今秋に総選挙?

サンデー・タイムズ紙(2018年5月20日)が、ある保守党議員が総選挙準備を選挙区の保守党支部に依頼したと報道した。保守党内には総選挙があるかもしれないと見ている議員がかなりいるようだ。この背景には、イギリスのEU離脱交渉に関する保守党の党内対立がある。離脱後、イギリスが自由にEU外の国と貿易関係を作ることができるのを求める強硬離脱派と、EUとの関係に縛られても、できるだけイギリス経済に悪影響を与えないようソフトな離脱を求める立場との対立である。野党労働党にも同じ対立はあるが、保守党に比べて強硬離脱派がはるかに少ない。

メイ首相は、この保守党内の対立のために、保守党の勢力が小さい上院で修正され、下院に戻ってくるEU離脱法案の再審議に慎重だ。通常の法案なら、閣外協力をしている民主統一党(DUP)の協力を得て、上院の修正を下院で覆すことが可能だが、この法案ではソフトな離脱を求める修正が可決される可能性が強いためだ。

当初、北アイルランドとアイルランド共和国の国境で検問などを設けない方策をこの6月末のEUサミットまでに出す方針だった。しかし、EUに受け入れられ、しかも保守党内で受け入れられる具体的な方針が打ち出せない状況である。7月に国会の夏休みが始まる。そして9月に再開する。

来年3月にはイギリスはEUを離脱するが、それまでに欧州議会、イギリス議会の承認を取り付ける必要がある。そのため、今秋までには、この懸案を片づけ、離脱合意をし、さらに移行措置の詳細を詰め、将来の関係の基本合意を成し遂げる必要がある。しかし、それができない可能性が高まっている。その結果、メイ政権不信任で解散総選挙になるという見方が強まっているのだ。

もちろん、メイ首相は解散をしたいとは思っていない。2017年6月の総選挙で過半数を失い十分に懲りている。北アイルランドのDUPもこのような状況で解散をしたいとは思わないだろう。DUPは、イギリスのEU離脱には賛成だが、北アイルランドがイギリス本土と異なって扱われたり、アイルランド共和国との国境で検問などのチェックを始めるのには反対している。

北アイルランドでは、2016年のEU国民投票でEU残留が多数派だったが、もし同じ国民投票が現在行われれば残留派がさらに大きく伸び、69%が支持するという。逆に離脱への支持が大きく減る。DUPの支持基盤のプロテスタントでもEU単一市場と関税同盟に残ることに賛成する人が62%いる。フォスターDUP党首がかつて北アイルランド政府でエンタープライズ相だった時に始めた再生エネルギー政策で大きな欠損が出るとして公的調査が行われており、現状で総選挙を歓迎しないのは明らかである。

メイ首相が手詰まりになっているのは明らかであり、特にEU離脱法案の審議が下院で始まると、総選挙がいつ起きても不思議ではないと言える。この中、反ユダヤ人問題で労働党に大きな重荷になっていたケン・リビングストン元ロンドン市長が労働党を離党した。コービン党首と近いリビングストンは自分の問題が労働党に邪魔になっていることをその理由とした。そして「保守党政権を終わらせたい」としたが、総選挙が近いことを想定したもののように思われる。

より大きな権限を求める選挙委員会

イギリスでも、公職の選挙や国民投票など有権者の投票で決めることをできるだけ公平に行われるようにするため、その運動に様々なルールや制限を設けている。そしてそれを監視するのが選挙委員会(Electoral Commission)である。しかし、その選挙委員会が、その権限を強めてくれるよう訴える事態が起きている

まず、選挙委員会の捜査権限の強化である。選挙委員会は、必要な書類などを収集するため、捜査令状を取得し、事務所を捜索、また裁判所に命令を出すよう求めることができる。しかし、時には最近情報コミッショナーが捜査令状を求めた時のように、時間がかかりすぎることがある。選挙委員会が書類の提出を求めても、なかなかそれらが提出されないことがある。例えば、2015年総選挙での選挙費用違反問題で、保守党は、求められた書類を何度も督促されたにもかかわらず提出せず、結局、選挙委員会が裁判所に訴え出た結果、提出された。選挙委員会には必要な書類を得る権限が与えられているが、それが必ずしも時宜にかなっていない場合がある。

また、2016年に行われたEUを離脱するか残留するかの国民投票に関する費用支出違反の調査では、離脱支持の団体が、その支出制限を超えて支出したと選挙委員会が判断して科した罰金の金額は7万ポンド(1千万円)だった。1違反当たり、最高2万ポンド(300万円)を科すことができる。金額はかなり高いが、この団体の中心人物には資産が数百億円あり、このような罰金はあまり効果がないといえる。むしろ、ある程度の罰金を政治のコストと見る傾向も出てきているという。選挙委員会は、より高い罰金額を求めている。

一方、選挙委員会も、もし容疑を受けて行動しなければ、裁判所でその不作為を訴えられる可能性もある。2016年EU国民投票に関連して、選挙委員会が裁判所に訴えられ、選挙委員会が捜査を開始した。クラウドファンディングはその大きな武器となっている。

