コービン労働党党首が、EU残留を支持する理由

労働党では、下院議員のほとんどが欧州連合(EU)残留支持で、離脱派は一桁しかいない。労働党支持者は、保守党とは異なり、大方が残留支持である。労働党は残留支持と言ってきたが、これまでジェレミー・コービン労働党首は6月23日のEU国民投票に対して積極的に発言してこなかった。しかし、コービンが、このたびイギリスはEUに残留すべきだと公式に発表した。

コービンは、これまでEUを民主的でないと批判してきた。また、1975年の欧州経済共同体(EEC)のメンバーシップの国民投票では離脱側に投票をしたことから、コービンは、本当はEU離脱支持ではないかと憶測されていたのである。

EU残留派と離脱派が拮抗した世論調査がかなり多く、あと10週間ほどの運動でどちらに転ぶか予断を許さない状態になっている。キャメロン首相らには、有権者の多くはキャメロン首相の「威光」の効果で、首相と政府の推薦する「残留」に投票する人が多いのではないかと見ていた向きがあったが、「パナマ書類」に含まれていた、キャメロン首相の亡父の設立したオフショアファンドの問題でキャメロン首相が大きく傷つき、有権者の評価でコービン労働党首よりも低い評価を受ける状態となっている。この中、労働党の支持者の投票がカギを握ると判断されており、コービン党首の積極的な「残留支持」が必要不可欠となっていた。

コービン党首の「残留支持」スピーチの中で、特に興味深いのは、その主な理由だ。イギリスがEUから離脱すると、EU内の規制を離れ、保守党政権が労働者の権利を大幅に捨て去ると主張した。確かに、キャメロン保守党政権では、2015年総選挙後、労働者のストライキを困難にしようとし、また、労働党の財政の多くを占める労働組合からの献金に規制をかけようとしている。

コービンは一方では、EUのこれまでの取り組みを批判し、労働者の権利について他の加盟国と協同して強化することが必要だと述べたが、EU内に残留することで、保守党政権の行うことに一定のタガを絞めようと考えているようだ。しかし、このようなEUの規制が、離脱派がEU離脱を求める強い動機となっており、これまでキャメロン首相らがEU改革を求めてきた一つの理由である。

コービンの「残留支持」を、キャメロン首相は歓迎し、労働党らと多くの点で考え方が異なるが、「残留支持」で同じ目的を持つと主張した。

残留支持側も、すべての人たちが、それぞれの目的に情熱を持って支持しているわけではない。気に入らない面もあるが、残留する方が、現実的、または安全などといった理由で支持している人が少なからずいる。コービンの場合もそれに似ているように思われる。

EU国民投票が曝け出した政治家の野心

イギリスが欧州連合(EU)から脱退するか留まるかを決める国民投票が6月23日(木)に行われることになった。2月19日夜、ベルギーのブリュッセルで開かれていたEU加盟国首脳会議で最終的に決まった合意の内容を聞いて、まず、キャメロン首相は、よくやったと感じた。

その数日前、キャメロン首相が、セキュリティ、ロシア対策、シリア問題対応などでEUは大切だと演説した。事前交渉が難航しているため、EUのメリットの力点を変化させているのではないかと感じた。EUの原則の変更に反対するフランスや、ポーランドなど東欧のメンバーがイギリスで働く国民の福祉手当の制限などを受け入れない姿勢を見せていたからだ。しかし、最終的に、これらの国らとの妥協が成立したのである。

今回の合意には、EU諸国からの移民が大きく減るなどの実際的な効果は乏しいと見られている。しかし、イギリスがEUの中で既に獲得していた「特別なステイタス」を強化し、そのEUとの関係をイギリスに有利に改善したことは明らかであり、その意味で、キャメロン首相の交渉は成果を上げたと言える。その効果は、むしろ長期的に出てくると見るべきだろう。

イギリスは、経済では、アメリカ、中国、日本、ドイツに次いで世界第5位、国連安全保障理事会の5常任理事国の1角であり、原子力潜水艦で常時核攻撃ができる体制を持つ世界第5位の軍事力を誇り、英連邦などの強い国際的な影響力があることを考えると、イギリスがEUを脱退することは、EUの世界に対するステイタスを弱め、また、EU内の開発援助を含め、EU財政に少なからず影響を与える。

しかし、このニュースに関連して焦点があたったのは、下院議員も務めるロンドン市長のボリス・ジョンソンである。ジョンソンが、国民投票で、EU脱退派にまわるか、キャメロン首相のEU残留派を支持するかで、国民投票の行方を大きく変える可能性があると見られていたためである。人気のかなり高いジョンソンの意見に多くの有権者が耳を傾けると見られており、ジョンソンがキャメロン首相の合意を批判し、EU脱退側に立ったことで、イギリスの通貨ポンドがさらに弱くなるなど経済への影響も少なからず出てきている。

