コービン労働党への世論支持は最悪か?

EU残留か離脱かをめぐる国民投票が行われた後、労働党影の内閣のメンバー大量辞任、そして党所属下院議員4分の3が党首コービンを不信任し、労働党の内乱が始まった。それでもコービンは昨年9月の党首選で党員・サポーターの圧倒的な負託を受けていると主張し、辞任することを拒否した。そして、現在、コービンと影の労働年金相だったスミスの2人による党首選となっている。この党首選の結果は9月24日に発表される。8月12日時点での労働党の選挙区支部の推薦状況では、コービン242、スミス45で、コービンが大きな差をつけている。

反コービン派の内乱は、EU国民投票で労働党が残留を支持したにもかかわらず、コービンが中途半端な運動をしたために、離脱が勝ったとして、コービンの責任を問うことから始まった。しかし、昨年9月にコービンが予想を裏切って党首に選ばれて以来、労働党下院議員の多くは、強硬左派のコービンでは選挙に勝てないと決めてかかっていた点がある。

コービン下ろしの最大の理由は、世論調査で労働党の支持率が低迷していることである。通常、野党第一党は、政権政党への批判を吸収して、選挙と選挙の間のかなりの期間、高い支持を集める傾向がある。特に、その後の総選挙で勝った政党は、10ポイント以上の大きな差をつけることが多い。ところが、コービン率いる労働党は、政権政党の保守党より、継続して下回っており、これでは到底選挙に勝てないというのである。今年5月の地方選挙でも労働党は大きく勝つべきだったが議席を減らしたと批判する。コービンは最悪だというのである。

これを分析するには、プリモス大学のRallingsとThrasher両教授の分析(p16)が参考となる。地方選挙は、毎年、部分的に行われるが、全国的に見た得票率を1979年から推計したものである。これによると、この5月の地方選挙では、労働党が33%、保守党が32%となり、労働党が1%上回っている。コービンが党首として初めて迎えた地方選挙の得票率としてはかなり低いと言えるが、それでも2002年のイアン・ダンカン=スミス党首の保守党が労働党を1%リードした時と並ぶ。また、2011年のミリバンド党首の労働党は保守党に1%よりも下回っていた。いずれの場合もその次の総選挙では大敗しているが、コービンが最悪というわけではない。

ただし、こういう過去の例が、そもそもコービン労働党の場合に当てはまるかどうか疑問がある。コービンが労働党の党首に当選したこと自体、本来あるべきではなかったことが起きた。また、多くの労働党下院議員の動きで見られるように、コービンブームは昨年の党首選の一時的なものだったと思った人が多かったと思われるが、今回の労働党内乱では、そのブームは継続しているだけではなく、昨年よりも強まっているように思われる。労働党選挙区支部で党員が急速に増加しているが、その圧倒的多数は、コービン支持と伝えられる。また、党首選で投票するためにサポーターになろうとして、今年7月、わずか48時間の時間枠内に18万3千人が25ポンド(3500円)を支払ったということに見られる。この人たちの圧倒的多数は、コービン支持だと見られている。閣僚も長く経験した労働党のベテラン下院議員マーガレット・ベケットが、これらの人たちは、労働党を支持して労働党の党員になったわけではなく、「コービンのファン」だと指摘したが、ここに現在のコービンブームの源泉がある。

保守党のメイ党首が首相に就任して1ヶ月、まだそのハネムーンが続いており、保守党と労働党の支持率の差は7から14ポイントある。総選挙が近いと見る人が多く、メイが総選挙を実施すれば、労働党は大敗するという声が強い。しかし、2011年固定議会法がある中、2020年より前に総選挙を実施することは、そう簡単ではない。

また、政権は野党が獲得するのではなく、政権政党が失うものだとよく言われる。メイ政権がEU離脱交渉をめぐるごたごたなどの問題を抱え、コービンブームがさらに大きく広がるような事態が起きれば、保守党が過半数を割る事態が起きるかもしれない。ただし、現在のように労働党の中で内乱が続き、コービンがメイに満足率で極めて大きな差をつけられているような状況では、コービンの議論に真剣に耳を傾けるような有権者はそう多くないだろうが。

労働党内紛:強力なコービン支持

コービンが党員らの圧倒的な支持を受けて労働党党首となったのは、昨年2015年9月だった。4人立った党首選では、有効投票総数の59.5%を獲得し、第2位の19%に大きな差をつけて当選した。これは、労働党の下院議員たちの大多数には大きなショックだった。強硬左派であり、労働党トップの指示に従わない「問題議員」だったコービン党首では、到底総選挙に勝てないと信じたからである。総選挙で勝てないどころか、労働党は惨敗し、大きく議席を失うだろう、なるべく早くコービンを党首の座から下ろす必要があると考えた。そしてこれまでその機会をうかがってきた。欧州連合(EU)国民投票後、それを実行したが、党員らのコービン支持は非常に強力で、労働党の4分の3にも及ぶ反コービン派下院議員たちには打つ手がなくなってきている。

コービン下ろし

まず、反コービン派の下院議員たちは、補欠選挙、地方選挙などで労働党が惨敗すれば、その機会に一挙にコービン下ろしに打って出られると考えていた。ところが、これまでの4回の下院補欠選挙では、負ける可能性が大きいと言われながら、いずれも勝ち、しかもそのうち3回は得票を伸ばした。また、5月の地方選挙でも予想よりはるかに健闘した。イングランドの地方議会議員選挙では、十数議席の減少に食い止め、保守党よりも減少数が少なく、大きく議席を失うと見られていたウェールズ分権議会でも1議席減らしただけで、政権を維持した。スコットランド分権議会選挙では2015年の総選挙に引き続き、大敗したが、スコットランドは、ウェールズとは地位が若干異なり、スコットランド労働党の自立性が強いため、コービンの責任とは直接みなされなかった。なお、北アイルランドは特別で、労働党の友党である社会民主労働党があり、労働党は選挙で候補者を立てていない。

コービンがこれらの選挙を予想に反して無難に乗り切った後、反コービン派の下院議員たちの次の標的は、6月23日のEU国民投票だった。コービンは1975年の前回の国民投票でも離脱に投票した人物であり、これまでEUに批判的であった。特に現在行われているEUとアメリカとの大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)に批判的であり、労働者の権利、消費者の権利、環境問題などが弱められる他、イギリスの国民保健サービス(NHS)に民営化の圧力がかかるなどとして、TTIPに真っ向から反対する立場である。しかし、労働党では10人を除き、ほとんどの下院議員がイギリスのEU残留を求めており、しかもEU内で確保された労働者の権利や環を守り、さらに拡大していくためには、EU内の他の国の社会主義的な政党と連携していく必要があるとの判断から、EU残留の立場を取った(参照:あるニュース番組に出演したコービンのパフォーマンスへのガーディアン紙のジャーナリストたちの評価)。

