EU国民投票の予測

6月23日投票の欧州連合(EU)国民投票は、イギリスがEUに残留するか離脱するかを決めるものだ。キャメロン首相らの推す残留派と、同じく保守党の前ロンドン市長ボリス・ジョンソン下院議員らの離脱派が熾烈なキャンペーンを転換している。

結果の予測には、世論調査がカギとなる。世論調査は、2015年総選挙で保守党の過半数を予測できなかったことから、かなり信用を失った。そのため、世論調査の業界団体(British Polling Council⦅BPC⦆)やイギリス選挙研究会(British Election Study⦅BES⦆)らが、なぜ予測できなかったのかを探ってきた。その大きな原因は、サンプルに問題があったと見られている。労働党支持者は世論調査会社が比較的コンタクトを取りやすいのに対し、保守党支持者にはコンタクトが取りにくかったことと、保守党支持者の投票率が高いのに対し、労働党支持者は投票率が低く、労働党支持が過大に評価されたことが大きな原因ではなかったかと見られている。それまででも世論調査会社はそれなりの分析をしてこれらのバイアスを除く努力をしてきたが、それが十分ではなかったようだ。

この調査結果は、現在のEU国民投票の世論調査にも反映されている。ただし、このバイアスの問題が完全に解決されているわけではない。その典型は、オンライン世論調査と電話世論調査の結果が大きく異なっていることだ。オンライン世論調査とは、登録世論調査受託者の中から抽出した人たちに質問票を送って答えを求めるもので、電話世論調査とは、これを電話で行うものである。

なお、EU国民投票に関しては、これまでの傾向としてオンライン調査では残留派と離脱派が拮抗しているが、電話調査では、残留派がかなりリードしている。

5月16日に発表された世論調査会社ICMの結果を見てみよう。ICMは、EU国民投票の支持動向と次期総選挙への政党支持とをオンラインと電話の両方で同時に行った。その結果は以下のようである。

EU国民投票の動向(残留支持か離脱支持か)

  残留 離脱 未定
オンライン 43 47 10
電話 47 39 14

この結果は、極めて興味深い。オンラインでは、離脱派が4ポイントリードしているのに対し、電話調査では残留派が8ポイントリードしている。電話調査では、直接聞かれるので、態度未定者の割合が少ないと言われるが、これでは電話調査の方がオンラインより多くなっている。なお、この調査は、世論調査で時にある異常値であるという疑いがあるかもしれないが、次期総選挙の政党支持から見るとそうでもないようだ。

次期総選挙の政党支持(もし総選挙が明日あればどの政党に投票するか)

  保守党 労働党 自民党 UKIP 緑の党
オンライン 34 32 7 17 4
電話 36 34 7 13 4

これでは、保守党と労働党の支持率の差はいずれも2ポイントである。一般にオンラインではイギリス独立党(UKIP)支持が高いと言われ、その傾向が出ている。UKIPは、イギリスをEUから離脱させることを目的とした政党であり、その支持が高ければ、離脱派が多くなるだろう。

EU国民投票では、労働党支持者の3分の2が残留支持だと言われる。電話調査で、残留支持が離脱派を大きくリードしているのは、応答者の多くがコンタクトの比較的容易な労働党支持者であることが過大に出てきている可能性も否定できない。労働党支持者の投票率は一般に低いが、キャメロン首相は、労働党支持者の投票率を上げようと、労働党支持のタブロイド紙デイリーミラー紙にも寄稿して、残留支持を訴えた。

電話調査の方が、多くの費用がかかり、より正確だと一般に信じられているが、結局のところ、オンライン調査と電話調査の間に落ち着くという見方がある。このオンラインと電話調査の結果の差は、6月23日の国民投票の結果がわかった時点で改めて検討されることになろう。なお、イギリスの大手賭け屋ウィリアムヒルの賭け率は、残留1-4、離脱11-4で、残留が優勢である。

5月5日分権議会、地方選挙結果

5月5日、下院の補欠選挙、分権議会選挙(スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)、ロンドン市長選と議会選を含むイングランドでの市長選、地方議会選挙、イングランドとウェールズの警察犯罪コミッショナーの選挙が行われた。まだ開票中のものもあるが、現時点では、2つ指摘できることがあるだろう。コービン労働党の健闘と、スコットランドでコットランド国民党(SNP)がダメージを負ったということである。

まず、これらの選挙で最も注目されていたのは、コービン労働党がどの程度の結果を収めるかであった。コービンは、昨年9月に労働党の党首となって以来、8か月ほどだ。これまで党勢の大きな改善はなかったが、今回の選挙前に、労働党内の反ユダヤ主義の問題がメディアで大きく取り上げられ、コービンの取り組みが遅いと強く批判された。このニュースが連日大きく報道され、労働党は苦しい立場で、かなり深刻なダメージを受け、議席を大きく失う可能性が指摘されていた。しかし、コービンは、それぞれの地元は異なり、大丈夫だと主張した。このコービンの主張は、おおむね裏付けられた形である。