一般にイギリスでは、選挙違反はそれほど深刻にとらえられていない。上記の2015年総選挙の例でも、選挙費用違反の疑いのあったもののほとんどは不起訴となった。最も深刻な件のみが起訴され、現在裁判で争われている。選挙委員会や警察・検察もすべての問題に対応することは、時間やリソースの問題もあり難しく、優先順位をつけて対応せざるをえない面がある。起訴されたのは、悪質な上、選挙の結果が異なっていた可能性があるためだった。

確かに現代では、選挙違反の取り締まりはそう簡単ではない。例えば、アメリカ大統領選で、ロシアの活動やイギリスに本拠を置いていたデータ分析会社ケンブリッジアナリティカの活動が結果に影響をもたらした疑いがある。2017年のイギリスの総選挙ではロシアがコービン労働党を助けるような活動をしたといわれる。国外からの活動に、選挙の当事者が関係していたかどうかはっきりしないが、もしこれらの活動が選挙結果に大きな影響を与えるとすれば、それをどのように規制するかという問題が出てくる。インターネットでの選挙運動には国境が障害にはならない。ケンブリッジアナリティカがフェイスブックで行ったことのように弊害が出てきた結果、国際的に対応を迫られているように思われる。

EU離脱とイングランド地方選挙

5月3日のイングランドの地方選挙で、イギリスをEUから離脱させることを目的として設立されたイギリス独立党(UKIP)の支持票が崩壊し、その他の政党がその恩恵を受けた。特に保守党への恩恵は大きい。

UKIPは2014年の欧州議会議員選挙でイギリスに割り当てられた73議席のうち24議席を獲得し、2位の労働党20議席、3位の保守党19議席を上回った。地方議会議員の任期は通常4年で、今回のイングランド地方選挙は基本的に4年前に戦われた地方議会議員選挙の再選だった。2014年のイングランド地方議会議員選挙は、この欧州議会議員選挙の直前に行われた。そのため、UKIP票がかなり多かったのである。

2015年の総選挙では、UKIPは、EUの問題以外の不満票も惹きつけ、保守党、労働党に続き、第3位となる12.6%を得票したが、1選挙区から最大得票の一人だけが当選する小選挙区制のため、獲得議席はなかった。もしこれが比例代表制だったならば全650議席のうち80議席余りを獲得していただろうと言われる。

ところが、2016年に行われたEUを離脱するかどうかの国民投票で51.9%対48.1%の結果となり、イギリス国民が離脱に投票したため、UKIPの存在意義がなくなる事態となった。2017年の総選挙でUKIPの得票率が1.8%まで下がり、今回の地方選挙でUKIPの地方議員がほとんどいなくなる結果は予想されていた。

今回の地方選挙で、保守党は、EU国民投票で離脱票が60%以上の選挙区(すなわちUKIP支持が強かったところ)では、13ポイント支持が上昇している。一方、離脱票が45%以下のところでは支持率が1ポイント減少した。これは、2017年総選挙と同じような傾向だ。

また、若い人の多い選挙区、すなわち、18歳から34歳の割合が35%を超えるようなところで保守党は支持を10ポイント落とし、この年代が20%を下回るところで8ポイント支持を伸ばしている。また、65歳以上の人が20%を超えるようなところで保守党が10ポイント支持を伸ばしている。

若い人の多く、大卒の人が多い、そして少数民族出身者の多いところでは保守党の支持は伸びていない。すなわち、離脱に反対した人たちが多いところで保守党は苦しんでいるのである。その代表は、EU残留を強く打ち出している自民党が議会の過半数を新たに占めた4つの地域であろう。

今回の地方選挙でさらにはっきりしたことだが、メイ政権は、党内だけではなく、一般有権者の離脱派の支持を継続して受けられるように政権を運営していく必要に迫られている。

2018年5月イングランド地方選挙(2)

2018年5月の地方選挙では、野党労働党が優勢で、メイ首相率いる保守党はかなり議席を失うと見られていた。地方選挙の予測で良く知られているRallings & Thrasherは、労働党が議席を200ほど増やし、保守党が75ほど減らす、また自民党が12議席増やす一方、イギリス独立党(UKIP)は125議席失うとしていたが、結果は、労働党が77議席増やし、保守党が32議席減。自民党が75議席増やした。全体で4400議席ほどが争われ、労働党が全体で2350議席獲得し、保守党が1332議席、自民党が536議席獲得した。中では、保守党と労働党にとっては、いずれも数%の増減で、それほど大きな変化があったわけではない。なお、今回の地方選挙はイングランドのもので、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドでは行われなかった上、イングランドの中でも全体をカバーしたものではない。

また、地方選挙では投票率は総選挙に比べてかなり低い。2017年総選挙の投票率は、69%だったが、今回の地方選挙の投票率は、公共放送BBCによると前回の2014年と同じく平均で36%である。

このような状況の中で、現在の有権者の政党支持の状況を読み取ろうとするのはそう簡単ではない。BBCは、世論調査の専門家、ジョン・カーティス教授と共同して、参考的な数字を出し、保守党と労働党への支持を35%づつと見ている。総選挙のように全体の結果がはっきりしているわけではなく、ところどころのデータを集めて推定するわけであるから、完全なものではない。それでも実際の投票から得られたものであるため、世論調査の結果より価値があると見られている。

