外国人刑務囚の国外退去に手こずるイギリス

8年前の2006年のこと、刑務所を出所した外国人1千人余りが国外退去措置を検討されることなく、そのままイギリスに滞在することが許されていることが明らかになった。しかもその中には殺人などの重大な罪を犯した人たちが含まれていたのである。非常に大きなニュースとなった。 

それが、このたび会計検査院(NAO)の報告で、改善されていないことがわかった。

外国人刑務囚は現在1700人ほどで、刑務囚全体の13%とかなり多い。外国人刑務囚の対応に昨年85千万ポンド1462億円:£1172円)かかっている。昨年には5千人余りが本国に送られたが、2009年以降イギリス国内に残っている外国人の元刑務囚は4200人ほどで、その6分の1760人は行方が不明であり、そのうち58人は社会に危険な罪を犯した人たちだという。

政府の対応が不十分な原因は以下の2つに集約される。 

  1.  政府の能力の欠如。これは決して新しい問題ではないが、特に以下のような問題が指摘されている。
  • 内務省、法務省、外務省の連携の不足
  • 実務担当者のミス
  • 警察らの既存データのチェックの欠如
  • 消極的な国際的データアクセス 

    2.   欧州人権法などの法制の問題個人の人権が手厚く保護されており、イギリス内の家族、例えば子供がイギリスで生まれたなどの理由で在留を許される例もかなりある。もし在留を否定されても、不服申し立て、再不服申し立てなどでかなり時間が経過し、さらに家族がイギリスに根をおろす機会を与える例もある。政府は、不服申し立ての理由を制限するなどの対応をしているが、不服申し立ての数は増えている。

基本的には服役中に、または刑期が終了すれば、すぐに国外退去をさせるべきだが、それがスムーズに行っていない。在留を拒否されれば、不服申し立てはそれぞれの本国からするようにすべきであるが、伝統的に人権が重視されすぎてきた傾向がある。 

いずれにしても総選挙が半年後に行われる時期となってこのような問題が表面化したことは、キャメロン首相にとって痛手である。

保守党の次の党首

ロンドン市長のボリス・ジョンソンが来年の総選挙に立候補したい意思を表明した。ジョンソンは、労働党の強いロンドンで2008年には現職のケン・リビングストン、そして2012年にもリビングストンを2続けて破った、人気のある保守党政治家である。私立有名校のイートンそしてオックスフォード大学で古典を学んだ人物であるが、誰ともでも気さくに話し、当意即妙のユーモアのある話で人を惹きつける人物である。

保守党の党大会では、人気のあるジョンソンの話にジャーナリストが引っ張られることを防ぐために、キャメロン首相とオズボーン財相とは異なる日に時間を限ってジョンソンを登場させるほどで、その「集客力」には大きなものがある。

ジョンソンは2012年の市長選で、2016年までの市長任期を全うし、他の選挙には出ないと約束していた。そのため、この時点での立候補にはもちろん批判があるだろう。しかし、多くは、ジョンソンの立候補を半ば予測していた。ジョンソンには、保守党党首、そして首相となる野心があり、次期党首選に備えるのではないかと見ていたからだ。 

ジョンソンはこれまで多くの問題を起こしてきた。女性問題を否定したが、それが本当であることがわかり、保守党のマイケル・ハワード党首から影の内閣のポストを首になったこともある。これまでの多くの不行跡をBBCの番組で詰問されてその政治生命が危ういと思われたこともあるが、ジョンソンはこれらを乗り越えてきた。それを考えると、この「小さな約束違反」がスキャンダルに打たれ強いジョンソンの政治家としての命運に影響するとは考えにくい。

なお、前市長のリビングストンは、労働党の下院議員時代の2000年に市長に当選したが、2001年の総選挙まで下院議員とロンドン市長の二つを兼職した。ジョンソンは、過去に2期下院議員を務めたことがある。来年下院議員に復帰すれば、1年間二つの職を兼職することになる。キャメロン首相は次期総選挙で保守党の得票を高めるためにジョンソンの下院議員復帰を求めたいきさつがあるだけに、保守党が次期総選挙で勝っても、ジョンソンの兼職には協力するだろう。

