総選挙を楽しんでいるコービン

野党第一党の労働党のコービン党首が、非常に生き生きとしている。来月68歳になるが、68日に向けての総選挙キャンペーンを楽しんでいるように見える。

メイ首相が突然解散総選挙を宣言した時、コービンはすぐに賛成した。これには労働党下院議員からもかなり大きな批判があった。総選挙が行われれば、労働党は大きく議席を失うと思われたからだ。

世論調査で労働党は保守党に20%程度の大きな差をつけられ、支持率が歴史的に低い。1983年総選挙で惨敗した時よりも悪いと言われる。しかも有権者のメイ首相への評価は非常に高いが、コービンへの評価は、非常に低い。多くの国民が、コービンには首相になる資質がないと思っている。これではとても総選挙が戦えないと思ったからだ。

それでも解散総選挙に賛成したコービンの判断は、正しいように思われる。2011年議会任期固定法では、下院の総議席の3分の2が賛成する、もしくは政権が不信任され、後継政権が生まれなければ、解散総選挙となる。下院総議席の3分の1以上持つ労働党が反対すれば、3分の2が賛成することはなかった。しかし、その場合、メイは労働党が総選挙を恐れている、メイ政権にEU離脱交渉を成功させないように画策していると攻撃して、メイ政権そのものの不信任案を提出して可決させ、無理やりに解散総選挙に持ち込む可能性があった。そうなれば労働党には「臆病者」のレッテルが貼られ、さらに厳しい総選挙になったかもしれない。

労働党下院議員の中には、労働党が惨敗すれば、コービンが自ら退く可能性があるという見方もあった。労働党内の異端で、急進左派のコービンが2015年党首選で全く予想外に党首に選ばれ、しかも2016年のEU国民投票後に、労働党の4分の3近い下院議員たちがコービン下ろしに走ったが、行われた党首選挙で再びコービンブームが起き、前回よりも多くの支持を集め圧勝した。党首選ではコービンを倒すことができないことがはっきりした。

コービンは原則の人として知られる。多くはコービンをいい人だと言うが、労働党のような大きな政党を率いるリーダーシップはないとする人がほとんどだ。コービンの最初の妻は、コービンをいい人だと言うが、党首にはふさわしくないとする。2番目の妻との離婚は、妻が息子をグラマースクール(能力を選別して入学させる公立学校)に入学させたいのに、それにコービンが強く反対したことが原因だった。

労働党の支持者である、ケンブリッジ大学のスティーブン・ホーキング教授は、個々の政策では、コービンの考え方には正しいものが多いが、リーダーではないとして、コービンの党首辞任を求めた。コービン党首の広報戦略局長だった人物もコービンの能力を批判している。

メイ首相は、今回の総選挙をリーダーシップの戦いだとして、コービンのリーダーシップ能力を徹底的に批判している。

ところが、424日の朝のTodayというラジオ番組で、BBCのベテラン政治記者が、奇妙なことが起きているとリポートした。有権者が、コービンには首相になる可能性がないとして、地元の労働党下院議員に投票することに抵抗がないというのである。通常、イギリスの総選挙は、次の首相を選ぶ選挙であり、党首が首相にふさわしいかどうかを考えて投票する。そのため、総選挙では、党首の評価は非常に重要だが、どうも今回はそれが必ずしも当てはまらないようだ。まだ選挙戦は序盤であり、今後の展開は異なってくる可能性がある。

ただし、労働党は、これまでの常識を破り、いわゆる中道の有権者を惹きつける戦略ではなく、本来の「地のコービン」を打ち出す戦略に出ている。作り物ではないコービン像、すなわち自分を打ち出すことが許される状況が、コービンにエネルギーを与えているようだ。その演説には力がこもっている。一方、423日のBBCのテレビ番組で、コービンは弱い者が虐げられる今の政治状況に怒っており、うんざりしていると静かに話した。

解散総選挙:首相の立場

メイ首相が突然の総選挙に踏み切った大きなきっかけは、2015年総選挙の保守党の選挙費用違反問題だろう。選挙費用違反の捜査・起訴には期限があり、それがこの6月初めには切れるとされている。すでに15の警察管区が検察に書類を送ったといわれ、20ほどの選挙区で、候補者本人、事務長を含め、30人から40人が起訴される可能性があるとみられる。保守党は下院で他の政党合計を実質17議席上回っているだけであり、これらの選挙区で、もし補欠選挙があれば議席を失い、議会運営に支障が出る可能性があった。

なお、保守党がもし1議席失えば、保守党以外の政党が1議席獲得する。そのため保守党が9議席失えば、保守党は下院での過半数を失うこととなる。

さらに、特に悪質とされる選挙区にメイ首相が応援に入ったばかりか、メイ首相の首相補佐官らの側近が選挙期間を通して大きく肩入れしていたことがわかっている。2015年総選挙の際にはメイ首相は内相だったが、その当時からの側近らの選挙区のホテル代だけでも14千ポンド(200万円)を超える。それが届けられた選挙費用報告書に含まれていなかった。届けられた選挙費用は、この選挙区の選挙費用の上限15千ポンド(210万円)をわずかに下回るものであり、実際にはそれを大きく超える金額が使われていたのである。

2015年総選挙はメイ首相の前任者のキャメロン首相の下で行われたが、もし、この選挙区が裁判所に再選挙を命じられるような事態となると、メイ首相のイメージにも大きな打撃となる可能性がある。