キャメロン首相らは、ジョンソンの動きを自分が保守党党首・首相になりたいためだと主張し、ジョンソンの考え方が純粋なものではないと有権者にアピールする戦略に転じた。国民投票へ向けた残留派と脱退派の戦いは、まだ序盤戦であり、今後の展開を見る必要があるが、キャメロン内閣の主要閣僚5人をはじめ20人程度の政府内のポストを持つ政治家を含め、保守党下院議員の半分近くが脱退派に回っており、かなりの激しい戦いとなっていると言える。

ジョンソンは、2月21日に自宅で行った記者会見で、自分の考えを説明した。しかし、ジョンソンが確信を持っているとは感じられないような話しぶりだった。また、ジョンソンが、その「決断」にどうしてそのように時間をかけたのか、という疑問は残る。ジョンソンが、この間に他の人の意見を求める、もしくは何らかの世論調査を行った可能性があるが、脱退、残留のいずれの立場を取るのが自分に最も有利か天秤にかけたのは間違いないだろう。

もしイギリスがEUに残留という結果となれば、保守党下院議員に大きな影響力を持つオズボーン財相が、キャメロン首相の後継者となるレースでさらに有利となるのはあきらかだ。ただし、ロンドン市長を務め、シティのためにも、EUとの関係がスムーズなものである必要性をよく理解しているジョンソンにとって、キャメロン首相の合意は、EU28加盟国のうちユーロ圏に属する19か国の干渉からシティを守ることも含んでおり、それなりに大きな意義がある。それでも、自分が脱退側に回ることで生じる市場の混乱を軽視した動きは、ジョンソンが野心を持っていることを強く示している。さらに、国民投票の結果、イギリスがEUを脱退することとなれば、そのショックはかなり大きなものとなることが予測される。

長期的に見れば、EUを脱退しても、イギリスは政治的、経済的に十分対応できる可能性が高いと思われる。イギリスへの投資などが大きく減るのではないかという見方があるが、これらは思い切った税などの施策で対応できる可能性がある。一方、EU側が、影響力の少なくないイギリスを無視、もしくは冷遇できる可能性はあまりないだろうと思われる。ただし、イギリスとEUとの多分野にわたる交渉には時間がかかり、その過程で、多くの混乱があり、それらの景気に与える影響はかなりのものがあろう。

いずれにしても、今回のイギリスのEU国民投票は、歴史的にみれば、小さな出来事となるように思われる。ただし、次期総選挙前に退く予定のキャメロン首相にとっては、後世の評価を決めるものである。オズボーン財相にとっては、自分がキャメロン後の保守党党首・首相の座を確保できるかどうかの試金石であり、ジョンソンにとっては、この国民投票で、オズボーンを乗り越えられるかどうかの起死回生ともいえる大逆転を狙うものである。しかし、ジョンソンの「決断」は本当にイギリスのためを思ってのものだろうか?ジョンソンが胸に手を当てて、本当に自分が信じたものと確信を持って言えるかどうか疑問に思われる。政治家の野心は、時に当の政治家を超えて独り歩きし始めるように思われる。

EU国民投票の行方とキャメロン首相の手腕

11月11日、キャメロン首相は、EUに4つの主な要求を提出した。しかし、保守党の欧州懐疑派(EUとの関係を強く批判している人たち)の反応は、「それだけ?」だった。この中でも、有権者の最も関心の強いのは、EU内の移民の問題である。2015年5月の総選挙で、キャメロン首相は、EUの他の加盟国からの外国人は、イギリスの福祉手当を4年間受けられないようにすると約束した。これがEU内で承諾されることは相当難しい。EU内の移民を差別しないとする原則に反するからである。特にポーランドをはじめとする東欧諸国が強く反発している。もし万一、期間の短縮などで合意ができたとしても、その目的である移民を減らす効果は、実際にはあまりないと見られている。

そのため、EUとイギリスとの関係を大幅に見直し、交渉してイギリスに主権を取り戻し、その上でEUに留まるか、脱退するかの国民投票を2017年末までに行うとしたキャメロン首相は、苦しい立場になっている。