ただし、多くの人の焦点は、来年の総選挙で保守党が敗れたときのことである。その際にはキャメロンが党首を退き、新党首が選出されることとなる可能性が強い。ジョンソンが下院議員となっていれば、党首選に出馬できるが、下院議員でなければ、そのチャンスを逃しかねない。それでも、もしジョンソンが党首となれば、その時にはロンドン市長を継続することは難しいだろうと思われる。

なお、イギリス名物といってもよい賭け屋の賭け率を見ておこう。大手のウィリアム・ヒルの次期保守党党首の賭け率は以下のとおりで、ジョンソンがリードしている。

ボリス・ジョンソン(ロンドン市長) 5-2
テリーザ・メイ(内相) 4-1
ジョージ・オズボーン(財相) 10-1
マイケル・ゴブ(院内幹事長) 12-1

スコットランドのウォーキング:ヘルムズデールからインバネス

ブリテン島を縦断するジョノグローツからランズエンドまでのウォーキングを妻と暇を見つけて少しずつ行っている。今回はその2回目。前回は、ジョノグローツからヘルムズデールまでだった。

かつてスコットランドに6年近く住んでいた。その間にスコットランドの各地を訪れたが、それでもスコットランドに行くたびに何か新しい発見がある。今回もそうだった。9月のスコットランド独立の住民投票が頭にあったこともあろう。

歩き始めて数日たったとき、野鳥のさえずりの新鮮さ、自然の素晴らしさにはっとした。スコットランドの気候は変わりやすい。それでもスコットランドには素晴らしい自然がある。スコットランドの独立運動の賛否を、経済的な観点から議論することが多いが、それだけでは語りつくせない点があるように思った。

日程概略

522日 午後11時50分発の夜行列車でロンドン出発
523日 エディンバラからインバネス、そしてヘルムズデール着
524日 ヘルムズデールからブローラ
525日 ブローラからゴルズピー
526日 ゴルスピーからドーノッホ
527日 ドーノッホからテイン
528日 テインからオルネス
529日 オルネスからマンロヒー
530日 マンロヒーからインバネス
531日 ロンドンへ


5月23日
エディンバラ午前722分着。早朝のエディンバラScotland Walking 016
かつて1年ほど住んでいたことがあるが、エディンバラは変わった。ロンドンからインバネスを経て今回の出発地点ヘルムズデールまで17時間かかった。

ヘルムズデールの朝
20140524_084935
道路橋の上から見たのどかな村。宿のB&Bでは電気毛布の使い方を教えられた。

丘からヘルムズデールを振り返る
20140524_085946

放し飼いの羊
20140524_093314

ブローラで泊まったB&B
20140524_142323
このB&Bはシーズンしか開いていないようだ。到着後、自家製のスコーンとジャム、それにコーヒーメーカーに入ったテイラーのコーヒー(もしくは紅茶)をすすめられる。朝食のスコティッシュ・ブレックファストのソーダスコーンは絶品。

ブローラからゴルスピーに向かう
20140525_102451
海岸沿いを歩く。少し寒く、雨が降っていた。期待したアザラシや稀な鳥は見られなかった。

ラベンダーの咲く林
20140525_123454

霞のかかったロイヤル・ドーノッホ・ゴルフ場
20140526_132913
海を見下ろすゴルフ場は世界有数のものだそうだ。小さな町だが立派なホテルがあり、大きな家が次々に建てられている。

実際に使われている道端の郵便ポスト
20140527_093756
前夜強い雨が降ったが、朝には上がった。鳥のさえずりに耳を傾ける。

テインで泊まったB&Bの手入れの行き届いた花壇
20140528_081635
庭の手入れの行き届いている家が多い。

ケゾック橋から見たインバネスのネス川河口
20140530_123432

インバネスは、周辺地域を含めた中心地であり、人口が6万余りとは思えない。なお、インバネスで最も評判の高いレストラン、Rocpoolは、ロンドンの多くのレストランに勝るとも劣らないと感じた。

 