世論調査で保守党が労働党に大きな差をつけており、労働党のコービン党首への評価が非常に低いことから、メイ政権の基盤を強化し、もし再選挙を行う必要が出ても、それをしのげる体制にしようとしたのが一因ではないかと思われる。

メイ首相は、これまで総選挙は2011年議会任期固定法で定められた通り2020年に行うと繰り返してきたが、突然の解散総選挙宣言で多くを驚かせた。解散総選挙の必要な理由は、国民がEU離脱に向けて協力しようという機運にあるのに対し、ウェストミンスターがEU離脱の妨げをしようとしているからだとした。

政治コメンテーターの多くは、突然の解散総選挙の理由が明確ではないと感じているが、党利党略に走るのはよくあることであり、この選挙は保守党の地滑り的な大勝利になると見ている。

ところが、選挙戦は一筋縄ではいかない。

ハモンド財相が税制の裁量の余地を持ちたいと匂わせた途端、422日のサン紙がそれに真っ向から反対、「ノー、ノー、ノー、首相」とし、ホワイト・バン・マン(自営業者)への課税アップ、年金の保証がなくなる、それなのに海外援助はアップすると指摘した。

これには背景がある。

まず、課税について。3月の予算発表に自営業者の国民保険料(National Insurance contribution)の増額を含めたところ、それは2015年総選挙の際のマニフェストに付加価値税、国民保険料、所得税を上げないと約束したことに違反しているという批判の声が上がった。そのため、メイ政権は1週間後にそれを撤回。ただし、このため、財政に20億ポンド(2800億円)の穴が開いた。

その2015年マニフェストでの約束を変更することにはかなり大きな抵抗があるということである。

年金については、現在、インフレ率、もしくは賃金上昇率、もしくは2.5%のうち最も高いものを毎年のアップ率に適用することになっている。すなわち最低2.5%上昇する。これはよくトリプル・ロックと呼ばれるが、財政負担を軽減するために、メイ政権は変えようとしていると見られている。

それなのに、メイ首相は、海外援助に国民所得の0.7%を使うというキャメロン政策の維持を発表した。

メイ政権では、2022年までに財政赤字をなくすと発表している。昨年のEU国民投票でEU離脱の結果が出、景気の悪化が心配されたが、これまでその直接の影響は出ていなかった。しかし、四半期の小売りが2010年以来最も下落した。ポンドが弱くなっているため、輸入品が高くなっていることが影響していると見られる。雇用は維持しているものの実質賃金が上がっておらず、経済の先行きに暗雲が立ち込めている。この中、メイ政権が税制の自由裁量を求めたいという気持ちはよくわかる。

ところが、423日のメイル・オン・サンデー紙が発表した世論調査は、メイ政権への警告といえる。これまで保守党と労働党との支持率の差は20%ほどだったが、この世論調査は、ハモンド財相が税制裁量権を匂わせた後に行われ、その差が11%だった。つまり、そのような裁量権をメイ首相が貫けば、有権者の支持を失う可能性があるということである。もちろん一つの世論調査の結果だけで有権者の動向を特定することは危険だ。

なお、今回の総選挙と19742月のヒース保守党政権の解散総選挙とを対比する人が出てきている。1974年の場合、保守党は過半数を上回っていた。それでも「強い政権」を求めて解散総選挙に打って出たが、政権を失う結果となった。

解散総選挙は、どの首相も、先行きを心配するといわれる。選挙期間中に不測の事態が起きる可能性がある。メイ首相も68日の結果が出るまで安心はできないだろう。一方、保守党が勝ちすぎると、保守党内のEUからの強硬離脱派に遠慮がなくなり、メイ首相が少しでもソフトな方針を取ろうとすればそれに反対するため交渉が難しくなるという見方もある。いずれの結果となっても、困難なEU離脱の交渉、さらに国内政治上の制約など、頭痛の種は尽きない。

スコットランド独立住民投票の可能性

201768日に総選挙(完全小選挙区制)が行われることが、下院の投票で正式に決まった。下院の総議席6503分の2を大きく上回る522票の賛成を得たのである。

この総選挙の一つの注目点は、前回2015年の総選挙でスコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得したSNP(スコットランド国民党)が、その勢力を維持・増加させて2回目のスコットランド独立住民投票に結び付けられるかどうかであろう。

スコットランド議会は、2017328日、独立住民投票を実施することに賛成し、スコットランド分権政府にイギリスのメイ政権と時期をめぐる交渉を始めることを承認した。しかし、メイ政権は「今は、そのような時ではない」とし、Brexitが完了するまでそのような住民投票を認めないことを明らかにした。

1回目の独立住民投票は、20149月に行われた。当時のイギリス中央政府のキャメロン首相とスコットランド分権政府のサモンド首席大臣が、エディンバラ合意に調印し、1998年スコットランド法30条に基づく命令で独立住民投票を実施した。すなわち、この住民投票の結果には、法的な拘束力があることを明確にして実施したのである。この住民投票は、独立反対が55%、賛成が45%で、反対派が勝利した。

スコットランドのスタージョン首席大臣は、第1回目のような形で、1998年スコットランド法30条命令による住民投票を求めている。しかし、これがなくても、独立に関する住民投票ができないわけではない。

独立住民投票の可能性が高まってきた時、多くは、そのような住民投票を実施するには、このスコットランド法30条に基づく命令がなければならないと考えた。しかし、UCLのロバート・ヘーゼル教授によれば、その命令なしでも「スコットランドの独立交渉をイギリス政府と行うのに賛成か」といった諮問的な住民投票を行うことは可能で、著名な法律家たちが、それは事実上同じ効果があるとしていると言う。ただし、そのような独立住民投票の実施には、異議が出るのは間違いなく、最高裁の判断が出るまでに数か月かかるだろうとした。

