ファラージュUKIP党首② (Nigel Farage②)

現在、英国で最もホットな政治家、英国のEU撤退を訴えるUKIP(英国独立党)の党首ナイジェル・ファラージュ。UKIPは2月28日の下院補欠選挙で大躍進した。

今日、このファラージュにたまたま道で出会い、これまで会ったこともなかったのに話をした人が、ファラージュはいい人のように見えたと言う。「よくやりましたね」と言うと「まだまだこれからですが、目的に着実に到達しようとしています」という答えが返ってきたそうだ。そして握手をしたという。たばこの臭いが強かったと付け加えた。

ファラージュは、かなり右で、扱いにくい人のように思われるかもしれない。UKIPはファラージュのワンマンバンドだとの批判もあるが、そう悪い人物のようには思われない。と言うのは、ファラージュが3人の英国の主要政党の党首、保守党のキャメロン首相、労働党のミリバンド党首、自民党のクレッグ副首相のうち、だれとなら食事をするかときかれた際、クレッグと答えたからだ。

クレッグは、EU賛成派だ。EUについてファラージュとは180度意見が違う。クレッグは、かつて1999年から5年間欧州議会議員だったことがあり、同期の欧州議会議員だったファラージュと一緒に議員として働いたことがある。しかし、ファラージュのクレッグ評は「ナイスガイ」である。クレッグには悪気が全くないと言う。クレッグをこのように言う人は恐らく悪い人ではないと思う。上記3人のうち、クレッグが最も真面目な政治家だと思うからだ。ただし、真面目な政治家と成功する政治家とは必ずしも一致しないが。

 

英国の補欠選挙の意味するもの(What A By-election Means In The UK)

イングランドの南部のイーストリーで下院の補欠選挙が行われた。その結果と英国の補欠選挙の意味するものについて触れておきたい。

イーストリー補欠選挙

2月28日に下院の補欠選挙があった。英国では選挙は木曜日に行われる。結果は、辞職した前職の所属する自民党が得票率を減らしたものの議席を維持した。

このイーストリーの補欠選挙は、自民党の大物下院議員クリス・ヒューンが、自分のスピード違反の違反点数を、10年前に当時の妻に受けてもらったことが発覚し、司法妨害罪の容疑を認めて辞職したために行われた。その上、この選挙期間中に、自民党の前チーフ・エグゼクティブのセクハラ疑惑が報道され、それへの自民党の対応、特にクレッグ党首への批判もあったために、自民党にはかなり厳しい選挙と見られていた。

この選挙区は、従来、自民党と第二位の保守党が争ってきており、連立政権を組む二つの政党の対決として注目された。さらに世論調査でUKIP(英国独立党)が大きく支持を伸ばしていることがわかり、通常の補欠選挙以上に大きな注目を浴びた。

結果は、有権者数7万9千に対し、投票率は52.7%、得票数は以下のようである。(得票率、2010年総選挙時の結果との比較の数字は四捨五入している)

順位 政党 得票 得票率 2010年比較
1 自民党 13,342 32% -14%
2 UKIP 11,571 28% 24%
3 保守党 10,559 25% -14%
4 労働党 4,088 10% 同じ

これから見ると、自民党が勝利を収めたものの、かなり大きく支持を失っている。この支持の減り方は、全国の世論調査に表れている減り方に一致する。つまり、この選挙区では勝利を収めたものの、自民党の退潮傾向に歯止めがかかったとは言えない状態だ。

保守党も自民党と同じような割合で支持を失った。第二位のUKIPと保守党では支持層がかなり重なっている。保守党から回ってきた票がかなりあると思われる。UKIPは大きく支持を伸ばしたが、UKIP党首のナイジェル・ファラージュは、得票の3分の1が保守党、3分の2はそれ以外の政党から来ていると主張した。さらにこれまで2,30年間投票したことのなかった人たちがUKIPに多く投票したとも言った。

この選挙結果で、自民党のクレッグ党首らは議席を失わなかったことで胸をなでおろしており、これから反撃に移ると宣言したが、最も大きな影響を受けたと思われるのは保守党である。英国のEUからの離脱を訴えているUKIPの躍進を抑え、保守党が次期総選挙でも過半数を獲得できる状況にしようと、保守党党首のキャメロン首相は、もし次期総選挙後も首相であれば、2017年末までにEUを脱退するかどうかの国民投票をすると発表した。しかし、その効果は出てきておらず、逆にUKIPのさらなる躍進を許している。昨年11月に行われた別の補欠選挙で、保守党は大きく票を減らし、UKIPが躍進した。

UKIPの躍進の原因はこれまでの世論調査の結果から見ると、有権者がそのEU離脱に賛成しているためというよりも政権政党、並びに既成政党への嫌気・不満から来ている。(参照:The UKIP threat is not about Europe – Lord Ashcroft Polls) UKIP党首は、既成三大政党を批判し、これらの政党を三つの社会民主党政党で、お互いに違いがないと主張したが、これはかなり多くの有権者の考え方を反映しているように思われる。

こういう有権者の不満に対応するのはそう簡単なことではない。キャメロン首相は、保守党下院議員の不満と不安を抱えてさらに苦しい立場に追い込まれる結果となったといえる。

もちろんUKIPへの支持が伸びてきているとはいえ、それがUKIPに下院議員を生み出せるかどうかは別である。下院議員選挙はすべて小選挙区であるために、最も得票の大きい一人だけが当選する。そのため、次期総選挙でもUKIPの下院議員が生まれる可能性はかなり低い。それでも2009年の欧州議会議員選挙で、保守党に続き、第二位の得票を得て第二位の議席数を獲得したUKIPが来年2014年に再び行われる欧州議会議員選挙でさらに活躍するのは間違いのない状態である。