数々の問題はあり、見方は様々に分かれるが、以下のような結果が導き出される。

まず、保守党と労働党の勢力が拮抗しているということだ。カーティス教授は、昨年の総選挙時より労働党がやや支持を伸ばしていると分析するが、これでは労働党が次に政権を取るのは難しいという見方がでる。ただし、ここで注目されるのは、UKIP票の行方である。この票のかなり多くが保守党に回り、今回の選挙で保守党が労働党を上回る議席を獲得したところで特に顕著である。当たり前のことだが、労働党が前回と同じ票を獲得したとしても、それまでの保守党票にUKIP票が加わって労働党票を上回れば、保守党が議席を獲得する。

イギリスのEU離脱を謳って生まれたUKIPはイギリスがEUを離脱することになり、その存在意義を失った。それでも、これらの有権者は、メイ首相のEUからきっぱりと離脱するというこれまでの発言を信じて、保守党に投票した。そのため、もしメイ首相が今後のEUとの交渉で弱腰となれば、これらの有権者が保守党から離れるという見方があり、カーティス教授は、メイ首相は、保守党内とこれまでのUKIP支持者の動向に注意を払うことが重要で、かなり難しい政権運営、EU離脱交渉を強いられると見ている。

一方、労働党はコービン党首のイメージ問題があると指摘されている。イングランド中西部のウォルソ-  ルで、全60議席の内、21議席が争われ、保守党が13議席(+5)、労働党が7議席(-2)、UKIPは0議席(-3)の結果となり、保守党がそれまでの議席と合わせ、30議席で最大政党となった。BBCが有権者になぜこのような結果が生まれたのかを問うたインタヴューを実施したが、コービンには政権が任せられないとの意見が多かった。そのロシアやシリア攻撃、EUの離脱交渉の立場、さらに労働党の反ユダヤ人問題に関連していると思われる。ただし、この地域は、2016年のEU国民投票で、3分の2が離脱に投票しているところであり、メイの今後のEU離脱交渉の対応次第でかなり変わる可能性がある。

次に保守党との連立政権に参画して以来大きく支持を失った自民党に回復の兆しが出てきてことだ。保守党から3つの地方自治体のコントロールを奪った上、それまで過半数を占める政党のなかった自治体で過半数を占めた。自民党が2010年総選挙前の支持を取り戻すにはまだかなり時間がかかるだろうが、望ましい方向に向かっている。

16歳投票権議論に見る政治の影響

イギリスの下院で、労働党下院議員が16歳に選挙投票権を認める提案を出したが、保守党下院議員のフィリバスター的な長い演説で採決にいたらず、事実上否決された

イギリスでは、現在、日本と同じ18歳に投票権を与えている。16歳投票制は、2014年のスコットランド独立住民投票の際、キャメロン保守党政権も認めて実施され、今では、スコットランド内の選挙にも採用されている(下院の選挙など、国全体の投票では18歳を維持している)。世界でもいくつかの国が採用している

労働党支持のイギリスの若者

イギリスでの投票年齢引き下げ提案には、政治的な背景を考慮しておく必要があろう。労働党はこれまでも一般に若者の支持する政党だったが、2017年6月の総選挙では、若者の支持が急増し、その投票率が大幅にアップ、しかも29歳以下の3分の2近くが労働党に投票したとされ、その結果、労働党が予想外に健闘した。労働党は、コービン党首が党首選に立候補して以来、党員が急増し、今や50万人以上の党員を擁し、西欧で最大の政党となっている。

自民党支持の日本の若者

一方、日本では、若者が自民党を支持する傾向がある。2017年10月の選挙で、NHKの行った投票所の出口調査によると、18-19歳は47%、20代は50%、30代は42%が自民党を支持し、それらより上の年代の自民党支持が30%台にとどまったのに比べ、大きな差があった。若者の支持で2位だった希望の党などの野党は、若者の支持を惹きつけられず、それぞれ10%台以下に留まった。これらの世代の第二次世界大戦や北朝鮮問題への捉え方の違いがその背景にあるように思われる。

投票年齢引き下げの政治的影響

結局、イギリスの場合、保守党下院議員が16歳投票制に反対するのは、新しく有権者となる150万人ほどの16-17歳の過半数が労働党に投票する可能性が極めて高く、保守党に不利だという判断があるためだ。

ただし、今回の保守党下院議員の16歳投票制反対は、かなり巧妙になされた。この提案に直接反対したのではなく、同じ日に議論された他の提案で長い演説をし、16歳投票制案を議論する時間をなくしたのである。現在の16歳は、2022年までに行われる次期総選挙には投票権を持つ。そのため、これらの若い有権者に保守党へ投票しない理由を与えることを避けようとしたのである。

16-17歳に投票権を与えるべきかどうかという理論的な考え方はともかく、このような政治的判断がその行方を大きく決めることとなる。

なぜ保守党は総選挙を避けたいのか?