つまり、スコットランドのスタージョン首席大臣は、世論に独立賛成の機運が盛り上がって来れば、メイ首相の承認なしに、そのような住民投票を実施することができるというのである。

スコットランドの世論は、今のところ独立反対の方が強いが、メイ首相にとっては、スコットランドの独立機運が盛り上がらないようにする必要があろう。この総選挙でスコットランドの情勢がどうなるか見ものである。

突然の総選挙

2017418日、メイ首相が、首相官邸前で演説し、68日に総選挙を実施する考えを明らかにした。翌日の419日、下院で総選挙の実施を提案し、総議席数の3分の2の賛成を得られれば、その通り実施する方針だ。最大野党の労働党のコービン党首は、その提案を歓迎した。下院で3分の2が得られるのは間違いない状況であり、68日に総選挙が行われる見通しとなった。

2011年固定議会法では、任期途中での解散総選挙は、下院総議席の3分の2の賛成、もしくは政権が下院で不信任され、代わりの政権が生まれない時と限定されている。今回は、このうち、3分の2の賛成で実施される。

各種の世論調査で労働党の支持率は27%程度、メイ首相率いる保守党は42%程度であり、15から20%程度の差がある。労働党は、その惨敗した1983年総選挙並み、もしくはそれよりも悪い状況にあると見られている。しかし、メイ政権の政策に反対する労働党が、総選挙の実施に反対することはできなかった。

メイ首相は、この総選挙はBrexitの交渉のためと主張する。下院で保守党は、他の政党の総議席数を実質上17上回るだけで、保守党の中でも意見の分かれるBrexitを進めるためには、総選挙が必要だとする。この状況の中、もし労働党が総選挙の実施に反対すれば、労働党は特に右寄りのプレスから袋叩きにあう可能性もあった。

メイはこれまで総選挙は固定議会法通り20205月に実施するとし、それ以前の実施は否定してきた。このUターンの原因は、メイのこれまでの計算違いにあるように思われる。本格的なBrexit交渉が始まる前に、メイがこの選挙で保守党の議席数を増すとともに、総選挙後5年間の時間稼ぎをしようとしたのは明らかである。

具体的には以下の点がこの総選挙の背景としてあげられよう。

  • Brexitの交渉が予期していた以上に長引く可能性が高いこと。メイはこれまでEU離脱の通知から、定められた2年の交渉期間(20173月から20193月)内に、離脱後の関係も含めて交渉できるとしてきた。しかし、通知後のEU側の反応から、それは極めて難しいことがはっきりとしてきた。予定では、Brexitをうまく成し遂げ、その後の総選挙で保守党が勝利を収めるという計算だったが、今のままでは、20205月までに今後の関係も含めた交渉を終えることは困難だ。

  • スコットランドの住民投票が行われる見通しが強いこと。スコットランド議会は既に住民投票の実施に賛成しており、メイ政権と実施時期について協議する決議に賛成した。しかし、メイ政権は、今はその時期ではないと無期延期の構えだ。しかし、SNP(スコットランド国民党)政権は、メイ政権の承認を受けなくても、スコットランドの判断で住民投票が実施できると考えている。さらに20215月に予定される次期スコットランド議会議員選挙で前回2016年のように予想外に議席を減らす可能性があり、また2020年にはイギリス下院の総選挙が実施される(今回の総選挙発表でこの可能性はなくなった)ことも考慮すれば、それより前、すなわちSNPが既に求めている2018年から2019年に実施に向かうかもしれず、イギリスのBrexit交渉に差し支える可能性がある。

  • 国内面で、選別的なグラマースクールの拡充問題がある。メイはこれを自分の主要政策として推進しているが、保守党内に強い反対がある。教員組合が、その政策の合法性をめぐって司法審査に訴える構えを示しているが、この政策を確実に実施させるには、法制定が必要だろうと見られているが、現状では困難だ。それをスムーズに進めるには、保守党の議席数を増やし、しかもマニフェストに入れ、保守党下院議員ばかりではなく、上院にもマニフェスト公約として反対できなくさせる必要がある。

ただし、保守党が総選挙で勝つ可能性は高いが、それほど大きく議席を増やせないかもしれない。なお、今回の総選挙は、2015年総選挙時の650議席のままで行われる。予定されていた2020年総選挙には議席を600とし、選挙区のサイズを均等化することで準備が進められていたが、この案は2018年に正式に出されることとなっていた。

スコットランドでは、割り当てられた59議席のうち、2015年にはSNP56議席を獲得したが、それにはあまり大きな変化はないだろう。北アイルランドに割り当てられた18議席はいずれも地方政党の議席であり、大きな変化はない。

一方、労働党は、非常に強い選挙区を多く抱えており、例えば、次点との差が大きく、最も安全な選挙区トップ20のうち17の選挙区は労働党だ。世論調査で支持率が低くてもそう大きく議席が減らないだろうと見られている

さらに自民党は、前回の2015年総選挙では7.9%の得票率で8議席だった。23%を獲得した2010年から48議席減らした。しかし、201612月のリッチモンド補欠選挙で、昨年のロンドン市長選で保守党候補だった現職(メイ政権のヒースロー空港第3滑走路決定に反対して議員辞職して再立候補)を破り、自民党下院議員数を9に伸ばした。自民党は、今回のような総選挙を想定して、入念な準備を進めてきたといわれる。前回総選挙で自民党は保守党に多くの議席を奪われたが、今回は、保守党のBrexit政策に真っ向から反対する自民党の議席数が増すだろう。