特に保守党下院議員にとっては、UKIPは大きな脅威だ。イーストリー選挙区では、前回2010年の総選挙でUKIPの候補者はわずか3.6%の得票しか獲得できず、5%以下の供託金没収だった。それが大きく得票を伸ばした。UKIPはほとんどの選挙区に候補者を立てるので、UKIPの得票が多くなると、保守党候補者にとって、当選するか落選するかの分かれ目となり得る。

英国の補欠選挙

補欠選挙は、総選挙の際の選挙とはかなり異なる。まず、選挙運動が極めて集中的に行われる。しかもウェストミンスターの政権を誰が担うかに直接関係しない。さらに当選しそうな候補に票が集中し、それ以外の候補には票が行かない傾向がある。また、それぞれの選挙区の事情でかなり結果が異なる。そのため、補欠選挙の結果で、政党の全国的な情勢を読めるかというと必ずしもそうではない。

また、選挙に使える金額が大きく増える上、各政党が他の地域から応援を繰り入れ、有力政治家が頻繁に選挙区に入る。そのため、マスコミもかなり熱心に報道する。

このイーストリー選挙区は、イーストリー市の中にある。市議会議員全44人のうち40人が自民党で、4人が保守党であるが、保守党の議会議員は全員この選挙区の隣の下院選挙区にあたる地域から選出されている。つまり、この選挙区内の市議会議員は全員が自民党である。そのため、地元の地方議会議員と活動家の動員力や浸透力が非常に高い選挙区であり、そういう選挙区は多くはない。かなり特殊だと言える。

このイーストリー選挙区の有権者数は7万9千人ほどで、日本の普通の市ぐらいのサイズである。そこには19の選挙区があり、それぞれの選挙区から2~3人の議員が選出される。それぞれの選挙区からは一回の選挙で一人ずつ選出されるため、それぞれの議員の任期は4年だが、その4年間のうちに同じ選挙区から出馬する他の議員の選挙がその議員の選挙も含めて2回もしくは3回ある。つまり、政党が同じだと、同じ選挙マシーンがこの4年間に何回も使われている。そのため、4年に1回ある場合と異なり、この選挙区の自民党の選挙マシーンは、かなり油が乗っているといえる。

しかも、英国では、戸別訪問が許されているために、政党は他の選挙区からのボランティアも含め、徹底的なローラー作戦を展開する。ビラを大量に配り、しかも電話作戦も徹底する。つまり、日本のイメージで言うと、普通の市長選(そう大きくない一つの選挙区から一人が選出される)に多くのボランティアが駆け付けて、地元の活動家と一緒に戸別訪問して回り、それ以外の選挙手段も使われるという形だ。補欠選挙で使える費用は、上限が10万ポンド(1400万円)と総選挙の際の約10倍である。

イーストリーでは、主要三政党が上記のような活動をしたのに対し、UKIPは人手の面でもはるかに劣った。これは、有権者が促されなくてもUKIPの方へ向いたということを表しており、既成政党にはかなりの脅威ということができるだろう。

自民党の苦悩(Agonising Lib Dems)

BBCの政治副部長が、ある保守党下院議員が言ったとして次の言葉をツイートした。

「自民党だけだ。セックスの絡まない性的スキャンダルがあり、それをリーダーシップ危機にできるのは」

今回のレナード卿のセクハラ疑惑(レナード卿は強く否定している)で、ニック・クレッグ自民党党首・副首相は「いつ何を知っていたか」で追い詰められた。「何も知らなかった」と党に言わせ、自分が答えるのを引き延ばした挙句、党の発表と異なる声明を発表した。その結果、クレッグは大きく傷つけられた。

警察がレナード卿のセクハラ疑惑に犯罪行為の可能性があるかについて自民党の職員と会った。労働党下院議員が警察にコンタクトした後、自民党スタッフが被害を受けたという女性たちの代表として警察にコンタクトした結果だ。警察がこの疑惑に犯罪行為の要素があるとして本格的な捜査に入るかどうかにはかなり疑問がある。しかし、自民党としてはこのような行動を取らなければならない立場に追い込まれてしまったと言える。

当事者の女性たちは、非常に真剣で、そのうちの一人は、自分たちのこれまでの苦しみを他の若い女性たちに味あわせたくない、とテレビ出演に踏み切ったいきさつを語った。これらの女性たちは、そのために自民党の体質を変えることに傾倒しているようだ。

それは正しいと思う。10人にも及ぶ複数の女性が同じような疑惑を訴えていることを考えれば、元チーフ・エグゼクティブは、同じことを何度も繰り返していたのではないかと想像され、「真の被害者」、つまり、嫌であったにもかかわらず、事に及ぶこととなった人も少なからずいるのではないかと思われる。つまり、セクハラを無くすことは、こういう真の被害者もなくすことにつながり、自民党にとっては極めて大切なことだといえる。

BBCラジオにスーザンという名の自民党地方議会議員が出演し、自分の同様の経験を語った。その中で、この女性は、クレッグはどうしたらよいかわからなかったのではないか、非常に下手に問題を処理したと言ったが、これはかなり実情に近いのではないかと思われる。クレッグは、2005年に下院議員に初めて当選し、2007年12月に党首となった。すぐにレナード卿の問題を報告されたようだが、下院議員として経験の浅かったクレッグにはこの問題はかなり重荷ではなかったかと思われる。そして、この問題が現在まで尾を引いている。