全体的に労働党は得票を減らしており、若干議席を失っているものの、それは大きなものではなく、100から200減の予想は当たらなかった。大幅な議席減の場合、党首コービンの責任を問い、追い落とそうとしていた労働党内のグループは、その理由を失ったと言える。

本来、6月23日に行われる欧州連合(EU)残留/離脱の国民投票で保守党が割れ、キャメロン保守党政権が財政緊縮策を含めた政権運営で批判されており、キャメロン首相自身オフショア資金問題で苦しい立場となった直後であり、労働党は今回の地方選挙で大きな躍進を遂げるべきで、それができないのはおかしいという見方がある。ただし、2010年の総選挙で大きく議席を減らし、さらに2015年に惨敗した労働党の状況を勘案する必要があるだろう。今回焦点の当たったイングランドの地方選挙では、前回の2012年時、キャメロン政権の失政(3月のオムニシャンブルズ予算など)で、労働党が大きく躍進したため、今回は、その揺り戻しがあると見られていた。

また、2010年に労働党は、イングランドで大きく議席を失ったが、2015年に若干回復した。つまり、労働党は回復途上にあると言える。コービンは、自分でも予想外に党首に当選したが、これまでの党首タイプとは異なる。スロースターターで、やっと党首の座に慣れてきたという状況だ。これまで下院議員として自分の選挙区で選挙運動をしてきたが、労働党の最も左派で、党のリーダーたちから無視されており、選挙戦を統括するような立場にはなかった。その状況で、今回の選挙が前回並みの成果となったのは、恐らく、コービンにとっては幸運だったと言えるだろう。

今回の選挙で最も意外だったのは、スコットランドである。2015年5月の総選挙で、スコットランドに割り当てられた59の下院議席のうち、スコットランド国民党(SNP)が56議席を獲得し、しかも今回の分権議会選挙前の世論調査では、SNPがコンスタントに50%以上の支持を集め、議会の129議席で、前回の2011年の69議席からさらに議席を伸ばすと見られていた。ところが、SNPは、過半数の65議席に届かず、63議席に留まった。政権の維持については、友党の緑の党が4議席伸ばして6議席獲得したため、合計69議席となり、特に問題はないと思われるが、SNPの破竹の勢いはストップされた。第2の独立住民投票の動きに大きなダメージとなったといえるだろう。

今回、SNPは、昨年の総選挙の勢いを受け、小選挙区で6議席伸ばし、59議席とした。ところが、比例区で得票を減らし、前回より12議席減の4議席に留まった。なお、スコットランド議会議員選挙は、小選挙区の結果に比例区の結果が連動する形の小選挙区比例代表併用制である。今回のSNPの結果には、緑の党が得票を大きく伸ばしたことと、予想外の躍進を遂げた保守党の影響がある。

保守党の躍進の背後には、スコットランドのリーダーがはっきりと独立住民投票実施反対を唱えたのに対し、労働党のリーダーは煮え切らない態度だったことがある。そのため、反SNP票が保守党に集まった模様だ。スコットランドの労働党は、スコットランドで第3位の勢力となり、党勢がさらに弱まった。

5月5日の選挙

2016年5月5日(木)には、下院の補欠選挙、分権議会選挙、ロンドン市長選と議会選を含むイングランドでの市長選、地方議会選挙、イングランドとウェールズの警察犯罪コミッショナーの選挙が行われる。

下院の補欠選挙は2選挙区で行われるが、いずれも労働党の強い選挙区で、労働党が勝利を収めるのは確実。シェフィールドの選挙区では、2015年5月の総選挙で当選したばかりの議員が亡くなったために行われる。後継者は、亡くなった議員の妻で、地域の議会議員として経験豊富な人物である。また、ウェールズの選挙区では、中央政府の役職も経験した現職の下院議員がウェールズ議会議員に立候補するために辞職し、行われるものである。ちなみにウェールズ議会議員は下院議員と比べると格下で、議員報酬も少ないが、この人物は次期ウェールズ首席大臣のポストを狙っていると憶測されている。これらの補欠選挙は労働党の勝利が確実視されていることから、メディアでは余り注目されていない。管区ごとの警察を監視する40の警察・犯罪コミッショナーの選挙も低調である。

この中で最も注目されているのが、イングランドの地方議会議員選挙で労働党がどの程度の結果を収めるかである。2015年9月に労働党の党首に選ばれたジェレミー・コービンの評価がこれで決まるとの見方もあるが、前回の2012年には、労働党の支持率が保守党よりはるかに高かったため、前回と比較するのは酷だとの見方もある。124の地方議会で、2743議席が争われるが、保守党が30から50程度の議席増を予想されているのに対し、労働党は、100から200議席程度失うと見られている。しかし、コービンは議席が減らないと強気だ。それでも、労働組合最大手のユナイトのトップは、反コービン派の労働党下院議員たちがコービンの立場を弱くしようと画策しているとして名指しで批判するなど反撃に出ている。