ただし、コービンは、キャメロン首相(当時)と一緒に残留キャンペーンをすることは避けた。コービンが政治エスタブリッシュメントの一員だという印象を与えることを恐れたことと、2014年のスコットランド独立住民投票で、ミリバンド前党首がキャメロン首相(当時)と一緒に残留キャンペーンをした結果、スコットランドで労働党が保守党と同じだという印象を与え、2015年総選挙でスコットランドの議席を1議席除いてすべて失った二の舞を避ける目的があったと思われる。5月の議会開会式でも、慣例通りコービンとキャメロンの2人が並んで下院から上院に歩いていく際、熱心に話しかけようとするキャメロン首相を無視した態度を取った。ただし、残留キャンペーンには、全国を労働者の権利などを訴えて回った。EU国民投票後の世論調査によると、2015年総選挙で労働党に投票した人の63%が残留に投票している。これは、党所属下院議員の現在の54人全員、分権議会議員の63人全員が残留で運動したスコットランド国民党(SNP)が64%であったことを考えると遜色ない数字である。

一方、反コービン派の下院議員たちは、EU国民投票が52%対48%の結果で離脱となったのは、コービンが懸命にキャンペーンに取り組まなかったからだとして、コービンの不信任案を提出した。労働党には党首の不信任という規定はなく、不信任が可決されても拘束力はない。影の内閣の3分の2が辞任し、コービン不信任には4分の3の労働党下院議員が賛成した。この背景には、キャメロン後の新首相が早晩総選挙に打って出るかもしれない(2011年議会任期固定法があるが、これは可能である。拙稿参照)、もしそうなれば、コービン率いる労働党が惨敗するのではないかという危機感もあった。なお、EU国民投票で離脱となれば、コービンにとっては致命的な結果だとして、影の内閣からの集団辞任をはじめ、コービン下ろしに走る計画を国民投票の10日前にテレグラフ紙が報道していた。それでも、これを昨年9月に党員らの圧倒的支持で選ばれ、これまでそう大きな失点のないコービン下ろしの理由にするのは弱い。

コービンは、自分は昨年9月の党首選で党員らから負託を受けたとして、その負託を裏切れないと一歩も引く姿勢を示さなかった。そして、影の労働年金相を辞任したオーウェン・スミスが反コービン派から党首選に打って出て、党首選挙が始まったのである。

党首選ルールの改正

党首選ルールは2014年に改正された。それまでの3つのカテゴリー(党員、労働組合、下院・欧州議会議員)に3分の1ずつ票が割り振られていた制度から、新しい3つのカテゴリー(党員、関連団体サポーター、登録サポーター)で、全員が1人1票を割り当てられる制度へと変更された。この結果、労働組合と議員の力が弱まった。

この変更は、前党首エド・ミリバンドが勝った2010年党首選に大きな原因がある。ミリバンドは、本命と見られていた実兄の元外相デービッドを僅差で破り当選したが、その当選は、デービッドよりも左と見られたエドを労働組合が強く支持したことによる。また、その後、労働組合が自分たちに有利と思われる人物を、選挙区の候補者として選ばれるよう画策していたという疑いが出て、エド・ミリバンドが労働組合の力を削ぐような対策を講じなければならない状態だった。もともと、労働組合の力をいかに削ぐかは、労働党内の大きな問題であり、ジョン・スミス、そしてトニー・ブレア党首の下でも1人1票制度の導入への努力がなされてきた。そのため、2014年のルール改正にはブレア元首相も称賛したほどである。この改正が今回のような、党員らの圧倒的な支持を受けた党首を、労働党下院議員が信任しないというような事態が起きるかもしれないと予測した人はいなかった。

労働党党首選の行方

党首選に立った、2人の候補者、コービン党首とスミスの7月23日(土)の演説を見れば、その様子はある程度理解できるだろう。サルフォードでの1800人の会場がチケット売り切れの盛況で、コービン党首は「我々は、社会運動だ」と語った。同時にロンドン、ブリストル、ノッティンガム、バーミンガム、ハル、グラスゴー、ケンブリッジでも会合が開かれたという。一方、スミスの会合は低調だった。コービンはこれを党首選の出陣式にも兼ねていた。労働党下院議員がコービンの不信任案に投票した際には、ウェストミンスター議会の前にコービンの支持者が数千人集まった。コービンが話す場には、屋外でも数百人、数千人がコンスタントに集まる。

昨年の総選挙の敗北で、ミリバンド党首が辞任した後、コービンが労働党党首選に立候補したが、コービンブームが起き、党員数がそれまでの2倍弱の39万人ほどになった。そして6月23日のEU国民投票の後、労働党下院議員によるコービン下ろしが始まったが、わずか2週間ほどでさらに13万人が労働党の党員となった。申込書の記述から、増加した党員の大半が来るべき党首選でコービンに投票しようとした人たちだと見られている。ところが、コービンが党首選に立候補できないかもしれないという話が出て、党員申し込みの勢いが鈍った。コービンが自動的に立候補できるかどうかを労働党の全国執行委員会(NEC)が決定することとなり、NECは、コービンが党首選に立候補できるが、今年の1月12日までに加入した党員しか投票できないこととし、さらに関連団体(労働組合など)サポーターにも同じ制限が加わることとなった。ただし、登録サポーターについては、前回とは異なり、登録期間を大幅に制限し、48時間の申し込み時間内に25ポンド(3500円)を払った人だけが投票できることとした。昨年は3ポンド(420円)だったのに比べると大幅な値上がりである。

登録サポーターの数は、登録料を考えるとそう多くないだろうと見られていたが、驚くべきことが起きた。なんと、この時間内に18万3千人が申し込んだのである。すなわち、わずか48時間で労働党に450万ポンド(6億3千万円)余りのお金が入った。内紛で危機に立つ労働党を救おうと反コービンの立場で25ポンド支払った人もいるだろうが、この勢いは宗教的とも言えるほど熱狂的なコービン支持者のためだと見られている。

賭けを扱うブックメーカーは、既にこの党首選は一方的な戦いとなっているとして、コービンを当選確実とし、スミスが2か月の党首選の間に出馬を辞退するオッズを提供し始めたところもある。一方、保守党支持のサンデー・メイル紙は、コービン支持の団体が、コービン党首選を支援するためのTシャツをバングラデシュの低賃金労働者を使った工場から購入したと第1面で批判した。この新聞は、コービンを継続的にコケ下ろしてきたが、コービンの勢いに歯止めをかけようとする意図があるのではないかと思われる。コービン支持団体は、この購入を中止した。

奇妙な苦情

ある労働党下院議員が奇妙な訴えをした。コービンが個人的ないじめをしようとしたというのである。この下院議員は、本来コービン党首を助けるべき院内幹事の1人だが、反コービンで動いていたことがわかった。この下院議員の主張を見ると、反コービン派が一種のパラノイアに陥ってきたのではないかと思われるほどだ。党首選でコービンの対抗馬として立っているスミスはこの主張を信じると言い、コービンを批判した。しかし、スミスのコービンの「いじめ」批判がメディアで取り上げられるものの、それ以外の前向きの発言はそれほど取り上げられない状況になっている。