ただし、この一連の過程で明らかになったのは、自民党の古い体質だ。男性優遇の体質が残っている。女性の下院議員の数は、現在56人の下院議員のうちわずか7名。しかも自民党の強い選挙区から出ている下院議員は男性だけで、現在のような低支持率が続くと、次の総選挙では、女性議員が一人もいなくなる可能性がある。クレッグのように下院議員となる前から特別扱いで、自民党の非常に強い選挙区から出馬した男性とは違う。しかも、現在自民党から出している5人の閣僚(クレッグ副首相、ケーブル・ビジネス相、アレキサンダー財務省主席担当官、デイビー・エネルギー相、ムーア・スコットランド相)は全員男性だ。

自民党が、これを契機に、党の体質を変えようとすることが、他の政党にも変わるきっかけを与えることになるだろう。自民党は、古い体質があるとはいえ、それでも保守党や労働党と比べると、かなり純粋な政党である。そのために、今回のスキャンダルが自民党に与えた打撃は大きい。しかし、長い目で見ると、英国の政治の体質を変えるためのきっかけの一つとなるのではないかと思われる。

弱り目クレッグの誤った判断(Weakened Clegg’s Misjudgment)

2月25日の新聞の第一面の多くにニック・クレッグ自民党党首・副首相の顔写真が掲載された。

かつて自民党のチーフ・エグゼクティブだったレナード卿が、在任中に党の女性関係者にセクシャル・ハラスメントをしたという疑いがかかっている件で、前夜、クレッグが自分で声明を発表した。

そこで、それまで党が継続して、「クレッグはそのような疑いは全く知らなかった」と言っていたにもかかわらず、クレッグは「レナード卿の行為に対して、間接的で特定されていない懸念」を知っており、自分の首席補佐官をレナード卿のもとへ送り、「そのような行状は、全く許されないと警告した」と党の発表とは異なったことを発表した。非常に慎重に言葉を選んで書いた声明であったが、それまでの発表とは違うという事実は変わらない。しかもクレッグは声明を読んだ後、メディアからの質問を受け付けなかった。

25日の新聞の第一面の見出しは以下のようだった。

デイリーメイル しかめ面のクレッグの逃げ口上

デイリーミラー クレッグ:私は痴漢卿のことを知っていた。

インデペンデント クレッグ:私は性的苦情を知っていた。

デイリーテレグラフ 明らかになった:ニック・クレッグに対するのっぴきならない新主張

タイムズ クレッグが上院議員についての性的苦情を知っていたと言う。

ガーディアン クレッグが性的苦情について知っていたと認める。

サンは、「衝撃的なUターン」と表現し、それはデイリーメイルも同じで、クレッグが逃げ口上を言うと攻撃した。また、デイリーエキスプレスは、クレッグはその政治家としてのキャリアで最悪の危機に陥ったと言った。

クレッグはこの日、28日の補欠選挙のある選挙区周辺でラジオ局などのインタヴューに応じたが、それ以外のメディアからの質問には答えず、海外へ飛び立った。

クレッグは、この問題への対応を誤ったようだ。2月24日の夜に自ら声明を発表するまで6日間考えに考えた挙句である。

その大きな原因は、クレッグが政治的に非常に弱い立場にあるためのように思われる。自民党はまとまりの強い政党で、現在のように低い支持率であっても、クレッグを党首として引き下ろそうという動きは見られない。しかし、2010年に保守党と連立を組んで以来、世論調査の支持率を大きく落とし、野党への政党補助金を失った上、政治献金額を大幅に減らし、しかも党員の数が大きく減った。2011年、2012年の地方選で大きく地方議員の議席も失った。連立政権に参画する代償の下院の選挙投票制度を変えるAV制度の国民投票は大差で否決され、しかも第二の代償として位置付けていた上院改革は、保守党議員の反対で失敗した。連立政権の政策に自民党カラーを注入していると言っても、それらは必ずしも一般に理解されていない。

そういう中で、さらに自民党への打撃となる事態を避けたかった心情は理解できる。

2008年にレナード卿の、特定されていない不適切な行為の疑惑の話を聞き、当時首席補佐官だったダニー・アレキサンダーにレナード卿に話をさせた、と言われる。このような疑惑の話は、多くの職場にあることで、具体的な苦情がないと具体的な対応が難しいのは恐らく周知の事実だろう。タイムズ紙のインターネットのコメント欄への投稿者も同じ見解だ。

もし、クレッグが、「特定されていない懸念」を聞いただけというのが真実ならば、クレッグは、最初から、自分はその時点で妥当だと信じたことをした、と開き直ることもできたかもしれない。もちろん、被害にあったと訴える女性たちは、具体的な話を政党のトップクラスの政治家に訴えたと主張している。もしその話がクレッグに伝わっていなければ、それはそのトップクラスの政治家たちの責任ということになろうが。いずれにしても、弱くなっているクレッグは、そのようなリスクは取れなかったと思われる。

クレッグは打つ手が限られてきている。もし、自民党の優勢とされる28日の補欠選挙で敗れるようなことがあれば、非常に難しい立場に追いやられるだろう。補欠選挙に勝ち、事態が沈静化したとしてもクレッグがさらに大きく弱体化することは避けられそうにない。

クレッグの声明でさらにわかってきたこと(What Clegg’s Statement Reveals)