サッカー選手ジョーイ・バー トン

BBCの人気テレビ政治番組「クエスチョン・タイム」は 政治家、ジャーナリスト、コメンテーター、コメディアン (一流大学出が多い)、有名人などを招き、聴衆からの時事問題の質問に答える番組である。

この番組にサッカー選手のジョーイ・バートン が 5 人のパネリストの一人として招かれた。

バートンは、1982 年 9 月 2 日生まれの 31 歳。プレミ アリーグに復活昇格したクイーンズ・パーク・レン ジャーズ(QPR)のミッドフィルダーである。

バートンはこれまで数々の物議をかもしてきた。暴力 事件で 2 度有罪判決を受け、刑務所で服役したこと もある。規律の問題もあり、クラブやイングランドサッ カー協会(FA)から何度も懲戒処分を受けている。

特に印象深いのは 2011-2012 年シーズンの最終日 に QPR がプレミアリーグ生き残りをかけて、リーグ 優勝を狙うマンチェスター・シティと対戦した時のことだ。バートンはテベスに対するひじ打ちでレッドカード を受けたが、その後、アグエロを後ろから蹴り、コン パニに頭突きをしようとした。信じられない光景だった。その結果、12 ゲームの出場禁止処分を受ける。

カッと反応して事件を起こす傾向のある、驚くべき過 去を持つ選手であるが、そのツイッターは有名。政治、社会問題から哲学上の問題まで多様な話 題にコメントし、現在は 250 万を超えるフォロワーを 持つ。

それに注目したのだろう、BBC がバートンを招き、 サッカー選手の「哲学者王」と紹介された。サッカー の選手でこの番組に登場したのは、2 人目だそうだ。 UKIP に関するコメントがメディアで大きく取り上げら れたが、これからも何度も登場しそうである。

将来サッカーのコーチとなろうとしており、欧州サッ カー連盟(UEFA)の A コーチングライセンスを今夏終了する。昨年 9 月からローハンプトン大学で哲学 を学び始めているほか、慈善事業にも関係している。

「問題児」だが憎めない人物バートンの今後が注目 される。

イギリスのウォーキング

ウォーキングはイギリスで人気がある。ただし、イギリスでは、山歩きに近い。ほとんどの場合、山や丘、谷などを歩いてゆき、かなり湿ったところや足元の悪いところを通っていくので、きちんとした登山靴(ブーツ)をはいていく。これは防水とくるぶしを守る意味がある。

イングランドでは最も高い山でも1,000メートルもない。イギリスでもっとも高い山はスコットランドのベン・ネビスで1,344メートルである。つまり、イギリスはかなり平たい国であると言える。イングランドのウォーキングの途中、丘の上からなだらかに波打ったような地形を見ると、それがはっきりとわかる。

それでも、イギリスは縦長の形をしており、南と北では気候も植生もかなり違う。南から北へ自動車で向かうと、道路沿いの木の形が変わっていく。温暖な気候から冷帯ともいえる気候へと変わってくるに従い、植生も変わってくる。そのため、それぞれの地域のウォーキングには、それぞれの特徴がある。 

ウォーキングのルートには公式、非公式のものがあるが、筆者は、妻と一緒にその幾つかを歩いた。特に印象深いのは、イングランド北部を横断するコースト・トゥ・コーストと呼ばれるルートである。もう一つは、スコットランドの西のローモンド湖を通り過ぎて歩くウェスト・ハイランド・ウェイと呼ばれるものである。

コースト・トゥ・コースト(Coast To Coast

概要:アイリッシュ海に面したセント・ビーズから北海に面したロビン・フッド・ベイまでのルートである。セント・ビーズの海岸でブーツの先を海につけ、ロビン・フッド・ベイで再び海につけると海岸(コースト)から海岸まで歩いたということになる。アルフレッド・ウェインライト(故人)が始めた非公式のコースであまり道標がないが、人気がある。かつてBBCがウェインライトとこのコースをシリーズで紹介してから有名になった。湖水地方からヨークシャー・デールを通り、北ヨーク・ムーアズの3つの国立公園を通るコースで、東西で異なる植生も楽しめる。