さらに44人の労働党女性下院議員が、コービンに、「コービン支持者ら」のソーシャルメディアでの威嚇や議員事務所周辺などでのデモ活動を止めさせるように求めた。コービンは繰り返し、威嚇など民主主義的でない行為は許されないと発言しており、マクドナルド影の財相は、その対策を講じているとしているが、警察が介入しない限り、誰がこのようなことをしているかを特定することは難しいように思われる。一方、コービンは、自分はクーデターを起こしたり、人を侮辱したり、威嚇するようなことはしないと発言したが、「クーデター」は、これらの反コービン派の議員たちが、コービンの追い落としを謀ったことを批判しているようだ。

影の内閣を1か月前に辞任した他の労働党下院議員が、影の内閣のポストに付随して与えられた議会内のオフィスを未だに出ておらず、野党第1党に与えられるすべてのオフィスを管理している党首のスタッフがそのオフィスを合鍵で開けて、出たかどうかをチェックしたことをプライバシーの侵害などとして下院議長に正式に苦情を申し入れ、公式の調査を始めるよう求めた。

これらの反コービン派下院議員の行動は、もちろん正当化されるものもあるが、自分たちの責任はともかく、自分たちの権利や自由が少しでも妨げられたり、侵害するように思われたりするものがあれば、それらを公に訴え、その実行者はともかく、コービンに狙いを絞り、打撃を与えようとする手段に出ているようだ。これは、状況が非常に深刻になっており、反コービン派が追いつめられている状態を示すものだろう。

労働党の今後

コービンが昨年9月の党首選よりもさらに大きな差をつけて当選するという見方もあるが、もし、予想されているようにコービンが党首に再選されるとどうなるか?反コービン派の下院議員たちは、既に自分たちをのっぴきならない立場に追い込んでいるようだ。

キャメロン政権で始まった選挙区を650から600に減らし、選挙区のサイズを均等にするという選挙区改革が、2018年に実施されるかもしれず、そうなれば、労働党の現職下院議員は誰もがそれぞれの労働党選挙区支部で候補者として改めて選出される必要があるとコービンが発言した。これを反コービン派下院議員への脅しだと党首選の対抗馬スミスは批判した。なお、現在は、「引き金投票」といわれる制度があり、再立候補を希望する現職を選挙区支部関係機関が承認する。もし、現職議員にも再選出が必要になると、複数の候補者の中から選考を経て選出されるようになり、反コービン派下院議員たちは極めて難しい立場に追い込まれる。労働党の選挙区支部では、現在、支部ミーティングの開催が停止されているが、これは、これらの反コービン派下院議員たちへの出席者らからの批判が非常に強いためである。下院議員たちへ悪口雑言が浴びせられるところもあるようで、そのようなことをする出席者の数はそう多くないとされる。コービン支持の党員が大きく増えているのは、ロンドンをはじめ比較的限られた地域だと言われるが、新しい党員が何百人単位で入党した支部もかなりあるようだ。半年たてば、下院議員選挙での選挙区候補選出の投票権を持つ。すなわち、コービン支持で入党した人たちの多くが選挙区で候補者を選択するのに大きな影響力を揮うようになりかねない。コービン支持の団体モメンタムは、既に1万人以上のメンバーがいるが、このような団体が、各選挙区支部でコービン支持の勢力培養をはかることは想像に難くない。イギリスは、政党選挙であり、労働党の現職下院議員でも労働党の公認を受けられなければ当選することはほとんど不可能である。

もちろん、新しい選挙区の区割りが進まない可能性は高い。これが実施されると、保守党は他の政党より20議席余り有利となると見られているが、選挙区の併合、組み換えなどで、多くの保守党下院議員が「国替え」や新たに候補者選考への出願などを迫られる。また、13万から15万人と目される保守党員には、かなり高齢の人が多く、新たな選挙区になじみにくい党員も出るだろう。さらに2015年総選挙で、多くの若者をバスで接戦の選挙区に送り込み運動させたが、いじめで自殺したメンバーが出たり、選挙費用支出違反の疑惑が出たりで、保守党の選挙態勢の問題があるように思われる。保守党は過半数をわずかに上回るだけであり、保守党下院議員の多くの意思を無視してこの選挙区区割りを押し通すことは簡単ではないだろう。そのため、2018年ごろの政治情勢にもよるが、今のところ、新しい区割りが進まない可能性はかなり高いように思われる。それでもコービン支持の労働組合最大手のユナイトが、選挙ごとに選挙区候補者の再選出を義務付ける政策を推進することとした。もし労働党で認められると、選挙区の区割りが進むかどうかにかかわらず、再選挙が必要となる。

いずれにしても反コービン派の下院議員は、コービン再選後、落ち着いて寝られない状態となる可能性がある。そのため、これらの下院議員がコービン労働党から離党して新しい政党を設置するだろうという見方がある。230人の労働党下院議員で半分以上の下院議員が離党すれば、下院で労働党を上回る下院議員を持つ野党最大党、すなわち政府に対する「対立政党」となれる。ただし、この新政党に労働党地方支部の党員の多くがついて出ていくという可能性は少なく、この新政党は、すぐに資金をはじめとするロジスティクスの問題が出てくる上、いつあるかわからない次の総選挙を戦うことは難しいだろう。

1981年に左のフット党首をいただく労働党から、中道寄りの社会民主党(SDP)が別れた。1979年の「不満の冬」で労働党の人気が下降し、サッチャー率いる保守党が政権を獲得したが、サッチャーの財政緊縮政権で、失業率が大きく増加し、サッチャー政権の支持が大きく下降していた時期だった。もし総選挙があれば、サッチャーが政権を失うのは間違いないというような政治状況だった。そのような時期に労働からSDPがわかれ、その支持率が50%にも達し、22名の労働党下院議員が参加する。次期総選挙でSDPは自由党と提携したが、結局、6議席に留まり、結局、現在の自民党に吸収される。現在のメイ新政権はまだハネムーン期間中であり、1981年当時のサッチャー政権よりはるかに状況がましだ。このような中で、反コービン派が新政党を設立するのは、自滅行為のように思える。

反コービン派の下院議員たちがそこまで追いつめられているのは確かだろう。しかし、今回のコービンへの謀反が失敗に終われば、再び謀反を起こすことははるかに難しくなる。筆者には、コービンが早かれ遅かれ次の総選挙に労働党を率いて臨み、もし敗北すれば、党首を退くことで決着するように思われる。コービンは、現在、これまでになく情熱を持って党首選に望んでいるように見えるが、67歳である。ただし、ソーシャルメディアの急激な発達もあり、政治の世界は大きく急激に変化している。反コービン派の下院議員たちが、現在の労働党の政治状況を見通せなかったように、政治の専門家たちの政治観が時代遅れになっているようだ。コービン人気がごく一部の支持者だけでなく、現在の政治に不満を持つ一般有権者まで広がるような事態が出てくるかもしれない。アメリカの大統領選でドナルド・トランプが共和党大統領候補に選ばれたように、従来の常識に反した政治現象が起きる可能性がこれほど高まっている時代はこれまでなかったかもしれない。