労働党下院議員の多くは、キャメロン保守党政権が苦しみ、批判されている時に、労働党がその党勢を改善できないのはおかしいと見ている。保守党は、欧州連合(EU)に残留するか離脱するかの国民投票で分裂しており、キャメロン政権は、タタ製鉄の撤退問題、国民保健サービス(NHS)の財政や若手医師の契約問題、さらには初中等教育の改革などで大きな批判を浴びている。しかし、ユダヤ人差別の問題への対応で、コービンは労働党内外から、特にユダヤ人関係の影響力の強いメディアから強く批判されており、連日のメディア報道からの防戦に躍起になっている状態だ。それでも、選挙結果予測は、主に全国的な世論調査に頼っており、それがどの程度地方議会選挙の結果に反映するかには疑問がある。

スコットランドでは、政権を担当するスコットランド国民党がさらに議席を増やす勢いである。注目は、第2位の座を労働党が守ることができるかどうかだ。ウェールズでは、60議席中30議席を持ち、これまで政権を担当してきた労働党が数議席失う状態だ。ただし、保守党は、タタ製鉄ウェールズ製鉄所の問題で、初期対応を誤り、雇用不安を招いていることからウェールズで批判を浴びており、保守党も議席を減らす見通しである。これらの影で健闘しているのが、地域政党のプライド・カムリとイギリス独立党(UKIP)である。プライド・カムリは、保守党を追い越し、第2位の議席を獲得する構えだ。また、この分権議会の選挙は、小選挙区と比例区のある小選挙区比例代表併用制であり、これまで分権議会で議席を獲得したことのないUKIP(北アイルランドで当選後UKIPに入党した議員はいる)は、比例区で6もしくは7議席を獲得すると見られている。

さらに注目されるロンドン市長選(日本の東京都知事選にあたる)では、労働党のサディキ・カーン下院議員が当選確実な状態だ。カーン議員は、パキスタン移民の子で、イスラム教徒である。

イギリス政治2015年から2016年へ

2015年の政治は、5月の総選挙を中心に展開した。もちろん、政治は、過去からの継続であり、これまでの出来事に大きな影響を受ける。特に以下のものは重要だ。

  • 2010年総選挙後、保守党と自民党の連立政権成立と自民党支持の急落
  • イギリス独立党(UKIP)への支持の急伸
  • 2014年9月のスコットランド独立住民投票とスコットランド国民党(SNP)への支持の急伸
  1. 自民党支持の急落
    自民党は、2010年総選挙後、支持が急落した。2010年5月の総選挙の得票率は23%、そして総選挙直後20%余りの支持があったが、同年8月には10%台前半、そしてその4か月後の12月に一桁となる。その年10月、総選挙後に発表されることになっていたブラウン報告で、大学学費の大幅アップが提案された。それまでの年額3千ポンド(54万円:£1=180円)ほどから、一挙にその3倍の上限9千ポンド(162万円)とする案は、その年12月に両院の議決を経て、法制化。結局、保守党との連立に応じ、大学学費値上げ絶対反対を唱えていた自民党の支持率はそれ以降回復せず、2015年総選挙で惨敗した。そして、現在も低迷している。
  2. UKIP支持の急伸
    UKIPへの支持は、2013年からコンスタントに二ケタとなる。この支持率は、国政選挙の総選挙への投票支持動向であり、2014年5月に欧州議会議員選挙イギリス選挙区でトップとなるUKIPへの支持率とは異なる。2014年後半には、保守党から離脱した2人の下院議員が、UKIPに加入し、選挙区有権者の信を問うとして下院議員を辞職、それぞれ補欠選挙に立ち、いずれもUKIPの下院議員として当選した。しかし、2015年総選挙では、得票率12.6%だったが、このうち一人が当選しただけで、UKIP党首はじめ、全員落選。これはイギリスの小選挙区制度に基づくものであり、もしこれが比例代表制だったら82議席獲得していたはずと言われる。
  3. SNP支持の急伸
    スコットランド独立を標榜するSNPには、2011年スコットランド議会議員選挙で全129議席の過半数を占めた実績があった。しかし、2014年9月のスコットランド独立住民投票では、独立反対が賛成に大きな差をつけるという見方が強く、独立住民投票の実施で、SNPがその勢力を弱めるという観測があった。ところが、この住民投票の直前、独立支持派が急伸。結果は、独立反対55%、賛成45%で、独立は否定されたが、この住民投票後、SNPへの入党が急増し、それまでの2万5千余りから10万人を超え、4倍以上の増加。このSNPの党勢強化を背景に総選挙に臨んだ。

この3つの要素が、保守党、労働党の動きなどと絡み合い、2015年総選挙の行方を左右した。保守党と労働党が互角の勢いと見た人が多かった。保守党は、その経済・財政政策に力を入れ、その実績の強みを強調し、コンスタントなメッセージを有権者に送ったのに対し、労働党は、福祉、経済・財政、NHSなど、バラバラなメッセージを出すこととなった。さらに保守党は、キャメロン首相への有権者の評価が、ミリバンド労働党党首よりもはるかに高いことを強調した。

選挙戦では、保守党を含め、いずれの政党も過半数が獲得できずないハング・パーラメントとなると予想され、連立を組むことになると予想された。その中、SNPがスコットランドを席巻する勢いとなっていることを受け、労働党とSNPが連立を組む可能性が高いことが指摘された。その中、保守党が強調したのは、以下の点である。