キャメロン首相は、この国民投票を保守党内の圧力をそらすために約束したが、このような国民投票には、ギャンブルの要素がある。1975年のEU国民投票は、ウィルソン労働党政権下、その前のヒース保守党政権で加入したEUの問題を巡る党内の対立の決着をつけるために行われた。そしてウィルソン首相は、保守党と協力して残留運動を強力に行った。EU離脱派の10倍のお金を使ったと言われる。しかし、キャメロン政権下での国民投票では、残留派、離脱派の両方ともキャンペーン費用の上限が定められている。キャメロン首相の在職時の業績の「政治的遺産」に直接結びつく問題であるだけに、キャメロン首相は、何とか事態を打開しようとしている。12月17日、18日に行われるEU加盟国28か国の首脳会議で話をまとめようと、これまでキャメロン首相が関係国を訪問し、一対一のトップ会談で話を進めようとしたが、余り成果は上がっていないと伝えられる。

もちろん、これには、国民、メディアの期待をコントロールしている可能性がある。期待をなるべく低く抑えることで、成果を強調しようとしているのかもしれない。つまり、キャメロン首相に秘策、もしくは明らかになっていない各国首脳との個人的な約束がある可能性はあるが、いずれにしてもキャメロン首相が達成できることは、多くの人の期待を大きく下回ることは確実な情勢だ。

その中、世論調査で、EU脱退への支持が増加し、残留への支持と均衡していると報道された。もちろん、国民に対して、首相がEU離脱を勧めるか、残留を勧めるかで、有権者の判断がかなり影響されるが、このままでは、EU残留への積極的な理由が見つけられないまま、事態が進む可能性もある。

さらに、EU国民投票の行われる際の政治環境にもよるだろう。11月13日のパリ同時多発テロ事件の後、イギリスの世論は、離脱へ大きく揺れた。もし同じような事件が、例えばロンドンで国民投票の直前にあるようなら、その与える影響はかなり大きなものがあるだろう。

いずれにしても、自分で蒔いた種とはいえ、この状態をいかに乗り切ることができるか、キャメロン首相の手腕が問われる。

レトリックの効用

キャメロン首相のレトリックの使い方には、驚くべきものがある。これで保守党が総選挙に勝ったのではないかと思えるぐらいだ。

その端的な例は、移民の数の問題である。イギリス国民は、これに非常に大きな関心を持っている。イギリス独立党(UKIP)への急激な支持の増加は、この問題に端を発する。キャメロンは、前回の2010年総選挙前、政権につけば、移民数(正味の移民数で、移入者の数から移出者の数を引いたもの。いずれも1年以上の動きが対象)を間違いなく10万人未満にすると約束した。この総選挙期間中には、当時のブラウン首相(労働党)が、遊説中、ダフィーさんという年金生活者から東欧からの移民の問題を質問された後、お付きの人に、あの頑迷な女と言ったことが明らかになり、わざわざダフィーさんの自宅に謝罪をするために訪問した事件(ダフィーゲート)があった。

キャメロンは、その約束にもかかわらず、首相を5年務めた後、当時の最新の移民数統計は29万8千人で、約束した数の約3倍だった。公約を果たせなかったのである。これを質問されたキャメロンの答えは揮っていた。

「10万人は今でも目標で、それを達成したい」

公約を果たせず、申し訳ないとは言わず、その目標に向けて今も努力しているとの答えだった。イギリス国民は、これを言葉通り受け止め、この公約違反は、選挙期間中、大きな問題とはならなかった。

そして、2015年総選挙の2週間後、最新の移民数の統計が発表された。それによると、前回より減るどころか、さらに増え、2014年には31万8千人だった。この数字は、過去最大の2005年の32万人に迫る数字である。前年から50%ほど増えている。キャメロンは、それでも、選挙期間中と同じことを主張した

労働党支持の新聞、デイリーミラーは「キャメロンの大嘘」と第一面で批判した。タイムズ紙は、社説で、キャメロンのように、恣意的に数字を決めるのは誤りとした。

もともと正味の移民の数を調整するのは、極めて難しい。移入してくる人には、大きく分けて3つある。移民の自由の権利のあるEU内の人たち、海外から帰国してくるイギリス人、それにEU外から来る人たちである。このうち、EU外からの人たちは規制できても、それ以外の人たちは難しい。その上、外貨の大きな収入源であるEU外からの学生、技能や人手の不足している分野の労働力など、規制を強めることは、自らの首を絞めかねないという問題がある。例えば、医師や看護婦などが不足しており、キャメロンは、医師5千人など、この分野での雇用を拡大するとしているが、いったいこの医師がどこから来るのかという疑問がある。EU外からの移民に頼らざるを得ないと見られている。

その上、EUの景気が低迷している中、経済成長で雇用の増加しているイギリスは、EU内の人たちには非常に魅力的だ。イギリスの増加する雇用の半分近くは、移民に行っている。