48時間で18万人が登録サポーターに

労働党の党首選は、コービン党首とオーウェン・スミスの一騎打ちとなることとなった。8月下旬から投票が始まり、9月下旬に結果が出る。この労働党の党首選で投票するため、なんと18万3541人が25ポンド(3500円)払って登録サポーターとなる申し込みをした。

6月23日の欧州連合(EU)国民投票後、労働党の党員数が13万人増え、51万5千人となり、多くを驚かせたが、この登録サポーターの受付は、7月18日の午後5時から7月20日の午後5時までと時間が制限されており、わずか48時間でこれだけの数の人が申し込んだことには驚く。これから、登録者の査定が行われ、登録サポーターとしての登録を拒否される人もある程度出るが、この数には大きな意味がある。例えば、政権を担当する保守党の党員数は明らかになっていないが、13万から15万人程度と見られている。それから見ても、労働党の人を惹きつける力は、かなりのものがあると言える。この力の源泉は、良きにつけ、悪しにつけ、党首のジェレミー・コービンにある。

EU国民投票後の入党者の大半はコービン支持と見られていたが、労働党の全国執行委員会が、今年の1月12日までに入党した者だけがこの党首選に投票できることとした。一方、登録サポーターは、2014年に党首選ルールが改正された際に、初めて導入されたが、昨年9月の党首選でコービンブームが起き、3ポンド(420円)を支払ってなる登録サポーターが、11万人余りとなり、そのカテゴリーで投票した人の84%がコービンに投票した。今回もその登録を受け付ける必要があったが、昨夏とは異なり、登録できる時間を大幅に短縮したばかりか、登録費を大幅にアップした。それにもかかわらず、登録申し込み数が予想外に多い結果となった。これには、先述の13万人の新規党員のかなり多くが、党首選の投票権を求めて登録サポーターとしても登録したことが大きな原因だと思われる。

いずれにしても、2014年党首選ルールは、有権者すべてに平等に1人1票を与えられ称賛されたが、予想外の現象が起こり、想定外の使われ方をされ、労働党内で大きな嵐を巻き起こしている。恐らく、登録サポーターの大半は、コービン支持だろう。昨年9月に党首選有権者の60%の支持を受けて当選した党首に対する不信任案に労働党下院議員の4分の3が賛成した。対抗馬のスミスは、下院議員152人、欧州議員10人の推薦を受けた。労働党下院議員全体の3分の2の支持を受けたこととなる。それでも、コービンが党首に再選されるのは確実な状況だ。

労働党党首選の行方

労働党の党首選が、現党首ジェレミー・コービンと影の労働年金大臣だったオーウェン・スミスとの間で行われることが決まった。この選挙は、党員、関連団体サポーター、そして登録サポーターの1人1票の投票で決まる。投票は、8月下旬から始まり、9月21日に締め切られ、その結果は9月24日の特別党大会で発表される。そのため、メイ保守党新政権の誕生という新しい政治状況の中であるが、野党第一党の労働党は、党内の争いで、今夏を過ごすこととなる。

労働党の現党首に挑戦するには、党所属の下院議員と欧州議会議員の20%、すなわち51人の推薦を受ける必要がある。推薦の受け付けは、7月18日から7月20日午後5時まで。スミスの他にアンジェラ・イーグルもこの数を超える推薦人を確保したと見られるが、スミスの推薦人の数が90人(下院議員88人、欧州議会議員2人)に達したため、イーグルが党首選出馬を辞退した。この背後には、党員の中にまだ強い支持のあるコービン党首に対抗するには、挑戦者を1人に絞る必要があるとの理由による。

オーウェン・スミス

スミスは、それほど知られている政治家ではない。イングランド北部で生まれたが、ウェールズで育ち、ウェールズ訛りがある。16歳で労働党に入党し、サセックス大学を卒業した後、公共放送のBBCでプロデューサーとして10年働く。労働党下院議員のウェールズ大臣のスペシャルアドバイザーとして働いた経験があり、また後には、製薬会社ファイザーのロビイストとしても働いた。2010年に初めて下院議員に当選。影のウェールズ大臣を務め、2015年に2回目の当選後、コービン影の内閣で影の労働年金相を務めた。46歳。自他ともに認める労働党の左派。

党首選の行方

昨年9月の労働党党首選でも実績のある世論調査会社YouGovの労働党員の世論調査によると、コービンが優位に立っている。世論調査実施時点では、コービンとスミスの一騎打ちとなることは決まっていなかったが、それでも、コービン対スミスの対決となった場合、コービン56%。スミス34%の支持という結果が出ている。

ただし、登録サポーターの支持がどうなるかははっきりしていない。前回の党首選では、党首選が近づくまで党員並びに登録サポーターの入党、登録が許されたが、このシステムが変更された。EU国民投票以来、13万人が入党したが、労働党の全国執行委員会で、今年1月12日以前に入党した者しか投票できないこととされた。この新党員の大半はコービン支持だと見られている。また、前回、84%がコービンに投票した登録サポーターは、登録期間が7月18日から20日に限られ、しかも登録費が前回の3ポンド(420円:£1=140円)に対し、今回は、25ポンド(3500円)と大幅にアップした。その上、労働党を守るとして反コービンの立場で登録するよう訴えているグループが新聞広告をガーディアン紙に掲載するなどの活動をしている。

一方、昨年夏のコービンブーム以来、労働党の党員の数が2倍近くになったが、ある調査によると、党員として加入した人のかなり多く(16.5%)がかつて緑の党を支持した人々である。この人たちが、核抑止戦略システム、トライデントに反対するコービンへの支持を変えるとは考え難い。なお、スミスは、7月18日の下院の投票でトライデントに賛成票を投じた。しかも、リーダーの能力として、他の何よりも、普通の気持ちの分かる人を望む人が68%、強い信念を持つ政治家を支持するとする人が49%おり、全体的に強い左寄りのリーダーを求める傾向がある。これらから考えると、労働党党内の下院議員たちの4分の3が強い反コービン傾向にあるにもかかわらず、この党首選で敗北するほどコービン支持が減るとは考えにくい状況にあるように思われる。

労働党の党首選となった内乱

6月23日の欧州連合(EU)国民投票で、イギリスが離脱を52%対48%で選択した直後、コービン労働党党首への不信任案が提出された。労働党は残留を支持したが、コービン党首が残留運動に熱心でなかったとして、労働党のリーダー失格だと主張したのである。一方、労働党の影の外相が、コービン党首はリーダーではない、コービンを信任できないとして党首辞任を求め、コービンに解任された。そして影の閣僚、31人のうち3分の2が辞任し、それ以下のポストでも同様の数が辞任した。さらに6月28日、不信任案が採決された。不信任賛成172、反対40、無効4、投票せず13という結果であった。これには、強硬左派のコービンが党首では総選挙に勝てないという見方が反映している。