労働党が政権を獲得するためには、SNPが必要、しかし、SNPはイギリスを壊そうとする政党であり、SNPに支えられた、リーダーシップが乏しく、弱いミリバンド政権は危険、一方、保守党は、右のUKIPに票を奪われており、苦しんでいる。このメッセージを、そのターゲットとした、前回の勝者と次点の差の小さなマージナル選挙区で強力に浸透させようとした。

その影響を直接受けたのが、自民党である。低い全国的な支持率にもかかわらず、自民党が優位と思われた選挙区、特にイングランド東南部などでは、自民党が議席を失い、20数議席は獲得できるとの予想が、一桁の8議席と、2010年総選挙の53議席から大幅に後退した。

労働党は、UKIPにもイングランドの北部などで大きく票を奪われた。イングランドでは、マージナルの選挙区で予想以上に敗れ、前回2010年の191議席から206議席へと若干議席数を伸ばしたものの、スコットランドに割り当てられた59議席のうち、前回の43議席からわずかに1議席となった。SNPに56議席を奪われる大敗北を喫し、その結果、労働党は、2010年の256議席から232議席へと大きく議席を減らす結果となった。

労働党は、歴史的な大敗を喫したという見方があるが、事実上、労働党はスコットランドで負けたのである。

総選挙後の政治

2015年総選挙では、過半数をやや上回り、他の政党の合計議席数を幾つ上回るかを示す「マジョリティ」が12となった保守党の単独政権となり、保守党関係者も含め、大方の予想を裏切る結果となった。そのため、総選挙後の政治は、保守党が総選挙で約束したことを実行するのに手こずる形となっている。その最も顕著なものは、低所得者の所得を補助するタックス・クレジットと呼ばれる制度である。財政赤字を減らすための財政削減で、福祉手当を大幅に削減する必要があり、その標的となっていたのがこのタックス・クレジットの大幅削減であった。オズボーン財相は、何とか実施しようとしたが、結局、低所得者の収入が大きく減るなどの理由で、上院の賛成も得られず、少なくとも当面、実施しないこととなった。

さらに、キャメロン首相が、総選挙後、首相の職に留まれば、2017年末までに実施すると約束した、欧州連合(EU)に留まるかどうかの国民投票がある。この問題で、キャメロン首相は、他のEU加盟国との交渉に懸命だ。

一方、野党第一党の労働党では、総選挙結果を受けて、エド・ミリバンドが党首を辞任した。その後任の党首には、当初全く勝ち目がないと思われた、労働党の中で最も左翼と見なされるジェレミー・コービンが、党首選有権者から圧倒的な支持を受けて選ばれた。それ以来、労働党内は、揺れている。党所属下院議員の支持をほとんど受けなかった新党首と、それ以外の下院議員の関係が落ち着くには今しばらく時間がかかりそうだ。

2010年総選挙で大きな役割を果たした主要3党のうち、自民党が大きく後退し、小政党が大きく躍進した。保守党と労働党の2党は、1945年総選挙で97%の得票をしたが、2015年には、それが67%。それでも、小選挙区制をとるイギリスでは、保守党が過半数を制し、2大政党制が保たれた形となった。なお、保守党、労働党に自民党を加えた3党では、2010年総選挙で88%(2大政党では65%)の得票率、2015年総選挙では、それが75%となった

2016年の政治

2016年の政治環境は、これらを反映したものとなる。イギリスは、4つの地域、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドを併せた連合王国だが、それぞれの地域でトップの政党が異なる。イングランドでは、保守党、スコットランドでは、SNP、ウェールズでは労働党、そして北アイルランドでは、地域政党の民主統一党(DUP)であり、それぞれの地域の利害は一致していない。その中、保守党と労働党の2大政党が総選挙で投票の3分の2しか獲得できず、このうちのいずれかが3分の1をやや上回る得票で政権に就く形である。なお、投票率は2015年総選挙では66%で、有権者の3分の1が投票していない。つまり、現在のキャメロン保守党は、かなりぜい弱な政権基盤を持つといえる。その中で大きなカギは、2016年中に行われると見られているEU国民投票の結果と、2015年9月に労働党党首に選ばれたコービンがどの程度国民の支持を集められるかである。コービンの場合、2016年5月5日に行われる、地方選挙並びに分権議会選挙の結果がその目安となるだろう。いずれにしても、2016年末までには、2020年に予定される次期総選挙の基本的な構図がはっきりとしてくるように思われる。

なぜ世論調査会社は選挙結果を予想できなかったのか?