611日、保守党の無役の下院議員の会、1922年委員会のブレイディ会長がテレビに出演し、議員たちには「総選挙に臨みたいという気持ちはない」と発言した。この会は、保守党の党首選挙を運営し、また党首への不信任案を扱うなど非常に重要な役割を果たしている。68日の総選挙の結果が分かった9日には、ブレイディはメイ首相と会談している。

この発言の背後には、総選挙で保守党が13議席減らしたのに対し、前評判を覆して2015年総選挙から30議席を積み増した労働党の現状がある。もし総選挙が行われれば、勢いのある労働党がさらに議席を獲得し、メイ政権ではなく、労働党のコービン政権が誕生するだろうという判断がある。

これには、総選挙後の最初の世論調査が指標となっているように思われる。Servationの政党支持率は以下の通りである。

労働党45%、保守党39%、自民党7%UKIP3%、その他6%

労働党が保守党を6ポイントリードしている。すなわち、労働党がさらに議席を伸ばし、保守党は減らすことを示唆している。

Servationは、今回の総選挙で、多くの世論調査会社が世論の状態を読み誤ったのに対し、最も選挙結果に近かった。実は、2015年総選挙でも世論調査会社がこぞって読み誤った。その中、Servationは、ほとんど正しい結果を出していた。ある新聞社と話をしたそうだが、他の会社のものと比べておかしいとして乗り気ではなく、結局、選挙前発表しなかったという話がある。これらの事実から考えると、Servationのこの選挙後の世論調査はかなり信用できるものだと言えるだろう。

このような政情の中で、前財相のジョージ・オズボーンが、メイ首相は、「死刑囚(Dead Woman Walking)」だと発言した。「死刑を待っている女性」だというのである。総選挙の結果、メイ首相の権威はなくなった。本来なら、党首選挙の話が大きく取り上げられるところである。

611日の日曜紙は、ボリス・ジョンソン外相の出馬の憶測を大きく取り上げたが、ジョンソン本人は、くだらない話だと打ち消した。もちろん、上記のServationの世論調査でもジョンソンが最も有権者の支持を集められる候補だ。しかし、党首選となれば、ハングパーラメントの状態の中で、新しい党首は、総選挙を求められるだろう。その時期ではないという判断から、ジョンソンらは様子を見ており、メイ首相が存命している状況だ。611日に行われた内閣改造では、主要閣僚を異動させることができなかった。多くが、サンデーテレグラフ紙が1面トップで指摘したように、メイは首相だが、権力はなくなったと見ている。

ただし、このようなメイ政権で、果たしてきちんとしたEU離脱交渉ができるかという疑問がある。また、メイ政権が北アイルランドの民主統一党(DUP)の支援で、過半数の数を確保できたとしても、それが何らかの事情で機能しなくなる可能性も無視できないように思われる。労働党は、メイ政権の政策を発表する「女王のスピーチ」で、大規模な修正案を出してメイ政権を揺さぶる構えだ。事態はかなり流動的だと言える。

保守党少数政権の行方

68日のイギリス総選挙の結果、保守党は、前回の2015年総選挙から13議席減らして318議席にとどまり、過半数を獲得できなかった。そこでメイ首相は、10議席を獲得したDUP(北アイルランドの民主統一党)の支持を閣外協力で得、少数政権を運営していくこととした。この合意で本当にメイ政権はやっていけるのだろうか?

保守党とDUPの合意で、全650議席のうち過半数(650の半分に1を足したもので、小数点以下切り捨て)を意味する326議席を2議席上回る。ただし、シンフェイン(北アイルランド)は、女王に忠誠を誓うことを拒否して下院の審議に参加しておらず、今回もその旨を明確にした。そのため、事実上の過半数は322である。

メイは、EUとの交渉が始まる前に、その立場を強くするためとし、必要のない総選挙を実施したが、13千万ポンド(182億円)の公費を選挙に使った上、議席数を減らした。権威を失ったメイ政権は、そう長く続かないだろう。保守党をまとめることも難しく、しかもかなり極端な政党であるDUPへの対応も簡単ではない。恐らく年内、遅くとも来年前半にはメイの後任が選ばれ、直ちに総選挙となるだろう。

総選挙結果

政党 議席数 増減 得票増減%
保守党 318 -13 +5.5
労働党 262 +30 +9.5
SNP 35 -21 -1.7
自民党 12 +4 -0.5
DUP 10 +2 +0.3
シンフェイン 7 +3 +0.2
プライドカムリ 4 +1 -0.1
緑の党 1 ±0 -2.1
無所属 1 ±0  

投票率68.7%
SNP
:スコットランド国民党
DUP:民主統一党

保守党の中の問題

保守党が一致結束してメイ首相を支えれば、この政権がしばらく続く可能性がある。しかし、それはかなり難しい。

最大の課題であるEU離脱交渉では、離脱派と残留派の対立が表面化するだろう。メイ首相はこれまでEUの単一市場並びに関税同盟に残らないとし、EUと新しい自由貿易の枠組みを作ることを想定してきた。しかし、権威を失ったメイ首相は、すでに内閣改造をする力も乏しく、そのような枠組みへの党内調整能力はないだろう。

しかも619日に始まる、EUとの交渉ではいわゆる「離婚料」の問題がある。EU側は1000億ユーロ(123500億円)を求めてくるという憶測がある。これがもし、600億ユーロ(74千億円)程度で落ち着いたとしても、保守党内に、これまでのイギリスの貢献額を考えれば、むしろお金が返ってくるはずで、一切そのような「離婚料」を支払う必要がないという考え方がある。その金額の多寡にかかわらず、党内の考え方をまとめることは難しい。