通常、党所属下院議員の4分の3の信任を失った党首が継続していくことは不可能だと考えるだろうが、コービンは、党首を退くことを拒否した。コービンは、党員らが自分を党首に選んだのであって、党員らの負託に応える必要があると主張した。コービンは、前年の2015年9月の、4人が立候補した党首選で、第1回目の開票で59.5%を獲得し当選したのである。第2位は19%だった。

それ以降「コービン党首とその支持者」対「圧倒的多数の反コービン派下院議員」の構図で膠着状態が続いてきた。労働組合はコービンを支持し、副党首らの打開策を探ろうとする努力も実を結ばず、結局、影の内閣を辞任したイーグル「影のビジネス相」が51人の支持者を得て、コービン党首に挑むことになった。

保守党の場合、もし党首が過半数の賛成で不信任された場合、党首を辞任することになっている。しかも辞任すれば、党首選には再び立てないというルールになっている。しかし、労働党には、このような規定はなく、不信任にはなんらの拘束力もない。しかも現党首に挑戦する場合には、党所属下院議員と欧州議会議員の20%の推薦が必要とされている。すなわち現在では51人の推薦が必要である。

ここで大きな問題が持ち上がった。現党首は、下院議員と欧州議会議員の推薦を受けずに、この党首選に立てるかどうかである。労働党の党本部が依頼した法律専門家の判断では、現党首も同じ推薦が必要だとした。これは、コービンにとっては、非常に大きな問題である。党所属下院議員でコービンの不信任に反対したのは、わずか40人で、その後、気が変わったという下院議員が何人も出ている。そのため、51人の推薦人を確保することが極めて難しく、党首選に立つ前に、その資格がないこととなってしまう。一方、労働組合側の法律専門家の判断は逆で、コービンは自動的に立候補できるというものであった。

7月12日に開かれた、労働党の全国執行委員会で、この問題が討議され、結局、コービンが自動的に立候補できることとなった。

ただし、これには条件がある。労働党の党首選に投票できるのは、党員、関連組織(労働組合ら)サポーター、そして登録サポーターである。このすべてが1人1票で、その合計得票で勝利者が決まる。ただし、この党首選に投票できる党員は、6か月前の2016年1月12日までに党員になっている必要があるとされた。また、登録サポーターは、これから設定される2日間の間に25ポンド(3450円:£1=138円)支払った人のみとなった。昨年9月には、これはわずか3ポンド(410円)だった。

つまり、昨年9月の党首選で起きたコービンブームで、党員と登録サポーター数が大幅に増加し、それがコービンの得票に大きく貢献したような事態はなくなったのである。6月23日のEU国民投票後、労働党の党員数は、なんと13万人増え、50万人を超えた。この新規加入者の大半は、コービン危機で、コービンに投票するために加入したものと見られる。しかし、この13万人は投票できないことになった。

なお、この党首選の結果は、9月末の党大会前に発表される。保守党のメイ政権が誕生する中、労働党は、党内の内乱の対応に追われることとなる。コービンが勝つ可能性が極めて高いが、これが長期的にどのような影響を労働党に与えるか注目される。コービンが再び勝てば、労働党が割れると見る人もいるが、そうはならず、むしろ、反コービン派の下院議員の態度が軟化(もしくは諦め)していくのではないかと思われる。1981年に、左の労働党から分裂した社会民主党(SDP)は、ロイ・ジェンキンスらの大物が主導したにもかかわらず、成功せず、現在の自民党に合流した。反コービン派の下院議員には、これというリーダーがおらず、反コービン派がまとまって離党するようなことは考えにくい。

保守党党首選と労働党の内乱

現在進行中の保守党党首選と労働党の内乱は奇妙につながっているように思われる。

6月23日の国民投票で、イギリスは欧州連合(EU)を離脱することとなり、残留を推したキャメロン首相が辞任した。そして後任の保守党党首(保守党は下院の過半数を占めており、党首は首相となる)の選挙が6月30日から始まった。

一方、労働党は、政党としてEU残留を支持し、そのキャンペーンを行ったにもかかわらず、コービン党首が熱心に運動しなかったとしてコービン党首不信任案が提出され、また、強硬左派のコービンでは次期総選挙が戦えないとしてコービン辞任を求め、影の内閣の閣僚の3分の2が辞任し、それ以外のポストについていた労働党下院議員も大量に辞任した。そして行われた不信任投票では、不信任賛成172、反対40、無効4、投票せず13で、労働党下院議員たちは、コービン辞任を求めたのである。ところが、コービンは、昨年9月に党員、サポーターの圧倒的支持を受けて当選したことをタテにあくまでも党首に居座る構えだ。その労働党の党首選では、4人の候補者が立ったが、コービンは、59.5%を獲得し、2位はわずか19%だった。

保守党の党首選

保守党の党首選では、まず保守党下院議員が投票し、立候補者を2人に絞り、その2人から党員が郵便投票で選ぶ。立候補者を2人に絞るため、まず7月5日に下院議員が1回目の投票を行い、最も得票の少なかった候補者を除いて2回目の投票を実施、さらに必要があれば同じ要領でさらに投票を行い、2人に絞るということとなる。

今回、第1回目の投票でメイ内相(残留派)が他の候補者を圧倒的にリードする165票、2位はエネルギー担当相のレッドサム(離脱派)が66票、3位のゴブ法相(離脱派)が48票、4位のクリブ労働年金相(残留派)が34票、そして5位のフォックス元国防相(離脱派)が16票だった。メイが全329票(キャメロン首相が投票しなかったと言われる)の半分以上を獲得した。最も票の少なかったフォックスが規定により除かれた後、クリブが自ら辞退し、2人とも1位のメイを支持することを表明した。そして、2回目の投票は、3人の候補者で7月7日に行われ、2人に絞られる。

これでは、圧倒的にメイが優勢なように見える。しかし、メイがいくら多くの下院議員の支持を得ても、最終的には、党員が決めることとなる。保守党の党員らのウェブサイト、コンサーバティブホームが実施した党員の世論調査では、レッドサムが38%、メイが37%、そしてゴブが13%の支持だった。

このコンサーバティブホームは、元保守党副幹事長の億万長者アッシュクロフト卿がスポンサーであり、アッシュクロフト卿は、同じ糖尿病を患うメイを推していると理解していたので、意外に感じたが、アッシュクロフト卿は、同時に、私財を投じて選挙に関する大規模な世論調査を次々に行い、結果を公開している人物であり、世論調査の価値を十分にわきまえていると思われる。

コンサーバティブホームの保守党党首選の党員世論調査の結果は、メイにとっては、大きな警告である。いくら下院議員の支持を得ても、党員の支持で他の候補者を上回れなければ、党首に当選できないからである。