2月24日(日曜日)夜、クレッグ自民党党首・副首相は自民党本部で声明を読み上げた。

自民党の元チーフ・エグゼクティブで、上院(貴族院)議員のレナード卿が在任中に女性の党関係者に対してセクシャル・ハラスメントをしていた疑いがあることを、2月21日(木曜日)テレビ局のチャンネル4ニュースが報道した件についてである。

その声明で、クレッグは「レナード卿の行為に対して、間接的で特定されていない懸念が私のオフィスに2008年に届いた。それに対応する行動を取った」と言った。

その「懸念」は、クレッグの首席補佐官であったダニー・アレキサンダー(下院議員で現財務副大臣)がレナード卿に伝え、「そのような行状は、全く許されないと警告した」そうだ。

なお、この声明が出る前、自民党のスポークスマンは、クレッグは「これらの疑いを、まったく知らなかった」と主張していた。

クレッグは質疑応答に応じず、声明を終えた。その後、明らかになったことは、21日(木曜日)に最初に報道したチャンネル4ニュースが19日(火曜日)に、報道の中身をすべて自民党に提供しており、しかも3週間前の日曜日(2月3日)には自民党の幹部にこの件を調べていると知らせていたということだ。つまり、クレッグは、レナード卿のセクシャル・ハラスメント疑惑に答えるまでに少なくとも6日間かけている。

しかも、チャンネル4は、被害者の一人(オックスフォード大学政治学講師)が、2009年当時の自民党プレジデントからレナード卿のセクシャル・ハラスメント疑惑がチーフ・エグゼクティブを辞職した原因の一つであると聞いたと主張している件について、19日(火曜日)以来、クレッグがそれを否定するかどうか問い合わせているが返事がないという。

さらに興味深いことは、クレッグの声明とレナード卿の声明とのつじつまが合っている点だ。

レナード卿の声明

“I am disappointed and angry that anonymous accusations from several years ago are once again being made public in this manner in a clear attempt to damage my reputation.
“Let me reiterate that in 27 years working for the Liberal Democrat party, not a single personal complaint was ever made against me to my knowledge.”

これでは、数年前の匿名の疑惑が再び公になった、特定の人物の苦情は私には一つもなかったとレナードの声明は言う。これは、クレッグの「特定されていない懸念」に対応する。

一方では、クレッグ側は、BBCの政治記者に、この問題は、レナード卿の問題ではなく、クレッグとその指導部への攻撃だと、クレッグは感じていると言わせ、レナード卿から焦点をそらせようとしているようだ。

今後の展開が待たれる。

レナード卿問題での自民党ダメージ軽減戦略(Lib Dem’s Damage Limitation Exercise on Lord Rennard Scandal)

自民党の上院議員(貴族院議員)レナード卿が自民党のチーフ・エグゼクティブ在任当時、女性の党関係者に対してセクシャル・ハラスメントをしたという疑いが出ている。この問題に対して自民党は、どのように対応をしているのだろうか。

疑惑の内容

テレビ局のチャンネル4が、2月21日夕方のニュースでレナード卿の過去のセクシャル・ハラスメント問題の特集番組を組んだ。二人の女性(クレッグ副首相の元スペシャルアドバイザーとオックスフォード大学政治学講師)が実名で出演し、もう一人が匿名で自分たちの経験を語った。実名の二人は党の幹部にそのことを伝えたが、きちんと対応しなかったという。その後、ある報道によると現在までに少なくとも10人の女性が被害を訴えているそうだ。

 レナード卿

クリス・レナード卿(1960年7月8日生まれ)は、12歳から自民党の活動を始め、大学卒業後、自民党のスタッフとなる。選挙に卓越した能力を発揮し、補欠選挙で自民党にいくつもの議席を勝ち取った上、総選挙でも自民党の勢力を大きく増大させた。

1989年に自民党の全国の選挙の責任者となったが、その後は、1992年の総選挙までに3つの補欠選挙に勝ち、1992年総選挙で2議席減らし20議席となったものの、1997年の総選挙までに4つの補欠選挙で議席を増やした。1997年総選挙では、46議席とし、それまでの功績で、レナードは39歳で一代貴族に任ぜられ、上院議員となる。2003年に自民党のチーフ・エグゼクティブとなり、2009年まで務めた。この間、2001年総選挙を経て、2005年総選挙では62議席を獲得し、党勢を伸ばした。

レナード卿は、お金の分配や党の支援をどの候補者に振り向けるかなどに大きな権限を持ち、非常に大きな力を持っていたと言われる。党首より力があったという声もある。

自民党の対応戦略

大きく分けて3つあるように思われる。

①党首のニック・クレッグ副首相をなるべくこの問題から遠ざける。

クレッグは、2007年に党首となったが、レナードがチーフ・エグゼクティブを辞職する2009年までにも、セクシャル・ハラスメントを起こしていた疑いが出ており、クレッグがどこまでそれを知っていたかが、大きなカギとなる。クレッグの直接の部下(次席補佐官)がそれを知っていたと言われ、クレッグがそれを知らなかったはずがないという見方がある。

2009年にレナードはチーフ・エグゼクティブを辞職した。クレッグは、レナードの功績をたたえた。レナードのクレッグの欧州議会議員選挙やその後の総選挙などの助力に感謝し、レナードなしには党首になれなかったと発言している。そのため、クレッグがレナードのセクシャル・ハラスメントを知りながらそれが表ざたになるのを抑えていたのではないかという疑いがある。レナードの辞職は、そのセクシャル・ハラスメントに関係していると見る人がいるが、健康(糖尿病)と家族を理由にしたレナードはそれを否定している。