今回の総選挙の結果が、ハングパーラメント(宙づり議会)となる、すなわち過半数を占める政党がない可能性は2割といわれる。労働党が勝つ可能性はほとんどなく、保守党が過半数を獲得すると見るのは8割だ。ただし、昨年のアメリカ大統領選挙や、現在進行中のフランス大統領選挙で見られるように予想外の状況が生まれる可能性はゼロではない。

ヒースロー空港第3滑走路建設決定で補欠選挙

メイ保守党政権が、10月25日、ロンドンのヒースロー空港第3滑走路の建設の推進を決定したため、保守党のゴールドスミス下院議員が議員辞職し、無所属で同じ選挙区から立候補することとなった。この補欠選挙は、12月1日の投票で、ゴールドスミスの他、自民党、労働党らの候補者が立候補する予定だ。

イングランド東南の空港のキャパシティの問題には長い論争の歴史がある。2009年に当時のブラウン労働党首相がヒースロー空港に第3滑走路を建設することを決めた。ところが、当時、野党だった保守党のキャメロン党首が、この建設に絶対反対の立場を表明し、2010年総選挙後、キャメロン政権でブラウンの決定を覆した。しかし、空港キャパシティの問題が解決したわけではなく、空港調査委員会を設けて、専門家の判断を仰ぐこととなる。その答申はやはりヒースロー空港第3滑走路建設だった。キャメロンはその決定を遅らせていたが、EU国民投票後、首相を辞任。そして後任のメイにその決定が委ねられることとなった。

メイは、この決定には細心の注意を払う必要があった。選挙区上空が飛行機の航路のグリニング教育相は、これまで強く反対してきていた。さらに、ジョンソン外相は、ロンドン市長時代を含め、この建設に強く反対してきていた。そのため、これらの閣僚は、例外的に自分の意見を述べることを許されることとなった。なお、メイの選挙区も、ヒースロー空港に離着陸する飛行機の航路にあり、第3滑走路建設には地元の反対がある。

ゴールドスミス議員は、ヒースロー空港に近いリッチモンドパーク選挙区で、2010年に保守党から当選した。これまで、もしヒースロー空港の第3滑走路が建設されることとなれば、議員を辞職するとしていたが、その言葉を実行に移したのである。

この補欠選挙には、保守党は対抗馬を立てない。ゴールドスミスは、5月のロンドン市長選に保守党公認で立候補した人物である。EU離脱派であることから、UKIPは候補者を立てないこととした。

なお、ゴールドスミスが2015年総選挙で再選された際には、投票総数の58%を得票し、次点は自民党の19%だった。これらのことから、地元の保守党支部の支援を受けるゴールドスミスが再選されると見られている。

しかし、自民党は、勝つ可能性があると見ている。10月20日に行われた、キャメロン前首相の選挙区の補欠選挙で、自民党が善戦したためである。2015年総選挙では73%の投票率で、キャメロンが60%を得票し、自民党は7%で4位であった。しかし、この補欠選挙では、47%の投票率で、勝った保守党の候補者が45%の得票、自民党は30%の得票で次点だった。自民党は、イギリスのEU残留を訴えており、その成果があったと判断している。リッチモンドパーク選挙区では、ゴールドスミスも自民党もヒースロー空港第3滑走路建設反対であり、この点では差がないため、離脱派のゴールドスミスと残留派の自民党候補者の対決にしたい考えだ。特にこの選挙区では、EU国民投票で残留への投票が7割だった。そのため、自民党に投票する可能性がかなりあると見ている。

サンプル数が500余りの世論調査では、ゴールドスミスが圧倒的に優勢だ。自民党は次期総選挙候補者が立候補すると見られているが、まだ正式に決まっていない。それでも、2015年の58%対19%の差が大きく縮まるのは間違いなく、自民党の選挙キャンペーン次第では番狂わせの可能性もゼロではない。

いずれにしてもスコットランド国民党(SNP)がヒースロー空港第3滑走路建設賛成の立場となり、下院の賛成は得られる見込みだが、もし、ゴールドスミスが敗れるようなこととなれば、事実上、既に少ない保守党のマジョリティ(保守党議員数マイナス他の政党の総議員数)がさらに減ることとなり、メイ政権には痛手となる。

総選挙は来春?

労働党のコービン党首が、9月24日に結果の発表される党首選で再選されれば、来春に総選挙があることを前提に準備を進めることにしたと報道された。そして、保守党のメイ首相が総選挙を実施したい場合、総選挙に賛成することとしたという。

2011年議会任期固定法で、下院の議席総数650の3分の2の賛成があった際には、総選挙が実施できることになっている。434人の下院議員の賛成で可能だ。保守党と労働党の議員を合わせると、560議席ほどあり、もし両党が賛成すれば実施できる。

保守党下院議員には、総選挙を歓迎する議員が多いだろう。世論調査で保守党が優位に立っており、労働党の内乱、自民党の停滞で保守党が勝てると見られているからだ。また、650議席から600議席に議席を減らし、選挙区のサイズを均等にする区割り作業が進んでおり、もしこれが実現すると2020年に想定される総選挙で選挙区を失う、もしくは不利になる議員たちは、この早い総選挙を特に好意的に見るだろう。