一方、移出していくのは、帰国する外国人と、海外に移住するイギリス人である。いずれも、数を規制するのは困難だが、この数字は30万人台で安定している。

これから見ると、もともと恣意的な数字を挙げたこと自体、判断に疑問がある。しかし、ここでの問題は、その判断ではなく、そのレトリックである。キャメロンは、偽りとも言えるような言葉、表現で乗り切っている点だ。

来るEUに留まるかどうかの国民投票の問題でも同じような手段を用いている。キャメロンは、2015年総選挙に勝ち、首相に留まれば、イギリスが有利となるようEU各国との交渉を行い、その上で、2017年末までに、この国民投票を実施すると約束していた。この国民投票は、2016年に行われるとの見通しが強まっているが、EUとの交渉でキャメロンの達成したい目標がはっきりしていない。

EU内の人の移動の自由を制限するための方策の中心は、イギリスで受けられる、タックス・クレジット(給付付き税額控除)などの福祉手当を、最初の4年間は受けられないとするものである。しかし、これがEUで認められるかどうかに疑問がある上、もし認められてもイギリスで福祉手当を受けているEU国民はわずか6%しかおらず、その効果は乏しいのではないかと見られている。しかも、違法移民の取り締まりを強化すると言うが、自発的、強制的国外退去の数は減っており、また、関連の予算はさらに削られる方向であり、言うことと実際に行うことの間にはかなり大きな差がある。

その上、イギリスのEU交渉での大きな目標の一つは、EUの統合を強めていくという従来の方向性を変え、イギリスに独自の道を許されるようにするというものである。確かに、シンボル的な意味はあろうが、実際にどの程度の効果があるか疑問である。

EU国民投票は、イギリスの将来に大きな影響を与えるが、レトリック、もしくは言葉で乗り切ろうとする意図があるようだ。確かにこれらは大切だ。特に政治家にとってはそうだろう。

国民は、保守党が過半数を獲得した今回の選挙結果を概して歓迎した。「ハングパーリメント(宙づり国会)」となる可能性が高かったために、不安があったからだ。そのためだろう、総選挙前に保守党が何を言ったかにこだわる向きはあまりない。このような有権者心理から考えると、キャメロンのレトリック戦略は成果を生む可能性が高いと思われる。しかし、同時に、危ういものがあるように感じられる。また、一つ間違えば、有権者の政治不信を招く可能性もあろう。

欧州のイギリスへの影響

イギリスの現在の政治を考えるうえで欧州の問題は重要だ。これには大きく分けて二つある。まず、EU経済のイギリスへの影響、そしてEUに留まるかどうかの国民投票が行われるかどうかである。この二つがイギリスの政治・経済に、大きな不安定要因となっており、企業の投資意欲を削ぐ大きな要因ともなっている。

EU経済不安

EU経済のイギリスへの影響はかなり大きい。イギリスの貿易の半分はEUとの取引であり、EU圏、特にユーロ圏の経済の停滞はイギリスに響く。欧州中央銀行(ECB)が景気支援とデフレ回避を目的にQE(量的緩和)を発表したが、その効果には疑問がある。また、ギリシャが反緊縮財政の左翼政権の誕生で、ギリシャがユーロ脱退する可能性が高まった。ギリシャは、これまでEU、ECB、IMFらの支援を受け、緊縮財政を実施してきたが、GDPが25%減少、失業率は25%となった。そのため、国民は、反緊縮財政を訴えた左翼政権を選んだのである。ただし、ECBらは既にギリシャに厳しい態度を示しており、ユーロ圏に大きな不安がある。もし、ギリシャがユーロ離脱ということとなれば、かなりの混乱が起きると思われ、イギリスへの影響も免れない。さらにウクライナ紛争に関連した不安材料、ロシアへの経済制裁などの要因もある。5月の総選挙を控えてイギリスの経済が順調に成長してほしいキャメロン政権の不安材料でもある。

EU国民投票

次にイギリスがEUに留まるか、脱退するかの国民投票の問題である。保守党のキャメロン首相は、5月の総選挙後、首相に留まることができれば、2017年末までに国民投票を実施すると約束している。しかし、キャメロン首相らは総選挙後できるだけ早く実施したい考えだ。労働党はこの国民投票を実施しない方針だ。総選挙の結果、保守党政権、もしくは保守党が中心となる政権が誕生すると、EU国民投票の結果、イギリスはEUから離脱する可能性があり、不安材料となっている。