クレッグは、2月20日からスペインにホリデーに出かけた。クレッグの妻はスペイン人で、これまでにも子供を連れてスペインの妻の実家にはよく行っている。ちょうど学校がハーフタームと呼ばれる1週間の休み期間中だが、2月28日には、重要な補欠選挙がある。自民党の党首選挙で自分と競い合い、連立政権参画後は、エネルギー相となったクリス・ヒューンが議員辞職したための補欠選挙である。この選挙では、自民党が優勢を伝えられるものの、この重要な週末にホリデーに出かけるのは少し不自然である。なお、クレッグは、チャンネル4の放送の36時間前までレナードのセクシャル・ハラスメントの疑いを知らなかったといわれており、それが正しいとすれば、ホリデーに出かける前にこの問題を知っていたこととなる。チャンネル4の放送後、事態がどうなるかを見極める狙いがあった可能性がある。英国では、日曜日の新聞にこういう問題の深い分析や新しい情報が出てくることが多く、それらが出つくした後、今後の対応を検討する方が好ましい。

いずれにしても、クレッグはスペインにいるためにそのもとへマスコミが大挙して押しかけ、コメントを求めるという事態は避けられた。クレッグのコメントはすべて公式スポークスマンを通して慎重に出されるという体制を取っている。24日の日曜紙にクレッグは知っていたという見出しを掲げたものがあるが、これに対しては、「全く知らなかった」とスポークスマン、それに自民党のビジネス大臣のヴィンス・ケーブルを通じて否定している。

クレッグは、自民党のプレジデントであるティム・ファロン下院議員に過去にこのような問題に対いてどのような処理をしたかを含めて手続きに関する調査を進めるよう指示した。自らをこの問題から引き離すとともに、一方ではこの調査委員会にクレッグも証人として出席し、自分の身の潔白をその場で訴える機会とするようだ。

自民党は、大学学費問題でその信用を大きく傷つけたが、この問題は、それよりはるかに深刻な影響を自民党に与える可能性がある。自民党はこれまで女性の権利の擁護・向上を訴え、誰もが公平に扱われることを求めてきたが、その基本原則に関する問題で自分たちがきちんと対応していないことが明らかになってきたからである。レナードのセクシャル・ハラスメントに対する苦情が握りつぶされたり、苦情を訴えたりしたために辞めさされたという話も浮上してきている。それらをクレッグが知っていたということになれば、事態は極めて深刻だ。

なお、現在の自民党のチーフ・エグゼクティブのティム・ゴードンは、「我々は自分たちの政治理念に十分にかなった行動をしなかったようだ。それを残念に思う」と言っている。

②自民党がこの問題を深刻に捉え、素早くこの問題に対応しているという印象を与える。

自民党は、チャンネル4がこの問題を放送した時には、既に最初の調査委員会を持って対応を始めていると主張した。これは、自民党プレジデントのファロン下院議員の委員会のことで、チャンネル4の放送した木曜日に第一回目の会合を持った。そこでは、実際に何が起きたかを調べるとともに、このような問題の苦情処理手続きが妥当だったか検証するようだ。手続きについては、上記のゴードンも別の委員会を設けると言っている。

つまり、この問題は、既に党が上げて取り組んでいるから大丈夫だという印象を与えることを目的としている。この手法は、英国では至る所で使われている。報道機関が問題を取り上げた時には、既に手を打っていると主張するのである。

なお、手続き上の問題を取り上げるのは、もし手続きに問題があれば、それを改め、改善するという意思を示すものであるが、実際には、これは一種の隠れ蓑ともいえるものである。手続きがあろうがなかろうが、悪いと思われることは直ちに対応されるべきで、もし対応されなければ、それはその組織を与る人の責任である。手続きを設け、または改めることが必ずしも問題の解決策とはならない場合が多い。

まずは委員会を設け、問題の深刻さを十分に認識していると主張しながら、世の中の関心が鎮まるまで時間を稼ぐこととなる。

特に今回の問題は、2月28日の補欠選挙へ影響を与える可能性もあり、素早く対応する必要があった。

③レナード卿とのコミュニケーションのラインを維持する。

レナード卿は、疑惑を完全に否定した。しかし、自民党に迷惑をかけないという名目で、自発的に自民党関係の職を一時的に退いた。それでもレナード卿は今でも大きな影響力を自民党に持っている。

一方レナード卿は、自民党の要職を長く務めてきたため、自民党下院議員や関係者の「内輪の秘密」をかなり知っていると思われる。そのような人物との関係を悪くすることは危険だ。

そのため、レナード卿と連携して対応した方が得策と言える。ただし、事態の進展によってはその連携が批判される可能性があるため、これは、非公式なラインとなるだろう。

さらに、事態が沈静化した後のレナード卿のセクシャル・ハラスメントの疑いに対する処分について、それなりの落としどころを予め想定しておく必要がある。自民党が党としてどういう行動を取るにしても、その結果を想定せずに行動することはない。

チャンネル4で報道された疑いは、「被害者の話」であり、その具体的な証拠に欠ける面がある。この形式の話が多く集まっても、疑いは深まるが、決定的な証拠とはならない。そのため、最終的な処分にはかなり大きな裁量の余地がある可能性がある。