党内の問題は、EU離脱に関わる問題だけではない。例えば、メイ政権は、ヒースロー空港の第3滑走路の建設推進を決めているが、今でも空港周辺の保守党下院議員たちには不満がある。飛航路のリッチモンドパーク選挙区で当選したゴールドスミスは反対派だが、今回の選挙ではわずか45票の差で当選した。ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道HS2建設問題など、それぞれの地元の事情でメイ政権の政策に反対する議員が少なからずでるだろう。

しかも党内の右左の問題もある。福祉政策などをめぐり、対立が表面化する可能性もある。

DUPの問題

DUPは、もともと過激なロイヤリスト(イギリスとの関係を維持する立場)だった牧師イアン・ペーズリーの設立した政党である。1998年のグッドフライデー合意に反対。2006年のセントアンドリュース合意で、仇敵だったシンフェイン(アイルランド共和国との統一を求める立場)と北アイルランド分権政府をともに運営していくことに合意したが、それまで北アイルランド政治の異端だった。

今でも同性婚反対、妊娠中絶反対などかなり極端な政党である。一方では、過激ロイヤリスト武装集団との関係が今でもあると見られている。このため、従来の保守党政権はDUPと深い関係にならないよう注意してきた。

北アイルランド最大政党であるDUPのフォスター党首は、北アイルランドの首席大臣だったが、ビジネス相時代に推進した再生エネルギー政策の大失敗で、その後始末のコストが49000万ポンド(690億円)に上ると見られている。この問題で、北アイルランド議会は解散され、3月に北アイルランド議会議員選挙が行われた。しかし、この問題は解決に至っておらず、未だに再開されていない。

本来、イギリスの中央政府は、この北アイルランドの問題に中立的な立場で臨み、利害の対立する政党を融和させ、話し合いを促進させる立場にある。しかし、メイ政権がDUPの支援を受け、その中立性が失われてしまった。北アイルランドの分権政権回復が難しくなったのは間違いなく、現在の中途半端な状態が慢性化する可能性がある。

すなわち、今回の合意で保守党が支払う代償は、そう小さなものではない。

次期総選挙

保守党が、党内の対立を防ぎ、DUPの枷を一刻も早くなくしたいと考えるのは当然だろう。そのベストの方法は、党首を入れ替え、総選挙を実施し、勝つことである。野党労働党のコービン党首の人気が高まっていることから、人気の点で対抗できるのは、現外相のジョンソンである。すなわち次期保守党党首・首相にジョンソンが就任する可能性は高い。

コービンは2017年総選挙で勝てなかったが、その評価は大きく上がった。労働党内の反コービン勢力の多くが、コービンのリーダーシップを称えた。一般でも、若者だけではなく、コービンを評価する見方が広がっている。

今やコービン率いる労働党は、これまでよりはるかに統一され、活性化された集団となっている。恐らく、労働党は、今回の総選挙直後に政権に就かなかったことを幸運だと考えているだろう。少数政権ではできることが限られているからだ。次期総選挙が実施されるのはそう遠い先ではなく、その準備に既に走り始めていると思われる。

コービンにとっては、次期総選挙、そして政権に就くまでの準備が十分にできることになる。柔軟性に欠けるメイ政権が早晩挫折するのは間違いなく、次の総選挙では、人気はあるが、信念の乏しいジョンソンを党首に抱く保守党をコービン労働党が大きく破ることとなるだろう。

その際、労働党は今回の総選挙で掲げた政策を実施していくこととなる。保守党は、コービンの政策は「魔法のお金のなる木」に頼っていると主張した。しかし、その経済政策は、ノーベル経済学賞を受賞した、アメリカのジョセフ・スティグリッツが「慎重に練られた計画」だと評価している。

いずれにしても、これからメイ政権への重圧は高まる一方で、メイ首相にとっては非常に厳しい政権運営となる。

総選挙結果

メイ首相は、68日、イギリス下院の総選挙を実施した。その結果、総選挙前にあった330議席を獲得できなかった。しかも下院の650議席のうち、過半数の326議席(650の半数+1)も下回った。北アイルランドで10議席を獲得した民主統一党(DUP)の協力で、メイ首相は、政権は維持できるものの、この選挙中、そのポリティカル・キャピタルを使い果たし、今やその進退が議論される状況だ。この状態で、11日後に始まるEUとの離脱交渉に臨まねばならない。メイが首相と保守党党首を辞任する可能性が高まっている。

その結果、EU離脱に関しては、メイが移民の制限を優先して欧州単一市場から離れる意思を明確にし、これまで「悪い合意より合意のない方がよい」と度々主張して示唆してきたような強硬離脱の可能性は薄れ、イギリスはソフトな離脱に向かうのではないかという見方が強まっている。

今回の総選挙は、メイ首相が、保守党が圧勝して100議席を大きく上回るマジョリティを獲得するのは間違いないという考えから自らの判断で引き起こしたものである。世論調査で圧倒的に優位な立場にあったためである。

ところが、選挙中に発表したマニフェストの「認知症税」問題、度重なるUターン、それに選挙期間中にマンチェスターとロンドンでイスラム教過激派によるテロ事件があり、選挙戦の様相が大きく変化した。