今回の総選挙は、いずれの政党も過半数を占めることのない、いわゆるハングパーリメント(宙づり議会)となると見られていたが、保守党が過半数を占める、意外な結果となった。

650議席の内訳

保守党 労働党 自民党 UKIP SNP その他
2010年総選挙結果 306 258 57 0 6 23
2015年総選挙結果 331 232 8 1 56 22
25 ‐26 -49 2 50

なぜこのような結果となったかの検証が始まっているが、保守党の選挙戦略担当者でも、過半数を獲得するとは見ていなかったことが明らかになっている。アメリカのオバマ選対で活躍し、保守党のマージナル選挙区対策で大きな役割を果たしたジム・メッシーナは、投票日1週間前には305議席と呼んでいたそうだ。投票日の朝、保守党の議席数は312と読んでおり、それを選挙対策の責任者であるリントン・クロスビーに提出したという。結果は、それよりもかなり上回り、過半数を超えた。

マージナル選挙区とは、前回の2010年の総選挙で、当選者と次点の票の差が少ない選挙区のことを言い、各政党とも通常、マージナル選挙区で勝てるかどうかを重視する。これは、小選挙区制度の選挙では、基本と言える。今回の選挙結果で驚くべきことは、保守党がマージナル選挙区のほとんどを制したことだ。

メッシーナは、マージナル選挙区の、どの政党に投票するかまだ決めていない人、自民党支持だったが、他の党に投票を変えたい人、労働党より保守党に投票する可能性のある有権者など、細かく特定し、そのターゲットに集中してソーシャルメディア、電話、訪問などの手段で働きかけたという。最後の週には、まだどの党に投票するか決めていない人と8から10回言葉を交わしたそうだ。恐らく、ここに世論調査会社が選挙結果を読めなかった一つの原因があるように思われる。世論調査会社は、全体の傾向を見る。今回の総選挙では、元保守党副幹事長だったアッシュクロフト卿などが、選挙区ごとの世論調査も実施したが、選挙区でも広い有権者層の支持動向を探るため、これらのマイクロターゲットの対象の有権者の投票動向の変化を捉えることは極めて難しい。

次期総選挙では、他の政党も同じことを仕掛けてくることを考えれば、世論調査会社の仕事は、さらに難しくなる可能性があろう。

2015年5月 イギリス政治のニュースレター

2015年5月「イギリス政治のニュースレター」は、イギリス総選挙特集
内容は以下のとおり。

「2015年5月総選挙結果」「保守党勝利の原因」「保守党のネガティブ・キャンペーン」「スコットランドはどうなる?」「労働党の今後」「新聞のミリバンド攻撃」「保守党マニフェストの目玉:住宅組合の住宅購入権」「二党政治の終焉?」

終盤の選挙情勢

5月7日の投票日に向けて、各党は必死の選挙戦を展開している。しかし、状況は膠着状態で、いずれの政党も過半数を取れず、ハングパーリメント(宙づり国会)となる情勢に変わりなく、これからの数日で情勢が大きく変化する事態はなさそうだ。

5月4日現在の、各種の選挙結果予測は以下のとおりである。

保守党

労働党

自民党

UKIP

SNP

その他

2010年総選挙結果

306

258

57

0

6

23

“May 2015″

273

269

27

2

56

23

Election Forecast  

279

270

25

1

51

24

Elections Etc

290

258

25

3

53

21

The Guardian

274

270

27

3

54

22

YouGov

283

261

32

2

50

22

保守党は、議席を減らす見込みだ。それでも現在のところ、保守党に若干の勢いがあり、保守党が最も多くの議席を獲得すると見られている。労働党は、イングランドなどで、保守党、自由民主党から議席を獲得し、議席を増加させる勢いだが、これまで大きな勢力を誇っていたスコットランドで大きく議席を失う見込みで、結果的には、前回からそう議席を伸ばせないと見る向きが多い。

メディアは、スコットランド国民党SNPの勢いに注目している。左のSNPは4月初めからスコットランドで高い支持率を示しており、その勢いは落ちることなく、スコットランドの59議席のほとんどを奪う情勢で選挙日を迎えそうだ。保守党は、スコットランドを独立させることが党是のSNPに支えられた労働党政権を警告している。SNPは保守党政権の成立を阻止するとし、スコットランドの選挙戦略上も労働党を支える方針だが、労働党は、SNPとの連立政権ばかりではなく、協定を結ぶことも否定している。

なお、SNPが労働党から大きく議席を奪い、スコットランドを席巻したとしても、それが直ちに独立住民投票に向かうかどうかは別の問題である。YouGovの世論調査によると、2回目の独立住民投票が10年以内に行われるべきだとするスコットランドの有権者は36%に過ぎず、また、独立反対の有権者は、53%である。総選挙後の、SNPの下院での対応だけではなく、2016年5月に行われるスコットランド議会選挙に向け、マニフェストに独立住民投票を入れるかどうかの判断など、戦略を誤ると、SNPの支持に影響する可能性がある。

いずれにしても、保守党の強い選挙区では、投票率の高いところが多く、そのため、保守党が最も多くの投票を得る政党となるのは間違いない。しかも最多議席の政党となる可能性が高まっている。その結果、保守党は、最も有権者の意思を反映した政党だと主張し、この「正当性」を使って、何とか政権に残ろうとするという見方がある。ただし、「反保守党勢力」である、労働党、SNP、北アイルランドの社会民主労働党SDLP、ウェールズのプライド・カムリ、そして緑の党を合わせれば、過半数を超える可能性が高まっており、その結果、保守党は、「反保守党勢力」以外の政党の協力を得ても政権を維持することが難しい可能性がある。