距離:309キロ

参照ウェブサイト:http://www.wainwright.org.uk/coasttocoast.htmlhttp://en.wikipedia.org/wiki/Coast_to_Coast_Walk                                                                         

ウェスト・ハイランド・ウェイ(West Highland Way

概要:グラスゴーのミルガイからフォート・ウィリアムに向かうスコットランドを縦に歩くコース。地方自治体が共同で管理している。

距離:155キロ

参照ウェブサイト:http://www.west-highland-way.co.uk/home.asp 

さて筆者と妻は、イギリスを縦断するウォーキングを始めた。これは、一般に「ランズ・エンド」・トゥ・「ジョン・オグローツ」もしくは「端から端 (End to End)」と呼ばれるが、私たちは逆のスコットランドのジョン・オグローツ(一般にはジョノグローツと発音される)から始めることとした。少しずつ区切って時間を見つけて歩いていくこととなる。

ジョン・オグローツからランズ・エンド(一般には‘Land’s End to John o’ Groats’)

概要:イギリスの本島であるグレート・ブリテン島の北の端、スコットランドのジョン・オグローツから南西の端、コーンウォールのランズ・エンドまでを縦断するルート。

距離:道路で1,407キロ、徒歩で1,900キロと言われる。

参照ウェブサイト:http://en.wikipedia.org/wiki/John_o%27Groats_to_Land%27s_Endhttp://www.ldwa.org.uk/ldp/members/show_path.php?path_name=Land%27s+End+to+John+O%27Groats 

私たちは2年ほど前に、ジョン・オグローツからスコットランドの内陸部を通り、ヘルムズデールというところまで歩いた。フォーシナードの湿原を通り過ぎたが、ここは野生の鳥などで有名なところである。今回はヘルムズデールからはじめ、インバネス周辺まで歩く予定である。

女性教師を「ミス」と呼ぶのは差別?

筆者の妻はかつて刑務所で働いていたことがある。ロンドンの中心街に二人で出かけたとき、「ミス、ミス」と言う声が聞こえた。あたりを見回すと若い黒人の男が妻の方を向いて声をかけている。知らない人だった。すると妻が「元気?」と言った。そして二言三言話をした。

後で筆者が「知っている人?」と聞くと「刑務囚だった人よ」と言う。筆者はそのとき初めて刑務所では、刑務囚が女性スタッフを「ミス」と呼んでいると知った。 

小学校や中等学校でも女性は「ミス(Miss)」と呼ばれる。しかし、この「ミス」という呼び方は女性を蔑視している、男性の呼び方「サー(Sir)」とともに禁止すべきだという意見が出てきている。「ミス」や「サー」と呼ぶ代わりに児童生徒は教師をそれぞれのファーストネーム(姓名の名)で呼ぶべきだという。

「ミス」という呼び方は、かつて独身の女性が家庭教師や教師をしていたころの名残だそうだ。つまり、結婚するとその仕事をやめさせるような社会的圧力があったという。20世紀半ばに既婚女性が教職に復帰することが社会的に認められるようになったと言われるが、「ミス」という呼び方は残った。男性が常に「サー」と呼ばれるのと比べると女性が老若既婚未婚を問わず、「ミス」と呼ばれるのはおかしいというのである。

確かに既婚女性を「ミス」と呼ぶのは少しおかしいような気がする。また、「サー」は「ナイト(Knight、騎士・爵位)」の意味があり、「ミス」と「サー」とでは大きな差があるように聞こえる。しかし、ファーストネームを呼ぶようにするというのも少し行き過ぎのような気がする。ある女性教師はファーストネームで呼ばれることに反対する

ポリティカル・コレクトネス(PC)の観点も無視できないが、ちょうどよい新しい呼び方を探すのもそう簡単ではない。Mr XMrs Yという呼び方を使おうとすると、博士号を持つDr XProf Yはそういい気持ちがしないかもしれない (この「ミス」の議論は、教授がある中等学校に行って「ミス」と呼ばれて差別だと思ったことから端を発している)。またMiss X とMs Yをどう扱うか、また、結婚前と結婚後、配偶者の姓を名乗る場合ともともとの自分の姓を名乗る場合、結婚していないがパートナーがいる場合など様々なケースがある。姓がわからない場合にどう呼ぶかという問題もある。