そのため、結果は以下のようなことになる可能性がある。

「本人は否定している。決定的な証拠はないが、多くの女性の元党関係者に批判されたレナードは党の重要な役職から身を引く。しかし、上院で自民党所属議員として引き続き活動することを許す」

なお、自民党が、幹部の女性スタッフへのセクシャル・ハラスメントを党として大目に見ていたという批判をなるべく少なくするためには、この問題の責任を取る人を決め、その人の判断が不十分だったということにする可能性があろう。事態を見極めながら、その時々の時点で高度な政治的判断が必要だろう。今後の展開が待たれる。

政治家の悲劇(Chris Huhne’s Tragedy)

前エネルギー・気候変動大臣クリス・ヒューンが、10年前に起こしたスピード違反に関して司法妨害罪を認め、下院議員を辞職した。「信じられない悲劇」と言われる。このような失墜を見るのはどういう立場であろうとも快いものではないが、人間的といえ、人間の業を感じさせる。

原因は、ヒューンが自民党の欧州議会議員だった2003年に始まる。空港から高速道路で自宅へ帰る途中、自動車のスピード違反にひっかかった。制限速度時速50マイル(約80キロ)のところを69マイル(約110キロ)出していたのだという。その通知が届いた時、そのスピード違反を犯したのは、ヒューンの妻だと申し出て、妻が違反点数を受けた。ヒューンはそれまでの違反点数の上に新たに3点の点数を受けると免許停止となるため、それを避けようとしたようだ。その2週間後には、自動車を運転しながら携帯電話で話していたために点数を受け、いずれにしても免許停止となった。

ヒューンは、2005年に自民党の下院議員となり、2006年の党首選挙に出馬して次点で敗れた後、2007年に再び行われた党首選挙では現党首ニック・クレッグと争った。クレッグが優位と見られていたが、蓋を開けると、4万1千余りの投票の中で、差はわずかに511票であった。実は、12月のクリスマスの多忙な時期に郵便投票が紛れ、投票締め切りに間に合わなかった票が1300票あり、その票の結果を勘定に入れるとヒューンが勝っていたと言われる。

http://www.dailyecho.co.uk/news/2175503.mp_huhne_stands_by_lib_dem_leadership_election_results/

2010年に保守党と自民党の連立政権が発足し、ヒューンは閣僚となった。かつてガーディアン紙などの経済部長を務め、格付け会社に移った後、ヒッチの副会長となった人物であり、有能な大臣として知られた。しかし、2003年のスピード違反事件が浮上してきた。ヒューンが自分の元アシスタントと不倫し、妻と別れてこの女性と一緒になることにしたためである。それに怒った元妻が2003年のスピード違反問題を知人に話したことからこれが大きなスキャンダルとなった。

英国では、このようなスピード違反で免許停止や取消しを免れるために、誰か他の人にその違反点数を受けてもらうということがかなりあるようだ。これは英国のスピードカメラでは、通常運転している人が特定できないためだ。例えば、元保守党下院議員のニール・ハミルトンとその妻クリスティーンは、スピード違反した時にどちらが運転していたか覚えていないと主張して裁判でスピード違反を逃れたことがある。現在では、このような場合、自動車の持ち主が運転していたと見做されることになっている。

つまり、ヒューンがしたことは、かなり広範囲に行われているようなことではあるが、もちろんそれが発覚すれば、これは英国では深刻な罪である司法妨害罪となる。

今から振り返ると、もし、ヒューンが2007年の党首選で勝利を収めていれば、このような問題は起きなかったかもしれない。党首としての自分の責任を認識してもう少し行動に慎重になっていたかもしれないからだ。

もちろん英国の政治家にも多くの性に関する問題がある。例えば、ジョン・メージャー元首相の元下院議員の女性との不倫、ブレア政権で副首相を務めたジョン・プレスコットの女性秘書との不倫など枚挙にいとまがない。

ブレア政権下でロビン・クック外相が妻と別れて秘書と一緒になったことがあるが、英国では、こういう問題は個人の問題として対応され、そういう問題を起こしたからといって、大臣が辞職を迫られることはない。しかし、党首となると、元自民党のパディ・アッシュダウン党首がその秘書と不倫していたことが明らかになって、その対応に苦しんだことがあるが、少し意味が異なってくると思われる。

ヒューンには実刑が言い渡されると見られている。かつて司法妨害罪でジョナサン・エイトケン元下院議員が18か月の刑期を与えられ、服役したことがある。

この事件は、ウェストミンスターに大きなショックを与えたが、政治は既に先に向かって動き出している。ヒューンの選挙区イーストレイで補欠選挙があるからだ。この選挙区では自民党と保守党が激しく競い合っており、連立政権を組む自民党と保守党がかなりすさまじい戦いを繰り広げると見られている。

党大会シーズンを終えて(How the Party Conferences Went?)