そこでささやかれているのは、メイが自分の支援者に3位のゴブを支持させ、レッドサムを上回る票を獲得させれば、最終の2人は、メイ対ゴブとなるという戦略である。離脱派のレッドサムが相手では、残留派だったメイが勝てないかもしれない。下院議員の数では、離脱派が残留派をかなりかなり下回るが、党員は離脱派が多いと見られている。レッドサムは、同じ離脱派だったゴブ票も惹きつけ、さらに有利になる可能性がある。ゴブは、同じ離脱派のジョンソン元ロンドン市長を裏切って党首選を断念させたとして、かなり批判を受けており、メイは、ゴブなら勝てるという見通しがある。

ただし、元銀行家のレッドサムは、その過去の投資や収入などで、何らかの問題が発覚する可能性もゼロではなく、7月7日にならないと、実際にどのような動きがあるかは予測しがたい。

なお、レッドサムが2回目の投票で最後の2人の1人として勝ち残れば、メイと女性同士の対決となり、サッチャーに引き続き、2人目の女性首相が生まれることとなる。

労働党の内乱

労働党は、党首のコービンが辞任の求めを拒否する構えを崩しておらず、反コービン派の議員が、必要な下院議員51人の支持を得て党首選を求め、党首選が行われる可能性が高い。2人が立つ準備ができていると言われる。しかし、コービン危機が伝わって以来、1週間で6万人の党員が加入したと言われる。この新規党員の大半は、コービン支持と見られ、昨年9月の支持がかなり弱まっているという分析もあるものの、もし党首選が行われると、コービンが勝つのはまず間違いないと見られている。

民主的であるはずの労働党下院議員多数が、党員の支持のあるコービンを追い落とそうとしているのは、現下に繰り広げられている保守党の例を見ても少し奇妙に映る。

内乱で党員の急増する労働党

労働党が内乱状態だ。労働党の下院議員がコービン党首の不信任案を提出し、6月28日その投票が行われた。不信任賛成172、反対40、無効票4、投票せず13で、大差で不信任案が可決された。コービン党首では次の総選挙で勝てない、惨敗する、と労働党の下院議員が恐れたことが背景にある(直前の記事参照)。ただし、このような不信任案は労働党の規定になく、拘束力はない。

コービンは党首を辞任することを拒否し、下ろしたいのなら、労働党の規定通り、党首選で臨めと要求し、コービンの影の内閣のビジネス相だったアンジェラ・イーグルがコービンの対抗馬として立つこととなった。

この党首選のタイムテーブルはまだ決まっていないが、既にコービンに投票するために党員となる人が急増しているようだ。6月29日に、コービンの古くからの友人で右腕であるマクドナルド影の財相が、過去3日間で1万6千人が労働党に加入したと述べた。既に第2のコービンブームが起き始めている可能性がある。

強硬左派のコービンは、昨年9月に行われた、4人の候補者の立った党首選で、最初の開票で59.5%を獲得し、圧倒的な差をつけて当選した。第2位の得票は19%だった。有権者は、4人の候補者に選好順位をつけて投票し、一人が50%の得票をするまで最低得票者を一人ずつ除いていき、その票を選好順位に従って割り振っていく形の選挙である。コービンは最初から50%を超え、当選した。

コービンは党首選の立候補に必要な35人の下院議員の推薦者を集めるのに苦労し、支持しないが、左の立場の候補者も入れて広い立場の討論をすべきだとした推薦人を含め、ぎりぎりで候補者になった。ところが、正直に自分の原則を主張するコービンのブームが起きた。なお、コービン支持者の支持理由は核兵器システムのトライデン反対、反緊縮財政、社会正義など多岐にわたる。コービンの政策は全体として統一を欠くという批判があるが、コービン支持者は、自分の気に入った政策をピックアップし、むしろコービンのスタイルに魅かれたと見られる。

党首選は、一人一票のシステムだが、党員、労働組合などの関連組織を通じたサポーター、登録サポーターの3つの有権者のカテゴリーいずれも圧倒的多数を占めて、当選したのである。コービンは最初から下院議員の支持者は少なく、コービンが労働党の党首となれば党は崩壊すると心配した人も多かった。労働党の圧倒的に多くの下院議員は今でもそう信じている。

なお、通常、保守党も労働党も党員数を公表しないが、過去に報告されたものでは、労働党の党員数は、2015年総選挙前日の201,293 から2016年1月10日には388,407となり、ほとんど2倍に増加した。2015年党首選前の8月の時点では、党員数292,505、関連組織サポーター147,134 、そして 登録サポーターは110,827だった。

イギリスのEU国民投票後、親EU政党の自民党への党員も急増している。EU離脱後、すでに1万人が加入したと言われる。これは、2015年の総選挙で惨敗した自民党の政策に関連したもののようだが、労働党の場合、増加のほとんどはコービン支持と思われ、コービンが再び党首選で勝利する可能性が高まっているように思われる。

EU離脱 労働党はどうなる?

6月23日の欧州連合(EU)国民投票で、イギリスはEU離脱を選択した。この結果を受け、残留派のキャメロン首相は辞任を表明し、保守党は次の党首を選ぶために党首選挙を実施する。そのため、政府、そして政権与党の保守党が十分に機能を果たせない状態だ。一方、野党最大政党(イギリスでは「対立政党」と呼ばれる)の労働党でもコービン党首への批判が前例のないほど強まり、内乱状態に陥っている。労働党は、これからどうなるのだろうか?

6月28日、コービン党首「不信任案」の投票が労働党下院議員によって行われた。結果は「不信任」賛成が172、反対が40だった。つまり、5人に4人が不信任に賛成したのである。労働党には、このような不信任の規定はなく、法的な効果はないが、象徴的な効果は大きい。この動きは、EU国民投票前の残留派の運動でコービン党首が全力を挙げて戦わなかったと批判して「不信任案」を提出した2人の下院議員に始まる。それまでコービンでは次期総選挙が戦えないとして密かに「コービン下ろし」を画策していた動きが一挙に表面化し、コービンが6月26日「影の外相」を解任した後、31人の「影の内閣」のメンバーのうち、22人が次々辞任し、しかもそれ以下のポストの下院議員も次々に辞任した。

これは、労働党下院議員たちが、キャメロン後の新首相が、就任早々にも総選挙を行うのではないか、もしそうなれば、労働党が壊滅的な打撃を受けると心配したことがある(総選挙実施の見通しについては次回にふれる)。労働党内部の調査によると、「もし総選挙が明日あれば」、大きく議席を失った2015年の総選挙で労働党に投票した有権者の69%しか再び労働党に投票しないことがわかったという。しかもEU国民投票で、労働党の牙城であるべき地域、特にイングランド北部で、労働党支持者の多くが労働党のアドバイスに反して離脱に賛成し、その結果、離脱派が勝利を収めることとなった。