一方、労働党の議席が、保守党よりかなり少ない場合(例えば20議席以上少ない場合)には、労働党政権が生まれても、その「正当性」に疑いがあるという見解もある。例え、「反保守党勢力」で過半数を占めることができても、次の総選挙がかなり早期に行われる可能性があることから、労働党が少数政権で不安定な政権を運営するより、野党にとどまり、次回の総選挙に備える方が得策という考え方もある。

さらに議席の半減する見込みの自由民主党が、保守党政権、もしくは労働党政権の誕生を巡って、大きな役割を果たす可能性も残っている。クレッグ党首は、これまで落選の可能性もささやかれていたが、その選挙区では、これまで5年間ともに政権を運営してきた保守党の支持者がクレッグに戦略的に投票(タクティカル・ボーティング)する動きがあることがわかっており、当選する可能性が増している。そのため、総選挙の各政党の議席数のなり行きによっては、クレッグが連立政権交渉など、新しい政権の誕生に大きな影響力をふるう可能性がある。

小選挙区制の選挙では、わずかな票の動きが、大きな議席の動きを招く可能性がある。今回の選挙結果予測は、様々な要因が複雑に絡み合っているため、特に困難だが、保守党もしくは労働党のいずれの政党が政権を担当することとなっても、不安定な少数政権となる可能性が高い。

2011年定期国会法で、国会は5年継続することになっており、首相の解散権はなくなった。しかし、下院全体の3分の2の賛成で選挙ができ、また、政権政党が不信任された場合、2週間以内に他の政党が政権を担当できるかどうか調整し、それができなければ、解散することになっている。そのため、場合によっては、施政方針を発表する「女王のスピーチ」の行われる6月まで政権が確定しない状態が続き、しかもその後も、少数政権で、不安定な政権が続く可能性がある。

保守党の「SNPに支えられた労働党」警告

5月7日の総選挙の結果が、いずれの政党も過半数を占めることのないハングパーリメント(宙づりの国会)となると見られている中、30から50議席を獲得し、下院で、保守党と労働党に次ぐ勢力を持つこととなると予測されているスコットランド国民党(SNP)の動向が注目されている。

SNPは、労働党との連立政権は否定しながらも、保守党政権を阻むために、労働党に支持協力する意向を繰り返している。つまり、SNPが過半数を確保できない労働党政権を支えれば、保守党政権は生まれないが、その代わりに、SNPは強い立場となり、労働党政権の政策に影響を与えると言うのである。

これに対し、保守党は、イギリスからスコットランドを分離独立させようとするSNPに支えられた労働党政権は危険だ、SNPに牛耳られるとして、キャメロン首相、それにメージャー元首相も、強く警告している。保守党ならばSNPに牛耳られないと言うのである。

これには、2つの狙いがあるようだ。まだ態度を決めていない有権者、特にイングランドの有権者と、UKIP支持者の反スコットランド感情を高めさせ、その結果、保守党に投票させようという作戦である。一方、スコットランドでは、SNPの中央政権での影響力に期待する有権者と、イングランドでの反スコットランド感情に憤ったスコットランド有権者からSNPにさらに支持が集まり、労働党がさらに議席を失うという具合である。

前者に関しては、YouGovの世論調査によると、労働党とSNPが何らかの提携をしそうだが、これは悪いことで、保守党政権の方がよいと考えているが、まだ保守党に投票するとは決めていない人が有権者の8%いるという。つまり、保守党の選挙戦略上の狙いはよいと言えるだろう。

しかし、保守党の中にもこの作戦は、スコットランド住民とイングランド住民の溝を広げ、危険だと指摘する声もある。

ただし、この保守党の作戦には、一つ欠陥があるように思える。例え、保守党がイングランドで、若干の議席を増やしたとしても、スコットランドでは、党派を超えて、スコットランドの反独立派の人たちが、SNPの候補者を破る可能性のある候補者に、こぞって投票する可能性を高めるように思える。

さて、前回の2010年のスコットランドでの総選挙結果は以下のとおりであった。スコットランドの議席59議席のうち、2010年の総選挙では、労働党が41議席を獲得し、SNPは6議席であった。しかし、今回は、数多くの世論調査によると様相が一変している。

スコットランドのストラスクライド大学のジョン・カーティス教授は、大手の世論調査会社がすべて参加しているイギリス世論調査協議会の会長も務める、世論調査の専門家だが、4月20日現在の世論調査の平均は以下のとおりだとする。なお、まだどの党に投票するか決めていない有権者は除かれている。

2010年得票率(%)

世論調査2015年4月20日現在(%)

2010年議席数

現在の世論調査による2015年議席予想

SNP

20

49

6

54

労働党

42

26

41

4

自由民主党

19

4

11

1

保守党

17

15

1

0

SNP以外の政党の支持者は、SNPに対抗して、議席を獲得する可能性のある他の政党に投票する可能性が高い。これは、タクティカル・ボーティング(戦術的に投票すること)と呼ばれ、最近の世論調査でも裏付けられている。それは、そう簡単にはいかないとカーティス教授は言う。ただ、かなりタクティカル・ボーティングが行われても、労働党が大幅に議席を減らすことは間違いない。