もし国民投票が行われれば、1975年にウィルソン労働党政権下で、国民投票を実施した時とはかなり状況が異なる。その前のヒース保守党政権下でイギリスはEUの前身であるEECに加盟していた。ウィルソンは欧州を巡る労働党内での対立に終止符を打つために国民投票を実施したのである。当時国民はEU支持であり、しかもウィルソンは国民投票でEECに留まるという結果が出ることを確信していた。しかもこの国民投票へのキャンペーンには、EECに留まる側が、脱退側の10倍のお金を使ったと言われる。つまり、ウィルソンは勝つのは間違いないという状況で、さらに念を押した運動を行ったのである。

ところが、もしキャメロン政権下で国民投票が行われれば、前回のものとかなり様相が異なる。世論調査によると、EUメンバー維持の賛成、反対が拮抗している。しかもスコットランド独立住民投票と同じく、賛成側、反対側ともに運動で使える金額は同じだと見られ、しかも使えるお金に厳しい制限があることは間違いない。つまり、1975年の国民投票のようなわけにはいかないのである。

これらの不安定さが、イギリス企業の投資意欲にも大きく水を差しており、欧州に関連して、イギリス政治の不安定さは続く。

イギリスはEUを離脱するか?

EUの欧州委員会がイギリスの国民所得を計算しなおした結果、イギリスに約17億ポンド(2900億円)のEUへの追加負担金を121日までに支払うように求めてきた。それに対し、キャメロン首相が怒り、その通りには払わないと主張した。

これには、イギリスの多くの新聞がこれでイギリスのEU離脱が近づいたと報道したが、果たしてそうなのだろうか?

キャメロン政権がこの追加負担金を払わなければ、1か月ごとに罰金を課され、その最大限度額は17700万ポンド(300億円)だとタイムズ紙が報じた。

追加負担金より、この罰金の金額がかなり小さいため、払わずに罰金を選択する可能性もあるが、多くは負担金の減額並びに長期の分割払いを交渉すると見ている。しかし、いずれにしても、この追加負担額を支払うことは、イギリス独立党(UKIP)に保守党を攻撃する機会を与えることになるため、キャメロン首相はそう簡単に取り扱える問題ではない。また、もし払わなければ、他のEU加盟国から批判を招く。特にドイツ、フランスはかなり大きな払戻金を受け取ることになったため、その批判は強いだろう。

キャメロン首相はEUを改革し、イギリスのEUとの関係を変えた上で、2017年末までにEUに留まるかどうかの国民投票を実施すると約束している。EUに留まることを望むキャメロン首相は、その交渉をするには、これらの国との関係を悪くすることは避けたい。

しかしながら、キャメロン首相が、この交渉で最も重要な課題と位置付けているEU移民の制限については、EU内の移動の自由の原則に触れる。この原則を変えることに理解を示している国はドイツを含め、EU内にない。つまり、この交渉は不調に終わる可能性が極めて高い。

それでは、もし、保守党が半年後の総選挙で勝ち、交渉の結果にかかわらず、国民投票を実施することになればどうなるか? 

世論調査会社Ipsos-Mori20141011日から14日に世論調査を行い、197710月から201410月までの世論の動きをまとめている。それによると、201410月の時点で、EUに留まる人は56%、離脱は36%という結果で、EUに留まるに賛成の人の割合は、過去23年で最も高い。 

201111月にはEU離脱賛成の人の割合は49%で、加盟維持の41%を上回ったが、これは、欧州統一通貨ユーロ危機の時であった。興味深い事実は、UKIPの支持率は当時低かった。ところが、今やUKIPの支持率は16%とこの世論会社の調査で最も高くなっている。

つまり、イギリスのEUからの離脱を謳うUKIPへの支持が高くなるにつれ、EUに留まることに賛成の有権者が増えているのである。

この点の分析では、これは有権者が極端を嫌う傾向が強いためだと見ている。

まず、有権者のうち、自ら進んでEUとの関係がイギリスの主要な課題と見ている人はわずか8%しかいない。その反面、イギリスの最も重要な対外関係は、欧州との関係という人が47%いる(なお、コモンウェルス25%、アメリカ20%と続く)。

一方、有権者に既成政党離れがある。80%の有権者がUKIPは他の政党と違うと見ており、それがUKIPへの支持につながっている面がある。しかしながら、UKIPが極端な政党だと見る人は64%おり、極端を嫌う有権者がUKIPの目指す方向とは反対の方向に動いているという。

YouGov/Sunday Times1023日~24日に行われた世論調査では、EU継続派が41%、離脱派が40%だった。それでもUKIPが強くなればなるほど有権者がEUとの関係継続に動く傾向があるなら、キャメロン首相の交渉がどうなろうとも、その結果にあまり左右されない結果となるように思われる。