コービンは、総選挙が早期にあるとして、分裂した労働党をまとめ、政策を煮詰め、その組織固めを図ろうとするだろう。一方、労働党でコービン党首に反対する下院議員たちは、増加するコービン支持者たちからの圧力から逃れ、コービンを引きずり落とす良い機会とみるだろう。

メイは、総選挙は2020年まであるべきでないと発言している。メイにはイギリスをEUから離脱させる交渉を進めるという困難な仕事がある。移民のコントロールを最優先するという立場でありながら、EUの単一市場へのアクセスを重視し、特にイギリスの金融サービスのEU市場へのアクセス(一般にバスポーティング権と呼ばれる)を維持したい考えだ。しかし、メイの率いる保守党内には、イギリスはEUからきれいに別れるべきだと主張する、いわゆる強硬Brexit派が100人ほどいると言われ、メイの柔軟な交渉姿勢に批判的だ。この強硬派、柔軟派の対立に決着をつけ、国民からこの交渉への負託を受ける必要があるだろうということから、メイは総選挙に迫られるだろうという見方がある。自民党の党首だったアッシュダウン卿もそう見ている

さらにメイの「グラマースクール」構想には、強い反対がある。この学校は、11歳で子供の能力をテストし、優秀だと思われる子供を選別教育する制度である。キャメロン前首相の下での2015年総選挙マニフェストには含まれていないことから、反対を押し切って実施するには、メイが総選挙で国民の負託を受ける必要があるだろうと見られる。なお、イギリスには、マニフェストで約束したことには、上院が反対しないという慣例がある。すなわち、下院でマジョリティ(「保守党の議員数」マイナス「それ以外の政党の議員の総数」)を増し、しかも保守党が過半数を大きく下回る上院に反対させないためには、現在の政局下では総選挙を実施するのがベストだという考え方である。

自民党は、総選挙を「第2の国民投票」として捉え、メイ率いる保守党が敗れればBrexitを覆すことができると訴えるだろう。UKIPも来年5月の総選挙を想定して準備するとしている。今後の政局は、来春の総選挙を巡って動くことになりそうだ。

EU国民投票の予測

6月23日投票の欧州連合(EU)国民投票は、イギリスがEUに残留するか離脱するかを決めるものだ。キャメロン首相らの推す残留派と、同じく保守党の前ロンドン市長ボリス・ジョンソン下院議員らの離脱派が熾烈なキャンペーンを転換している。

結果の予測には、世論調査がカギとなる。世論調査は、2015年総選挙で保守党の過半数を予測できなかったことから、かなり信用を失った。そのため、世論調査の業界団体(British Polling Council⦅BPC⦆)やイギリス選挙研究会(British Election Study⦅BES⦆)らが、なぜ予測できなかったのかを探ってきた。その大きな原因は、サンプルに問題があったと見られている。労働党支持者は世論調査会社が比較的コンタクトを取りやすいのに対し、保守党支持者にはコンタクトが取りにくかったことと、保守党支持者の投票率が高いのに対し、労働党支持者は投票率が低く、労働党支持が過大に評価されたことが大きな原因ではなかったかと見られている。それまででも世論調査会社はそれなりの分析をしてこれらのバイアスを除く努力をしてきたが、それが十分ではなかったようだ。

この調査結果は、現在のEU国民投票の世論調査にも反映されている。ただし、このバイアスの問題が完全に解決されているわけではない。その典型は、オンライン世論調査と電話世論調査の結果が大きく異なっていることだ。オンライン世論調査とは、登録世論調査受託者の中から抽出した人たちに質問票を送って答えを求めるもので、電話世論調査とは、これを電話で行うものである。

なお、EU国民投票に関しては、これまでの傾向としてオンライン調査では残留派と離脱派が拮抗しているが、電話調査では、残留派がかなりリードしている。

5月16日に発表された世論調査会社ICMの結果を見てみよう。ICMは、EU国民投票の支持動向と次期総選挙への政党支持とをオンラインと電話の両方で同時に行った。その結果は以下のようである。

EU国民投票の動向(残留支持か離脱支持か)

  残留 離脱 未定
オンライン 43 47 10
電話 47 39 14

この結果は、極めて興味深い。オンラインでは、離脱派が4ポイントリードしているのに対し、電話調査では残留派が8ポイントリードしている。電話調査では、直接聞かれるので、態度未定者の割合が少ないと言われるが、これでは電話調査の方がオンラインより多くなっている。なお、この調査は、世論調査で時にある異常値であるという疑いがあるかもしれないが、次期総選挙の政党支持から見るとそうでもないようだ。

次期総選挙の政党支持(もし総選挙が明日あればどの政党に投票するか)

  保守党 労働党 自民党 UKIP 緑の党
オンライン 34 32 7 17 4
電話 36 34 7 13 4

これでは、保守党と労働党の支持率の差はいずれも2ポイントである。一般にオンラインではイギリス独立党(UKIP)支持が高いと言われ、その傾向が出ている。UKIPは、イギリスをEUから離脱させることを目的とした政党であり、その支持が高ければ、離脱派が多くなるだろう。

EU国民投票では、労働党支持者の3分の2が残留支持だと言われる。電話調査で、残留支持が離脱派を大きくリードしているのは、応答者の多くがコンタクトの比較的容易な労働党支持者であることが過大に出てきている可能性も否定できない。労働党支持者の投票率は一般に低いが、キャメロン首相は、労働党支持者の投票率を上げようと、労働党支持のタブロイド紙デイリーミラー紙にも寄稿して、残留支持を訴えた。

