーターである。このすべてが1人1票で、その合計得票で勝利者が決まる。ただし、この党首選に投票できる党員は、6か月前の2016年1月12日までに党員になっている必要があるとされた。また、登録サポーターは、これから設定される2日間の間に25ポンド(3450円:£1=138円)支払った人のみとなった。昨年9月には、これはわずか3ポンド(410円)だった。

つまり、昨年9月の党首選で起きたコービンブームで、党員と登録サポーター数が大幅に増加し、それがコービンの得票に大きく貢献したような事態はなくなったのである。6月23日のEU国民投票後、労働党の党員数は、なんと13万人増え、50万人を超えた。この新規加入者の大半は、コービン危機で、コービンに投票するために加入したものと見られる。しかし、この13万人は投票できないことになった。

なお、この党首選の結果は、9月末の党大会前に発表される。保守党のメイ政権が誕生する中、労働党は、党内の内乱の対応に追われることとなる。コービンが勝つ可能性が極めて高いが、これが長期的にどのような影響を労働党に与えるか注目される。コービンが再び勝てば、労働党が割れると見る人もいるが、そうはならず、むしろ、反コービン派の下院議員の態度が軟化(もしくは諦め)していくのではないかと思われる。1981年に、左の労働党から分裂した社会民主党(SDP)は、ロイ・ジェンキンスらの大物が主導したにもかかわらず、成功せず、現在の自民党に合流した。反コービン派の下院議員には、これというリーダーがおらず、反コービン派がまとまって離党するようなことは考えにくい。

保守党党首選と労働党の内乱

現在進行中の保守党党首選と労働党の内乱は奇妙につながっているように思われる。

6月23日の国民投票で、イギリスは欧州連合(EU)を離脱することとなり、残留を推したキャメロン首相が辞任した。そして後任の保守党党首(保守党は下院の過半数を占めており、党首は首相となる)の選挙が6月30日から始まった。

一方、労働党は、政党としてEU残留を支持し、そのキャンペーンを行ったにもかかわらず、コービン党首が熱心に運動しなかったとしてコービン党首不信任案が提出され、また、強硬左派のコービンでは次期総選挙が戦えないとしてコービン辞任を求め、影の内閣の閣僚の3分の2が辞任し、それ以外のポストについていた労働党下院議員も大量に辞任した。そして行われた不信任投票では、不信任賛成172、反対40、無効4、投票せず13で、労働党下院議員たちは、コービン辞任を求めたのである。ところが、コービンは、昨年9月に党員、サポーターの圧倒的支持を受けて当選したことをタテにあくまでも党首に居座る構えだ。その労働党の党首選では、4人の候補者が立ったが、コービンは、59.5%を獲得し、2位はわずか19%だった。

保守党の党首選

保守党の党首選では、まず保守党下院議員が投票し、立候補者を2人に絞り、その2人から党員が郵便投票で選ぶ。立候補者を2人に絞るため、まず7月5日に下院議員が1回目の投票を行い、最も得票の少なかった候補者を除いて2回目の投票を実施、さらに必要があれば同じ要領でさらに投票を行い、2人に絞るということとなる。

今回、第1回目の投票でメイ内相(残留派)が他の候補者を圧倒的にリードする165票、2位はエネルギー担当相のレッドサム(離脱派)が66票、3位のゴブ法相(離脱派)が48票、4位のクリブ労働年金相(残留派)が34票、そして5位のフォックス元国防相(離脱派)が16票だった。メイが全329票(キャメロン首相が投票しなかったと言われる)の半分以上を獲得した。最も票の少なかったフォックスが規定により除かれた後、クリブが自ら辞退し、2人とも1位のメイを支持することを表明した。そして、2回目の投票は、3人の候補者で7月7日に行われ、2人に絞られる。

これでは、圧倒的にメイが優勢なように見える。しかし、メイがいくら多くの下院議員の支持を得ても、最終的には、党員が決めることとなる。保守党の党員らのウェブサイト、コンサーバティブホームが実施した党員の世論調査では、レッドサムが38%、メイが37%、そしてゴブが13%の支持だった。

このコンサーバティブホームは、元保守党副幹事長の億万長者アッシュクロフト卿がスポンサーであり、アッシュクロフト卿は、同じ糖尿病を患うメイを推していると理解していたので、意外に感じたが、アッシュクロフト卿は、同時に、私財を投じて選挙に関する大規模な世論調査を次々に行い、結果を公開している人物であり、世論調査の価値を十分にわきまえていると思われる。