 

キャメロン首相の保守党大会のスピーチは聞かせるものだった。前日のロンドン市長・ボリス・ジョンソンの演説とは趣を変え、大向こうに受けるようなレトリックを避け、着実に自分の来歴と、自分の目指すもの、これまでの実績、そしてこれから予想される困難な障害を労働党との違いを浮き立たせるように語った。一種の緊張感を最後まで保ち、非常に完成度の高いスピーチだった。さすがという印象があった。あるBBCのジャーナリストは、首相らしい演説だったと評した。

ただし、聞き終わった後、いったい何を話したのだろうかと振り返ってみると、キャメロンのジョークと父親の話、亡くなった長男の話、そして、自分の育った恵まれた境遇を社会に広く広げたいという話であった。キャメロンのジョークは、労働党をダシにしている。労働党は政権担当中も、野党になっても、お金を借りることばかり考えている。One Nation ならぬOne Notionだと揶揄したものだ。これは、保守党大会だからジョークになる。

キャメロンのスピーチは聞かせるものではあったが、話の中で使った統計には疑わしいものがあった。もちろんどこかにそのような統計はあるのであろうが、政治的なスピーチでは、時に統計を非常に巧妙に使っている場合があるので留意しておく必要がある。

それよりも、BBCの政治副部長が、キャメロンは保守党の党首となってから7年もたつのに、自分をあらためて今さら定義しなければならないのは、尋常ではないとコメントした。一方、政治部長は、これまでの批判に対する反論を一つ一つ上げた、防衛的な演説だと評した。

キャメロン首相は、競争のますます厳しくなる国際環境の中で、英国が生き残っていくためには、国の財政を立て直し、福祉制度を見直し、教育を向上させ、公平な社会とし、誰もがよくなろう、よくしようという向上心を持つ国が大切だと訴えた。

これはよくわかる話で、多くの人がそれに賛成するだろうが、向上心や、一生懸命働くなどと言っても、このような「スローガン」は、残念ながらすぐに忘れ去られてしまうように思われる。このスピーチは保守党大会参加者にはかなりの満足感を与えたようだが、一般の有権者の判断はどうだろうか。

今年の党大会シーズンのハイライトは、ミリバンド労働党党首のスピーチだろう。10月14日のサンデータイムズのYouGov世論調査では、この党大会シーズンで最も成功したのは誰かという問いに対して、キャメロンとした人が22%、自民党のクレッグとした人が3%だったのに対して、32%がミリバンドと答えた。それまであった、ミリバンドは党首そして将来の首相としてふさわしくないのではないかという大方の見方を変えたものだったからだ。そのスピーチでOne Nation Labourを打ち出したが、これは、保守党のこれまでのOne Nation Toryを変えたものである。One Nation Toryとは「金持ち・特権階級」と「貧しい労働者階級」がかい離した国ではなく、全体で一つにまとまった国にしようとする考え方である。かつてこれを打ち出したのは、かつて保守党首相を務めたベンジャミン・ディズレーリであった。ディズレーリはもともとポルトガルから移ってきたユダヤ人移民の子孫で、ミリバンドは英国に移ってきたポーランド系のユダヤ人の子供である。ディズレーリとミリバンドはこの点で共通点があるといえるだろう。

ミリバンドンの演説は、かなりリラックスしたもので、65分の演説をすべて覚えておいて話したものだった。政策的な内容はほとんどなかったが、政策の方向性を示すもので、これには多くが驚いた。One Nation Toryの上から下を見下ろした発想ではなく、つまり、金持ちにより多くのお金を稼がせながら課税し、それを下に振りまくという発想ではなく、国全体をOne Nationに合致するように変えていくという発想である。ミリバンドは、この演説に相当な自信があったように思われる。それが演説に現れていた。その結果、政治を報道するジャーナリストのかなりの敬意を勝ち取った。これは大きな成果と言えるだろう。今後ミリバンドのことを書く際の視点が異なってくるからだ。これとOne Nation Labourのスローガンは今後長く残るように思われる。

なお、ミリバンドは、今の時点で、詳細な政策を出す必要はない。選挙はまだ2年半先のことで、経済状況はまだまだ変わる。その上、一般に英国では、選挙は「政権政党が失う」ものだと考えられている。経済状況が悪く、保守党には左右の対立があり、政策のUターンやミスが続いている。しかも保守党は、英国のEUからの脱退を求める英国独立党UKIPに大きく票を失う状況だ。自民党の支持率は低いままで、前回の総選挙で、自民党に票を投じた人の多くが労働党に投票する構えである。そういう中、ミリバンド労働党はまったく焦る必要はない。

次に自民党のクレッグを見てみよう。クレッグのスピーチは率直でしっかりしたものだったと評価される。自民党は連立政権の中で重要な役割を果たしているとし、クレッグについてきてほしいと訴えた。クレッグのスピーチで、キャメロン首相らとの間で政権の基本的な財政経済政策については変えないという合意ができていることが明らかであったが、その後のオズボーン財相のスピーチで、具体的な税制などではまだ合意ができていないことが明らかになった。

自民党の中にはクレッグ党首を今の時点で入れ替えようという考えはあまり大きくない。しかし、代替党首の筆頭候補とされるケーブル・ビジネス相のスピーチを聞きに集まった人の方が、クレッグより多かったと言う話を聞くにつけ、クレッグの命運はいずれにしても大きく変わらないと思われる。ただし、今現在党首を交代させるのは時期的に早すぎるだろう。自民党も保守党も今の時点での選挙は避けたいと考えており、次期総選挙は任期満了の2015年5月の見込みである。クレッグもスピーチで述べたように、これからさらに厳しい財政削減に取り組まねばならない状況だからだ。つまり、党首を今変えても、クレッグのように大きく人気を失う可能性がある。

一方、クレッグがどのような将来的な構想を描いているとしても、その時がくれば、かつてメンジー・キャンベルが党首から引きずり落とされたように事態は急に進む可能性がある。

いずれにしても、経済が停滞しており、しかも財政再建も停滞している中で、財政緊縮策を取る政権を担当している政党には厳しい状況だ。その中で、野党の労働党は有利な立場であったと言える。

自民党を苦しめる政治資金(Lib Dem Party funding)