キャメロン首相の止まない頭痛

EU委員会がイギリスに「突然」、21億ユーロ(約17億ポンド、約2900億円)を支払うよう求めてきた。しかも121日が支払い期限である。

これは過去18年間の経済成長を勘案して、より成長の大きな加盟国により大きなEUの財政負担をさせるためのもので、それぞれの国の経済データの結果をもとに調整される。毎年行われており、イギリスは2008年に払い戻しを受けたことがあるが、いずれの場合も金額はかなり小さく、この金額には誰もが驚いたと言われる。

イギリスはEUに約170億ポンド支払っているが、払い戻しで33億ポンド、そして各種のEU補助金に52億ポンドほど受け取っているために、実際には86億ポンド(約15千億円)ほどの正味の支払いとなる。つまり、今回の請求は、その5分の1ほどの金額である。

イギリスの他にも支払いを求められた国がいくつかあるが、金額で2番目のオランダはイギリスの3分の1以下であり、イギリスの額が突出している。一方、フランスやドイツは、この調整で払い戻しを受ける。

このような結果となった原因はイギリスの国民所得の計算法の変更である。これまで計算に入れられていなかったもの、例えば、慈善団体のサービスや地下経済なども含めるようになった。そのため、麻薬取引や売春といったものも入れられるようになった。ドイツでは2002年から売春が合法化され、国民所得で含められていたため今回の払い戻しにつながったと言われる。

キャメロン首相は、記者会見で、怒って、言われたようには支払わないと主張した。EU内でイギリス追加支払い分の若干の減額が合意されるかもしれないが、いずれにしても、これまでの慣例で支払わないわけにはいかないと見られている。

この問題は、キャメロン首相にとり、悪いタイミングで表面化した。イギリスのEUからの離脱を訴えるイギリス独立党(UKIP)に、キャメロン首相率いる保守党は支持を奪われており、保守党を離党してUKIPに移った議員の優勢が伝えられる補欠選挙が1120日に控えている。

イギリスのEUとの関係をめぐる問題では、移民の制限を設けるイギリスの要求が受け入れられる可能性はほとんどない。しかも欧州議会がEU予算の増額を要求している。イギリスの多くの有権者の反感を買う事態が次々に起きている。 

UKIPのファラージュ党首が言ったように、キャメロン首相はまさしく「不可能な立場」に置かれている。キャメロン首相の威勢のよい発言に対する有権者の信頼は次第に減少しており、発言に対する裏付けの行動がないとキャメロン首相はさらに困難な立場に追い込まれる。

EUで孤立し、自らの立場を苦しくしたキャメロン首相

EUの首相」ともいえる立場の欧州委員会委員長の選任をめぐって、キャメロン首相はEU加盟国28か国の中で孤立し、627日の異例の投票の結果、キャメロンがEU改革の妨げになると真っ向から反対していた「本命」が26か国の支持を得て選ばれた。

イギリスの新聞は、この結果をイギリスが「EU脱退に一歩近づいた」と表現した。 

イギリスの有権者は、この投票前からキャメロン首相が反対するのは正しいと見ていた。例えば、投票数日前に発表されたPopulus/FTの世論調査によると、キャメロン首相が「本命」のユンケル前ルクセンブルグ首相の就任を阻止しようとするのはどういう結果になっても正しいと有権者の43%が見ていた。さらにもしその就任をブロックできるのなら正しいと見た人は14%で、そのような態度は誤りだという人は13%だけだった。

同じく投票前に行われたYouGov/Sunday Timesの世論調査でも40%の人がキャメロン首相は正しいと言い、誤っているという人はわずか14%であった。それは投票後に行われたSurvation/Mail on Sundayでも同じで、43%の有権者が正しかったと評価し、誤っていたと考えている人は、15%に過ぎない。

キャメロンの取った行動の結果、Survation/Mail on Sundayによると47%の有権者がイギリスをEUから脱退させたいと考え、留めさせたいと考えている人は39%で、脱退派が増えている。

つまり、キャメロン首相の行動は、さらにイギリスをEU脱退の道へと進める結果となった。有権者から支持を得ているのなら、10か月先に行われる総選挙も考えると決してマイナスではないという見方もあろう。

しかしながら、キャメロン首相は、イギリスをEUに留めたいと考えている。イギリスは、EU改革で国の権限をEUから取り戻したい。次期総選挙でキャメロンが再び首相となれば、その改革を行った上で、2017年末までにEUに残留するかどうかの国民投票をすると約束している。