これらは、これまでコービン党首がどの程度労働党を引き上げられるか、様子を見ていた労働党下院議員にとっては、決定的な証拠として目に映った。すなわち、労働党が党勢を回復するためには、既存の労働党支持者を維持するとともに、さらにそれ以外の人たちの支持も獲得する必要があるが、むしろ、コービンは支持を失いつつあると感じたのである。これでは、数か月先に行われるかもしれない総選挙で惨敗するという危機感が労働党下院議員たちにある。そこで、多数の「影の内閣」メンバーの辞任と圧倒的な「不信任」支持で、コービンが自発的に党首の座を辞任することを期待していた。

ところが、コービンは、あくまで、党首に居座り続ける構えである。昨年9月の党首選挙で、労働党の党員やサポーターらの圧倒的な支持を受けて当選した。コービンは労働党の下院議員の中でも最も左派の強硬左派であり、中道的な労働党の指導部の指示に反して下院で投票してきた「問題議員」であり、1983年以来下院議員を務めるにもかかわらず、政府内の役職を務めたことがない。昨年、党首選に立候補するための推薦人の確保に苦しみ、党首選での議論を活発化するためとして、投票しないが、推薦人にはなるとした下院議員が何人もいたため、党首選に立候補できたほどである。ところが、コービンの正直に自分の信念に基づく言動に好感を持ち、惹きつけられた人々がコービンを支持し、党員、サポーターが急増し、あれよあれよという間に、コービンブームとも呼ばれる現象が起きて当選した。労働党下院議員たちの多くは、この結果に失望した。それ以来、もしかするとコービンが労働党に何かプラスをもたらすかもしれないとの淡い期待を持っていたが、労働党は、失敗の続く保守党政権にもかかわらず、世論調査で保守党を下回る支持しか得られず、労働党がその命運を改善しているような現象は見られない。EU国民投票でその不満が一挙に吹き出た形だ。

コービンは、労働党下院議員からの辞任圧力にもかかわらず、自ら辞任する考えはない。党首に選出された経過からして、自分への信任は下院議員たちからではなく、一般の党員やサポーターたちから来ていると考えているためである。また、労働組合もコービンを支持している。そのため、正式な党首選挙で勝負を受けるという立場だ。コービンはその信念で有名な人物であり、労働者や弱者を守るのがその目的である。自分が引けば、これらの人たちの扱いがおろそかになると信じている。党首選挙で敗れれば、当然引かざるをえないが、それまでその意思はないように見える。

コービンを見くびっていたこともあるのだろうが、コービン下ろしを求める下院議員たちは、苦しい立場に立っている。党員やサポーターのコービン支持が弱くなっているという見方があるが、それでも党首選挙でコービンが再び党首に選ばれる可能性は極めて高い。コービン派の支持者らは、表立って、または背後で、反コービンの下院議員たちを苦しめるだろう。また、労働組合最大手のユナイトのトップが、「下院議員選挙候補者の選挙区選出方法の変更」を認める可能性を示唆した。これまで現職議員は、基本的に、それぞれの選挙区で再び候補者として選出されることなく立候補できたが、これからは労働党候補者として立候補するためには、現職議員でも選挙区支部で再び候補者として選出される必要があるようになるかもしれない。そうなれば、コービン支持の党員が、反コービン現職議員を意図的にブロックしようとする動きに出る可能性がある。

もし、コービンが党首選で再び党首に選ばれた場合、現在の労働党の分裂状況が膠着状態となる可能性がある。そして総選挙が行われた場合、分裂した労働党が再び敗れれば、コービンが責任を取って党首を辞任するだろう。一方、総選挙でコービン労働党が、イギリスのEU離脱反対を唱え、EU国民投票の再実施を訴えて戦えば、一党で下院の過半数を制せずとも、残留派のスコットランド国民党など他の政党との連携で、過半数を制する可能性もあるかもしれない。

一方、もし、党首選挙でコービンが敗れた場合、新党首が就任し、労働党が一応、統一した状態となると思われる。

ただし、多くの労働党下院議員は、コービンが自発的に辞任することを願っていたように思われる。その一つの理由は、前党首エド・ミリバンドの兄で元外相デービッド・ミリバンドのイギリス政界への復帰の可能性である。デービッド・ミリバンドは、2010年党首選挙で、党首に選ばれるのは間違いないと見られていたが、労働組合のエド・ミリンバンドへのテコ入れで、わずかの差で敗れた。その後、アメリカのニューヨークに拠点のある世界的な慈善団体のトップとして、アメリカでも有名な人物となっている。もし、コービンが辞任すれば、殺害されたコックス下院議員の選挙区の補欠選挙に立候補し、党首となる道があるかもしれない。そうなれば、その能力と併せ、労働党の「白馬の騎士(救世主)」となる可能性もある。

労働党の今後が注目される。

反ユダヤ主義問題とコービン労働党党首

労働党の党首にコービンが2015年9月に就任して以来、8か月近くたつ。コービンは、労働党で最も左と目され、それまで党のリーダーシップから無視されていた。そのコービンが党首選に立候補するのに必要な労働党下院議員35人の推薦(必ずしも支持、投票する必要はない)を受けられたこと自体、驚きであったが、コービンの立候補で、党員や登録サポーターの数が急増し、コービンは地滑り的大勝利を収める。

この結果は、圧倒的多数の労働党所属下院議員の意思に反してだった。つまり、労働党下院議員と党員やサポーターたちとの考え方が全く異なる結果となったのである。これが現在の労働党の問題の底流となっている。

ある新人労働党下院議員が、議員となる前の2014年にイスラエルはアメリカに場所を移すべきだという意見に賛成していたことがわかり、大きな議論となった。この女性議員は、党員資格停止され、取り調べられることとなった。反ユダヤ人の動きが大学生労働党支部や党関係者にあると批判されており、一部の者は労働党を既に除名されている。このような中で、労働党内の反コービン派や保守党の関係者、またメディアらが、地方議員らも含め、労働党関係者のソーシャルメディアなどでの発言を徹底的に調べているようだ。

上記の女性下院議員の問題をきかれた、前ロンドン市長で元労働党下院議員のケン・リビングストンが、これまで労働党内で反ユダヤ主義者は知らないとし、この女性下院議員がやりすぎたと批判しながらも、この女性は反ユダヤ主義者(Anti-Semitist)ではないと主張した。そしてヒトラーが当初シオニズム(Zionism:ユダヤ人国家の建設運動)を支持したが、後に頭がおかしくなり、600万人のユダヤ人を殺害したと発言したのである。

この発言の中で、特にヒトラーがシオニズムを支持したという点が大きな問題となり、反コービン・反リビングストンの労働党下院議員が、リビングストンに面と向かい、ナチス擁護者などと攻撃した。メディアが殺到し、大きな騒動となり、コービンはリビングストンを党員資格停止とし、リビングストンも取り調べられることとなった。