コンサーバティブホームの保守党党首選の党員世論調査の結果は、メイにとっては、大きな警告である。いくら下院議員の支持を得ても、党員の支持で他の候補者を上回れなければ、党首に当選できないからである。

そこでささやかれているのは、メイが自分の支援者に3位のゴブを支持させ、レッドサムを上回る票を獲得させれば、最終の2人は、メイ対ゴブとなるという戦略である。離脱派のレッドサムが相手では、残留派だったメイが勝てないかもしれない。下院議員の数では、離脱派が残留派をかなりかなり下回るが、党員は離脱派が多いと見られている。レッドサムは、同じ離脱派だったゴブ票も惹きつけ、さらに有利になる可能性がある。ゴブは、同じ離脱派のジョンソン元ロンドン市長を裏切って党首選を断念させたとして、かなり批判を受けており、メイは、ゴブなら勝てるという見通しがある。

ただし、元銀行家のレッドサムは、その過去の投資や収入などで、何らかの問題が発覚する可能性もゼロではなく、7月7日にならないと、実際にどのような動きがあるかは予測しがたい。

なお、レッドサムが2回目の投票で最後の2人の1人として勝ち残れば、メイと女性同士の対決となり、サッチャーに引き続き、2人目の女性首相が生まれることとなる。

労働党の内乱

労働党は、党首のコービンが辞任の求めを拒否する構えを崩しておらず、反コービン派の議員が、必要な下院議員51人の支持を得て党首選を求め、党首選が行われる可能性が高い。2人が立つ準備ができていると言われる。しかし、コービン危機が伝わって以来、1週間で6万人の党員が加入したと言われる。この新規党員の大半は、コービン支持と見られ、昨年9月の支持がかなり弱まっているという分析もあるものの、もし党首選が行われると、コービンが勝つのはまず間違いないと見られている。

民主的であるはずの労働党下院議員多数が、党員の支持のあるコービンを追い落とそうとしているのは、現下に繰り広げられている保守党の例を見ても少し奇妙に映る。

内乱で党員の急増する労働党

労働党が内乱状態だ。労働党の下院議員がコービン党首の不信任案を提出し、6月28日その投票が行われた。不信任賛成172、反対40、無効票4、投票せず13で、大差で不信任案が可決された。コービン党首では次の総選挙で勝てない、惨敗する、と労働党の下院議員が恐れたことが背景にある(直前の記事参照)。ただし、このような不信任案は労働党の規定になく、拘束力はない。

コービンは党首を辞任することを拒否し、下ろしたいのなら、労働党の規定通り、党首選で臨めと要求し、コービンの影の内閣のビジネス相だったアンジェラ・イーグルがコービンの対抗馬として立つこととなった。

この党首選のタイムテーブルはまだ決まっていないが、既にコービンに投票するために党員となる人が急増しているようだ。6月29日に、コービンの古くからの友人で右腕であるマクドナルド影の財相が、過去3日間で1万6千人が労働党に加入したと述べた。既に第2のコービンブームが起き始めている可能性がある。

強硬左派のコービンは、昨年9月に行われた、4人の候補者の立った党首選で、最初の開票で59.5%を獲得し、圧倒的な差をつけて当選した。第2位の得票は19%だった。有権者は、4人の候補者に選好順位をつけて投票し、一人が50%の得票をするまで最低得票者を一人ずつ除いていき、その票を選好順位に従って割り振っていく形の選挙である。コービンは最初から50%を超え、当選した。

コービンは党首選の立候補に必要な35人の下院議員の推薦者を集めるのに苦労し、支持しないが、左の立場の候補者も入れて広い立場の討論をすべきだとした推薦人を含め、ぎりぎりで候補者になった。ところが、正直に自分の原則を主張するコービンのブームが起きた。なお、コービン支持者の支持理由は核兵器システムのトライデン反対、反緊縮財政、社会正義など多岐にわたる。コービンの政策は全体として統一を欠くという批判があるが、コービン支持者は、自分の気に入った政策をピックアップし、むしろコービンのスタイルに魅かれたと見られる。

党首選は、一人一票のシステムだが、党員、労働組合などの関連組織を通じたサポーター、登録サポーターの3つの有権者のカテゴリーいずれも圧倒的多数を占めて、当選したのである。コービンは最初から下院議員の支持者は少なく、コービンが労働党の党首となれば党は崩壊すると心配した人も多かった。労働党の圧倒的に多くの下院議員は今でもそう信じている。

なお、通常、保守党も労働党も党員数を公表しないが、過去に報告されたものでは、労働党の党員数は、2015年総選挙前日の201,293 から2016年1月10日には388,407となり、ほとんど2倍に増加した。2015年党首選前の8月の時点では、党員数292,505、関連組織サポーター147,134 、そして 登録サポーターは110,827だった。

イギリスのEU国民投票後、親EU政党の自民党への党員も急増している。EU離脱後、すでに1万人が加入したと言われる。これは、2015年の総選挙で惨敗した自民党の政策に関連したもののようだが、労働党の場合、増加のほとんどはコービン支持と思われ、コービンが再び党首選で勝利する可能性が高まっているように思われる。

EU離脱 労働党はどうなる?