保守党は、過半数が取れなくとも、最大議席を獲得することを目指している。最も有権者の支持を集めた政党として、正当性が高まり、政権交渉を最初にする権利が生まれると考えているためだ。自民党は、この最大議席の政党の問題に敏感だ。自民党は、ハングパーリメントとなった場合、最大政党がまず、政権設立の試みをした上で、もしまとまらなければ、第2位の政党に機会が与えられるべきだと考えている。自民党としては、連立政権参加、もしくは、閣外協力をする場合には、最大政党と連携する方が正当性の観点からは都合がよい。

そのため、保守党が最大政党となれば、話し合いを有利に進めることができる。そのため、労働党がスコットランドで議席を減らせば減らすほど保守党には都合がよい。それがキャメロン首相、メージャー元首相の行動の裏にある。

SNPの前党首が、労働党政権となれば、自分が予算を書くと冗談を言ったと報道され、その結果、既にSNPとの連立を否定している労働党のミリバンド党首は、SNPとの協定はないと言明した。しかし、保守党の「SNPに支えられた労働党」への攻撃はまだ続く。勢いづいている労働党に対抗するには、これはほとんど最後の手段とも言えるからだ。総選挙の結果にどのような影響を与えるか注目される。

新聞のミリバンド攻撃

今回の総選挙では、いくつかの新聞が露骨な偏向報道を行っている。そのため、それぞれの新聞の論調傾向を踏まえて、記事を読む必要があるように思われる。特に労働党の党首ミリバンドへの個人攻撃は過剰と言える。

イギリスの新聞には、支持政党がはっきりしているものがいくつもある。2005年と2010年の総選挙では、支持動向は以下のとおりだった。

新聞 2010年支持政党 2005年支持政党
タイムズ 保守党 労働党
ガーディアン 自民党 労働党
テレグラフ 保守党 保守党
ファイナンシャルタイムズ 保守党 労働党
インデペンデント 保守党 自民党
メール 保守党 保守党
エキスプレス 保守党 保守党
ミラー 労働党 労働党
サン 保守党 労働党

(この表で挙げた新聞紙の多くには日曜の姉妹紙があるが、それらの政党支持動向も同一である。)

これを見ればわかるように、ブレア労働党時代(1997年から2007年)には、新聞王ルパート・マードック氏のニューズ・コープ傘下の新聞、タイムズとサンは労働党を支持した。しかし、2010年には、保守党支持に転換した。なお、ブラウン労働党政権政党だった2010年には、労働党を支持したのはミラー紙のみである。

2005年と2010年に保守党を支持したのは、保守党の別名トーリーをつけた「トーリーグラフ」と揶揄して呼ばれるテレグラフ、それにメールとエキスプレスだった。このうち、今回の総選挙では、エキスプレスの社主がイギリス独立党(UKIP)に130万ポンド(2億3400万円:£1=180円)の献金をしており、UKIP支持となった。

今回の総選挙では、メールとサンの労働党党首ミリバンドへの個人攻撃は徹底している。メールは、かつて、ミリバンドの父(マルクス主義学者:故人)を、イギリスを嫌ったと攻撃し、反駁したミリバンドが涙ぐむシーンもあったほどだった。サンは、最近、その記者が労働党の記者会見などから締め出されたと紙面で公表した。

ガーディアン紙は、これらの新聞のミリバンド攻撃は、単にその政党支持だけではなく、プレス規制の問題が絡んでいると指摘する。主要政党の中でプレス規制に最も強硬な立場をとっているのは労働党であり、ミリバンドは、新聞の電話盗聴問題に関連した、レヴィソン判事を委員長とする公聴会で、プレスに対する規制が手ぬるすぎる、また、メディアに対する一部企業の影響力が大きすぎると批判した。そして、一企業のメディア所有を制限する意向を表明した。

レヴィソン答申を受け、主要政党の保守党、労働党、自民党は、勅許によるプレス規制制度を設けたが、新聞大手らは、この制度は、報道の自由を妨げる恐れがあるとして、自分たちで自主規制組織を立ち上げ、勅許による制度には入らない立場を明確にしている。そして、右寄りの新聞大手が、労働党の立場を嫌い、そのような政権が生まれるのを何としてでも阻止したいと考えているとガーディアン紙は指摘する。

労働党のマニフェストでは、メディアについて労働党の立場を再確認している(68ページ)。ここでは、メディアの支配の寡占を防ぐ手段を取り、しかもプレス規制については、勅許制度の下で、レヴィソンの勧告を実施するとしている。メディアの寡占の問題の標的は、タイムズ紙とサン紙、さらに衛星放送のSkyBの大株主であるマードック氏のニューズ・コープと見られている。

もともと、このような立場を取ったミリバンドは、非常に勇気があったといえるだろうが、ここまでの攻撃があるとは予想していなかったかもしれない。しかし、投票日までの3週間足らずの間、これらのメディアからのミリバンドと労働党への攻撃が、さらに強まる可能性がある。