一方、多くの有権者だけではなく、労働党の多くの下院議員が、コービン党首は強硬左派で無能だと信じていたが、そのコービンが予想外に健闘した。そのマニフェストは緊縮財政を覆すもので、有権者の多くから評価された。若者を中心にコービンブームが起きた。コービンは明らかにこの選挙戦を楽しんでいる雰囲気があった。また、メイと交互に行われた、2度の聴衆らとのテレビでの質疑応答では、メイを上回る評価を受けた。コービンのスピーチには非常に多くの聴衆が回り、その聴衆の数は増える一方で、あるベテラン政治記者は、これほど各地で多くの人が集まるのは、チャーチル以来だとコメントしたほどである。

選挙期間中に実施された世論調査では、保守党と労働党との差が大きく縮まり、当初の20ポイント余りの差から、一桁、そして最後には、1ポイントの差とするものも出てきた。

メイとコービンのいずれが首相にふさわしいかという選択では、メイが418日に総選挙を実施したいと発表した際には、メイがコービンを39ポイント上回っていた。それが投票日直前には9ポイントとなった。それでも多くの世論調査会社は、保守党が過半数をかなり上回るような世論調査を発表していたが、これらの世論調査会社は面目を失った形だ。

69日の午前7時時点、全650議席の644議席が開票済みだが、各党の獲得議席数は以下の通りである。

保守党:314
労働党:
260
SNP
35
自民党:
12
DUP
10
その他:13

若者の支持で選挙結果が変わる

68歳のコービンを驚くべきほどの若者が支持している。

2015年の総選挙では、若者(18歳以上25歳未満)の投票率は、43%だった。ところが、63日発表の若者を対象にした世論調査(世論調査会社ICMによる)で、必ず投票に行くと答えた若者は63%にのぼる。しかもこれらの若者の中で、労働党に投票するとしたのは68%、メイ首相率いる保守党へは16%だった。

これは、非常に大きな動きである。選挙の結果を大きく左右するものだ。

5月末、世論調査会社大手のYouGovがその政党支持率調査の方法を変えた。68日の総選挙まで10日となって方法を変えるのは、無謀だという見方があった。他の世論調査会社の中には、YouGovを「勇敢」だとし、その上、その結果に基づいて議席予想をし、ハングパーラメント(宙づり国会:過半数を獲得した政党がない状況)になるとの結果を1面トップで掲載したタイムズ紙を「もっと勇敢」だとコメントしたものがある。

現在の主な議席数予測は以下のようだ。

 (出典:63日現在のWikipedia

確かに、YouGovのみがハングパーラメントで、それ以外は、保守党の獲得議席予想が354から368の間にある。全650議席の過半数は326議席だが、YouGov308とし、他の世論調査会社のものとはかなり離れている。

ただし、このYouGovの転換には、それなりの理由があった。それは、主に若者の投票率の問題である。

前回2015年の総選挙で、世論調査会社はその結果を予想できなかった。総選挙前、保守党と労働党の支持率が均衡しており、ハングパーラメントとなると予測したが保守党が過半数を獲得したのである。そのため、英国世論調査協会はその原因を調査した。そして、主な原因は、サンプルに問題があったという結果となった。その一つは、世論調査に応じる、特に若い人たちの投票率は高いが、同じ世代で実際に投票に行く人が比較的少なかったという点である。すなわち、サンプルがその同じ世代の代表値となるとは必ずしも言えないということである。そのため、年齢を区分けして、それぞれの投票する確率を想定し、それで生のデータを加工する方式が主流となった。

6月3日に発表された今回の総選挙の世論調査では、保守党が労働党を12ポイントリードしているものから1ポイントリードのものまである。2015年総選挙の際の年齢別投票率を参考にして結果を出している世論調査会社があるが、このような方法をとっている会社は、保守党のリードが大きい。

YouGovは、その最近の調査の結果から、25歳未満の人の投票率を51%65歳以上の投票率を75%と見ている。その差は24ポイント。下院の調査によると、2015年総選挙では、その差は35ポイントだった。2010年は23ポイント、そして2005年は36ポイント

YouGovは、今回の総選挙では、若者のコービン支持が急増している。そのため、今回は2015年のパターンではなく、2010年のパターンに近いと見ている。そして、もし、若者の中のコービンブームが実際の投票に結び付けば、調査時点での保守党の獲得議席は265から340議席の間となり、その中央点は308、労働党は230から301議席の間で、その中央点は261となるとする。

確かに若者の支持が実際に投票に結びつくかどうかには不確かな点がある。YouGovの新しいモデルが正しいかどうかは総選挙が終わるまでわからない。しかし、最初に触れた「若者の世論調査」のように、2015年の投票率を20%も上回る、もしくはそれに近い投票が現実のものとなれば、メイ保守党の過半数獲得が困難になるのは間違いない。

高まる大番狂わせの可能性

68日の総選挙投票日まで、あと一週間となった。418日にメイ首相が解散総選挙を発表して以来、その率いる保守党が地滑り的大勝利を収めるのは確実と見られていた。ところが、ここにきてその状況は大きく変化している。保守党は過半数を獲得できない可能性が出てきた。

反保守党ムード

その状況は、531日に行われた7党の討論会で典型的に示されたように思われる。保守党への批判が強く、保守党に批判的な言葉に、聴衆が頻繁に大きな拍手をした。そのため、聴衆が左寄りではないかという苦情が出たほどである。筆者も、聴衆の強い反保守党の反応を意外に感じた。