6月23日の欧州連合(EU)国民投票で、イギリスはEU離脱を選択した。この結果を受け、残留派のキャメロン首相は辞任を表明し、保守党は次の党首を選ぶために党首選挙を実施する。そのため、政府、そして政権与党の保守党が十分に機能を果たせない状態だ。一方、野党最大政党(イギリスでは「対立政党」と呼ばれる)の労働党でもコービン党首への批判が前例のないほど強まり、内乱状態に陥っている。労働党は、これからどうなるのだろうか?

6月28日、コービン党首「不信任案」の投票が労働党下院議員によって行われた。結果は「不信任」賛成が172、反対が40だった。つまり、5人に4人が不信任に賛成したのである。労働党には、このような不信任の規定はなく、法的な効果はないが、象徴的な効果は大きい。この動きは、EU国民投票前の残留派の運動でコービン党首が全力を挙げて戦わなかったと批判して「不信任案」を提出した2人の下院議員に始まる。それまでコービンでは次期総選挙が戦えないとして密かに「コービン下ろし」を画策していた動きが一挙に表面化し、コービンが6月26日「影の外相」を解任した後、31人の「影の内閣」のメンバーのうち、22人が次々辞任し、しかもそれ以下のポストの下院議員も次々に辞任した。

これは、労働党下院議員たちが、キャメロン後の新首相が、就任早々にも総選挙を行うのではないか、もしそうなれば、労働党が壊滅的な打撃を受けると心配したことがある(総選挙実施の見通しについては次回にふれる)。労働党内部の調査によると、「もし総選挙が明日あれば」、大きく議席を失った2015年の総選挙で労働党に投票した有権者の69%しか再び労働党に投票しないことがわかったという。しかもEU国民投票で、労働党の牙城であるべき地域、特にイングランド北部で、労働党支持者の多くが労働党のアドバイスに反して離脱に賛成し、その結果、離脱派が勝利を収めることとなった。

これらは、これまでコービン党首がどの程度労働党を引き上げられるか、様子を見ていた労働党下院議員にとっては、決定的な証拠として目に映った。すなわち、労働党が党勢を回復するためには、既存の労働党支持者を維持するとともに、さらにそれ以外の人たちの支持も獲得する必要があるが、むしろ、コービンは支持を失いつつあると感じたのである。これでは、数か月先に行われるかもしれない総選挙で惨敗するという危機感が労働党下院議員たちにある。そこで、多数の「影の内閣」メンバーの辞任と圧倒的な「不信任」支持で、コービンが自発的に党首の座を辞任することを期待していた。

ところが、コービンは、あくまで、党首に居座り続ける構えである。昨年9月の党首選挙で、労働党の党員やサポーターらの圧倒的な支持を受けて当選した。コービンは労働党の下院議員の中でも最も左派の強硬左派であり、中道的な労働党の指導部の指示に反して下院で投票してきた「問題議員」であり、1983年以来下院議員を務めるにもかかわらず、政府内の役職を務めたことがない。昨年、党首選に立候補するための推薦人の確保に苦しみ、党首選での議論を活発化するためとして、投票しないが、推薦人にはなるとした下院議員が何人もいたため、党首選に立候補できたほどである。ところが、コービンの正直に自分の信念に基づく言動に好感を持ち、惹きつけられた人々がコービンを支持し、党員、サポーターが急増し、あれよあれよという間に、コービンブームとも呼ばれる現象が起きて当選した。労働党下院議員たちの多くは、この結果に失望した。それ以来、もしかするとコービンが労働党に何かプラスをもたらすかもしれないとの淡い期待を持っていたが、労働党は、失敗の続く保守党政権にもかかわらず、世論調査で保守党を下回る支持しか得られず、労働党がその命運を改善しているような現象は見られない。EU国民投票でその不満が一挙に吹き出た形だ。

コービンは、労働党下院議員からの辞任圧力にもかかわらず、自ら辞任する考えはない。党首に選出された経過からして、自分への信任は下院議員たちからではなく、一般の党員やサポーターたちから来ていると考えているためである。また、労働組合もコービンを支持している。そのため、正式な党首選挙で勝負を受けるという立場だ。コービンはその信念で有名な人物であり、労働者や弱者を守るのがその目的である。自分が引けば、これらの人たちの扱いがおろそかになると信じている。党首選挙で敗れれば、当然引かざるをえないが、それまでその意思はないように見える。