そのような戦略を進めるために、ユンケル反対の立場を早くから明らかにしたが、あてにしていたメルケル独首相がユンケルやむなしという立場に変わった。そのため、キャメロン首相は振り上げたこぶしを下ろせず、面目を保つために、選考方法が正しくないとし、「原則を貫く」という旗印のもとに突っ走ったというのが実態である。

国民には、そのような改革が行なわれた上でなら、EU残留に賛成するという人が多い。それは上記のSurvation/Mail on Sundayでもそうで、41%が残留、脱退は37%である。問題は、それではどのような権限を取り戻せるかである。

キャメロンは、その詳細についてはあいまいにしたままで総選挙を乗り切り、EUの他の加盟国と交渉した上で、できることとそうでないことを見極めたいという判断をしていたと思われる。

ところが、上記のSurvation/Mail on Sundayでも、有権者は、移民の制限を一番に挙げている。ところが、これはEUの基本にかかわる問題であり、EUに留まりながらこの権限が取り戻せると考えている人は恐らくいないだろう。

さらに同じ世論調査で誰がEUを支配していると思うかでは、メルケル独首相と答えた人が50%、次期欧州委員会委員長のユンケルが12%、そしてキャメロン首相が9%である。キャメロン首相のEU内での影響力は、イギリスの有権者の目にも弱まっている。

その一方、キャメロン首相は、自分の反対したユンケルが欧州委員会委員長となることから、自らの立場を明確に打ち出す必要に迫られており、イギリスの取り戻したい権限のリストを求められると考えられている。しかし、このようなリストに保守党内の欧州懐疑派の求めているような、本格的な移民の制限などが含まれる可能性は乏しく、次期総選挙前に保守党内の党内抗争の火種を増やすだけのように思われる。また、もしそのようなことを含めても、それが達成できる可能性は少ない。そしてその結果、イギリスのEU脱退の可能性が大きくなる。

ブルーンバーグのコメンテーターは、イギリスがEUに留まるには、キャメロンがもう一度敗れる必要があるとコメントした。この敗北は次期総選挙での敗北である。

キャメロンがもう少し慎重にことを運んでいれば、ユンケルの次期委員長就任を防げただけではなく、EUの運営に大きな影響力を維持できていただろう。誤算のため、自らの今後の選択肢を極めて狭くし、自らをより厳しい立場に追い込んだことは間違いない。 

クレッグ・ファラージュ討論(Clegg vs Farage Debate)

326日(水)に自民党の党首ニック・クレッグ副首相と英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージュ党首の「英国とEU」をめぐる討論が行われた。親EUの自民党のクレッグ党首が呼びかけたもので、反EUUKIPファラージュ党首が受けて立ったために実現したものである。42日(水)に2回目の討論が行われる。

この討論は政治関係者らが注目したが、そのインパクトはかなり限定されたものだった。第一回目の討論は、ロンドンのラジオ局LBCが主催し、ラジオで放送されたほか、ニュースチャンネルのスカイニュースでも同時にテレビ放送した。また、LBCのホームページでも実況放送した。

直後の世論調査ではファラージュのほうがよかったという人が57%、クレッグのほうに軍配を上げた人が36%でファラージュが21ポイント上回った。ただし、この世論調査を実施したYouGovの担当者が、千人余りの応答者を見つけるために数万人に当たる必要があったと明らかにしたように、この討論を視聴した人は限られていた。

翌日の新聞でもこのニュースは掲載され、第一面で扱った新聞もあったが、その後の世論調査であまり大きな動きはない42日の第2回目の討論は公共放送のBBC2テレビとスカイニュースの両方で午後7時から1時間放送される。関心は少し上がるだろうが、2大政党の保守党と労働党が参加しない討論では盛り上がりに欠ける。 

1回目の討論は、細かな数字を挙げて論争を挑もうとするクレッグと、かなり恣意的な数字を使い、威勢のよいファラージュの戦いであった。ファラージュは予想以上に欧州の問題や英国の有権者の関心に対して答えを持っており、自民党元党首パディ・アッシュダウンも指摘したように高いレベルの討論に対応できる政治家であった。

一方、クレッグは下院の図書館の調査の数字ではといったように細かな数字を出したが、このような戦術が有権者にどの程度効果があるか疑問である。多くの有権者は細かな数字には耳をふさいでしまうか、自分の感覚で感じていることに反することには耳をかさない傾向がある。そのため、ファラージュが何度か顔を固くした場面があったが、わかりやすい話をしたファラージュに軍配が上がったと思われる。 

討論後、ファラージュがEUはウクライナを不安定にし問題を招いた責任があると指摘したことに関して、ロシアのプーチン大統領の肩を持っているという批判があった。しかし、これにファラージュは反論し、プーチンのしたことに賛成しないが、EUの外交政策は大失敗だと主張した。EUはウクライナで民主的な選挙で選ばれた大統領を倒すのに手を貸した、シリアでも期待をあおっただけで状況を悪化させているなどと批判した。 