英国の政治資金は、アメリカや日本などと比べてもはるかに地味である。8月2日に選挙委員会(The Electoral Commission)が発表した、政党の昨年2011年の収入、支出報告によると保守党が2366万ポンド(29億円余)、労働党が3133万ポンド(39億円弱)、それに自民党が620万ポンド(8億円弱)である。

英国のマスコミは、保守党の収入が前年より45%減ったと指摘している。また、労働党も減ったが、2010年の選挙の結果が、いずれの政党も過半数を占めることのないいわゆる「ハング・パーリアメント」に終わった翌年の実績としては、特にそう目くじらを立てる問題でもないように思われる。

保守党は、選挙がある前には、きちんと選挙ができるだけのお金を集めるだろうし、また、労働党は、労働組合が支援しているだけに、2010年総選挙では、かなり倹約せざるを得なかったが、いずれの政党も特にお金の面で困窮することはないと思われる。

問題は、自民党である。もともと献金が少ない。保守党と連立政権を組んだが、政権に就いたといっても、急に資金源ができるわけではない。むしろ、野党に渡される主要な公的資金を失った。政党に対する公的扶助は4つある。下院のショートマネー(Short Money)、上院のクランボーンマネー(Cranborne Money)、スコットランド議会の補助金、それに選挙委員会が扱う、選挙マニフェストづくりに使われる政策発展補助金(Policy Development Grants)である。

このうち、自民党はスコットランド議会では、野党のため、受けられる。また、政策発展補助金は受けられるが、それ以外のものは受けられない。2010年5月の総選挙前の2009-10年度にはショートマネーは、175万ポンド(2億2千万円)に上ったが、これが、連立政権参加後に失われた。

その上、2011年、2012年5月の地方選挙で多くの地方議席を失った影響もある。自民党の地方議員は、通常、議員報酬の1割を党に献金しているが、地方議員の数が急速に減っている中、この面からの収入も減った。しかも、党員の数が、2011年には、6万5千人から4万9千人へと4分の1減少した。

8月20日に選挙委員会の発表した2012年第二四半期の政党献金では、献金72万ポンドのうち、これまで何度も献金している企業家のRumi Vergeeから25万ポンド(3100万円)、それに自民党の上院議員から10万ポンド(1200万円)の献金があった。しかし、自民党が財政的に苦しんでいるのは明らかであり、その財政問題が、連立政権の行方に影響を及ぼす可能性がある。

クレッグの判断(Clegg’s judgment)

政治家が弱く見えることは致命傷になり得る。保守党が上院改革をしないのなら下院の新区割り案に賛成しないというニック・クレッグ副首相の判断は正しいと思われる。もしそうでなければ、クレッグと自民党が非常に弱く見えるからだ。有権者は上院改革にあまり関心がないが、それでもこの判断でクレッグへの評価が上がる可能性がある。

自民党とキャメロン首相が率いる保守党が連立政権を組む際にまとめた連立合意の中で、選挙制度についての幾つかの約束をした。この中の一番大きな柱は、現在の下院の制度である、いわゆる小選挙区制度、つまり一つの選挙区から最も得票の多い候補者を一人だけ選ぶ制度から、AV(Alternative Vote)と呼ばれる制度に修正する国民投票を行うことであった。AVとは、当選者は基本的に、投票した有権者の半分以上の支持を受けるようにする制度である。これは、これまで下院への比例代表制の導入を求めてきた自民党が、保守党と連立政権を構成するうえで最低限の条件としたもので、自民党に有利になると思われた制度である。一方、もしこの制度が導入されると不利になると思われた保守党は、マニフェストでも打ち出していた、議員定数を減らし、有権者の数を均等にする選挙区区割り見直しを要求し、その結果、この二つの制度を組み合わせることで妥協した。つまり、AVの導入で保守党が失うと思われた議席を区割りの見直しで回復させるということである。この妥協は、これらの二つを合わせた「2011年議会選挙制度並びに選挙区法」でも明らかであった。

ただし、連立合意には、さらに上院改革も含まれていた。主要三党の中では、自民党が上院を公選とする改革に最も熱心であった。

2011年5月に行われたAV制度の国民投票では、保守党が中心となった、AV反対のグループが強力な運動を展開し、労働党はどちらつかずの態度を取ったことから、賛成票は3分の1にとどまり、否決された。その後、新たな選挙区区割りを導入すれば、失う議席の割合で最も大きなダメージを受けるのは当初予想された労働党ではなく、自民党であることがわかった。

自民党は、こういう状況の中で、もし、長年の課題であった上院改革がなしとげられるのなら新選挙区割りも容認する立場をとっていたが、保守党の中の上院改革へ反対する勢力が大きく、上院改革が不可能となり、その結果、新選挙区割りを認めない立場をとることとした。「2011年議会選挙制度並びに選挙区法」が成立した後、区割り委員会が手続きを進めているが、区割り委員会の提出する区割り案を議会で採択する必要がある。つまり、自民党は、その区割り案に賛成しない、ということである。

キャメロン首相は、保守党党首として大きな計算間違いをしていたと言わざるを得ない。もし、AVの国民投票が可決されていれば、上院の改革の成否にかかわらず、自民党は新区割り案に賛成していた可能性が強い。しかし、AVも上院改革も成し遂げられないまま連立政権を継続し続けていれば、自民党は本当に弱く見える。自民党がこの問題を抱えていることに十分配慮することを怠ったキャメロン首相は、今や厳しい立場に立っていると言えるだろう。