コービンを見くびっていたこともあるのだろうが、コービン下ろしを求める下院議員たちは、苦しい立場に立っている。党員やサポーターのコービン支持が弱くなっているという見方があるが、それでも党首選挙でコービンが再び党首に選ばれる可能性は極めて高い。コービン派の支持者らは、表立って、または背後で、反コービンの下院議員たちを苦しめるだろう。また、労働組合最大手のユナイトのトップが、「下院議員選挙候補者の選挙区選出方法の変更」を認める可能性を示唆した。これまで現職議員は、基本的に、それぞれの選挙区で再び候補者として選出されることなく立候補できたが、これからは労働党候補者として立候補するためには、現職議員でも選挙区支部で再び候補者として選出される必要があるようになるかもしれない。そうなれば、コービン支持の党員が、反コービン現職議員を意図的にブロックしようとする動きに出る可能性がある。

もし、コービンが党首選で再び党首に選ばれた場合、現在の労働党の分裂状況が膠着状態となる可能性がある。そして総選挙が行われた場合、分裂した労働党が再び敗れれば、コービンが責任を取って党首を辞任するだろう。一方、総選挙でコービン労働党が、イギリスのEU離脱反対を唱え、EU国民投票の再実施を訴えて戦えば、一党で下院の過半数を制せずとも、残留派のスコットランド国民党など他の政党との連携で、過半数を制する可能性もあるかもしれない。

一方、もし、党首選挙でコービンが敗れた場合、新党首が就任し、労働党が一応、統一した状態となると思われる。

ただし、多くの労働党下院議員は、コービンが自発的に辞任することを願っていたように思われる。その一つの理由は、前党首エド・ミリバンドの兄で元外相デービッド・ミリバンドのイギリス政界への復帰の可能性である。デービッド・ミリバンドは、2010年党首選挙で、党首に選ばれるのは間違いないと見られていたが、労働組合のエド・ミリンバンドへのテコ入れで、わずかの差で敗れた。その後、アメリカのニューヨークに拠点のある世界的な慈善団体のトップとして、アメリカでも有名な人物となっている。もし、コービンが辞任すれば、殺害されたコックス下院議員の選挙区の補欠選挙に立候補し、党首となる道があるかもしれない。そうなれば、その能力と併せ、労働党の「白馬の騎士(救世主)」となる可能性もある。

労働党の今後が注目される。

反ユダヤ主義問題とコービン労働党党首

労働党の党首にコービンが2015年9月に就任して以来、8か月近くたつ。コービンは、労働党で最も左と目され、それまで党のリーダーシップから無視されていた。そのコービンが党首選に立候補するのに必要な労働党下院議員35人の推薦(必ずしも支持、投票する必要はない)を受けられたこと自体、驚きであったが、コービンの立候補で、党員や登録サポーターの数が急増し、コービンは地滑り的大勝利を収める。

この結果は、圧倒的多数の労働党所属下院議員の意思に反してだった。つまり、労働党下院議員と党員やサポーターたちとの考え方が全く異なる結果となったのである。これが現在の労働党の問題の底流となっている。

ある新人労働党下院議員が、議員となる前の2014年にイスラエルはアメリカに場所を移すべきだという意見に賛成していたことがわかり、大きな議論となった。この女性議員は、党員資格停止され、取り調べられることとなった。反ユダヤ人の動きが大学生労働党支部や党関係者にあると批判されており、一部の者は労働党を既に除名されている。このような中で、労働党内の反コービン派や保守党の関係者、またメディアらが、地方議員らも含め、労働党関係者のソーシャルメディアなどでの発言を徹底的に調べているようだ。

上記の女性下院議員の問題をきかれた、前ロンドン市長で元労働党下院議員のケン・リビングストンが、これまで労働党内で反ユダヤ主義者は知らないとし、この女性下院議員がやりすぎたと批判しながらも、この女性は反ユダヤ主義者(Anti-Semitist)ではないと主張した。そしてヒトラーが当初シオニズム(Zionism:ユダヤ人国家の建設運動)を支持したが、後に頭がおかしくなり、600万人のユダヤ人を殺害したと発言したのである。

この発言の中で、特にヒトラーがシオニズムを支持したという点が大きな問題となり、反コービン・反リビングストンの労働党下院議員が、リビングストンに面と向かい、ナチス擁護者などと攻撃した。メディアが殺到し、大きな騒動となり、コービンはリビングストンを党員資格停止とし、リビングストンも取り調べられることとなった。