自信を見せ始めたミリバンド

4月16日に行われた、野党5党のBBCテレビ討論で、ミリバンド労働党党首が、自信をにじませた討論ぶりを見せた。このテレビ討論では、連立政権の保守党、自民党が参加せず、野党の労働党、ウェールズのプライド・カムリ、緑の党、スコットランド国民党(SNP)それにイギリス独立党(UKIP)の5党の党首が参加した。

ミリバンドは、これまでの「テレビ討論」とは異なり、最初からリラックスしていた。保守党のキャメロンが出席していなかったので、リラックスしていたという見方があるかもしれないが、労働党関係者の中には、この討論に出席するミリバンドを愚かだと批判する人もかなりいた。他の野党から、主要政党の一角である労働党に攻撃の矛先が向かい、ミリバンドが苦戦するのは明らかだと主張していたのである。特に、SNPの二コラ・スタージョンは強敵だと警戒していた。

実際、スタージョンの討論ぶりは、その的確で、十分に練られた内容ばかりではなく、話しぶりが明確で、しかもタイミングがよく、聴衆から最も多くの拍手を受けていた。労働党の政策を批判しながらも、SNPは保守党が政権に就くことを阻むために、労働党に協力するとの立場を明確にし、もし労働党がSNPの申し出を受け、進歩的な政策を進める機会をつかみ取らなければ、人々はミリバンドを許さないだろうと主張した。

もちろん、この主張の背景には、スコットランドの事情がある。スコットランドの有権者は、これまで、ウェストミンスターの下院の選挙では、政権を獲得する可能性のある労働党を支持していた。SNPは、スコットランドの利益を代弁するのは我が党であり、SNPは労働党を支持するので、SNPに投票すれば、労働党を政権につけさせることができるばかりではなく、スコットランドの利益も代弁できるとする。すなわち、SNPに投票すれば、スコットランド住民にとって一石二鳥で、労働党に投票する必要はないと主張しているのである。

労働党は、スコットランドの59議席のうち、前回の2010年総選挙では41議席を獲得した。SNPは6議席だったが、今回は、SNPが30~50議席を獲得すると予測されている。そのため、議席を失う可能性の高まっている、労働党のスコットランド選出の現職は、この状況に神経質になっており、ミリバンドがSNPの主張を裏付けるような言動をすることを警戒している。

その上、保守党は、ミリバンドがスコットランドをイギリスから分離独立させようとするSNPの助けを借りて、首相官邸に入るつもりだと攻撃し、過半数を獲得できない労働党は、SNPの言いなりになると警告している。

この状況下で、ミリバンドは、労働党が過半数を獲得することが、働く人たちに最も利益となるとし、スコットランドでも労働党への投票を求め、SNPの主張を否定している。既にSNPとの連立は否定し、SNPと距離を置く姿勢を保っているが、SNPの協力を完全には否定していない。どの政党も過半数を獲得できないと見られている状況では、事実上、労働党はSNPの支持がなければ、例え政権を獲得しても維持することは困難だろうからである。

4月16日のテレビ討論では、これらの事情を踏まえた上で、ミリバンドは、SNP対策ばかりではなく、他の野党対策も考えた上で、うまく立ち回る必要があった。テレビ討論前には、ミリバンドは、2日間、選挙運動の日程を最小限にし、この討論の準備にあてたと伝えられるが、その効果は、この討論にはっきりと出ていたように思われる。

ミリバンドは、他の党から、はっきり答えるのが難しい質問が出ると、UKIPのファラージュ党首を攻撃するなど、余裕のある対応ぶりを見せた。明らかに、想定質問を準備し、相当練習していたことが見て取れた。また、この討論での表情の作り方も練習していたように思われる。それでも、時に、これまでの「テレビ討論」で見られたような不用意な表情も見られたが、全般に、首相を目指す人物の顔になってきたような印象があった。なお、ミリバンドの顔は、エネルギーに満ちているように見えたが、かつてサッチャー元首相も使ったビタミン注射をしているように思われた。

このテレビ討論が終わった直後、SNPのスタージョンが、わざわざミリバンドと握手するためにその演台まで行くというシーンもあり、スタージョンの抜け目のなさを改めて印象付けた。

いずれにもしても、430万人が視聴したと言われるテレビ討論では、ミリバンドとスタージョンの二人が目立った結果となり、ミリバンドには、特にマイナスにはならなかったように思われる。

世論調査会社のPopulusによると、いずれの党も過半数を取れないハングパーリアメント(宙づりの国会)の数多くのシナリオを分析した結果、総選挙後、労働党のミリバンド党首が首相となる確率は、10のうち8だという。政治状況は、ミリバンド労働党の方向へ大きくシフトしてきたており、わずか1週間ほど前には、賭け屋が、総選挙後の首相は、1/2の賭け率でキャメロンとしていたが、現在の賭け率は、キャメロンとミリバンドが拮抗している。支持の拡大に苦しんでいるキャメロンと、上り調子のミリバンドという構図となっている。