電話調査の方が、多くの費用がかかり、より正確だと一般に信じられているが、結局のところ、オンライン調査と電話調査の間に落ち着くという見方がある。このオンラインと電話調査の結果の差は、6月23日の国民投票の結果がわかった時点で改めて検討されることになろう。なお、イギリスの大手賭け屋ウィリアムヒルの賭け率は、残留1-4、離脱11-4で、残留が優勢である。

5月5日分権議会、地方選挙結果

5月5日、下院の補欠選挙、分権議会選挙(スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)、ロンドン市長選と議会選を含むイングランドでの市長選、地方議会選挙、イングランドとウェールズの警察犯罪コミッショナーの選挙が行われた。まだ開票中のものもあるが、現時点では、2つ指摘できることがあるだろう。コービン労働党の健闘と、スコットランドでコットランド国民党(SNP)がダメージを負ったということである。

まず、これらの選挙で最も注目されていたのは、コービン労働党がどの程度の結果を収めるかであった。コービンは、昨年9月に労働党の党首となって以来、8か月ほどだ。これまで党勢の大きな改善はなかったが、今回の選挙前に、労働党内の反ユダヤ主義の問題がメディアで大きく取り上げられ、コービンの取り組みが遅いと強く批判された。このニュースが連日大きく報道され、労働党は苦しい立場で、かなり深刻なダメージを受け、議席を大きく失う可能性が指摘されていた。しかし、コービンは、それぞれの地元は異なり、大丈夫だと主張した。このコービンの主張は、おおむね裏付けられた形である。

全体的に労働党は得票を減らしており、若干議席を失っているものの、それは大きなものではなく、100から200減の予想は当たらなかった。大幅な議席減の場合、党首コービンの責任を問い、追い落とそうとしていた労働党内のグループは、その理由を失ったと言える。

本来、6月23日に行われる欧州連合(EU)残留/離脱の国民投票で保守党が割れ、キャメロン保守党政権が財政緊縮策を含めた政権運営で批判されており、キャメロン首相自身オフショア資金問題で苦しい立場となった直後であり、労働党は今回の地方選挙で大きな躍進を遂げるべきで、それができないのはおかしいという見方がある。ただし、2010年の総選挙で大きく議席を減らし、さらに2015年に惨敗した労働党の状況を勘案する必要があるだろう。今回焦点の当たったイングランドの地方選挙では、前回の2012年時、キャメロン政権の失政(3月のオムニシャンブルズ予算など)で、労働党が大きく躍進したため、今回は、その揺り戻しがあると見られていた。

また、2010年に労働党は、イングランドで大きく議席を失ったが、2015年に若干回復した。つまり、労働党は回復途上にあると言える。コービンは、自分でも予想外に党首に当選したが、これまでの党首タイプとは異なる。スロースターターで、やっと党首の座に慣れてきたという状況だ。これまで下院議員として自分の選挙区で選挙運動をしてきたが、労働党の最も左派で、党のリーダーたちから無視されており、選挙戦を統括するような立場にはなかった。その状況で、今回の選挙が前回並みの成果となったのは、恐らく、コービンにとっては幸運だったと言えるだろう。

今回の選挙で最も意外だったのは、スコットランドである。2015年5月の総選挙で、スコットランドに割り当てられた59の下院議席のうち、スコットランド国民党(SNP)が56議席を獲得し、しかも今回の分権議会選挙前の世論調査では、SNPがコンスタントに50%以上の支持を集め、議会の129議席で、前回の2011年の69議席からさらに議席を伸ばすと見られていた。ところが、SNPは、過半数の65議席に届かず、63議席に留まった。政権の維持については、友党の緑の党が4議席伸ばして6議席獲得したため、合計69議席となり、特に問題はないと思われるが、SNPの破竹の勢いはストップされた。第2の独立住民投票の動きに大きなダメージとなったといえるだろう。

今回、SNPは、昨年の総選挙の勢いを受け、小選挙区で6議席伸ばし、59議席とした。ところが、比例区で得票を減らし、前回より12議席減の4議席に留まった。なお、スコットランド議会議員選挙は、小選挙区の結果に比例区の結果が連動する形の小選挙区比例代表併用制である。今回のSNPの結果には、緑の党が得票を大きく伸ばしたことと、予想外の躍進を遂げた保守党の影響がある。

保守党の躍進の背後には、スコットランドのリーダーがはっきりと独立住民投票実施反対を唱えたのに対し、労働党のリーダーは煮え切らない態度だったことがある。そのため、反SNP票が保守党に集まった模様だ。スコットランドの労働党は、スコットランドで第3位の勢力となり、党勢がさらに弱まった。

5月5日の選挙

2016年5月5日(木)には、下院の補欠選挙、分権議会選挙、ロンドン市長選と議会選を含むイングランドでの市長選、地方議会選挙、イングランドとウェールズの警察犯罪コミッショナーの選挙が行われる。

下院の補欠選挙は2選挙区で行われるが、いずれも労働党の強い選挙区で、労働党が勝利を収めるのは確実。シェフィールドの選挙区では、2015年5月の総選挙で当選したばかりの議員が亡くなったために行われる。後継者は、亡くなった議員の妻で、地域の議会議員として経験豊富な人物である。また、ウェールズの選挙区では、中央政府の役職も経験した現職の下院議員がウェールズ議会議員に立候補するために辞職し、行われるものである。ちなみにウェールズ議会議員は下院議員と比べると格下で、議員報酬も少ないが、この人物は次期ウェールズ首席大臣のポストを狙っていると憶測されている。これらの補欠選挙は労働党の勝利が確実視されていることから、メディアでは余り注目されていない。管区ごとの警察を監視する40の警察・犯罪コミッショナーの選挙も低調である。