政治コメンテーターたちは二人ともこの討論に参加することに利益があるという。自民党は世論調査で10%前後の支持しかなく、522日の欧州議会議員選挙では議席がなくなるかもしれないと指摘されている。そのため自民党はメディアの注目を浴びる機会を求めていた。自民党は唯一の親EU政党だと主張しており、英国がEUから離れることを心配する人たちに自民党の主張を訴えられる機会となるからである。 

一方、UKIPは、前回の2009年欧州議会選では保守党に続き、第二位の得票率、議席数を獲得したものの、完全小選挙区制の下院では議席を獲得できていない。5月の欧州議会選挙では、野党労働党と英国選挙区でのトップを争う位置にあると見られているが、そこで多くの得票をし、議席を獲得することで、来年5月の総選挙への弾みにしようとしている。

下院に議席がないため、これまで泡沫政党の扱いを受けてきたが、3月の初めに、情報通信庁(Ofcom)がUKIPを欧州選挙で「主要政党」として扱うようにすべきと判断したことは大きい。保守党、労働党、自民党の3大政党と同じように扱われる形になるのは政党として望ましく、このような討論の機会はUKIPのステイタスを上げる。ただし、党首ファラージュのワンマンバンドともいわれる政党であり、ファラージュがどの程度無難に討論ができるかに注目が集まっていた。その第一のハードルは超えたと言える。

保守党、労働党はこの討論には参加していない。むしろ参加すればUKIPらにメディアに注目される機会を与えるだけだと考えている。しかし、このクレッグ・ファラージュの第一回目の討論の結果、もし2015年総選挙前にも主要政党の党首討論が行われれば、UKIPを入れる必要が出てくるのではないかという見方が強まっている。

欧州議会議員選挙と世論調査(European Parliament Elections and Opinion Polls)

欧州議会議員選挙が5月22日(木)に行われる。欧州議会はEU加盟国28か国から5年ごとに選ばれる751議員によって構成される。英国にはこのうち73議席が割り当てられており、地区別の比例代表で選ばれる。イングランド、スコットランドそしてウェールズはドント方式で選ばれるが、北アイルランドは単記移譲式投票である。

この選挙では、英国のEUからの離脱を求める英国独立党(UKIP)がトップとなるのではないかと予想されている。UKIPは下院に議席を持たないが、前回の2009年には保守党に引き続き第2位の得票率で、第2位の議席を獲得した。

2009年6月4日(木)に行われた選挙結果は以下のとおり(イングランド、スコットランド、ウェールズ)。労働党は当時、ゴードン・ブラウンが首相で政権政党であったが、第3位となった。

 政党 得票率 議席数
保守党 27.9% 25+北アイルランド提携1議席
UKIP 16.6% 13
労働党 15.8% 13
自民党 13.8% 11

なお、それまでの2回の選挙結果は以下の通り。

政党

1999年

2004年

  得票率 議席数 得票率 議席数
保守党 35.8% 36 26.7% 27
労働党 28.0% 29 22.6% 19
自民党 12.7% 10 14.9% 12
UKIP 7.0% 3 16.1% 12

2009年には、1ヵ月ほど前までの世論調査でのUKIPへの支持率は1けた台だったが、それから支持が伸びた(2009年欧州議会議員選挙までの世論調査のまとめ)。投票前日までに行われたYouGov/テレグラフ紙の世論調査では、上記4党の支持率は以下のようだった。

政党 支持率
保守党 26%
UKIP 18%
労働党 16%
自民党 15%

1ヵ月ほど前までの世論調査が選挙結果とかなり異なっていた理由としては以下のようなことが考えられる(参照)。

・ 有権者が欧州議会議員選挙でどの政党に投票するか直前まであまり考えないこと。

・ 選挙期間中マスコミがUKIPをかなり大きく報道したこと。

・ 2009年には国会の議員経費問題が発覚したため、有権者が既成政党離れを示したこと。テレグラフ紙が国会議員の経費乱用の詳細を入手し、2009年5月8日から毎日のようにそれを次から次に発表した。

2014年の欧州議会議員選挙に対しては、2013年11月21-22日に行われた世論調査の結果は、以下のようである。

政党 支持率
保守党 24%
UKIP 25%
労働党 32%
自民党 8%

UKIPは2013年には下院の補欠選挙や地方議会選挙で善戦した。2014年の欧州議会議員選挙でも台風の目となることは間違いない。