この問題にはいくつかの面がある。

まず、コービンのもともとの考え方である。まず、コービンは、イスラエル政権がパレスチナ人を迫害していると考えている。そしてイスラエル政権を批判し、パレスチナ人の権利を守ろうとしていることである。これは、労働党を含めた多くの左派の人たちの見方だ。これは、反ユダヤ主義ではない。

さらに、コービンはかつての労働党であったような、すぐにメンバーを取り調べ、除名するような体制は好ましくないと考えている。つまり、よほどのことがない限り、このような手段は使いたくないと考えていることだ。そのため、何か問題が出てくると、自分の得心が行くまで決定を待つ傾向がある。

これは、これまでの政党リーダーたちの対処法とはかなり異なる。これまで問題を芽の段階で摘み取ってしまう、もしくは摘み取ろうとする傾向が強かった。既存のリーダーシップの在り方とは異なるため、多くは、コービンはリーダーとしての資格がないと見る。ただし、コービンは、このような批判を無視している。しかし、5月5日の地方分権政府や地方自治体の選挙が控えている中では、放っておけず、行動に出た。特にウェールズでは、メディアの批判の強いコービンに、選挙前にウェールズに来ないでほしいとの依頼があったほどである。

さて、コービンは繰り返し、反ユダヤ主義やいかなる人種差別にも反対すると主張している。しかしながら、反コービン派の人たちは、コービンの対応は遅すぎると批判している。ただし、この批判の背後には幾つかの思惑があるように思われる。

まずは、保守党だ。欧州連合(EU)国民投票で保守党が残留派と離脱派で割れている。そのため、両派のつばぜりあいが続いており、いずれの結果となってもキャメロン首相降板への圧力がかかる状態だ。さらにタタ製鉄の撤退問題対応の不手際、若手医師のストライキなど、政府の統治能力を問う問題が続いている。これらが5月5日の選挙に与える影響を心配し、有権者の視点をコービン労働党の無能ぶりに向けようとしているという要素があるだろう。

また、労働党内の反コービン派は、コービンを党首の座から引き下ろそうとしており、コービンにダメージを与える機会をうかがっている。ただし、実際にコービンを引きずり下ろせるかどうかは否定的な見方が強い。もし党首選が実施されたとしても、コービンが出馬すれば、党員やサポーターの支持は、党首選の際と同じレベルであり、コービンが再び他の候補に圧倒的な差をつけて勝利する可能性が高い。当初、反コービン派は、コービンは自分がリーダーとして不適任であることをすぐに悟って、自ら身を引くと見ていたが、コービンは今でもやる気満々で自分のペースで対応している。

さらにイギリスのメディアへのユダヤ系関係者の影響力が非常に大きい点がある。リビングストンは、反ユダヤ主義を否定するが、一般の人たちにとっては、イスラエル政府の行動への批判と反ユダヤ主義を切り離すことは容易ではない。また、イスラエル政府は、国連らの圧力にもかかわらず、パレスチナ人の国家を認めることに反対している。イスラエル政府の政策や行動への批判は、一般のイギリス在住のユダヤ人にも少なからず影響があるだろう。そのため、ユダヤ系の人たちは強く反応する傾向がある。そしてメディアのコービン労働党への批判は、極めて強いものがある。

リビングストンは、自分の発言は、歴史的な事実に基づくものであり、何ら謝罪する必要がないと主張する。実際、ヒトラーがシオニズムを支持したかどうかについては、少なくとも1933年にヒトラー政権とユダヤ人団体がパレスチナにユダヤ人を移動することで合意した事実がある。リビングストンの発言は一貫しており、かつては大ロンドン議会のリーダー(当時の市長役)を務め、さらに国際都市のロンドン市長を2期8年務めたリビングストンがユダヤ人を含めた人種差別を容認する、もしくは容認したことがあるとは考えにくい。リビングストンは党員資格停止となったが、労働党を除名される可能性は少ないように思われる。

リビングストンとコービンは古くからの友人であり、考え方が近い。リビングストンはコービンから国防関係の諮問委員会の共同委員長にも任じられており、リビングストン攻撃は、実際上、コービン攻撃の要素が強い。

コービンは、この5月5日の選挙で評価される、もしくは評価されるべきで、もし労働党が大きく地方議会で議席を失えば、それは有権者がコービンを不適格だと判断したことだと主張する向きがある。ただし、コービンはそれらの憶測に無関心を装っている。