この討論会を主催したのはBBCであるが、聴衆の選別はComResという世論調査会社に委託された。この会社は聴衆を厳密にチェックして選別したと答えている

メイ首相はもともとこのような直接討論には参加しないという立場をとってきた。そのため、この討論会にラッド内相を送った。ラッド内相は、これまで保守党の立場を説明するためメディアに度々登場しており、その登場回数は「労働党攻撃」担当ともいえるファロン国防相を超えて保守党で最も多い。すなわち、保守党の中で最も優れたメディアでのパフォーマーである。しかし、他の参加者たちからそろって強い攻撃を受け、苦しい展開となった。

この討論会には、当初参加しないとしていた労働党のコービン党首が急きょ参加することとしたため、メディアの注目が大きく集まった。他の参加者は、自民党のファロン党首、緑の党のルーカス共同党首(緑の党には二人党首がいる)、ウェールズのプライドカムリのウッド党首、イギリス独立党のヌタル党首、そしてスコットランド国民党(SNP)のロバートソン副党首である。

参加者からは、参加しなかったメイ首相への批判が続いたばかりか、「強い、安定した」リーダーシップを訴えてきたメイ首相をUターンばかりする「Uターンクイーン」で、頼りにならず、グラグラしているという言葉も飛び出した。

参加者と聴衆の最も大きな批判は、メイが緊縮財政を維持しようとしていることにある。国民の関心の高い国民保険サービス(NHS)、ソーシャルケア、学校などの公共サービスが過去7年の財政削減で苦しんでいるのに、それらに名目だけの予算をつけ、本当の危機を救おうとしていないようなことに不満がある。

メイの弱体化                                                                                                   

この背景には、メイ首相が総選挙を2020年まで実施しないと度々主張していたのに急きょ方針を変えたことや、今回の総選挙の保守党マニフェストで打ち出した「認知症税」への批判が高まったため、急きょ方針を変えたこと、さらには、3月の予算で批判が高まった自営業者への国民保険料アップを急きょ取り消したことなど数々の政策転換がある。この討論会の前、529日のITV/SkyNews共催のメイとコービンが別々に出演した討論会でも、ブロードキャスターのパックマンに、少し批判が高まればすぐにUターンする、それでEU離脱交渉ができるかと批判された。

「認知症税」のUターンの際、メイは、この政策は「何も変わっていない、何も変わっていなーい」と主張し、嘲笑を買った。保守党のマニフェストには、その公約に財源がほとんど示されておらず、税金を含め、政権の裁量の非常に大きなものである。このマニフェストは大失敗とみなされている。

531日の討論会に出席しなかったメイは、地方を遊説していたが、その際のジャーナリストからの質問は、メイがこの討論会に出席しないことに集中した。メイはこのような質問を笑い飛ばそうとしたが、本当には笑っておらず、その顔には疲れと焦燥が出ていた。一方、ソーシャルメディア上では、「メイはどこ?」がトレンドとなった。

メイは、これまで、強いリーダー的な振る舞いをし、その強いレトリックで有権者から「敬意」を受けていたが、一連の失敗で、これまでの権威が弱くなり、その政権運営能力にも大きな疑問が出てきている。それは、メイへのジャーナリストからのしつこいともいえる質問にも表れている。メイのポリティカル・キャピタルがなくなってきている証拠である。

これでは、EUとの離脱交渉に当たり、この総選挙で国民から強いマンデイト(付託)を受け、自分の立場を強化したいとの目論見がまったくかなわないこととなる。

人気の高まるコービン

一方、コービンの人気が高まっている。コービンのスピーチ会場はすぐに満杯となり、中に入れなかった人たちのために、コービンが外でもう一度スピーチするという具合だ。遠くからわざわざ聞きに来る人が多く、コービンも、聴衆の数が益々増えているとコメントしたほどだ。

これまで野党第一党の労働党のコービンを無能とする見方が強かった。この背景には、労働党の中で強硬左派の立場であり、多くの労働党下院議員から党首としての資格はないとみなされていたことがある。労働党リーダーシップの指示に、労働党の中で最多の500回以上背いて投票した実績がある。

2015年の労働党党首選に立候補した際には、下院議員の推薦人を集めるのに苦労した。党首選での議論を高めるために左派からも候補者を立てるべきだとして、コービンに投票しないが、推薦人の名前だけは貸してもよいという人の署名を集め、なんとか立候補締め切り直前に間に合わせた人物である。

なぜ立候補したのかと問われ、これまでにマクダネル(影の財相)やアボット(影の内相)が立ったので、今回は自分の番だったと語った。党首となるとは全く考えていなかった。

ところが、コービンが党首選に立候補すると、その原則に生きた、政治の考え方に共鳴する人が急速に増え、コービンブームが起きる。前のミリバンド党首時代に党首選制度を変更し、それまでの党員、労働組合、下院・欧州議員の3つのグループで均等に票を案分する制度から、党員、関連団体メンバー、登録サポーターが平等に一人一票で総得票を争う制度となっていた。コービンを支持するため、党員と登録サポーターの数が急増した。

この党首選挙は、多くが驚いた、コービンの圧勝に終わった。しかし、労働党下院議員や旧来からの労働党支持者らからのコービンへの不信は続く。その上、右寄りの新聞が、コービンを極左、無能と決めつけた。