この中で最も注目されているのが、イングランドの地方議会議員選挙で労働党がどの程度の結果を収めるかである。2015年9月に労働党の党首に選ばれたジェレミー・コービンの評価がこれで決まるとの見方もあるが、前回の2012年には、労働党の支持率が保守党よりはるかに高かったため、前回と比較するのは酷だとの見方もある。124の地方議会で、2743議席が争われるが、保守党が30から50程度の議席増を予想されているのに対し、労働党は、100から200議席程度失うと見られている。しかし、コービンは議席が減らないと強気だ。それでも、労働組合最大手のユナイトのトップは、反コービン派の労働党下院議員たちがコービンの立場を弱くしようと画策しているとして名指しで批判するなど反撃に出ている。

労働党下院議員の多くは、キャメロン保守党政権が苦しみ、批判されている時に、労働党がその党勢を改善できないのはおかしいと見ている。保守党は、欧州連合(EU)に残留するか離脱するかの国民投票で分裂しており、キャメロン政権は、タタ製鉄の撤退問題、国民保健サービス(NHS)の財政や若手医師の契約問題、さらには初中等教育の改革などで大きな批判を浴びている。しかし、ユダヤ人差別の問題への対応で、コービンは労働党内外から、特にユダヤ人関係の影響力の強いメディアから強く批判されており、連日のメディア報道からの防戦に躍起になっている状態だ。それでも、選挙結果予測は、主に全国的な世論調査に頼っており、それがどの程度地方議会選挙の結果に反映するかには疑問がある。

スコットランドでは、政権を担当するスコットランド国民党がさらに議席を増やす勢いである。注目は、第2位の座を労働党が守ることができるかどうかだ。ウェールズでは、60議席中30議席を持ち、これまで政権を担当してきた労働党が数議席失う状態だ。ただし、保守党は、タタ製鉄ウェールズ製鉄所の問題で、初期対応を誤り、雇用不安を招いていることからウェールズで批判を浴びており、保守党も議席を減らす見通しである。これらの影で健闘しているのが、地域政党のプライド・カムリとイギリス独立党(UKIP)である。プライド・カムリは、保守党を追い越し、第2位の議席を獲得する構えだ。また、この分権議会の選挙は、小選挙区と比例区のある小選挙区比例代表併用制であり、これまで分権議会で議席を獲得したことのないUKIP(北アイルランドで当選後UKIPに入党した議員はいる)は、比例区で6もしくは7議席を獲得すると見られている。

さらに注目されるロンドン市長選(日本の東京都知事選にあたる)では、労働党のサディキ・カーン下院議員が当選確実な状態だ。カーン議員は、パキスタン移民の子で、イスラム教徒である。

イギリス政治2015年から2016年へ

2015年の政治は、5月の総選挙を中心に展開した。もちろん、政治は、過去からの継続であり、これまでの出来事に大きな影響を受ける。特に以下のものは重要だ。

  • 2010年総選挙後、保守党と自民党の連立政権成立と自民党支持の急落
  • イギリス独立党(UKIP)への支持の急伸
  • 2014年9月のスコットランド独立住民投票とスコットランド国民党(SNP)への支持の急伸
  1. 自民党支持の急落
    自民党は、2010年総選挙後、支持が急落した。2010年5月の総選挙の得票率は23%、そして総選挙直後20%余りの支持があったが、同年8月には10%台前半、そしてその4か月後の12月に一桁となる。その年10月、総選挙後に発表されることになっていたブラウン報告で、大学学費の大幅アップが提案された。それまでの年額3千ポンド(54万円:£1=180円)ほどから、一挙にその3倍の上限9千ポンド(162万円)とする案は、その年12月に両院の議決を経て、法制化。結局、保守党との連立に応じ、大学学費値上げ絶対反対を唱えていた自民党の支持率はそれ以降回復せず、2015年総選挙で惨敗した。そして、現在も低迷している。
  2. UKIP支持の急伸
    UKIPへの支持は、2013年からコンスタントに二ケタとなる。この支持率は、国政選挙の総選挙への投票支持動向であり、2014年5月に欧州議会議員選挙イギリス選挙区でトップとなるUKIPへの支持率とは異なる。2014年後半には、保守党から離脱した2人の下院議員が、UKIPに加入し、選挙区有権者の信を問うとして下院議員を辞職、それぞれ補欠選挙に立ち、いずれもUKIPの下院議員として当選した。しかし、2015年総選挙では、得票率12.6%だったが、このうち一人が当選しただけで、UKIP党首はじめ、全員落選。これはイギリスの小選挙区制度に基づくものであり、もしこれが比例代表制だったら82議席獲得していたはずと言われる。
  3. SNP支持の急伸
    スコットランド独立を標榜するSNPには、2011年スコットランド議会議員選挙で全129議席の過半数を占めた実績があった。しかし、2014年9月のスコットランド独立住民投票では、独立反対が賛成に大きな差をつけるという見方が強く、独立住民投票の実施で、SNPがその勢力を弱めるという観測があった。ところが、この住民投票の直前、独立支持派が急伸。結果は、独立反対55%、賛成45%で、独立は否定されたが、この住民投票後、SNPへの入党が急増し、それまでの2万5千余りから10万人を超え、4倍以上の増加。このSNPの党勢強化を背景に総選挙に臨んだ。