この問題にはいくつかの面がある。

まず、コービンのもともとの考え方である。まず、コービンは、イスラエル政権がパレスチナ人を迫害していると考えている。そしてイスラエル政権を批判し、パレスチナ人の権利を守ろうとしていることである。これは、労働党を含めた多くの左派の人たちの見方だ。これは、反ユダヤ主義ではない。

さらに、コービンはかつての労働党であったような、すぐにメンバーを取り調べ、除名するような体制は好ましくないと考えている。つまり、よほどのことがない限り、このような手段は使いたくないと考えていることだ。そのため、何か問題が出てくると、自分の得心が行くまで決定を待つ傾向がある。

これは、これまでの政党リーダーたちの対処法とはかなり異なる。これまで問題を芽の段階で摘み取ってしまう、もしくは摘み取ろうとする傾向が強かった。既存のリーダーシップの在り方とは異なるため、多くは、コービンはリーダーとしての資格がないと見る。ただし、コービンは、このような批判を無視している。しかし、5月5日の地方分権政府や地方自治体の選挙が控えている中では、放っておけず、行動に出た。特にウェールズでは、メディアの批判の強いコービンに、選挙前にウェールズに来ないでほしいとの依頼があったほどである。

さて、コービンは繰り返し、反ユダヤ主義やいかなる人種差別にも反対すると主張している。しかしながら、反コービン派の人たちは、コービンの対応は遅すぎると批判している。ただし、この批判の背後には幾つかの思惑があるように思われる。

まずは、保守党だ。欧州連合(EU)国民投票で保守党が残留派と離脱派で割れている。そのため、両派のつばぜりあいが続いており、いずれの結果となってもキャメロン首相降板への圧力がかかる状態だ。さらにタタ製鉄の撤退問題対応の不手際、若手医師のストライキなど、政府の統治能力を問う問題が続いている。これらが5月5日の選挙に与える影響を心配し、有権者の視点をコービン労働党の無能ぶりに向けようとしているという要素があるだろう。

また、労働党内の反コービン派は、コービンを党首の座から引き下ろそうとしており、コービンにダメージを与える機会をうかがっている。ただし、実際にコービンを引きずり下ろせるかどうかは否定的な見方が強い。もし党首選が実施されたとしても、コービンが出馬すれば、党員やサポーターの支持は、党首選の際と同じレベルであり、コービンが再び他の候補に圧倒的な差をつけて勝利する可能性が高い。当初、反コービン派は、コービンは自分がリーダーとして不適任であることをすぐに悟って、自ら身を引くと見ていたが、コービンは今でもやる気満々で自分のペースで対応している。

さらにイギリスのメディアへのユダヤ系関係者の影響力が非常に大きい点がある。リビングストンは、反ユダヤ主義を否定するが、一般の人たちにとっては、イスラエル政府の行動への批判と反ユダヤ主義を切り離すことは容易ではない。また、イスラエル政府は、国連らの圧力にもかかわらず、パレスチナ人の国家を認めることに反対している。イスラエル政府の政策や行動への批判は、一般のイギリス在住のユダヤ人にも少なからず影響があるだろう。そのため、ユダヤ系の人たちは強く反応する傾向がある。そしてメディアのコービン労働党への批判は、極めて強いものがある。

リビングストンは、自分の発言は、歴史的な事実に基づくものであり、何ら謝罪する必要がないと主張する。実際、ヒトラーがシオニズムを支持したかどうかについては、少なくとも1933年にヒトラー政権とユダヤ人団体がパレスチナにユダヤ人を移動することで合意した事実がある。リビングストンの発言は一貫しており、かつては大ロンドン議会のリーダー(当時の市長役)を務め、さらに国際都市のロンドン市長を2期8年務めたリビングストンがユダヤ人を含めた人種差別を容認する、もしくは容認したことがあるとは考えにくい。リビングストンは党員資格停止となったが、労働党を除名される可能性は少ないように思われる。

リビングストンとコービンは古くからの友人であり、考え方が近い。リビングストンはコービンから国防関係の諮問委員会の共同委員長にも任じられており、リビングストン攻撃は、実際上、コービン攻撃の要素が強い。

コービンは、この5月5日の選挙で評価される、もしくは評価されるべきで、もし労働党が大きく地方議会で議席を失えば、それは有権者がコービンを不適格だと判断したことだと主張する向きがある。ただし、コービンはそれらの憶測に無関心を装っている。

コービン労働党党首が、EU残留を支持する理由

労働党では、下院議員のほとんどが欧州連合(EU)残留支持で、離脱派は一桁しかいない。労働党支持者は、保守党とは異なり、大方が残留支持である。労働党は残留支持と言ってきたが、これまでジェレミー・コービン労働党首は6月23日のEU国民投票に対して積極的に発言してこなかった。しかし、コービンが、このたびイギリスはEUに残留すべきだと公式に発表した。

コービンは、これまでEUを民主的でないと批判してきた。また、1975年の欧州経済共同体(EEC)のメンバーシップの国民投票では離脱側に投票をしたことから、コービンは、本当はEU離脱支持ではないかと憶測されていたのである。

EU残留派と離脱派が拮抗した世論調査がかなり多く、あと10週間ほどの運動でどちらに転ぶか予断を許さない状態になっている。キャメロン首相らには、有権者の多くはキャメロン首相の「威光」の効果で、首相と政府の推薦する「残留」に投票する人が多いのではないかと見ていた向きがあったが、「パナマ書類」に含まれていた、キャメロン首相の亡父の設立したオフショアファンドの問題でキャメロン首相が大きく傷つき、有権者の評価でコービン労働党首よりも低い評価を受ける状態となっている。この中、労働党の支持者の投票がカギを握ると判断されており、コービン党首の積極的な「残留支持」が必要不可欠となっていた。

コービン党首の「残留支持」スピーチの中で、特に興味深いのは、その主な理由だ。イギリスがEUから離脱すると、EU内の規制を離れ、保守党政権が労働者の権利を大幅に捨て去ると主張した。確かに、キャメロン保守党政権では、2015年総選挙後、労働者のストライキを困難にしようとし、また、労働党の財政の多くを占める労働組合からの献金に規制をかけようとしている。

コービンは一方では、EUのこれまでの取り組みを批判し、労働者の権利について他の加盟国と協同して強化することが必要だと述べたが、EU内に残留することで、保守党政権の行うことに一定のタガを絞めようと考えているようだ。しかし、このようなEUの規制が、離脱派がEU離脱を求める強い動機となっており、これまでキャメロン首相らがEU改革を求めてきた一つの理由である。

コービンの「残留支持」を、キャメロン首相は歓迎し、労働党らと多くの点で考え方が異なるが、「残留支持」で同じ目的を持つと主張した。

残留支持側も、すべての人たちが、それぞれの目的に情熱を持って支持しているわけではない。気に入らない面もあるが、残留する方が、現実的、または安全などといった理由で支持している人が少なからずいる。コービンの場合もそれに似ているように思われる。