5月5日地方選挙はそれほどジョンソン首相の痛手にならない

ジョンソン首相は、率いる保守党の議員の女性差別・蔑視問題やパーティゲート、高インフレ下の生活費の問題など、多くの問題を抱えている。世論調査の政党支持率では、野党第一党の労働党に6ポイント差をつけられている。保守党下院議員の中ではジョンソン党首(首相)を他のリーダーに入れ替えるべきだという声が強くなっているが、5月5日の地方選挙の結果とパーティゲートのスー・グレイの最終報告書を見てから決めるという議員が多い。そのため、この地方選挙の結果が注目されている。

ただし、世論調査の権威ジョン・カーティス教授によると(5月2日BBC Radio4 Today 2:41から)、この地方選挙は、それほどジョンソン首相の痛手にならないという。それは以下の理由による。

イングランド

  • 前回の地方選挙は2018年に行われたが、その当時の首相(保守党党首)は、ジョンソン首相の前任のメイ首相だった。この地方選挙では、労働党が、コービン前党首の下、よい結果を収めた。事前の政党世論調査は保守党と労働党がほぼ互角だった。現在、保守党は労働党を6%下回っているが、これは、票の動きでいうとその半分の3%の差となる。3%の差はそれほど大きなものとは言えない。
  • 今回の地方選挙の大半は、既に労働党の強い地域で行われる。保守党と労働党の競合している地域ならば比較的小さな票の動きで議席数に差が出やすいが、既にどちらかが強い地域ではそれほど大きな議席数の差にならない可能性がある。
  • いくつかの地域では、議会の過半数が保守党から労働党に移ることが予想されているところもある。ただし、労働党の強いロンドンではすべての議席が争われるが、ロンドン以外の地域では、ほとんどが議席の3分の1のみを争う選挙である。そのため、今回の選挙で地方議会の構成が大きく変わる可能性はそれほど大きくない。

スコットランド

前回の地方選挙は、2017年。スコットランドで非常に強いスコットランド国民党(SNP)は2017年には最も多くの議席を獲得したものの、不本意な結果だった。一方、保守党はスコットランドで2番目の良い結果を収めた。しかし、昨年のパーティゲート発覚以来、保守党の世論調査支持率は下がり、2位の労働党にも差をつけられ、2016年以来の3位となっている。労働党の復活という見方があるが、2017年に思い通りの議席を獲得できなかったSNPが議席を増やす可能性が高く、労働党の大きな議席増には結びつかない可能性がある。

これらの見通しから、この地方選挙がジョンソン首相の大きな痛手となる可能性は少ない。

選挙に与えるコロナワクチン接種の効果

2021年5月6日木曜日に行われた英国の各種選挙には、コロナワクチン接種の効果がはっきりとあらわれた。

英国は、先進国の中で最もコロナワクチン接種の効果が出ている国の一つである。英国の人口は日本の半分ほどだが、成人の67%が1回目の接種を受けており、2回目の接種も受けている人の割合は3人に1人(日本と異なり、英国では1回目と2回目の間を大きく開けている)。そして、5月9日の当日の結果発表によると、検査数が100万件を超えるのに対し(日本は最も新しい数字は5月6日の5万4793件)、陽性数が1770件(日本は6493件)、そしてコロナ感染後28日以内に亡くなった人の数は2(日本は64件、日本のコロナ死亡の基準は異なる)だった。英国では、ロックダウンの緩和が始まっており、明るいムードが漂っている。

なお、英国(連合王国United Kingdom)は、4つの単位、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドで構成される。全体を管轄する英国政府はイングランドにあるが、地方分権が進んでおり、対外関係や軍隊など国としての対応の必要な部門を除くもの、例えばNHS(国民保健サービス)は、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド分権政府の下にある。なお、イングランドのNHSは中央政府の管轄下であり、ジョンソン政権の保健相は、イングランドのNHSを担当している。

このうち、5月6日の各種選挙に関係したのは、イングランド、スコットランドそしてウェールズだった。コロナ後の明るい光が見えてきたムードの中で、有権者は、それぞれの担当政権を報いる行動に出たようだ。イングランドでは、ジョンソン保守党政権が、ウェールズでは労働党政権が、そしてスコットランドでは地方政党SNP(スコットランド国民党)政権がこのムードの受益者だった。イングランドでは、保守党が予想を上回って多くの地方議会で勝ち、同時に行われた下院の補欠選挙では労働党の牙城を大差で奪った。ウェールズでは、労働党が予想を裏切って健闘し、これまでのウェールズ議会選挙で最高に並ぶ60議席中30議席を勝ち取った。スコットランドでは、SNPが全129議席のうち64議席を獲得した。

3種3様の結果だが、イングランド、ウェールズ、そしてスコットランドの結果は、有権者が、コロナウィルス対策で効果を収めているそれぞれの政権を支持した表れといえる。