コービン労働党党首が、EU残留を支持する理由

労働党では、下院議員のほとんどが欧州連合(EU)残留支持で、離脱派は一桁しかいない。労働党支持者は、保守党とは異なり、大方が残留支持である。労働党は残留支持と言ってきたが、これまでジェレミー・コービン労働党首は6月23日のEU国民投票に対して積極的に発言してこなかった。しかし、コービンが、このたびイギリスはEUに残留すべきだと公式に発表した。

コービンは、これまでEUを民主的でないと批判してきた。また、1975年の欧州経済共同体(EEC)のメンバーシップの国民投票では離脱側に投票をしたことから、コービンは、本当はEU離脱支持ではないかと憶測されていたのである。

EU残留派と離脱派が拮抗した世論調査がかなり多く、あと10週間ほどの運動でどちらに転ぶか予断を許さない状態になっている。キャメロン首相らには、有権者の多くはキャメロン首相の「威光」の効果で、首相と政府の推薦する「残留」に投票する人が多いのではないかと見ていた向きがあったが、「パナマ書類」に含まれていた、キャメロン首相の亡父の設立したオフショアファンドの問題でキャメロン首相が大きく傷つき、有権者の評価でコービン労働党首よりも低い評価を受ける状態となっている。この中、労働党の支持者の投票がカギを握ると判断されており、コービン党首の積極的な「残留支持」が必要不可欠となっていた。

コービン党首の「残留支持」スピーチの中で、特に興味深いのは、その主な理由だ。イギリスがEUから離脱すると、EU内の規制を離れ、保守党政権が労働者の権利を大幅に捨て去ると主張した。確かに、キャメロン保守党政権では、2015年総選挙後、労働者のストライキを困難にしようとし、また、労働党の財政の多くを占める労働組合からの献金に規制をかけようとしている。

コービンは一方では、EUのこれまでの取り組みを批判し、労働者の権利について他の加盟国と協同して強化することが必要だと述べたが、EU内に残留することで、保守党政権の行うことに一定のタガを絞めようと考えているようだ。しかし、このようなEUの規制が、離脱派がEU離脱を求める強い動機となっており、これまでキャメロン首相らがEU改革を求めてきた一つの理由である。

コービンの「残留支持」を、キャメロン首相は歓迎し、労働党らと多くの点で考え方が異なるが、「残留支持」で同じ目的を持つと主張した。

残留支持側も、すべての人たちが、それぞれの目的に情熱を持って支持しているわけではない。気に入らない面もあるが、残留する方が、現実的、または安全などといった理由で支持している人が少なからずいる。コービンの場合もそれに似ているように思われる。

イギリス政治2015年から2016年へ

2015年の政治は、5月の総選挙を中心に展開した。もちろん、政治は、過去からの継続であり、これまでの出来事に大きな影響を受ける。特に以下のものは重要だ。

  • 2010年総選挙後、保守党と自民党の連立政権成立と自民党支持の急落
  • イギリス独立党(UKIP)への支持の急伸
  • 2014年9月のスコットランド独立住民投票とスコットランド国民党(SNP)への支持の急伸
  1. 自民党支持の急落
    自民党は、2010年総選挙後、支持が急落した。2010年5月の総選挙の得票率は23%、そして総選挙直後20%余りの支持があったが、同年8月には10%台前半、そしてその4か月後の12月に一桁となる。その年10月、総選挙後に発表されることになっていたブラウン報告で、大学学費の大幅アップが提案された。それまでの年額3千ポンド(54万円:£1=180円)ほどから、一挙にその3倍の上限9千ポンド(162万円)とする案は、その年12月に両院の議決を経て、法制化。結局、保守党との連立に応じ、大学学費値上げ絶対反対を唱えていた自民党の支持率はそれ以降回復せず、2015年総選挙で惨敗した。そして、現在も低迷している。
  2. UKIP支持の急伸
    UKIPへの支持は、2013年からコンスタントに二ケタとなる。この支持率は、国政選挙の総選挙への投票支持動向であり、2014年5月に欧州議会議員選挙イギリス選挙区でトップとなるUKIPへの支持率とは異なる。2014年後半には、保守党から離脱した2人の下院議員が、UKIPに加入し、選挙区有権者の信を問うとして下院議員を辞職、それぞれ補欠選挙に立ち、いずれもUKIPの下院議員として当選した。しかし、2015年総選挙では、得票率12.6%だったが、このうち一人が当選しただけで、UKIP党首はじめ、全員落選。これはイギリスの小選挙区制度に基づくものであり、もしこれが比例代表制だったら82議席獲得していたはずと言われる。
  3. SNP支持の急伸
    スコットランド独立を標榜するSNPには、2011年スコットランド議会議員選挙で全129議席の過半数を占めた実績があった。しかし、2014年9月のスコットランド独立住民投票では、独立反対が賛成に大きな差をつけるという見方が強く、独立住民投票の実施で、SNPがその勢力を弱めるという観測があった。ところが、この住民投票の直前、独立支持派が急伸。結果は、独立反対55%、賛成45%で、独立は否定されたが、この住民投票後、SNPへの入党が急増し、それまでの2万5千余りから10万人を超え、4倍以上の増加。このSNPの党勢強化を背景に総選挙に臨んだ。

