保守党の下院議員に次期総選挙に出馬しない人が増えている理由

スナク首相率いる保守党の現職下院議員の20%が次期総選挙に出馬しない意思を表明している。一方、労働党では8%である。労働党は来年の2025年1月28日までに行わなければならない次期総選挙で勝利を収めるのは確実と見られている。なお、スコットランドのスコットランド国民党(SNP)でも20%が出馬しないとしている。次期総選挙では、保守党もSNPも大きく議席を減らすと見られている。

英国では、選挙は政党中心である。選挙区での個人間の選挙ではない。確かに例外はある。例えば、次回総選挙でも、2015年から2020年まで労働党の党首だったジェレミー・コービンの例だ。コービンは反ユダヤ主義的だとして、スターマー現党首に労働党下院議員団から除外されているため、労働党からは立候補できない。このままでいくと、コービンは無所属で立候補し、労働党の候補者と対決する可能性が高い。もし労働党の党員が労働党以外の候補者を選挙で応援すると、労働党を除名されるため、労働党の党員は応援に二の足を踏むことになる。それでも労働組合の中に、コービンが立てば応援するという組合もあるコービンが勝つ可能性は残っている。コービンが当選した場合は例外だといえる。

通常、所属政党への有権者の支持が弱くなると、その政党所属の下院議員の多くは議席を失うこととなる。政党が支持を回復するにはかなり時間がかかるため、見切りをつけた下院議員がかなりいる。

特に保守党の場合、リーフレットを配る、または戸別訪問(英国では許されている)をする党員らがかなり減っていると言われる。そのため、保守党は、ソーシャルメディア中心の選挙戦を始めているようだ。また、保守党の選挙区支部も政党本部も資金が不足している。例えば、財相のジェレミー・ハントは自らの選挙区支部に10万ポンド(約1900万円)以上の献金をしており、スナク首相は、保守党への1500万ポンド(1000万ポンドに加えてさらに500万ポンド献金していると言われる)の献金者が人種差別の発言をしたとされていても、今まで受けた献金は返さないと明言した。

NHS(国民保健サービス)に満足している人の割合は、保守党が政権についた2010年の70%から現在では24%に下がっているという結果が発表された。5月2日には、地方選挙並びに下院の補欠選挙が行われる。いずれも保守党は大敗すると見られており、英国政治は、既に労働党政権が誕生するという方向で動き始めている。保守党は、今や弱り目に祟り目という状況になっている。

機能していないように見えるスナク首相官邸

保守党内に、スナク首相を他の人に入れ替えようとする動きがあるとの憶測が報道されたが、それを受けて、スナク首相は、ウェストミンスターの政治には関心がない、大切なのは、英国の将来であると言った。この空虚に聞こえる発言は、追い詰められたスナク首相の本心を言っているわけではなく、スナク首相のアドバイザーの助言に基づくものだろう。

ボリス・ジョンソン首相のスパッズ(Spads 政治任用のアドバイザー)だった人物が、BBCのテレビ番組で、保守党大口献金者の人種差別発言が大きな問題になり、いったいスナク首相のアドバイザーたちは何をしているのだと発言したが、首相官邸のアドバイスもうまくいっているようには思われない。

スナク首相は、政治状況の改善を期待して、短期的な判断でくるくる政策を変えている。例えば、2023年10月、首都ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道のHS2で、ロンドンからバーミンガムの建設は予定通り進めるが、バーミンガムから北部のマンチェスターなどに行く区間の建設を突如取りやめた例である。そしてこの廃止で浮いたお金360億ポンドを、代わりの鉄道、道路やバス網に使うとし、具体的な事例を挙げた。しかし、その中身は乏しく、この中には、既に完成しているものも含まれていた。それから5カ月たって、このお金は47億ドルまで縮小したようだ。しかも、その中のプロジェクトは、次期総選挙がすむまで始まらず、それから7年間かかる予定だ。

その一方、2023年7月の、ジョンソン元首相が下院議員を辞任した後の補欠選挙で、予想を覆し、保守党候補者が勝った。労働党の現職市長の政策(Ulez:Ultra Low Emission Zone:超低エミッションゾーン)がその補欠選挙区に拡大するのに反対したのが功を奏したのである。この例に希望を見出したスナク首相は、環境戦略の緩和を「長期的な」視野に基づくものとして打ち出し、また「自動車の運転手」の側に立つとして、道路の改善整備をすると訴えた。ところが、道路の穴の修繕が大幅に遅れている

目先の問題で、くるくると方針を変えることが続いていると、保守党内だけではなく、直近の世論調査に見られるように、有権者の支持が停滞、下降していく可能性がある。