日本のように男女を問わず「先生」と呼びかけられるのがよいように思われる。

英国のジャーナリスト魂

BBCで非常に厳しいインタビューをすることで有名なジェレミー・パックスマンが、その舞台となったBBC2テレビのニュースナイトという番組を降りることとなった。この番組は午後10時半ごろから始まるが、普通の人と同じように早くベッドに行きたいからだと言う。パックスマンはBBCのスタージャーナリストで、年俸80万ポンド(13600万円:£1170円)とも言われる。

パックスマンの有名なインタビューには、1997年に、内務大臣だったマイケル・ハワードに同じ質問を12回したというものがある。当時刑務所は内務省の管轄下だったが(現在は法務省)、刑務所から囚人が逃亡したことに対して、刑務所サービス長官にその意思に反して刑務所長をその地位から除くよう圧力をかけたかどうかという問題である。内務大臣にはその権限がないのに職分を超えて行動したのではないかという疑いがあった。

筆者はこのインタビューをちょうど見ていたが、その執拗な質問に驚いた。後にパックスマンは次に予定されていたものの準備が遅れており、他に何を聞いたらよいか思い浮かばなかったので何度も同じことを聞いたと漏らしたと伝えられるが、そのようなことが許されるのかと改めて驚いたことがある。

パックスマンには、米国の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーがその質問に怒って席を立ったとされる事件もある。特にパックスマンが、米国がベトナム戦争を終結させるため1973年パリ協定を結んだ功績のためにキッシンジャーがノーベル平和賞を受賞したのを「詐欺のように感じたか?」と質問したことである。このような質問に慣れていない米国の政治家には厳しすぎたのではないかとみられた。 

英国のジャーナリストは国民の代わりになって聞きにくいことを聞くという職業魂があるようだ。BBCでは朝の人気ラジオ番組Todayのジョン・ハンフリーも厳しい質問をすることで有名だ。それ以外のジャーナリストも朝からそこまで突っ込むかという場面もある。女性ジャーナリストも例外ではない。

同じくBBCのエディ・メイヤーがロンドン市長ボリス・ジョンソンにインタビューしたときには、ジョンソンの将来の首相となる夢が消えたと多くの人が思ったほどだった。ジョンソンが若いころ、人の言葉をでっち上げて書いたことでタイムズ紙を解雇されたことや、保守党の下院議員時代に党首のマイケル・ハワードに自分の情事の噂を否定したがそれが本当だとわかり、影の内閣のポストを解任されたことなどを取り上げ、きちんと答えられないジョンソンに「あなたは卑劣な人じゃないですか」と言った。普通の政治家なら将来の首相になるなどという野心は消えるところであるがジョンソンは生き延び、いまなお、キャメロン後の保守党党首の最右翼候補である。 

BBCの政治部長ニック・ロビンソンの英国独立党(UKIP)のファラージュ党首に食い下がったインタビューもなかなかのものであった。外国人、特にEUからの移民が英国人の仕事を奪っているとファラージュが主張していることに対し、ドイツ人の妻を自分の秘書に雇っていることを質したものである。

また、ロビンソンのキャメロン首相へのインタビューでは、キャメロン首相がイギリスをEUの中に留めたいと考えているのに、EUに留まるかどうかを決める国民投票を2017年末までに行うと約束したことに対して、EUに不満を持つ有権者を「買収」しているのではないかと突っ込んだ質問をした。そして1年後の総選挙の結果、首相官邸を出ることになるかもしれないですねと言うと、普段は非常にスムースに答えるキャメロン首相が言葉に詰まり、非常に深刻な顔をして、それがデモクラシーだ、苦痛だがたいへんいいことだと答えた。

良しにつけ悪しきにつけ、このようなジャーナリスト魂が英国のジャーナリズムにある。

必死の自民党(Threatened Lib Dems)