このコービンでは次期総選挙で勝てないと見た労働党下院議員たちが、2016623日のEU国民投票後に行動を起こし、コービンの影の内閣から次々に影の閣僚が辞任し、コービンへの不信任を突きつけ、圧倒的多数の賛成で可決した。しかし、この不信任は党の規約にはない非公式なもので効力はなかった。結局、2回目の党首選が行われることとなった。ところが、この2回目も再びコービンブームが起き、前回を上回る支持を集め、圧勝。この後、労働党下院議員たちは、コービンの引き下ろしは無理だと悟るにいたる。しかし、この間に、メディアには、コービンは、労働党をまとめることもできない無能な党首だという見方が定着した。

そのため、今回の総選挙は「有能で有権者の評価の高いメイ」と「無能で有権者の評価の低いコービン」の戦いという形でスタートした。

労働党のマニフェストが漏えいされ、メディアで大きく取り上げられると、労働党は鉄道の国有化、大学授業料の無料化など、古い夢のような政策を並べて借金だらけになると批判された。改めて正式に発表されたマニフェストには、その財源リストがついており、しかも個別の政策は有権者に人気があることが分かった。それでも、有権者のコービンへの不信は続く。

ところが、比較的若い人たちを中心にコービンへの支持は拡大しており、しかもジャーナリストたちは、上記の529日の討論会で、68歳でいいお爺さんのイメージのあるコービンが落ち着き、率直で熱意のある優れたパフォーマンスをしたため、コービンを見直し始めた。

531日の討論会では、コービンは7人の参加者の中で、そう目立たなかったが、コービンを無能だと見る見方は、保守党のラッド以外なくなっていた。

議席数予測

保守党と労働党との世論調査の差は大きく縮まってきている。その中でも世論調査最大手のYouGovの世論調査では、総選挙が発表された時には、その差が24%だったのが、531日には3%となった。

また、YouGovは、コンピュータによる新しい選挙予想法を導入した。YouGovは毎日そのデータを更新し、現時点での各党の議席を予測している。この方法には、誤差がかなり大きいという問題があるが、530日に発表された時には、衝撃が走った。保守党が解散前の議席を20議席減らすとしたからだ。この予測には、他の世論調査会社からの批判がある。

なお、世論調査会社の間で、生のデータを解析する方法が異なっており、2015年総選挙で世論調査の結果が誤った後、多くの修正を施している。今回の総選挙では、特に若い有権者の投票率の見方で、その結果がかなり異なる。50歳以上では保守党が強く、それ以下では労働党が強い。通常、若い有権者の投票率は低い。しかし、コービンブームの若い世代は異なるという見方がある。

61日時点でのYouGov各党予測議席数は以下の通り。なお、保守党の選挙前議席数は330だった。

政党 議席予測
保守党 317
労働党 253
SNP 47
自民党 9
プライドカムリ 3
緑の党 1
その他 2
北アイルランド 18

 

タクティカルボーティング

今回の総選挙が始まった時、保守党の圧勝は間違いないと思われた。メイは、EU離脱交渉について「悪い合意より合意のない方がよい」との発言で、繰り返し発言している。メイが過半数を大きく上回る議席を獲得した後、勝手に交渉を進め、イギリスがEUからスムーズに離脱できないのではないかと危機感を持った人たちを中心にタクティカルボーティングを進める動きが出ている。これは、保守党の議席を増やさせないために、それ以外の当選可能な候補者に票を集中させるものである。その動きの一つは、「イギリスにとってベスト(Best For Britain)」である。

531日の7党討論会で現れたように、他の政党は、保守党に非常に強い批判を持っている。それぞれの支持者がタクティカルボーティングで、保守党以外の当選可能な候補に票を集めて当選させる動きは今後強まるだろう。

その一つの例は、東デボン(East Devon)選挙区である。上表のYouGovの議席予測の「その他2」には「下院議長」が含まれるが、それ以外のもう一つで、当選見込みとされている。

完全小選挙区制のイギリスの下院選挙では、それぞれの選挙区で最多得票者が一人だけ当選するため、通常、選挙区に強い支持基盤のある政党の公認を得なければ当選は難しい。ところが、東デボン選挙区では、無所属の候補者が健闘している。

この候補者クレア・ライトは、前回の2015年の総選挙でも無所属で立候補した。その際の結果は以下の通り。

 

得票

得票率

保守党

25,401

46.4

クレア・ライト

13,140

24

UKIP

6,870

12.5

労働党

5,591

10.2

自民党

3,715

6.8

投票率73.7

もし、労働党と自民党の票並びに、その選挙に投票しなかった有権者の投票をかなり集められれば当選の可能性が出てくる。イギリスにベストでは、この無所属候補者に投票するよう勧めている。

このようなタクティカルボーティングは、YouGovの議席予測では、前回総選挙で保守党が自民党から奪った議席の幾つかで効果が出ているようで、その議席数が自民党の予想議席数に反映されている。

苦境のメイ

これまで述べたようにメイ首相は既に傷ついている。保守党が過半数を下回るようなことがあれば、それは大番狂わせであり、メイの進退問題にも発展するだろう。もし、ほとんど議席を増やすことができないようなことであれば、保守党内での立場が極めて弱いものとなり、メイの「強い立場でEU離脱交渉」をするという目的は果たせないだろう。