この3つの要素が、保守党、労働党の動きなどと絡み合い、2015年総選挙の行方を左右した。保守党と労働党が互角の勢いと見た人が多かった。保守党は、その経済・財政政策に力を入れ、その実績の強みを強調し、コンスタントなメッセージを有権者に送ったのに対し、労働党は、福祉、経済・財政、NHSなど、バラバラなメッセージを出すこととなった。さらに保守党は、キャメロン首相への有権者の評価が、ミリバンド労働党党首よりもはるかに高いことを強調した。

選挙戦では、保守党を含め、いずれの政党も過半数が獲得できずないハング・パーラメントとなると予想され、連立を組むことになると予想された。その中、SNPがスコットランドを席巻する勢いとなっていることを受け、労働党とSNPが連立を組む可能性が高いことが指摘された。その中、保守党が強調したのは、以下の点である。

労働党が政権を獲得するためには、SNPが必要、しかし、SNPはイギリスを壊そうとする政党であり、SNPに支えられた、リーダーシップが乏しく、弱いミリバンド政権は危険、一方、保守党は、右のUKIPに票を奪われており、苦しんでいる。このメッセージを、そのターゲットとした、前回の勝者と次点の差の小さなマージナル選挙区で強力に浸透させようとした。

その影響を直接受けたのが、自民党である。低い全国的な支持率にもかかわらず、自民党が優位と思われた選挙区、特にイングランド東南部などでは、自民党が議席を失い、20数議席は獲得できるとの予想が、一桁の8議席と、2010年総選挙の53議席から大幅に後退した。

労働党は、UKIPにもイングランドの北部などで大きく票を奪われた。イングランドでは、マージナルの選挙区で予想以上に敗れ、前回2010年の191議席から206議席へと若干議席数を伸ばしたものの、スコットランドに割り当てられた59議席のうち、前回の43議席からわずかに1議席となった。SNPに56議席を奪われる大敗北を喫し、その結果、労働党は、2010年の256議席から232議席へと大きく議席を減らす結果となった。

労働党は、歴史的な大敗を喫したという見方があるが、事実上、労働党はスコットランドで負けたのである。

総選挙後の政治

2015年総選挙では、過半数をやや上回り、他の政党の合計議席数を幾つ上回るかを示す「マジョリティ」が12となった保守党の単独政権となり、保守党関係者も含め、大方の予想を裏切る結果となった。そのため、総選挙後の政治は、保守党が総選挙で約束したことを実行するのに手こずる形となっている。その最も顕著なものは、低所得者の所得を補助するタックス・クレジットと呼ばれる制度である。財政赤字を減らすための財政削減で、福祉手当を大幅に削減する必要があり、その標的となっていたのがこのタックス・クレジットの大幅削減であった。オズボーン財相は、何とか実施しようとしたが、結局、低所得者の収入が大きく減るなどの理由で、上院の賛成も得られず、少なくとも当面、実施しないこととなった。

さらに、キャメロン首相が、総選挙後、首相の職に留まれば、2017年末までに実施すると約束した、欧州連合(EU)に留まるかどうかの国民投票がある。この問題で、キャメロン首相は、他のEU加盟国との交渉に懸命だ。

一方、野党第一党の労働党では、総選挙結果を受けて、エド・ミリバンドが党首を辞任した。その後任の党首には、当初全く勝ち目がないと思われた、労働党の中で最も左翼と見なされるジェレミー・コービンが、党首選有権者から圧倒的な支持を受けて選ばれた。それ以来、労働党内は、揺れている。党所属下院議員の支持をほとんど受けなかった新党首と、それ以外の下院議員の関係が落ち着くには今しばらく時間がかかりそうだ。

2010年総選挙で大きな役割を果たした主要3党のうち、自民党が大きく後退し、小政党が大きく躍進した。保守党と労働党の2党は、1945年総選挙で97%の得票をしたが、2015年には、それが67%。それでも、小選挙区制をとるイギリスでは、保守党が過半数を制し、2大政党制が保たれた形となった。なお、保守党、労働党に自民党を加えた3党では、2010年総選挙で88%(2大政党では65%)の得票率、2015年総選挙では、それが75%となった