2014年5月の欧州議会議員選挙まで3ヶ月足らずとなった。この選挙では英国に割り当てられた73議席が12地区ごとの比例代表制で選出される。自民党には現在12人の欧州議会議員がいるが、この選挙で自民党の欧州議会議員がいなくなる可能性がある。2010年5月の総選挙後、保守党との連立政権に参加して以来、自民党の支持率が大きく下がったためだ。

実際、自民党の支持の凋落振りには驚くべきものがある。例えば、2014年2月5日から27日の間に1万4千人を対象に行ったPopulus/FTの世論調査である。自民党に2010年総選挙時に投票した人は、統計処理後の数値が2577人(生データ2622人)であったのに対し、現在総選挙があれば自民党に投票するという人は統計処理後987人(生データ899人)しかいない。つまり支持が60%も減少している。英国の有権者は総選挙では欧州議会議員選挙と異なった投票をするが、それでも自民党への支持は大きく減っているといえる。

もし自民党が欧州議会議員選挙で惨敗するようなこととなれば、1年後の2015年5月の総選挙に与える影響は甚大なものがあるだろう。

その中、自民党党首のクレッグ副首相は、その欧州議会議員選挙で大きく議席を伸ばすであろうと見られている英国独立党(UKIP)に党首討論を申し出た。UKIPは英国のEUからの脱退を提唱している政党であるが、自民党は主要政党の中で最も親EUだと考えられている。

この挑戦をUKIPのファラージュ党首が受け入れ、テレビでもBBC2が4月2日(水)午後7時から1時間の放送枠を取って放送することになった。保守党と労働党は参加しない。2010年総選挙時の党首テレビ討論に参加して失敗したと考えられている保守党はテレビ討論への参加には慎重だ。キャメロン首相が参加するとUKIPとの対決で大きな注目を浴び、UKIPを有利にするだけであり、逆効果だと考えていると思われる。

自民党は、この討論を通じて有権者に自民党の存在を改めて認識させることを狙っていると思われる。2010年の総選挙で初めて行われた主要3党首のテレビ討論でクレッグ人気が高まったことの再来を狙っているのは間違いないが、ファラージュUKIP党首は手ごわい相手だ。既に始まったつばぜり合いではファラージュ党首の方が上手を行っている。

3月5日の朝のBBC4ラジオ番組Todayに出演したファラージュ党首は欧州議会議員であるが、クレッグの指摘したいくつかの点に効果的に反論した。

  • 2009年以来欧州議会で議案の修正案を出したことがないという点には、自分は議会内のグループの議長で、自分のグループから多くの修正案が出ている。
  • ファラージュは、欧州議会の議事に貢献していないという点には、自分は、欧州議会から8時間離れたところに住んでおり、英国で全国政党を率いているが、議会の採決には55%出席している。ところが、ロンドンに住んでいるクレッグは、採決にわずか22%しか出席していない。

2010年総選挙の党首討論で一躍脚光を浴びたクレッグだが、自民党のマニフェストに10年以上の英国不法滞在者に合法的に滞在する権利を与えることが入っていることが広く知られるやいなや、クレッグに罵声を浴びせる人たちがでてきたことを思い出す必要があるだろう。英国民は移民の問題に敏感だ。

自民党は連立を組む保守党との違いを強調するなど、その存在意義を訴えるのに懸命だ。それらの努力がどの程度効果があるか注目される。

公共放送の社会的役割(Neutral Public Service Broadcasting)

テレビ局は、政治的な立場をはっきりさせる傾向のある新聞とは異なり、不偏不党でなければならない。例えば、2010年総選挙前に労働党のブラウン首相(当時)がITVのテレビ番組に出演した時には、保守党のキャメロンも同じ番組に異なる日に出演するよう要請を受けた。結局、キャメロンは、ITVの特別番組に出演した。さらにITVは自民党のクレッグの特別番組も作って放送した。つまり、選挙期間中に3党首のテレビ討論が控えている中、ITVはこの三者すべてに均等の機会を与えようとしたのである。