この3つの要素が、保守党、労働党の動きなどと絡み合い、2015年総選挙の行方を左右した。保守党と労働党が互角の勢いと見た人が多かった。保守党は、その経済・財政政策に力を入れ、その実績の強みを強調し、コンスタントなメッセージを有権者に送ったのに対し、労働党は、福祉、経済・財政、NHSなど、バラバラなメッセージを出すこととなった。さらに保守党は、キャメロン首相への有権者の評価が、ミリバンド労働党党首よりもはるかに高いことを強調した。

選挙戦では、保守党を含め、いずれの政党も過半数が獲得できずないハング・パーラメントとなると予想され、連立を組むことになると予想された。その中、SNPがスコットランドを席巻する勢いとなっていることを受け、労働党とSNPが連立を組む可能性が高いことが指摘された。その中、保守党が強調したのは、以下の点である。

労働党が政権を獲得するためには、SNPが必要、しかし、SNPはイギリスを壊そうとする政党であり、SNPに支えられた、リーダーシップが乏しく、弱いミリバンド政権は危険、一方、保守党は、右のUKIPに票を奪われており、苦しんでいる。このメッセージを、そのターゲットとした、前回の勝者と次点の差の小さなマージナル選挙区で強力に浸透させようとした。

その影響を直接受けたのが、自民党である。低い全国的な支持率にもかかわらず、自民党が優位と思われた選挙区、特にイングランド東南部などでは、自民党が議席を失い、20数議席は獲得できるとの予想が、一桁の8議席と、2010年総選挙の53議席から大幅に後退した。

労働党は、UKIPにもイングランドの北部などで大きく票を奪われた。イングランドでは、マージナルの選挙区で予想以上に敗れ、前回2010年の191議席から206議席へと若干議席数を伸ばしたものの、スコットランドに割り当てられた59議席のうち、前回の43議席からわずかに1議席となった。SNPに56議席を奪われる大敗北を喫し、その結果、労働党は、2010年の256議席から232議席へと大きく議席を減らす結果となった。

労働党は、歴史的な大敗を喫したという見方があるが、事実上、労働党はスコットランドで負けたのである。

総選挙後の政治

2015年総選挙では、過半数をやや上回り、他の政党の合計議席数を幾つ上回るかを示す「マジョリティ」が12となった保守党の単独政権となり、保守党関係者も含め、大方の予想を裏切る結果となった。そのため、総選挙後の政治は、保守党が総選挙で約束したことを実行するのに手こずる形となっている。その最も顕著なものは、低所得者の所得を補助するタックス・クレジットと呼ばれる制度である。財政赤字を減らすための財政削減で、福祉手当を大幅に削減する必要があり、その標的となっていたのがこのタックス・クレジットの大幅削減であった。オズボーン財相は、何とか実施しようとしたが、結局、低所得者の収入が大きく減るなどの理由で、上院の賛成も得られず、少なくとも当面、実施しないこととなった。

さらに、キャメロン首相が、総選挙後、首相の職に留まれば、2017年末までに実施すると約束した、欧州連合(EU)に留まるかどうかの国民投票がある。この問題で、キャメロン首相は、他のEU加盟国との交渉に懸命だ。

一方、野党第一党の労働党では、総選挙結果を受けて、エド・ミリバンドが党首を辞任した。その後任の党首には、当初全く勝ち目がないと思われた、労働党の中で最も左翼と見なされるジェレミー・コービンが、党首選有権者から圧倒的な支持を受けて選ばれた。それ以来、労働党内は、揺れている。党所属下院議員の支持をほとんど受けなかった新党首と、それ以外の下院議員の関係が落ち着くには今しばらく時間がかかりそうだ。

2010年総選挙で大きな役割を果たした主要3党のうち、自民党が大きく後退し、小政党が大きく躍進した。保守党と労働党の2党は、1945年総選挙で97%の得票をしたが、2015年には、それが67%。それでも、小選挙区制をとるイギリスでは、保守党が過半数を制し、2大政党制が保たれた形となった。なお、保守党、労働党に自民党を加えた3党では、2010年総選挙で88%(2大政党では65%)の得票率、2015年総選挙では、それが75%となった

2016年の政治

2016年の政治環境は、これらを反映したものとなる。イギリスは、4つの地域、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドを併せた連合王国だが、それぞれの地域でトップの政党が異なる。イングランドでは、保守党、スコットランドでは、SNP、ウェールズでは労働党、そして北アイルランドでは、地域政党の民主統一党(DUP)であり、それぞれの地域の利害は一致していない。その中、保守党と労働党の2大政党が総選挙で投票の3分の2しか獲得できず、このうちのいずれかが3分の1をやや上回る得票で政権に就く形である。なお、投票率は2015年総選挙では66%で、有権者の3分の1が投票していない。つまり、現在のキャメロン保守党は、かなりぜい弱な政権基盤を持つといえる。その中で大きなカギは、2016年中に行われると見られているEU国民投票の結果と、2015年9月に労働党党首に選ばれたコービンがどの程度国民の支持を集められるかである。コービンの場合、2016年5月5日に行われる、地方選挙並びに分権議会選挙の結果がその目安となるだろう。いずれにしても、2016年末までには、2020年に予定される次期総選挙の基本的な構図がはっきりとしてくるように思われる。