2016年の政治

2016年の政治環境は、これらを反映したものとなる。イギリスは、4つの地域、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドを併せた連合王国だが、それぞれの地域でトップの政党が異なる。イングランドでは、保守党、スコットランドでは、SNP、ウェールズでは労働党、そして北アイルランドでは、地域政党の民主統一党(DUP)であり、それぞれの地域の利害は一致していない。その中、保守党と労働党の2大政党が総選挙で投票の3分の2しか獲得できず、このうちのいずれかが3分の1をやや上回る得票で政権に就く形である。なお、投票率は2015年総選挙では66%で、有権者の3分の1が投票していない。つまり、現在のキャメロン保守党は、かなりぜい弱な政権基盤を持つといえる。その中で大きなカギは、2016年中に行われると見られているEU国民投票の結果と、2015年9月に労働党党首に選ばれたコービンがどの程度国民の支持を集められるかである。コービンの場合、2016年5月5日に行われる、地方選挙並びに分権議会選挙の結果がその目安となるだろう。いずれにしても、2016年末までには、2020年に予定される次期総選挙の基本的な構図がはっきりとしてくるように思われる。

労働党新党首コービンの「首相への質問」

毎週水曜日、正午から「首相への質問(Prime Minister’s Question Time)」が半時間行われる。野党第一党で、正式な「対立政党」の労働党の党首は、首相に6つの質問が許される。 

この5月の総選挙まで党首を務めたエド・ミリバンドの質問には、保守党のキャメロン首相が、まともに答えず、お互いの貶しあいに終始することが多かった。しかし、労働党の新しい党首のジェレミー・コービンは、それを変え、きちんとした「大人の質疑応答にしたい」と表明し、それにキャメロン首相も応じた。

9月に労働党の党首に選ばれたコービンは、これまでに4回質問している。コービンは、1983年の初当選以来、30年以上を経たベテラン下院議員だが、これまで政府の役職にも、野党の影の内閣の役職にも就いたことがなかった。そのため、当初、この「首相への質問」でキャメロン首相に軽くあしらわれるのではないかと危惧する声があった。

1回目の質問(9月16日)は、9月12日に労働党の党首に選ばれてからわずか数日しかたっていなかったが、コービンは無難に乗り切った。この際、事前に質問を募り、Eメールで返ってきた4万の質問の中から、6つを選択し、それぞれの質問者のファーストネーム、つまり、マリーなど、姓名の名前を付けて質問したのである。これは新鮮な印象を与えた。コービンの質問後、あれは私の質問だったという人が現れ、でっち上げた質問ではないことがわかり、「正直」なコービンを印象付けたと言える。

確かに新たな試みではあったが、評価は、そう高くはなかった。質問は、住宅問題、政府の福祉助成(タックスクレジットと呼ばれ、生活費を補うもの)、メンタルヘルスの問題に関したものだった。首相の答えに対して、コービンは簡単なコメントを付け加えたが、散漫な印象を与えたように思われる。

2回目(10月14日)は、党大会シーズンのために下院が休会されていたため、1か月近く間が空いた後の質問であった。コービンの手法は、1回目の延長であった。タックスクレジット、住宅、乳がんの問題を扱った。

3回目(10月21日)は、コービンの真剣さはわかるが、質問がやや低調で、キャメロン首相の議論が勝っているような印象を受けた。質問の内容は、再びタックスクレジット、イギリスの製鉄産業の苦境、そして障碍者への不当取扱いの疑いで、国連がイギリスを調査していることに関したものだった。

そして4回目(10月28日)には、その2日前の月曜日に、上院でオズボーン財相のタックスクレジット削減が否決されたために、そのままでは、来年4月からの実施ができなくなったという事態を受けての質問をした。4回目で、コービンが質問に慣れてきたということがあり、しかも上院の反対で、政府側が苦境に陥ったという状況を効果的に使う質問だった。コービンは、6回の質問を、すべてタックスクレジットの問題に使い、「誰も暮らしが悪くならないと保証できるか」に絞った。首相は、守勢に回り、顔をしかめた。結局、キャメロン首相は、その質問に答えずに終わった。

首相への質問は、その時々の政治状況を反映する。コービンにとって、タイミングよく、この政治状況が起きた。しかも、保守党側のヤジの大きい時、意図的に沈黙したのは効果を上げたように思われる。しかし、首相への質問をコービンがどの程度活用できるかは、次回以降の出来栄えによるだろう。次回の首相への質問が楽しみである。