BBCは日本のNHKと同様、視聴料収入で運営されており、その編集方針の独立を必死で守ろうとしている。その結果、BBCは保守党からも労働党からも嫌われている。BBCの国防担当記者が、ブレア政権がイラク戦争の大義名分を作るために政府のインテリジェンス(諜報)文書を大げさに書いたと報道した。それはブレアの右腕で、政府の広報担当責任者のアラスター・キャンベルの仕業だと主張した時、キャンベルは憤慨し、他のテレビ局ITVのニュース番組に登場し、その報道は誤りだと断言した。キャンベルがITVに出たこと自体、非常に大きなニュースとなった出来事である。

政府は、BBCを強く批判し、その情報源を明らかにするよう求めたが、BBCはそれを拒否し、それは報道の自由だと主張した。後にその情報源は、国防省の生物兵器専門官であったことがわかったが、この専門官は自殺した。そこで、政府は、その死にまつわる状況について元判事を長とした特別調査を実施した。英国では判事は公平と信じられている。

その調査報告でBBCが厳しく批判されたために、BBCの会長と経営トップ(ダイレクター・ジェネラル)の2人が辞職した。また、国防担当記者も辞職した。しかし、BBCの立場はそれ以降も変化していない。BBCは、視聴者のお金で運営されており、BBCの立場は、常に視聴者の立場に立つことであり、できる限り公平に報道することである。このため時には政治的な出来事に関して、攻撃的な報道に結びつくことがあり、政治の側から大きな批判を招くゆえんである。

BBCも大きな組織であり、退職金のお手盛りやいじめ、女性差別、セクシャル・ハラスメントなどの問題が表面化しているが、外部からの政治的な介入には立ち向かっている。

 

公職に就く人の倫理(Ethics in high offices)

猪瀬直樹氏が「政治家としてアマチュアだった」と発言して都知事を辞職した。この言葉を政治の世界をよく知らなかったため失敗したと解釈している人が多いようだが、これは必ずしも正しいとは思われない。

まず、猪瀬氏の行政手腕に大きな問題があったのだろうか。当面大きな政治課題は2020年東京オリンピックを成功させるための準備であり、与党の自民党や公明党らの支持で、特に政治手腕の必要とされる状況にあったとは思えない。

一番大きな問題、すなわち失敗は徳洲会から5千万円を受け取ったことである。この問題で「アマチュア」だったと言うのは、受け取り方を誤ったということだろうか?政治のアマチュアであろうがプロであろうが、このお金の受け取りが何らかの疑念を招く可能性は十分に理解できたはずだ。

公職に立つ人の倫理は、英国では基本的に二つ原則があるように思われる。まずは、もちろんそのような行為をしないことである。そしてもう一つは、そのような行為をしたと疑われそうなことをしないことである。

英国ではジャーナリストらによる政治家へのおとり取材がよく行われている。通常ビジネスマンに扮したジャーナリストが金銭的な対価を提示して政治家に特定の利益のために働くようもちかけ、その始終をビデオ映像などで記録するという手段を使う。そのようなおとり取材は倫理的に疑わしいが、英国では一般に必要悪として受け止められており、公共放送のBBCでも番組パノラマでよく行っている。このようなおとり取材では、政治家に問題発言をさせようと故意に仕掛けてくるために、その対策は困難だ。しかし、基本は、そもそもそのような行為をしたと疑われるようなことをしないことである。

2009年の議員の経費乱用問題でも槍玉に上がり、また、おとり取材でも引っかかったある労働党元下院議員は精神健康上の問題で収監を免れたが、そのような状況にまで自らを追い詰めるほどのことをするだけのメリットがあったのかどうかという議論はあるだろう。しかし、問題はそのようなリスクの査定ではない。

英国でも特徴的なのは、議員経費制度の問題を挙げると、制度が設けられた当初は誰もがその制度の使用に慎重だったが、それが次第にルーズになり、濫用される状態が生まれてきたことだ。つまり、制度を設ければそれでよいというものではなく、最も基本的で、最も重要なのは、それぞれの人の倫理観であるといえる。英国でも日本でも公職に就く人は公職の意味を十分に吟味する必要があるのではないか。